事業承継の悩みと5つの失敗例!経営者はどこに相談するのが良い?

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

事業承継は会社の経営者が交代する大きなイベントなので、常に不安や悩みがつきまといます。本記事では、事業承継にともなう典型的な悩みとその対処法を、5つの失敗例とともに解説します。また、悩みの相談先として適切な専門家についても解説していきます。

目次

  1. 事業承継の悩み
  2. 事業承継の悩みを解決するには専門知識を持った相談者が必要
  3. 事業承継の5つの失敗例
  4. 事業承継の悩み解決するための相談先とそれぞれのメリット
  5. まとめ
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1. 事業承継の悩み

会社の経営者が高齢などの理由で引退する時、そのまま会社を廃業するか、後継者に事業承継するかの選択肢に迫られることになります。

自分の代できっぱりやめるつもりの場合を除いて、経営者は事業承継について何らかの悩みを抱えることが多いでしょう。

事業承継にまつわる悩みを軽減するには、事業承継にはどれくらいの期間がかかるのか、後継者や相談者選びでよくある悩みは何かを知っておくことが大切です。

事業承継のスケジュールについて

事業承継は、スケジュールがよく分からないと漠然とした不安や悩みが生まれます。多くの経営者にとって事業承継は経験のないことなので、まずはスケジュールをはっきりさせておくことが大切です。

1.事業承継にかかる期間

事業承継にかかる期間を把握するには、まず事業承継のプロセスをいくつかの段階に分けて考える必要があります。

事業承継は株式の相続といった具体的な手続きに加えて、事前の後継者教育と、経営者交代後の統合プロセスがあるので、これら3段階に分けて考えると分かりやすいでしょう。

中小企業庁のガイドラインによると、これらの期間を全て含めると5年から10年かかるとされています。

事前の後継者教育は最も期間がかかることが多く、経験のために後継者に従業員として働いてもらう期間を含めれば、それだけで5年以上かかる場合もあります。

逆に、株式の相続といった具体的な手続き自体は、後継者教育などに比べると長くならないのが一般的です。大きなトラブルがなければ、手続き自体は早くて数か月、長くても一年かからないことが多いです。

ただしM&Aで事業承継する場合は、相手がスムーズに決まらないと1年以上かかるケースもあります。

統合プロセスの期間は事例によりさまざまですが、一般には2,3年程度かけてじっくりと橋渡しするのがよいとされています。

2.事業承継の準備期間

事業承継の準備期間は、主に後継者教育に割かれることになります。特に親族を後継者にする場合は、最低でも数年間は会社で従業員や役員として働いてもらい、会社の業務や業界について知識と経験を蓄えてもらわなくてはなりません。

M&Aで事業承継する場合は、承継先が早い段階で決まっていない限り、準備期間をとれないことが多いです。この場合は事業承継後の統合プロセスで、後継者教育も行うことになります。

代わりにM&Aによる事業承継の場合は、買い手に自社を魅力的に見せるための会社の「磨き上げ」期間が必要になります。

3.事業承継の具体的な準備

事業承継の具体的な準備ですが、後継者がはっきり決まっていない場合は、まず後継者選びから始めなければなりません

後継者の選び方は、親族・従業員といった内部の人間から選ぶ方法と、M&Aで外部から招へいする方法があります。

事業承継の具体的な準備のためには、事業承継計画書を作成することが大切です。準備期間を含め今後10年くらいの計画を大まかに決めることで、準備段階での悩みを軽減することができます。

