2022年11月02日更新
M&Aと事業承継の違いは?事業承継M&Aの基礎知識、メリット、適切な方法の選び方も解説
複数の企業が1つにまとまる手段に、M&Aと事業承継があります。ここでは、M&Aと事業承継の違いやメリット・デメリット、必要な手続きを解説します。「M&Aは大企業のこと、事業承継は中小企業のこと」といったイメージもありますが、その違いも理解しましょう。
目次
1. M&Aと事業承継の違い
M&Aと事業承継は「複数の企業が1つにまとまる」といった同じ結果に行き着きます。もちろん、名前が違うので目的やメリット・デメリットも異なる点に注意しましょう。まずは、事業承継とM&Aの違いを解説します。
事業承継はM&Aの一部
事業承継とは、事業を他の誰かに引き継ぐことを意味します。大企業の社長が代替わりをしたり、個人経営や中小企業の創業者が引退時に経営を誰かに引き継いだりする流れがイメージしやすいでしょう。
事業承継といえば、親族への承継が一般的でした。しかし、最近では事業承継のほとんどが親族外の誰かに対して行われています。親族外とは、従業員や他の企業をさし、親族外への事業承継件数は増加傾向です。
複数の企業と1つになるのがM&Aなので、他の企業に事業を引き継ぐ事業承継はM&Aの一部といえます。経営者が事業承継を行う際は、上場、廃業、後継者(子供、社員への承継)、M&Aによる会社譲渡の手段から選択します。
しかし、上場するにはハードルが高く、廃業するには従業員の雇用や販売先などの面で他者に大きな影響を与えたり資産売却や税務面でデメリットがあったりするでしょう。
後継者(子供、社員)への承継も、さまざまな理由で後継者が見つからないことが多いです。事業承継でM&Aによる会社譲渡を選ぶ経営者が増加しています。
2. M&Aとは
定義
企業間での合併(Mergers)と買収(Acquisition)がM&Aです。つまり、「ある企業の経営権を別の企業に移転、譲渡すること」を意味します。経営権の移転まではいかない、業務提携や資本提携もM&Aです。
M&Aといえば、企業買収にばかり目が行きがちですが、買収される側(売却側)も存在することを忘れてはいけません。
M&A相手の種類
M&Aの事業承継では、相手として事業会社・ファンドがあるので、これらを詳しく確認します。
事業会社
事業会社が買収側のケースでは、買収してからは自分たちの方針で事業を実施しようとします。買収後には事業会社から新しい社長がきますが、買収交渉時の責任者などが派遣されると人間関係がすでに築かれているので、経営統合後の事業が円滑に進みやすいです。
ファンド
ファンドは、投資のためにM&Aを実施し、一定以上における投資利回りの達成を目標とするのが一般的です。投資利益率は、借入金を用いるLBOの手法が多く使われます。
ファンドは企業価値を向上することに前向きで、非常勤取締役が2名くらい派遣されるので、外部からの意見などが聞けます。後継者不足の会社にとって投資ファンドは有効的です。
手順
続いて、M&Aを実施する際の具体的な手順を解説します。
①M&A戦略の立案
具体的なM&A候補を探す前に、自社の経営戦略からどのような事業、企業を自社に取り入れるか戦略立案を行います。やみくもにM&Aをとおした買収をすれば良いわけではありません。何よりも、M&Aをとおして成し遂げたい目的を定めることが重要です。
②M&Aアドバイザーと個別面談
経営戦略が定まったら、M&Aアドバイザーと個別面談を実施します。双方が納得できれば、秘密保持契約や報酬における契約の締結です。
売却側も、M&Aアドバイザーと契約を結ぶことから始めます。もちろん、自社で買収先を探せますが、M&Aの情報と経験が豊富なM&Aアドバイザーに任せれば安心です。
③条件の近い企業に匿名で提案書を提示
次に、M&Aアドバイザーから条件に近い企業について匿名で提案書が提示されます。この提案書を「ノンネームシート」と呼びます。買収側はノンネームシートの内容でM&Aを進めるかどうかを決めるでしょう。
④初期段階のアプローチ
ノンネームシートで提案された企業に興味を持ったら、M&Aアドバイザーより企業名や財務諸表といった重要情報が提示されます。いよいよ本格的に買収の検討に入る段階です。買収側、売却側のトップ同士が面談を行い、双方の経営方針確認や疑問点を解消します。
⑤M&A条件の整理
トップ面談後、双方にM&Aを進める意思があれば条件を整理しますが、買収側と売却側との間に立って調整をするのはM&Aアドバイザーの役割です。これと同時に、買収側は買収価格や買収方法を記載した「意向表明」を作成し、売却側に提示します。
