事業承継の資金調達に使える融資制度と保証制度とは?経営承継円滑化法も紹介!

会計提携第二部 部長
向井 崇

銀行系M&A仲介・アドバイザリー会社にて、上場企業から中小企業まで業種問わず20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、不動産業、建設・設備工事業、運送業を始め、幅広い業種のM&A・事業承継に対応。

本記事では、資金ニーズ・資金需要の高い中小企業が事業承継を行う際の資金調達に役立つ融資制度・保証制度を解説します。融資制度・保証制度でオススメの法律相談(東京都や横浜市)も紹介しています。事業承継に興味のある方は必見です。

目次

  1. 経営承継円滑化法とは
  2. 経営承継円滑化法における遺留分に関する民法特例の詳細
  3. 経営承継円滑化法の民法特例を受けるための要件と対象者
  4. 事業承継・集約・活性化支援資金
  5. 事業承継の融資に関する相談先
  6. 事業承継の資金調達に使える融資制度・保証制度のまとめ
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1. 経営承継円滑化法とは

経営承継円滑化法(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律)とは、中小企業の経営をサポートするための法律です。

具体的には、資金需要・資金ニーズのある中小企業に銀行などの金融機関が融資を与えたり、事業承継を円滑化するためのサポートを行ったりします。

中小企業は経営承継円滑化法に定められたとおり、国や銀行などから融資を受けることで資金繰りや資金調達がしやすくなり、事業承継を円滑に進めることが可能です。

この法律は、2018(平成30)年4月1日に改正されています。そこで、経営承継円滑化法が改正された背景・目的、現行制度の課題、経営承継円滑化法のポイントなどを詳しく解説します。

経営承継円滑化法が改正された4つの背景・目的

経営承継円滑化法が改正された背景・目的は、主に以下のとおりです。

  • 20年前は親族内承継が9割だったが、最近は親族外承継が約4割を占めるため
  • 中小企業法で定められた「事業承継の円滑化」を活性化するため
  • 資金需要や資金ニーズのある中小企業の事業や資金繰りをサポートするため
  • 銀行などの金融機関が資金需要や資金ニーズのある中小企業に融資しやすくするため

現行制度の3つの課題

経営承継円滑化法とは、資金需要や資金ニーズのある中小企業の経営をサポートするための法律です。

銀行などの金融機関が資金需要や資金ニーズのある中小企業に融資を与えるなどのサポートを行うことで、中小企業は資金繰りや資金調達がしやすくなり、事業承継を円滑に進められます。しかし、現行制度には、3つの課題が指摘されてきました。

  1. 遺留分減殺請求などの自社株の分散
  2. 特別受益の問題
  3. 事前放棄制度がうまく活用されていない

①遺留分減殺請求による自社株の分散

現行制度の課題の1つ目には、遺留分減殺請求による自社株の分散が挙げられます。遺留分とは、遺言によっても奪うことができない相続人(推定相続人)の権利であり、法定相続分の2分の1が遺留分です。

遺留分算定の基礎財産には、以下の4つが当てはまります。

  • 被相続人の財産(相続開始時)
  • 贈与財産
  • 特別受益 
  • 債務の全額

遺言や贈与によって自社株が事業承継者に移転した際、贈与財産か特別受益に当てはまるため、遺留分算定の基礎財産とみなされます。

遺留分減殺請求の対象となれば、自社株分散の事態となり、その問題を解決するために制定されたのが経営承継円滑化法(民法特例法)です。

②特別受益の問題

現行制度の課題の2つ目には、特別受益の問題が挙げられます。特別受益とは、相続人が被相続人から生前にもらった特別な利益のことです。

その場合、相続財産を前払いしたものとみなされるため、本来は相続人が受け取るべき財産から生前にもらった特別受益を差し引いた額が、相続時にもらえる財産となります。

このように、法律では相続人同士の相続額がフェアになるよう定められています。

③事前放棄制度がうまく活用されていない

現行制度の課題の3つ目には、事前放棄制度がうまく活用されていないことが挙げられます。民法1043条によると、遺留分の事前放棄などの形で、後継者以外の相続人(推定相続人)が相続から外れることも可能です。

