2025年11月14日更新
会社の身売りとは?M&Aとの違いやメリット・デメリットを徹底解説!社員の処遇や手続きについても紹介
会社の身売りは、後継者不在や事業成長の手段として注目されています。かつてのネガティブな印象は薄れ、M&Aの一環として前向きに検討されるようになりました。本記事では、会社を身売りする目的やメリット、社員の処遇、注意点までわかりやすく解説します。
目次
1. 会社の身売りとは?
会社の身売りとは、経営者が自身の会社を第三者に売却することを指す言葉です。一般的には、M&A(企業の合併・買収)における会社売却とほぼ同じ意味で使われます。後継者不在の問題解決や事業のさらなる成長などを目指して行われ、本記事ではその目的やメリット、注意点などを詳しく解説します。
2. 身売りとM&A(会社売却)の違いは?
結論から言うと、会社の身売りとM&A(会社売却)は、どちらも「会社を第三者に売却する」という行為を指すため、本質的な意味は同じです。
「身売り」という言葉には、かつての敵対的買収や経営不振による売却といったネガティブな響きがありました。しかし現代では、後継者問題の解決や企業の成長戦略としてM&Aが積極的に活用されており、会社売却は前向きな経営判断と捉えられています。そのため、実態に合わせて「M&A」や「事業承継」という言葉が使われることが一般的です。
実際に、M&Aの件数は高水準で推移しています。株式会社レコフデータの調査によると、2024年の日本企業のM&A件数は4,700件に達し、2023年(4,015件)や2022年(4,304件)を上回り過去最多を更新しました。特に後継者不在に悩む中小企業の事業承継を目的としたM&Aは増加傾向にあり、この流れは2025年以降も続くと見られています。
3. 会社が身売りを選択する主な目的・理由
本章では、会社の身売りが行われる目的を解説します。
社員・技術・顧客の維持
会社の身売りは、社員・技術・顧客を維持するために行われます。中小企業の多くの経営者は後継者が見つからず、引退する時期が近づいている状況です。
経営者の体調が悪くなったり万が一のことがあったりして廃業せざるを得なくなれば、従業員は路頭に迷いかねません。取引先に迷惑をかけることもあるでしょう。今までに培った技術を失うことも、社会的な損失といえます。
会社の身売りを行えば、社員・技術・顧客をそのまま引き継ぐことが可能です。社員・技術・顧客を維持するために会社の身売りを行う中小企業は特に多いといえます。
引退費用の削減
廃業コストを回避する目的もあります。会社を廃業する場合、在庫処分や設備の解体、登記手続きなどで多額の費用と手間がかかります。また、会社の資産を清算しても、想定より低い価格でしか売却できず、借入金の返済後に手元資金が残らないケースも少なくありません。
一方、会社を身売りすれば、これらの廃業コストがかからないだけでなく、会社の価値(のれん代含む)を評価した売却益を得られる可能性があります。
創業者利益の獲得
創業者利益の獲得も、会社の身売りが行われる目的の1つです。創業者利益の獲得とは、会社の純資産よりも高額で会社売却を行うことにより経営者が得る利益をいいます。
譲渡価格は会社の経営状態・事業内容・技術力・ブランド力などを考慮し、買収側との交渉で決まるので、必ずしも創業者利益を獲得できるとは限りません。とはいえ、会社の身売り(第三者への事業承継)で創業者利益を得たケースは多いです。
4. 会社を身売りする経営者側のメリット
会社を身売りすると社長にどのようなメリットが発生するのでしょうか。ここでは、会社売却による社長のメリットを、以下の6項目に焦点を当てて紹介します。
- 株主に利益がある
- 経営者としてたたえられる
- 事業承継ができる
- 保証や債務から解放される
- 新しいことが始められる
- シナジー効果が生まれる
①株主に利益がある
M&Aなどにより会社を身売りした場合の大きなメリットの1つに、株主に利益をもたらすことが挙げられます。大企業の場合は株主が多岐にわたりますが、中小企業では社長自身が株主であることがほとんどです。
つまり、社長自身が会社売却により株主として利益を得られます。これが「会社の身売り」における大きなメリットです。
②経営者としてたたえられる
