M&A手法の株式譲渡とは?事業譲渡との違い、メリット・デメリット、手続き方法を解説

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取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

中小企業がM&Aを株式譲渡で行う場合、株主である経営者は法人相手に株式を全て売却する形が多くなります。本記事では、株式譲渡の注意点や手続きの流れ、メリット・デメリット、発生する税金、ほかのM&Aスキームとの違いなどについてまとめました。

目次

  1. M&Aの株式譲渡とは
  2. M&Aの株式譲渡を行うメリット
  3. M&Aの株式譲渡を行うデメリット
  4. M&Aの株式譲渡の手続き方法
  5. M&Aの株式譲渡に必要な書類
  6. M&Aの株式譲渡を行う際の注意点
  7. M&Aの株式譲渡の成立期間
  8. M&Aの株式譲渡で必要な会計処理
  9. M&Aの株式譲渡で発生する税金
  10. 株式譲渡によるM&A事例5選【2021年最新】
  11. M&Aの株式譲渡に関する相談先
  12. M&Aの株式譲渡まとめ
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1. M&Aの株式譲渡とは

株式譲渡でのM&Aとは

M&A(Mergers and Acquisitions=合併買収)には、さまざまなスキーム(手法)があります。それらの中の代表的でオーソドックスなスキームが、株式譲渡です。上図は、株式譲渡の概念を一例で示しています。

A社の独占的株主Aが、所有する全株式をB社に譲渡(売却)した結果、新たな株主(経営者)となったB社はA社にとって親会社であり、B社の意向で経営陣は新役員に刷新された意味合いです。

このように株式譲渡における株式の取引は、会社の経営権・経営体制に直結します。そのため、譲渡側が非上場の中小企業である際に多く用いられるスキームとして、株式譲渡があるのです。

株式の買い付け方法

株式譲渡は比較的に手続きが簡単なことから、最も多く採用されているM&Aスキームです。株式譲渡の買い手側から見て、具体的な取引方法(買い付け方法)は以下の3つがあります。

  • 市場買い付け
  • 公開買い付け(TOB
  • 相対取引

市場買い付けによる株式譲渡

市場買い付けとは、上場会社の株式を上場株式市場での取引を通じて買い集める方法です。市場取引なのでいくら買っても構わないように思われますが、「5%ルール」の規定が設けられています。

これは、株を買い付けている相手会社の発行済株式総数か、潜在株式総数の合計の5%を超えて取得した場合、その取得日より5営業日以内に、大量保有報告書を管轄の財務局へ提出しなければならない規定です。

この規定により、多数の取引参加者が存在する上場株式市場での買い付けであっても、大量に株式を買い付けると動向が明らかになってしまいます。

その結果、株価が上昇し買収金額の高騰につながってしまうため、過半数の株式取得を目指すような場合には、市場買い付けが選択されることはほとんどありません。

公開買い付けによる株式譲渡

公開買い付け(TOB=Take Over Bid)は、上場会社の株式について、買い付け期間・買い付け数量・買い付け価格などを提示したうえで、市場外で一括して買い付ける方法です。市場買い付けよりも明確に、経営権の取得を目的として行われます。

このTOBを行うにあたっての金融商品取引法上の規制が、3分の1ルールです。上場会社の株式の所有割合が3分の1を超える買い付けを行う場合には、TOBを行う必要があります。

ただし、買い付けへの応募状況を見て、目的とする支配権獲得に至らない場合、結果として買い付けを一切行わないことも可能です。

相対取引による株式譲渡

相対取引は、売り手側と買い手側の当事者同士の直接的な交渉によって株式を売買します。非上場株式を売買する場合は、この相対取引による方法しかありません。

相対取引の場合、対象会社の株主が複数いる場合、各株主との個別交渉で株主ごとに売買価格を決めるのではなく、全ての株主に対し同一価格で買い取りを行うのが一般的です。

株式譲渡と事業譲渡の違い

事業譲渡とは、上図のように売り手側の事業を買い手側に譲渡するスキームです。一部の事業の場合もあれば全ての事業の場合もありますが、いずれにしても会社組織は売り手側の手元に残ります。つまり、売り手側は会社の経営権を保ったまま事業再編できるのです。

