2024年06月24日更新
会社買収とは?方法や仕組み・メリットやデメリット・成功事例を徹底解説【2024年最新版】
会社買収とは企業が他の会社を買い取ることをさしますが、そのメリット・デメリットはどのようなものでしょうか。この記事では、会社買収の仕組み、メリット・デメリットを徹底解説します。会社合併との仕組みにおける違いなどにも触れています。
目次
1. 会社買収とは
会社買収とは、自社以外の他企業を支配する目的で発行済みの株式を過半数以上買い取ることです。
一般的に、株式会社の普通決議による決定事項は、株式における過半数の議決権を持つ株主が自由に決定できるため、M&A買収では通常、過半数以上の株式の取得を目指します。
企業が他企業の議決権を有する3分の2以上における株式を獲得した場合は、特別決議による定款変更や組織再編の承認など、経営権の支配も可能です。
買収では、買収側が発行する株式(株式交換)を対価として用いることもありますが、ほとんどのケースでは金銭を利用します。
会社合併との違い
会社買収と混同されやすい手法に会社合併がありますが、この2つには以下の違いがあります。
- 会社買収:自社以外の他企業を買収する
- 会社合併:2つ以上の会社が統合する
会社買収の場合、買収される側の会社は消滅しません。子会社・グループ会社として存続し、買収側の傘下に入ります。会社合併の場合は、売却側の会社が消滅し一つの法人格を持ちます。資産・負債・権利や義務などの全てを承継します。
会社合併は、新設合併・吸収合併の2つに分類されます。
- 新設合併:片方の企業が解散し、その権利義務を新しく設立する企業が承継する方法
- 吸収合併:片方の企業が解散し、その権利義務をもう片方の企業が承継する方法
M&Aと違いはあるか
M&Aは、Mergers and Acquisitionsの略で、訳すと「合併と買収」です。M&Aと会社買収は、広義の意味で考えると同じ意味合いなのがわかります。
狭義の意味で考えると、上述の通りM&Aとは会社買収だけでなく合併も含めてM&Aであるため、単に会社買収とM&Aを比較した場合、全く同じ意味合いにはならないことも覚えておきましょう。
個人でも会社は買収できる
個人によって小さな会社の買収をされることもあり、これを「スモールM&A」と言います。会社の売買を手伝ってくれる仲介会社を使うことが多いですが、一般的な人が買収する場合、使うお金はあまり多くありません。
小さな会社が、後を継ぐ人がいない場合や規模をもっと大きくしたいときに、この方法を考えることが増えています。特にレストランや塾、美容サロン、介護、インターネットのサービスなどの業種で、スモールM&Aはよく実施されています。
また、近年では、個人が起業のために会社を買うケースが増えています。特に、定年退職後に働きたいという理由で会社を買って起業する人もいます。
会社を買うことで、ゼロから事業を立ち上げる必要がなくなるため、開業資金を抑えることができます。また、既に運営されている事業をそのまま引き継げるため、事業が安定しやすくなります。
2. 会社買収・M&Aの現状
日本企業の会社買収は、年々増加傾向にあります。主な理由としては以下の4つが挙げられます。
- 後継者不足
- 人材不足
- 業界再編
- 事業の成長加速化
日本の中小企業では、経営者が高齢化しており、後継者がいないという理由から廃業を選択する経営者が増加していることが問題視されていました。
この問題を解決するべく、近年では、中小企業向けに事業承継のサポートを行う公的機関や事業承継税制などの制度が充実してきており、事業承継による後継者問題の解決が図られています。
また、人口減少に伴い、労働人口が減少していることから、労働者が確保できないという理由で会社買収を行い、従業員を確保しようとする動きも顕著に見られています。
一方、日本の大規模企業の間では、業界における自社のシェアの拡大や事業成長の加速化を目的とした買収が増加しています。