⑥基本合意契約書の締結
「意向表明」に売却側が合意をすれば契約で、「基本合意契約書」の締結を行います。
基本合意契約書には、法的な義務は規定されません。しかし、買収における重要な条件の合意となるので、買収側に排他的交渉権が付きます。
⑦デューデリジェンス
次に、買収側の会計士や弁護士による「デューデリジェンス」の実施です。
デューデリジェンスは財務や法務の調査をすることで、買収企業が問題を抱えていないか事前に確認をする大切な作業になります。
⑧最終譲渡契約書の締結
デューデリジェンスの後、問題も見つからずに買収側・売却側双方の最終合意が得られれば、「最終譲渡契約書」を締結します。そして、M&Aの成立です。
⑨クロージング
クロージングの期間や手続き内容は、買収手法により違います。売却側が中小企業で、株式譲渡を用いたケースでは、クロージングは最終契約と同日に終わることが多いです。
組織再編の手法(合併・会社分割など)では、債権者保護手続きや株主総会決議を行います。クロージングまで少なくとも2カ月かかるでしょう。
⑩経営統合の準備
デューデリジェンスの終わりくらいから、経営統合の準備も開始します。売却側をどれくらいの期間や手順で買収側に統合するのか決定するでしょう。クロージングしてから、3〜6カ月の実行計画を策定します。
⑪経営統合の実施
100日プランで売却側の中期経営計画を策定します。このプランには、買収側のメンバーと売却側の中核メンバーが参加します。
売却側の従業員が主に計画しますが、円滑に経営統合するためにはこのプロセスも大切です。
M&A手法の種類
事業承継M&Aにはいくつかの種類があります。今回は、「株式譲渡」「事業譲渡」「会社分割」の3つを解説します。
株式譲渡
個人、または法人が有する株式を売買することで、経営権を後継者に譲渡する方法です。M&Aでは一般的で、売却側は買収側の子会社になります。
注意点は、簿外資産や負債も引き継ぐことです。買収側は事前調査(デューデリジェンス)が欠かせません。
事業譲渡
株式譲渡は企業の全てを引き継ぎますが、事業譲渡は企業の一部事業を引き継ぎます。つまり、企業の財産や権利を個別に移転する手続きです。個別に契約が結ばれるため、株式譲渡よりも手続きが煩雑です。
ただし、買収側は必要な部分だけを切り取れるので、場合によっては非常に有効な手段でしょう。
会社分割
企業が有する事業の一部、または全部を他の会社に承継する手段です。「吸収分割」と「新設分割」があります。
吸収分割は、M&Aにおける買収側に事業の一部または全部が吸収されることを意味し、新設分割はM&A先が新しく設立する企業の一事業です。
合併
合併では、複数の会社を1つにする組織再編行為で買収を実施します。合併にも2種類あり、「新設合併」と「吸収合併」です。
対応合併で合併を行えば平等感が生じるので、売却側と買収側は対外的なイメージが保てます。ただし、経営統合作業を急いで進めるため、従業員への負担が大きく本来の事業が滞ってしまうこともあります。
3. 事業承継とは
事業承継は、人材不足に悩まされる中小企業や個人事業にとって有効な戦略で、件数も増加しています。
事業承継とは、事業を誰かに引き継ぐことです。自分の行ってきた事業を誰に引き継ぐのか決めることは、経営者にとって最後の重大な仕事です。
親族内承継
経営者の親族に企業を引き継ぐことです。例えば、社長の息子に企業や事業を引き継ぎます。中小企業庁における2017年の「中小企業白書」によると、2015年の親族内承継件数は16,131件でしたが、最近は件数が逆転し親族外承継が主流です。
メリット
親族から後継者を選ぶので、早いうちから経営者としての教育を施すことが可能です。承継の方法も「相続」「贈与」「売買」「株式譲渡」といったさまざまな手段があります。取引先や従業員から理解を得やすいこともメリットです。
デメリット
後継者と考えていた親族が、企業の承継に前向きでない場合があります。親族内で後継者を探すため、経営者としての能力や資質が十分に備わっていない可能性もあるでしょう。近い関係だからこそお互いの意見が一致せず、事業承継がスムーズに進まないこともあります。
親族外承継
親族以外の人物に企業を委ねることを、親族外承継と呼びます。一般的には、自社の従業員から選出することが多いです。
「親族以外が経営を承継するため事業関係者に理解してもらう」「自社株の承継をどのようにするか」といった点がポイントとして挙げられます。後継者に株式を買い取る資金力があるかもポイントです。
