M&Aの企業価値評価(バリュエーション)とは?3つのアプローチと計算方法を専門家がわかりやすく解説

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

M&Aを成功させるには、適正な企業価値評価が不可欠です。本記事では、M&Aの企業価値(バリュエーション)の算出方法や3つの主要アプローチを徹底解説。自社の価値を正しく把握し、交渉を有利に進めましょう。

目次

  1. 企業価値評価(バリュエーション)とは?M&Aにおける重要性
  2. M&Aで企業価値評価が不可欠な2つの理由
  3. 上場会社におけるM&Aの企業価値評価とは
  4. 非上場会社におけるM&Aの企業価値評価とは
  5. M&Aの企業価値評価における3つのアプローチ
  6. M&Aの企業価値評価の方法:インカム・アプローチ
  7. M&Aの企業価値評価の方法:マーケット・アプローチ
  8. M&Aの企業価値評価の方法:アセット(コスト)・アプローチ
  9. DCF法での算出方法のステップ
  10. 企業価値評価を依頼する専門家の選び方
  11. 企業価値を高めるために意識すべき3つのポイント
  12. まとめ:適切な企業価値評価でM&Aを成功に導く
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1. 企業価値評価(バリュエーション)とは?M&Aにおける重要性

M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)とは、対象企業の経済的な価値を算定するプロセスです。この評価額はM&Aの取引価格を決定する際の重要な基準となり、交渉の土台となります。そのため、企業価値評価はM&Aの成否を左右する極めて重要なプロセスといえるでしょう。実際には、単一の方法だけでなく複数の評価アプローチを組み合わせて、多角的に企業価値を算定するのが一般的です。

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2. M&Aで企業価値評価が不可欠な2つの理由

M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)の必要性を2つのトピックに分けて紹介します。

取引金額の目安を知って交渉を円滑に進めるため

非上場企業のM&Aでは、客観的な株価が存在しないため、企業価値評価によって算出された金額が交渉の出発点となります。売り手は自社の価値を高く評価しがちですが、理論的根拠のない価格では買い手候補が現れません。一方で買い手も、安すぎる価格を提示すれば交渉が決裂したり、他の買い手に奪われたりするリスクがあります。

特に、M&A市場が活発な昨今では、適正な価格設定の重要性が増しています。例えば、レコフデータの調査によると、2024年のM&A件数は前年を上回るペースで推移しており、売り手・買い手双方にとって競争が激化しています。そのため、客観的な企業価値評価に基づき、双方が納得できる価格の着地点を探ることが、交渉を円滑に進める鍵となります。

取引対象の経済的価値の実体を把握するため

企業全体を買収する際には、その企業の「負債」も引き継ぐことになります。この負債には、帳簿に記載された買掛金や有利子負債だけでなく、未計上の引当金や潜在的な簿外債務も含まれます。

つまり、M&Aを行う際には、買い手は対象企業の経済的な実態を正確に把握するために、企業価値(=株式価値+負債価値)を算定する必要があります。

したがって、M&Aの交渉を進める上で、対象企業の理論的価値や市場相場を踏まえた企業価値評価額を把握しておくことが重要です。

3. 上場会社におけるM&Aの企業価値評価とは

上場企業の場合、証券取引所などの公開市場で形成される株価が企業価値評価の基本的な指標となります。株価に発行済株式総数を乗じることで算出される「株式時価総額」が、市場が評価する株主価値を示すためです。

しかし、M&Aの場面では、この時価総額に支配権プレミアム(経営権を獲得するための上乗せ価値)などを加味して、最終的な買収価格を検討することが一般的です。また、市場株価は常に変動するため、一定期間の平均株価を用いるなど、客観性を担保する工夫も求められます。

株価と企業価値の関係

株価は企業の業績だけでなく、マクロ経済の動向、政治情勢、金利、市場全体の地合い、投資家のセンチメントなど、様々な外部要因の影響を受けて変動します。そのため、ある一時点の時価総額だけをM&Aの評価額とするのは適切ではありません。

M&Aの交渉では、市場株価を参考にしつつも、対象企業の将来的な収益力やシナジー効果などを多角的に分析し、本質的な企業価値を算定するアプローチが不可欠です。

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4. 非上場会社におけるM&Aの企業価値評価とは

M&Aにおける企業価値評価のなかで非上場会社の企業価値評価とは、「市場に上場していない企業の価値をどのようにして算出するか」です。上場企業のように「株価」といった明確な指標がないため、独特の算出方法が取られるでしょう。

