2024年06月28日更新
M&Aでの公認会計士の役割と業務!M&A業界に転職するためのポイントも解説
会計・財務の専門家である公認会計士の存在は、M&Aの現場でも欠かせません。本記事では、M&A業界における公認会計士の役割や業務内容や働き先の解説と合わせて、公認会計士がM&A業界に転職する際のポイントにも言及します。
目次
1. M&A業界における公認会計士の重要性
M&A業界には、公認会計士が必要不可欠です。なぜ公認会計士が必要なのか、正しく把握できていない方がいるかもしれません。本記事では、M&A業界で公認会計士が求められている理由を、公認会計士の役割や業務を説明しながら明らかにします。
まずは、公認会計士以外の士業と比較しながら概要を解説します。
公認会計士とは
公認会計士とは、会計監査を独占業務とする国家資格です。医師・弁護士と並ぶ三大国家資格の1つとして知られています。会計監査とは、企業が作成する財務諸表が、経営状態や財務状況が適切に反映されているか、第三者の立場から監査することです。
公認会計士試験には1次試験と2次試験があります。公認会計士試験に合格しても、すぐには資格は与えられません。日本公認会計士協会の名簿に登録しなければならないでしょう。日本公認会計士協会・会員数調査によると、2022年6月末時点で登録者数は33,192人です。
公認会計士名簿へ登録するまでには、主に下記のようなステップがあります。
- 公認会計士試験に合格
- 2年以上「監査法人」へ就職して実務を経験
- 「会計教育研修機構」による実務補習修了
- 「日本公認会計士協会」による修了考査
- 内閣総理大臣の認定を受ける
- 公認会計士名簿へ登録
資本金5億円以上または負債額が200億円以上の企業、上場企業、学校法人、独立行政法人、社会福祉法人、医療法人などの組織は、公認会計士の監査を受けることが義務付けられています。
公認会計士は、監査以外にも、企業から会計や財務を依頼されたり、企業経営全般にわたるコンサルティングを手掛けたり、活動領域が広いことも特徴です。
参考:日本公認会計士協会「概要/会員数」
M&A業界で公認会計士が求められている理由
M&A業界で公認会計士が求められる理由は、公認会計士が持つスキルとM&Aサポートに必要なスキルの一致率が高い点にあります。M&Aは企業や事業を売買する特性から、取引金額が高額になる傾向にあるため、取引対象の価値を適正に評価しなければなりません。
その際に必要となるのが、財務面で高い専門性を持つ公認会計士のスキルや知識です。M&Aプロセスの至るところで活躍します。
2. M&Aでの公認会計士の4つの役割と業務
この章では、M&Aにおける公認会計士の具体的な役割と業務を、以下の4項目にわたって解説します。
- 企業価値評価(バリュエーション)の算定
- 財務デューデリジェンス
- 税務面のアドバイス
- その他、M&A戦略の策定など
①企業価値評価(バリュエーション)の算定
M&Aでの公認会計士の役割と業務として、最初に挙げられるのは企業価値評価の算定です。
売却企業の適正な企業価値を算定するため、M&Aの初期段階で実施します。計算方法は複数用意されており、財務状況や該当業種の業界動向、技術・ノウハウなどを加味して適切なものを選ぶ必要があります。算定された企業価値は売却企業と買収企業の交渉の土台となるため、公認会計士による信頼性の高いデータが必要です。
例えば、スタートアップのように専門的な技術を有する企業では、企業価値における無形資産の比重が大きいものです。このような場合、単純な時価評価を行う「時価純資産法」ではなく、将来的に生み出すキャッシュフローを現在価値に換算する「DCF法」が最適といえます。
②財務デューデリジェンス
デューデリジェンスとは、M&A取引対象企業の価値やリスクを詳細に調査することです。
財務デューデリジェンスも、M&Aで公認会計士が担う重要な役割・業務です。財務デューデリジェンスは、M&A取引対象の財務面に関して、売却企業から提出されている資料と実態の差異を調査するために最終契約の締結前に実施します。
具体的には、帳簿記録による過去の財務データに加えて、デューデリジェンス時点での資産や負債の実質的な価値の評価や、事業計画の妥当性など将来の収益性を確認する調査も行われます。
財務デューデリジェンスのポイントになるのは、潜在的リスクの洗い出しです。特に財務諸表に記載されない簿外債務に気付かないままM&Aを実施すると、買収企業の損失となってしまうおそれがあります。
