自社株(非上場株式)の評価方法とは?簡易計算や評価を下げる方法も解説!

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

本記事では、自社株(非上場株式)の評価方法や簡易計算の仕方をわかりやすく解説します。そのほか、自社株評価が適用できないケースも確認しましょう。非上場株式における自社株評価は、国税庁の定めた基準に沿って算出されます。自社株について知りたい方は必見です。

目次

  1. 自社株(非上場株式)の評価方法とは
  2. 自社株(非上場株式)評価の簡易計算
  3. 自社株(非上場株式)評価が高い理由
  4. 自社株(非上場株式)評価を下げる5つの方法
  5. 自社株(非上場株式)評価が適用できない場合がある
  6. 自社株(非上場株式)評価のまとめ
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1. 自社株(非上場株式)の評価方法とは

自社株評価とは、市場に出回っていない株式のうち、経営者の一族などが確保している株式の価値を算定することをいいます。非上場株式における自社株評価は、国税庁の定めた基準にのっとって算出するでしょう。

非上場株式は上場企業のように自社株評価が示されていないため、国税庁が定める基準にのっとって、非上場会社の規模ごとに分類された評価法(類似業種比準・純資産価額)を用いて評価します。

原則の基準に当てはらない場合

特例を除き、会社の規模ごとに自社株評価を行いますが、同族ではない株主が買い取った自己株は会社の規模に関係なく配当還元の方法によって評価を行います。

以下に該当する非上場株式の場合も、決められた評価法に従って価値を算出します。

  1. 類似業種比準を用いた評価で、一番近い期末で利益・配当・純資産額(帳簿上)のうち、2つの数値が0で、2つ前の期末で2つを超える数値が0
  2. 総資産額で株式の割合・出資と新株予約権付社債額の割合が、規定の割合より多い
  3. 総資産のなかの土地などの総額割合が、規定の割合より多い
  4. 相続・遺贈が始まった・贈与財産を得た時点での開業年が3年未満の会社と、類似業種比準を用いた評価で一番近い期末で利益・配当・純資産額(帳簿上)がすべて0とする
  5. 開業する前・休業会社
  6. 清算状態の会社

上記①〜⑤に該当する株式は純資産価額、⑥に該当する株式は清算分配見込額によって自社株評価で算出します。ただし、①〜④に該当する株式を同族ではない株主が買い取った場合は、配当還元を用いて価値を算出します。

同族株主のいる会社の評価方式

ここでは、同族株主のいる会社における評価方式を確認しましょう。原則的評価方式と特例的評価方式の適用区分を判定する場合、評価会社が同族株主のいる会社であるときの具体的な判定方法は以下です。
 

取得後の議決権割合が5%以上の株主 原則的評価方式

<取得後の議決権割合が5%未満の株主>
中心的な同族株主がいない場合 原則的評価方式
 
中心的な同族株主がいる場合  
中心的な同族株主 原則的評価方式
役員または役員となる株主 原則的評価方式
その他の株主 特例的評価方式
 
同族株主以外の株主 特例的評価方式

同族株主・同族関係者とは

同族株主・同族関係者とは、会社の株主のうち同族関係者のグループ(株主の一人、同族関係者)の有する議決権割合の合計数が30%以上である場合の株主、同族関係者をさします。しかし、議決権割合の合計数が50%超を占める同族関係者グループがある場合は、そのグループが「同族株主」となるので注意が必要です。

同族関係者は、親族のうち民法で規定されている配偶者、6親等内の血族、3親等内の姻族が含まれます。他にも同族とみなされるのが、特殊関係のある個人(内縁関係にある者)、特殊関係にある会社(子会社、孫会社など)です。したがって、同族関係者に関しては、広範囲に及ぶのがわかるでしょう。

2. 自社株(非上場株式)評価の簡易計算

自社株評価(非上場株式)を算出する際は、会社の規模ごとにそれぞれ規定があります。基本的には、類似業種比準あるいは純資産価額によって自社株評価を行いますが、一部条件に該当する場合は配当還元方式によって算出します。

会社の態様分類

国税庁「取引相場のない株式等の評価」には、非上場株式の自社株評価を会社の形態分類ごとの評価方法が書かれています。会社規模によって「大会社」「中会社」「小会社」の3つに分類されており、それぞれに合った評価方法が決められています。

この3つの会社規模は、従業員の数・総資産額・取引額によって分けられており、従業員数が70人を超える場合は大会社、70人より少ない会社は、業種・従業員の数・総資産額・取引額で分類されるでしょう。

分類基準は「卸売業」「小売とサービス業」「それ以外」の業種ごとでも異なるため、株価を評価する会社がどのカテゴリーになるのかを確認する必要があります。

卸売業の基準

卸売業における分類基準は、それぞれ以下のようになっています。
 

大会社 ・取引額が30億円〜
・総資産額20億円〜、労働者数36人〜
中会社① ・取引額が7億〜30億円未満
・総資産額4億円〜、労働者数36人〜
中会社② ・取引額が3.5億〜7億円未満
・総資産額2億円〜、労働者数21人〜
中会社③ ・取引額が2億〜3.5億未満
・総資産額が0.7円〜、労働者数6人未満
小会社 ・取引額が2億円未満
・総資産額が0.7億円未満、労働者数6人未満

