2021年08月23日更新
内部統制とは?M&A、事業承継で求められる役割と導入方法を解説
M&A・事業承継の際、売り手側は内部統制を構築しておくことで買い手の評価を高めることができ、買い手側はM&A・事業承継後に円滑な事業引継ぎを果たすことができます。本記事では、M&A・事業承継における内部統制の役割や導入方法などについて解説していきます。
1. 内部統制とは?
内部統制とは、ずさんな管理や情報開示を行っていたり、不祥事を起こしたりする企業を減らすために、社内の統制システムを整備すること、またはその方法を指します。
日本では、大企業による重大な不祥事が相次いだこともあり、内部統制の必要性が強く求められるようになりました。
そのため、現在ではずさんな管理や情報開示を行っていたり、不祥事を起こしたりする大企業に対しては、内部統制の構築に関する法的責任が追及されるようになりました。
本記事では、M&A事業承継における内部統制の必要性について解説していきますが、まずは内部統制の基本的な知識について説明します。
内部統制の概要
日本の内部統制報告制度(J-SOX法)は、米国の制度を参考に導入されました。米国では、エンロンやワールドコムといった大企業による多額の粉飾決算が発生したことから、2002年にサーベンス・オクスリー法が生まれました。
また、日本では2004年に西武鉄道による有価証券報告書の虚偽記載が発覚し、その後毎年のように大企業による不祥事が発覚していきます。
大企業による不祥事が相次いだことをきっかけとして、日本の内部統制報告制度(J-SOX法)は導入されることとなりました。
J-SOX法
上記の出来事をきっかけとして、内部統制報告制度(J-SOX法)は、2008年度以降の事業年度から適用されるようになりました。
内部統制報告制度(J-SOX法)とは、上場企業に対して内部統制報告書の提出と外部監査の受け入れを義務化した制度であり、内部統制報告制度(J-SOX法)は金融商品取引法のなかで定められています。
内部統制報告制度(J-SOX法)が導入されたことによって、上場企業が外部に対して財務などに関する適正な説明責任を負うようになりました。これにより、それまでずさんだった上場企業の内部統制は急速に整備されていくようになります。
内部統制を導入する際のそれぞれの役割
内部統制を適切に導入する際は、それぞれの関係者が役割と責任を果たす必要があります。本節では、内部統制を導入する際のそれぞれの役割について解説します。
- 経営者
- 取締役会
- 監査役・監査委員会
- 内部監査人
- その他(組織内部)
1.経営者
経営者には、適正な内部統制の構築責任があります。内部統制に必要なルールを作成し、体系的に整備するのは経営者の仕事です。
内部統制報告制度(J-SOX法)導入以前は、社内ルールやマニュアルをきちんと整備しない経営者や、内部監査をきちんと行わない経営者が多くみられました。
しかし、内部統制報告制度(J-SOX法)が導入されてからは、ルールやマニュアルが整備され、内部監査が適正に行われるようになっています。
また、経営者は外部監査人と内部監査人などによる内部統制の有効性評価結果を受けて、内部統制報告書を提出する義務を負います。
そのため、内部統制報告書を提出しなかったり内容に虚偽があったりした場合は、経営者が責任を負うこととなります。
2.取締役会
取締役会は経営者の言動を監視し、問題がある場合は修正する役割を果たします。
内部統制がしっかりと構築できている組織の場合は、経営者と取締役がそれぞれ自律した関係にあり、取締役会が経営者に対して問題点をきちんと指摘できる環境にあります。
一方で、内部統制がとれていない組織の場合は、取締役会よりも経営者の権力が圧倒的に強い状態で、問題点があっても十分に指摘できないという問題を持つこととなります。
3.監査役・監査委員会
監査役・監査委員会は、内部監査人と協力して企業の内部統制リスクを洗い出し、適正な評価を下す役割を果たします。
前述のように、内部統制報告制度(J-SOX法)の導入前まで、外部監査の受け入れは義務化されていませんでした。そのため、内部統制の評価を行う内部監査が機能していない上場企業も少なくありませんでした。
しかし、内部統制報告制度(J-SOX法)導入後は、外部監査人も経営者や内部監査人が行った内部統制の評価を客観的に検証するようになったことから、有効な評価が行われるようになっています。
4.内部監査人