自社株は後々親族に事業を継がせる考えがあれば、親族で保有する方法を取るでしょう。
メリット
後継者を選ぶ幅が広がることが最大のメリットです。実施件数も増加傾向にあり、社内外の優秀な人物に事業を承継できれば、さらに企業が成長する可能性もあるでしょう。
デメリット
社内に後継者にふさわしい人物が存在するとは限らないことがデメリットです。資質はあっても事業を引き継ぐ意思がない場合もあります。株式や資産を引き継ぎますが、親族ではないため取得における個人的な資金が必要になる点もデメリットです。
金融機関や取引先から、親族内承継よりも理解が得難いこともデメリットといえます。
M&A活用
経営者は、適当に後継者を決めるわけにはいきません。親族外承継を考える経営者にとってM&Aを活用することは、適切な後継者を見つけ出す意味でも十分に取り得る手段です。
親族外承継の件数が増加傾向にあることも、事業承継M&Aの活用を後押ししています。
M&Aによる事業承継では、自社の条件に合った相手先を探さなければなりません。M&Aによる事業承継をご検討の際は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。M&A総合研究所には、M&Aに精通したM&Aアドバイザーが在籍しており、親身になって案件をフルサポートします。
M&A総合研究所の料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談を受け付けていますので、M&Aをご検討の際は、どうぞお気軽にお問い合わせください。
メリット
M&Aを活用することで、経営者個人の人脈以上に後継者人選の幅が広がります。大手企業の買収案件で合意が得られれば、大きな売却利益を得られることもM&Aによるメリットの1つです。
特に中小企業では、後継者が見つからないことが大きな問題で、幅広く後継者を探せるM&Aは中小企業の経営者にとって魅力的な事業承継の手段といえます。事業承継のM&A件数は増加しており、少子高齢化で後継者確保が困難な日本では有効な手段です。
デメリット
希望する買手がみつからない、別会社と一緒になることで経営方針や労働条件などに影響が出るなどのデメリットがあります。買手による雇用や労働条件の変更で、従業員が離職する可能性もあります。
異なる企業文化の統合は簡単ではないため、融合には時間がかかることを踏まえて慎重に交渉を進めなければなりません。譲渡してからの統合作業(PMI)も非常に大切です。
構成要素
続いて、事業承継における3つの構成要素を詳しく解説します。
後継者育成
親族内承継、親族外承継を選択したときは、後継者育成が非常に重要です。事業を引き継ぐにふさわしい人物を早い段階でみつけ出し、経営者教育に十分な時間を割くなどしっかりと育成していくことで、事業承継となった場合もスムーズにことが運びます。
所有承継
所有承継は、自社株を委ねることです。後継者に会社の所有権ごと引き継ぐ場合と、自身はオーナーや会長として残り、経営権だけを後継者に委ねる方法があります。経営権確保のための株式移転の場合、タイミングや方法によっては税金が大きく変わってしまうため、税金対策に配慮した承継方法を検討する必要があるでしょう。
経営承継
社長を誰に引き継ぐかを意味します。人材・技術・技能・知的財産・組織力・経営理念・顧客とのネットワークなど後継者育成と併せて、早いうちから経営者は取り組むべきです。引退後における会社の成長に大きく影響しますので、現経営者が会社の強み・価値を把握しておく必要があります。
日本における事業承継問題の現状
帝国データバンクの「全国企業『後継者不在率』動向調査(2020年)」によると、後継者不在率は65.1%です。親族や従業員を後継者とすることが困難な場合、事業承継にM&Aを活用する中小企業の経営者は増えています。
親族外承継が急速に一般化
中小企業庁のデータによると、中小企業の多くは後継者不足が大きな課題です。近年、事業承継における親族内承継の割合が減少し、親族外承継の割合が急速に増加しています。
2015年の調査では、親族内承継が9割を占めていました。しかし、最近では親族内承継の割合が約35%にまで減少し、親族外承継が65%以上との結果が出ています。今後も第三者によるM&Aなどの割合が増加していくことでしょう。
参照:中小企業庁「事業承継ガイドライン(令和4年3月)」
M&Aに対する認知・理解が不十分
これまでは「M&Aは大企業が実施するもの」「M&Aを行うと社員がリストラされてしまう」など、M&Aに対する認知や誤解が不十分でした。しかし、以下の要因により、M&Aを活用する中小企業も増えてきました。