会社の身売りにはそれほど良いイメージがありませんが、最近はM&Aによる会社売却が多くなり、M&Aによる会社売却は社員や元従業員から称賛を浴びることもあります。ベンチャー企業では、最終目標の1つをM&Aによる会社売却とすることがあるためです。
実際に、Appleコンビューターの元CEOでもあるスティーブ・ジョブズは、自身が起業した会社をAppleに売却して成功を収めています。
現在ではGoogleのサービスの1つであるYouTubeも、もともとはベンチャー企業でした。M&Aによる会社売却を成功とみなす状況は増えています。
③事業承継ができる
社長の悩みに後継者問題があります。親族や社員など従業員の中に後継者にふさわしい人材がいない場合はなおさらです。後継者問題も、M&Aによる会社売却で解決を迎えられます。
事業承継がもたらすメリットは社長だけではなく、社員や元従業員まで及びます。事業承継は会社の大きな問題で、この問題を解決できる点は非常に大きなメリットです。
④保証や債務から解放される
多くの場合、会社売却により保証や債務も引き継ぐことが可能です。会社売却を行うことで社長は現在までどうしても切り離せなかった保証や債務から解放されます。精神的にも非常に安心をもたらす大きなメリットです。
⑤新しいことが始められる
今まで業務に追われて、思い立っても行えなかったことを始められる点も、M&Aによる会社売却のメリットです。新たな事業を立ち上げられるほか、今まで行きたかった場所に行けるなどプライベートでの新たな展開も可能となります。
⑥シナジー効果が生まれる
買い手企業の経営資源(技術、販路、ブランド力など)と自社の強みが組み合わさることで、シナジー効果(相乗効果)が期待できます。例えば、自社の優れた製品を買い手企業の販売網に乗せることで売上が拡大したり、両社の技術を融合して新製品を開発したりするなど、単独では実現できなかった事業成長が見込めます。これは会社、従業員、取引先すべてにとって大きなメリットです。
⑦廃業費用が求められない
会社を廃業させる場合、さまざまな費用がかかります。例えば、会社のものを売る費用や、専門家に頼んだときの料金などです。でも、会社を他の人に売ってしまえば、これらの費用はかからないうえに、資金がもらえることもあります。
なので、会社を終わらせるのにお金がかかりすぎるなら、他の人に会社を売って、そのまま続けてもらう方法も考えられます。
5. 会社を身売りする際のデメリット・注意点
会社の身売りによるデメリットは、どのようなものがあるのでしょうか。以下の項目に焦点を当てて紹介します。
- 周囲からネガティブな反応を受ける可能性がある
- 競業避止義務の発生
- 契約によっては拘束がある
- 債務が残る可能性がある
①周囲からネガティブな反応を受ける可能性がある
メリットの部分でも触れましたが、最近では会社売却が成功とみなされるケースが増えています。しかし、これは主にベンチャー企業に当てはまる話です。伝統的な企業の場合、会社売却は社員や元従業員から、「能力の低い経営者」といった非難を浴びる可能性があります。
②競業避止義務の発生
会社売却を行った場合、会社法により同業種の事業を一定期間行ってはならない規則があります。社会状況が変わり、売却した事業に大きな需要が見込まれた場合でも、同事業を行えません。
③契約によっては拘束がある
事業売却の契約条件によっては、一定期間にわたり経営者は会社に残る義務が発生します。拘束の条件は売却時の条件に含まれるため、条件により拘束期間や立場もそれぞれです。
④債務が残る可能性がある
会社の売却手法によっては、経営者個人の債務が残る可能性があります。特に、事業譲渡という手法を用いた場合、会社自体は手元に残るため、会社が抱える借入金(特に経営者が個人保証しているもの)は売却対象とならないのが一般的です。契約内容を十分に確認し、個人保証の解除などを交渉する必要があります。
6. 会社の身売りで用いられる代表的なM&Aスキーム
会社の身売りで用いられるM&Aの手法(スキーム)はいくつかあり、それぞれに特徴があります。代表的な3つの手法を解説します。
株式譲渡
株式譲渡は、売り手企業の株主が保有する株式を買い手企業に売却することで、経営権を移転させる手法です。中小企業のM&Aで最も多く用いられています。手続きが比較的シンプルで、会社を丸ごと引き継ぐため、事業や従業員、取引先との契約関係をそのまま維持できるのがメリットです。
