組織再編とは?種類や各々のメリット・目的を解説【事例あり】

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

組織再編がいくつか種類があり、実際に行われた事例では各々違った目的・メリットがみられます。当記事では、組織再編とはどのようなものか、種類・メリット・目的について事例を交えて解説しています。また、組織再編とは異なる事業譲渡についても併せて解説しています。

目次

  1. 組織再編とは
  2. 組織再編の種類一覧
  3. 組織再編の各々のメリットと目的
  4. 事業譲渡は組織再編に含まれる?
  5. 組織再編の各種スキームの主な手続き
  6. 組織再編の各種スキーム事例
  7. まとめ
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1. 組織再編とは

組織再編とは会社の組織を改めることで、経営資源を有効活用したり事業を強化したりする行為をさし、会社法上の合併会社分割株式交換株式移転などが当てはまります。

ちなみに組織再編は、経済活動のボーダレス化や市場の変化などを要因として実行に移されているといえるでしょう。企業は自社の存続と成長を目的に、国内外の企業と提携したり会社・事業を吸収したりといった行為を選択しています。

組織変更との違い

組織変更は、法人格を維持しつつ会社の形態を変更することをさします。組織再編とは異なり、会社の法人格は変更されません。つまり組織変更は、自社の法人格を残したまま組織の形態を変えられるということです。

組織変更では、株式会社から持分会社(合名・合同・合資会社)と持分会社から株式会社への移行があります。

組織変更の内容を理解できるように、それぞれのケースに分けて組織変更の詳細をみていきましょう。

株式会社から持分会社への移行

株式会社から持分会社への移行では、意思決定から実行までの速度を早められる点が組織変更の理由に挙げられます。

株式会社では、株主の意見に左右されるため意思決定から実行に移るまでに時間を要しますが、持分会社では出資者となっている社員の意見がそのまま事業に反映されます。

つまり、株式会社から持分会社へ移行すれば意思決定から実行までの速度を早められ、市場の動きに対応しやすくなるのです。組織再編とは異なり、自社のみで事業の維持・成長を図れます。

持分会社から株式会社への移行

持分会社から株式会社への移行では、資金の確保や知名度の向上などが組織変更の理由に挙げられます。

持分会社は会社の規模が小さいと認識され、株式会社と比べると信用度は劣ってしまうと認識されるのが一般的です。

これにより金融機関からの融資を受けにくくなり、資金が必要になっても確保するのが難しいです。

社員を増やしたり事業を大きくしたりするには、株からの資金提供が必須です。そこで株式会社への移行を選び、株主からの出資により必要な資金を確保しやすくします。

2. 組織再編の種類一覧

組織再編を行う場合、どのような手法を選べばよいのでしょうか。組織再編には、いくつかの種類が存在します。

組織再編の種類を決めかねている人は、以下に取り上げる種類から自社に見合った組織再編を選ぶとよいでしょう。

各種類の組織再編がどのような行為かを理解して、自社の事業再編に役立ててください。

【組織再編の種類】

  1. 合併による組織再編
  2. 分割による組織再編
  3. 株式交換による組織再編
  4. 株式移転による組織再編

①合併による組織再編とは

合併による組織再編とは

合併による組織再編とは、どのようなスキームをさすのでしょうか。まずは、合併について説明します。合併は、2つ以上の会社が契約を通じて会社を存続・解散させる手法です。

解散会社の権利義務は清算の手続きを経ることなく、存続会社や新設する会社に承継されます。合併の手続きを通じて、解散会社の株主・社員は存続・新設する会社の株主や社員に替わり、権利の維持が行われます。

合併の組織再編では、さらに2つの種類に分けられます。

【合併による組織再編の種類】

  1. 吸収合併
  2. 新設合併

吸収合併

1つ目は吸収合併です。吸収合併による組織再編とは、ひとつの会社を残してもう一方の会社から権利義務などを承継する手法です。吸収合併を選択する理由は、企業の成長や対象企業の救済のためです。