後継者の問題について

事業承継は後継者がいないと成り立たないものなので、後継者選びは常に悩みの種となります。

M&Aによる事業承継の場合は幅広く後継者を探すことができますが、親族への事業承継の場合は適任者が見つからないケースも多いです。

引き継ぐ意思のある親族がいない、候補がいてもその人物が経営者に向いていない、そもそも後継者となる親族がいないといった悩みは、親族への事業承継ではよく見られます。

【事業承継の後継者に関する悩み】

  1. 親族に引き継ぎたいものがいない
  2. 後継者候補が経営者に向いていない
  3. そもそも後継者がいない

1.親族に引き継ぎたいものがいない

親族が皆ほかの職業についており、会社を継ぐ意思のある人がいないケースは多くみられます。

昔は家業を代々継ぐという価値観がまだ健在でしたが、現在はそれぞれが自分のやりたい仕事に就くことが多く、親の会社に後継ぎとして入社するケースが減ってきています。

子供が自由に自分のやりたい仕事をしているのに、それを辞めさせて後継者となるよう説得するのは難しいことが多いです。

2.後継者候補が経営者に向いていない

自分の息子などを後継者候補に見立て、教育期間として会社で従業員として働いてもらうと、そもそも彼が経営者に向いていないことが分かってくることもあります。

たとえ後継者候補がいても、その適性を見極めなくては事業承継を成功させることはできません。

経営者に向いていない人を無理やり後継者にしても会社は発展は難しく、後継者にさせられた人も不幸になるだけでしょう。

3.そもそも後継者がいない

近年は少子化が進んでいるので、そもそも後継者となる子供や身近な親族がいないケースが増えています

親族に後継者がいない場合は、M&Aで第三者に事業承継することになります。M&Aによる事業承継は国が積極的に後押しして制度を整えているので、自分は子供がいないから廃業するしかないと決めつけず、まずは事業承継の専門家に相談することが大切です。

事業承継に関する相談者について

事業承継を検討する際に悩みの種となるのが、相談する相手がいないという問題です。

事業承継は同じ人が人生で何度も経験することではないので、事業承継を専門とする業者でもない限り、詳しい知識や経験のある人がいないのが普通です。

また、中小企業経営者は責任感の強さなどから他者への相談に消極的なことが多く、一人で抱え込んで悩んでしまうケースもよくみられます。

【事業承継の相談者に関する悩み】

  1. 相談相手が身近にいない
  2. 従業員や役員は相談者として頼りない

1.相談相手が身近にいない

中小企業庁の調査によると、事業承継の相談相手は顧問税理士や公認会計士が多く、その次に親族や友人、金融機関や公的機関と続きます。

普段から交流のある顧問税理士などに相談するのはおすすめですが、税理士や公認会計士は必ずしも事業承継の専門家ではないので、悩みの相談相手として適していないこともあります。

顧問税理士に相談できず、親族や友人にも事業承継に詳しい人がいないとなると、悩みを相談する相手がいなくなってしまいます。

実際このような状態に陥っている経営者は多く、一人で悩み続けたまま事業承継のタイミングを逸してしまうことになります。

身近に相談相手がいない場合は、M&A仲介会社や事業引継ぎ支援センターといった、事業承継を専門にしている業者や公的機関に相談するのがおすすめです。

2.従業員や役員は相談者として頼りない

従業員や役員は身近な相談相手ではありますが、経営の立場に立ったことがない人から有益なアドバイスが得られるのはまれで、従業員が経営者に対して積極的なアドバイスはしづらいのが実際のところです。

2. 事業承継の悩みを解決するには専門知識を持った相談者が必要

前章で述べたように、事業承継の身近な相談相手はなかなかみつからないのが実際のところです。よって、事業承継の悩みを解決するには、専門知識を持った相談者に相談するのが不可欠といえるでしょう。

例えば、M&A仲介会社や事業引継ぎ支援センターなら、事業承継を何件も手がけてきた経験から適切なアドバイスをすることができます。

M&Aは法的効力のある契約を締結するので、もし違反があった場合は損害賠償の対象となることもあります。法律面でトラブルを起こさないためにも、専門家のサポートを得ることは不可欠です。

3. 事業承継の5つの失敗例

事業承継の悩みの多くは、どのような失敗が起こるか分からない不安感が原因となっています。その悩みを軽減するには、実際によくある失敗例を見て、典型的な失敗パターンを知っておくことが大切です。