この場合、大きく分けて2つの算定方式により、M&Aの評価値が算出されます。非上場会社の企業価値評価とは、会社の資産を基にM&Aの価値を算出する「資産方式」と、企業の収益を基にM&Aの価値を算出する「収益方式」に分けられます。

近年では、双方のメリットを活かした「併用方式」も生み出されました。

①資産方式

資産方式は、企業の資産総額を基に計算する方法です。算出時点におけるM&Aの企業価値を測る方式としては非常にシンプルかつ公正で、客観的な考え方の算出方法となっています。

この資産方式は、一般的に対象となる企業の資産から負債を差し引いた「純資産」を基本に価値を決定する方法が主流です。企業が抱える負債を資産全体から差し引くことで、市場で評価される数字に近い評価を算定できます。

資産方式のメリット

非上場企業価値評価における資産方式のメリットは、複雑な計算式が不要なことです。どのM&Aアドバイザーが計算しても、企業価値の数字にばらつきが出ません。安定した評価値が算出できれば、複数のアドバイザーに計算を依頼せずに済みます。

特に企業が保有する無形資産が評価の対象とならないケースであれば、有形資産のみを純粋に評価すればよいため、資産方式は非常にシンプルでわかりやすい算出方式です。

資産方式のデメリット

資産方式の算出方法には、将来的に企業の業績がどのようになるかといった予測的な観点は入りません。あくまでも現在の資産に基づいた算出方法であるため、企業の業績が良くなるか悪くなるかなど、将来の収益獲得能力が反映できないでしょう。

たとえば、M&Aの企業価値を算出した後に会社内部での不正や粉飾決算、簿外負債などのネガティブな要素が見つかった場合、将来的に企業価値が下がる可能性が高いため計算し直す必要があります。

企業には、このようなリスクが潜んでいる可能性があるため、一度、M&A評価を算出した後にリスクが表面化すると、今まで算出に費やした時間が完全に無駄になってしまうのがデメリットです。

資産が現金の場合は正確な評価が可能ですが、無形資産など絶対的評価ができない資産価値を計算する際は、市場の状況や算出するアドバイザーなどによって大きな差が生じる場合があります。

非上場企業でも比較的規模が大きい企業のM&Aを行う際は、正確な評価を算定しにくいでしょう。

②収益方式

収益方式は、資産方式の欠点を補うために、企業における将来の収益がどうなるかを予測して計算します。企業の現在と将来の価値両方を表せるため、評価方法として最も優れた方法でしょう。ただ、この予測はアナリストによって全く違った算出結果が出ることもあります。

過去の実績から判断した収益の伸び率に基づいて計算されるため、客観性に欠けた算出結果ともいえるでしょう。収益方式の算出方法で代表的な計算法は、2つあります。

将来的に得られるキャッシュフローに資本還元率を当てはめて現在の価値に割り引く「DCF法」と、企業の事業計画書に基づいて、将来どれくらいの収益を上げられるか計算して企業価値を算出する「収益還元法」です。

③併用方式

非上場企業価値評価で、企業の総資産に基づいた資産方式の算出方法と、収益の予測に基づいた収益方式の算出方法の両方を併用し、双方のメリットを生かしたM&Aの企業価値算出方法が併用方式です。

現在、企業が保有する資産と今後、将来的に生み出すであろうと予測される収益における複数の要素を検討材料に取り込むため、M&Aの評価算出結果が安定し算定結果の不安定さが少なくなるメリットがあります。

併用方式のデメリット

併用方式は、資産に着目するか収益に着目するかがあいまいで、どの部分を重要視して算出するかが課題の1つです。M&Aアナリストによって資産や収益などの着目する項目が全く変わるため、客観性や公平性に欠けた算出方法がデメリットといえます。

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5. M&Aの企業価値評価における3つのアプローチ

M&Aにおける企業価値評価にある算出方法のアプローチとして、「インカム・アプローチ」「マーケット・アプローチ」「アセット(コスト)・アプローチ」の3種類があります。

インカム・アプローチは「収益」、マーケット・アプローチは「市場」、アセット(コスト)・アプローチは「資産」を基にしたアプローチです。以下の動画でも解説しておりますので、ぜひご覧ください。