解散会社の権利義務をすべて承継されるので、ノウハウ・営業権・従業員などを引き継げます。これなら、自社で事業を始めるよりもコストを抑えられます。

ただし許認可は、吸収合併の前後で申請を行う必要があったり、一部の許認可しか引き継げないため再取得を求められたりします。許認可の種類などによって許認可が引き継がれるわけではないことを覚えておきましょう。

また、吸収合併の種類を選べば経営権が手に入ります。負債を抱えた企業を救済することで、経営権の確保が可能です。

このように、吸収合併による組織再編とは目先の成長や将来への備えを目的にした手段といえます。

新設合併

2つ目は新設合併です。新設合併による組織再編とは、合併に関わる当事会社がすべて消滅し、新たに設立する会社に権利義務などを承継させる手法です。

ただし吸収合併の組織再編とは異なり、許認可は引き継がれません。また、新たに会社を設立する必要があることから手間と時間を多く要し、好んで選ばれない手法といえます。

同じ合併でも、種類の違いによって得られる効果や解散する企業の数が異なると把握しておくことで問題ないでしょう。

【関連】合併の意味を世界一分かりやすく解説!必要な手続きや会計処理・事例などを紹介

②分割による組織再編とは

分割による組織再編とは

分割による組織再編とは、どのような方法をさすのでしょうか。分割とは、所有する事業の一部や全部を他社に承継させる手法です。

分割による組織再編は、次の2種類に分類されています。それぞれの手法を理解できるように、詳しい内容を以下で解説していきます。

【分割による組織再編の種類】

  1. 吸収分割
  2. 新設分割

吸収分割

1つ目は吸収分割です。吸収分割による組織再編とは、事業の全部や一部を切り離して他社に承継させる手法です。

事業を分割する際に、分割する側の企業や株主へ対価(金銭・株式)を支払うことで取引が完了します。吸収分割は吸収合併の組織再編とは異なり、スキームの実行によって会社を解散させることはありません。

そのため吸収分割を選択する企業は、自社の事業を切り離すことで資本の選択と集中を行えます。

新設分割

2つ目は新設分割です。新設分割による組織再編とは、事業に関する権利義務の一部や全部を新設する会社に承継させる手法です。分割側の株主に新設する会社の株式を交付することで、株主の権利が守られています。

新設分割は関わる事業者によって、さらに2つの種類に分けられます。1つ目の種類は、グループ内の再編です。複数の事業部門を新たに設立する会社に移すことで、効率的な経営を目指します。

もう1つの種類は、他社との事業統合です。同じ事業を1つの会社にまとめることで、シナジーの獲得や事業規模の拡大、ブランドの向上などを図ります。

このように新設分割の組織再編とは、既存の事業を活かすための手法をいえるでしょう。

【関連】会社分割(吸収分割・新設分割)とは?わかりやすく解説!

③株式交換による組織再編とは

株式交換による組織再編とは

株式交換による組織再編とは、企業が買収を行う際に対象企業の株式を買い取り、自社の株式を対象企業の株主に交付する手法です。組織再編の種類で株式交換を選ぶと、対象会社を完全子会社にできます。

さらに、買収では現金を用意する必要がありません。対価には自社の株式を用いるため、まとまった現金が手元にない場合でも企業の買収が行えます。

このように株式交換による組織再編とは、現金を用いずに対象企業をグループの傘下に入れられる手法です。

④株式移転による組織再編とは

株式移転による組織再編とは

株式移転による組織再編とは、新しい会社を設立して既存の会社を完全子会社とする組織再編です。新設する会社が既存会社の株主からすべての株式を取得し、自社の株式を割り当てます。

株式交換による組織再編とは異なり、新会社の設立が伴います。組織再編に株式移転の種類を選ぶ場合は、持株会社を設ける場合に用いられるのが一般的です。

株式移転では複数の会社が自社の独立性を保てるため、経営統合を行うための組織再編といえます。

【関連】株式移転と株式交換の違いとは?手法やメリット、費用も解説【事例あり】

3. 組織再編の各々のメリットと目的

組織再編では、スキームごとに得られるメリットと目的が異なっています。この章では、各スキームのメリットと目的について詳しく解説していきます。
 

  1. 吸収合併のメリットと目的
  2. 新設合併のメリットと目的
  3. 吸収分割のメリットと目的
  4. 新設分割のメリットと目的
  5. 株式交換のメリットと目的
  6. 株式移転のメリットと目的