そこでこの章では、実際の事業承継の典型的な失敗例を5つ紹介し、その原因や対処法などを解説していきます。

①旧経営者が経営権を手放さない事例

旧経営者が事業承継後も過半数の株式を保有し、事実上の経営権を保持し続けている事例です。事業承継では原則として後継者に株式を譲渡し、後継者が経営権を持たなければなりません。

この事例では、後継者が社長に就任した後も旧経営者が会長として実権を握り、現社長が思うような経営ができない状態となっています。

現社長は旧経営者に株式を譲渡してほしいと思っていますが、自分の父親でもありなかなか言い出せないまま10年ほどが経過してしまいました。

事業承継では、旧経営者はきっぱりと経営から退き、後継者に経営を任せなければなりません。実権を握り続けることに固執してしまうのでは、事業承継の成功は難しくなります。

②準備不足の事例

事業承継の準備を何もしないまま高齢になってしまい、後継者がおらず廃業の危機に瀕してしまった事例です。

旧経営者は会社の役員を務めている弟に一旦は事業承継しましたが、その弟も体調を崩し経営者を退くことになり、次の後継者がみつからない状態となりました。

事業承継は、旧経営者が高齢になる前から準備を行う必要があります。準備は長くて10年程度かかるといわれているので、もし70歳で事業承継するつもりなら、60歳ごろから準備を始めなければなりません。

③相続トラブルの事例

旧経営者が遺言書を作成せずに死亡したため、相続トラブルが発生してしまった事例です。

この事例では、親族の中に問題のある人物がいたため、相続トラブルが起こってしまうことになります。

問題の人物に資産を分配しないように試みましたが、この人物が拒否したため法定割合での相続となり、問題のある人物に資産が相続されてしまいました。

親族に問題のある人物がいる場合はもちろん、そうでなくても遺言書を作成しておくことは非常に大切です

④親族内での派閥争いの発生

親族内で派閥争いが起き、事業承継が失敗してしまった事例です。遺言書を作成しないまま旧経営者が急死し、複数の親族に株式が分散してしまいました。

そのため、親族同士で過半数の議決権を得るための派閥ができ、後継者になる予定だった人物が社長を解任させられてしまいました

親族間の人間関係などを考慮して、こういったトラブルが起こらないように早めに対処することが大切です。

⑤従業員から反発を受ける事例

従業員が経営者の交代に反発し、経営がうまくいかなくなってしまった事例です。旧経営者は自分の息子を後継者とすべく準備を進めていましたが、従業員からの評判は良くなく、反対意見が出ている中で事業承継を決行しました

