2025年07月15日更新
M&Aによる事業承継を成功させる種類株式の活用法|メリット・注意点を解説
本記事では、事業承継での種類株式の効果的な活用方法を解説します。種類株式とは、普通株式とは異なる権利内容を持つ株式です。会社法上で発行が認められている種類株式は9種類あり、そのうちのいくつかは事業承継の際に活用可能です。事業承継を検討している方は必見です。
目次
1. M&Aや事業承継の鍵を握る「種類株式」とは
少子化や経営者の高齢化が進む日本では、事業承継の円滑化が急務とされています。しかし、事業承継には後継者問題や株式の承継などの課題もあり、準備を進められていない企業が多いのも事実です。
事業承継の準備をスムーズに進めて会社を存続させるためには、事業承継に関する基本的な知識を備えておく必要があります。
事業承継とは
事業承継とは、会社の経営権や有形・無形の資産を後継者に引き継ぐことです。承継方法には親族内承継、従業員承継、そして第三者への承継(M&A)があります。
いずれの方法でも、会社の経営は経営者を中心に行われるため、経営者の高齢化による経営力の低下は避けたい課題です。次の世代へ円滑に経営を引き継ぐには、経営権そのものである株式の承継が最も重要なポイントになります。
M&Aと事業承継における種類株式の役割
M&Aは、後継者不在の中小企業にとって有力な事業承継の選択肢です。このM&Aのプロセスにおいても、種類株式は重要な役割を果たします。
M&Aが事業承継の選択肢となる背景
近年、経営者の高齢化と後継者不足を背景に、親族や従業員ではなく、社外の第三者へ会社を引き継ぐM&Aによる事業承継が増加しています。M&Aであれば、後継者がいなくても事業と従業員の雇用を守り、創業者利益を確保できる可能性があります。
M&Aのプロセスで種類株式が活用される場面
M&Aの交渉段階やPMI(M&A後の統合プロセス)では、買い手と売り手の間でさまざまな条件調整が行われます。例えば、売り手である現経営者がM&A後も一定期間経営に関与したい場合、拒否権付株式(黄金株)を保有することで、重要な意思決定への影響力を残す、といった活用法が考えられます。
親族外承継(M&A)における種類株式の重要性
親族外承継であるM&Aでは、株式を100%譲渡することが一般的ですが、段階的な承継や売り手の関与を残すスキームも存在します。こうした複雑なニーズに応えるため、種類株式を用いて議決権や配当のバランスを調整することが、円滑なM&A成立の鍵となるケースも少なくありません。
会社法で定められた9種類の株式とそれぞれの特徴
一般的に「株式」と呼ばれるものは、「普通株式」を指します。所有する株主の権利に関して、一切の制限を受けない標準的な株式であり、保有株数に応じた権利が与えられている株式です。
種類株式とは、2種類以上の株式を発行した場合の各株式を指します。それぞれ異なる権利が付与されるものです。議決権や配当金を受け取る権利などの目的をもって発行されることが多いでしょう。
主なメリットとしては、特定のニーズに対応しやすくなることが挙げられます。議決権を有して経営に関わりたい人もいれば、配当金だけを受け取りたいと考える人もいるでしょう。種類株式であれば、それらのニーズを満たしやすくなります。
会社法で認められている種類株式は全部で以下の9種類があります。
- 譲渡制限株式
- 取得請求権付株式
- 取得条項付株式
- 配当優先株式
- 残余財産優先株式
- 議決権制限株式
- 全部取得条項付株式
- 拒否権付株式
- 役員専任解任権付株式
それぞれの概要を順次、説明します。
譲渡制限株式
譲渡制限株式とは、株式の譲渡に会社の承認(株主総会や取締役会の決議)を必要とする種類株式です。
本来、株式は自由に譲渡できるのが原則ですが、経営に関与しない第三者に株式が渡るのを防ぎたい中小企業にとっては、この制限が非常に重要です。
そのため、多くの中小企業では、定款に譲渡制限の規定を設けることで、意図しない株式の分散を防止しています。事業承継やM&Aの際も、まずはこの譲渡制限の有無を確認することが基本となります。
取得請求権付株式
取得請求権付株式とは、所有する株式について会社へ買い取りを請求できる種類株式です。買取請求を受けた会社は、分配可能額の範囲で取得する必要があり、その請求を拒めません。
