事業承継における遺贈とは?M&Aとの違いやメリット・デメリット、注意点を解説

遺贈は事業承継の有力な手法ですが、相続との違いや注意点を理解することが重要です。本記事では遺贈の種類や遺言書の作成方法、M&Aとの比較を交えながら、円滑な事業承継のポイントを専門家が解説します。

目次

  1. 事業承継における遺贈とは?相続との違いも解説
  2. 事業承継で遺贈を行うための遺言書の種類と作成方法
  3. 遺贈による事業承継を進める上での注意点
  4. 20年7月に施行された遺言書保管法とは?
  5. 遺贈が事業承継の最適解とは限らない理由
  6. 遺贈以外の事業承継方法とM&Aの活用
  7. 事業承継やM&Aに関する専門家への相談
  8. 事業承継の遺贈まとめ
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1. 事業承継における遺贈とは?相続との違いも解説

遺贈は、経営者が自身の意思で後継者を指名できる有効な事業承継手段の一つです。特に法定相続人以外へ事業を引き継がせたい場合に活用されます。本章では、遺贈の基本的な意味合いから、相続との法的な違いまでを詳しく解説します。

遺贈とは

遺贈とは、遺言によって指定した人物へ財産を無償で譲渡することです。事業承継で遺贈を作成する主なメリットは、法定相続人以外の人物へ財産を譲渡できる点です。事業承継の際の遺贈は包括遺贈と特定遺贈に分けられます。

包括遺贈とは

包括遺贈とは、遺贈する財産の割合を決めて引き継ぐ方法です。事業承継の際、指定した人物に財産の3分の1を遺贈したい場合などに活用します。

包括遺贈は、財産の種類を特定せず「全財産の〇割」といった形で割合を指定する方法です。そのため、株式や不動産などのプラスの財産だけでなく、借入金などのマイナスの財産(債務)もその割合に応じて引き継ぐことになります。受贈者は予期せぬ負債を抱えるリスクがある点に注意が必要です。

包括遺贈により想定外の負債を負うリスクを避けるため、受贈者は「相続放棄」や「限定承認」を選択できます。相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産もすべて引き継がない方法です。一方、限定承認は、引き継いだプラスの財産の範囲内でのみ債務を弁済する方法で、受贈者のリスクを限定できます。

そのほか、単純承認と呼ばれる、事業承継の際に遺贈財産を丸ごと受け入れる承認方法もあります。

特定遺贈とは

特定遺贈とは、事業承継の際に財産の種類を特定して引き継ぐ方法のことです。包括遺贈が「財産の割合」であったのに対して、特定遺贈は「財産の種類」である点に違いがあります。

受贈者にとっての主なメリットは、事業承継の際に負債があった場合、包括遺贈のように負債を受け継ぐ必要がない点です。特定遺贈の場合は遺言に記載されている財産を受け継ぐのみで済みます。

相続との違い

相続と遺贈の大きな違いは、財産を引き継ぐ対象者です。事業承継における相続の場合は、法定相続人に事業承継財産が引き継がれます。

法定相続人は配偶者と血族相続人に分かれていて、相続人との関係性で相続順位が分かれています。一方、遺贈の場合は法定相続人以外の人物に事業承継財産を引き継ぐことが可能です。

相続の場合は相続順位で相続人が決まりますが、遺言がある場合は遺言で指定された人物が優先的に事業承継財産を受け継ぎます。

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遺留分との違い

遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に最低限保障された遺産の取り分のことです。遺言によって特定の人物に財産が集中し、他の相続人の遺留分が侵害された場合、その相続人は遺贈を受けた者に対して「遺留分侵害額請求」を行えます。これは侵害された価値に相当する金銭の支払いを求める権利であり、事業承継の計画を巡る親族間トラブルの火種となり得るため、遺言内容には十分な配慮が必要です。

2. 事業承継で遺贈を行うための遺言書の種類と作成方法

事業承継の際の遺言には、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言があります。それぞれの書き方を解説します。

自筆証書遺言とは

自筆証書遺言とは、遺言の作成から保管までを全て遺贈者自身で行うことです。事業承継の際に自筆証書遺言を作成するメリットは、遺言書作成コストが遺贈者自身の手間だけで済む点です。

