2024年09月25日更新
事業譲渡とは?メリットや手続きの流れと注意点を徹底解説!その他スキームとの違いは?
事業譲渡は株式の移転を伴う会社譲渡とは違い、事業売買を行う方法です。事業売買の際は、事業譲渡の基本や手続きを把握しておくと計画的に進められます。本記事では、事業譲渡の基本となる会社譲渡または株式譲渡との違い、必要な手続き、メリット・デメリットを解説します。
目次
1. 事業譲渡とは?
まずは事業譲渡とはなにか、概要を解説します。
事業譲渡の定義
事業譲渡とは、企業が保有する事業の全部あるいは一部を売買するM&A手法で、対価(現金)を受け取るのは企業です。取締役会での決議や譲渡契約の締結、反対株主からの買取請求への対応など、事業譲渡を行ううえで必要となる手続きについては会社法で定められています。
株式移転を伴う株式譲渡とは違い、事業譲渡の場合は売却側の法人格はM&A後もそのまま残り、権利・義務を買い手へ引き継ぐためには個々の同意を得たうえでの手続きが必要です。
たとえば、雇用を引き継ぐ場合は買い手企業と従業員とが改めて雇用契約を締結しなければなりません。また、譲渡対象に不動産が含まれる場合は登記手続きも必要です。
参考:会社法(平成十七年法律第八十六号)
事業譲渡を行う手法・種類
事業譲渡の手法は、以下の2種類です。
- 全部譲渡
- 一部譲渡
全部譲渡では売り手側が保有する事業を全て譲渡し、一部譲渡では売り手側が保有する事業の一部を譲渡対象とします。事業譲渡では、特定事業のみを売買対象にできますが、その場合は買い手との合意が必要です。
譲渡対象を細かく決めることができるため「事業の選択と集中」を目的に行われるケースが多く、不採算事業の切り出しなどで実施されるケースもよくみられます。
事業を別の会社に移す場合、どのように事業が移されるかによって、必要な手続きが変わります。事業の全部または会社の主要な部分を移す場合、移す会社と受け取る会社の双方で、株主の大多数の同意が必要です。会社が取締役会を持っている場合は、その取締役たちの合意も求められます。
しかし、受け取る会社が移す会社のほとんどの株式を持っている場合、この手間の一部は省かれることもあります。つまり、大きな決定をする際の通常の手続きが必要なくなることもあるのです。
2. 事業譲渡を選ぶメリット
事業譲渡を選ぶメリットを売り手側と買い手側それぞれの立場から説明します。
売り手(譲渡)側のメリット | 買い手(譲受)側のメリット |
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売り手(譲渡)側のメリット
ここからは、事業譲渡の売り手(譲渡)側のメリットを説明します。
法人格を継続して使える
事業譲渡をした場合、法人格はそのまま自社に残ります。そのため「A事業は売却したいがB事業は同名の法人格として継続させたい」といった場合に適した手法です。既存の事業を全て売却し、同名の法人格で新しい事業も始められます。
会社経営における選択と集中ができる
事業譲渡を行うことで、会社経営における事業の選択と集中ができます。事業譲渡は株式譲渡と異なり、事業を切り出して売却できるからです。事業譲渡で得た利益を会社の資金として、残した事業に注力もできます。
不採算事業や非主力事業を切り離し、採算性の高い主力事業に経営資源を集中させる体制構築も可能です。
負債があっても譲渡先が見つかりやすい
株式譲渡は包括承継となるため、売り手が全株式を売却すれば買い手は負債も引き継ぐことになります。しかし、買い手としては、できるだけ負債を引き継ぎたくないと考えるのが普通です。
事業譲渡では、売りたい事業だけを選別し、残したい資産・買い手がほしがらない負債は譲渡対象から外せます。会社全体では負債を抱えている場合でも、譲渡先の見つけやすい事業だけを選別して譲渡が可能です。
株主全員の決議なしでも譲渡可能
株式譲渡の場合、全株式の譲渡には原則株主全員の同意が必要です。反対する株主がいたり所在の分からない、連絡が取れないなど全株主から同意を得ることは難しいことがあります。
事業譲渡は、株主総会の特別決議によって実行することができます。その際、総議決権の過半数を保有する株主が出席し、その出席株主の議決権の2/3以上の賛成を得る必要があります。
また、簡易事業譲渡、略式事業譲渡に当てはまると株主総会の特別決議を省略することができます。
簡易事業譲渡とは、譲渡する資産の帳簿価格が譲渡企業の総資産額の5分の1を超えない場合の事業譲渡を指します。
略式事業譲渡とは、譲受企業が譲渡企業の議決権の90%以上を所有する関係の場合の事業譲渡のことを指します。
買い手(譲受)のメリット
買い手(譲受)側のメリットは、主に以下の3つです。
取得したい資産を選べる
買い手にとって最大のメリットは、取得したい資産を選べることです。事業譲渡の場合、契約時に買い手側と売り手側で何を承継するのか選別できます。そのため、会社にとって必要な資産だけを承継可能です。
負債の承継リスクがない
必要な資産だけを選べるので、事業譲渡の実行時点では知り得なかった偶発債務や簿外債務の承継も回避できます。負債の承継リスクがない点は、事業譲渡の大きなメリットです。