株式譲渡は会社の経営権自体を譲渡するものですから、その点が絶対的に異なります。

株式譲渡と株式交換の違い

株式交換は、2社間において一方を完全子会社化する際に用いられるM&Aスキームです。上図の例で説明すると、A社の株主がその株式をB社に全て譲渡することによって、B社はA社の完全親会社となります。

この場合、A社株主への対価としてB社の株式交付が法令により認められており、これが株式交換という名称の由来です(対価に現金を用いることも可能)。法令に定められた取引方法であるため、手続きや要件など規定どおりに行わなければなりません。

以上のように、手続きが法令で厳格に定まっている点と現金以外の対価が認められている点が、株式譲渡との最大の違いです。なお、完全子会社化しない場合でも株式交換と同様の手法が行える「株式交付」という制度が、2021(令和3)年3月から施行されました。

株式譲渡と合併の違い

合併は、複数の企業を1つに統合するM&Aスキームです。統合によって、存続会社以外の当時会社は解散・消滅します(これを消滅会社という)。上図左側が、既存の会社の1社が存続会社となる吸収合併、同右側が、新設会社が存続会社となる新設合併です。

このように合併では、存続会社以外は統合され消滅しています。株式譲渡の場合、経営権は譲渡しても売却側の独立性・会社組織は保たれたままであり、この点が合併と株式譲渡の大きく異なる点です。

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2. M&Aの株式譲渡を行うメリット

M&Aの株式譲渡を行うメリット

M&Aにおいて株式譲渡を選択した場合、主として以下6つのメリットが期待できます。

  1. 手続きが簡単
  2. 資産を受け継ぐことが可能
  3. 売却益を得る
  4. 株主主導のM&Aである
  5. 節税が可能
  6. 後継者問題が解決

①手続きが簡単

株式譲渡は、売り手側の取引先や従業員、債権者など全てを包括して承継するM&Aです。事業譲渡において必要な、債権者や従業員など個別同意を得るといった手続きはいりません。

取締役会や株主総会で承認を得て、株主名簿を書き換えることで手続きが完了しますので、手続きにかかる時間を短縮し、またコストが抑えられます。

②資産を受け継ぐことが可能

買い手側の観点からは、売り手側の資産をそのまま入手できるのがメリットです。資産とは、建物や土地、設備などのほかに、ブランド力や技術力、ノウハウや知的財産、営業エリアといった無形の資産も含まれます。

買い手側にとっては、売り手側の資産と自社の資産を組み合わせ、シナジー効果創出が可能となるのです。

③売却益を得る

売り手側は、株式譲渡で売却益を得られます。売り手側の経営者が創業者である場合、これが創業者利益です。非上場企業では、株主は流動性の低い株式の売却に苦労しますが、株式譲渡では契約手続き完了後に現金を受け取れます。

経営者は株式譲渡で得たまとまった現金を、老後の生活資金にあてたり、新たな事業の元手にしたり自由に使えるのです。

④株主主導のM&Aである

株式譲渡の売り手側は、会社ではなくその会社の所有者=株主です。また、中小企業の場合は、経営者が株主を兼ねているケースがほとんどですから、経営者兼株主に決定権が集中しているといえます。

また、事業譲渡における債権者や従業員の個別同意も不要であることから、現実的にはほとんど反対は不可能といえるくらい、株主の意志だけでM&Aを進められます。

⑤節税が可能

税率だけを見た場合、株式譲渡は事業譲渡に比べて低いです。売り手側から見た、株式譲渡と事業譲渡にかかる税金の違いは以下のとおりです(2021年6月現在の税率)。

  税金の種類 税率
株式譲渡 所得税+住民税 譲渡益に対して20.135%
事業譲渡 消費税 課税資産の売買価格に対して10%
法人税 譲渡益に対して約33%
※課税資産:土地以外の有形固定資産、無形固定資産、棚卸資産、営業権(のれん代)
 非課税資産:土地、有価証券、債権

