2022年12月20日更新
スクイーズアウトの株価算定方法とは?手順や事例を解説
支配株主にとっての少数株主を排除する手段であるスクイーズアウトでは、少数株主に支払う対価を決める株価算定が必須です。スクイーズアウトの株価算定方法について、TOBとの関連性などとともに事例、判例を交えて詳しく解説します。
目次
1. スクイーズアウトとは
スクイーズアウト(Squeeze Out=排除、締め出し)とは、支配株主が少数株主を排除する手法の総称になります。スクイーズアウトを用いると、少数株主の同意を得ることなく少数株主を排除可能です。
スクイーズアウトは、事業承継、グループ企業の完全子会社化、上場企業の経営陣が自社株買いによって上場廃止にするMBOの際などに用いられます。
2. スクイーズアウトの手法
スクイーズアウトの手法にはどのようなものがあるのでしょうか。この項では、以下4つの手法について解説します。
- 現金対価株式交換
- 全部取得条項付種類株式
- 株式併合
- 特別支配株主の株式等売渡請求制度
①現金対価株式交換
スクイーズアウトを行う企業が上場企業の場合は、現金を対価とした株式交換が有効とされます。株式交換とは、相手企業の株式を全て取得することで完全子会社化する手法です。
株式交換は株式を対価にすることが一般的ですが、現金を対価にもできます。株式交換の特徴を利用して、親会社は子会社の株式をすべて取得し、少数株主を排除することも可能です。
②全部取得条項付種類株式
全部取得条項付種類株式とは種類株式の一種で、会社は全部取得条項が付いている株式を取得できます。全部取得条項付種類株式を発行するには、株主総会特別決議の承認を得て定款に定めることが必要です。
実際に効力を発動する際にも、株主総会の特別決議が必要になります。以前はスクイーズアウトの際によく使われていた手法ですが、現在では手間の多さから他の手法が使われる傾向です。
③株式併合
株式併合とは、株式数を圧縮することで少数株主の保有株式を端株にする手法です。
例えば、支配株主が100万株、少数株主が10株持っている場合、株式併合によって100分の1にすると支配株主は1万株、少数株主は0.1株保有することになります。
この端株を買い取ることで、少数株主を追い出すことが可能です。ただし、株式併合を行うには株主総会の特別決議で承認が必要になります。
④特別支配株主の株式等売渡請求制度
特別支配株主の株式等売渡請求制度とは、会社の株式を9割以上保有する特別支配株主であれば、少数株主の同意を得ることなく保有株式を買い取れる制度です。
株式等売渡請求制度は、株主総会が不要なことなどから手続きが簡単でメリットの大きい手法ですが、保有株式割合が9割以下の場合は自力で株式を集める必要があります。
3. スクイーズアウトの活用場面
スクイーズアウトの主な活用場面は以下です。
- 支配権を集中させて意思決定を迅速に行いたい場合
- 少数株主を排除したい場合
- 株主が所在不明で連絡が取れない場合
こういった複数の株主が株を保有していると、迅速な対応ができず合理的な経営ができません。しかしスクイーズアウトを活用すると、株主全体の合意形成をしやすくなります。
4. スクイーズアウトの株価算定方法
少数株主から株式を買い取る際の株価算定方法は、以下の3種類があります。
- インカム・アプローチ
- マーケット・アプローチ
- コスト・アプローチ
これらの株価算定方法にはそれぞれ良い点もあれば欠点もあるので、お互いの特徴を生かす形で組み合わせることが一般的です。
ここでは、スクイーズアウトの株価算定方法を詳しく解説します。
①インカム・アプローチ
インカム・アプローチとは、買収先企業の収益力や成長性などを基に株価算定を行う方法です。インカム・アプローチには、以下の方法があります。
- DCF法
- 収益還元法
- 配当還元法
DCF法
DCF(Discounted Cash Flow)法とは、買収先企業が将来生み出す収益の期待値を求め、現在の価値に割り引いて株価算定を行う方法です。
DCF法は、企業の収益性や成長性など将来の不確定要素を、比較的シンプルな計算式で求められるメリットがあります。
