M&Aを従業員に説明するタイミングとは?雇用・待遇面で迷惑をかけない方法を紹介

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

経営者としては、企業成長を目指すうえでM&Aを決断しなければならないときもあります。しかし、M&Aの影響で従業員に迷惑をかける可能性もあるため、説明責任も伴います。本記事では、M&Aを従業員に説明するタイミングや迷惑をかけない方法を解説しましょう。

目次

  1. M&Aを従業員に説明するタイミングとは?
  2. M&Aで従業員に迷惑をかけない方法
  3. M&Aを従業員に説明する手順
  4. M&Aで従業員が得られるメリット
  5. M&Aに反対する従業員の対処法
  6. M&Aで従業員の雇用・待遇に及ぶ影響に関する相談先
  7. M&Aを従業員に説明するタイミングまとめ
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1. M&Aを従業員に説明するタイミングとは?

M&Aの交渉は、ごく一部の限られた経営陣のみで進めるのが一般的です。中途半端に情報が漏えいしてしまうと、M&Aの交渉が失敗して従業員に迷惑をかけることになる恐れがあるためです。

具体的には、M&Aを検討している事実が漏えいすると、不安に感じる従業員が自主退職したり、取引先から契約を打ち切られたりなどのリスクが想定されます。企業価値に影響を及ぼすレベルになると、M&A交渉が破談になる恐れもあります。

このような理由から、M&Aは基本的に従業員に秘密にしたまま進行する形が望ましいでしょう。しかし、どこかのタイミングで説明しなければならないのも確かです。この章では、従業員に説明するタイミングや説明する際の注意点を紹介します。

M&Aの際、従業員に説明する適切なタイミング

経営者には、従業員に対する説明責任があります。タイミングを誤ると、M&Aの交渉に影響を与えるだけでなく、M&A先や取引先に迷惑を与える恐れもあるでしょう。

一口に従業員といっても、役職によって社内における立場は変わります。M&Aの際は、役職ごとに説明するタイミングを分けることが大切です。

【M&Aを従業員に説明する適切なタイミング】

  • 基本合意締結の前
  • 基本合意締結の後
  • M&Aのクロージング後

基本合意締結の前に説明する役職

M&Aの基本合意締結の前に説明する従業員は、経営に深く関係している役職です。会社の経営に貢献している重要な役職にも関わらず、説明するタイミングが遅れると反感を買ってしまう恐れもあります。

実務の面からみても、重要な役職からの意見は有効的に活用できるでしょう。経営者や一部経営陣だけで抱え込むと、M&Aの可能性を見失ってしまう恐れもあります。早期に相談して意見を共有しておく形が望ましいでしょう。

そのほか、経理担当がいる場合は、早期段階でM&Aに関する説明を行う必要があります。企業価値評価の段階で財務状態を伝える必要があるので、経理担当の協力が必要不可欠です。

基本合意締結の後に説明する役職

M&Aの基本合意締結の後に説明する従業員は、各事業部の責任者や役員クラスです。説明不十分のままM&Aを実行し、キーマンが自主退職すれば、買収側に迷惑がかかるリスクがあるでしょう。早めにM&Aに対する姿勢を確認する必要があります。

M&Aでは、従業員は人的資産として企業価値に含まれます。重要な役員クラスが退職すると、企業価値評価に影響が出る恐れがあるので、辞めることがないよう慎重に説明しなくてはなりません。

責任者や役員クラスは、少なからず会社に貢献している自負があるものです。一般の従業員とは扱いを変えることも大切でしょう。該当する従業員を一堂に集めて説明するのではなく、一人ひとりと直接面談する形が望ましいでしょう。

M&Aのクロージング後に説明する役職

一般従業員に対してはM&Aのクロージング後に説明しましょう。具体的なタイミングは、最終契約直前あるいは直後の情報開示が一般的です。

説明を受ける従業員からすると、突然の出来事であるため、M&A後の雇用・待遇について質問されることが想定されます。買い手企業の人材に同席してもらうなど、事前準備を進めておくと柔軟に対応できます。

ただし、買収企業が上場企業である場合は、インサイダー取引に注意が必要です。M&Aの影響は大きくなるため、一般情報公開前より先に従業員へ公表する場合、株式市場に影響が出ないように努める必要があります。