6. M&Aの企業価値評価の方法:インカム・アプローチ

インカム・アプローチは、対象企業が将来生み出すと予測される収益やキャッシュフローに基づいて企業価値を算出する方法です。将来の価値を、事業リスクなどを反映した割引率を用いて現在価値に割り引くことで評価します。

企業の将来性や個別の収益力を評価に直接反映できるため、M&Aの実務で最も重視されるアプローチの一つです。代表的な手法には、フリーキャッシュフローを割り引く「DCF法」や、配当額を基準とする「配当還元法」などがあります。

①DCF法

DCF法とは「Discounted Cash Flow(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー)法」の略称で、M&Aにおける企業価値評価の算出方法で最も代表的な評価方法です。

DCF法の企業価値評価では、将来、入るであろうと予測できる収益、キャッシュフローを、企業における評価基準の計算式に使用する「資本還元率」により1株当たりの株価を計算します。

DCF法では、将来のフリーキャッシュフローを予測し、それを加重平均資本コスト(WACC)で現在価値に割り引くことで事業価値を算出します。この事業価値に非事業用資産を加え、有利子負債などを差し引くことで株式価値を算定します。単純な式で表せるものではなく、事業計画の策定や割引率の設定など、複数の専門的なステップが必要です。

DCF法は、将来における収益の見通しを、現時点での価値に置き直して企業の評価額を算出する方法です。

このような算出方法が必要な理由は、たとえば同じ1,000円でも現在の価値と10年後の価値は違うため、時間の経過などによる価値の減少分を割り引く必要が出ることによります。

DCF法におけるメリット

DCF法のメリットは、企業の将来的な収益、キャッシュフローに基づいて計算されるため、基本的なM&Aの評価基準のなかで最も理にかなった評価基準で安定した評価の計算ができることです。M&A投資の採算性が明確になるため、現在、評価基準で最もポピュラーに利用されています。

DCF法におけるデメリット

DCF法のデメリットは、企業における将来性の分析を正確に行う必要があるため、大変な労力と時間がかかることです。M&Aに要する時間があまりない場合は、じっくりと計算する余裕がなくなります。

将来得られる収益の算出方法が、M&Aアナリストによって予測されただけであることは非常に不確定な要素です。不確定要素が取り入れられ、客観的な判断材料が乏しいこともDCF法のデメリットになるでしょう。

②収益還元法

収益還元法における企業価値評価とは、企業の事業計画書に基づいて、将来どれくらい収益をあげられるか計算し、資本還元率を利用した算出方法によって、現在の収益に還元して割り出すM&A評価方法です。

収益還元法のメリットとデメリット

収益還元法のメリットは、事業計画書が用意されているので将来どのくらい収益を上げられるかが簡単に計算できる点です。特にM&Aにおける初期段階で企業価値の概算を算出するのに、大変便利な方法といえます。

収益還元法のデメリットは、企業の収益が一定に成長することを前提として計算されるため、不確定要素が加味されていません。こうした予測に基づいた算出方法は、計算するM&Aアナリストの主観が入るため客観性に欠けるといえます。

収益還元法とDCF法の大きな違い

将来、発生するであろう企業価値を計算し、現在の価値に還元して割り出す考え方はDCF法と似ていなくもありません。現にM&A以外の不動産投資などでは、DCF法と収益還元法は同じ意味で使われるケースもあります。

M&AにおけるDCF法と収益還元法の大きな違いは、DCF法の評価基準はキャッシュフローの変動性を予測するため、収益還元法よりもフレキシブルな計算ができる点です。

一方、収益還元法は、将来の収益が現在と同じであるとする仮説に基づいた評価基準のため、DCF法と比較するとフレキシブルな計算ができず、外的要因の変化が起こった際に対応できません

③配当還元法

配当還元法は、過去2年間における株式の配当金額を10%の利率で還元し、株式の価格を求めるM&A評価基準です。配当還元法での企業価値評価は、基本的な考え方としては前述のDCF法と同じになります。

ただ一般的には、経営者の采配によって配当金額に変動が生じます。企業の決算時における配当金額が自在に操作されるので、M&Aの評価基準として配当還元法が使用されることはほとんどありません。前述のDCF法を取り入れるのが一般的です。

【関連】インカムアプローチとは?企業価値評価法としての特徴・種類やメリット・デメリットまで解説!