- M&Aに対する認知・理解が進んでいる
- 親族や社内に適任者がいない場合、外部から候補者を求めるのが可能
- M&Aが企業改革の好機となり、成長を目指せる
企業規模の大小を問わず増加傾向です。他にも、国の事業承継・引継ぎ支援センターが全国に設置されたことや、M&A仲介会社によってM&Aの認知が高まったことも要因でしょう。会社の廃業を検討する前に、M&Aを1つの選択肢として検討してみるのが大切です。
事業承継に際して企業が悩む課題
次に、事業承継に際して企業が悩む課題を解説します。
後継者不足
日本全体の課題でもありますが、少子高齢化により後継者人材が不足しています。事業承継でM&Aを使用する中小企業は、後継者となる人物を個人の人脈から見つけ出すことが難しい状況です。
自社株の引き継ぎ
事業承継する会社の財務状況が良ければ株を相続したときの相続税は増加し、財務状況が悪ければ個人保証が多くなります。
社長の交代のみでは事業承継ができず、自社株を後継者に相続させなければなりません。経営者に相続が生じて経営に無関係の株主に株が分散すれば、事業承継してからの経営がスムーズに行かなくなることもあります。
人材育成
経営者は優秀な人材に事業を引き継ぎたいと望みますが、中小企業では意識的に人材育成をしなければ経営が行える人材がなかなかいない問題があります。
側面から経営をサポートする人材も必要なため、中小企業は承継してから満足できる経営体制を整えるのは非常に大変です。
4. 事業承継M&Aとは
後継者不足に悩まされている中小企業や個人事業を筆頭に、事業承継におけるM&Aの活用件数は増加しています。
事業承継M&Aは、事業の経営を他社へ引き継ぐことです。事業承継が目的のM&Aでは、一般的に株式譲渡の手法を用います。新しい経営者が経営を引き継ぐので、従業員の雇用や取引先との関係が保てます。それらをより発展させることも可能です。
昔は身売りのイメージがあったM&Aですが、最近はビジネス取引の手段として考えられています。事業承継M&Aで経営者の若返りが促進され、事業見直しなどの効果で経常利益が増えるなど良い結果が生まれるでしょう。
5. 事業承継M&Aを行うメリット
この章では、事業承継M&Aのメリットを解説します。買収側と売却側、双方の立場から解説します。
売却側
まずは、売却側のメリットを解説します。
- 後継者問題の解決
- 不振事業からの撤退
- 従業員の雇用を守る
- 創業者が利益を得る
- 事業承継先の選択肢が増える
- 課税額を抑えられる可能性
後継者問題の解決
後継者問題の解決は、中小企業で顕著です。多くの中小企業における経営者は高齢者で、後継者が見つかりにくい状態となっています。M&Aの手段で、長年育てた事業を次世代に承継できるのは、中小企業にとっては非常に大きなメリットです。
不振事業からの撤退
不振事業からの撤退は、いくつかの事業を展開する比較的規模の大きな企業に特にメリットがあります。不振事業を抱える限り、他の事業で業績をカバーし続けなくてはなりません。不振事業を買収する企業を見つけるM&Aは売却側にとってメリットです。
従業員の雇用を守る
従業員の雇用を守るメリットは、経営者としての責務を果たすことにつながります。M&Aをとおして買収される場合、ほとんどが優良な企業の傘下に入ることを意味します。
創業者が利益を得る
創業者が利益を得るメリットは、個人的なメリットです。優れたアイデアやサービスを事業化し、大手企業に売却することで大きな利益を得ます。
事業承継先の選択肢が増える
事業承継先の選択肢が増えるメリットは、後継者問題の解決策につながります。多くの資金があり、経営ノウハウもある会社へ事業を承継すると、シナジーの発揮により事業拡大の可能性もあるでしょう。
課税額を抑えられる可能性
株式譲渡を用いると、かかる税金は株式譲渡益課税だけなので、課税額を抑えられます。自社を清算すれば法人と個人に課税されるでしょう。
買収側
買収側には、大きく4つのメリットがあります。
- 市場シェアの拡大
- 事業の多角化
- 技術力の確保
- 優秀な人材の確保
市場シェアの拡大
市場シェアの拡大は、同業をM&Aで買収したときに顕著です。シナジー効果(相乗効果)を発揮し、市場規模を一気に拡大します。
例えば、コンビニエンスストア業界をみると、2016年にファミリーマートは業界3位でした。ところが、2016年2月にサークルKサンクスをM&Aで買収したことで、ローソンを抜き業界2位に躍り出ます。M&Aによって市場シェアを拡大した好例です。