例えば、製薬業界では、特許切れに際したジェネリック薬品の普及や、新薬開発の難易度の上昇・開発コストの膨大化の影響を受け、以前と比較すると利益を産み出しにくい状態となっており、大手企業を中心に、ノウハウ・優秀な人員の獲得し、業界内でのシェアを拡大することを目的とした会社買収が増加しています。
他にも運送業界、介護業界を中心に、市場が成長期から成熟期へ移行していることを背景に、業界シェア上位の企業によるシェア拡大を目的とした買収が増加しています。
また、従来、日本では、買収に対してネガティブなイメージを持たれることが多く、積極的に買収を行う動きは見られていませんでした。しかし、欧米圏では買収が活発に行われていることや技術革新が飛躍的に進んでいることを受け、日本でもノウハウの獲得や新規市場への参入、顧客基盤の拡大による事業成長の加速化を目的とした会社買収が増加しています。
さらに、日本市場の成熟に伴って、新興国などの海外市場への参入を目的とした「クロスボーダーM&A」も活発化しています。
3. 会社買収の主なメリット
企業が会社買収を行う目的には、どのようなものがあるのでしょうか。会社買収を行う主な目的(メリット)は、以下の3つが挙げられます。
- 事業の拡大や注力事業の強化
- 多角化によるリスクヘッジ
- 節税対策
①事業の拡大や注力事業の強化
1つ目の目的は、事業の拡大・注力事業の強化です。会社買収を行うことで、買収先の技術や従業員、顧客基盤を獲得できます。
一から事業を立ち上げるのとは違い、ノウハウや営業の基盤・販路、設備が整った状態で新規市場に参入することができるため、リスクを抑えながら新規市場への参入を実現することができるだけでなく、既存事業の生産体制の増強やシナジー効果の創出により、顧客基盤の拡大にもつながると考えられます。
また、従業員をそのまま受け継ぐことができるため、新たに人材を採用・育成するコストも削減でき、より多くの買収後の事業を成長させるための投資資金を確保することが可能です。
②多角化によるリスクヘッジ
多角化によるリスクヘッジのために、買収を実施するケースもよく見られます。多角化とは、主要事業と関連性の低い事業を立ち上げる経営戦略のことです。
多角化戦略では、例えば、1事業の収益性が低下しても別事業で利益を得て、全体の業績悪化を防ぐ効果を見込みます。多角化によるリスクヘッジが目的のケースでは、自社の事業と関連性が低い事業を買収します。
③節税対策
3つ目の目的は、会社買収による節税対策です。例えば、業績不振で赤字となった会社には、法人税が課されません。
赤字損失は、繰越欠損金として翌年から黒字と7年間通算できます。赤字会社の買収によって繰越欠損金と通算して黒字を抑えられるため税金を節税できるでしょう。
2018(平成30)年4月1日以降に開始する事業は、生じた欠損金の繰越可能期間は10年間に変更となり、欠損金が発生した翌年度以降に利益が出た場合はマイナスを相殺できるようになりました。
4. 会社買収のデメリット(リスク)
会社買収をする際の主なデメリット(リスク)には、以下の4つが挙げられます。
- 統合プロセスの失敗
- 簿外債務などの発覚
- 優秀な人材の退職
- 期待したシナジー効果が得られない
統合プロセスの失敗
買収側におけるデメリットの1つ目は、会社買収を行った後に計画していた統合プロセスを十分に実行できず、M&Aが失敗に終わる可能性です。
通常は、買収成約前に統合プロセスを計画し、それを実行に移します。しかし、統合プロセスの計画が不十分などの理由により、統合後にスムーズな運営ができないケースもあります。
従業員や取引先などに混乱が生じ、経営が成り立たなくなるケースもあるため、会社買収を行う前は入念な統合プロセスにおける計画・仕組みの形成・準備を行いましょう。
簿外債務などの発覚
2つ目のデメリットは、買収後に簿外債務などが発覚するケースです。会社買収を行う際は、買収先の経営状態を把握してから買収を行うのが一般的です。
しかし、経営・財務状態を把握したつもりでも、買収後に簿外債務などが発覚し、思わぬ負債を抱えてしまうケースもあります。
簿外債務などの発覚により統合後の会社運営に悪影響を与えないように、入念にデューデリジェンスを行うことが重要です。
