経営承継円滑化法による事業承継支援|事業承継税制・民法特例の優遇措置を解説

提携本部 ⾦融提携部 部⻑
向井 崇

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経営承継円滑化法と呼ばれる法律をご存じでしょうか。経営承継円滑化法とは、主に中小企業に対し円滑な事業承継を行うための総合的な支援策として成立した法律で、2018年に改正されています。事業承継実施の前に、本記事で法律の基礎を把握しておきましょう。

目次

  1. 経営承継円滑化法とは?法改正について
  2. 経営承継円滑化法の遺留分に関する民法特例
  3. 経営承継円滑化法の会社法特例を受けるための要件
  4. 経営承継円滑化法による事業承継支援のまとめ
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1. 経営承継円滑化法とは?法改正について

経営承継円滑化法の正式名称は「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」ですが、記事内では以降、経営承継円滑化法と表記します。

経営承継円滑化法とは、主に中小企業に対して、円滑な経営承継を支援するために相続時の遺産分割・資金需要や税負担に関する問題などへの総合的な支援策として成立した法律です。
 
もともと2008(平成20)年に施行された法律ですが、2018(平成30)年度税制改正大綱で、経営承継円滑化法の条文が大きく改正される運びとなりました。

提供する支援の内容

経営承継円滑化法には、以下の支援の内容が規定されています。

  • 税制支援
  • 金融支援
  • 遺留分に関する民法の特例
  • 所在不明株主に関する会社法の特例

ここでいう税制とは、事業承継税制のことです。これは、後継者が非上場会社の株式等・事業用資産を先代経営者等から贈与・相続により取得した際、経営承継円滑化法による都道府県知事の認定を受けると、贈与税・相続税の納税が猶予または免除される制度をさします。

事業承継税制で、対象株式数の100%が対象となり、相続税は課税価格に対応する相続税・贈与税の100%分の納税が猶予されます。ただし、煩雑な申請手続きが必要とされるほか、廃業すると利子税が発生する点にも注意しましょう。

金融支援では、事業承継の際に代表者個人が必要とする資金の融資を提供しています。会社・個人事業主には、信用保証協会の通常の保証枠とは別枠が用意される仕組みです。

遺留分に関する民法の特例では、遺留分権利者全員との合意及び所要の手続を経ることを前提として、遺留分に関する民法の特例の適用を受けさせています。

所在不明株主に関する会社法の特例では、株式会社が経営承継円滑化法における都道府県知事認定を受けた場合に、所要の手続を経ることを前提として所在不明株主に関する会社法の特例の適用を受けさせています。

改正された背景・目的

2018年の条文改正の目的は、親族外への事業承継を円滑に行えるようにすること中小機構の事業承継などサポート機能の強化および小規模企業共済法の一部改正による事業承継の円滑化です。

帝国データバンクの『全国企業「後継者不在率」動向調査(2020年)』によると、2020年の事業承継は同族に引き継いだ割合が34.2%で、年々低下傾向にあります。親族外への事業承継を円滑にするための法律・条文の改正が必要となったことが主な背景です。
 
従来、独立行政法人中小企業基盤整備機構と呼ばれる独立行政法人が中小企業に向けた施策の総合的な実施機関としての役割を果たしていました。しかし、今回の改正でこれまでに行っていた創業や事業再生、災害対策などの業務に事業承継のサポート機能が追加されています。

中小機構は共済や貸付などを含む金融支援も同時に行うため、今回の改正により事業承継で発生する金銭面の問題を解決しやすくしたことも背景です。
 
廃業ではなく事業承継を選んでもらうために、中小機構が運営する退職金制度である小規模企業共済に関する法律を改正し、親族内承継も廃業と同額の共済金を支給できるようにするほか、世代交代に向け役員を退任した場合も役員在籍時と同額の給付が支給されることになりました。
 
こうした法律・条文の改正により、廃業より事業承継を選びやすくする仕組みづくり、親族外へもスムーズに事業承継が行われるインフラ整備を行ったといえます。

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現行制度の課題

現行の経営承継円滑化法のポイントは、事業承継などにあたり「遺留分減殺請求による自社株の分散」「特別受益の問題」「事前放棄制度がうまく活用されていない」などです。ここからは、それぞれの内容を解説します。

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遺留分減殺請求による自社株の分散

1つ目の課題は、事業承継では自社株を後継者に集中させる必要があるにもかかわらず、遺留分減殺請求権により自社株が分散してしまうことでした。遺留分とは、民法の規定で法定相続人が最低限相続できる割合のことです。

被相続人が「後継者に100%株式を相続させたい」旨を遺言で残したとしても、遺留分を持つ相続人が遺留分減殺請求権を行使した場合、一定割合をその相続人に渡さなければなりません。これでは、自社株が分散してしまう可能性があります。