節税効果がある
買い手は、事業譲渡を選択することで節税効果が期待できます。譲受した資産やのれんを償却することで、資金流出のない損失が計上されるため、他の手法と比べると節税効果が大きい点もメリットです。
3. 事業譲渡を選ぶデメリット
事業譲渡にも当然デメリットがあります。ここでは、売り手側と買い手側にはそれぞれどのようなデメリットがあるかを説明します。
売り手(譲渡)側のデメリット | 買い手(譲受)側のデメリット |
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売り手(譲渡)側のデメリット
ここではまず、事業譲渡における売り手(譲渡)側のデメリットを説明します。メリットだけでなく、デメリットも理解できれば、事業譲渡の効果をより高められるはずです。
手続きが煩雑になる
事業譲渡の手続きは、複雑かつ手間がかかります。事業をそのまま承継させるわけではないため、買い手からすると取引先や従業員との契約も1つずつ契約し直さなければなりません。一方、売り手からすると、債権者保護手続きは不要ですが、個別で債権者の同意が必要です。
このように、1つひとつ契約を締結し直す必要があるため、手続きが煩雑になります。
譲渡範囲の決定が難しい
事業譲渡では、譲渡範囲の決定が困難とされています。理由は「何を承継させて、何を承継させないか」細かく決める必要があるためです。売り手は負債も承継してほしいと考えます。しかし、買い手側は、負債や不要な資産は承継したくないと考えるのが当然です。
このように、双方の意見が食い違う可能性が高いため、譲渡範囲の決定が難しくなります。
競業避止義務を負う
事業譲渡した会社は、会社法の規定により、20年間にわたって同一の区市町村や隣接する区市町村で、譲渡事業と同一の事業を行うことが禁じられます。事業譲渡後も同じ事業を行う予定がある場合には、注意が必要です。
譲渡利益に法人税が課される
事業譲渡で譲渡代金を受け取ると、売り手の企業には法人税や住民税などの税金(約34%)が課されます。具体的には事業譲渡の簿価が5000万円、対価が8000万円だった場合、事業譲渡益4000万が計上されます。この4000万円に約34%の税率がかされ納税額は約1360万円程度になります。
ただし、課税対象は、事業譲渡により発生した利益と会社の他の損益を通算した金額です。
売り手に多額の繰越欠損金がある場合や、役員の退職金を損金計上する場合などと同じ年度に行った事業譲渡では、節税も可能です。
買い手(譲受)側のデメリット
事業譲渡における買い手(譲受)側のデメリットを説明します。事業を引き受ける譲受側には、特に3つのデメリットを認識する必要があります。
譲受完了までの手間が大きい
事業譲渡では、譲受対象となる資産・負債について、それぞれの契約を結び直す必要があります。譲渡側の企業が所有する資産に抵当権が付されていたり、担保になっていたりするようなケースでは、特に契約の結び直しに時間が必要です。事業譲渡が完了するまでに大きな手間がかかります。
譲渡対価の支払いに消費税が課される
事業譲渡される資産のなかに消費税課税資産が含まれている場合、消費税が課されます。主な消費税課税資産は、以下のとおりです。
- 建物
- 設備・機械類
- 商標
- 特許権
- ソフトウェア
- 原材料
- 在庫商品
- のれん代
主な消費税非課税資産は以下のとおりです。
- 土地
- 株式
- 小切手
- 売掛金
- 貸付金
消費税は買い手が負担し、税務署への納付は売り手が行います。
資金調達する必要がある
事業譲渡の買い手は、事業を買うために資金を調達する必要があります。事業譲渡の買収資金だけでなく、消費税やその後の運用資金も要するため、先を見据えた資金調達が必要です。
事業譲渡の実施後には、人件費や運営費など継続した資金調達が必要となる可能性もあります。計画的な事業譲渡の実施が重要です。
4. 事業譲渡の実施を検討すべきケース
自社が以下のような状況にある場合は、事業譲渡の実施を検討すべきタイミングと考えられます。
不採算部門があるケース
多角的な事業展開を行っていると、不採算部門が出てしまうことも多いです。そのような場合、事業譲渡を活用すれば、事業の選択と集中を行うことができます。事業譲渡によって不採算事業を切り離し、得た利益を注力したい事業や主軸事業に充てることが可能です。
企業を存続させつつ再建したいケース
中小企業の場合、資金調達が難しいために経営再建が進まないというケースもあります。そのようなケースでは、主力事業や注力したい事業のみを残し、事業譲渡によって運転資金を得る方法が有効です。
事業譲渡では法人格がそのまま残るため、企業を存続させながら再建を目指すことができます。ただし、これは複数事業を手掛けている企業には有効ですが、単一事業企業の場合は用いることができません。
外部企業の力を借りて事業を存続させたいケース
存続させたくてもリソースを十分割けない事業を保有している企業もあります。そのようなケースでは、当該事業を事業譲渡によって他社へ売却すれば、事業の存続が可能です。シナジー効果の見込める相手先へ事業譲渡を行えば、事業の成長や発展にも期待できます。