内部監査人は主に財務報告の内容を確認しています。取締役会と同じく、内部監査人は財務報告の内容に問題があれば経営者に対して率直に進言しなければなりません。
しかし、内部統制がとれていない組織の場合、内部監査人が経営者に対して進言できないという問題が発生します。
そのため、経営者に対して問題点を進言できる組織作りと、内部監査人をサポートする外部監査役の存在が重要になります。
5.その他(組織内部)
経営者・取締役会・監査人以外にも、従業員は日常業務の統制活動に深く関わることになります。日常業務の統制活動には、以下の種類があります。
- 仕入先管理
- 発注管理
- 検収管理
- 支払管理
- 在庫管理
- 得意先管理
- 受注管理
- 出荷管理
- 入金管理
- 個人情報の取得
- 個人情報の利用・加工
- 個人情報の保管
- 個人情報の管理
- 委託先管理
従業員がこれらの管理を適正に行うことで、内部統制もしっかりと取ることができます。また、株主・投資家も内部統制に深く関わってきます。
株主・投資家は、経営者が内部統制をきちんと行わなかった結果損失を被った場合、株主代表訴訟を提起したり情報開示請求をしたりする権利を持っています。つまり、株主・投資家は内部統制の監視役も担っているといえます。
内部統制を導入する目的と要素
内部統制は、4つの目的と6つの基本的要素から成り立っています。4つの目標とは、内部統制によって成し遂げる目標のことであり、6つの要素とは内部統制を実現するための手段のことです。本節では、内部統制に欠かせない、目的と基本的要素について解説します。
【内部統制の目的】
- 業務の有効性および効率性
- 財務報告の信頼性
- 事業活動に関わる法令等の遵守
- 資産の保全
【内部統制の基本的要素】
- ITへの対応
- モニタリング
- 情報と伝達
- 統制活動
- リスク評価と対応
- 統制環境
1.業務の有効性および効率性
業務の有効性とは、事業や業務がどの程度達成されるかを指し、業務の効率性とは、経営資源がどの程度合理的に活用されているかを指します。
企業は事業活動を行うなかで、さまざまな業務目標の達成を目指します。そのなか中でも、業務の有効性は、例えば販売促進戦略の効果や、顧客満足度など、業務の効果を高めることを目的とします。
そして、業務の効率性は、製造コストや事務コストなどを削減し、効率良く事業を進めていくことを目指します。
2.財務報告の信頼性
財務報告の信頼性とは、企業が従業員や取引先、株主・投資家、金融機関、規制当局などに対して、信頼できる財務情報を開示することを目指すことを指します。
これらのステークホルダーは、企業が開示した財務報告が正しいことを前提として分析・判断を下していきます。
しかし、財務報告に誤りがあったり虚偽記載があったりすると、ステークホルダーは判断を誤ることとなり、大きな損失を被る可能性がでてきます。
そのような事態を防ぐため、後述する内部統制の基本的要素を適切に遂行することで、財務報告の信頼性を担保できるようになります。
3.事業活動に関わる法令等の遵守
企業の法令遵守(コンプライアンス)は、近年非常に重視されるようになりました。法令遵守(コンプライアンス)が重視されるようになった背景には、これまで名のある大企業が相次いで起こしてきた重大な法令違反があります。
企業が守るべきコンプライアンスは多岐に渡りますが、大きく分けると以下のものが挙げられます。
- 法令
- 法令以外の基準等
- 社内ルール
法令法令以外の基準など社内ルールこれらを遵守していくことで、企業内で健全な内部統制が構築されていき、これは企業の存続にも関わってきます。
4.資産の保全
資産の保全とは、資産の取得と使用、処分がきちんと行われるように資産を管理することを指します。近年は有形資産だけでなく、無形資産の保全が重視されるようになってきました。
例えば、顧客の情報を不正な方法で取得したり、目的外のことに使用したり、顧客情報の処分方法が適切でなかったために個人情報が流出したりした場合、その企業の責任が厳しく追及されるようになっています。
このような有形資産・無形資産のずさんな取り扱いは企業の信頼性を著しく落とし、時には企業の存続にさえ影響を及ぼしかねません。
1.ITへの対応
企業経営にとってITの活用は欠かせないものとなり、内部統制の目的を達成するにはITへの適切な対応が重要になっています。
ITへの対応には、「IT環境への対応」と「ITの利用および統制」があります。IT環境への対応とは、内部統制の目的を達成するためにIT環境を適切に構築することです。