公正証書遺言のように、作成を依頼する費用が必要ありません。遺言の内容は遺言者自身しか知らないので、事業承継における遺贈で情報漏えいの可能性を低くすることが可能です。

ただし、自筆証書遺言を作成する場合遺贈者が自力で作成と遺言の管理を行うので、遺贈が無効になってしまう可能性があります。

以下では、事業承継の遺贈で用いる自筆証書遺言の書き方の例をまとめました。遺言書を遺贈者自身で書く場合は、全ての文章を自身で書くこと、具体的な記載内容にすること、遺言の日付を明記することなどが注意点として挙げられます。

自筆証書遺言の書き方

       遺言書
遺言者 〇〇〇〇は以下の通り遺言する。
第1条 妻である〇〇〇〇(昭和〇〇年〇月〇日生)に下記不動産を相続させる
1.土地
所在:東京都〇〇区〇〇町〇〇丁目
地番:〇〇番〇〇
地目:宅地
地籍:〇〇平方メートル
2.建物
所在:東京都〇〇区〇〇町〇〇丁目
地番:〇〇番〇〇
地目:居宅
地籍:〇〇平方メートル
構造:木造瓦葺2階建
床面積:1階 〇〇平方メートル
    2階 〇〇平方メートル
 
第2条 長男である〇〇〇〇(昭和〇〇年〇月〇日生)に以下の遺言者名義の預貯金を取得させる。
〇〇銀行 〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇
〇〇銀行 〇〇支店 定期預金 口座番号〇〇
 
第3条 次男である〇〇〇〇(昭和〇〇年〇月〇日生)に以下の財産を取得させる
〇〇株式会社の株式 数量〇〇株
 
第4条 上記以外の財産は、全て妻である〇〇〇〇に相続させる
 
第5条 この遺言書の執行人として東京都〇〇区〇〇町〇〇丁目〇〇番〇〇の弁護士〇〇〇〇を指定する。
 
令和〇〇年〇〇月〇〇日
東京都〇〇区〇〇町〇〇丁目〇〇番〇〇
遺言者  〇〇〇〇 印

公正証書遺言とは

公正証書遺言は、公証人が遺言者から聞き取った内容を基に作成する、法的に最も確実性の高い遺言形式です。公証人が内容の適法性を確認し、原本が公証役場に保管されるため、無効になるリスクや紛失・改ざんの心配がほとんどありません。事業承継のような複雑で重要な財産の移転には最も適した方法といえます。

ただし、事業承継のために公正証書遺言を作成するには、時間とお金がかかったり、証人を2人用意したりする必要があります。

公正証書遺言の書き方

令和〇〇年 第〇〇〇〇号
               遺言公正証書
本職は遺言者〇〇〇〇の嘱託により、証人〇〇〇〇、同じく〇〇〇〇の立ち会いのもと、下記の遺言の趣旨について口授を筆記し、この証書を作成する。
               遺言の趣旨
第1条 妻である〇〇〇〇(昭和〇〇年〇月〇日生)に下記不動産を相続させる
1.土地
所在:東京都〇〇区〇〇町〇〇丁目
地番:〇〇番〇〇
地目:宅地
地籍:〇〇平方メートル
2.建物
所在:東京都〇〇区〇〇町〇〇丁目
地番:〇〇番〇〇
地目:居宅
地籍:〇〇平方メートル
構造:木造瓦葺2階建
床面積:1階 〇〇平方メートル
    2階 〇〇平方メートル
 
第2条 長男である〇〇〇〇(昭和〇〇年〇月〇日生)に以下の遺言者名義の預貯金を取得させる。
〇〇銀行 〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇
〇〇銀行 〇〇支店 定期預金 口座番号〇〇
 