5. 事業譲渡の手続きを行う方法・流れ
ここでは、実際に売り手側として事業譲渡するときの流れを解説します。事業譲渡をする手続きは、大きく10のステップに分けられます。
①M&Aアドバイザーとの契約
まずは、M&Aアドバイザーとアドバイザリー契約を結びましょう。M&Aアドバイザーは、総合的にM&Aのサポート・アドバイスを担当するコンサルタントです。複雑な手続きを請け負うほか、事業譲渡のリスクまで調べます。安全に事業譲渡を進めるためにも依頼しておきましょう。
M&Aアドバイザーは、具体的なM&A戦略・スケジュールを策定するので、情報漏えいによるトラブルの防止も安心です。
②買い手企業探し
買い手企業探しは、M&Aアドバイザーが行います。M&Aを検討している場合、明確な目的が定まっているはずです。買い手となる企業として、自社の目的を達成できる会社を選ぶ必要があるため、アドバイザーに対して希望条件を伝えましょう。最適な相手が見つかれば、必要な書類を作成して打診します。
打診はアドバイザーが主軸となって動くため、手続きは難しくはありません。売買相手候補から前向きに検討したい旨の意思表示が届いたら、重要な情報のやり取りも含めた交渉に進みます。機密情報をやり取りするため、秘密保持契約を締結して外部へ情報が漏えいしないようにしましょう。
③意向表明・基本合意
秘密保持契約を締結したら、情報を開示して詳細に条件を話し合います。譲受側から意向表明書が提出されることもありますが、これは絶対的なプロセスではありません。意向表明書とは、現段階において譲受側が考えている事業譲渡の条件面の意思表示です。
条件面の交渉はM&Aアドバイザーが行うので、その点は任せておけます。交渉の過程で必ず行われるのがトップ面談です。両社の経営トップが直接、会って話します。お互いの経営方針や事業譲渡の目的、企業風土などを話しつつ、相手の人物像などを見極めましょう。
大筋で条件合意ができたら基本合意書を締結していきます。基本合意書は現段階における合意内容の確認書という位置付けのものなので、法的拘束力を持ちません。まだ事業譲渡が成約したわけではないことを理解しておきましょう。
④デューデリジェンス
基本合意書締結後、デューデリジェンスが行われます。デューデリジェンスとは、買い手側が売り手側に対して行う精密監査です。財務・税務・法務・労務・IT・事業などの各分野に対し、士業などの専門家を起用して細かく調査が行われます。
売り手側としては、資料提出や情報提供、ヒアリングなどの求めに応じて対応が必要です。デューデリジェンスの内容を踏まえて最終交渉が行われ、合意に至れば事業譲渡契約締結へと進みます。
⑤事業譲渡契約の締結
それぞれの会社の取締役会決議で事業譲渡の承認が下りた後は、事業譲渡契約を締結します。事業譲渡契約書には以下の内容が必要です。
- 効力発生日(事業譲渡する日)
- 買い手企業が売り手企業に支払う対価
- 対価の算出方法
そのほか、新役員の選任や株主総会の日時など、双方において必要と判断される内容を盛り込むこともあります。
⑥クロージング
事業譲渡のクロージンのでは買い手へ資産や権利・義務など個別の手続きをし、買い手は買収費用を売り手へ渡すことで完了となります。
6. 事業譲渡の際に必要な手続き
取締役会決議
事業譲渡では取締役会の決議で承認を得て事業譲渡を実施する必要があります。承認を得てからデューデリジェンスや基本合意書の締結などの手続きを実行していきます。事業譲渡に関して納得してもらうため、資料を準備しつつ誠実な説明が重要です。
臨時報告書の提出
有価証券報告書を提出している企業の場合、臨時報告書の提出が必要となる場合があります。以下の条件に当てはまる場合は、臨時報告書の作成と提出が必要であるため注意しましょう。
- 事業譲渡によって純資産額が30%以上増減する場合
- 事業譲渡によって売上高が前年比で10%以上増減することが予想される場合
いずれかの条件に当てはまる場合は、臨時報告書を国に提出してください。
公正取引委員会への届出
国内売上高の合計額が200億円を超えている買い手企業は、公正取引委員会への届出が必要となる場合があります。以下の条件に当てはまる場合、公正取引委員会への届出が必要です。
- 国内での売上が30億円を超えている企業の全事業の買収
- 売り手事業の重要な部分を含み、上記の売上に該当する事業の買収
- 固定資産の全て・売り手事業の重要な部分を含み、固定資産による売上が30億円を超える事業の買収
届出の受理後30日間は事業譲渡を行ってはいけない決まりがあります。ただし、公正取引委員会が認めた場合に限り、禁止期間を短縮可能です。
株主への通知・公告と株主総会の特別決議
株主に対しては、事業譲渡に関する通知・公告をする必要があります。通知・公告は、事業譲渡をする20日前までが期限です。事業譲渡に反対する株主に対しては、株主買取請求を行う機会を与えるために通知・公告を行います。