小売とサービス業の基準

小売とサービス業おける分類基準は、それぞれ以下のようになっています。
 

大会社 ・取引額が20億円〜
・総資産額が15億円〜、労働者は36人〜
中会社① ・取引額は5億〜20億円未満
・総資産額が5億円〜、従業員数36人〜
中会社② ・取引額が2.5億〜5億円未満
・総資産額が2.5億円〜、労働者数21人〜
中会社③ ・取引額が0.6億〜2.5億円未満
・総資産額が0.4億円〜、労働者数6人〜
小会社 ・取引額が0.6億円未満
・総資産額が0.4億円未満あるいは従業員数6人未満

そのほかの業種の基準

そのほかの業種における分類基準は、それぞれ以下のようになっています。
 

大会社 ・取引額が15億円〜
・総資産額が15億円〜、労働者数36人〜
中会社① ・取引額が4億〜15億円未満
・総資産額が5億円〜、労働者数36人〜
中会社② ・取引額が2億〜4億円未満
・総資産額が2.5億円〜、従業員数21人〜
中会社③ ・取引額が0.8億〜2億円未満
・総資産額が0.5億円〜、従業員数6人未満
小会社 ・取引額が0.8億円未満
・総資産額が0.5億円未満あるいは従業員数6人未満

原則的な評価方法

国税庁の基準による非上場株式の自社株評価方法は、原則的に類似業種比準・純資産価額に基づいて算出されます。以下では、各方法の詳細や評価額の決定方法、特例で用いる評価法を解説します。

類似業種比準方式

類似業種比準方式とは、自社に似た業種の株価と利益・配当・純資産額(帳簿上)を基準にして、価値を算出します。類似業種比準方式による非上場株式の自社株評価は、以下のように算出します。

  • 1株あたりの株価=似た業種の株価×利益比準・配当比準・純資産額比準/3×斟酌率(しんしゃくりつ)
※斟酌率(しんしゃくりつ)は大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5

純資産価額方式

純資産価額方式は、相続税の評価に換えた総資産・負債・法人税額などを基準に算出する方法です。純資産価額方式による非上場株式の自社株評価は、以下のように算出します。

  • 評価額に掛かる法人税=(相続税で評価した純資産額−帳簿上の純資産額)×37%
  • 1株に対する純資産額=相続税評価の純資産額−相続税評価の負債−相続税評価の純資産と負債の差についての法人税額/発行株式の数

評価額の決定

非上場株式において自社株評価額を決定する際は、まず自社の規模がどの分類になるかを確認します。算出した値に分類ごとに決められた料率を掛けることにより、自社株評価での価格が決まります。

  • 大会社:類似業種比準のみ
  • 中会社①:類似業種比準×0.9+純資産価額×0.1
  • 中会社②:類似業種比準×0.75+純資産価額×0.25
  • 中会社③:類似業種比準×0.6+純資産価額×0.4
  • 小会社:純資産価額または類似業種比準×0.5+純資産価額×0.5

非上場株式の自社株評価で上記のような分類がされているのは、会社の規模に幅があるためです。

大会社は上場企業並みの規模であることも多く、小会社のなかには個人事業と変わらない規模もあるため、同じ評価法を当てはめるのは不適当とし、会社の規模ごとの評価法に違いを設けています。

配当還元方式による例外的な評価方法

前述の原則に当てはまらない非上場株式の場合は、自己株評価に配当還元方式を用います。例えば、同族以外の株主が非上場株式を買い取る場合は、会社規模別の自社株評価方法ではなく、配当還元方式によって自社株評価を行います。

  • 年間の配当額=一番近い期末前の2年間の配当額/2÷直前の期末の資本額/50円
  • 配当還元の評価額=年間の配当額/10%×1株あたりの資本額/50円

配当還元方式による非上場株式の自社株評価では、不定期の配当を除外するでしょう。中間配当も期末の配当に加えます。

なお、価値を算出する際の数値「一番近い期末前の2年間の配当額/2」は、課税時期の直前の期末から2年をさかのぼった期間の配当額を平均した数値をさします。

配当還元が原則的評価を超える場合

非上場株式を配当還元によって算出した評価額が原則的評価より大きい場合は、原則的評価が選ばれます。非上場株式の評価が低い方を採用することになるため、原則的評価で価値を算出することも覚えておくとよいでしょう。

3. 自社株(非上場株式)評価が高い理由

非上場会株式の自社株評価は国税庁の評価基準に則(のっと)って算出されるため、高い評価になります。分類ごとの一定基準に当てはめるため、実際の評価よりも高い評価価格が算出されるケースがあることも認識しましょう。

そのほか自社株評価(非上場株式)が高い理由には、非上場企業の内部留保も挙げられます。非上場企業は上場企業よりも信用性が低いため、資金調達の融資も受けにくいことが多いです。