第3条 次男である〇〇〇〇(昭和〇〇年〇月〇日生)に以下の財産を取得させる
〇〇株式会社の株式 数量〇〇株
 
第4条 上記以外の財産は、全て妻である〇〇〇〇に相続させる
              本旨外要件
 
東京都〇〇区〇〇町〇〇丁目〇〇番〇〇
職業   〇〇
遺言者  〇〇〇〇 
昭和〇〇年〇〇月〇〇日生
上記は印鑑証明の提出により人違いでないことを証明させた。
 
東京都〇〇区〇〇町〇〇丁目〇〇番〇〇
証人  〇〇〇〇
昭和〇〇年〇〇月〇〇日生
 
東京都〇〇区〇〇町〇〇丁目〇〇番〇〇
証人  〇〇〇〇
昭和〇〇年〇〇月〇〇日生
 
上記したところを遺言者及び証人に読み聞かせたところ、各自筆記の正確であるところを承認し、以下に署名押印する。
 
遺言者 〇〇〇〇 印
証 人 〇〇〇〇 印
証 人 〇〇〇〇 印
 
この証書は、民法第969条第1号ないし第4号所定の方式により作成し、同条第5号に基づき以下に署名押印す。
 
令和〇〇年〇〇月〇〇日 本職役場において
東京都〇〇区〇〇丁〇〇番〇〇号
東京法務局所属 
           公証人  〇〇〇〇 印

秘密証書遺言とは

秘密証書遺言とは、自筆証書遺言と公正証書遺言の両方の特徴を取り入れた遺言書です。事業承継の際、遺贈者は公証人を通す必要がありません。

一方で、自筆証書遺言とは違い証人の署名が必要なので、事業承継の際に遺贈を最低限の相手にのみ伝えて遺言の改ざんを防ぐことも可能です。

秘密証書遺言の書き方

遺言書
遺言者 〇〇〇〇は以下の通り遺言する。
第1条 妻である〇〇〇〇(昭和〇〇年〇月〇日生)に下記不動産を相続させる
1.土地
所在:東京都〇〇区〇〇町〇〇丁目
地番:〇〇番〇〇
地目:宅地
地籍:〇〇平方メートル
2.建物
所在:東京都〇〇区〇〇町〇〇丁目
地番:〇〇番〇〇
地目:居宅
地籍:〇〇平方メートル
構造:木造瓦葺2階建
床面積:1階 〇〇平方メートル
    2階 〇〇平方メートル
 
第2条 長男である〇〇〇〇(昭和〇〇年〇月〇日生)に以下の遺言者名義の預貯金を取得させる。
〇〇銀行 〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇
〇〇銀行 〇〇支店 定期預金 口座番号〇〇
 
第3条 次男である〇〇〇〇(昭和〇〇年〇月〇日生)に以下の財産を取得させる
〇〇株式会社の株式 数量〇〇株
 
第4条 上記以外の財産は、全て妻である〇〇〇〇に相続させる
 
第5条 この遺言書の執行人として東京都〇〇区〇〇町〇〇丁目〇〇番〇〇の弁護士〇〇〇〇を指定する。
 
令和〇〇年〇〇月〇〇日
東京都〇〇区〇〇町〇〇丁目〇〇番〇〇
遺言者  〇〇〇〇 印
東京都〇〇区〇〇町〇〇丁目〇〇番〇〇​​​​​​​
昭和〇〇年〇〇月〇〇日生
証 人  〇〇〇〇 印

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3. 遺贈による事業承継を進める上での注意点

事業承継の遺贈を行う際は、以下のポイントに注意が必要です。
  • 自筆証書遺言の紛失 
  • 自筆証書遺言の改ざん 
  • 公正証書遺言は重要

自筆証書遺言の紛失 

自筆証書遺言は紛失しないように注意が必要です。遺贈者が事業承継前に紛失したことに気付けば良いですが、もしも遺贈者が亡くなってから事業承継後に紛失したはずの遺言書が出てきた場合、事業承継に混乱をきたす可能性があります。

公正証書遺言の場合は厳重に保管されるので、紛失の可能性はまずありません。

自筆証書遺言の改ざん 

自筆証書遺言の紛失とともに改ざんも、事業承継にとって大きなトラブルとなる可能性があります。事業承継前に気付ければ良いものの、事業承継後に気付いた場合は事業承継自体がやり直しになる可能性もあります。

自筆証書の紛失や改ざんは取り返しのつかないおそれがあるので、トラブルを防ぐためには公正証書遺言を作成したうえで事業承継を行いましょう。

公正証書遺言は重要

自筆証書遺言の紛失や改ざんは、事業承継に重大なトラブルを起こす可能性があります。公正証書遺言は作成に手間がかかる面もありますが、後継者に安全に事業承継を行うためには手間をかけてでも公正証書遺言の形で遺贈しましょう。

4. 20年7月に施行された遺言書保管法とは?