優秀な人材の退職
3つ目のデメリットは、優秀な人材が退職してしまうことです。会社買収後における経営方針の変更や、統合後の人間関係悪化などで、優秀な人材の流出につながるケースもあります。
会社運営を行ううえで優秀な人材の退職は大きな痛手です。買収後に従業員の不満を募らせないよう、従業員の十分な理解を得られる統合後の経営方針を策定しましょう。
期待したシナジー効果が得られない
4つ目のデメリットは、会社買収後に計画どおりに会社運営ができず、期待したシナジー効果が得られないことです。
シナジー効果を期待しすぎた結果、思った利益を上げられずに、会社買収時の費用対効果が低くなるケースも少なくありません。
十分なシナジー効果を期待して会社買収を行うケースが多いものの、シナジー効果を過度に期待しすぎないことも統合後の運営には必要です。
5. 会社買収の仕組み
ここでは、会社買収の仕組みを見ていきましょう。会社買収にはさまざまな仕組みや方法があります。株式取得・事業譲渡・会社分割などの手法、議決権の保有確率による違い、会社買収の種類・防衛策、税務処理について解説します。
会社買収の手法・スキーム
会社買収とは、企業が発行する株式の過半数を取得し、会社の経営権を得ることで子会社化またはグループ化を行うことです。会社買収の手法は、その仕組みから株式取得・会社分割などに分類されます。ここでは、それらの仕組みを見ていきましょう。
株式取得
株式取得は、相手先企業の株式取得によって買収を行う仕組みです。株式取得には、株式譲渡・新株引受・株式交換などの方法があります。株式取得では、買収先企業との経営権における掌握が簡単になることや後継者問題の解決など、複数のメリットがあります。
会社分割
会社分割とは、分割会社(既存の会社)をその他の既存会社(承継会社)もしくは新設会社に分割する方法で買収する仕組みです。会社が持つ事業に関して有する権利義務を他の会社に包括的に承継するM&A手法をさします。
会社分割では、資金を準備せずに実施でき、税金負担が軽いなどのメリットがあります。
株式交換・株式移転
株式交換は、片方の株式会社が発行する全株式を、もう片方の株式会社に取得させる方法で買収する仕組みです。対価は一般的に株式が用いられ、双方企業の株式を交換します。
株式移転は、株式会社が発行する全株式を、新設する株式会社に取得させる方法で買収する仕組みです。株式交換と同じく、一般的に対価として株式が使われます。
株式交換も株式移転も、持ち株会社への移行を実施するために取る手段で買収資金が必要なくM&Aを行えることが大きなメリットです。買収後も別法人で存続するので、円滑な事業運営も実施できます。
第三者割当増資
第三者割当増資は、特定の第三者に新株を割り当てて発行する仕組みです。M&Aでは、財務状態が良くない会社の買収、資本提携、関連会社化を目的として主に使われます。既存の株主は株式を継続して保有するので、100%の株式を取得しません。
買収対象が公開会社の場合は、原則として取締役会の決議により第三者割当増資を行えるため、買収先における株主の同意なしで買収可能です。TOB規制の適用を基本的に受けないこと、資金を会社に直接入れられることがメリットといえます。
議決権の保有率
議決権とは、会社団体の意思決定に参加する権利のことです。議決権の仕組み上、保有株式の割合に応じて行使できる内容が異なります。ここからは、議決権で行使できる内容を保有率ごとに見ていきましょう。
100%の株式を保有
100%の株式を保有している場合は、会社経営に関する意思決定を全て自身の一存で決定可能です。株式公開していない中小企業の場合、オーナー経営者が100%の株式を保有し、会社の意思決定を行うケースが大多数を占めます。
66.7%の株式を保有
66.7%の株式を保有している場合は、株主総会の特別決議を自身の一存で決定できます。
特別決議では、合併・会社分割・株式交換・株式移転・定款変更・監査役の解任など会社の運営にとって重要な事項を決められるため、中小企業の経営者は66.7%以上を保有するのが望ましいです。