買い取る株式の対価は、あらかじめ決められていた財産(現金・普通株式・社債など)を請求した株主に交付します。対価支払いを現金に指定する場合、分配可能額の範囲を超えて取得できない点に注意が必要です。
非公開会社の株式は、流動性が少なく換金性が悪い欠点があります。会社があらかじめ決められた対価で買い取る取り決めをしておくことで、株式の価値を担保できるメリットがあるでしょう。
取得条項付株式
取得条項付株式とは、定款で定めた一定の事由が発生した場合、会社が株主の同意なしにその株式を強制的に取得できる種類株式です。
事業承継においては、「株主が死亡した場合」や「経営に関わらない相続人が株式を相続した場合」などを取得事由として設定しておくことで、株式の分散を未然に防ぐことが可能です。取得の対価として、他の株式や金銭などを交付します。
この仕組みは、相続トラブルを回避し、後継者へ経営権を安定させるために有効な手段です。
配当優先株式
配当優先株式とは、剰余金の配当が普通株式の出資比率とは異なる種類株式です。通常の配当金より多く、あるいは少なく設定できます。一切の配当を行わないように定められる点も特徴といえます。
配当優先株式には、優先配当後の剰余金からも配当を受けられる「参加型」と、受けられない「非参加型」があります。
この株式は、事業承継の場面で議決権制限株式と組み合わせて活用されることが多くあります。例えば、後継者以外の相続人には「配当は優先するが議決権はない株式」を渡すことで、遺産分割の公平性を保ちつつ、経営権は後継者に集中させることが可能です。
また、議決権がない株式は評価額が低くなるため、後継者が承継する普通株式の株価を引き下げ、相続税や贈与税の負担を軽減する効果も期待できます。
残余財産優先株式
残余財産優先株式は、会社清算をした場合の残余財産の分配について、出資比率と異なる定めをした種類株式です。普通株式より優先的に分配を行ったり、あるいは全く分配を行わなかったりすることが定められています。
剰余金配当と残余財産分配の両方の権利を全く与えない種類株式は発行できません。たとえ少額であっても、どちらかの権利を持たせることが発行の前提条件とされています。
議決権制限株式
議決権制限株式とは、議決権を行使できる事項に制限がある種類株式です。議決権の行使範囲を制限することにより、株主の会社の経営に対する影響力をコントロールできます。株主総会での議決権を無効にすることで、経営に一切関与できなくすることも可能です。
会社側としては、経営権を分散することなく資金調達できるメリットがあります。
事業承継では、相続人が複数いる場合に遺産分割で株式が分散し、経営権が不安定になるリスクがあります。
この問題の解決策として、議決権制限株式が有効です。具体的には、後継者には議決権のある普通株式を、他の相続人には議決権のない(あるいは一部制限された)種類株式を相続させることで、経営権を後継者に集中させることができます。
議決権がない代わりに配当を優先させるなど、他の権利を付与することで相続人間の公平性を図るのが一般的です。
全部取得条項付株式
全部取得条項付株式とは、株主総会の決議により、株式全部を取得できる定めのある種類株式を指します。発行は、決議に必要な株主の出席と賛成だけでよい点がメリットといえるでしょう。
権限を行使した場合は、各株主に対してあらかじめ決められていた財産(現金・普通株式・社債など)を交付します。金銭交付の場合は、分配可能額を超えた株式を取得できないため、普通株式や社債を定めることも多いです。
事業承継では、現経営者に株式を集中させた後、後継者に承継する形が基本となります。株式が分散している場合は、ほかの株主から株式を買い取る必要があります。しかし、全ての株主が応じてくれるとは限らないため、事業承継の進行を妨げる要因になることも珍しくありません。
全部取得条項付株式であれば、株主からの合意が得られなくても、全株式を強制的に取得できます。株主からの合意が得られなくても事業承継を進められるでしょう。
拒否権付株式
拒否権付株式は、株主総会や取締役会の特定の決議事項に対して拒否権を行使できる非常に強力な株式で、通称「黄金株(ゴールデンシェア)」とも呼ばれます。敵対的買収の防衛策として知られていますが、事業承継においても有効です。