なお、これら組織再編のスキームで共通するメリットが適格再編税制です。いくつかに分けられた一定の要件を満たすことで「適格」となり、組織再編にかかる税金を軽減できます。

ただし、適格組織再編となるための要件は難しいため、まずは専門家に相談することをおすすめします。

①吸収合併のメリットと目的

組織再編で吸収合併の種類を選ぶのは、どのような目的を持ってスキームを決定しているのでしょうか。ここでは、吸収合併の目的に加えて得られるメリットを取り上げます。

メリット

組織再編の種類に吸収合併を用いると、以下のようなメリットを得られます。メリットの内容を把握して、自社に合ったスキームかを確認してください。

【吸収合併のメリット】

  1. 権利義務の包括的承継
  2. 雇用環境の維持
  3. 規模の拡大と企業価値の向上
  4. 資金の要不要

メリット① 権利義務の包括的承継

組織再編の種類から吸収合併を選ぶと、権利義務をまとめて承継することが可能です。さらに吸収する側と解散する側では、以下のようなメリットが存在します。

吸収する側のメリット

吸収合併の種類を選び権利義務をまとめて承継すると、ひとつひとつを個別に承継する必要がありません。そのため、吸収する側は手間を省けます。

解散する会社のメリット

吸収合併の種類を選び権利義務をまとめて承継させると、負債も引き継いでもらえます。株式譲渡のようにすべての権利義務を譲り渡すため、負債による負担から解放されます。

メリット② 雇用環境の維持

2つ目に挙げる吸収合併の種類を選んだ場合のメリットは、雇用環境の維持です。吸収合併では、吸収する会社が解散する会社の社員を引継ぎます。株式譲渡のように親・子会社の区別がないため、解散する会社の社員も同様に扱われるでしょう。

そのため解散する会社は、自社の社員に引け目を感じさせずに組織再編を行えるといえます。

メリット③ 規模の拡大と企業価値の向上

3つ目に挙げる吸収合併の種類を選んだ場合のメリットは、規模の拡大と企業価値の向上です。

2つ以上の会社が1つにまとまるため、会社の規模が大きくなります。すると、吸収・解散会社では以下のメリットが得られます。

吸収する側のメリット

吸収する側のメリットは、事業規模の拡大です。同業者を吸収すれば、自社のシェアを高められます。さらに、吸収した会社と共通して資源や原材料などが利用できれば、コストを下げることも可能です。

解散する側のメリット

解散する側のメリットは、企業価値の向上です。吸収する側に資本力があり自社よりも知名度が高ければ、吸収合併により自社の企業価値を高められます。注目度の高い法人格に変わることで収益にも影響を与え、これまで以上の成果を上げられるでしょう。

メリット④ 資金の要不要

4つ目に挙げる吸収合併の種類を選んだ場合のメリットは、資金の要不要です。吸収合併のスキームは、取引の対価に株式を用いることが認められています。そのため、契約内容によって現金・株式のどちらかを選ぶことが可能です。

吸収する側のメリット

吸収する側のメリットは、株式による対価の交付です。まとまった額の現金を持っていない場合でも、自社の株式を解散会社の株主に交付することで、吸収合併の取引が行えます。

解散する側のメリット

解散する側のメリットは、現金の獲得です。吸収合併の対価に現金が用いられると、取引に応じることでまとまった資金が手に入ります。

これなら株式の現金化に苦労することがないため、解散会社の株主には大きなメリットといえるでしょう。

目的

吸収合併を行う目的には、権利義務の承継を挙げられます。解散する会社の資産や営業権、ノウハウ、一部の許認可を引き継げるため、組織再編の種類から吸収合併を選択しているのが少なくありません。

②新設合併のメリットと目的

新設合併を選択する企業は、どのような目的でスキームを決定しているのでしょうか。新設合併に興味を持たれた人は、以下で取り上げる新設合併の目的と得られるメリットを参考にしてください。

メリット

新設合併の種類を選んだ場合のメリットは、役員・社員の平等な扱いです。所属していた会社はすべて解散するため、新たな会社に各社の役員・社員が集められます。

こうすれば、吸収・解散側とで区別される事態を減らせるため、役員や社員は引け目を感じることなく仕事を続けられるといえるでしょう。

【関連】合併のメリット・デメリット25選!