50%以上の株式を保有
50%以上の株式を保有している場合は、株主総会の普通決議を自身の一存で決定可能です。50%以上の持ち株比率になると、経営するうえで十分な権利を行使できるため、経営権といわれます。
普通決議では、取締役や監査・会計監査人の専任決議、解任権・報酬額の決議、配当余剰金の分配などを決められます。
6. 会社買収の流れ
ここからは、会社買収の流れ・手順(フロー)を見ていきましょう。項目ごとにポイントを詳しく解説します。
- 事前準備
- アドバイザー選定・仲介契約
- 買収候補選定
- 秘密保持契約
- トップ面談・意向表明書提示
- 基本合意締結
- デューデリジェンスの実施
- 条件交渉
- 最終契約
- クロージング・統合後のプラン実施
①事前準備
会社買収を行う準備段階では、関係者の調整・ニーズの整理を行います。M&Aを行う目的や対象企業のイメージなどは、会社買収前に確認しましょう。
その他に確認するべきことは、議決権の確保ができているかどうかです。議決権の保有確率は、後の運営にかかわるため、忘れずに確認しましょう。
②アドバイザー選定・仲介契約
M&Aを行う目的などの確認ができたら、次はM&Aを進めるうえでのアドバイザーを選定し、契約を結びます。
アドバイザー業務を行う会社は、M&A仲介会社やコンサルティング会社があります。どの仲介会社に依頼するかは、会社買収の成功にかかわる重要な要素となるため、各社の無料相談などを利用してから選定しましょう。
③買収候補選定
仲介会社が決まったら買収候補へのアプローチです。この段階では、希望条件に合う買収候補企業のリストを作成し、条件に合う企業を数社に絞ります。
その後、ノンネームシート(NN)の企業概要(匿名)を作成し、買収候補企業に提示して打診を行います。
買収候補を探す際は、弊社(M&A総合研究所)の保有する案件一覧もご活用ください。
④秘密保持契約
ノンネームシートを使い、買収候補の企業に打診した結果、買収する企業が興味を示しさらなる情報の開示を求めれば、秘密保持契約の締結です。
秘密保持契約締結後、企業概要書(IM)と呼ばれる企業の詳細情報を提示します。企業概要書には、会社名はもちろん事業内容・財務情報などが記載されているため、より一層の情報管理が必要です。
⑤トップ面談・意向表明書提示
買収候補企業が、具体的な検討段階に入るとトップ同士の面談が行われます。面談時には、買い手・売り手の紹介や、会社買収に至った経緯、企業理念の共有などを行いましょう。この段階で信頼関係を結べば、後の流れがスムーズになります。
⑥基本合意締結
基本合意書(MOU)の作成は必須ではありません。一般的に、M&Aの基本的条件は法的拘束力を有しない形で規定されます。内容は、買収の基本的条件、交渉義務、独占交渉権、守秘義務、スケジュールの概略などです。
⑦デューデリジェンスの実施
デューデリジェンス(買収監査)は会社買収で重要な項目です。ここでは、ファイナンシャルアドバイザー(FA)や仲介会社が主となり、買収候補会社の帳簿閲覧や、書面ではわからない会社の状況を詳細にチェックするなどの手続きが行われます。
⑧条件交渉
デューデリジェンス後、交渉を断念せざるを得ない問題がない限り最終契約に向けた条件交渉を行います。最終的な売却価格を決定し、経営者・役員・従業員の処遇、遵守(じゅんしゅ)事項、守秘義務などの合意事項における交渉を進めます。
⑨最終契約
条件交渉で両社の合意が得られれば、最終手続きで株式譲渡などの譲渡内容、売買価格を定めた最終契約書を取り交わします。
⑩クロージング・統合後のプラン実施
最終契約書に問題がなければ、買い手側から譲渡代金を受け取り、クロージングです。代金を受け取った後は、PMI(Post Merger Integration)と呼ばれる統合作業を行います。
買い手企業・売り手企業の従業員が現状を理解し、互いのノウハウ共有を行うことや、代表・役員同士の信頼関係構築、経営方針の統合を行う必要があります。会社買収を進めるにあたり専門的なノウハウを必要とする業務が多いため、専門家に相談すると良いでしょう。