例えば、後継者に株式を譲渡した後も、現経営者がこの黄金株を1株保有し続けることで、会社の合併や解散といった重要事項に対して拒否権を持ち、後継者の経営を見守り、監督する体制を築くことができます。これにより、経営権の移転後もガバナンスを維持し、円滑な移行期間を設けることが可能になります。
役員専任解任権付株式
役員専任解任権付株式は、取締役および監査役の選任・解任権限が付与された種類株式です。非公開会社かつ非委員会設置会社のみ、発行することが認められています。
中小企業の後継者問題については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
2. 事業承継で種類株式を活用する3大メリット
事業承継を円滑に進めるうえで、種類株式は役立ちます。自社株式の分散などの問題を回避することが、種類株式を活用する理由です。問題点解決のメリットは、以下のようなものが挙げられるでしょう。
- 自社株式の分散リスク回避
- 重要事項決定権を後継者に集中
- 経営権移転タイミングの考慮
それぞれを見ましょう。
自社株式の分散リスク回避
経営者には、後継者以外にも相続人がいる場合があります。後継者だけに自社株式を引き継がせようとしても、株式が相続人に分散してしまうこともあるでしょう。
後継者が議決権を保持できないと、会社経営はうまく進みません。事業承継自体がスムーズにできなくなってしまうこともあるでしょう。自社株式が分散した場合、相続人との個別合意により回収する方法もありますが、必ずしもうまくいくとは限りません。
種類株式を活用すると、自社株式の分散リスクを回避できます。分散した株式を回収できるからです。
重要事項決定権を後継者に集中
事業承継では、後継者問題だけでなく株式承継も課題として挙げられます。自社株式を後継者に集中させられれば、事業承継はスムーズに進みそうですが、そう簡単ではありません。
自社株式を分散させないためには、重要事項の決定権限を後継者に集中させることが重要といえるでしょう。種類株式を活用することで、それが可能となります。無議決権株式を活用して、経営権を後継者に集中させ、経営体制を万全します。
経営権移転タイミングの考慮
事業承継では、経営権をどのタイミングで移転させるかも重要な課題となります。後継者となる候補の経験が浅い場合、経営権の移転は慎重にならざるを得ないでしょう。
このような場合、種類株式を活用することが有用といえます。具体的な方法は、現経営者に決定事項の拒否権限を残しておくことで、経営権移転のタイミングを慎重に考慮できるでしょう。
3. 事業承継で種類株式をうまく活用する方法
種類株式の特徴をうまく活用することで、事業承継を円滑に進められるでしょう。この章では、事業承継での種類株式の活用方法を解説します。
配当優先無議決権株式による従業員持株会の運営
種類株式の議決権を有する株式とその他の株式に分けることで、さまざまなメリットが得られます。特に影響の大きいものは以下の2点です。
- 従業員のモチベーションアップ
- 1株当たりの株価単価を下げる
従業員のモチベーションアップ
従業員に株式を交付すると、会社の業績が従業員の利益に直結するため、モチベーションの向上効果が期待できます。種類株式を使い分けることで、議決権は与えずに配当を優先的に受ける権利だけを付与できるでしょう。
1株当たりの株価単価を下げる
議決権を目的としない株主に対しては、種類株式の交付によって、議決権のある株式を含めた1株当たりの株価単価を下げた状態で事業承継を実施できます。相続税・贈与税は後継者にとって大きな負担なので、種類株式を活用した節税効果はメリットが大きいでしょう。
拒否権付株式による経営の監視
拒否権付株式は、特定の事項の拒否権限を持つ種類株式です。特定の事項を定款に定めておくことで効果を発揮するので、事業承継も活用場面が多くあります。
- 後継者に拒否権付株式以外の株式を渡す
- 民事信託の活用
- 株式の価値が上昇する前に後継者に移管する
後継者に拒否権付株式以外の株式を渡す
生前譲渡により経営権移転は済ませておきたいものの、承継後しばらくは経営に携わりたい場合に活用できます。普通株式は後継者に承継していても、先代経営者が拒否権付株式を保有し続けることで、事業承継後も拒否権を有する立場から経営に干渉できるでしょう。
ただし、先代経営者が加齢や健康問題などで適切な判断能力を失してしまう場合があります。それ以外にも、急逝により後継者以外の相続人に拒否権付株式が渡ってしまうなどのリスクもあります。