目的

新設合併を選ぶ目的には、平等な配慮が挙げられます。既存の会社をすべて解散させることからそれぞれの立場が守られるため、組織再編の種類で新設合併のスキームが用いられています。

③吸収分割のメリットと目的

吸収分割には、以下のようなメリットと目的を挙げられます。吸収分割で得られるメリットと組織再編の目的を把握しておきましょう。

メリット

吸収分割で得られる主なメリットには、以下の3つが挙げられます。
 

  • 対価に現金を使用できる
  • 労働者からの許可を必要としない
  • 課税に対する軽減措置

1つ目は、対価に現金を使用できる点です。吸収合併では、受け取る対価に承継会社の株式のほか、金銭による交付が認められています。そのため、株式の現金化に困る事態を避けられます。

2つ目のメリットは、労働者からの許可を必要としない点です。権利義務のすべてが承継されるため、労働者から個別の同意を得る必要はありません。

ただし、労働者保護の手続きを行い労働者の権利を守る必要があるため、吸収分割を利用する場合には注意しなければなりません。

3つ目のメリットは、課税に対する軽減措置を受けられる点です。中小企業が行う分割では、期間内における登録免許税・不動産取得税の軽減措置が受けられます。

さらに吸収分割が適格分割に該当すれば、不動産取得税は非課税とされるため税金を支払う必要がありません。

また、消費税については適格分割の該当・非該当によらず、課税の対象とはなりません。

目的

吸収分割の目的は、グループの再編を図るためです。親会社が子会社に主要事業を引き継がせることで、各子会社を管理する体制へ移行させています。

④新設分割のメリットと目的

新設分割を選ぶ会社は、次のようなメリット・目的のためにスキームを選んでいます。新設分割のメリットと目的にはどのようなものがあるかをみていきましょう。

メリット

新設分割には、いくつかのメリットがありますが、主なものには以下の3つがあります。
 

  • 事業の独立性を高められる
  • 対象事業の上場
  • 後継者に経験を積ませることができる

1つ目は、事業の独立性を高められる点です。特定の事業を分社化すれば、事業の経営状況が明確になります。さらに、既存の会社と切り離されるため小回りが利き、事業展開の速度を上げられます。

2つ目のメリットは、対象事業の上場です。対象事業に成長の余地を見出す場合、会社から切り離すことで上場に備えられます。

3つ目のメリットは、後継者に経験を積ませられる点です。後継者が分社化した事業の指揮をとることで、経営のいろはを学ばせられます。

目的

新設分割の目的は、複数の事業部門を1つの会社にまとめることです。同じ事業を別の部門で手掛けていれば、経営効率の低下を招きかねません。

そのため、事業を集約させて効率を上げられるよう新設分割が選ばれています。

【関連】会社分割のメリット・デメリットを詳しく解説!

⑤株式交換のメリットと目的

次は、株式交換のメリットとスキームを選択する目的について解説していきます。株式交換を選ぶ会社は、以下のようなメリットと目的により組織再編のスキームを選んでいます。

メリット

株式交換には、主に3つのメリットが存在します。
 

  • 現金不要で取引できる
  • すべての株主から同意を得る必要がない
  • 法人格の存続

1つ目のメリットは、現金不要で取引ができる点です。株式交換では自社の株式を対価として使用できるため、まとまった額の現金を用意する必要がありません。

2つ目のメリットは、すべての株主から同意を得る必要がない点です。株主総会の特別決議で議決権を行使できる株主が半数以上出席して2/3以上の賛成を得ると、株式交換を行えます。個別に承諾を得る必要がないため、手間を省けます。