売り手企業・買い手企業双方の株主総会で、事業譲渡契約の特別決議による承認プロセスが必要です。株主総会による承認は、事業譲渡をする前日までに受けます。特別決議は、議決権の3分の2以上の確保が必要です。反対した株主から株式の買取請求があったときには応じなくてはなりません。
反対株主の株式買取請求手続
事業譲渡に関して反対する意見を持つ株主等は会社に対し公正な価格で株の買取を請求することができます。株式買取請求は効力発生の20日前〜前日までに行使します。
監督官庁による許認可
事業内容によっては監督官庁の許認可がなければ、買い手企業が営業できない事業もあります。許認可が必要な事業を譲り受ける場合、買い手企業が許認可を取得する必要があるため、状況に応じてサポートしましょう。
名義変更の手続き
最後に、財産・債務・権利・契約などを移転するために名義変更手続きを行います。登記が必要な財産や従業員の雇用契約手続きは買い手企業が行いますが、売り手企業でも必要な情報の開示や資料作成が必要です。できるだけスムーズに承継できるよう、準備を進めておきましょう。
7. 事業譲渡で特別決議が必要ない場合
簡易事業譲渡・譲受
簡易事業譲渡・譲受とは、譲渡会社の事業を全部を譲受会社が譲り受ける対価として、交付する財産の帳簿価額が譲受会社の純資産の5分の1以下である小型の事業譲渡のことです。
簡易事業譲渡・譲受の場合、株主総会の特別決議を省略することができます。また、反対株主の株式買収請求権が認められないことに注意が必要です。
略式事業譲渡・譲受
略式事業譲渡・譲受とは、譲渡会社または譲受会社が相手方の議決権を90%以上保有する特別支配会社である場合の事業譲渡のことを指します。
この場合、株主総会の特別決議を省略することができます。また、特別支配株主は反対株主の株式買収請求権が認められていませんが、特別支配株主以外の少数株主には反対株主の株式買収請求権が認められていることに注意が必要です。
8. 事業譲渡の際の注意点
事業譲渡を行う際は以下の点に注意が必要です。スムーズに事業譲渡を進めるためにも事前に把握しておきましょう。
事業譲渡の準備は早めに実施
自社が手掛ける事業のどれを切り出す(売却する)のかを決定しなければなりませんが、それを判断するためには損益計算書や重要業績評価指標の精査が不可欠です。
重要業績評価指標とは目標の達成度や進捗を測るための指標で、KPIや重要達成度指標と呼ばれることもあります。M&Aを進めるうえでは買い手側にとっても重要な判断材料となるため、しっかり整理・確認しておかねばなりません。
M&A手続きを進めてからデータを整理するのでは遅いため、それ以外に資料作成なども必要となるため事業譲渡の準備は早めに着手することが大切です。
契約承継には個別同意が必要
事業譲渡後のスムーズな事業運営には、買い手は対象企業に関する雇用や取引さきなどを契約を引き継ぐ必要があります。株式譲渡を用いた場合は契約は自動的に買い手企業へと承継されますが、事業譲渡は個別承継となるため個々に引継ぎ手続きが必要です。
契約は買い手側企業が取引先や従業員と新たに結びなおすかたちになるため、たとえ売り手企業・買い手企業で合意があっても、個別承認がなければ引き継ぐことはできません。
つまり、取引先や従業員が同意がなければ契約を引き継ぐことができないため、売り手企業は事業譲渡実施前に必要な締約対象者に同意を取っておく必要があります。
誠実な対応
事業譲渡に限らず、M&Aを進めるうえでは誠実な対応が求められます。たとえば、提出したデータに誤りがあった場合など、売り手企業によって不利益になり得るとしても、迅速に買い手へ報告しなければなりません。
このようなものはデューデリジェンスによって後々明るみにでることが大半であり、また、表明保証違反で損害賠償請求を受ける可能性もあります。
M&A実現には売り手企業・買い手企業との信頼関係構築が重要となるため、どのような場面でも誠実に対応することが重要です。
従業員の解雇は労働法に則る
事業譲渡の実行にあたり、やむを得ず従業員の解雇が必要になる事態も起こり得ます。そのような場合は、労働法に則り適切に進めなければなりません。
一部の従業員を解雇するケースでは、告知タイミングや事前説明などが必要であり、これらは労働契約法による定めがあります。トラブルを防止するためにも弁護士など専門家に相談しながら適切に進めることが重要です。
9. 事業譲渡にかかる費用
ここでは、事業譲渡にかかる費用について説明します。
費用名 | 相場 | 負担企業 |
事業譲渡金額(買収費用) | 売り手の企業価値を目安 | 買い手 |
仲介手数料(仲介形式の場合) | 案件規模によって異なる レーマン方式が多い |
買い手・売り手 |
アドバイザリー費用(アドバイザリー形式の場合) | 案件規模によって異なる レーマン方式が多い |
買い手・売り手 |
デューデリジェンス費用 | ~200万円 | 買い手 |
買収費用
一般的に買収費用という場合は、買収対象(売り手企業あるいはその事業)を買うために支払う費用をいいます。対価となるのは現金だけでなく、株式譲渡や事業譲渡などは現金、株式交換や合併など時は売却企業の株式が一般的です。
譲渡金額の算出方法
