2023年04月09日更新
M&Aの公表タイミングは?最適な時期や社員の退職・トラブルを防ぐ方法も解説
M&Aを社員に公表するタイミングは、M&A成功を左右する重要な要素でもあります。会社の貴重な財産である社員をM&Aで離職させないためには、社員の求める情報を適切な公表タイミングで伝えることが大切です。本記事では、適切な公表タイミングなどを解説します。
目次
1. M&Aを社員に公表するタイミングは?
M&Aの詳細や状況を社員に公表するタイミングは、M&A成功を左右する重要な要素のひとつです。公表タイミングを間違えれば、M&Aによるシナジー効果を得られなかったり、M&A自体が破談になったりする可能性もあります。
本章では、社員の理解を得るための適切な公表タイミングや、公表タイミングを間違った際に発生するリスクを解説します。
M&Aの公表タイミングとは
M&Aの公表タイミングは、手法の選択や相手側とのマッチング、取引価額の交渉などと同様に重要な検討事項です。
M&Aを公表する関係者としては、会社の社員や役員のほか、株主・取引先・融資を受けている金融機関などが挙げられます。これらの関係者への適切な公表タイミングは同じではなく、経営に深くかかわる関係者から公表していくのが一般的です。
とはいえ、M&Aには、会社の事情や関係者間の人間関係といった個別の事情もあるため、これを踏まえて適切な公表タイミングを見極めなければなりません。
M&A公表タイミングを間違うと起こること
社員へのM&A公表タイミングが悪かったり、公表内容に問題があったりする場合、特に売却側の企業では、社員が会社に対して不信感を抱くことにもなり得ます。自分が働く会社が売却されて待遇などが変われば、生活に大きな影響を与えることになるためです。
同じ場所・待遇で働けるか、給料は下がらないか、仕事内容や上司が変わって残業が増えないかなど、さまざまな不安があり、大きなストレスとなるでしょう。その結果、社員の士気は下がり、高い技術力やノウハウを持つ貴重な社員が会社を離れるケースもあります。
M&A公表タイミングを間違うと起こり得ることには、以下のようなものが考えられます。
- 社員の大量離職
- 取引先・顧客離れ
- 融資の中止
- M&A自体の中止
社員の大量離職
ほとんどの従業員は経営にかかわらないため、M&A自体がどういうものか理解していないことが多いでしょう。M&Aとは、会社の乗っ取りではないかと思い込んでいる場合もあります。
M&Aと聞くと、社員は会社に不信感を抱きます。給与や待遇、解雇、会社の倒産など、さまざまな不安を抱えることになるでしょう。M&A後には、転勤や異動、買収先の企業風土、社員との関係など、不安は尽きません。
公表タイミングを間違えると、このような不安感から、多くの社員が離職してしまうことにつながりかねません。人材は会社にとって大きな資産です。社員の離職によって企業価値が低下し、M&A後のシナジー効果は薄れ、M&A自体が破談になる可能性も考えられます。
社員の公表タイミングを適切に判断し、丁寧な説明を心掛けましょう。
取引先・顧客離れ
取引先や顧客に対して、M&Aの公表タイミングを間違ってしまうと、取引中止や顧客離れにつながることもあり得ます。特に、これまでの取引内容と異なることになれば、取引先は不信感を抱くでしょう。
経営者の交代も取引をするうえで、重要なポイントといえます。経営者個人の人柄や、経営者個人との関係を重視してきたためです。会社名やブランド名に変更が生じれば、リピーターはマイナスイメージを持ってしまうかもしれません。
取引先や顧客へのM&Aの公表タイミングは、慎重に決定しましょう。
融資の中止
金融機関から借り入れをしていたとしても、早期に伝える必要はありません。M&Aが必ずしも成約するとは限らないからです。
しかし、公表タイミングを誤ると、融資が止められてしまうこともあり得ます。M&Aが成約しなかった場合、経営が傾いていると判断され、融資の中止や将来的な融資に影響を及ぼすことになるからです。
事業譲渡などの場合、金融機関との取引は継続するため、早めに伝えるほうが良いでしょう。ただし、公表タイミングが遅すぎてしまうと、印象が悪くなり、融資の中止リスクが高まるため、注意が必要です。
M&Aの手法によっても公表タイミングは異なるため、金融機関には適切なタイミングに公表しましょう。
M&A自体の中止
M&Aの公表タイミングを間違ってしまうと、M&A自体が中止になってしまうこともあります。優秀な人材や社員の大量離職、取引先・顧客離れにつながるからです。
それ以外にも、早期に公表したために情報漏えいし、企業価値低下につながります。メリットが得られなくなれば、M&A自体を実施する意味がなくなってしまうでしょう。