3つ目のメリットは、法人格の存続です。株式交換を行っても法人格は残されます。そのため、会社名の変更に伴う売り上げの減少や取引の減少などを避けられます。

目的

株式交換の目的は、対象企業の完全子会社化です。親子会社での利益相反を避けるため、子会社からすべての株式を買い取り非公開会社(上場企業であれば)とします。すると経営方針が統一され、損失を生む事態を避けられます。

そのほかには、少数の株主を排除することを目的に挙げています。株式交換を行うことで所有数が1株未満の株主を出現させ、現金による対価の支払いが行えます。こうして、少数派によるトラブルを回避できるのです。

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⑥株式移転のメリットと目的

株式移転には、どのようなメリットと目的が見られるのでしょうか。株式移転を検討する際は、メリット・主な目的をあらかじめ把握しておきましょう。

メリット

株式移転には、主に2つのメリットがあります。
 

  • 債権者保護の手続きが不要である
  • 許認可の承継

1つ目は、債権者保護の手続きを不要とする点です。株式移転は株主の構成を変えることに留まり、財産は移転しません。

そのため、基本的には債権者保護の手続きが要らないとされています。(完全親会社が完全子会社の新株予約権を引き継いだ場合は、手続きが必要)

2つ目のメリットは、許認可の承継です。組織再編を行っても事業会社に変化が及んだわけではないため、許認可の引継ぎが認められています。

目的

株式移転の目的には、持株会社の設立や経営統合が挙げられます。新たに設立する会社を完全親会社とし、自社の株式をすべて移転させて資産管理会社への移行を図ります。

他社との経営統合は会社の独立性が保たれ、すぐに他社とのすり合わせを行う必要がありません。そのため、時間をかけて統合を進めたい場合に用いられています。

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4. 事業譲渡は組織再編に含まれる?

事業譲渡は、事業の一部や全部を他社に譲り渡す手法です。結論を先に言いますと、事業譲渡は先に紹介した組織再編の手法とはいえません。

合併や会社分割などは会社法によって規定されている行為ですが、事業譲渡は個別の取引をまとめた行為とみなされているため、組織再編に入らないのです。

とはいえ、事業譲渡は各種の組織再編と似通った特徴を備えています。この章では、事業譲渡と組織再編の違いについて解説していきます。

事業譲渡と各種組織再編スキームとの違い

事業譲渡と組織再編のスキームには、どのような違いが見られるのでしょうか。各スキームと事業譲渡の違いを把握できるように、以下のパターンに分けて解説していきます。
 

  • 事業譲渡と会社分割の違い
  • 事業譲渡と合併との違い
  • 事業譲渡と株式交換の違い
  • 事業譲渡と株式移転の違い

事業譲渡と会社分割の違い

1つ目の違いは、債権者保護の手続きです。事業譲渡と会社分割では債権の保護手続きを必要としませんが、事業譲渡では債務を承継させた場合に債務の引受の手続きを必要とします。

2つ目の違いは、労働者の同意です。事業譲渡では、労働者から個別に同意を得る必要があります。これに対し会社分割では、個別の同意は不要とされています。

3つ目の違いは、対価です。事業譲渡では現金を対価とするのに対し、会社分割(新設分割)では株式や社債が対価に用いられます。ちなみに、吸収分割は金銭を対価とすることも可能です。

そのほかにもいくつかの違いがあるので、以下にまとめた表で違いを把握してください。
 

事業譲渡と会社分割の違い
項目 事業譲渡 会社分割
債権者保護の手続き 不要
※債務引受の手続きは必要
不要
労働者への個別の同意 必要 不要
対価 現金 株式・社債(新設分割)
契約の承継 個別に承継 包括的承継
許認可の引き継ぎ 再取得 可能(一部の許認可)
消費税 課税 非課税
競業避止義務 あり なし