事業の多角化
事業の多角化は、新規事業参入時に最もメリットを得られます。新規事業では、企業内にノウハウがないことがほとんどです。すでにノウハウを持つ企業を傘下に収めるM&Aが最も効果的で効率的といえます。
2005年12月に花王がカネボウを買収し、化粧品事業へ新規参入しました。
技術力の確保
技術力の確保は、事業の多角化と似た点もあります。他社の優れた技術を自社に取り込むことで、新規事業に参入したり、自社の技術力を強化したりすることが可能です。
優秀な人材の確保
優秀な人材の確保は、今の日本で最も重要なことです。人口が減少傾向の日本企業では優秀な人材の確保が大きな経営課題だからです。自社でゼロから人材育成をするにしても、数年単位の時間がかかります。
しかし、M&Aで他企業を買収すれば、その企業のエース社員も自社に迎え入れられるでしょう。
6. 事業承継M&Aを行うデメリット
続いて、M&Aのデメリットを紹介します。何事もメリットがあればデメリットもあり、M&Aもメリットだけではありません。
売却側
まずは、売却側のデメリットを解説します。
- 想定価格以下での売却
- 買収企業との企業文化の違い
- 社長や経営層、上司が全く知らない人に突然変わる
- 買収側の判断で、従業員の待遇が変わる
- 多くの時間・費用がかかる
- 経費購入の備品に関する問題
想定価格以下での売却
1つ目は、企業や事業の売却額が想定以下になることです。売却益をあてにして、次の行動を計画していた場合は致命的なデメリットといえます。
買収企業との企業文化の違い
2つ目は、双方における企業文化の違いです。M&Aの組織図は、売却側は買収側の下になることが多いため、売却側の従業員は納得がいかず転職の動機になり得ます。
社長や経営層、上司が全く知らない人に突然変わる
3つ目のデメリットは、買収側の企業から見知らぬ人が突然、社長・経営層・上司になることです。自社のことを知らない人についていくため、従業員のモチベーションが下がる理由となるでしょう。
買収側の判断で、従業員の待遇が変わる
4つ目は、買収側の判断で従業員の雇用形態や待遇が変わる可能性があることです。売却側の従業員にとって待遇の下降は大きなデメリットです。
売却側のデメリットは、売却側に所属する従業員が被る可能性が非常に高いといえます。
多くの時間・費用がかかる
相手先を選んだり条件の交渉をしたりするなど、M&Aには多くの時間がかかります。仲介会社に依頼をすることがほとんどなので、費用もかかります。
後継者がいないために事業承継を検討する場合は、M&Aに踏み切るのが遅れたために自社の魅力が薄れてしまい相手が見つからないケースもあるので、早めに相手探しを始めましょう。
経費購入の備品に関する問題
節税対策に会社の経費で買った備品(土地や車など)を、私用で使うことも少なくありません。M&Aを実施すると、そのような備品は事業承継の後に使用できないこともあるので、買取か手放すか早めに決めてください。
買収側
次に、買収側のデメリットを解説します。
- 想定どおりの成果が出ない
- 買収した企業との文化の違い
- 買収前には把握していない問題が発覚
- 優秀人材の流出
想定どおりの成果が出ない
1つ目は買収前に想定していた成果が出ないことです。「想定していたシナジー効果が発揮されず、市場規模の拡大もできなかった」というケースが起こり得ます。M&Aでの企業買収で巨額投資の後、想定していた成果が出ないのは企業にとって大きな打撃でありデメリットです。
買収した企業との文化の違い
2つ目は人の問題です。異なる企業が1つになるので、従業員同士が習慣や文化の違いに戸惑うことが想定されます。いずれは乗り越える必要がある課題ですが、社内で派閥ができたり、出身企業同士の反発など大きな問題につながったりしかねません。
買収前には把握していない問題が発覚
買収前には把握していない問題が発覚することもあります。買収した企業の帳簿外負債や調査では発見できなかった重大な問題が、買収後に発覚するデメリットも考えられるでしょう。
優秀人材の流出
4つ目はM&Aがきっかけで、買収側、売却側問わず人材が流出するデメリットです。2つ目の理由に似ていますが、企業文化が融合することで新しい文化が肌に合わない人材は去ってしまうデメリットがあります。
M&Aでの買収側には、「想定外」のデメリットがつきまといます。
7. 事業承継M&Aの適性を知るためのチェックポイント
この章では、事業承継M&Aにおける適性を知るためのチェックポイントを解説します。
年間の売上