M&A自体が中止となれば、それまでの費用や時間が無駄になります。M&Aの公表タイミングは、伝える相手によって異なりますので、慎重に行いましょう。
M&Aの公表で社員の離職が起こる理由
M&Aの公表による売却企業の社員の離職は、以下のような理由で起こるケースが多くなっています。
- 会社の将来が不安
- 給与や職場、仕事内容などが変わるかもしれないため
- 慣れ親しんだ企業文化や企業風土の変化を懸念したため
- M&A後の待遇や立場が悪くなる可能性があるため
これらの離職理由は、社員とのコミュニケーションが不足しているために発生しているケースもあります。M&A後の給与や仕事内容などを明確に説明し、待遇についてしっかりと理解を得ることで社員の離職を防ぐことが可能となります。
公表タイミングも重要です。適切な段階で公表することで、社員が十分にM&A後の将来を考える時間を持てます。
たとえ離職することになった場合でも、納得したうえでの離職となる可能性が高いです。タイミング次第では、技術やノウハウの引継ぎを行う時間も取れるでしょう。
M&Aを社員に公表する適切なタイミング
一般的に、社員への公表タイミングは、株式譲渡契約や事業譲渡契約のようなM&A契約締結直後が最適とされています。M&A契約締結後のできるだけ早いタイミングに公表することで、社員がM&Aに向けて準備を整えていく期間を少しでも長く持てるでしょう。
ただし、M&A契約締結からクロージングまでの間に、社員の離職やM&Aの妨害が入る可能性があれば、クロージングまで公表しないケースもあります。一方で、M&A契約締結前の交渉中には、社員にも取引先にも口外しないことが望ましいとされています。
M&A契約前に社員や取引先に公表することにより、M&Aの情報が競合に漏れて妨害されたり、労働組合からM&Aを潰されたりする可能性もあるためです。
基本合意締結前
基本合意書は、最終契約に先立って締結されるものです。したがって、基本合意締結前に公表するのは、ごく一部の役員にとどめておきましょう。
規模の大きくない中小企業などであれば、経営者一人でM&Aを進めることもあります。一部の役員とともに手続きを進める場合、主要な役員だけに限って、M&Aを公表しましょう。
それ以外の役員や部長・社員には、基本合意締結前は公表タイミングとして適切ではありません。公表を最小人数に絞ることで、情報漏えいも防げます。
基本合意締結後
基本合意締結後は、本契約に向けて、M&A先が決定する段階です。このタイミングで公表するのは、役員のみです。
役員に早めに公表すれば、基本合意締結後のさまざまな手続きがスムーズに進められるでしょう。M&Aに反対する役員がいたとしても、この段階であれば、話し合いの時間も持てます。
社員よりも先に役員に伝えれば、役員としての責任や自覚を持つことにもなるでしょう。逆に、社員と同じタイミングであれば、モチベーション低下につながりますので、避けましょう。
クロージング後
先にも触れましたが、一般社員への公表タイミングは、M&A契約締結直後が最適とされています。しかし、社員の離職やM&Aの妨害が懸念される場合には、クロージング後が適切といえるでしょう。
M&Aの公表タイミングは、会社の規模やM&Aの手法、伝える相手によって変わってきます。M&Aの専門家に相談しながら、適切なタイミングを見極めるとよいでしょう。
2. M&Aで社員の退職・トラブルを防ぐ方法
M&A成功のためには、会社の貴重な財産である社員の退職や社員とのトラブルは避けなければなりません。M&Aで社員の退職やトラブルを防ぐポイントを実践することが、M&A成功の近道となります。
- M&Aの際に社員の待遇に関して条件交渉しておく
- M&Aの情報開示で社員に誤解を与えない
- 社員の気持ちに寄り添う
M&Aの際に社員の待遇に関して条件交渉しておく
M&A後の社員の待遇は、売却側企業の社員が最も気にかけるポイントのひとつです。社員は、M&Aによって給与の減額や転勤を伴う異動、役職や仕事内容の変化などが発生することを懸念します。
その懸念が退職やトラブルの原因となる可能性が十分にあります。経営者は、交渉の段階でM&A後の社員の待遇に関して、相手企業と細かく決めておくことが重要です。
ただし、中小企業のM&Aでは自社よりも規模が大きい企業に売却するケースがほとんどといえます。その場合、社員の給与や福利厚生などの待遇面では改善されることが多いでしょう。
高度な技術を持つ従業員は高く評価され、よりよい待遇を受けられることもあります。その一方で、M&Aで吸収されるような形になれば、企業文化などは失われていく可能性もあるでしょう。