ただし、株式譲渡は対価を受け取るのが株主なので経営者個人への課税です。事業譲渡は対価を受け取るのは会社であり、課税は会社が受けます。また、事業譲渡における消費税は、納付義務が譲渡側にあるものの実際にそれを負担するのは譲受側です。

⑥後継者問題が解決

中小企業では少子化の影響で後継者不足となっている企業が増えており、その結果、廃業した会社や廃業を予定している会社が多く存在します。近年、この後継者問題の解決手段として、株式譲渡が用いられるようになってきました。

つまり、株式譲渡で会社を売却すれば、その買い手が新たな経営者(後継者)となり、会社は存続することになります。

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3. M&Aの株式譲渡を行うデメリット

M&Aの株式譲渡を行うデメリット

株式譲渡にも気をつけなければならないデメリットがあります。主なデメリットは以下の6点です。

  1. 債務などは引き継がれる
  2. のれん償却費が損金算入できない
  3. 特定の事業のみを売れない
  4. 株主をまとめるのが大変
  5. 買収資金が必要
  6. 税金の発生

①債務などは引き継がれる

株式譲渡の特徴は、会社を丸ごと引き継ぐことです。したがって、資産や権利などとともに債務も引き継ぎます。把握できている債務ならまだいいですが、簿外債務などが株式譲渡後に発覚すると、経営にダメージを及ぼすかもしれません。

株式譲渡契約を締結する前に、デューデリジェンス(売却企業に対する精密監査)を徹底して行うことが肝要です。

②のれん償却費が損金算入できない

M&Aでは、買収価額を決める際に企業価値評価(バリュエーション)を行います。このとき、対象会社の資産などの金額に加えて、ブランド価値や会社の将来性など「見えない価値」も上乗せするのが常です。この上乗せ部分が、のれん代となります。

しかし、株式譲渡では、こののれん部分の金額を税法上の損金に算入できません。一方、事業譲渡では、のれんを5年間にわたり損金に算入できます。

③特定の事業のみを売れない

株式譲渡では、事業譲渡のように特定の事業や資産のみを選別して売れません。まず、根本に立ち返り、会社組織を手元に残したいのか、全て手放していいのか、よく検討してスキームを選択しましょう。

④株主をまとめるのが大変

株券発行会社の場合は、譲渡する株券を株式譲渡実施前に集めておかなければなりません。株主が経営者のみならいいですが、中小企業では親類や知人、役員などに株式を持たせているケースもあります。

仮に退職した役員や疎遠となった知人などが株式を所有したままの状態だと、株式の取りまとめだけでかなりの労力を割かなくてはなりません。また、株券不発行会社であっても、株式譲渡は当事者である株主の合意がなければ成立しないことに注意が必要です。

⑤買収資金が必要

株式譲渡の場合、株式を買い取る対価は現金です。そのため、手持ち資金が足りない場合は買収資金を銀行などから調達する必要があります。融資は絶対ではありませんから、買収資金調達が買い手側のネックになり得るのです。

⑥税金の発生

株式譲渡は事業譲渡より適用される税率が低いとはいえ、会社を丸ごと売却する分、事業の一部のみを売却する事業譲渡に比べれば売買金額自体は高額です。したがって、課税額で考えれば、一概に株式譲渡の方が税金は低いとは限りません。

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4. M&Aの株式譲渡の手続き方法

M&Aの株式譲渡の手続き方法

株式譲渡を進めるには、法的に従わなければならない手続きを踏む必要があり注意が必要です。その一連の手続きについて概要を説明します。なお、デューデリジェンスは法的に定められた手続きではありませんが、プロセスとして手続きに関連するため説明に加えました。

  1. 株式譲渡の承認請求
  2. 取締役会・臨時株主総会での承認決議
  3. 株式譲渡の承認通知
  4. デューデリジェンスの実施
  5. 株式譲渡契約の締結
  6. 株主名簿の書き換え・証明書の交付