簿外債務には、従業員の未払い給与や残業代、係争中の訴訟案件など、さまざまなものがあります。リース債務や退職給付引当金など将来的な払い出しが確定している科目も、費用計上を支払い時としているものには注意しなくてはなりません。
専門的な知識や経験が必要なため、M&A仲介会社や公認会計士などに依頼するケースが一般的です。
③税務面のアドバイス
M&Aでの公認会計士の役割と業務には、税務面のアドバイスもあります。M&Aを実施すると税金が伴うため、節税対策など税務面のサポートが欠かせません。課せられる税金は、個人事業主と法人の場合で異なります。
用いるM&Aスキーム(手法)によっても、税率など課税の内容が変わります。依頼者の目的を達成しつつ、納める税金を極力引き下げるように最善を尽くし、アドバイスを行うでしょう。
④その他、M&A戦略の策定など
その他のM&Aでの公認会計士の役割・業務としては、M&A戦略の策定も挙げられます。M&A戦略は、一貫性を持ってM&Aを進めるために、M&Aの初期段階で策定するものです。具体的には主に以下のようなものがあります。
- M&Aの目的の明確化
- 業界動向の調査
- PMI(M&A後の経営統合プロセス)策定
M&Aの目的の明確化
M&A戦略策定にあたっては、まず企業の財務状況や依頼者がM&Aに求める条件を考慮し、M&Aの目的を明確化します。買収企業の目的は、販路の拡大や人材の獲得などが代表的です。買収後に事業シナジーを最大化できるように、明確なライン設定が重要になります。
売却企業の目的は、売却益の獲得や従業員の雇用先の確保、会社の存続などです。目的を依頼者と共有しておくことで、交渉で意見のぶれが少なくなります。M&Aを円滑に進められます。
業界動向の調査
該当業種の業界動向を調査しておくことも重要です。例えば、業界内のM&Aが活性化しているときは、売り手市場で取引価格が高くなる傾向にあります。これは、売却企業にとっては都合の良いものですが、買収企業にとってはあまり好ましいとはいえません。
PMI策定
PMI(Post Merger lntegration)は、買収後に事業安定を図るための経営統合プロセスです。買収後に想定される問題やトラブルに適切に対応するため、M&Aの初期段階から策定しておく必要があります。
特に問題となるのは、経営理念や企業文化の違いによって従業員にかかるストレスです。これまでの環境が一変するかもしれないM&Aは、従業員のケアも十分に検討しておかなくてはなりません。
対策方法の1つとして挙げられるのは、売却企業の経営陣に一定期間、会社に残ってもらう顧問契約「ロックアップ(キーマン条項)」です。以前の経営陣が職場に顔を見せることにより、ある程度、従業員にかかるストレスが緩和されることが期待できます。
3. M&Aでの公認会計士と税理士、弁護士の違い
公認会計士は、会計や監査のスペシャリストです。公認会計士試験では、法人税や消費税などの税金も必須科目となっています。公認会計士の資格を取得すると、税理士資格も同時に取得できます。税理士登録をすれば、税理士としての活動もできるでしょう。
税理士は、税金の計算や申告などを専門に行います。税金実務に精通しているので、税金計算・申告・税務調査などは、公認会計士より税理士に依頼するケースが多く見られます。
公認会計士は、法律の専門家ではありません。M&Aには、スキームによって法務関係の契約書作成などが必要になることもあります。
ここでは、M&Aにおける公認会計士・税理士・弁護士のそれぞれの役割を解説します。
公認会計士と税理士との違い
税理士とは、税務を専門的に扱う国家資格です。会計処理や税金申告の代行、節税対策など、税務面におけるサポートを手掛けています。公認会計士と明確に異なる点は、顧客の規模です。
会計監査を独占業務とする公認会計士は大手企業を対象とすることが多く、税理士は中小・零細企業の節税対策などを請け負うことが多い傾向にあります。
専門領域にも違いが見られます。公認会計士試験では税金科目は必須とされ、会計監査でも税金の知識は要求されるため、税制に関する一定の知識は持っています。しかし、実務での税金計算やその申告事務、税務調査の対応などは税理士の専門領域です。
税理士もM&Aの専門家
M&Aでは、税理士の知識やスキルも欠かせません。例えば、節税対策の面でも税理士の存在は必要です。M&Aの所得は数千万円規模になることが多いため、さまざまな節税対策を施して依頼者が手にする売却益を最大限に高めようと努めます。
M&A取引対象の税務リスクを調査する税務デューデリジェンスの役割もあります。税務処理にミスがあると、M&A取引後に思わぬ損失を計上することになりかねません。税理士によって徹底的に調査を行うと良いです。