事業譲渡の譲渡金額を算定する際には、一般的に「譲渡純資産の時価+営業権」と呼ばれる計算式が用いられるのが一般的です。この計算式で導き出される金額は、「事業譲渡における適正価額」と考えられます。譲渡する事業の「時価純資産」に、その事業の収益力を反映する「営業権(のれん代)」を加算します。
これにより「コストアプローチからなるバリュエーション」と「インカムアプローチからなるバリュエーション」をうまく合わせて算出可能です。
簿価純資産価額法 | 会計上の資産から負債額を差し引いて企業価値を計算する方法 |
時価純資産価額法 | 時価評価した資産から時価負債を差し引いて企業価値を計算する方法 |
時価純資産+営業権法 | 時価純資産に、超過収益力である営業権を考慮し、将来の企業価値を加味した計算方法 |
営業権は、事業が生み出す正常利益2~3年分の金額を用いるのが一般的となっています。ただし、対象事業の業界・買い手のニーズ・事業規模・事業の安定性などにより、営業権の算定方式が異なる(事業利益の年数が上下する)ので注意が必要です。
具体例を挙げると、競争環境が厳しく市場が不安定とされる外食業界・建設業界では1.5年分で計算されるケースが多く、参入障壁が高い病院・クリニックや最先端技術を扱える人材を持ったソフトウエア業界では5年分で評価されるケースが多くあります。
仲介手数料・アドバイザリー費
M&Aを行う際は、ファイナンシャルアドバイザリーやM&A仲介会社にサポートを依頼するケースがほとんどです。仲介会社とアドバイザリーの違いはサポートを行う立ち位置で、アドバイザリー形式の場合は売り手側・買い手側のどちらかに就き交渉を進めます。
一方の仲形式は売り手側・買い手側の中間にたち、双方の希望条件を調整しながら交渉を進めていくかたちです。よって、サポートに対する手数料は、アドバイザリー形式の場合はサポートを行った企業(売り手側・買い手側のどちらか)、仲介形式では双方の会社が支払います。
着手金
着手金は、M&Aのサポート業務を仲介会社などの専門家に依頼するときに支払うものです。50~200万円程度であるケースが多いですが、専門家によっても違いがあります。
着手金はM&Aの成否に関係なく支払うものなので、M&Aが不成立になった場合も返還されません。最近では着手金無料のM&A仲介会社も多いので、よく確認してから専門家を選ぶとよいでしょう。
成功報酬
成功報酬はM&A案件が成立した場合に支払う手数料です。最終契約が締結された時点で生じるものであり、もしM&Aが成立しなかった場合は発生しません。
仲介方式・アドバイザリー形式ともに成功報酬の計算体系では「レーマン方式」が採用されているケースが多いです。レーマン方式ではM&Aの取引価格に対して一定の料率をかけて求めます。
以下は一般的なレーマン方式の料率ですが、ベースとなる価格は各社異なるため事前に確認が必要です。
- 5億円以下の場合・・・5%
- 5億円超~10億円以下の場合・・・4%
- 10億円超~50億円以下の場合・・・3%
- 50億円超~100億円以下の場合・・・2%
- 100億円超の場合・・・1%
リテイナーフィー
リテイナーフィーとは、M&A仲介会社がアドバイザリー会社が行う調査や相手先訪問などの業務に対して支払う手数料です。M&Aが成立するまでの一定期間にわたり毎月支払うため案件が長期化するほど金額も当然高くなります。
デューデリジェンス費用
デューデリジェンスは、財務・法務・税務・人事・ITなどの専門家が調査を行うため、その報酬は専門家の工数と時間単価で決まるケースが一般的です。
基本的にデューデリジェンス費用は買い手側企業の負担となり、M&Aが成立しなくてもデューデリジェンスを実施した場合は費用負担が発生します。
10. 事業譲渡にかかる税金
M&Aはビジネスの売買行為であるため、利益は課税対象です。使用スキームによって税金の種類は違いますが、事業譲渡の場合は以下が課税されます。
売り手(譲渡)側の税金
売り手側に発生する税金は法人税です。買い手側の対価支払い時に消費税が発生する場合には、売り手側がそれを預かり、税務署への納付は売り手が行わなければなりません。対価請求時には、消費税分も算出・合算して請求する必要があります。
法人税
事業譲渡で売り手側が支払う税金は法人税です。事業譲渡を行って得た利益額に課税されます。事業譲渡の譲渡利益の計算式は以下のとおりです。
- 事業譲渡の譲渡益=売却金額−譲渡資産の簿価
ただし、法人税は事業譲渡益に個別に課されるものではありません。事業譲渡を行った会計年度における会社のその他の損益全てと通算され、その利益額に対して実効税率約34%の法人税が課されます。
事業譲渡を行った同一年度内に事業譲渡益やその他の利益額を上回る、何らかの損金が発生していて決算が赤字の場合、法人税の課税を受けません。
消費税
売り手企業に消費税を負担する義務はありませんが、買い手企業から消費税を徴収して納めるかたちとなります。消費税「課税対象資産×10%」で算出されますが、譲渡対象には非課税の資産もあるため注意が必要です。
課税・非課税対象となる主な資産には以下があります。
課税対象となる主な資産 | 非課税となる主な資産 |