7. M&Aの企業価値評価の方法:マーケット・アプローチ

マーケット・アプローチとは、マーケット=市場が決めた企業価値に基づいて企業価値を算出するM&A評価基準方法です。上場企業であれば、証券取引所で公開されている株価を基に、M&Aで買収する企業と類似した企業を選定・比較して計算を行います。

できる限り近い条件の企業を選定するために、同じ業界における市場の評価を基に企業価値を計算するケースが多いです。マーケット・アプローチで代表的なものには、「市場株価平均法」「類似会社比準法」「類似取引比較法」などがあります。

①市場株価平均法

市場株価平均法は、評価対象企業が上場会社の場合に利用する評価基準です。直近の株価だけでなく、過去3カ月程度の株価平均をM&A評価基準に取り入れます。これにより、市場の影響による株価の上下の影響を極力、減らせます。

②類似会社比準法

類似会社比準法とは、M&Aを行う企業に類似した上場企業を選定し、それぞれの財務状態を比較する方法です。買収対象が上場企業の場合は、株式市場で公開されている株価より時価総額を計算できます。

③類似取引比較法

類似取引比較法は「マルチプル法」ともいいます。M&A取引の類似した事例を用いた評価基準です。M&A取引事例が多い上場企業では、よく取り入れられます。買収企業が非上場企業の場合は、決算報告内容などが一部のみの公開であるため、同様のM&A事例があまりありません。

中小企業のM&Aではあまり利用されない評価基準です。選定するM&A事例によって、企業の評価基準が左右されるデメリットもあります。具体的に類似取引比較法の算出方法は以下のとおりです。

  • 評価対象企業と類似している上場企業を複数ピックアップする
  • 上記の各社が現在どれくらいの企業価値・株式価値があると評価されているのか計算する
  • 上記で導き出した値の平均値に関して計算式を使い、評価対象企業の財務指標やEBITDAをかけて、推定企業価値・推定株式価値を算定する

マルチプル法は、以下の動画と記事でも詳しく解説しています。

【関連】マルチプル法とは?企業価値方法としての採用メリット・計算方法・DCF法との違いなどをわかりやすく解説

④類似業種比較法

国税庁が財産評価のために採用する類似業種比準方式は、類似業種比較法です。評価する会社と事業内容が似た業種である複数の上場会社における株式価額の平均に、評価会社と似た業種の1株当たりにおける配当金額や年利益金額などの比準割合を乗じます。

算出結果に大きなぶれが出ないように評価できるのが特徴です。しかし、M&Aで用いる評価方法としては適しません。

【関連】マーケットアプローチとは?企業価値評価の方法をわかりやすく解説【実例あり】

8. M&Aの企業価値評価の方法:アセット(コスト)・アプローチ

「アセット・アプローチ(コスト・アプローチ)」とは、企業の純資産を基準に企業価値を決めるM&A評価基準です。アセットとは、一般的に資産や財産などを意味します。企業の純資産が基準であるため、客観的なM&A評価基準として大変優れています。

インカム・アプローチにおける「DCF法」のように事業計画の作成が不要なため、非常にシンプルなM&A評価基準です。一方、アセット(コスト)・アプローチによる企業価値評価は、企業が将来生み出す収益は加味されません。

今後も事業を継続する企業価値を算出する場合は、不向きな方法です。アセット(コスト)・アプローチによる企業価値評価は、事業計画書の作成が難しかったり、正確性に乏しい事業計画書しか入手できなかったりするケースに適した方法になります。

①簿価純資産法

簿価純資産法とは、企業の貸借対照表(バランスシート)をもとに純資産額を評価する方法です。中小企業などのM&A評価基準に多く使われています。

中小企業は株式の発行や売買がほとんど行われないため、先述したマーケット・アプローチを適用するのが難しく、貸借対照表の純資産額を基礎としたアセット(コスト)・アプローチが利用しやすいです。

ただし、実際のM&Aでは帳簿に記載の数字を修正し、適正な簿価で純資産額を評価します。中小企業は銀行借り入れのために、実際の帳簿を粉飾して記載するケースも多いため、適切な簿価へ修正しなければなりません。

②時価純資産法

時価純資産法は、評価の対象となる企業の資産を基に評価します。その際、負債も含めた有形無形、全ての資産を時価に置き換えて純資産を算出します。時価純資産法には、企業が今後、生み出すであろう収益、キャッシュフローなどの評価が含まれません。

再調達原価法について

再調達原価法は、企業の有形資産、無形資産、負債を現時点で取得する際の価格です。再調達原価法によって算出された時価純資産額は、買収する企業と同規模の資産の企業をもう1つ作る際に必要な金額です。