①株式譲渡の承認請求

株式譲渡で譲渡制限株式を売却する場合、株主は譲渡承認請求書に以下の事項を記載して会社に株式売却の承認を求める手続きをします。

  • 譲渡する株式の種類および数
  • 株式を譲渡する相手方の氏名または名称
ただし、中小企業の場合は代表者(経営者)兼株主である場合が多いので、請求書を提出する手続きの前に会社との合意は事実上、得られていることになります。

譲渡制限株式の確認方法

譲渡制限株式かどうかの確認は、定款または登記事項証明書で行えます。なお、株券発行会社であるかどうかの確認も同様です。

②取締役会・臨時株主総会での承認決議

譲渡承認請求書が提出された場合、それを承認する手続きをする機関は、会社の定款内容によって異なります。

取締役会設置会社の場合

取締役会設置会社の場合、原則的に取締役会で譲渡承認請求書の承認・非承認を決める手続きをする必要があります。ただし、定款で定めれば取締役会設置会社であっても、株主総会でこの手続きをするのも可能です。

非取締役会設置会社の場合

取締役会を設置していない会社の場合は、株主総会で譲渡承認請求書の承認・非承認を決める手続きをする必要があります。

③株式譲渡の承認通知

取締役会または株主総会で譲渡承認請求書が承認された場合、会社はそれを請求者(株主)に通知する手続きが必要です。承認の場合は速やかに通知手続きをすれば問題ないですが、非承認の場合には以下の承認期間に注意しましょう。

承認期間について

会社が、譲渡承認請求の日から2週間(定款で短縮するのも可能)以内に株主に承認・非承認の通知手続きをしなかった場合、会社は譲渡を承認したものと認められると会社法で定められています。

つまり、承認しないつもりであっても2週間以内に通知しなければ、承認したことになってしまうのです。ただし、請求者との合意があれば2週間以上に変更するのも可能ですので、2週間での通知手続きが難しい場合は早めに請求者とその旨を協議しておく必要があります。

④デューデリジェンスの実施

譲渡承認は社内での手続きですが、それと前後してデューデリジェンスを行う必要があります。デューデリジェンスは、売り手側と買い手側の「情報の非対称性」の解消を目的に、売り手側の会社の経営実態をより明らかにする調査です。

売り手側は自分の経営情報をよく把握していますが、買い手側にはわからないケースも多くあります。いわば、M&Aにおいては買い手側が情報弱者で、そこには「情報の非対称性」が存在するのです。

このため、デューデリジェンスは買い手側の知りたいことと目的に沿って行われますが、一般的には「財務」、「税務」、「法務」、「労務」、「ビジネス」の各デューデリジェンスが必須と考えられています。

⑤株式譲渡契約の締結

株式譲渡承認手続き、およびデューデリジェンスが済んだら、売り手側と買い手側双方で株式譲渡契約書を取りまとめ、署名します。

株式譲渡契約書の記載内容

株式譲渡契約書の記載内容は、細かい点では取引内容によって異なりますが、以下の項目は記載されます。

  • 株式を発行する株式会社の情報 
  • 株主の氏名 
  • 株式譲渡の対価の価格
  • 対価を支払う方法、それに伴う期限 
  • 株主から除名を行う際の手続きに関する内容
  • 賠償責任に関する内容
  • 新たな株主として株主名簿の書き換え請求する内容

印紙を貼る必要がある場合

株式譲渡契約書は、その本体が課税文書の役割を果たしているため、原則として収入印紙は不要です。しかし例外として、株式譲渡契約書に「代金受領」の記載がある場合、収入印紙を貼る必要があります。

一般的ではないですが該当するケースは、契約書作成日以前に株式譲渡代金の支払いがされている場合です。「代金受領」の記載がある株式譲渡契約書は、「金銭の受取書、領収書」としての性質がありますので、収入印紙を貼らなければなりません。

⑥株主名簿の書き換え・証明書の交付

株式譲渡は、譲渡制限株式を譲渡しただけでは有効にはなりません。会社が株主名簿を書き換える手続きが必要です。売り手側と買い手側双方で、会社に対して株主名簿の書き換え請求を行います。

株券不発行会社の場合、買い手側株主は、会社に対して株主名簿記載事項証明書の交付を請求するのが常です。会社が証明書の交付手続きを行うことで、新しい株主は自身が株主となったことを確認できます。