これを防ぐためには、拒否権に時限制約を設定することや、先代経営者死亡時には後継者が拒否権付株式を承継できるとする取得条項付株式としておくことなどが、有効な対応措置といえるでしょう。
民事信託の活用
近年は、事業承継で民事信託を活用するケースも増えてきました。後継者が株式を承継し、現経営者を受託者、後継者を委託者・受益者とする受託契約を締結します。
この形式であれば、会社の大半の株式に関する承継は行いつつも、会社の経営権は現経営者が保有したままとなります。
株式の価値が上昇する前に後継者に移管する
前述した2つの活用方法であれば、現経営者が実質的な経営者のまま事業承継できます。株式価値が低くなるタイミングに合わせて、事業承継を実施しやすくなるでしょう。
中小企業の株式価値をある程度コントロールする方法もあるので、早期に取り組んでおくことで、事業承継の税金負担を最小限に抑えることも可能でしょう。
議決権制限株式による経営権の集中
後継者以外に経営者の相続人が複数いる場合、会社の意思決定に関する権限が分散するデメリットがあります。事業承継時の経営権の分散は、種類株式の有効活用で回避できるでしょう。
遺産の分配などで、どうしてもほかの相続人に株式を分配する必要に迫られた際は、議決権制限株式の交付が有効といえます。株式自体は分散しますが、経営権は後継者に集中させられるでしょう。
取得条項付株式による株式細分化の防止
取得条項付株式は、一定の事由が発生した場合に、その株式を強制取得できるものです。基本的に、株式が経営に関係ない複数の者の手に渡ってしまうような株式の細分化を避けるために用いられます。
前述したように、拒否権付株式に取得条項付株式を組み合わせておくことで、株主(前経営者)に何らかの問題や相続が発生してしまった場面で有効となるでしょう。
後継者以外に相続人が複数いるケースでは、相続人全員が取得する無議決権株式において、後継者に限って取得対価を普通株式とする取得条項付株式を組み合わせておけば、後継者が経営権全てを掌握できます。
全部取得条項付株式による少数株主の排除
全部取得条項付株式は、強制的に株式を取得できる権利を持つ種類株式です。株主が分散している事業承継の際に有効活用できます。少数株主排除はスクイーズアウトと呼ばれる手法です。経営権の強化や会社にとって都合の悪い株主を排除します。
日常の経営でも使われることがありますが、事業承継を少数株主から反対されている際も有効活用できるでしょう。権限を行使して株式を取得してしまえば、少数株主の意思に関係なく事業承継を進められます。
ただし、全部取得条項付株式を発行している場合に、会社法では少数株主側が会社に買取請求することを認めています。この点は注意しておきましょう。
スクイーズアウトについては下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
4. 事業承継で種類株式を活用する際の注意点と対策
種類株式は事業承継に非常に有効ですが、設計を誤ると経営に深刻な影響を及ぼすリスクも伴います。特に注意すべきは、黄金株のような強力な権利を持つ株式が、想定外の相続によって経営に関与しない相続人に渡ってしまうケースです。
これにより、会社の意思決定が停滞したり、経営方針が混乱したりする恐れがあります。
こうしたリスクを防ぐため、種類株式を発行する際は、必ず専門家と相談の上で以下の対策を検討することが重要です。
- すべての種類株式に譲渡制限を設ける
- 「保有者の死亡」などをトリガーとして会社が株式を取得できる取得条項を付与する
- 後継者を受取人とする信託契約を活用する
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5. 事業承継における種類株式のまとめ
事業承継の重要なポイントは、株式の承継を円滑に進められるかどうかです。種類株式は特徴的な権限を持っているので、適切に使い分けることで事業承継を円滑に進めやすくなります。
しかし、種類株式は権限が強すぎるため、慎重に扱うことが必須です。種類株式の効果や特徴を正しく理解して、事業承継に活用しましょう。
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