したがって、「M&Aを行うか、新しく企業を設立するか」の検討材料として非常に重要になります。

正味売却価額について

企業の売却価額は、企業が現状、保有する全ての資産を処分して得られる金額から、負債を弁済する際の残余額をさします。つまり、企業の清算時に株主が取得する金額の時価であり、これを使った評価方法が清算価値法です。

清算価値法について

清算価値法とは、現在、企業が保有する資産を全て処分することで入手できる金額を負債に当てて弁済する方法です。つまり、企業を解散して全て清算した場合に株主が得られる金額になります。

アセット(コスト)・アプローチのメリットとデメリット

アセット(コスト)・アプローチにおけるM&Aのメリットは、「評価基準が客観的に行える」ことと「算出方法がシンプルである」ことです。

一方、デメリットは、企業の資産価値は現在の状態に基づいて判断されるので将来的にどのように成長するかは検討しないため、M&Aを行う際に重要なポイントである、のれんの価値が判断材料に含まれないことです。

「インカム・アプローチ」「マーケット・アプローチ」「アセット(コスト)・アプローチ」の違いまとめ

インカム・アプローチは将来の収益予測による企業価値算出方法で、M&Aにおける最も標準的な企業評価基準アプローチです。マーケット・アプローチは市場価値による企業価値算出方法で、似た条件の企業を選定して、その企業の評価をもとに企業価値を計算します。

アセット(コスト)・アプローチは資産による企業価値算出方法です。現段階の資産をそのまま評価として使用し、評価が決まります。客観的な企業価値評価や概算の企業価値算出に大変便利な方法です。

3つのアプローチは、それぞれメリットもデメリットも持ち合わせています。企業の状態と市場の状況などによって、どのアプローチを選択するか検討することが必要です。

【関連】コストアプローチとは?メリットとデメリットから計算方法までを解説

中小企業のM&Aに適している企業価値評価の手法

上場企業同士のM&Aでは、将来の収益を反映する「インカムアプローチ」がよく使われ、類似企業と比較する「マーケットアプローチ」も併用されることが多いです。しかし、非上場の中堅・中小企業ではこれらの方法が適さないことがあります。

非上場企業には市場株価がなく、決算書も上場企業の水準に達していないことが多いため、正確性や信頼性に欠ける場合があります。会計処理の誤りや粉飾の可能性もあるため、買い手は決算書だけで安心できません。したがって、非上場の中堅・中小企業のM&Aでは、バランスシートや損益計算書を明確にした上で、それらを基に企業価値を評価する「コストアプローチ」が基本となります。

9. DCF法での算出方法のステップ

ここでは、企業価値評価で最もポピュラーともいえるDCF法について、算出手順ごとの概略を見てみましょう。

  1. フリーキャッシュフローを予測する
  2. 残存価値を求める
  3. 割引率を求める
  4. 事業価値を求める
  5. 非事業用資産を加える
  6. 有利子負債を差し引く

①フリーキャッシュフローを予測する

フリーキャッシュフローは企業が純粋な事業によって生み出すキャッシュフローで、経営者の判断によって自由な用途で利用できます。たとえば、株主への配当金や事業拡大の資金などです。フリーキャッシュフローの計算式は、以下のようになります。

  • フリーキャッシュフロー=税引き後営業利益+減価償却費-運転資本増加額-設備投資額

②残存価値を求める

残存価値とは、事業計画の期末時点における買収対象企業の事業価値のことです。残存価値は「Terminal Value=TV」とも表記されますが、その計算式は以下のようになります。

  • 残存価値=フリーキャッシュフロー×(1+永久成長率)÷(割引率-永久成長率)

なお、永久成長率とは、インフレ率、GDP成長率、過去の企業成長率などによって導き出すものですが、かなり専門的な内容となるため、詳細説明は割愛します。

③割引率を求める

割引率は、株主資本コストと負債資本コストを加重平均して求めた加重平均資本コストによって算出します。DCF法では、WACC(Weighted Average Cost of Capital=ウェイテッド・アベレージ・コスト・オブ・キャピタル)が加重平均資本コストとして用いられます。

④事業価値を求める

ここまでで算出したフリーキャッシュフローと残存価値を、加重平均資本コスト(WACC)によって現在価値に割り引くと、事業価値が算出されます。事業価値とは、会社の事業そのものの価値であり、その事業がどれだけの価値を生み出せるかを示す方法です。