2020年7月から、遺言書保管法が施行されました。遺言書保管法とは、自筆証書遺言を遺言書保管所に預けられる法律です。これにより、自筆証書遺言の紛失や改ざんを防げるようになりました。

しかし、遺言書保管所に預ける際は、作成に関する相談はできず、遺言の内容も確認されることはありません。

自筆証書遺言の内容が遺贈者の意図したものとは違っていた場合や、事業承継前に誰かに改ざんされていた場合であっても、遺言書保管所で指摘してもらえるわけではない点に注意が必要です。

5. 遺贈が事業承継の最適解とは限らない理由

ここまで遺贈による事業承継を解説してきましたが、遺贈による事業承継は必ずしも最適な選択肢とはいえません。自筆証書遺言の場合は紛失や改ざんの可能性があり、遺贈者が存命のうちは何度でも遺書を書き換えられるので、後継者は遺書の内容に振り回されることになりかねません。

遺留分を侵害する内容の場合は、相続人の遺留分減殺請求の原因ともなります。事業承継の際に遺贈する財産に差を付ける場合は、その理由を明確にしておくことでトラブル回避につながります。

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遺贈による事業承継は弁護士に相談

弁護士に相談すると、自分のケースにおいて遺贈による事業承継が最適な選択肢なのか念入りに検討してもらえます。そのほか、民法特例の要件を満たすための手続きや、合意書を作成するなど複雑な作業を代行してもらえるでしょう。

税理士と連携している弁護士も多いため、事業承継を全体的に支援してもらえます。

6. 遺贈以外の事業承継方法とM&Aの活用

事業承継の方法は遺贈だけではありません。状況に応じて他の手法も検討することで、より円滑で最適な承継が実現できます。

親族内承継(相続・生前贈与)

親族内承継は、経営者の子や配偶者などの親族に事業を引き継ぐ、最も一般的な方法です。相続や生前贈与によって株式や事業用資産を移転させます。後継者の早期育成が可能で、内外の関係者から受け入れられやすいメリットがありますが、後継者候補がいない、または承継の意思がない場合は選択できません。

従業員承継(EBO)

役員や従業員に事業を引き継ぐ方法を従業員承継(EBO:Employee Buyout)と呼びます。長年会社に貢献してきた人材が後継者となるため、経営理念や事業内容への理解が深く、経営の安定化を図りやすい点がメリットです。一方で、後継者候補となる従業員に株式取得のための十分な資金力がないケースが多いという課題があります。

第三者承継(M&A)のメリット

親族や社内に適当な後継者がいない場合、M&Aによって社外の第三者(企業または個人)に事業を引き継ぐ方法が有効です。M&Aによる事業承継は、後継者不在問題を解決できるだけでなく、より資本力のある企業の傘下に入ることで事業の成長・発展が期待できます。また、オーナー経営者は株式の売却によって創業者利益を確保できるという大きなメリットもあります。

7. 事業承継やM&Aに関する専門家への相談

遺贈による事業承継は有効な手段ですが、法務や税務の専門知識が不可欠であり、親族間のトラブルを招く可能性も否定できません。円滑な事業承継を実現するためには、早期から専門家へ相談することが重要です。特に後継者不在の問題を抱えている場合は、M&Aによる第三者への事業承継も有力な選択肢となります。

M&A総合研究所には、豊富な経験を持ったM&Aアドバイザーが多数在籍しております。料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。事業承継を行いたいものの後継者がいない場合は、相手先を探してM&Aを行うことも可能ですので、まずはお気軽にご相談ください。

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8. 事業承継の遺贈まとめ

遺贈とは、遺言によって指定した人物へ財産を無償で譲渡することで、事業承継にも活用できます。しかし、内容によってはトラブルの原因のおそれがあるので、注意が必要です。

事業承継を円滑に進めるためには、経営者が元気なうちに準備を進めておくことが大切です。後継者がいない場合はM&Aを活用することで事業承継が可能になるので、M&Aの専門家に相談することをおすすめします。

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