M&Aを従業員に説明する際の注意

M&Aの従業員に対する説明では、タイミング以外にもいくつかの注意点があります。迷惑をかけないために注意すべきポイントには以下の2つが挙げられます。

【M&Aを従業員に説明する際の注意点】

  • M&Aの交渉が必ずうまくいくと約束しない
  • 従業員の不安な気持ちを理解する

M&Aの交渉が必ずうまくいくと約束しない

M&Aは従業員に迷惑がかからない条件で成約させることが望ましいですが、必ずしも交渉がうまくいくとは限りません。ときには、雇用条件の一部を変更することや、一部の従業員は受け入れられないなどの条件が提示されることもあります。

役員クラスに対する事前説明で、M&Aのリスクがゼロであるかのように説明すると、M&A前後の説明に食い違いが生じて自主退職につながりかねません。企業価値にも影響が出かねないので、M&Aに一定のリスクが伴うことを納得してもらうことが大切です。

大量に従業員の自主退職が発生すると、統合プロセスがうまくいかない事態も想定されます。買い手に迷惑をかけるどころか、求めるシナジー効果が生み出せなくなってしまいます。M&Aが失敗に終わる可能性も高くなるでしょう。

従業員の不安な気持ちを理解する

M&Aによる買収の報告を受けた従業員は、自分の将来に不安を感じることが多いです。従業員に与えられるM&A情報は限られているため、環境の変化や先が見通せないことに対して不安が大きくなるのも当然といえるでしょう。

報告を受けた従業員から、M&A後の自身の雇用条件について質問されることが想定されます。その際に未定であると伝えてしまうと、不安を募らせることになります。情報を整理した段階で従業員に説明するほうがよいでしょう。

従業員が関心の高いポイントには、仕事内容や給与・地位、転勤の可能性などがあります。説明タイミング次第では確定していないこともありますが、分かっている部分は伝えると好印象を与えられるでしょう。

【関連】M&Aの契約書(基本合意契約書、最終契約書)について
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2. M&Aで従業員に迷惑をかけない方法

経営者としては、M&A後も従業員が気持ちよく働ける環境を維持したいところです。しかし、企業の成長のために実行するM&Aであっても、結果的に従業員に迷惑をかけてしまうこともあります。

従業員の不満がたまると、自主退職が相次いでM&Aが失敗に終わる可能性もあります。従業員になるべく迷惑がかからないよう努めることが大切です。

【M&Aの際に従業員に迷惑をかけない方法】

  • M&Aで交渉を行い雇用や待遇を維持してもらう
  • 変更する場合は個別に話し合う
  • 退職する場合はきちんと対応する

M&Aで交渉を行い雇用や待遇を維持してもらう

従業員のM&Aに対する関心の高いポイントは自身の待遇でしょう。M&A後の雇用条件の悪化に不安を感じているので、M&A交渉では、従業員の雇用や待遇を維持してもらうように進める形が望ましいです。

従業員にM&Aを説明するタイミングでM&A後の雇用・待遇について説明できれば、従業員の不安を和らげることになります。M&Aで迷惑がかかるリスクも大幅に抑えられるでしょう。

従業員の雇用維持は売り手側の要望のイメージが強いものです。しかし、あらゆる業種で働き手不足が深刻化しているので、買い手側にとっても従業員の離職は望ましくありません。双方の条件のすり合わせをしながら、従業員の雇用・待遇維持に努めたいところです。

変更する場合は個別に話し合う

M&Aの交渉を慎重に進めていたとしても、売り手と買い手のニーズが一致せずに、従業員の雇用・待遇を変更せざるを得ない状況になることもあります。そのような状況になったら、対象の従業員と個別に話し合う場を設けましょう。

従業員は先行きが不透明なことに不安を感じることが多いです。検討している雇用・待遇を直接伝えれば、納得してもらえることも少なくないでしょう。

情報を公開するタイミング次第では、秘密保持の観点から説明できる情報が限られます。しかし、伝えられる情報はしっかり伝えてあげると、従業員に迷惑がかかりにくくなるでしょう。

退職する場合はきちんと対応する

退職には自己都合退職と会社都合退職があります。自己都合退職は、従業員の判断や事情による退職です。会社都合退職は、普通解雇や倒産など会社側からの働きかけによる退職を指します。