7. 会社買収を行う際の注意点
この章では、会社買収を行う際の注意点を解説します。会社買収の際は安易に買収を行うのではなく、注意点をクリアしたことを確認してから買収を行いましょう。
注意点を下記の3つに分けて解説します。
- 小規模企業の会社買収を行う際
- 企業文化が全く違う会社の買収を行う際
- 経営が不透明な会社の買収を行う際
①小規模企業の会社買収を行う際
小規模企業の買収を行う際は、後の経営方針や経営状況をきちんと確認しましょう。どれくらいの資金・負債があるのか、改善する見立てはあるのかなどをきちんと把握する必要があります。
小規模企業の場合は、従業員同士の距離感が近く情報も大部分が共有しやすい状況になりやすいため、安易な交渉で買収を行うのではなく、従業員などとの信頼関係もきちんと考えながら買収を進めることが大切です。
②企業文化が全く違う会社の買収を行う際
企業文化の全く違う会社を買収する場合に注意するべき点は、社員の流出なくスムーズに事業を継続できるかどうかです。
会社の運営に重要な社員が、企業文化の違いから嫌気がさし大量に退社してしまう事態が起こっては大きな損失となります。赤字会社の買収を行い、繰越欠損金を使用しての資金繰りを考えている場合は、社員が20%以上退職すると繰越欠損金は消滅するため、同様に注意が必要です。
③経営が不透明な会社の買収を行う際
経営が不透明な会社を買収対象として検討している場合に注意すべき点は、「簿外債務がないか」です。決算書や帳簿に載っていない債務を「簿外債務」といい、買収後にこれらが発覚すると、決算書に記載していない場合でも支払う必要が出てきます。
会社の連帯保証金や、未納の税金・借入金などが簿外債務に当たるケースが多いため事前の確認が必須です。
8. 会社買収を成功させるポイント
会社買収を成功させるにはどのようなポイントがあるのか見ていきましょう。
- デューデリジェンスの徹底
- 友好的な買収
- シナジー効果の見込める相手先を探す
- 大規模企業・事業の買収は慎重に行う
- 買収後の経営統合を入念に行う
- 会社買収・専門家への相談
①デューデリジェンスの徹底
会社買収を成功させるためにはデューデリジェンスの徹底が重要です。デューデリジェンスは買収監査と呼ばれ、買収企業におけるリスクの他、資産価値などのリターンを知るための調査です。
会社買収には、時間と費用がかかります。かけた時間とコストを実りあるものにするために、デューデリジェンスを徹底して行うことでリスク回避ができ会社買収の成功率を引き上げられるでしょう。
デューデリジェンスには、財務関連・法務関連などの調査、ビジネスデューデリジェンスといった市場全体の調査なども含まれます。
②友好的な買収
会社買収を成功させるためのポイント2つ目は、買収先企業の経営陣と交渉の上、同意を得てから行う友好的な買収を心がけるです。買収先企業から同意を得ない敵対的な買収を行うよりも、両社における同意のもと統合後も寄り添って友好的に運営する方が、成功に結び付きやすいです。
特に中小零細企業の場合は、友好的な買収を行う方が双方にシナジー効果を生み出しやすいため、友好的な買収を行うことが会社買収における成功のポイントといえます。
③シナジー効果の見込める相手先を探す
シナジー効果が発揮すると、大幅な売上高増加、コスト削減、技術力や開発力向上などの恩恵を獲得できます。多額の買収資金を用いるので、シナジー効果が期待できる会社や事業を買収して、買収資金を大きく上回るメリットを獲得しましょう。
シナジー効果は、主に売上の増加(売上シナジー)、コスト削減(コストシナジー)、節税や金融コストの削減(財務シナジー)の要因で発揮されます。これらの要因が生じる可能性を一つずつ評価して、できるだけシナジー効果が見込める相手先を探しましょう。
④大規模企業・事業の買収は慎重に行う
自社より事業規模が大きい会社や事業であれば、買収に伴うリスクが高くなります。規模が大きいほど買収金額は上がるので失敗したときに再起できないくらいの損失を抱えることもあり、従業員同士の関係性構築や人事制度などの統合も難しくなるからです。