しかし、後継者以外の相続人のほとんどが財産の放棄を希望しないケースが多く、一方的に不利益を受けることに納得しないため、事前放棄制度がうまく活用されていないのが現状といわざるを得ません。

認定および継続的な確認について

遺留分減殺請求などの自社株の分散や特別受益の問題、事前放棄制度などの問題を解決するためには、経済産業省や家庭裁判所の認定や継続的な確認が必要です。

例えば、上記に挙げた問題を国に認定してもらうためには、相続人同士の合意が取れた1カ月以内に事業後継者が経済産業省に所定の申請書や書類を提出しなければなりません。

経済産業大臣の確認を受けた後、1カ月以内に家庭裁判所に合意の申し立てを行います。家庭裁判所の許可が下りれば、提出した内容が法的に認められたことになります。

経営承継円滑化法の3つのポイント

経営承継円滑化法には、主に以下のポイントがあります。

  • 事業承継税制
  • 銀行による金融支援制度
  • 遺留分に対する民法の特例


それぞれのポイントや手続きを解説します。

①事業承継税制

経営承継円滑化法の1つ目のポイントに、事業承継税制(相続税の納税猶予)が挙げられます。

事業承継税制とは、中小企業(非上場会社)のトップが死亡した後に事業後継者に多額の相続税が課せられることで、経営を承継できなくなるデメリットを解決するために定められた法律です。

手続きは、猶予されるべき相続税の金額と利子に見合った担保を税務署に提出します。一般的には、非上場企業の全ての株式を提出することで、担保を提出したとみなされることが多いです。

②資金繰りや資金調達を活性化させるための銀行等の金融支援制度

経営承継円滑化法の2つ目のポイントに、資金繰りや資金調達を活性化させるための銀行などの金融支援制度​​が挙げられます。

金融支援制度とは、銀行などの金融機関が中小企業の資金繰りや資金調達を活性化させるために支援を行う制度です。

資金需要や資金ニーズのある中小企業が事業承継する際、銀行などの金融機関からこれまでどおり融資が受けられなくなったり、取引先との支払い条件が厳しくなったりするなど、企業の資金繰りや資金調達が悪化する社会問題を解決するために定められた法律です。

手続きは東京都や横浜市など各地域の銀行や認定機関によって異なりますが、信用保証の場合は近くの信用保証協会へ、融資の場合は最寄りの日本政策金融公庫の中小企業事業の窓口へ直接相談することが一般的です。

③遺留分に関する民法の特例

経営承継円滑化法の3つ目のポイントに、遺留分に関する民法の特例​​が挙げられます。遺留分に関する民法の特例とは、相続を行う際に、遺産が特定の相続人に渡ることを防ぐために定められた法律です。

相続の際に遺言書はある程度の効力をもちますが、すべてをそれどおりに実行してしまうと、推定相続人の中には金銭的に生活が苦しくなる問題が生じるなど不平等な待遇も出てきます。

民法の特例により相続の遺留分を認めることで、不平等な相続問題を解決可能です。手続きは、事業承継する後継者と推定相続人で合意書を作成し、1カ月以内に経済産業大臣へ申請を行います。

そして、経済産業大臣の承認後1カ月以内に、家庭裁判所に特例合意の申し立てが必要です。家庭裁判所の承認が下りれば、遺留分に関する特例が認められたことになります。

事業承継を円滑に行うための遺留分に関する民法の特例については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】事業承継を円滑に行うための遺留分に関する民法の特例とは?簡単解説!| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

2. 経営承継円滑化法における遺留分に関する民法特例の詳細

ここでは、経営承継円滑化法における遺留分に関する民法特例の詳細を以下に説明します。

特例制度と原則制度の比較表

以下は、特例制度と原則制度の比較表です。2018年度の税制改正により、事業承継に伴う贈与や相続の負担を軽減するための特例制度(10年間)が創設されました。
 

     特例制度 原則制度
対象株式 全株式 全株式の2/3まで
納税猶予の割合 100% 贈与100% 相続80%
経営状況による免税 あり なし
事業承継 複数の株主(後継者3人まで) 複数の株主(後継者1人まで)