退職理由がM&Aのみの場合は、会社都合退職とはなりません。しかし、M&A後に遠方への転勤や大幅の賃金値下げなど、雇用・待遇が著しく悪化する場合は会社都合退職となることもあります。

自己都合退職の場合、退職金が目減りしてしまうため、従業員に与える迷惑が大きくなるでしょう。M&Aを理由に退職する全ての従業員を自己都合退職で一律処理するのではなく、従業員一人ひとりの条件を鑑みたうえで対応することが大切といえます。

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3. M&Aを従業員に説明する手順

従業員にM&Aを説明する際は、段取りを誤るとM&Aの失敗につながり、迷惑をかける恐れがあります。従業員に説明するときは、適切な手順や方法を把握したうえでタイミングを見極める必要があります。

【M&Aの際に従業員に説明する手順】

  1. 伝えるときは全員に伝える
  2. 伝える際はM&Aを感じさせずに招集
  3. 買い手側にも参加してもらう

①伝えるときは全員に伝える

M&Aのクロージング後に一般の従業員に説明するときは、全ての従業員に同時に伝える必要があります。従業員から従業員へのまた聞きが発生すると、正確な情報が伝わらずに、社内が混乱する恐れがあるためです。

説明するタイミングは、最終契約前日または当日の朝礼や夕礼などが適切でしょう。出張や病欠などの一部の従業員を除き、一度に大勢の従業員に説明できます。

タイミングを誤ると情報漏えいにつながり、M&A先や取引先に迷惑がかかる恐れがあります。適切なタイミングで一斉に伝えることが大切です。

②伝える際はM&Aを感じさせずに招集

基本的に、M&Aはクロージングが完了するまで情報を漏らすわけにはいきません。正式にM&Aが決定するよりも前にM&Aを伝える場合は、招集する際もM&Aを悟られないよう、適当な口実をつける必要があります

その段階でM&Aを伝える相手は、各事業部の責任者や役員クラスに限られます。招集する口実は「重要な経営方針の発表」などがよいでしょう。

デューデリジェンスなどの実地調査が行われる際は、社内に悟られるリスクが高まります。マネジメントインタビューや資料提供の対応を担当する人材には、十分に注意するよう話を通しておくことも大切です。

③買い手側にも参加してもらう

一般の従業員にM&Aを報告する場では、ひととおりの説明が終わると、従業員から買い手企業に関する質問が殺到することが想定されます。転勤の有無や仕事内容の変化、給与問題など、従業員が知りたい情報が多くあるからです。

具体的な雇用・待遇は、買い手側の責任者から説明してもらうと、従業員も納得しやすくなるでしょう。細かい条件も説明できれば、より従業員の不安を和らげられます。

より多くの従業員に残ってもらいたい気持ちは、売り手側も買い手側も共通しているでしょう。共同作業であることを意識しながら取り組むことが望ましいです。

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4. M&Aで従業員が得られるメリット

M&Aで従業員が得られるメリットは、以下のようなものが考えられます。

  • 雇用が継続される
  • 待遇が向上する可能性
  • 仕事の幅が広がる
  • 大企業の傘下に入れる可能性

雇用が継続される

廃業ではなく、M&Aをすることになれば会社は存続します。そうなれば、従業員が会社を辞める必要はありません。雇用も継続されます。

事業譲渡の場合、新たに契約を結ぶこともあるでしょう。しかし、基本的には同条件で働けるように交渉しているため、引き続き働けることは何よりのメリットといえます。

待遇が向上する可能性

元の会社の待遇がよくなかった場合、M&A後の会社では給与などの待遇がよくなることもあります。特に大企業の傘下に入れば、グループ全体の労働条件は見直される可能性が高くなるでしょう。

仕事の幅が広がる

M&Aにより、これまでの会社より規模が大きい会社になった場合、必ずしも同じ内容の仕事に就けるとは限りません。他の業務ができたり、キャリアアップができたり、仕事の幅が広がる可能性もあるでしょう。

買収先が異なる業種だった場合、新たな仕事に就けるチャンスがあるかもしれません。仕事の幅が広がることも、従業員にはメリットといえます。

大企業の傘下に入れる可能性

買収先が大企業だった場合、大企業グループの一員として働くことになるでしょう。待遇面がよくなることや、社外的に優遇されることも考えられます。就職の際に入りたくても入れなかった大企業の社員として働けることになるかもしれません。

