親族内承継とは?手続き方法からメリット・デメリットまで徹底解説!

会計提携第二部 部長
向井 崇

銀行系M&A仲介・アドバイザリー会社にて、上場企業から中小企業まで業種問わず20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、不動産業、建設・設備工事業、運送業を始め、幅広い業種のM&A・事業承継に対応。

家族や親族を後継者として会社経営を引き継がせる方法「親族内承継」を詳しく解説します。親族外承継との違いや親族内承継で用いられる3つの承継パターン、基本的な手続き方法、メリットやデメリット、成功させるためのポイントを押さえましょう。

目次

  1. 親族内承継とは?
  2. 親族内承継のメリット・デメリット
  3. 親族内承継の流れ
  4. 親族内承継の方法
  5. 親族内承継を成功させるポイント
  6. 親族内承継は早い段階から準備を始めよう
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1. 親族内承継とは?

まずは親族内承継の基本的知識から押さえましょう。親族内承継と親族外承継の違いを確認した上で、国内企業の親族内承継における現状を解説します。

親族内承継と親族外承継との違い

まずは、親族内承継と親族外承継の違いを確認しましょう。両方とも事業承継の手法として知られていますが、大きな違いは後継者となる人です。親族内承継は現経営者の息子や娘など親類の方に引き継ぎます。一方、親族外承継は会社従業員や役員・第三者に事業を引き継がせる方法です。

経営者の家族に後継者候補が居る場合に親族内承継が用いられ、家族内に後継者が不在の場合や後継者となり得る親族が居ても本人が事業を引き継ぐ意思が無い場合に親族外承継が用いられます。

親族内承継の割合

経営者の家族に事業承継を行う親族内承継は減少傾向にあります。従来は息子や娘など家族に会社を引き継いでもらうケースが中小企業で多く見られましたが、少子化で後継者不在が顕在化したことが理由の1つです。経営状況が良いにもかかわらず廃業する会社が見られるのも現状です。

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2. 親族内承継のメリット・デメリット

親族内承継は比較的スムーズに事業を引き継げると言われる方法ですが、必ずしも良い点ばかりではありません。ここでは、会社が親族内承継を行う際に得られるメリットと、それに伴い想定されるデメリット両方を解説します。

メリット

まずは親族内承継を実施することで得られるメリットを4つ確認しましょう。

  1. 従業員や関係者から理解を得やすい
  2. 後継者教育の時間を確保できる
  3. 資産の承継方法を選択できる
  4. 事業承継税制を活用しやすい

従業員や関係者から理解を得やすい

親族内承継の大きなメリットは、従業員や関係者から理解を得やすいことです。全く知らない第三者に会社を引き継いでもらう場合、信頼関係を構築するまでにかなりの時間を要する可能性があります。経営者の親族なら比較的受け入れられる傾向にあるため、円滑に事業承継できるでしょう。

後継者教育の時間を確保できる

親族内承継なら後継者教育に必要な時間を確保できます。早いうちから家族を後継者として会社経営を行う場合、長い時間をかけて企業理念や事業方針を理解できるでしょう。後継者問題が起きてから慌てて後継者を見つけると、承継後の経営方針が大きく変化してしまうおそれがあります。

資産の承継方法を選択できる

親族内承継では、引き継ぐ資産の承継方法を選べる点もメリットです。親族内承継の場合、相続・贈与・株式売買といった方法を選択できます。承継のタイミングに合わせて適切な承継方法を選べば、承継時にかかる費用を抑えられるかもしれません。3つの承継方法は後ほど詳しく解説します。

事業承継税制を活用しやすい

相続や贈与では一定の条件を満たすことで事業承継の際にかかる税金を猶予・免除することができるなど、優遇措置が用意されている点もメリットです。この際に適用できる優遇措置を事業承継税制と呼びます。この優遇措置は中小企業における事業承継の際に適用できるのが特徴です。

デメリット

では次に、親族内承継を実施する際に想定されるデメリットを確認しましょう。考慮すべき点は、主に以下の4つです。

  1. 親族に経営者の質があるとは限らない
  2. 親族間でトラブルが発生する可能性がある
  3. 個人保証をめぐる問題が発生する
  4. 経営方針に制限がかかりやすい

親族に経営者の質があるとは限らない

現経営者に息子や娘など後継者になり得る親族が存在する場合でも、必ずしも時期経営者になるとは限りません。経営者には会社全体をマネジメントする技量が求められます。親族が居ても経営者としての素質が無い場合は、親族外承継の方法で事業承継を実施する必要があるでしょう。