事業譲渡と合併の違い

事業譲渡と合併(吸収・新設)には、次のような違いが見られます。
 

事業譲渡と合併との違い
項目 事業譲渡 合併
権利義務 個別に承継 包括的承継
簿外債務 回避は可能 承継
債権者の同意 個別の同意 不要
会社の消滅 なし あり
無効を訴えられる人物と期間 限定 人物・期間を問わない
書類の備置・閲覧 不要 備置の開始日~効力発生日の6カ月後まで
登記 原則不要 必要

事業譲渡と株式交換の違い

事業譲渡と株式交換の違いは、次のとおりです。
 

事業譲渡と株式交換の違い
項目 事業譲渡 株式交換
対価 現金 株式・社債・新株予約権・新株予約権付きの社債
株主の同意 個別の同意が必要 次の場合には、個別の同意は不要
・一定数の株主から同意を得る   
・略式・簡易株式交換       
承認 ・原則は株主総会の特別決議
(略式・簡易組織再編では不要)
・一部に限り取締役会の決議
・原則は株主総会の特別決議
(略式・簡易組織再編では不要)
・一部に限り株主全員の同意
書類の閲覧・備置 不要  備置の開始日~効力発生日の6カ月後まで

事業譲渡と株式移転の違い

事業譲渡と株式移転の違いは、次のとおりです。
 

事業譲渡と株式移転の違い
項目 事業譲渡 株式移転
対価 現金 株式・社債・新株予約権・新株予約権付きの社債
新株予約権の買取請求 なし あり
債権者保護の手続き 不要
※債務引受の手続きは必要
必要
無効の訴え なし あり
書類の備置・閲覧 不要 備置の開始日~効力発生日の6カ月後まで

事業譲渡のメリットと目的

事業譲渡は、どのようなメリットを備えているのでしょうか。また、実行する際は何を目的にスキームを選んでいるのでしょうか。ここでは、事業譲渡のメリットと主な目的についてみていきます。

メリット

組織再編のスキームと同様に、事業譲渡にもいくつかのメリットが存在します。主なメリットは次の3つです。
 

  • 特定の事業を切り離せる
  • 譲渡する対象を選べる
  • 売却益の獲得

1つ目は、特定の事業を切り離せる点です。自社から採算の取れなくなった事業や手を引く事業を切り離してスリム化できます。

2つ目のメリットは、譲渡する対象を選べる点です。営業権やノウハウ、有能な従業員など、自社に残しておきたい資産や権利義務などが選べます。これは買い手側も同様で、自社に見合った対象を選ぶことで不要な承継を避けられます。

3つ目のメリットは、売却益の獲得です。事業の売却により現金が獲得できれば、借入金の返済や設備投資などに充てられます。

目的

事業譲渡の目的には、経営効率の改善や事業の存続などが挙げられます。不採算事業を他社へ売却すれば、採算の取れる事業へ資本を集中させられます。

また、後継者不足に悩む会社も他社に事業を譲り渡すことで事業の存続が可能です。事業譲渡を選ぶ会社は、このような目的を持ってスキームを決めています。

【関連】事業譲渡の手続き・流れやスケジュールを徹底解説!期間はどれぐらい?

5. 組織再編の各種スキームの主な手続き

この章では、組織再編時に必要となる手続きについて、各種スキームごとに解説していきます。それぞれ違った手続きが必要となるため、事前にしっかりと把握しておきましょう。

合併

合併の手続きは、以下のような流れで進められます。
 

  1. 合併内容の決定
  2. 取締役会決議の承認を得る(取締役会設置会社のみ)
  3. 合併契約書の締結
  4. 書類の備置
  5. 株主総会の特別決議の承認を得る
  6. 株式・新株予約権(消滅会社)の買取請求への対応
  7. 債権者保護の手続き
  8. 株券の提出(株券を発行する会社の場合)
  9. 合併の登記
  10. 事後の情報開示

会社分割

会社分割(吸収・新設)の手続きは、以下のような流れで進められます。

【吸収分割】

  1. 契約書の作成
  2. 契約書について取締役会決議の承認を得る(取締役会設置会社のみ)
  3. 分割契約の締結
  4. 書類の備置
  5. 労働者・労働組合への通知
  6. 株主総会の招集について取締役会の決議を経る(取締役会設置会社のみ)
  7. 株主総会で会社分割の承認決議
  8. 債権者保護の手続き
  9. 株主・新株予約権者などへの通知・公告
  10. 分割の登記
  11. 事後の書類開示