5. M&Aに反対する従業員の対処法

M&Aを従業員に丁寧に説明したとしても、必ずしも全員が受け入れてくれるわけではありません。なかには、反対する従業員もいるでしょう。反対する従業員にはいくつかの対処法をあらかじめ考えておくとよいでしょう。

M&Aに反対したからといって、一方的に会社から解雇を言い渡せません。労働契約法や労働基準法に抵触する可能性もあるため注意が必要です。

どうしても解雇が必要な場合は、「整理解雇」の方法もありますが、要件が厳しいため難しいといえるでしょう。反対する従業員に対しては、より丁寧な説明を行い、双方が納得のいく方向で話を進めていく必要があります。

例えば、その対処法として、配置転換を提案してみましょう。反対する従業員が希望する部署や仕事に就ければ、退職することなく、スムーズに進められるかもしれません。ただし、他の社員からも配置転換の希望やそれ以外の要望などが出ないよう、慎重に進めなければならないでしょう。

それ以外にも、可能であれば、買い手企業側へ出向することも対処法としては有効でしょう。買い手企業で働いてみれば、その企業の良さなどを理解し、M&Aを受け入れるよう意見が変わる可能性もあります。

買い手企業で働き、自身のキャリアアップへつなげられれば、考え方が変わることがあるかもしれません。それでもなお、反対意見を変えない従業員に対しては、自主退職をすすめることになるでしょう。

自主退職をすすめることは、会社からの解雇と受け取られかねないため、話し合いを十分にもつようにしましょう。お互いが納得のいく形で退職してもらうように、慎重に進めてください。

6. M&Aで従業員の雇用・待遇に及ぶ影響に関する相談先

M&Aを実行する際は、情報漏えいに注意しながら従業員への説明責任も果たさなくてはなりません。従業員の役職によっても情報を開示するタイミングが異なるので、経営者が考えるべき事項は多くなります。

M&Aで従業員への対応でお悩みの経営者様は、M&Aの専門家に相談することをおすすめします。M&Aの実務はもちろんのこと、従業員に対するケアもサポートしていることが多いです。万全の体制でM&Aに臨めるでしょう。

M&A総合研究所は、中堅・中小規模の案件を中心に手掛けているM&A仲介会社です。中小企業のM&A仲介における豊富な実績があります。M&Aサポートを担当するのは経験豊富なM&Aアドバイザーです。過去の仲介・相談で経験・ノウハウを培っており、従業員に対するケアにも長けているので、説明タイミングや伝える方法に関して具体的なアドバイスをします。

無料相談は随時受け付けています。M&Aに関するご相談は、お気軽にM&A総合研究所までご連絡ください。経験豊富なスタッフが真摯に対応します。

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7. M&Aを従業員に説明するタイミングまとめ

M&Aは企業成長の方法として活用できます。しかし、従業員への説明タイミングや方法を誤ると、M&A先や取引先、従業員に迷惑をかけて取り返しが付かない事態に発展する恐れもあります。

M&Aを成功させるためには、従業員からの理解が必要不可欠です。全ての従業員に対して真摯に向き合って説明責任を果たせれば、M&Aが成功する確率も高められるでしょう。

【M&Aを従業員に説明する適切なタイミング】

  • 基本合意締結の前
  • 基本合意締結の後
  • M&Aのクロージング後

【M&Aを従業員に説明する際の注意点】
  • M&Aの交渉が必ずうまくいくと約束しない
  • 従業員の不安な気持ちを理解する

【M&Aの際に従業員に迷惑をかけない方法】
  • M&Aで交渉を行い雇用や待遇を維持してもらう
  • 変更する場合は個別に話し合う
  • 退職する場合はきちんと対応する

【M&Aの際に従業員に説明する手順】
  1. 伝えるときは全員に伝える
  2. 伝える際はM&Aを感じさせずに招集
  3. 買い手側にも参加してもらう

【M&Aで従業員が得られるメリット】
  • 雇用が継続される
  • 待遇が向上する可能性
  • 仕事の幅が広がる
  • 大企業の傘下に入れる可能性

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