親族間でトラブルが発生する可能性がある

後継者候補となる親族が複数居る場合には親族間トラブルが起こる可能性があるので注意が必要です。現経営者は、後継者になれない親族に対して配慮しなければなりません。遺言書を作成し、遺産分割を正しく決めておくことが重要です。民法で保障された遺留分の侵害にも注意しましょう。

個人保証をめぐる問題が発生する

親族内承継では、多くの場合現経営者が抱える個人保証が解除され、後継者が新保証人として引き継がれます。ただ金融機関によっては、リスク軽減のため現経営者の個人保証を維持させたまま後継者に対しても個人保証を付加するケースもあるので注意しなければなりません。

経営方針に制限がかかりやすい

経営方針が制限されやすい点も親族内承継のデメリットです。後継者は前経営者の遺志を継いで経営を任されるわけですが、状況によっては経営方針の転換が必要な場合もあります。これに対し従業員から反発を受け、なかなか方針を変えることができない状況に陥る可能性もあるでしょう。

【関連】事業承継のメリット・デメリットを徹底解説【親族内/親族外】

3. 親族内承継の流れ

親族内承継の方法で事業承継を実施する際の流れを確認しましょう。大きく分けて以下の5ステップで行われるのが一般的です。中には時間をかけて入念に準備が必要な部分もあるので、余裕を持って進めることをおすすめします。万全な状態で気持ちよく後継者に事業を引き渡しましょう。

  1. 事業承継の必要性を認識
  2. 経営状況と課題の把握
  3. 経営状況の改善
  4. 事業承継計画の策定
  5. 事業承継の実行

事業承継の必要性を認識

事業承継はどの会社においても一大イベントです。後継者候補が居るからといって準備無しに事業承継を進めるのはおすすめできません。まずは、本当に事業承継を必要とする状況なのか分析する必要があります。専門機関に相談しながら、今事業承継すべきタイミングか見極めましょう。

後継者候補が居ても、まだ会社経営のスキルが万全に備わっていない場合は時間をかけて経営を学ぶ必要があります。将来的な目線で考え、できるだけ早いタイミングで後継者を教育することが重要です。時間をかけて人材育成し、事業方針や経営理念などを的確に理解してもらいましょう。

経営状況と課題の把握

後継者候補の育成と併せて、経営状況の分析と課題点の把握を行います。会社が抱える事業の収益性や将来性、市場における需要や成長見込み、自社の競争力などあらゆる項目を確認しましょう。どのような点で改善が必要なのか明確にすることで、その後適切な対処を講じることができます。

経営状況の改善

課題点を明確化したら、さまざまな対処を実行し経営状況の改善に努めます。できるだけ経営におけるリスクを低減させた状態で後継者に引き継ぐことを目指しましょう。例えば、収益を向上させるために事業の効率化を行います。採算性の高い事業にエネルギーを集中させるのも有効です。

主な目的は。後継者に気持ちよく会社事業を引き継いでもらうことにあります。目先の収益ではなく今の事業が引き続き収益を保てるのかを考えて対策を講じましょう。成長の見込めない既存事業に固執せず、新しいアイデアや商品開発で企業価値向上を目指すことが重要です。

事業承継計画の策定

事業承継は綿密な計画とビジョンをもって実施されます。そのため事業承継計画の策定が必要です。10年間で見込める事業収益や経営ビジョン、後継者教育、後継者に関する情報などをまとめて明確化します。事業承継計画書は後継者や会社関係者、金融機関に共有する際に効果的です。

事業承継の実行

上記でまとめた事業承継計画書に記載された内容に基づき、事業承継を実施します。現経営者は事業や株式、資産など一連の引き継ぎを後継者と協力しながら執り行いましょう。特に親族内承継では相続税や贈与税が発生します。早い段階から専門家に相談し、税金対策を行うと良いでしょう。

【関連】事業承継の手続きを解説!事業承継の方法と流れ・必要書類・相談先も紹介

4. 親族内承継の方法

親族内承継には、主に3種類の承継方法があります。ここでは、それぞれどのような承継方法なのかチェックしましょう。各承継方法のメリットとデメリットを踏まえながら解説します。

  1. 株式売買
  2. 相続
  3. 贈与

株式売買

株式売買とは、現経営者が保有する自社株式を後継者に譲渡する事業承継方法です。現経営者は株式の売却による対価を現金で受け取ることができます。株式売買は、生前に済ませることで相続人が複数存在する場合に相続人間トラブルが起こりにくい点が大きなメリットです。

ただ後継者の視点で考えると、株式譲渡の対価として多額の資金を準備しなければならないというデメリットがあります。また、株式を売却した現経営者には所得税や住民税といった税金が発生する点にはも注意が必要です。売却と並行して税金対策も考慮すると良いでしょう。