業績が好調なときに資金をためておくケースも多く、その膨らんだ内部留保が非上場株式における自社株評価を高める要素ともなっています。

資産に含み益が生じている状態も、非上場株式の自社株評価を高くします。純資産価額に相続税の要素が組み込まれるので、現在の資産価値が取得時よりも高くなっている場合は、非上場株式の自己株評価も高くなるでしょう。

4. 自社株(非上場株式)評価を下げる5つの方法

何らかの理由があり、非上場株式の自社株評価を下げたい場合、以下のような方法によって引き下げることが可能です。

  • 類似業種株価の低下
  • 純資産株価の低下
  • 会社のスケールを変える
  • 持株会社化
  • 後継者への事業承継

類似業種株価の低下

1つ目は、利益・配当・純資産額を盛り込んだ類似業種比準を用いる方法です。利益・配当・純資産額の値を下げると、連動して非上場株式の評価も下がります。

例えば、利益を減らす方法では、退職金の支払いによって利益を減らし、非上場株式の自社株評価が下げられます。

配当額はその額を下げたり、配当をやめたりすることで、非上場株式の自己株評価を下げるのが可能です。類似業種比準は決まった時期に行う配当だけを組み入れるので、配当するときは特別配当などを選ぶようにしましょう。

純資産(帳簿上)を下げる際は、会計に債権の貸し倒れを組み込んだり、含み損が出ている資産を売って譲渡による損失を会計に組み込んだりすることで、非上場株式の評価が下がります。

純資産株価の低下

相続税評価後の純資産と発行する株式数が大きければ、計算上株価を下げられます。相続税の評価後の純資産額を減らすには、含み益が出る資産を会計から除外したり、新たな資産を保有して負債を増やしたりする方法があります。

発行株式数を増やすには、既存の株主や特定の会社に株式を買い取ってもらえれば、株式数を増やせるでしょう。

しかし、非上場会社は、株式発行の可否に関して株主総会の特別決議が必要になります。第三者割当増資は株式を発行する価格によって有利発行と判断されかねないので、念入りな調査が必要です。

第三者割当増資の株価への影響の理由や事例については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】第三者割当増資の株価への影響の理由や事例を紹介!メリット・デメリット、算出方法も解説!

会社の規模を変える

会社の規模を変えることによって純資産価額の割合を高め、自社株評価を引き下げることも可能です。

ここまで述べたように、非上場株式の自社株評価は、原則的な方法のみあるいは2つの方式を組み合わせることにより、算出されます。

会社の規模が大きければ類似業種比準方式での評価割合が高く、会社の規模が小さければ純資産価額の評価割合が低くなります。

持株会社化

財産・収益に応じて親会社と子会社に分ければ、親会社の株価を引き下げることが可能です。これは、子会社に事業価値の高い財産を譲渡すれば、親会社の評価が低下するためです。

業績に応じた評価される類似業種比準方式で算出すれば、事業価値の高い財産を譲渡した親会社の業績は以前よりも下がることになるので、自社株評価を下げることにつながります。

純資産価額で価値を算出するケースでも、親会社の含み益は法人税に値する額とみなされて37%が控除されるので、自社株評価の引き下げが可能です。

中小企業の事業承継スキームについては下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】中小企業の事業承継スキームを解説【持株会社/資産管理会社】

後継者への事業承継

後継者となる人物に新会社を設立させ、その会社に事業価値の高い財産または自社株を譲渡すれば、自社株の価格を下げられます。仮に新会社の株価が上がったとしても、自社の株価に影響が及ぶことはないでしょう。

5. 自社株(非上場株式)評価が適用できない場合がある

自社株評価(非上場株式)が適用できない場合もあるため、注意が必要です。具体的には以下に該当する会社は、非上場株式の自社株評価を適用できません。

  • 開業から3年が経過していない会社
  • 利益・配当・純資産がすべて0
  • 株式が経営者・親族以外に分散する
  • 資産の保有を目的にする会社
  • 赤字を出す・債務超過がある会社

開業から3年に満たない会社や利益・配当・純資産が0の会社は、類似業種比準に組み入れる数値を使えないので、純資産価額によって算出します。

非上場の自社株は経営者やその一族が保有する株式をさすため、関係者以外の株主が多いケースは適用されず、特例の評価方式によって算出します。

さらに、非上場株式の自社株評価は、一般的な事業を営んでいる企業の価値を対象としているため、資産の保有目的の会社や債務超過がみられる会社にも適用できません。

自社株(非上場株式)の評価は専門家へ

自社株評価(非上場株式)は、会社の規模などの条件によって評価法が変わります。評価法によって自社の評価も変わるケースがあるため、自社株評価(非上場株式)を行う際は専門家に依頼するのがベストです。

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6. 自社株(非上場株式)評価のまとめ

自社株(非上場株式)評価は、原則的に類似業種比準方式か純資産価額方式、あるいはその両方を用いて算出します。

自社株評価の算出は複雑であり、会社の規模によって評価の方法も異なります。自社株評価が適用できないケースもあるため、事業承継を見越して自社株評価を引き下げたい場合などは、条件に該当しないかを確認しておく必要があるでしょう。

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