収益還元法
収益還元法も、DCF法と同じく収益性や成長性を現在価値に割り引いて、株価算定する方法です。
DCF法と比べて柔軟性には欠けますが、計算が簡単なので大まかな株価算定を行いたい時に用いられます。
配当還元法
配当還元法は、少数株主が保有株式を相続・贈与する際の株価算定に用いられます。M&Aの株価算定では、あまり用いられない方法です。
②マーケット・アプローチ
マーケットアプローチとは、市場や他企業の状況を参考に株価算定を行う方法です。マーケット・アプローチには、以下の方法があります。
- 市場株価法
- 類似会社比較法
- 類似取引比較法
市場株価法
市場株価法とは、参考とする企業を選び、その企業の過去一定期間の株価を基に計算することで株価算定を行う方法です。
市場株価法で参考株価を織り込み、他の株価算定方法で企業価値も織り込むことで、より精度の高い株価算定が行えます。
類似会社比較法
類似会社比較法とは、非上場企業の株価算定を、同種・同規模の上場企業を参考に行う方法です。どの上場企業を選ぶかで株価算定の結果が変わるので、企業選択が重要になります。
類似取引比較法
類似取引比較法とは、対象企業と同種・同規模の企業が過去に行ったM&Aの取引額を参考に株価算定を行う方法です。M&Aが多い商品・サービスの場合は、株価算定がしやすいメリットがあります。
しかし、買収の際には、当時企業同士の思惑が株価算定に反映されていることも多いので、その点をどう判断するかが重要です。
③コスト・アプローチ
コスト・アプローチとは、株価算定時点での純資産を基に算定する方法です。コスト・アプローチには、以下の方法があります。
- 簿価純資産法
- 修正簿価純資産法
- 時価純資産法
簿価純資産法
簿価純資産法は、対象企業の簿価から株価算定を行う方法です。自己資本から株式数を割ることで1株あたりの株価算定を行います。
しかし、簿価と時価が乖離(かいり)することが多いため、実用性に欠ける点は否めません。
修正簿価純資産法
修正簿価純資産法は、簿価純資産法の欠点を修正した株価算定方法です。一部資産を時価で算定することで、株価算定の精度を高めています。
時価純資産法
時価純資産法は、対象企業の時価から株価算定を行う方法です。時価純資産法では企業の成長性や将来の収益性を織り込まないため、成長産業の株価算定には向かず、成熟産業の株価算定によく用いられます。
5. 株価の客観的価値とは
株価算定は、対象企業の客観的価値と期待価値の合計によって決定されます。客観的価値とは、企業の資産価値や市場の状況などによって決定される価値です。
対して期待価値とは、対象企業が将来生み出す収益の期待値などから算出される価値になります。しかし、株価算定においては、客観的価値の算出であっても算定方法によって異なる株価が出てしまうでしょう。
算出された客観的価値が不公正とみなされれば、少数株主によって裁判になり、価格が変更されたりスクイーズアウトが差し止められたりする可能性もあります。そのような事態を避けるためにも、専門家による株価算定が必要です。
中小企業のM&Aに携わっているM&A総合研究所では、企業価値評価に精通した実務経験豊富なM&Aアドバイザーが専任に就き、一括サポートをいたします。
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6. スクイーズアウトまでの主な流れ
スクイーズアウトを行う際は、大まかな流れを事前に把握しておくことも大切です。スクイーズアウトの流れは、以下のようになります。
- TOBにより買収先企業の議決権比率を高める
- スクイーズアウトを実施する
①TOBにより買収先企業の議決権比率を高める
前述したスクイーズアウトの手法を用いるには、最低でも株主総会の特別決議で承認が得られる3分の2以上の議決権が必要です。したがって、議決権比率が足りない場合、まずは株式を買い集める必要があります。
株式を集める方法としてよく用いられるのがTOB(公開買付)でしょう。TOBとは、公開取引市場を通さずに、株主から直接株式を買い集める手法です。