また、ITの利用および統制とは、内部統制の要素を有効に機能させるためにITを利用することと、IT活用の方針や手続きを決めることを指します。
2.モニタリング
モニタリングとは、内部統制がしっかりと機能しているかどうかを監視し評価する仕組みを指します。
最適な内部統制は1度完成すればそれでよいわけではなく、常に変化していくものなので、モニタリングを行いながら最適な内部統制に修正していかなければなりません。
モニタリングには、日常的モニタリングと独立的評価があります。日常的モニタリングとは、日常的に行われる通常業務のなかで行われるモニタリングのことです。
また、独立的評価とは、通常業務からは独立して行われるモニタリングのことで、経営者や取締役会、監査役、内部監査人などによって行われるモニタリングのことです。
モニタリングの結果、問題点が発覚した場合は、改善を求めて責任者に報告しなければなりません。
3.情報と伝達
内部統制を適切に機能させるには、情報を適切なタイミングで正確に社内または外部に伝える必要があります。
また、情報を伝達する際は、その情報の信頼性をしっかりと確認し、伝えた相手が利用できるような形で提供しなければなりません。
社内での情報伝達の場合は、トップが発信した情報が下の方までしっかりと正確に伝わることが重要です。また、下から上がってきた情報が経営陣まできちんと上がってくる仕組み作りも必要です。
また、外部との情報伝達の場合は、適切な情報を適切なタイミングで外部へ発信する体制を整えると同時に、外部からの重要な情報を適切に把握・分析する仕組み作りが重要です。
4.統制活動
統制活動とは、経営者の指示が適切に社内へ伝わるような体制を整えることを指します。
適切に統制活動を行うには、全社共通のルールを定めた方がよい場合と、部門ごとにルールを定めた方がよい場合とがあります。
統制活動の内容によって、その範囲までルールを適用するのが最適かを適切に判断する必要があります。また、経営者の指示が適切に伝わるよう、人材配置も適切に行う必要があります。
指示系統が重複していたり、分散していたりすることで統制活動がうまくいかない場合は、職責を調整することで解決できるケースもあります。
5.リスク評価と対応
内部統制を構築するには、4つの目的達成に悪影響を及ぼすリスクを洗い出し、適切にリスクコントロールする必要があります。リスクの種類には、内部環境・外部環境・業務プロセスの3つがあります。
すべてのリスクを洗い出しコントロールすることは簡単ではありませんが、一般的によく起こりうるリスクを一覧で確認しながら、リスク評価と対応を行っていく方法もあります。
【リスクの対応方法】
- 回避
- 低減
- 移転
- 受容
回避とは、リスク要因を含む活動を回避することで、低減とはリスクの影響を弱めることです。また、移転とはリスク要因を外部へ移すことで、受容とはリスクに対する対策をせず受け入れることを指します。
これらの対応方法をうまく用いながら、リスクのコントロールを行っていきます。
6.統制環境
統制環境とは、企業風土や従業員の意識に影響を与える、さまざまな統制の要素を指します。
【統制環境の主な種類】
- 経営方針
- 経営者の価値観
- 企業の倫理観
- 権限の振り分け
- 人材管理
- 取締役会・監査役による監視
経営者が経営方針や経営態度で発信するメッセージは、統制環境に大きな影響を与えます。経営方針や企業倫理が従業員にまで浸透しているかどうかも重要です。
また、適切な部署に適切な権限が付与されており、適切な人材配置が行われていることも、統制環境には必要です。
そのほか、取締役会や監査役などによる監視が機能しているかどうかという点も、健全な統制環境には必要な要素です。
内部統制を導入する際の課題
内部統制の整備と運用には、多くの費用と時間がかかります。また、最適な内部統制を構築できたからといって、トラブルが起きないとは限りません。
いくらルールをマニュアル化したとしても、人為的なミスを完全になくすことはできません。また、想定外のトラブルが起きることもあります。
例えば、前述のITへの対応を万全に行ったつもりでも、ハッキングによって個人情報が抜き取られてしまうというような事例は少なくありません。
そのため、経営者は、内部統制の整備と運用をどの分野にどの程度優先して行うかなどを、慎重に検討する必要があります。
内部体制とコーポレート・ガバナンスの違い
内部統制とコーポレート・ガバナンスは混同されがちですが、コーポレート・ガバナンスは内部統制のなかのひとつであるといえます。