自社の売上をより増加するために、M&Aを行う買収側は多いです。買収側には売却側の売上は、大きなポイントになります。年間の売上が5億円より低いと、買収側は事業地盤が弱いとみなすので、売却先を見つけるのは困難となるでしょう。
営業利益
営業利益が出ていない売却側は、買収先を見つけるのが簡単ではありません。買収側が買収後に資金を供給するケースでは、買収側の事業悪化につながることがあり、倒産となることもあります。
M&Aの経験がある会社は、無理をしてまで赤字の会社を買収するリスクは取らないでしょう。自社が赤字の場合は、「資金を投入すれば利益体質にできる」と買収側に思わせる経営の問題点、改善するべき要素などの材料をそろえてください。
従業員数
従業員数で、売却側の価値を表示することも可能です。従業員数の多い会社は、健全な運営体制である可能性を示せるからです。
大きな利益をあげていても従業員が少ない会社の場合、買収側はM&A成立後に売却側の従業員が離職する可能性をリスクと考えます。買収側は従業員を資産の一部として考えることも知っておきましょう。
組織の性質
社長や経営者一族が経営を行う会社は、トップの指示により会社が動くことがほとんどです。買収側は、このような会社を健全な経営ができるとみなさないので、買収対象となることは少ないです。
買収側は売却側の従業員も大切な資産として考えます。トップは重要な意思決定だけを行い、従業員が事業を回す会社は買収される確率が高いです。
会社の持つブランド・技術
買収側は、売却側の高い技術力は買収側の事業拡大へつながり、売却側のブランド力は買収側に顧客が付きやすいと考えます。技術やブランド力などの無形資産は、他社との比較や経営指標上、優位なことで価値が認められるため、定量的な証拠を示す必要があります。
取引先・顧客
買収側と被らない取引先が多いほど、売却側の評価は高くなりがちです。ただし、取引先が多いことにプラスして、各取引先と良い関係があることも買収側へアピールしましょう。
商品やサービスの価値が評価され取引先が価格を決定する力を握っていなければ、高く評価されます。
8. 事業承継M&Aを成功させるコツ
事業承継を効果的に行うポイントを解説します。
タイミング
事業の承継には時間がかかります。経営者が承継を決めてから早くて5年、長くて10年くらいかかるでしょう。引退直前になって考えるのではなく、早い段階から後継者の方針を固めることが重要です。
1つには年齢が挙げられます。経営者個人が何歳まで指揮をするのか、何歳で引退をするのかなどから逆算し、遅くとも10年前には準備を始めましょう。
もう1つは経営状態です。後継者を探すタイミングとして、「営業利益が何%を超えたら」「経常利益が何%を超えたら」「売り上げが何%を超えたら」といった経営指標を定めるのが良いです。事業承継を行って次の事業を始めることも考えられます。
企業価値向上
事業承継M&Aに限りませんが、買収側は売却側の企業価値を見定めます。売却側がM&Aをうまく進めるには、企業に魅力が必要です。それは、企業価値向上にほかなりません。
営業力でも研究開発力でも、自社の強みは明確にして、しっかりと企業価値を向上することが事業承継M&Aをスムーズに進めることにつながります。
株主からの理解
事業承継型M&Aを検討していても、株主の理解を得ていなければ反対されて、事業承継M&Aが不成立となることもあるので株主の理解を得ましょう。
情報漏えいのリスクを減らすために、事業承継M&Aは株主や役員などのみに伝えることが大切です。従業員に伝わると、情報漏えいのリスクが高まりM&Aがうまくいかなくなることもあります。
公的支援の活用
事業承継を支援する中小企業庁ではどのような公的支援が行われているのでしょうか。ここで詳しく紹介します。
事業承継ガイドラインの改訂
2022年3月、5年ぶりに「事業承継ガイドライン」が改訂されました。前述したとおり、中小企業の多くは、後継者不在率が高く、経営者の高齢化も依然として進んでいるのが現状です。円滑な事業承継によって会社を引き継ぎ、事業の活性化を実現するのが必要不可欠です。
しかし、長期化している新型コロナウイルス感染症の影響もあり、事業承継ができずに不本意な結果になってしまうケースも少なくありません。このような状況も踏まえ、事業承継の取り組みを着実に進められるように改訂されました。
事業承継に関する課題や、円滑な事業承継のために必要な取り組み、活用すべきツール、注意すべきポイントなどを反映したのが最新版の「事業承継ガイドライン」です。
参照:中小企業庁「事業承継ガイドライン(令和4年3月)」
中小M&Aガイドラインの策定