買収側は、他株主に対して買付株式数・買取価格・買取期限などを告知します。対象株主はその情報を基に、TOBに応じるか・市場で売るか・保有し続けるかを判断します。
TOB価格の決定のポイント
TOB価格は通常、市場価格や企業価値などから株価算定したうえで、一定のプレミア価格を乗せて募集するのが常です。
プレミア価格が低い場合は、希望どおりの株式数が集まらない可能性が高くなり、プレミア価格が高ければ買収資金の負担が大きくなります。
TOB価格の決定には、さまざまな要因から分析・判断する必要があるため、専門家によるサポートが重要です。
②スクイーズアウトを実施する
スクイーズアウトを実施するには、前述した株式等売渡請求制度を利用する場合は取締役会での承認、それ以外は株主総会の特別決議で承認が必要です。
承認が得られれば、株主の同意を必要とせずにスクイーズアウトできます。
ただし、少数株主がスクイーズアウトに納得いかなかった場合、裁判になるケースもあるので、慎重に準備して実施しなければなりません。
7. スクイーズアウトの事例
ここでは、実際にスクイーズアウトが行われた以下の事例を掲示します。
- アークランドサカモトのスクイーズアウト
- エナリスのスクイーズアウト
- パイオニアのスクイーズアウト
- 日本生命のスクイーズアウト
- 雪国まいたけのスクイーズアウト
- カネボウのスクイーズアウト
①アークランドサカモトのスクイーズアウト事例
2020(令和2)年6月、新潟県を中心に巨大ホームセンターを展開するアークランドサカモトは、ホームセンター事業などを行う埼玉県のLIXILビバへのTOBと、TOB後に株式併合によるスクイーズアウトを実施することを発表しました。
2020年6月現在でTOBの実施中であり、まだ途中経過の段階ですが、LIXILビバには、その株式の53.22%を所有する親会社のLIXILグループがいます。
アークランドサカモトとしては、LIXILグループ以外からのTOBおよびスクイーズアウトが順調に進めば、その後、LIXILビバに資金提供し、LIXILビバがLIXILグループから自己株式調達を行って消却させ、最終的にはアークランドサカモトの完全子会社となることが狙いです。
アークランドサカモトはLIXILビバをグループ化させることによって、ホームセンター事業のさらなる拡大を図ろうとしています。
②エナリスのスクイーズアウト事例
電力関連事業を行うエナリスは2019(令和元)年、筆頭株主であったKDDIとJパワーによって上場廃止となりました。
KDDIとJパワーはTOBによって株式を買い集めて議決権を獲得、その後、スクイーズアウトによって少数株主を排除し、エナリスを上場廃止とします。
エナリスの電力に頼ってきたKDDIにとって、電気事業の発展拡大にはエナリスの経営安定化が欠かせないと判断し、スクイーズアウトによる上場廃止を実行しました。
③パイオニアのスクイーズアウト事例
パイオニアは経営難から、2018(平成30)年12月に上場廃止を発表しました。外資系投資ファンドが株主となり、株式併合によるスクイーズアウトで少数株主を排除、2019年に上場廃止を実現しています。
パイオニアは上場廃止によって、株主や株価に振り回されずに経営再建を進めていく方針です。
④日本生命のスクイーズアウト事例
日本生命は2015(平成27)年、三井生命をTOBによって買収することを発表しました。その後、特別支配株主の株式等売渡請求によるスクイーズアウトで全株式を買い取り、2016(平成28)年に三井生命を完全子会社化しています。
三井生命は長く業績低迷が続いていました。しかし、三井グループや住友グループでは三井生命の救済ができなかったことから、日本生命は救済の意味と自社にとってのメリットを考慮して、買収に至っています。
⑤雪国まいたけのスクイーズアウト事例
雪国まいたけは2015年、外資系投資ファンドによるTOBで買収され、その後スクイーズアウトが行われて上場廃止となりました。雪国まいたけは事業の失敗や不適切会計問題、経営陣のトラブルなどで業績が悪化していた矢先の出来事です。