株式譲渡の効力発生について

株式譲渡における株主名簿の書き換えは、対抗要件となります。対抗要件とは、ある法律関係や法律上の効力が発生した場合に、第三者に対して有効に主張するのが可能となる要件です。

一方で、株式譲渡の効力発生要件は、これとは異なります。 効力発生要件とは、対抗要件以前に、ある法律行為が法律上の効果を上げるために要求される法律上の要件のことです。この要件が欠けると、当事者の意思にかかわらず法律上の効果を生じません。

株式譲渡の効力発生要件は、株券発行会社と不発行会社で異なり、以下のとおりです。

  • 株券発行会社の場合:当事者間の意思表示+株券の交付
  • 株券不発行会社の場合:当事者間の意思表示

株券発行会社の場合、株式譲渡にあたっては、もれなく株券の現物を譲渡しなければならないことへの注意が必要です。

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5. M&Aの株式譲渡に必要な書類

M&Aの株式譲渡に必要な書類

株式譲渡では一連の手続きの中で、作成したり授受したりする必要がある書類が数多くあり注意が必要です。ただし、取締役会設置会社と非取締役会設置会社では内容が異なるため、それぞれ分けて掲示します。

取締役会設置会社の場合

取締役会設置会社の場合、株式譲渡の手続きの中で以下の書類を各方面とやり取りします。

  • 株式譲渡承認請求書
  • 株主総会招集に関する取締役の決定書
  • 臨時株主総会招集通知
  • 臨時株主総会議事録
  • 株式譲渡承認通知書
  • 株式譲渡契約書
  • 株式名義書換請求書
  • 株主名簿
  • 株主名簿記載事項証明書交付請求書
  • 株主名簿記載事項証明書

非取締役会設置会社の場合

非取締役会設置会社の場合は、手続きの中で以下の書類を各方面とやり取りします。

  • 株式譲渡承認請求書
  • 取締役会議事録
  • 株式譲渡承認通知書
  • 株式譲渡契約書
  • 株式名義書換請求書
  • 株主名簿
  • 株主名義記載事項証明書

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6. M&Aの株式譲渡を行う際の注意点

M&Aの株式譲渡を行う際の注意点

非上場企業を対象とした株式譲渡の場合、その株式と株主について特殊なケースが存在する場合があります。また、それは決してまれなケースではありません。おおいにあり得ることとして考えられる株式譲渡の注意点としては、以下のようなものが挙げられます。

  1. 株式は発行されているか?
  2. 譲渡制限を設けていないか?
  3. 株主が分散していないか?
  4. 株主が未成年者や成年被後見人に該当するか?
  5. 株主が認知症に該当するか?
  6. 名義株が存在するか?
  7. 行方がわからない株主がいるか?
  8. 従業員持株会の株式譲渡が必要か?
  9. 株主が死亡した場合の取り扱いはどうするか?
それぞれの注意点について、その概要と対応策を説明します。

①株式は発行されているか?

株券発行会社は、株式譲渡の際に株券の受け渡し手続きをしなければならないことに注意が必要です。会社法が制定された2006(平成18)年以前に設立された会社は、定款に株券を発行しない旨を明記しなければ、自動的に株券発行会社となります。

一方で、会社法制定以降に設立された会社は、定款で何も定めなければ、自動的に株券不発行会社です。

株券発行済みの会社の場合

株券発行済みの会社の場合は、株券を発行してはじめて株式の効力が発生します。そのため、売り手側と買い手側の株式譲渡の合意だけでは権利移転ができず、売り手側が株券を交付することで株式の権利が移転されるのです。

株券が不発行の会社の場合

株券不発行の会社である場合、株式譲渡は、買い手側と売り手側との合意により株式譲渡契約を結び成立します。それを受けた当時会社が、株主名簿の名義書換を実施する流れです。

②譲渡制限を設けていないか?