日本国内で2025年までに、平均引退年齢である70歳を超える中小企業の経営者は、約245万人に達すると見込まれています。そのうち、約半数が後継者未定です。
後継者不在の中小企業は、M&Aを活用するのが、事業承継の重要な手段といえるでしょう。しかし経営者の中には、M&Aに対する知見が乏しいとして、中小企業向けに「中小M&Aガイドライン」(2020年3月)が策定されました。
参照:中小企業庁「中小M&Aガイドライン(令和2年3月)」
中小M&A推進計画の策定
2021年4月、中小企業庁は「中小M&A推進計画」を作成しました。推進計画では経営者の高齢化による後継者不在や、新型コロナウイルス感染症の影響による休廃業を防ぐため、中小企業の経営資源を将来につないでいくことを目的としています。M&Aは、事業承継を含めた経営戦略実現のための手段の1つです。
「中小M&A推進計画」は、官民が今後5年間に実施すべき取り組みとしてまとめられています。
参照:中小企業庁「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会 取りまとめ(2021年)」
事業承継・引継ぎ補助金
事業承継などのM&Aを契機とした、新しい取り組み、事業再編、事業統合に伴う経営資源の引き継ぎを行う中小企業者を支援する制度として「事業承継・引継ぎ補助金」があります。取り組みに要する経費の一部を補助するとともに、経済の活性化を図るのが目的です。
補助金の申請類型は3種類あり、事業承継・引継ぎ補助金(経営革新事業)、事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用事業)、事業承継・引継ぎ補助金(廃業・再チャレンジ事業)です。
補助金や類型ごとに申請条件や、補助上限額などは異なるため、確認をして進めましょう。
参照:令和4年度 当初予算 事業承継・引継ぎ補助金
事業承継税制
事業承継税制は、中小企業の前経営者から株式・資産などを後継者が贈与、相続あるいは遺贈により取得した際、一定の要件を満たす場合に贈与税・相続税が猶予される制度です。
平成30年度の税制改正では、10年間の措置として納税猶予の対象となる非上場株式などの制限の撤廃や、納税猶予割合の引き上げなど、特例措置が新たに設定されました。
参照:中小企業庁「事業承継税制(贈与税・相続税の納税猶予及び免除制度)について」
M&Aの専門家への相談・依頼
売却側よりも、買収側のほうがM&Aの経験が多いケースは少なくありません。売却側が条件交渉や手続きなどを円滑に行いたい場合は、M&Aの専門家へ相談し依頼するのが一般的です。
自力でM&Aを行うのは簡単ではないため、M&Aに精通した専門家に依頼することをおすすめします。
9. 事業承継M&Aの流れ
ここでは、事業承継M&Aの流れを解説します。
①コンサルタント選び
まずは、コンサルタント、M&Aアドバイザーの選定から始めます。選定基準はさまざまですが、実績や経験、アドバイザーの人柄で判断することになるでしょう。長い付き合いになるので、付き合いやすい人柄は重要な選択基準です。
②事業調査
売却側から買収側に対するノンネームシートの作成が必要です。ノンネームシート作成のために、売却側はコンサルタントやM&Aアドバイザーに事業調査をしてもらいます。
適切な買収先を見つけるためにも、必要かつ重要な手順です。
③譲渡先決定
事業譲渡M&Aでは、コンサルタントやM&Aアドバイザーから候補者を知らされます。有望な候補者が見つかれば、トップ面談を行い譲渡先として決定しましょう。
④基本合意書締結
トップ面談の後、買収側と売却側の合意が得られれば「基本合意書」を締結します。これは、M&Aの手順と同様です。
⑤デューデリジェンス
買収側の手順ですが、デューデリジェンスで財務や法務の調査を実施します。買収側にとって隠れたリスクがないか、きちんと調査をします。後々のもめごとにならないためにも、売却側は正確な情報を提供しましょう。
⑥売買契約締結
デューデリジェンスを経て、買収側と売却側との最終合意が得られれば「売買契約」を締結します。先述の「最終合意契約書」と同義です。M&Aにおける条件や期日を契約します。
⑦実行
契約日が到来して、事業承継M&Aの実行です。売却側は事業承継による新たな企業の傘下として、さらなる発展を祈りましょう。
10. 事業承継M&Aの最新動向
この章では、事業承継M&Aの最新動向を紹介します。
事業承継M&Aの件数の推移