遺留分に関する民法特例の計算例

遺留分に関する民法特例の計算例を解説します。生前贈与された財産は、通常遺留分として計算されます。

例えば、子供が兄弟3人いて、その内の後継者が1人だったとしましょう。株式を承継させるために、1人の後継者に生前贈与をしました。自社株の価値は相続時に反映されるため、その際、財産(遺留分算定基礎財産)の合計額が決まります。

(例)

  • 現金資産を1,000万円、自社株の評価額を2,500万円分保有していた場合


○生前贈与時の財産の合計

  • 現金資産1,000万円+自社株2,500万円=3,500万円


○相続時の財産の合計(自社株の評価額が生前贈与時に比べ2倍になっていた場合)

  • 現金資産1,000万円+自社株5,000万円=6,000万円


兄弟の遺留分を計算式に当てはめると、6,000万円÷2÷3=1,000万円となります。

後継者となる人間は、2人の兄弟に合計2,000万円の遺留財産を払わなければなりません。しかし、現金は1,000万円しかないため、株式を分散しなければ支払えないのが現状です。

上記の問題から、経営状況に支障をきたさないように除外合意と固定合意の特例が定められました。

①除外合意

遺留分算定基礎財産の除外合意を説明します。除外合意とは、事業の後継者が取得した自社株式が分散することを防ぐために定められた制度です。

上記の例に当てはめると、自社株5,000万円が遺留分算定基礎財産から除外される合意にいたった場合、遺留分算定基礎財産の合計は1,000万円です。

この制度を利用することで、経営者が亡くなる以前に事業後継者へ贈与した自社株は、すべて事業後継者のものにできます。

②固定合意

遺留分算定基礎財産の固定合意を説明します。固定合意とは、自社株式の価格を合意時に固定するために定められた制度です。

上記の例に当てはめると、遺留分算定基礎財産が生前に贈与したときの金額で合意した場合、現金資産1,000万円と自社株2,500万円で計算されるため、遺留分算定基礎財産の合計は3,500万円です。

この制度を利用することで、後に自社株の価額が上昇したとしても遺留分算定基礎財産の金額は変わりません。

固定合意の際の評価額は、その金額で支障がないかどうかを正しく判断するため、税理士・弁護士・公認会計士の証明が必須です。

事業承継税制の特例については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】事業承継税制の特例とは?内容と要件、申請の注意点、贈与税・相続税の仕組みも解説| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

3. 経営承継円滑化法の民法特例を受けるための要件と対象者

ここでは、経営承継円滑化法の民法特例を受けるための要件・対象者を説明します。民法特例を受けるためには、会社、経営者、後継者のそれぞれで要件を満たすことが必要です。
 

会社 ・非上場企業かつ合意時に3年以上事業を継続していること
経営者 ・合意時に過去または現在の代表取締役社長であること
後継者 ・合意時に会社の代表取締役社長であること
・株式贈与によって議決権の過半数以上を占めていること

上記の条件を満たしたうえで、推定相続人の合意を得た後に経済産業大臣および家庭裁判所の許可を受ける流れです。

4. 事業承継・集約・活性化支援資金

ここでは、事業承継の資金調達に使える融資制度・保証制度の1つとして、事業承継・集約・活性化支援資金の概要を簡単に取り上げます。

事業承継・集約・活性化支援資金の利用対象者は以下リストのいずれかに該当する人です。

  • 中期的な事業承継を計画し、現経営者が後継者(候補者)とともに事業承継計画を策定している人
  • 安定的な経営権の確保等を通じて事業の承継・集約を行う人
  • 事業の承継・集約をきっかけとし、第二創業(経営多角化、事業転換)もしくは新たな取り組みを図る人
  • 中小企業経営承継円滑化法にもとづき認定を受けた中小企業者の代表者、認定を受けた個人である中小企業者もしくは認定を受けた事業を営んでいない人
  • 事業承継にあたって経営者個人保証の免除等を取引金融機関に申し入れたことをきっかけに取引金融機関からの資金調達が困難となっており、公庫が貸付けにあたって経営者個人保証を免除する人