さらに、息子が新社長に就任した際、自分が後継者となることに反対した役員を解任してしまったため、事態はさらに悪化することになります。

事業承継は旧経営者と後継者の同意だけでなく、従業員からも受け入れてもらえる体制を整えることが大切です。

4. 事業承継の悩み解決するための相談先とそれぞれのメリット

法律の相談なら弁護士、税金の相談なら税理士と相談先がはっきり決まっているのに対して、事業承継はそもそも誰に相談すべきかという悩みがつきまといます。

事業承継の悩みの主な相談先としては、M&A仲介会社、金融機関など、以下の5つの選択肢が考えられます。

【事業承継の悩みの相談先】

  1. M&A仲介会社・M&Aアドバイザー
  2. 地元の金融機関
  3. 地元の士業
  4. 地元の公的機関
  5. M&Aマッチングサイト

1.M&A仲介会社・M&Aアドバイザー

M&Aでの事業承継の悩みに関しては、M&Aを専門とするM&A仲介会社やM&Aアドバイザーに相談するのがおすすめです。

ただし、仲介会社はあくまでM&Aを成約させて手数料を得るのが仕事なので、親族内の事業承継に絞った相談は対応してもらえないこともあります。

メリット

M&A仲介会社・M&Aアドバイザーは、M&Aを専門として日々多くの案件を手がけているので、経験と知識が非常に豊富なのがメリットです。

M&Aによる事業承継のさまざまな成功・失敗例を経験しているので、的確なアドバイスを提供することができます。

2.地元の金融機関

地元の地方銀行や信用金庫といった、金融機関の事業承継担当に悩み相談を持ちかけることもできます。

最近は事業承継・M&Aに強い職員を置く金融機関も増えており、相談しやすい体制が整ってきています。

ただし、金融機関は融資が主な業務なので、M&Aによる事業承継は売り手と利益相反になる可能性があるのは注意したい点です。

メリット

経営者にとって地方銀行や信用金庫は普段から付き合いがあることが多いので、事業承継の悩みも相談しやすいのがメリットです。

M&Aも地元に根差したネットワークを持っていることが多く、地元の有力企業を紹介してもらえることもあります。

3.地元の士業

事業承継を実行するためには、株式の譲渡や資産の相続など、さまざまな法律関連の手続きが必要になります。また、相続税や贈与税の悩みも事業承継にはつきものです。

よって、弁護士や税理士といった地元の士業事務所は、こういった悩みを相談する相手として最適です

ただし、士業事務所は必ずしも事業承継やM&Aの専門家ではないので、事業承継・M&A全般に関する悩みの相談先としては向いていないこともあります。

メリット

士業事務所は法律・税務・会計などそれぞれの専門分野のスペシャリストなので、その分野について的確なアドバイスを受けられるのがメリットです。

また、普段から付き合いのある顧問弁護士や顧問税理士なら、悩みを相談しやすいメリットもあります。

4.地元の公的機関

事業承継の問題は国も重要な課題と位置付けており、さまざまな公的機関を設置して支援を進めています。

商工会議所や事業引継ぎ支援センターでは、事業承継に関するさまざまな悩み相談を受け付けるとともに、M&Aの相手探しなども支援しています。

ただし、M&A仲介業務は最終的に提携の仲介会社に依頼するかたちになる場合が多いので、M&Aによる事業承継を考えている場合は、始めからM&A仲介会社に相談したほうが早いケースもあります

メリット

公的機関はコストがかからず、悩みを気軽に相談しやすいのが大きなメリットです。

また、公的機関は中小零細企業の事業承継を得意としているので、金融機関などで相談を受け付けてもらえなかった小さな会社でも相談できるメリットがあります。

5.M&Aマッチングサイト

M&Aマッチングサイトとは、M&Aを行いたい買い手と売り手が情報交換し、よい相手がみつかれば交渉してM&Aを成約できるサービスです。主に中小零細企業や個人事業のM&Aで活用されています。

多くのM&Aマッチングサイトでは、買い手と売り手のマッチングだけでなく、専門家によるアドバイスやサポートも提供しています。

専門家のサポートは別料金になるのが一般的ですが、自分だけでマッチングサイトを利用するのが不安な場合は、悩みの相談先として利用できます。

メリット

M&Aマッチングサイトは、仲介会社や金融機関によるM&Aに比べて、仲介手数料が安く済むのがメリットとなります。

一般的なマッチングサイトの仲介手数料は、売り手が完全無料で、買い手は成約価額の2から3%程度となるケースが多いです。

M&A仲介会社の場合、小規模な案件なら売り手・買い手ともに5%程度となるのが一般的なので、それに比べると全体的に安くなっています。

ただし、別料金で専門家のサポートを受けた場合はトータルのコストが高くなる可能性もあるので、マッチングサイトを利用する際は料金体系をよく確認しておく必要があります。

5. まとめ

事業承継はほとんどの経営者にとって一生に一度のことなので、悩みが尽きないのはやむを得ないところです。

事業承継を成功させるには、典型的な失敗例を知って事前に対処すること、適切な専門家に悩みを相談することがポイントといえるでしょう。

【事業承継の後継者に関する悩み】

  1. 親族に引き継ぎたいものがいない
  2. 後継者候補が経営者に向いていない
  3. そもそも後継者がいない

【事業承継の相談者に関する悩み】
  1. 相談相手が身近にいない
  2. 従業員や役員は相談者として頼りない

【事業承継の悩みの相談先】
  1. M&A仲介会社・M&Aアドバイザー
  2. 地元の金融機関
  3. 地元の士業
  4. 地元の公的機関
  5. M&Aマッチングサイト

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