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買い手(譲受)側の税金
買い手(譲受)側が支払う可能性のある税金は、消費税・不動産取得税・登録免許税です。
消費税
事業譲渡では、譲渡される事業に関連した多くの資産も譲渡されるのが常です。税法上、資産には消費税対象資産があり、事業譲渡において消費税対象資産が含まれていれば、消費税が発生します。消費税に関しては売り手側の税金で解説したとおり、「課税対象資産×10%」で計算されます。
ただし、消費税は買い手が直接納付するのではなく、一般商品と同じように消費税額分を加算した金額を売り手に支払い、消費税を預かった売り手が税務署に納付する仕組みです。買い手は、事業譲渡対価支払い時に消費税分の資金も必要です。
具体的には、
- 事業譲渡対価を1900
- 資産、負債の内訳は以下
資産合計 | 1500 |
---|---|
建物 | 500 |
土地 | 900 |
棚卸資産 | 100 |
負債合計 | 200 |
債権 | 200 |
消費税は建物、棚卸資産、営業権にかかります。
営業権=譲渡対価1900-純資産1300=600
消費税=(建物500+棚卸資産100+営業権600)×消費税率10%=120
となります。
不動産取得税・登録免許税
不動産取得税は、不動産を手に入れたときに支払う税金です。不動産とは、土地や建物を意味します。不動産取得税では、取得した不動産の固定資産税評価額の部分が課税対象です。不動産を取得した場合、所有権を登記する必要があります。
登録免許税とは、登記手続きを行うときに支払う税金です。事業譲渡によって不動産を取得した場合には、不動産取得税の登録と免許税の両方が発生します。
不動産取得税 | 土地 | 3.0% | |
---|---|---|---|
家屋 | 住宅 | 3.0% | |
住宅以外 | 4.0% | ||
登録免許税 | 建物 | 2.0% | |
土地 | 1.5% |
11. 事業譲渡の会計処理
事業譲渡をした場合、譲渡した事業は資産として扱うため、会計処理も適切に行う必要があります。売り手企業と買い手企業に分けて会計処理を解説します。
売り手(譲渡)企業の会計処理
まず、売り手企業の会計処理方法を解説します。事業の株主資本相当額と実際の売却対価との間で差額が発生した場合には、移転損益として扱います。つまり、譲渡益=移転損益となる決まりです。
事業譲渡によって支出が発生した場合は、その事業年度の費用として処理します。以下に、具体的な仕訳の例を示します。前提となる金額は以下の通りです。
- 譲渡資産の帳簿価格:500万円
- 譲渡負債の帳簿価格:200万円
- 付随費用:50万円
- 譲渡価格:400万円
借方 | 貸方 | ||
譲渡資産 | 500万円 | 譲渡負債 | 200万円 |
移転損益 | 100万円 | 現預金 | 400万円 |
現預金 | 50万円 | 付随費用 | 50万円 |
上記のように、譲渡益は移転損益として会計処理をします。
買い手(譲受)企業の会計処理
買い手企業の会計処理では、のれんの加味が必要です。買い手企業の個別財務諸表に、買収した事業の純資産(資産・負債)を時価で入れたうえで、のれんを計上する必要があります。
のれんとは、買収した事業の純資産の時価と取得原価(事業譲渡の対価)の差額です。基本的に買収した事業の資産と負債の時価よりも、取得原価のほうが高い価格となります。
なぜなら、買収した事業のブランド力・ノウハウ・従業員の能力・特許などは純資産に反映されておらず、その分を上乗せして取得原価を決めているためです。のれんは、無形固定資産として計上します。ここからは、以下の前提条件で具体的な仕訳の例を提示します。
- 譲受資産の時価:400万円
- 譲受負債の時価:100万円
- 取得原価:500万円
借方 | 貸方 | ||
譲受資産 | 400万円 | 譲受負債 | 100万円 |
のれん | 200万円 | 取得原価 | 500万円 |
このように、譲受資産から譲受負債・取得原価の差額をのれん代として会計処理します。
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12. 事業譲渡の契約書作成に関する注意点
後々トラブルにならないよう、事業譲渡契約書の作成では以下の点に注意が必要です。
①譲渡範囲
事業譲渡契約書にサインする前に、譲渡範囲が明確であるか確認しましょう。譲渡するのかしないのか不明確な資産・負債があるとトラブルになりかねません。事業譲渡をする場合、対象となる財産には資産・債権・債務が挙げられます。
事業譲渡契約書には、買い手企業に承継する資産・債権・債務を特定する目録を作成することが一般的です。仮に不動産であれば、住所地まで特定します。第三者が見ても「あの不動産のことだ」とわかるような目録を作りましょう。
取引先との契約は、原則として事業譲渡では引き継がれません。引き継ぐためには、取引先の同意が必要です。合わせて注意しましょう。
②従業員の転籍