【新設分割】
  1. 契約書の作成
  2. 契約書について取締役会決議の承認を得る(取締役会設置会社のみ)
  3. 分割契約の締結
  4. 書類の備置
  5. 株主総会の特別決議で承認を得る(分割会社)
  6. 株主への通知・公告
  7. 株式・新株予約権者(分割会社)の買取請求に対応
  8. 債権者保護の手続き
  9. 分割の登記
  10. 事後の情報開示

株式交換

株式交換の手続きは、次のような流れで進められます。

 

  1. 契約内容の決定
  2. 契約内容を記した書類の備置
  3. 取締役会の承認を得る(取締役会設置会社のみ)
  4. 株主総会の特別決議の承認を得る(例外あり)
  5. 株主への通知・公告
  6. 株券の提出(株券発行会社のみ)
  7. 株式・新株予約権(完全子会社)の買取請求への対応
  8. 債権者保護の手続き
  9. 株式交換の登記
  10. 事後の情報開示

株式移転

株式移転の手続きは、次のように進められます。
 

  1. 株式移転計画の決定
  2. 契約内容を記した書類の備置
  3. 株主総会の特別決議の承認を得る(完全子会社)
  4. 株主への通知・公告
  5. 株券の提出(株券発行会社のみ)
  6. 株式・新株予約権/新株予約権付き社債(完全子会社)の買取請求への対応
  7. 債権者保護の手続き
  8. 株式移転の登記
  9. 事後の情報開示

組織再編の手続きは、M&A総合研究所へ

組織再編では各種のスキームに応じて、手続きの仕方が異なります。スムーズに契約を終えるためには、M&A仲介会社など専門家の協力が不可欠です。

M&A総合研究所では、知識と経験が豊富なM&Aアドバイザーが相談からクロージングまでをフルサポートしますので、各種の組織再編にも迅速な対応が可能です。

当社は完全成功報酬制(※譲渡企業のみ)となっております。無料相談はお電話・Webより随時お受けしておりますので、M&Aをご検討の際はお気軽にご連絡ください。

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6. 組織再編の各種スキーム事例

組織再編による事例を知りたい人に向けて、スキーム別の事例を紹介します。取り上げた6つの事例を参考にして自社の組織再編に活かしてください。

【組織再編の各種スキーム事例】

  1. 日本創発グループによるグラフィックグループの吸収合併
  2. 東洋製罐によるタイ国にある連結子会社3社の新設合併
  3. マイネットゲームスによるINDETAILのゲームサービス事業の吸収分割
  4. クラウディアHDによる内田写真の写真撮影業といった新設分割
  5. アイビーシーとサンデーアーツの株式交換
  6. オウチーノとみんなのウェディングの株式移転

事例① 日本創発グループによるグラフィックグループの吸収合併

1つ目に紹介するスキーム別の組織再編事例は、日本創発グループによるグラフィックグループの吸収合併です。この事例では、スキームに吸収合併を選んで組織再編によるM&Aを行っています。

日本創発グループは2017年にグラフィックグループの株式を取得したのち、吸収合併を実行しています。自社を存続会社、グラフィックグループを消滅会社とした事例です。
 

組織再編の各種スキーム事例
事例① 日本創発グループによるグラフィックグループの吸収合併
譲渡・売却価額 約47億円
M&Aの種類 吸収合併
M&Aの目的・メリット 印刷事業の強化・企業価値の向上

事例② 東洋製罐によるタイ国にある連結子会社3社の新設合併

2つ目に紹介するスキーム別の組織再編事例は、東洋製罐によるタイの連結子会社との新設合併です。この事例では、M&Aのスキームに新設合併を選択しています。

東洋製罐は2013年の5月に、新しい子会社にタイにある連結子会社の権利や資産などを承継させています。

なお、この事例で合併の対象となった会社はWell Pack Innovation Co., Ltd.・Toyo Pack International Co., Ltd.・Toyo Seikan Technical & Administration Service Center(Asia) Co., Ltd.の3社です。
 