M&Aの経験が豊富でなければ、自社より規模の小さい会社や事業を買収するほうが良いでしょう。買収する会社は、従業員数や売上高が自社の30%未満が目安です。
⑤買収後の経営統合を入念に行う
会社買収を成功させるには、買収後のPMIを徹底しリスクを排除してシナジー効果の発揮を狙うことが欠かせません。PMIを行うと、シナジー効果の発揮による売上増加や優秀な人材が離職するリスクの軽減なども可能です。
PMIは一般的に、「統合方針の決定」「ランディングプランの策定」「100日プランの策定」「統合の実施・効果検証」のプロセスで進めます。M&Aの成功はPMIがポイントともいえるので、買収後の経営統合は入念に行いましょう。
⑥会社買収・専門家への相談
会社買収を成功させるためには専門家に相談するのが一番です。前述したデューデリジェンスの徹底を行う際も個人で調査を行うのは限界があり、容易ではありません。専門家に調査を依頼した方が、より詳細で質の高い情報を得られます。
専門家による洗練されたアドバイス、経験や実績を生かした交渉により、買収を円滑に進めることも可能です。会社買収を行う際は、専門家に相談するのが成功の近道といえます。
9. 会社買収の成功事例【2024年最新】
ここでは、会社買収における成功事例を見ていきましょう。
①エイシンインターナショナルによる会社買収
はじめに、M&A総合研究所がサポートしているM&A成功事例をご紹介します。
譲渡企業の株式会社ジャストプロダクツは、本社を愛知県に置き、配電盤・制御盤で使用される銅部品の製造業を手掛けている会社です。
成就側の株式会社エイシンインターナショナルは、本社を大阪府に置き、国内・海外メーカーの配電制御機器、特殊用途配電制御機器及び機器用パーツ、資材の輸出入、販売を行っている会社です。
本件M&Aの主な目的は、製造領域の内製化です。ジャストプロダクツは、ニーズに合致する相手先であり、自社には足りない部分を補完できるものがあったとして買収を決めています。
②ヒガシトゥエンティワンによる会社買収
ヒガシトゥエンティワンによる会社買収の事例です。ヒガシトゥエンティワンは2022年2月、山神運輸工業の全株式を取得し、子会社化しました。
ヒガシトゥエンティワンは1944年に創業の大阪市に拠点を置く会社で、3PL・総合物流サービス、総務系物流・BPOソリューション、IT関連サービスなど幅広い事業を行うグループ会社です。
対象会社の山神運輸工業は、鋼材や機械などの重量物輸送をメインに、さまざまな輸送を行う一般貨物輸送事業と、機械据付・メンテナンスなどを行う会社です。
今回のM&Aにより、対象会社のノウハウを取り入れることで新たな輸送資源を獲得し、グループ全体の輸送力強化、新規分野での事業拡大を目指します。
③第一生命HDによる会社買収
第一生命ホールディングスによる会社買収の事例です。
第一生命ホールディングスは、2021年8月、100%の株式を得る手法により、ウエストパック・ライフの買収を発表しています。ウエストパック・ライフは、オーストラリアの金融大手であるウエストパック銀行グループ傘下の生命保険会社です。
第一生命ホールディングスのオーストラリアにおける保険会社の買収は、これで3社目です。成長市場とみるオーストラリアでの事業を拡大するために買収を決めました。買収価額は約740億円です。
④パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスによる会社買収
パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスによる会社買収の事例です。
パン・パシフィック・ インターナショナルホールディングスは2021年2月、全株式を得て子会社化する手法により、アメリカで展開するプレミアムスーパーマーケットチェーン「Gelson's」の持ち株会社GRCY Holdings, Inc.を買収するのを発表しました。
パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスは、海外事業をドン・キホーテなどのディスカウントストア事業やユニーなどの総合スーパー事業に次ぐ新しい収益の柱にすることを狙っています。取得価額は公開されていません。
⑤任天堂による会社買収
任天堂による会社買収の事例です。ゲームの開発・販売を手掛ける任天堂は2021年1月、NLG(ネクスト・レベル・ゲームズ)の発行する全株式を得て子会社化する手法により、NLGを買収することを発表しています。NLGはゲーム開発を行う会社です。
これにより任天堂は、NLGの開発ノウハウを得ること、開発チームとの連携や人材交流が可能になることでソフトウェア開発のスピードや質を上げる効果を狙っています。
⑥NTTによる会社買収
NTT(日本電信電話)による会社買収の事例です。NTTは2020年11月、NTTドコモの公開買付けによる買収を行いました。
NTTは、「世界規模による研究開発の推進」「新規事業の強化」などを目指しており、これを実現するためにはグループ全体のリソース活用や意思決定の迅速化が必要で、そのためにNTTドコモの完全子会社化を実施しました。
買収金額は約3兆円でした。残りのドコモ株式は、株式売渡請求といったスクイーズアウトの手法で取得され、NTTドコモは2020年12月にNTTの完全子会社となり上場廃止となっています。
⑦セブン&アイHDによる会社買収
セブン&アイ・ホールディングスによる会社買収の事例です。コンビニエンスストア大手のセブン&アイ・ホールディングスは2020年8月、株式および持分を取得する手法により、アメリカの子会社をつうじてスピードウェイを買収することを発表しています。買収金額は、約2.2兆円です。
MPCが運営するスピードウェイは、ガソリンスタンドを併設したコンビニエンスストアのブランドです。アメリカ市場でのコンビニエンスストア事業を拡大するために、セブン&アイ・ホールディングスはこの買収を実施しました。
⑧コロワイドによる会社買収
コロワイドによる会社買収の事例です。
コロワイドは、大戸屋ホールディングスへ敵対的買収を行いました。2019年10月、大戸屋の創業者から、19%弱の株式を取得したことがきっかけです。コロワイドは友好的買収を検討していましたが、対話に応じないため7月にTOBを宣言し、敵対的買収を開始しました。
大戸屋ホールディングスの社長はかなり反発しましたが、コロワイドは全株式の46.77%に当たる株式を得て、TOBによる敵対的買収が成立しました。大戸屋ホールディングスはコロワイドのグループ会社となり、取締役の交代で経営権を掌握されます。費やした買収金額は、約61億円でした。
⑨ブロッコリーによる会社買収
ブロッコリーによる会社買収の事例です。ブロッコリーは2019年8月、LANTERN ROOMSの買収を発表しました。全株式を総額1,861万8,000円で取得します。
LANTERN ROOMSは家庭用ゲームソフトやスマートフォンゲーム開発を手掛ける会社です。LANTERN ROOMSの企画力・技術力を高評価するブロッコリーは、LANTERN ROOMSとの協業によりコンテンツ開発体制の強化や加速を狙います。
LANTERN ROOMSも、子会社となることで財務基盤の安定、人員拡充が容易になること、事業基盤の強化を見込んでいます。
⑩武田薬品工業による会社買収
武田薬品工業による会社買収の事例です。
武田薬品工業は2018年5月、全株式を取得する手法により、アイルランドの製薬大手であるシャイアーを完全子会社にすることを発表しました。これにより、シャイアーは上場廃止となります。取得価格は約6兆8千億円です。
買収が完了した3年後に、武田薬品工業は、年約1,500億円のコスト削減を予定しています。グループ全体の売上高75%は、今まで重要研究分野とみなしてきた消化器、中枢神経、がんにプラスして、シャイアーが強みを持つ希少疾患と血液製剤が占めることを見込んでいます。
⑪KDDIによる会社買収