投資ファンドは事業を立て直して利益を得る投資目的で買収し、その後、保有株式の約半分が売却されました。
⑥カネボウのスクイーズアウト事例
花王は、2006(平成18)年に事業拡大のため、当時、粉飾決算で危機に陥っていたカネボウを買収し、スクイーズアウトによって少数株主を排除、完全子会社化しています。
花王は業界トップになるため勝負に出ましたが、カネボウの立て直しがうまくいかず、逆に花王の足を引っ張ることとなりました。
8. スクイーズアウトの価格決定による裁判例
スクイーズアウトでは少数株主から同意なく株式を回収できますが、少数株主は納得いかない場合、裁判を起こすことがあります。スクイーズアウトにより裁判となった、以下の事例を見ていきましょう。
- アムスク事件
- ジュピターテレコム事件
- レックス・ホールディングス事件
- サイバードホールディングス事件
①アムスク事件
2013(平成25)年、JASDAQに上場していた外国系半導体商社である東京のアムスクは、自己株取得による非公開化を行い、上場廃止しました。その際に行った全部取得条項付種類株式を利用したスクイーズアウトについて、少数株主より種類株主総会決議などを取り消す訴えがなされ、裁判となります。
東京地裁、東京高裁ともに少数株主側の言い分を認め、アムスクの株主総会手続きには不備があったとされ、その決議も取り消し処分となりました。その後、アムスクはあらためて株主総会手続きをやり直し、最終的に上場廃止へと至っています。
スクイーズアウトの手続きには十二分に留意する必要性を示す判例として、覚えておきましょう。
②ジュピターテレコム事件
2013年に住友商事とKDDIは、全部取得条項付種類株式によるスクイーズアウトでジュピターテレコムから少数株主を排除しました。それに対し、少数株主は対価が安すぎると訴え、裁判に至っています。
2016年に決定した最高裁判所の判決では、スクイーズアウトの価格がTOB価格と同額であったことは正当性があるとし、少数株主の訴えは却下されました。
③レックス・ホールディングス事件
レックス・ホールディングスは2007(平成19)年、経営陣による自社株買い(MBO)によって上場廃止を計画していることを発表しました。
しかし、TOB価格とスクイーズアウト価格の発表は、レックス・ホールディングスの業績下方修正が発表されたタイミングであったため、不当な価格でのTOBとスクイーズアウトとして少数株主が訴え、裁判となっています。
裁判所の判決では、価格決定はレックス・ホールディングスの価格操作によるものではないこと、不当に安いとはいえないことから、少数株主側の訴えを棄却しました。
④サイバードホールディングス事件
サイバードホールディングスは2007年、MBOによって最終的に上場廃止することを発表しました。
投資ファンドの子会社がTOBを行い、その後、全部取得条項付種類株式によって少数株主を排除、上場廃止へと至る計画です。しかし、TOB価格・スクイーズアウト価格が不当に安いと少数株主が訴えたため、裁判となりました。
東京地裁の判決では、サイバードホールディングス側の提示する価格が正当であるとされたものの、東京高裁では、正当な価格とはいえないと判断され、プレミア価格を上乗せするよう判決が下されています。
9. スクイーズアウトの株価算定方法まとめ
本記事ではスクイーズアウトの株価算定方法を事例とともにお伝えしました。
スクイーズアウトには、以下の方法があります。
- 現金対価株式交換
- 全部取得条項付種類株式
- 株式併合
- 特別支配株主の株式等売渡請求制度
スクイーズアウトの主な流れは、以下のとおりです。
- TOBにより買収先企業の議決権比率を高める
- スクイーズアウトを実施する
スクイーズアウトの株価算定には、以下の方法があります。
- インカム・アプローチ
- マーケット・アプローチ
- コスト・アプローチ
スクイーズアウトの株価算定には、専門家の深い知識と的確な判断が必要であるため、専門家に相談して進めるようにしましょう。
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