株式譲渡の対象株式が、譲渡制限株式である場合は、まず会社に対して株式譲渡承認請求をして、株式譲渡の承認手続きを得る必要があります。

多くの中小企業では、自社の株式が自由に売買されて会社に不利益やトラブルが起きないように、株式の売買に制限をかけているのが常です。この売買制限がかかった株式こそが、譲渡制限株式になります。

株式譲渡承認請求、およびその承認・非承認の手続きにあたっても会社法でルールが定められているので注意が必要です。

③株主が分散していないか?

中小企業の場合、先代経営者の死去による相続で、株式が遺族に分散してしまっている場合があります。買い手としては経営権を100%取得したいですし、また、経営に関知しない少数株主が存在しているのはあまり好ましくありません。

したがって、株主が分散している場合には、大株主であり株式譲渡の話を進めている当事者である現経営者に対し、株式の取りまとめ、またはほかの株主から委任状を取りつけることが要求されます。

なお、株式譲渡に同意しない少数株主がいる場合には、株式併合などのスクイーズアウトの手法を用いれば、強制的に株式を買い取ることも可能です。

④株主が未成年者や成年被後見人に該当するか?

相続の状況によっては、株主の中に未成年者や成年被後見人が存在する可能性もあります。その場合は、法令にのっとった手続きが必要です。まず、株主が未成年者の場合に株式譲渡を成立させるには、以下のいずれかの方法を取ります。

  • 親権者または未成年後見人が未成年者に代わって手続きを行う
  • 親権者または未成年後見人から同意を得て手続きを進める

次に、株主が成年被後見人の場合は、以下の方法が必須です。

  • 成年後見人が成年被後見人に代わり手続きを行う
  • その際に成年後見監督人がいる場合、その同意が必要
  • 株式譲渡対価が高額である場合は、事前に家庭裁判所への相談が必要

⑤株主が認知症に該当するか?

株主が加齢による認知症や事故などによる精神障害など、その判断能力に問題がある場合には、前項で掲示した成年被後見人の場合と同様の手続きを取ることになります。

なお、その株主が経営者または取締役だった場合、成年被後見人または被保佐人と認められることは、取締役の欠格事由に当てはまるため、自動的に退任扱いです。このことで株式会社の役員最低人数を満たさなくなる可能性があり、その確認と対応も必要になります。

⑥名義株が存在するか?

中小企業では、何らかの事情により実際の出資者と株主名簿の株主が異なることがあります。つまり、出資をしていないのに株主として名義を貸している状態のことであり、その分の株式が名義株です。

名義株が存在すると通常の株式譲渡が実行できません。そこで、名義株の実態を確認したうえで処分することが必要です。名義株の確認には以下のような方法を用います。

  • 名義貸しの理由
  • 名義株主に株券を交付していないことの確認
  • 名義株主に配当を行っていない事実の確認
  • 株主総会での議決権行使者名の確認

⑦行方がわからない株主がいるか?

株式譲渡実施の際に、連絡が取れない、行方がわからないといった株主がいる場合には、これも特別な手立てが必要です。会社法では、所在不明株主の要件を満たしていれば、裁判所の許可を得ることで株式譲渡が可能になります。

ただし、その要件を満たせないケースも多く、その場合には別の手立てを取るしかありません。考えられる主な手立てとしては、以下の3点です。

  • スクイーズアウト(株式強制買取手段)
  • 不在者財産管理人による株式譲渡代行
  • 所在不明株主の株式扱いで売却または競売する

⑧従業員持株会の株式譲渡が必要か?

従業員持株会が所有する株式も譲渡対象とする場合には、以下の方法のいずれかで株式譲渡が可能になります。

  • 従業員持株会を解散させて清算手続きを実施する
  • 従業員持株会の会員全員から株式譲渡の同意を得る
従業員持株会の株式は会員の共有物であるため、会員全員からの同意を得る必要があります。

⑨株主が死亡した場合の取り扱いはどうするか?