売り手側の従業員をどのように扱うのか、事業譲渡契約書で明示しましょう。譲渡する事業で働く従業員との雇用契約は、従業員の同意がない限り承継させられません。従業員の処遇は以下の2つのパターンが取られます。
- 1人ひとりから同意を得て、買い手企業へ転籍させる
- 転籍させずに、違う事業部で継続して雇用する
基本的には、事業を運営するために買い手企業へ転籍させるケースが多いです。その場合は、転籍後の処遇をきちんと定める必要があります。
③免責登記
事業譲渡では、商号継続時の免責登記をするのかしないのかも明確にしましょう。商号継続時の免責登記は、売り手企業の持つ未払い債務の責任を免除するときに必要です。
原則として、買い手企業が商号や屋号を承継する場合、事業譲渡前の未払い債務の責任を負うことが会社法上で定められています。なぜなら、事業譲渡がされたことで、取引先に不利益が被らないようにするためです。
買い手企業には、事業譲渡前に発生した債務の弁済責任が発生します。しかし、商号続用時に免責登記をすれば、買い手企業は事業譲渡前に発生した債務の弁済責任は必要ありません。事業譲渡契約に免責登記が記載されている場合、しっかりと検討しましょう。
13. 事業譲渡の成功事例
ここでは、実際に行われたまたは発表された事業譲渡の事例を紹介します。
①FPGによるデジタルプラスへの事業譲渡
2023年5月、FPGはデジタルプラス子会社のデジタルフィンテックへ、給与前払いサービス「Q給」を譲渡すると発表しました。事業譲受日は2023年6月1日の予定です。
FPGは、不動産ファンド事業・保険事業・リースファンド事業・M&A事業を手掛けています。デジタルプラスはフィンテック事業とGAFAメディア事業を行う企業です。さまざまなインターネットサービスを展開しており、フィンテック事業をグループの主軸としています。
本譲受の主な目的は、デジタルギフトにおけるサービス領域拡充と流通総額拡大です。また、将来的には報酬デジタル払いへ参入する狙いもあるとみられます。
②プロレド・パートナーズによるNTTデータイントラマートへの事業譲渡
2023年4月、プロレド・パートナーズはNTTデータイントラマートへプロサインBSM事業を譲渡すると発表しました。事業譲渡価額は2億2000万円です。NTTデータイントラマートは、Webシステム構築用アプリプラットフォーム「intra-mart」の開発・販売を主軸としています。
譲渡側のプロレド・パートナーズは、経営コンサルティング会社です。今回譲渡するプロサインBSM事業では、企業の支払いデータの分析や請求書のデータ化など、コスト最適化を目的としたクラウドサービスを提供しています。
NTTデータイントラマートは、顧客ニーズの多様化へ対応することで事業拡大が図れると判断し、本M&Aに至りました。なお、事業譲渡の実行期日は2023年5月31日です。
③アロイ金属工業によるアロイテクノロジーへの事業譲渡
2022年3月、アロイ金属工業からアロイテクノロジーへの事業譲渡が、アロイテクノロジーの親会社である鶴見製作所から発表されました。譲渡された事業は、各種ポンプ部材を主としたステンレス鋼・高クロム鋳鉄の製造・販売事業です。譲渡価額は公表されていません。
アロイ金属工業は、各種ポンプ部品など・各種ステンレス鋼・高クロム鋳鉄製品の製造(加工)・販売を行っています。アロイテクノロジーは、各種ポンプ部品など・各種ステンレス鋼・高クロム鋳鉄製品の製造(鋳造・加工)・販売を行っている企業です。
鶴見製作所としては、グループとして同業他社との差別化を図り競争力を上げるため、アロイテクノロジーに事業譲受させました。
④エスエスディーによるタカショーデジテックへの事業譲渡
2022年3月、エスエスディーはイルミネーション関連事業をタカショーデジテックへ譲渡しました。譲渡価額は公表されていません。
エスエスディーは、中古自動車の買取・販売、新車販売、レンタカー事業、イルミネーション製造・販売、イベント企画・提案、食品原材料販売、食品包装資材販売、健康食品の企画提案・依受託、各種安全性試験の受託などを行っています。
タカショーデジテックは、LED製品・各種照明の開発・企画・製造・販売、 寝装品・インテリア商品のデザイン・販売などを行っている企業です。事業規模や取引先の拡大など大きなシナジー効果が見込めると判断して事業譲受を決めています。
⑤Backpackers Productionによる絆家への事業譲渡
2022年3月、Backpackers Productionは多拠点生活プラットフォームサービス「Backpackers Home」事業を絆家へ譲渡しました。譲渡価額は公表されていません。
絆家は、東京・大阪を中心に全11棟350人の体験型コンセプトシェアハウス「絆家」を運営しています。絆家としては沖縄・福岡・広島・大阪・京都・長野・東京・北海道などの9拠点を得て、さらなる事業展開を進める考えです。
⑥宮崎交通による宮崎トヨタ自動車への事業譲渡
2021年7月、宮崎交通はオーシャンブルースマートと共同で運営するシェアサイクル「PiPPA」の事業を宮崎トヨタ自動車に譲渡しました。宮崎交通はコア事業に経営資源を集中させる事業改革に取り組んでおり、その改革の1つが「PiPPA」事業の売却です。