特別受益の問題

2つ目の課題として、特別受益の問題があります。

特別受益とは、共同相続人の中に被相続人から生前贈与を受けた者がいる場合に、相続人の間で公平を図るため生前贈与の分を相続財産に参入して計算し、再度各相続人の相続分を算定する仕組みです。
 
これにより、事業承継のために生前に被相続人が後継者に自社株を贈与していた場合に特別受益とみなされ、ほかの相続人に分配されることになり、遺留分と同様の問題が生じます。
 
特別受益の場合、贈与財産の評価は相続開始時点のため、生前贈与された株式の価値が事業拡大などにより上昇していると、他者に分配される額も大きくなります。

事前放棄制度がうまく活用されていない

3つ目の課題は、事前放棄制度です。

上記で紹介した現行の法律上の課題は、すでに現行の民法でも遺留分の事前放棄の制度があるため、事前放棄制度の活用により法律上の課題を避けることが可能です。ただし、事前放棄制度は、後継者以外の相続人が家庭裁判所に申し立て許可審判を受ける必要があります。

法律事務所の法律相談を利用すればサポートしてもらえますが、放棄する側が申し立てをするかどうかに関しては疑問の残る制度であり、十分に活用されているとはいえません。

認定および継続的な確認について

上記の課題を克服するために改正された経営承継円滑化法ですが、この法律が適用されるためには施行規則に記載の一定の要件を備える必要があります。要件を備えた企業・後継者であることを会社所在地の知事から認定を受け、その後も継続的に確認を受けなければなりません

施行規則の要件に合致しているかどうかや、認定を受けるための手続きは、法律事務所などの専門機関に相談しましょう。

経営承継円滑化法のポイント

法律・条文・施行規則の改正を経て、さまざまな事業承継の局面で使いやすくなった経営承継円滑化法ですが、改正された経営承継円滑化法のポイントは「事業承継税制」「金融支援制度」「遺留分に関する民法の特例」の3つです。それぞれの概要を解説します。

事業承継税制

経営承継円滑化法のポイント1つ目は、事業承継税制の施行規則改正です。今回の法律改正に伴い、これまでの施行規則では1名の後継者が想定されていましたが、改正に伴い最大3名までの後継者への承継も可能になりました。代表者以外からの贈与により株式を取得する場合も、5年以内に申請書を提出すれば特例制度の対象です。
 
この特例は2027(令和9)年12月31日までの時限措置(期間内に実施された相続・贈与が対象となる)ことは覚えておきましょう。

金融支援制度

経営承継円滑化法では、分散した自社株式の買い取りや相続税の支払いなどのため資金調達を支援する制度があり、都道府県知事の認定を条件に融資などの金融支援を受けられます。
 
今回の法律改正に伴い、経済産業省管轄の独立行政法人である中小機構によるサポート範囲が広がったことで、中小機構からの共済、貸付などの金融支援も受けられるようになりました。

遺留分に関する民法の特例

3つ目のポイントは、遺留分に関する民法の特例です。

遺留分には非常に大きな課題があり、従来の経営承継円滑化法では活用が進まなかった分野ですが、一定の適格者が一定の要件を備えた場合に民法特例の規定を受けられ、遺留分特例制度の対象を親族外へ拡充できます。

それぞれのメリット

事業承継税制によるメリットは、条件を満たすと税負担がゼロになることです。税負担の軽減によって、資金力がない事業者・個人も事業承継を行いやすくなり、自社の技術や伝統など目に見えない資産を次の世代に引き継げるようになりました。

金融支援によるメリットは、資金力のない企業・個人も事業承継を選べるようになったことです。「資金力はないが後継者を探している」企業は、資金面のサポートを公庫が行ってくれると事業承継成功の確率が高まります。後継ぎ候補も借り入れで資金を用意できるので、事業承継で企業のトップに立ちやすくなりました。

遺留分に関する民法の特例が事業承継に与えるメリットは、経営承継円滑化法により制定された民法の特例をうまく活用して、承継後の経営を安定できる点です。

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2. 経営承継円滑化法の遺留分に関する民法特例

法律・条文・施行規則が改正された経営承継円滑化法のポイントのうち、大きな変更点である事業承継税制の特例制度および遺留分に関する民法特例は、これまでの事業承継にあたる課題を解決するものであり、大きなメリットが期待されます。
 
ただし、これは2027年12月31日までに限定した特例制度で、適用のためには2023(令和5)年3月31日までに特例承継計画を各都道府県に提出しなければなりません。
 
これらの特例制度の原則との相違点や、同制度の適用によりどのように原則制度から変化するのか、詳細を以下に解説します。

事業承継税制の特例制度と原則制度の比較表

改正経営承継円滑化法のポイントである事業承継税制の特例制度と原則制度では、どのような差異があるのでしょうか。主な項目を簡単な表にまとめました。
 

  特例制度 原則制度
特例の対象となる株式 すべての株式 株式総数の最大3分の2
納税猶予割合 100% 贈与:100%、相続:80%
雇用確保の要件 大幅に緩和・減免措置あり 承継後5年間で
平均8割の雇用維持が必要
経営環境変化に
応じた減免
あり なし
承継パターン 複数の株主から最大3人の後継者 複数の株主から1人の後継者