組織再編の各種スキーム事例
事例② 東洋製罐によるタイ国にある連結子会社3社の新設合併
譲渡・売却価額 掲載なし
M&Aの種類 新設合併
M&Aの目的・メリット 会社の機能と資源の集約・洪水からの復興を早める

事例③ マイネットゲームスによるINDETAILのゲームサービス事業の吸収分割

3つ目に紹介するスキーム別の組織再編事例は、マイネットゲームスとINDETAILのゲームサービス事業の取引です。この事例では、吸収分割のスキームが用いられています。

マイネットゲームスは2019年の4月に、INDETAILからゲームサービス事業を分割させて自社への承継を図るとのことです。また、この事例では簡易吸収分割にあたるため株主総会の承認を得ずに手続きを完了させています。
 

組織再編の各種スキーム事例
事例③ マイネットゲームスによるINDETAILの吸収分割
譲渡・売却価額 320万円
M&Aの種類 吸収分割
M&Aの目的・メリット 採用の強化とゲームタイトルの増加

事例④ クラウディアHDによる内田写真の写真撮影業といった新設分割

4つ目に紹介するスキーム別の組織再編事例は、クラウディアHDと内田写真との事例です。この事例では、M&Aのスキームに新設分割が選ばれています。

ブライダル事業を手掛けるクラウディアHDは2019年の3月に、内田写真が所有する写真撮影などの事業を新設した子会社へ承継させました。なお、この事例では新しい子会社に、事業を移転した内田写真の名前がつけられています。

 

組織再編の各種スキーム事例
事例④ クラウディアHDによる内田写真の写真撮影業といった新設分割
譲渡・売却価額 5.74億円
M&Aの種類 新設分割
M&Aの目的・メリット ブライダル事業とのシナジー効果と写真事業のシェア拡大

事例⑤ アイビーシーとサンデーアーツの株式交換

5つ目に紹介するスキーム別の組織再編事例は、アイビーシーとサンデーアーツの取引です。この事例では、株式交換のスキームが選ばれています。

アイビーシーは2019年の4月に、アイビーシーを完全親会社、サンデーアーツを完全子会社として取引を行いました。この事例では、簡易株式交換により株式の交換手続きを済ませています。
 

組織再編の各種スキーム事例
事例⑤ アイビーシーとサンデーアーツの株式交換
交付する株式数 82,102株(普通株式)
M&Aの種類 株式交換
M&Aの目的・メリット ブロックチェーン技術の獲得による企業・事業の成長を図る

事例⑥ オウチーノとみんなのウェディングの株式移転

6つ目に紹介するスキーム別の組織再編事例は、オウチーノとみんなのウェディングの取引です。この事例では、株式移転のスキームを用いられています。

共同株式移転により、共同持ち株会社「くふうカンパニー」が設立されました。くふうカンパニーは、オウチーノとみんなのウェディングの株主へ自社の株式を割り当てています。

この事例では、くふうカンパニーが両社の親会社となり、2018年の10月に東証マザーズへの上場を果たしています。
 

組織再編の各種スキーム事例
事例⑥ オウチーノとみんなのウェディングの株式移転
株式移転の比率 オウチーノ1株につき、くふうカンパニー4.25株
みんなのウェディング1株につき、くふうカンパニー1株
M&Aの種類 株式移転
M&Aの目的・メリット 技術人材の共有

7. まとめ

組織再編の目的には、企業の存続・成長・従業員の確保などが挙げられます。企業は会社や従業員、取引先のことを考えて、組織再編を実行に移しています。

組織再編の種類は、合併による組織再編・株式交換による組織再編・株式移転による組織再編の大きく3つに分けられますが、スキームにはいくつかの種類があり、似通った特徴を備えています。

また、スキームごとに必要となる手続きも異なるため、組織再編を実行に移す場合はM&A仲介会社などの専門家に協力を仰ぐようにしましょう。

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