コーポレート・ガバナンスとは、各ステークホルダーが経営者の行動を監視するために行われるものであり、前述した4つの目的と6つの基本的要素のなかに含まれています。
なお、コンプライアンスもよく内部体制やコーポレート・ガバナンスと混同されがちですが、コンプライアンスも4つの目的と6つの基本的要素のなかに含まれています。
2. M&A、事業承継で求められる内部統制の役割
通常業務のなかで内部統制が必要なことは浸透してきていますが、M&A・事業承継時の内部統制はあまり意識していない企業がほとんどです。
M&A・事業承継時の内部統制は、売り手・買い手ともに重要です。売り手側はM&A・事業承継の際に内部統制がしっかりと構築できていれば企業価値を高めることができ、買い手の評価を高めることができます。
また、買い手側はM&A・事業承継における買収リスクを判断する重要な材料になります。さらに、買い手側は、M&A後に売り手企業の内部統制を再構築していかなければなりません。
M&Aには成功しても、M&A後の内部統制の構築に失敗すると売り手企業内は混乱してしまい、さまざまなリスクを抱えることにもなりかねません。
そのため、M&A・事業承継の際はしっかりと内部統制の構築と運用ができているか確認し、M&A・事業承継後は内部統制を最適な状態に再構築し直す必要があります。
3. 内部統制の導入方法
内部統制の導入は戦略的に進めていく必要があります。本章では、内部統制の導入方法について、その概要を解説します。
- 内部統制の整備・運用を行う
- 役割を分担する
- 効果を測定する
1.内部統制の整備・運用を行う
内部統制の整備とは、ルールをマニュアル化し、社内に浸透している状態を指します。また、内部統制の運用とは、マニュアル化したルールを従業員が把握し、それぞれの役割を果たしている状態です。
内部統制のマニュアルを一般化することは簡単ではありません。というのは、企業によって状況が大きく異なるからです。
特に、日本企業は欧米企業に比べて、内部統制のマニュアル化が進んでいないといわれています。
内部統制の整備・運用を効果的に行うには、自社の状況を客観的かつ的確に把握し、自社に合った方法を工夫しながら作り上げていかなければなりません。
2.役割を分担する
前述したように、内部統制は通常業務のなかで日常的に行われるものなので、社内関係者それぞれの役割分担が重要です。
経営者には全体を取り仕切る役割と責任があり、取締役会には方針の決定や経営者を監視する役割と責任があります。
また、監査役・監査委員会・内部監査人は内部統制のモニタリング機能を果たし、そのほかの従業員はそれぞれの担当業務に応じ、さまざまな役割と責任を担っています。これら役割分担が適切に機能することで、内部統制の導入は成功したといえます。
3.効果を測定する
内部統制は導入が完了すれば、それで終わりというわけではありません。必要となる内部統制は状況に応じて日々変わっていきます。
そのため、内部統制の効果を定期的に測定し、問題が出てきた点は新たな形に修正していくなどの対応が必要です。
しかし、徹底的に行うとなると多くの費用と時間がかかるため、どこまで行うかのバランスはよく検討する必要があります。
4. 内部統制やM&Aなどにおすすめの相談先
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5. まとめ
本記事では、M&A・事業承継における内部統制の役割や、導入方法などについて解説してきました。
内部統制とは、ずさんな管理や情報開示を行っていたり、不祥事を起こしたりする企業を減らすために、社内の統制システムを整備すること、またはその方法のことを指します。
内部統制は4つの目的と6つの基本的要素から成り立っています。内務統制を導入する際は、それらをしっかり把握したうえで、戦略的に進めていくことが重要です。
【内部統制を導入する際のそれぞれの役割】
- 経営者
- 取締役会
- 監査役・監査委員会
- 内部監査人
- その他(組織内部)
【内部統制の目的】
- 業務の有効性および効率性
- 財務報告の信頼性
- 事業活動に関わる法令等の遵守
- 資産の保全
【内部統制の基本的要素】
- ITへの対応
- モニタリング
- 情報と伝達
- 統制活動
- リスク評価と対応
- 統制環境
【内部統制の導入方法】
- 内部統制の整備・運用を行う
- 役割を分担する
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