2022年10月21日更新
事業承継特別保証制度とは?要件、活用方法を徹底解説
中小企業の事業承継でネックとなる経営者保証の解除を支援するため、事業承継特別保証制度がスタートしました。本記事では、事業承継特別保証制度を解説するとともに、経営者保証の専門家である経営者保証コーディネーターなどについても紹介します。
目次
1. 事業承継特別保証制度とは?
近年は、中小企業の事業承継が日本経済にとっても重要な課題ですが、後継者として中小企業経営者になるためには、経営者保証を負わなければならないことがほとんどです。
経営者保証は後継者にとって大きな負担ともなり、会社を継ぐ意思はあっても経営者保証を負いたくないために断念するケースが多く見られます。
事業承継特別保証制度は、経営者保証を負わずに事業承継するための支援制度です。2020年4月に開始したので、事業承継特別保証制度を知らない方もいるでしょう。
本章では、事業承継特別保証制度が生まれた理由や、経営者保証解除とは何かを解説します。
事業承継特別保証制度が生まれた理由
団塊世代の中小企業経営者が引退して会社を廃業してしまうと、多くの雇用とGDPが失われてしまいます。その対策として、国は以前から中小企業の事業承継を支援してきました。
支援を行うなかで事業承継の実態は、後継者がいるにもかかわらず、経営者保証がネックになって事業承継を行えないケースが非常に多い状況です。
中小企業の事業承継を進めるためには、後継者が経営者保証を負わずに事業承継できる制度を整える必要があるとの判断から、一定の条件を満たす場合は経営者保証を免除できる事業承継特別保証制度を設立し、経営者保証なしで事業承継できるように制度の整備を進めています。
経営者保証解除とは
経営者保証とは、中小企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者が保証人となることです。会社が債務を返済できなくなると、経営者がその責務を背負います。
経営者保証は金融機関のリスクを抑えるために有効ですが、経営者にとっては会社の破綻が自身の破綻に結び付くため、思い切った経営戦略をとれないデメリットもあります。
経営者保証解除とは、経営者保証を解除することです。経営者保証は義務付けられていないので、保証なしで融資を受けることも可能です。
経営者保証を解除できれば、思い切った経営方針をとれるのに加えて、経営者の精神的プレッシャーを軽減できます。事業承継特別保証制度は、経営者保証の解除を広く普及させるための制度です。
事業承継特別保証制度を利用するメリット
事業承継特別保証制度を利用するメリットは、下記の4つです。
- 事業承継時に利用できる
- 事業承継時の経営者保証がいらない
- 専門家の確認を受ければ保証料率がかなり軽減される
- 経営者保証付きの既存の借入金でも借り換えが可能
後継者は、保証における不安材料が解消されるので、ためらうことなく事業を引き継げます。要件を満たしていると判断された会社は、保証料率が大幅に引き下げられるでしょう。
2. 事業承継特別保証制度の要件
事業承継特別保証制度の主な概要は、下表になります。申し込み資格は、すでに事業承継してしまった企業も対象となるケースがあります。
具体的には、2020年1月1日から2025年3月31日の間に事業承継を行った会社は、事業承継後3年以内であれば事業承継特別保証制度の対象です。信用保証協会が指定した書式による事業承継計画書の提出が必要です。
【事業承継特別保証制度の主な概要】
主な申込み資格 | ・中小企業者である ・3年以内に事業承継する予定である ・事業承継計画を作成している ・債務超過ではない ・返済緩和中ではない ・借入金が一定の範囲内に抑えられている ・会社と経営者が分離できている |
保証できる金額 | 2億8,000万円まで |
保証できる期間 | 10年まで |
保証料率 | 軽減しない場合:0.45~1.9% 軽減した場合:0.2~1.15% |
3. 事業承継特別保証制度の活用方法
事業承継特別保証制度を利用したい場合は、まず、各都道府県または市町村にある信用保証協会へ問い合わせをします。その後は信用保証協会のサポートに従って、事業承継特別保証制度の適用に向けて手続きします。
事業承継特別保証制度は、申し込み要件として事業承継計画書の作成が義務づけられているので、問い合わせ前に作成しておくとスムーズに手続きが進むでしょう。
そのほかにも、財務要件等確認書など条件によって必要となる書類があるので、信用保証協会や金融機関に問い合わせて用意しておく必要があります。
4. 事業承継特別保証制度の活用で経営者保証は不要となる?