事業譲渡
事業譲渡は、会社の事業の一部または全部を買い手企業に売却する手法です。売り手企業は、特定の事業だけを切り離して売却したり、不採算事業を整理したりできます。買い手企業は、必要な事業や資産だけを選んで買収できるのがメリットです。ただし、従業員や取引先との契約は個別に再契約が必要になるなど、手続きが煩雑になる側面もあります。
会社分割
会社分割は、会社が営む事業の一部または全部を分割し、新しく設立した会社または既存の会社に承継させる手法です。特定の事業を切り出して別会社化し、その会社の株式を売却することでM&Aが成立します。複数の事業を持つ企業が、中核事業に集中するためにノンコア事業を切り離す際などに活用されます。
7. 会社の身売りを成功させるためのポイント
ここでは、会社の身売りをスムーズに行うポイントを解説します。
取引条件・自社の強みを検討する
会社を売却する前に、取引条件や自社の強みをしっかりと検討しまとめることがスムーズに行うポイントです。どのような相手・どのような条件で会社売却を行いたいのか、自社の評価してもらいたい部分などがはっきりしなければ、適切な相手と出会うのは難しいといえます。
「技術を引き継いでもらいたい」「従業員の雇用を守ってほしい」など、具体的な条件を明確にします。「営業力に強い会社を求める」などの相手を選ぶ基準や、「大手との取引実績がある」など自社の強みもまとめましょう。
相手先企業を念入りに選ぶ
相手先企業を念入りに選ぶことも、会社の身売りをスムーズに行うために欠かせません。このポイントを怠ると、「従業員の雇用を守るといったのに数カ月後に従業員が解雇された」「新規顧客獲得ばかりを行い既存顧客をないがしろにする」などの問題が生じることがあります。
文化が合わずに社員が退職したり、雇用条件が悪化して退職につながったりすることもあります。相手先企業の基盤、経営理念・文化、雇用条件は維持されるのかなどを確認し、慎重に選んでください。
社員に対して丁寧な説明を心がける
会社の身売りを行う際、社員に対して丁寧な説明を心がけることも重要です。M&Aに失敗したケースでは、社員のモチベーションが低下して、退職につながったり生産性が下がったりするケースが多く見られます。
身売りを行う理由、身売りにより社員に生じるメリットやデメリットの有無などを丁寧に説明しなければなりません。買収側の経営者とともに、譲渡日に会社説明や質疑応答を行うケースも多いでしょう。
ただし、社員に早く説明してしまったために失敗することもあります。社員が不安になって辞めたり、外部に情報が漏れたりしかねません。社員に説明するタイミングは、譲渡を行うのが確定した後が望ましいです。
社員への影響を考慮した契約書を締結する
会社を身売りした場合でも社員の雇用は維持され、会社に残るのが一般的です。社員の雇用や条件などの維持は、契約交渉の中で担保できるよう交渉しておかなければなりません。雇用や条件を維持できなければ、社員が会社を退職してしまうおそれがあります。
これまで自社でがんばってきてくれた社員を守れなければ、経営者としての恩返しも実現しません。契約書の中でしっかりと社員を守れるように交渉し、締結することが大切です。
信頼できる専門家にサポートを依頼する
会社の身売りでは、M&Aの専門知識や経験が求められます。一般的に買収側はM&Aに慣れているケースが多く、売却側が不利になってしまいやすいです。
経験豊富で信頼できるM&Aアドバイザーを見つけて相談すると、失敗を避けつつ会社の身売りを進められます。M&Aアドバイザーと契約を締結し、適宜アドバイスを受けることで、会社の身売りを成功に導きましょう。
8. 会社を身売りした際の社員への影響
会社を身売りした場合、社員はどういった状況になるのでしょうか。以下の項目を解説します。
- 確実な雇用が約束される
- 給与や待遇面が維持される
- 役員への待遇が改善されることがある
①確実な雇用が約束される
会社の売却は社員にも多くのメリットをもたらします。その中でも雇用の安定は、非常に重要なポイントです。従業員にとって雇用の保障は非常に大きな意味を持ち、それを約束するのが経営者の重要な役割です。