⑤非事業用資産を加える

どの企業でも、事業に用いない資産(非事業用資産)を有しています。その非事業用資産を時価評価し、事業価値に加算したものが企業価値です。非事業用資産には、以下のようなものがあります。

  • 遊休資産
  • 有価証券
  • 貸付金
  • 出資金
  • 保険積立金
  • 敷金
  • 現金預金
  • 預け金
  • 売掛金
  • 棚卸し資産
  • 有形固定資産
  • 無形固定資産
  • 関連会社株式
  • 繰延税金資産
  • 繰越欠損金

⑥有利子負債を差し引く

上記のステップまでで企業価値は算出されていますが、DCF法では株主価値の算出まで行うことになっています。企業価値から有利子負債額を控除したものが、株主価値です。

【関連】DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)とは?計算式や割引率・メリット・デメリットを解説【企業価値算定】

10. 企業価値評価を依頼する専門家の選び方

企業価値評価は専門性が高く、依頼する専門家によって評価額が変動することもあります。自社の状況に合った専門家を選ぶことが重要です。

M&A仲介会社

M&A仲介会社は、売り手と買い手の間に立ち、中立的な立場でM&Aの成立をサポートする専門家です。豊富なM&A実績から、実務に即した企業価値評価を算定できる点が強みです。M&Aのプロセス全体を支援してくれるため、初めてM&Aを検討する企業にとって心強い存在となります。

FA(ファイナンシャル・アドバイザー)

FA(ファイナンシャル・アドバイザー)は、売り手または買い手のどちらか一方の専属アドバイザーとして、クライアントの利益最大化を目指します。M&A戦略の策定から交渉までを一貫してサポートし、より戦略的で有利な条件を引き出すための企業価値評価を行います。

公認会計士・税理士

公認会計士や税理士は、財務・会計・税務のプロフェッショナルです。特に、純資産価額法などのコスト・アプローチによる評価や、税務上の株価算定に強みを持ちます。顧問税理士に依頼すれば、自社の内情を深く理解したうえでの評価が期待できますが、M&Aの実務経験が豊富かどうかの確認は必要です。

11. 企業価値を高めるために意識すべき3つのポイント

ここでは、M&Aの企業価値評価で意識すべきポイントを当事会社別に紹介します。

譲渡側のポイント

譲渡側では、高い株式価値がつく会社の特徴を理解しておくことが大切です。

株式の価値が高くなる会社には、次の特徴があります。

  • しっかりと利益を出している
  • 会社の資産(たとえば貯金や施設)が多く、借金が少ない
  • 価値が上がる可能性のある資産をたくさん持っている

特に、ただ利益を出しているだけでなく、その利益がどれだけ効率的に出ているかが重要です。これを見るための一つの方法が「ROA」という指標です。ROAは、会社が持っている資産全体をどれだけ上手く使って利益を出しているかを示しています。具体的には、得られた利益を会社の資産額で割って計算します。

売り手としてのオーナーとしては、まずしっかりと利益を出しているかを確認することが大切です。

譲受側のポイント

譲受側の注意点は、株価(投資額)と投資判断基準についてです。

企業の売買を考えるとき、売る側は企業を手放すことを目指しますが、買う側はその後の経営が本当のスタート地点です。ただ単に企業を手に入れるだけではなく、しっかりとその企業を成長させて、期待した効果や利益を得ることが大切です。

買うとき、どれだけの金額を出すかを決める基準を「投資判断基準」といいます。この基準があれば、企業の価値に見合った適切な金額を支払うかどうかが分かります。つまり、高すぎる金額を払うことを避けることが可能です。大手の企業などは、しっかりとこの基準を決めて、どの企業を買うかを慎重に考えています。

ただし、買う側としては、自分たちの基準だけでなく、企業売買の一般的な価格帯も知っておくと、良い取引ができるでしょう。

12. まとめ:適切な企業価値評価でM&Aを成功に導く

企業価値評価とは、「会社の値段」を算出することです。企業価値評価は、以下3つの方法で算出できます。

  • インカム・アプローチ
  • マーケット・アプローチ
  • アセット(コスト)・アプローチ

売り手としては算出方法を詳しく知ることで、M&Aでどれくらいの売却価額になるか予想できます。売却価額を上げるためにどのような施策を打つべきか見えてきます。企業価値評価の方法をしっかりと理解し、できるだけ高い金額で会社や事業を売却しましょう。

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