公認会計士と弁護士の違い
M&Aの際に深く関わる士業としては、法律の専門家である弁護士もいます。公認会計士は法律は専門外ですから、M&Aで法律に関する事項は全て弁護士が担う点が、両者の役割の違いです。
具体的な弁護士の役割としては、M&Aでは最重要である契約書作成・内容チェック、許認可の確認、従業員との労働契約書の取り扱い、会社法などM&A手続きを規制する各法律との照らし合わせ、法務デューデリジェンスなどがあります。
M&Aの利害関係者は買収当事企業だけでなく、従業員・取引先・金融機関など多岐に渡ります。M&Aのスキームによっては法律関係や契約関係、許認可などの規制が複雑になるケースもあり、法的な観点での整理が必要不可欠です。
4. M&Aを公認会計士に依頼するメリット
ここで、M&Aを公認会計士に依頼するメリットを解説します。主要なメリットは2点あります。
- 会計・財務分野に関して専門的に支援してもらえる
- 他分野に精通する専門家の紹介を受けられる
①会計・財務分野に関して専門的に支援してもらえる
M&Aでは、買い手と売り手の立場の違いから、当事者の思惑だけでは金額交渉はまとまりません。そこで必要となるのは、客観的な判断で導き出された売却側の企業価値評価です。
適正に企業価値評価を行えるのは会計・財務分野に専門的な知識を持つ公認会計士だけであり、その支援によりM&Aでの価格交渉もスムーズに進められます。
②他分野に精通する専門家の紹介を受けられる
M&Aでは、会計・財務以外にも、法務・税務・労務などさまざまな分野の専門的知識や経験が必要です。したがって、公認会計士だけでは、その全ての分野をカバーできません。ただし、優秀な公認会計士ほど他の士業とのネットワークを構築しています。
弁護士・司法書士・税理士・社会保険労務士などと常に連携できる体制を持っている公認会計士は多く、M&Aで必要となる会計・財務以外の専門家を紹介してもらえるでしょう。
5. M&Aの際に公認会計士に依頼する費用
公認会計士がM&A仲介事業を行う場合、受け取る報酬はどのくらいになるのでしょうか。ここでは、一般的なM&Aの報酬体系を解説します。
M&A業界の仲介手数料の相場
M&A仲介事業を行う企業・団体はさまざまです。依頼する費用に関して、一概に金額を提示することは難しいですが、おおむね共通して以下の料金体系を採用しています。
相場 | 備考 | |
---|---|---|
相談料 | 0~1万円 | 相談時に支払う手数料 無料の場合が多い |
着手金 | 50万~100万円 | M&A依頼時に支払う手数料 |
中間金 | 50万~200万円 | 基本合意書締結時に支払う手数料 |
成功報酬 | レーマン方式 | 成約時に支払う手数料 |
企業価値評価 | 50万~100万円 | 企業価値評価費用 |
デューデリジェンス | 2万~5万円/1時間 | デューデリジェンス費用 |
公認会計士の主導で実施する企業価値評価やデューデリジェンスはM&Aのプロセスの中でも難度が高く、報酬が高くなる傾向にあります。特にデューデリジェンスはM&A規模に大きく左右されることから、固定報酬ではなく時給換算とする企業・団体も多いです。
時給換算の場合、1時間で10,000~15,000円程度になるケースが多く見られます。依頼する内容によっては、さらに専門性の高いものになると数万円以上になることもありますので、十分に確認しましょう。
レーマン方式とは
レーマン方式とは、M&Aの成約額や移動資産額などに応じて手数料が決まる仕組みのことです。M&Aの規模が大きくなるほど時間や費用がかかるため、多くの企業・団体がレーマン方式を採用しています。一般的なレーマン方式の料率例は、以下のとおりです。
- 5億円までの部分:5%
- 5億円超~10億円の部分:4%
- 10億円超~50億円の部分:3%
- 50億円超~100億円の部分:2%
- 100億円超の部分:1%
6. M&Aでの公認会計士の役割と業務まとめ
M&Aでの公認会計士の役割は非常に大きいものです。実際にM&A業界の最前線で活躍する公認会計士も多く、その需要の高さがうかがい知れます。担当内容に比例して激務になりがちではありますが、そこにやりがいを感じるなら転職の好機といえるかもしれません。
M&A仲介会社では積極的に採用を行っているところも多く見られます。情報収集をしたり、直接問い合わせをしたりなど、アクションを起こしてみるのも良いでしょう。
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