宮崎トヨタ自動車がすでにカーシェア事業を行っていることや、MaaS実証実験で宮崎交通と連携していたことなどを理由に譲渡を決めています。
⑦M&Aファーストによるauc-oneへの事業譲渡
2021年2月、M&AファーストはVODメディア「バラエティ&ドラマ見逃し動画辞典」事業をauc-oneに譲渡しました。
買収の経緯は、新型コロナウイルスの流行による外出自粛の長期化から、今後、動画配信需要が増えるとauc-oneが見越したためです。
⑧peekabooによるアイラッシュガレージへの事業譲渡
2021年1月、peekabooがアイラッシュ専門メディア「Beaute(ボーテ)」事業をアイラッシュガレージに譲渡しました。アイラッシュガレージは、「Beaute」の専門性はそのままに、自社や親会社のビューティガレージの顧客基盤を生かした相乗効果を期待し買収しています。
14. 事業譲渡とその他のM&Aスキーム(手法)の違い
M&Aには事業譲渡以外にもさまざまなスキーム(手法)があります。それぞれ違った特徴があるため、M&A実施時は目的にあった手法(スキーム)を選ぶことが重要です。
事業譲渡と株式譲渡の違い
株式譲渡とは、売り手企業の株主が保有する株式を譲渡することをいいます。買い手側企業が株式の過半数以上を取得すれば、売り手企業の経営権掌握が可能です。
過半数の株式を譲渡した場合はM&A後に売却側企業は買い手側企業の子会社となり、全株式を譲渡した場合は完全子会社となります。事業承継目的など会社自体を売却する場合は全株式を譲渡するかたちとなり、中小企業のM&Aにおいては全株式を譲渡するかたちが多いです。
事業譲渡との違いは「譲渡対象」であり、株式譲渡は株式、事業譲渡の場合は企業が行っている事業が対象になります。また、株式譲渡の場合は権利・義務や資産・負債がそのまま買い手企業へ引き継がれますが、事業譲渡の場合は個別に承継するかたちです。
事例で見る事業譲渡が選ばれやすい場合
事業譲渡は会社法上の組織再編行為には該当しないため、会社法で規定されている債権者保護手続きは不要です。そのため、経営破たん寸前の企業や負債超過状態となった企業などが、一時的な資金確保のために事業譲渡を選択するケースが多くみられます。
事業を別の会社に移す時、その会社にお金や機器を貸している債権者の立場はどうなるのでしょうか。合併のような場合、法律では、この債権者に対して「もし合併に反対なら声を上げてほしい」という通知をしなければなりません。
反対する債権者には返済や保証などの対応を取るルールが定められています。しかし、事業を単純に移すだけの場合、このような手続きは不要です。借金や貸し付けの関係を新しい会社に引き継ぐには、普通の手続きと、お金を貸している側の同意だけが必要です。
事例で見る株式譲渡が選ばれやすい場合
株式譲渡は経営権の移転を伴うため、中小企業の場合は事業承継や自社の成長・発展を目的として全株式を売却するケースが多いです。
株式が移転するためM&A後は買い手側企業の意向に沿って事業を進めていくことになります。法人格はなくなりますが、自社は存続し事業継続が可能です。
【関連】会社売却のメリットとデメリット!相場や流れ・成功へのポイントを徹底解説
事業譲渡と会社分割の違い
会社分割とは、企業が保有する事業の全部あるいは一部を切り離して別会社へ移転する方法です。事業が切り離し対象となる点では事業所と似ていますが、事業譲渡が個別承継であるのに対し会社分割は原則として包括承継となります。
吸収分割と新設分割の大きく2種類があり、両者の違いは承継する会社が既存会社か新設会社かという点です。どちらも組織再編の手法であり、吸収分割では分割対象となる事業における権利義務の全部あるいは一部を既存の別会社へ承継させ、新設分割では新たに設立した会社が引き継ぎます。
対価にも違いがあり、事業譲渡の対価は現金ですが、会社分割は自社株式の交付するのが一般的です。また、会社分割が適格組織再編の要件を満たす場合は、法人税上の優遇措置が受けられます。
【関連】会社分割とは?吸収分割・新設分割を図解でわかりやすく解説
事業譲渡と事業承継の違い
事業承継とは、現経営者が経営する企業・事業を後継者へ引き継ぐことをいいます。事業承継はM&Aスキーム名ではなく、行為を表す言葉です。
第三者へ事業を引き継ぐという意味では共通する部分もありますが、事業承継目的でM&Aを行う場合株式譲渡を用いるのが一般的であり、その場合は自社の発行済み株式をすべて他社へ引き継ぎ経営権を移転します。
【関連】事業承継M&Aとは?M&Aと事業承継の違い・メリットや流れを解説
15. 事業譲渡のまとめ
事業譲渡とは、特定事業のみを売買する行為です。事業譲渡には多くのメリットがある一方、その手続きは煩雑であり注意すべき点もあります。
事業譲渡をスムーズに進めていくためには計画策定など早めの準備が不可欠です。効率よく進めていくためにもM&Aの専門家へ早めに相談することをおすすめします。
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