社員にとって悪いことばかりではないとしっかりと伝えることで、不安を取り除けるかもしれません。
M&Aの情報開示で社員に誤解を与えない
M&Aの公表タイミングや正しい情報開示も、社員の退職やトラブルを防ぐうえでは非常に重要なポイントです。情報開示の際は、社員に誤解を与えないように、曖昧な情報ではなく正確で詳細な内容を伝える必要があります。
役員・部長クラスへの公表と、全社員への公表タイミングをずらすことも大切です。M&Aに不安を感じた社員が、疑問や懸念を直接経営者に聞くことはまれであり、直属の上司や先輩に聞くことが多いためです。
たとえば、部長クラスの社員には、全社員への公表の数日前に伝え、彼らの不安を経営者が自ら解決して理解を得ます。そうすることで、数日後の全社員への公表時には、部長クラスが社員の不安を拭うこととなり、退職やトラブルを防ぐことが可能です。
社員の気持ちに寄り添う
経営者とは違い、社員はM&Aや会社売却に関して常に受け身な立場です。思ったような情報をなかなか手に入れられないため、会社や自身の将来を非常に不安に感じています。
当然、経営者も会社売却しなければいけない状況はつらく、将来の不安もあるはずです。しかし、社員の気持ちに寄り添うことが退職やトラブルを防ぐためには大切です。
経営者から、社員よりもつらい感情が少しでも出てしまえば、社員は経営者に軽んじられていると感じるかもしれません。将来に不安を抱えることとなり、退職へとつながる可能性があります。
将来が不安な社員を早く安心させたいからといって、不確実な情報を与えることも大きな問題となります。できるだけ早く情報を与えることが社員のためになるとは限りません。余計な不安をあおり、トラブルに発展することもあるでしょう。
正確な情報を適切なタイミングで公表することで、結果的に社員の気持ちに寄り添うことになります。退職やトラブルを防ぐことが可能になるでしょう。
3. M&A時に社員に情報を開示する手順
適切な情報開示の手順や公表タイミングは、会社の規模や社員の状況、会社を取巻く環境などによって異なります。それぞれのM&Aに合わせた手順を踏むことになります。
たとえば、大企業が中小企業を買収する際のM&A公表タイミングは、一般的にクロージング後です。社員への影響は小さいため、クロージング後でも大きな問題はありません。
一方で、売却側となる中小企業の場合、社員の離職を防ぐために、公表タイミングを工夫する必要があります。代表的な手順は以下のようになります。
- M&A契約前:共同経営者や一部の役員への公表
- M&A契約後:部長クラスへの公表
- クロージング前後:一般社員への公表
社員への公表が早すぎると、M&Aの妨害や失敗となる可能性があります。逆に遅すぎると、社員からの理解が得られず、離職につながりかねません。M&Aの公表タイミングや手順は非常に重要です。
4. M&A時に社員に公表すべき情報
M&Aが決定してM&A情報を開示する際は、社員にどのような情報を伝えるべきなのでしょうか。基本的には、社員が気にかけているポイントを重点的に説明することで、トラブルを回避できます。M&A時に社員に伝えるべき情報は、主に以下のとおりです。
- 仕事内容の変化
- 給与や地位への影響
- 転勤の有無
経営者の立場からは、経営権の移動やM&A後の経営方針、M&Aの目的などを伝えたいと思いがちです。しかし、社員が実際に知りたいことは、もっと生活に直結した部分であることが多いです。
たとえば、M&A後の給与や仕事内容などは、すべての社員にとって非常に重要な情報といえます。転勤によって引越しが必要となることや、通勤時間が増加する場合も生活に影響を与えることになります。転勤の有無も伝えることが望ましいです。
5. M&A時に社員以外に公表するタイミング
M&Aの際、社員以外の役員や親族・取引先・顧客・金融機関への公表は、どのようなタイミングが適しているでしょうか。本章では、役員や親族・取引先や顧客・金融機関の3つに分け、それぞれの相手へのM&Aの公表タイミングを解説します。
役員や親族に伝えるタイミング
まずは、役員や親族への公表タイミングです。会社の経営に大きくかかわっている役員は、ともにM&A交渉をしていくことが多いため、早い段階での情報共有が行われます。
それ以外の役員は、会社の発展に尽力してきた役員であれば、M&A契約前後でほかの社員に公表する前に伝えます。ほかの社員と同じタイミングでも問題ない可能性が高いです。しかし、経営者とのあつれきを生まないためにも、役員の立場や地位を尊重し、早めの公表が望ましいです。