雇用が維持される理由
今まで不安定な経営状況だった会社が身売りを行うことで、大企業の傘下に入るケースを想定します。この場合、社員の雇用状況がままならなかった状態から改善が見込まれます。
②給与や待遇面が維持される
雇用の安定に合わせて従業員の給与や待遇も、基本的には維持されます。場合によっては給与面で上昇が見込める従業員もいます。給与や待遇面の維持は従業員にとって大きなメリットです。
待遇が維持される理由
雇用の継続と同じく、より大きな資本に身を委ねるため、従業員の給与や待遇は向上する可能性が大いにあります。大手企業に売却されると、現在の働き方改革推進の流れによって待遇面の処遇が改善される可能性が高いでしょう。
③役員への待遇が改善されることがある
役員への待遇も大きく変わる場合があります。場合によっては、社員が役員に昇格することもあります。待遇の改善は社員や役員など会社に関わるすべての従業員にメリットをもたらす可能性が高いでしょう。
身売り前に事前合意の必要性
役員の処遇は社員などとは違い、身売りを行う際にしっかりと決めなければなりません。身売りの前に、待遇に関して合意を行うことが重要です。
9. 会社を身売りする際の社員対応のポイント
会社の身売りを行うことで、社員は精神的不安を感じます。しかし、報酬面や買収先のブランド力などにおけるメリットを感じられれば、身売りを前向きに捉えてくれる可能性が高いです。
ただし、会社の身売りをきっかけとして退職を選ぶ社員が出ることもあります。社員が不満などをいわなくなったり、今後の待遇を何度も聞いてきたり、有給休暇を消化し始めたりする場合は、退職を考えているケースが多いでしょう。
会社を身売りするメリットを社員に説明しても、退職を選ぶ社員をゼロにすることは難しいです。しかし、従業員の事情や不安に寄り添えば、退職する従業員を減らすことにつながります。
10. 会社の身売りを行う際に現社員を守るには?
身売りを行う場合、売却側と買収側で契約書を交わします。その契約書で、社員の待遇を確約させるよう心がけることが重要です。
社長は、会社の身売りにあたって、社員を守りたいと思うのが自然です。どういった方法で社員を守れるのか解説します。
事業譲渡では待遇が悪くなるケースもあるので注意
事業譲渡を行うと、最悪のケースでは社員の待遇が悪化することがあります。こうした事態を招かないよう、しっかりと契約書を交わすことが大切です。
身売りではなく子会社を立ち上げる
身売りではなく子会社を立ち上げる方法も、社員を守る方法の1つです。子会社としてM&Aを行い、社員の雇用を継続させることで社員を守れます。
11. 会社を身売りした際の取引先への影響
従業員の雇用と同様に、取引先との契約も条件交渉の一環として引き継がれることが一般的です。売却直後に取引が終了したり、契約を結び直したりする必要は通常ありません。
ただし、統合手続き(PMI)の間に体制やシステムの統合などの影響で業務に支障が出ることがあります。このような事態を防ぐためには、取引先に早期に丁寧な説明を行い、譲受け企業と外部の専門家によるPMIサポートを検討することが重要です。
12. 会社の身売りを行う流れ
会社の身売りを行う際は、大まかに以下の流れで進められます。
- 売却の検討~M&A仲介会社の選択
- 候補企業とのマッチング~検討
- 面談~基本合意契約の締結~デューデリジェンス
- 最終条件の調整~M&Aの実行
まずは、「なぜ第三者に売却するのか」や「売却によって得たいものは何か」を初期の段階で明確にしておく必要があります。
会社売却の目的は企業ごとに異なり、目的に応じて最適なスキームも異なります。そのため、初期段階で目的を明確にしておくことが非常に重要です。
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14. 会社の身売りまとめ
会社の身売りに関して解説しました。社長には利益など、社員には安定的雇用などをもたらす会社の身売りですが、デメリットも多くあります。デメリットに対してしっかりとフォローを行いながら、身売りを進めることが重要です。
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