仮に株式譲渡の交渉中に株主に死亡者が出た場合は、まず、該当する株式の相続者を明確にします。そして、その相続者により、会社に対して株主名簿の名義書換請求を行うことが必要です。その後、相続者が新たな株主となり、交渉の当事者となれます。

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7. M&Aの株式譲渡の成立期間

M&Aの株式譲渡の成立期間

株式譲渡は、会社法の規定に沿って厳格に手続きを行う必要があります。株式譲渡の相手と合意してから、法的に必要とされる以下の手続きだけでも、最低2カ月くらいは見ておくべきです。また、以下の手続きと並行して、デューデリジェンスも行う必要があります。

  1. 交渉を経て相手と合意
  2. 株式譲渡承認請求(株主が会社に対して)
  3. 取締役会、または株主総会での株式譲渡承認決議
  4. 株式譲渡承認通知(会社が株主に対して)
  5. 株式譲渡契約書の締結
  6. 株式譲渡の実行日
  7. 株主名簿の書き換えと株主名簿記載事項証明書の交付

なお、株式譲渡全体のスケジュールとしては、相手探しの段階からカウントして通常、短くても6カ月、一般的には10カ月~1年以上かかるとされています。

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8. M&Aの株式譲渡で必要な会計処理

M&Aの株式譲渡で必要な会計処理

株式譲渡を行った際の会計処理について、仮定の数値で具体例を示します。会計処理ですので、譲渡側については個人ではなく、法人が株式譲渡を実施したという前提です。株式譲渡側と譲受側では処理が異なりますので、それぞれ分けて掲示します。

株式譲渡側

株式譲渡の対価が5,000万円、該当株式の簿価が4,000万円、株式譲渡益(売却益)が1,000万円、M&A仲介会社への手数料(業務委託費)が300万円の場合の会計処理は、以下のようになります。
 

借方 貸方
現預金   50,000,000 株式 40,000,000
    株式売却益 10,000,000
 
借方 貸方
業務委託費 3,000,000 現預金   3,000,000

株式譲受側

株式譲渡の対価が5,000万円、M&A仲介会社への手数料が300万円、さらに譲受側にはデューデリジェンス費用も発生しますので、これを100万円という前提です。買い手側の個別財務諸表では、株式譲渡対価や手数料は全て合算し「子会社株式」に参入します。
 

借方 貸方
子会社株式 54,000,000 現預金   54,000,000

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9. M&Aの株式譲渡で発生する税金

M&Aの株式譲渡で発生する税金

ここでは、非上場の中小企業経営者が、自社株式を外部の法人に株式譲渡する前提で、課税される内容を説明します。

株式譲渡側

株式譲渡側は経営者個人ですから、課税内容は所得税と住民税になります。そして、株式の譲渡所得については、給与所得などの所得とは分けて税金を計算する申告分離課税です。なお、2037(令和19)年までの時限措置として、復興特別所得税も課税されます。

税金の計算方法

株式の譲渡所得は申告分離課税ですから、総合課税と違って以下のように税率が定められています。

  • 合計税率20.315%=所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%

また、譲渡所得は以下の計算式で求めます。
  • 株式譲渡所得=売却価格-(取得費+譲渡費用)

取得費とは、株式を取得した際に支払った金額ですから、創業者であれば資本金額です(全額出資の場合)。なお、取得費がわからない場合には、売却価格の5%を取得費とする概算取得費の適用もできます。

譲渡費用とは、株式譲渡を行うためにかかった費用全般のことで、M&A仲介会社などへの手数料が主に該当する費用です。

株式譲受側

株式の譲受側には課税はありません。

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10. 株式譲渡によるM&A事例5選【2021年最新】

株式譲渡によるM&A事例5選【2021年最新】

ここでは、実際に上場企業が行ったM&Aのうち、スキームとして株式譲渡が用いられた最新のケース5事例を紹介します。

  1. スペースマーケットとスペースモールの株式譲渡
  2. 新日本製薬とフラット・クラフトの株式譲渡
  3. ダイベアとミッドテックの株式譲渡
  4. DTSとアイ・ネット・リリー・コーポレーションの株式譲渡
  5. さくらさくプラスとVAMOSの株式譲渡