事業承継M&Aの件数は増加傾向にあります。少子高齢化による人材不足で、個人の人脈から後継者をみつけ出すことに限界があるからです。親族外承継をしようにも、株式取得などによる重い税負担が後継者にのしかかります。
このような状況を回避するために、M&Aが事業承継の手段として注目されています。日本の状況を鑑みるに、今後も事業承継M&Aの件数は増加傾向を続けるでしょう。
中小企業がM&Aに対して抱くイメージ
M&Aに共感していない中小企業は少なくありません。M&Aを前向きにとらえる中小企業の経営者は少ないといえます。
日本の事業承継問題は深刻なので、M&Aの成功事例を広めて第三者への事業承継は成功の証しであるといった意識改革を起こすことが必要でしょう。
事業承継M&Aの成功事例
成功事例として、2019年10月に行われたTRUTH LOGISTICSと東航のM&A事例を紹介します。
通関ロジスティクスサービスを手掛けるTRUTH LOGISTICSの代表は、M&Aにより事業を広げることを考えていました。そして、昔の取引先である東航を仲介会社から紹介されます。
東航は、経営者の高齢化で承継先を探していました。長い付き合いがあった両社は、情報開示をしたときにお互いのことがわかり、M&Aの成約となりました。
11. 事業承継問題のその他の解決策
後継者問題への回答として、事業承継M&Aがありますが、他の手段もあります。本記事の趣旨から若干外れますが、どのような後継者対策があるのか紹介します。どちらも極端な方法ですが、考慮すべきです。
親族内・従業員承継
創業者の親族を後継者とする事業承継を実施する非上場企業は少なくありません。小さな会社では、親族であれば取引先などの関係者から後継者として認められやすいです。地位や債務保証などの承継も円滑に進みやすいです。
社員から後継者を選ぶ従業員承継では、親族に継ぐ意思のある人がいない場合や能力を重視して後継者を選びたい場合に実施されます。
IPO
IPOとは「Initial Public Offering」の略で、株式公開と訳します。事業承継としては、自社を株式に上場させるので大胆な手段です。「庶民のIPO」による「IPOの上場実績(2020年)」では、2020年のIPO件数は84件で、十分選択肢に入る手段といえます。
自社の市場価値が高いときは非常に有効な手段です。しかし、自社の株式を買う個人や団体が現れないと事業承継は難航します。
廃業
承継先がまったくみつからない場合、残念ながら廃業も選択肢です。経営者の立場からはつらい選択ですが、これ以上の成長や発展が見込めない企業は早期に廃業することで損害を最小限に抑えられます。
どのような分野でも興隆があるため、時代の流れで廃業を選択する場合もあるでしょう。
12. 事業承継M&Aの案件一覧
本章では、M&A総合研究所で公開されているものの中から、事業承継M&Aの案件例を紹介します。
太陽光発電システム設置工事
1つ目に取り上げる案件は、太陽光発電システム設置工事の事業承継M&Aです。
地域 | 関東・甲信越 |
売上高 | 5億円〜10億円 |
営業利益 | 赤字 |
譲渡希望価格 | 5,000万円〜1億円 |
家電・引っ越し中心の運送業者
2つ目に取り上げる案件は、家電・引っ越し中心の運送業者の事業承継M&Aです。
地域 | 千葉県 |
売上高 | 〜1,000万円 |
営業利益 | 損益なし |
譲渡希望価格 | 1,000万円〜5,000万円 |
大型施設の施工実績豊富・有資格者多数
3つ目に取り上げる案件は、大型施設の施工実績豊富・有資格者多数の業者の事業承継M&Aです。
地域 | 関東・甲信越 |
売上高 | 2.5億円〜5億円 |
営業利益 | 1,000万円〜5,000万円 |
譲渡希望価格 | 2.5億円〜5億円 |
13. M&Aと事業承継の違いまとめ
M&Aは企業の買収と合併です。事業承継はM&Aの一部ですが、企業の全部だったり、一部だったりします。
最も大きな違いは、事業承継は中小企業の経営者にとって喫緊の課題であることです。日本の人口構造が大きな原因ですが、次代を担う人物を見つけるのが困難な状況です。
経営者個人の人脈で後継者を見出すことは、非常に難しい時代に突入しました。個人の人脈を越えて後継者を見いだせる事業承継M&Aは、これからますます重要となるでしょう。
事業承継M&Aの件数が増加傾向にあることがその証左といえます。日本企業の大部分は中小企業、個人事業だからです。後継者選定で難航している方は、事業承継M&Aも考慮しましょう。
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