特例の対象となる株式は、全株式の3分の2からすべての株式に対象が拡大されています。納税が猶予される割合は、原則の制度では相続が80%に限定されていましたが、すべての場合で100%の納税猶予が受けられるようになりました。

適用のために満たす要件の1つとして雇用を確保する要件がありました。しかし、この雇用確保の要件が大幅に緩和されたことに加えて、減免措置の制定も追加されたため、将来業績が悪化する可能性があったとしても納税猶予を受けられます
 
後継者が複数いることも想定され、柔軟な事業承継が可能となりました。

遺留分に関する民法特例の計算例

遺留分に関する民法特例は、経営者の生前に後継者がほかの推定相続人全員との合意を得たうえで所定の手続きを行えば、民法特例の適用を受けられるようになりました。この施行規則・条文には2つの方法があります。
 
1つの方法は除外合意であり、生前贈与された株式などを遺留分の対象から除外するものです。もう1つは固定合意であり、生前贈与株式などの評価額をあらかじめ固定することです。
 
例えば、株式以外の資産がない場合に、4人の相続人(それぞれ直系卑属)がおり、生前に1人に対して贈与した株式は1,000万円で、それが1億円に上昇したケースを想定します。それぞれどのように遺留分が変化するのか、計算例を以下に示しました。

除外合意

除外合意では、生前贈与された株式は遺留分の対象から除外されます。生前贈与された1人に値上がりした1億円の株式が贈与されたままとなり、その他の3人は株式を取得することはありません。3人の相続額は0円です。

固定合意

固定合意では、生前贈与された株式の価値をあらかじめ固定します。

贈与された株式のうち遺留分の対象となるのは1,000万円であり、その1,000万円に対して残りの3人が8分の1(1/4×1/2)ずつ遺留分を持つため、合計375万円が相続額です。生前贈与を受けた1人は、1億円のうち残りの9,625万円を得ます。
 
実際に民法特例の施行規則適用を受けようと考える場合、法律相談所や法律事務所のほか、専門機関で手続きの詳細や認定要件などをご確認ください。

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経営承継円滑化法の民法特例を受けるための要件・対象者

経営承継円滑化法の民法特例を受けるためには、一定の要件を満たす必要があります。
 
その要件とは、特例中小企業の旧代表者が、後継者にその株式などを贈与した場合に、推定相続人の全員が合意したことについて、会社所在地の知事の認定があること、およびその後の継続的な確認を受けることです。
 
対象者は、「特例中小企業者」「旧代表者」「後継者」が該当します。特例中小企業者は、中小企業のうち、一定期間以上継続して事業を行う、経済産業省令で定める要件に該当する非上場会社です。
 
旧代表者とは、特例中小企業者の代表者であった者で、その推定相続人のうち、少なくとも1人以上に対して、当該特例中小企業者の株式などを贈与したことがある者をさします。
 
後継者とは、旧代表者の推定相続人のうち、旧代表者より特例中小企業者の株式などの贈与を受けた者、もしくは贈与を受けた者からその株式を取得した者で、その中小企業の議決権の過半数を有する代表者である人のことです。

3. 経営承継円滑化法の会社法特例を受けるための要件

適用を受けるために満たす必要のある要件の概要を順番に解説します。

経営困難要件

申請者の代表者が年齢、健康状態そのほかの事情により、継続的かつ安定的に経営を行うことが難しいために、会社の事業活動の継続に支障が生じていることが求められます。要件を満たすのは、例えば以下の場合です。

  • 代表者が満60歳を超えている
  • 代表者の健康状態が日常業務に支障を生じさせている

とはいえ、以上の具体例に該当しない場合であっても、個別具体的な事情を総合的に考慮して認定が相当だと判断されることもあります。不明点があれば、専門家への相談をご検討ください。

円滑承継困難要件

一部株主の所在が不明であることが原因で、その経営を承継させることが困難である必要があります。

認定申請日時点で事業後継者が定まっている場合、所在不明株主の保有株式の議決権割合は、株式譲渡のスキームで1/10 超かつ「1ー要求される割合」超です。株主総会特別決議にもとづくスキーム等を用いる場合、1/3超に要件が変わります。

認定申請日時点で事業後継者が未定の場合、所在不明株主の保有株式の議決権割合は、原則として1/3超です。例外的に、1/10超かつ特例適用分が経営株主等と加算して9/10以上である場合も認められます。

こちらも不明点があれば、専門家への相談をご検討ください。

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4. 経営承継円滑化法による事業承継支援のまとめ

改正された経営承継円滑化法のポイントは、スムーズな事業承継に大きく活用できることです。ただし、施行規則・条文・民法特例の活用にはさまざまな手続きや法的な要件が必要となるなど複雑なため、専門家のサポート下で進めましょう。

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