①スペースマーケットとスペースモールの株式譲渡

株式譲渡側 スペースモール
譲渡側事業内容 スペースの企画・運営、スペースの運営代行
株式譲受側 スペースマーケット
譲受側事業内容 スペースシェアリングプラットフォーム「スペースマーケット」の運営
株式譲渡の詳細 全株式取得による完全子会社化
株式譲渡価額 非公開
株式譲渡の目的 スペースマーケットにおけるスペース事業の拡大・拡張
株式譲渡実施月 2021年7月

②新日本製薬とフラット・クラフトの株式譲渡

株式譲渡側 フラット・クラフト
譲渡側事業内容 食品の輸入、卸および販売
株式譲受側 新日本製薬
譲受側事業内容 化粧品・医薬品・健康食品の開発・販売
株式譲渡の詳細 全株式取得による完全子会社化
株式譲渡価額 非公開
株式譲渡の目的 フラット・クラフトの扱う商品獲得による事業領域拡大
株式譲渡実施月 2021年6月

③ダイベアとミッドテックの株式譲渡

株式譲渡側 ミッドテック
譲渡側事業内容 軸受旋削加工
株式譲受側 ダイベア
譲受側事業内容 各種ベアリングおよびベアリングに関連する製品の製造販売など
株式譲渡の詳細 全株式取得による完全子会社化
株式譲渡価額 非公開
株式譲渡の目的 ダイベアのベアリング事業の基盤強化
株式譲渡実施月 2021年6月

④DTSとアイ・ネット・リリー・コーポレーションの株式譲渡

株式譲渡側 アイ・ネット・リリー・コーポレーション
譲渡側事業内容 LAN・WAN ネットワークの設計・運用・管理を手掛けるシステム受託開発
株式譲受側 DTS
譲受側事業内容 システムインテグレーションサービス、情報システムの設計・施行・開発・運用・保守など
株式譲渡の詳細 全株式取得による完全子会社化
株式譲渡価額 非公開
株式譲渡の目的 DTSにおけるネットワークビジネスソリューション事業の強化
株式譲渡実施月 2021年6月

⑤さくらさくプラスとVAMOSの株式譲渡

株式譲渡側 VAMOS
譲渡側事業内容 学習塾VAMOSの運営、大学・高校・中学受験生に対する指導
株式譲受側 さくらさくプラス
譲受側事業内容 保育所の運営および保育所への利活用を想定した不動産の仲介・管理業務
株式譲渡の詳細 全株式取得による完全子会社化
株式譲渡価額 1億7,200万円
株式譲渡の目的 グループ全体における教育事業対象年齢の拡張・拡充
株式譲渡実施月 2021年6月

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11. M&Aの株式譲渡に関する相談先

M&Aの株式譲渡に関する相談先

株式譲渡はほかのM&A手法に比べて手続きが簡便で、法務局への申請手続きが必要ないことから、手続きに不備があるまま放置されてしまうケースがあります。また、譲渡側が同族企業の場合、株式譲渡価額の交渉に問題が生じる可能性も捨てきれません。

手続きに不備やトラブルがないように進めるには、専門家のサポートがおすすめです。株式譲渡のご検討にあたってサポートの依頼先にお困りでしたら、M&A総合研究所へお任せください。

M&A総合研究所では、株式譲渡の知識・実績豊富なM&Aアドバイザーが案件ごとに専任となり、相談時からクロージングまで株式譲渡をフルサポートいたします。

料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」となっています(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。随時、無料相談をお受けしておりますので、M&A・株式譲渡をご検討の際は、どうぞお気軽にお問い合わせください。

【関連】M&A・事業承継ならM&A総合研究所
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12. M&Aの株式譲渡まとめ

M&Aの株式譲渡まとめ

株式譲渡とは、売り手側企業の株主が保有株式を買い手側に売却するM&Aスキームです。株式譲渡は、ほかのM&Aスキームに比べて手続きは簡便とされていますが、取引の相手探しから始まって、交渉・成約・クロージングまでの道のりは長く、専門的知識も欠かせません。

それらをスムーズに滞りなく進めるには、初期段階から専門家のサポートを受けるのが安心です。無料相談などを活用し、自社に適したM&A仲介会社を選びましょう。

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