相続

相続とは、現経営者が亡くなった際に行われる事業承継方法です。経営者が保有する株式を後継者が引き継ぐことになりますが、この際相続税が発生します。贈与税に比べて費用を抑えられる可能性がありますが、複数の相続人間で遺産分割トラブルが起こるリスクがあるので注意が必要です。

遺言書は遺産分割トラブルを抑えられる効果があります。経営者が健全な頃に事業承継を見据えて作成しておくと良いでしょう。また、保有資産をあらかじめ現金化したり、事業承継税制の優遇措置利用など税金対策を講じたりしておくことも重要です。

贈与

贈与(生前贈与)とは、現経営者が生きている時に会社株式を後継者に譲渡する承継方法です。この場合、後継者に贈与税が発生します。基礎控除は年間で110万円で、超過した分の資産に対し支払い義務が生じます。段階的に贈与すれば、多額の資金を一度に準備する必要がありません。

また贈与税は相続税に比べて高額になる傾向があるため、状況によっては多額の支払いが必要になる可能性があります。生前贈与を行っても、贈与した経営者が3年以内に贈与に亡くなった場合は相続税とみなされる点にも注意してください。

【関連】事業承継の方法は5種類!方法別のメリットとデメリット・注意点・必要な準備を徹底解説

5. 親族内承継を成功させるポイント

親族内承継を円滑に進めるためには、十分な計画性とリスクへの対策が必要です。ここでは、親族内承継を成功させるために留意したいポイントを4つ解説します。準備のタイミングや遺言書作成、税金対策の重要性を理解した上で承継手続きに入りましょう。

  1. 早い時期から準備を始める
  2. 周囲から承諾を得ておく
  3. 遺言書を作成しておく
  4. 税金対策を検討する

早い時期から準備を始める

親族内承継を成功させるためには、準備を始めるタイミングが特に重要です。早い段階から事業承継計画を立てて着実に準備しておけば、引継ぎが必要になった際すぐに動けます。生前贈与の場合も早い記事から始めることで、より多くの株式を後継者に引き渡せるでしょう。

また、後継者となる親族にもできるだけ早く事業承継の話をして理解してもらう必要があります。特に、他の企業に勤務している場合はさまざまな準備が必要なので、いきなり動くことができません。本人が後継者として会社を引き継ぐ意思確認を早めに行いましょう。

周囲から承諾を得ておく

事業承継は、経営者と後継者の意思だけで行われるものではありません。会社事業に携わる従業員や取引先にも事業承継について公表し、理解を得る必要があります。作成した事業承継計画を公表し、どのような方針をもってどのように事業が引き継がれるのか丁寧に説明しましょう。

遺言書を作成しておく

現経営者が健常な頃に遺言書を作成しておくことも、事業承継成功への重要なポイントです。遺言書が無いと、複数の相続人の間で遺産分割トラブルに発展するリスクが高まります。資産が平等に分与されることにより、会社経営権を当該後継者に集中させられなくなるためです。

遺言書には、「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」の2種類が存在します。中でも前者は役所で2人の証人を立ち会わせた上で作成する厳格です。労力をかけて作成した遺言書が無効になるリスクを軽減させるためには、「公正証書遺言」として作成することをおすすめします。

税金対策を検討する

親族内承継ではできるだけ出費を抑えるために、税金対策を行う必要があります。上記で紹介しました通り、親族内承継は相続税や贈与税を納税しなければなりません。具体的な対策としては、事業承継税制を活用して税金の支払いを猶予・免除してもらうことが有効な手段の1つです。

また株式譲渡の際に対価の一部を退職金として支払うことで、発生する税金を抑えることができます。ただし、あまりにも高額な金額を退職金として参入すると、税務署から指摘を受け追徴課税が課されるリスクがあるので注意が必要です。税金対策は専門家の助言を得ながら実施しましょう。

【関連】家族間の株式譲渡にかかる税金まとめ!メリット・注意点も徹底解説

6. 親族内承継は早い段階から準備を始めよう

家族内に会社を引き継いでくれる方が居る場合、親族内承継を実施することで円滑に事業承継を実現できます。ただ、親族内承継には相続人の間で起こる遺産分割トラブルや税金など気を付けるべき項目が多く存在するので、適切に対処を行わなければなりません。

想定されるリスクを軽減させ円滑に親族内承継を行うためには、できるだけ早いタイミングで準備を始めることが大切です。事業承継に詳しい専門家にも手続きや税金対策のアドバイスを受けながら、円滑かつ円満な事業承継を成功させましょう。

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