KDDIによる会社買収の事例です。KDDIは2017年8月、株式譲渡の手法によりソラコムを連結子会社にすることを発表しています。ソラコムは、通信プラットフォーム「SORACOM」を手掛けるIoT領域でのリーディングカンパニーです。
KDDIのIoTビジネス基盤とソラコムの通信プラットフォームを連携することで、両社は国内・グローバルでつうじるIoTプラットフォームの構築を強めることを狙い、今までに築いたIoT/M2Mの知見や顧客基盤を生かして新しいIoTビジネスを創ることを見込んでいます。
10. 会社買収の際にかかる費用
会社買収に必要な費用は、大きく分けると下記に分類できます。
大前提として、会社買収にかかる買収費があり、それに加えてデューデリジェンスの報酬、仲介手数料などにかかる費用があります。会社買収には多額の費用が必要となるため、しっかりと計画を立て、資金準備を行う必要があります。
これらの費用だけでなく、会社買収に関する会社取得費に対して税金がかかるため、会社買収の際は税金の支払いがあることも念頭に置いてください。
買収費
買収費は、対象企業を買収するための費用です。買収額はM&Aを実施するうえで、互いの交渉によって決まるため、金額は事前に決定しません。買収企業の業種や規模、企業価値によっても変動があります。
デューデリジェンスの報酬
M&Aを失敗させないためにも、デューデリジェンスは必ず行いましょう。デューデリジェンスは、買収先の経営状況や事業などさまざまな視点から調査し、リスクを把握したうえで買収の最終決定を行います。
この調査には高度な法務や財務、人材やITなど専門的な知識やノウハウが必要となるため、専門家への依頼費用が発生するでしょう。
仲介手数料
会社買収を行う場合、M&A仲介会社などの専門家に依頼することが重要です。M&A仲介会社の手数料や報酬は、会社によって違います。完全成功報酬型の会社があるなど、手数料の計算方法が異なるので、依頼する際は事前に確認しましょう。
買収手続きなどにかかる人件費
M&Aによる会社買収を成功に導くためには、社内のプロジェクトチームが必須です。それには、別途人件費がかかります。
11. 会社買収の税務処理
会社買収の際、注意する項目に挙げられるのが税務処理です。会社買収の方法によって課せられる税金は変わります。ここからは、会社買収にかかる税金や、会社買収の節税対策などを見ていきましょう。
会社買収でかかる税金
会社買収・売却時には税金がかかり、売却先の会社形態が個人か法人企業かで異なることを覚えておきましょう。売却側の株主が個人の場合、株主に対して住民税・所得税が加算され、必要経費などを差し引いた額から譲渡所得が計算されます。
一方、法人の場合は、通常の税務処理と同様に法人税が加算され、仲介会社の手数料や必要経費を差し引いた額によって譲渡益が計算されるでしょう。総合課税により30%程度の税金と法人住民税がかかります。
会社買収の際の節税対策
高い売却益を獲得できても、税金が高額になっては元も子もありません。そこで考えておきたいのが節税対策です。
節税方法は複数ありますが、その一つに退職金による節税方法があります。これは、本来の譲渡所得における一部を退職金として受け取る方法です。譲渡所得と退職金はそれぞれ別のものとして計算されるため、一定額以上であれば十分節税効果を得られます。
その他、第三者割当増資による節税方法もあり、特定の第三者が引受ける形で新株を増やすことで、持ち株比率が下がり結果的に節税を行えるでしょう。
12. 会社買収のまとめ
今回は会社買収をまとめました。会社買収とは、その名の通り自社以外の企業を買収するケースをいいます。買収される側の会社は消滅せず、子会社・グループ会社として存続し買収側の傘下に入ります。
会社買収では、メリット・デメリットを十分に知ったうえで買収を行いましょう。会社買収をスムーズに進めて成功させるためには、専門家のアドバイスが重要です。専門家による徹底したデューデリジェンスや、友好的な買収に向けた交渉なども必要といえます。
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