資金の近いみちは、主として事業承継計画を実施するために必要な設備資金および長期運転資金、金融機関との取引状況の変化に伴い必要な長期運転資金などです。

融資限度額は直接貸付で7億2,000万円、利率は上限3%です。返済機関は、設備資金で20年以内(うち据置期間2年以内)、運転資金で7年以内(うち据置期間2年以内)、公庫融資借換特例制度を適用する場合は8年以内(うち据置期間原則1カ月以内)と定められています。

事業承継の融資制度として非常に魅力的ですが、利用するためには対象者に該当し、そのうえで所定の手続きを経る必要があります。制度の利用を検討する場合は、企業経営のコンサルティングをはじめとする専門家に相談すると良いでしょう。

5. 事業承継の融資に関する相談先

事業承継を進めていくうえで、資金繰りや資金調達がネックとなるケースも少なくありません。銀行などの金融機関から融資を受けたり、事業承継に詳しい専門家に頼ったりするのが一般的です。

ここでは、事業承継の法律相談をする際にオススメの相談先機関(東京都・横浜市)を3つピックアップしました。

東京都や横浜市近郊に住んでいる経営者の方や個人事業主の方、事業承継・資金繰り・資金調達に興味がある方は、ぜひ下記おすすめをご参考ください。

M&A総合研究所(東京都)

M&A総合研究所は、中小・中堅企業のM&A支援を主に手掛けています。M&Aアドバイザーによるフルサポートを行っており、遺留分の特例や税制上の最善策なども検討しながら、資金調達や資金繰りを含め最適な方法をご提案します。

料金体系は完全成功報酬制(※譲渡企業のみ。譲受企業様は中間金がかかります)となっており、着手金は完全無料です。無料相談はお電話・Webより随時お受けしておりますので、M&Aをご検討の際はお気軽にご連絡ください。

【関連】M&A・事業承継ならM&A総合研究所
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公益財団法人東京都中小企業振興公社(東京都)

東京都にある公益財団法人東京都中小企業振興公社は、資金需要や資金ニーズの高い中小企業に対して、資金調達や資金繰り改善のアドバイスをしたり、経営の売上アップを図るための法律相談を行ったりしています。

東京都では事業承継塾やセミナーなども開催しているため、東京都内や関東近郊にお住いの経営者の方は積極的に参加を検討するとよいです。

資金繰りや資金調達の方法だけでなく、経営全般の知識やノウハウ、事業承継のサポートが得意な銀行などの融資制度も詳しく学べます。

経済局(横浜市)

横浜市にある経済局は、後継者問題や資金調達などの悩みを抱える横浜市内の中小企業や個人事業主に対して、事業承継に関する法律相談や、M&Aなどの支援を行っています。

横浜市内に本社を置き、事業承継やM&Aを検討中の企業を対象に費用の一部を助成するなどして、企業の資金繰りや資金調達のサポートも行っています。

資金ニーズや資金需要のある中小企業に対しては銀行などによる融資制度の提案もしているため、横浜市内の経営者の方はぜひ法律相談を検討しましょう。

6. 事業承継の資金調達に使える融資制度・保証制度のまとめ

資金需要や資金ニーズの高い中小企業が事業承継を行う際、資金調達や資金繰りをスムーズにするための融資制度や保証制度、機関(東京・横浜市)の一例を解説しました。

新たな経営承継円滑化法にもとづき事業承継をスムーズに行うためにも、事業承継税制や銀行などの金融支援制度、遺留分に関する民法特例の内容や手続きなどを十分に理解しておく必要があります。

遺言や贈与によって自社株が移転した場合、特別受益の問題や事前放棄制度にも影響してくるため、融資制度に限らず、法律に詳しい専門家にアドバイスを求めることも大切です。

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