親族が役員をしている場合も同様に、M&A契約前後の社員への公表前が適切な公表タイミングといえます。
取引先や顧客に伝えるタイミング
次に取引先や顧客への公表タイミングです。ともにM&A契約締結後やクロージング時で大きな問題はありません。M&A契約締結前などに公表すれば、情報が競合や社員に漏れて、M&Aを妨害される可能性もあります。早い段階での公表は好ましくないでしょう。
ただし、取引先については、契約に「COC(チェンジオブコントロール)条項」が盛り込まれている場合、M&A契約締結前に情報を開示し、承認を得なければいけないケースもあるので注意が必要です。
COC条項は、取引先の技術の流出防止や敵対的買収からの防衛を目的として、取引契約書に記載されています。
金融機関に伝えるタイミング
売却企業は、金融機関への適切な公表タイミングは決算後です。たとえ金融機関から借入があったとしても、負債は基本的に買収企業に引継がれるので、早期に公表する必要はありません。
逆にM&A契約締結前の金融機関への公表は、避けたほうが無難です。万が一、M&Aが白紙になった場合、会社売却を検討していたことから経営が傾いているとみなされ、将来的な融資に影響がでる可能性もあるためです。
ただし、事業譲渡の場合、会社自体は存続して金融機関との取引も継続されるので、M&A契約締結後に公表するのが適切なタイミングといえます。
6. M&Aの公表タイミングに関する相談先
M&Aの成功には社員への公表タイミングや公表内容が非常に重要です。しかし、M&A経験がない場合などは、適切な公表タイミングや手順を見極めることは簡単ではありません。
公表タイミングのミスは社員の不信感や不安を誘発し、士気の低下や離職につながる可能性があります。それ以外にも、M&Aでは、相手の選定やデューデリジェンスなど、M&A経験や専門的な知識が必要なプロセスが多いです。成功させるためには、専門家に相談することをおすすめします。
M&A総合研究所は、さまざまな業界での豊富な実績と経験をもつM&A仲介会社です。専門的な知識を持つM&Aアドバイザーがクロージングまで一貫してサポートします。
料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談を随時受け付けていますので、M&Aをご検討の際は、M&A総合研究所にお気軽にご連絡ください。
7. M&Aの公表タイミングまとめ
本記事では、M&A公表の適切なタイミングや社員が離職する理由、社員の退職やトラブルを防ぐ方法などを解説しました。M&Aの社員への公表タイミングは、M&Aの成功を左右します。M&Aプロセスのなかでも重要なもののひとつです。
適切な公表タイミングを逃せば、社員の離職やM&A失敗につながる可能性もあります。どのような関係者へいつ公表するかを、事前に検討しておくことが大切です。
【M&Aを社員に公表するタイミング】
- M&A契約前:共同経営者や一部の役員への公表
- M&A契約後:部長クラスへの公表
- クロージング前後:一般社員への公表
【M&Aにより社員の離職が起こる理由】
- 会社の将来が不安
- 給与や職場、仕事内容などが変わるかもしれないため
- 慣れ親しんだ企業文化や企業風土の変化を懸念して
- M&A後の待遇や立場が悪くなる可能性があるため
【M&Aにより社員の退職やトラブルを防ぐ方法】
- M&Aの際に社員の待遇に関して条件交渉しておく
- M&Aの情報開示で社員に誤解を与えない
- 社員の気持ちに寄り添う
M&A・事業承継のご相談ならM&A総合研究所
M&A・事業承継のご相談なら経験豊富なM&AアドバイザーのいるM&A総合研究所にご相談ください。
M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴をご紹介します。
M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴
- 譲渡企業様完全成功報酬!
- 最短49日、平均6.6ヶ月のスピード成約(2022年9月期実績)
- 上場の信頼感と豊富な実績
- 譲受企業専門部署による強いマッチング力
M&A総合研究所は、成約するまで無料の「譲渡企業様完全成功報酬制」のM&A仲介会社です。
M&Aに関する知識・経験が豊富なM&Aアドバイザーによって、相談から成約に至るまで丁寧なサポートを提供しています。
また、独自のAIマッチングシステムおよび企業データベースを保有しており、オンライン上でのマッチングを活用しながら、圧倒的スピード感のあるM&Aを実現しています。
相談も無料となりますので、まずはお気軽にご相談ください。