事業承継特別保証制度は、経営者保証を不要とする事業承継を支援する制度ですが、必ずしも経営者保証が不要になるわけではありません。
前章で示したとおり、事業承継特別保証制度の申し込みにはさまざまな条件があり、債務超過の会社や事業承継計画のない会社は適用されません。
事業承継特別保証制度はいくらでも経営者保証を解除できるわけではなく、限度額は2億8,000万円までです。事業承継特別保証制度の対象となる資金は、事業承継時までに必要な事業資金であるといった制限もあります。
5. 経営者保証解除に向けた支援
国は事業承継特別保証制度以外にも、さまざまな形で事業承継解除に向けた支援を行っています。主な支援制度は以下の3つです。
【経営者保証解除に向けた支援】
- 経営者保証ガイドライン
- 専門家による支援
- 専門家による金融機関との交渉
経営者保証ガイドライン
経営者保証ガイドラインとは、経営者保証によって経営者が負う責務を適切な範囲に収めるために、金融機関などの融資する側が守るべきルールを定めたものです。
2014年から運用されている事業承継特別保証制度よりも前から存在しています。あくまで守るべきルールとして推奨されているので、法的な拘束力はありません。
ガイドラインの概要は下記に示したとおりで、経営者保証によって経営者の生活が破綻しないためにするべきことが記されています。
2019年にはガイドラインの「特則」が新たに設けられ、前経営者と後継者のいわゆる二重徴収を原則として禁ずることなどが盛り込まれました。
経営者保証ガイドラインは事業承継特別保証制度とともに、事業承継を後押しする制度として活用されています。
【経営者保証ガイドラインの概要】
- 会社と経営者が分離されているなら経営者保証を求めない
- 経営者の最低限の生活費などを保証する
- 返済できない債務は免除する
専門家による支援
中小企業経営者のなかには、「事業承継特別保証制度などの支援制度についてよくわからない」「そもそも制度を知らない」というケースもあるので、事業承継特別保証制度に詳しい専門家が支援しなければなりません。
中小企業庁は、全国の事務局に「経営者保証コーディネーター」という専門家を配置して、事業承継特別保証制度の相談を始めとする、経営者保証解除のための活動を行っています。
経営者保証コーディネーターは、会社が経営者保証ガイドラインの条件を満たすかどうかの判定を行い、条件を満たす場合は事業承継特別保証制度を適用し、経営者保証解除のためのサポートをします。
ガイドラインを満たさない場合は、満たすためのアドバイスが行われるでしょう。例えば、経理を透明化したり財務内容を強化したりといった磨き上げを行うことで、ガイドラインを充足できるように指導していきます。
専門家による金融機関との交渉
事業承継特別保証制度は、経営者保証の解除を後押しする制度ですが、解除を強制するものではありません。実際に解除するかどうかは、金融機関との交渉によって決定されます。
しかし、中小企業経営者によっては知識や交渉力などに不安があり、本当に経営者保証を解除できるのかと考えることもあるでしょう。
そうしたケースでは、事業承継特別保証制度を適用するための支援の一環として、経営者保証コーディネーターが実際に金融機関との交渉に同席し、経営者保証解除のためのアドバイスを行います。
専門家が味方についてくれることで、中小企業経営者は安心して交渉を行えるでしょう。
6. 保証料率に関わる経営者保証コーディネーターとは?
経営者保証コーディネーターとは、各都道府県の産業振興センターなどに配置されている、事業承継特別保証制度など経営者保証支援の専門家であり、経営者保証解除のための中小企業の支援などを行います。
財務責任者の経験がある人や、公認会計士、税理士などが担当しており、豊富な実務経験にもとづいたサポートを受けられるでしょう。
事業承継特別保証制度では、保証料率の引き下げを経営者保証コーディネーターが判断するので、非常に重要な役割を担っています。
7. 事業承継M&Aに関する相談先
事業承継は、事業承継特別保証制度を活用して経営者保証の問題を解決することも重要ですが、後継者を誰にするかという問題をまず解決しなければなりません。親族など身近な人物に後継者がいないときは、M&Aによる事業承継を検討しましょう。
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8. 事業承継特別保証制度のまとめ
事業承継特別保証制度は最近始まった制度ですが、経営者保証なしで事業承継できる手段として非常に有力な制度です。事業承継特別保証制度をよく知ることが、中小企業経営者にとって今後重要となるでしょう。
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