2021年09月11日更新
事業承継税制とは?メリットとデメリットを紹介!ポイントは?
事業承継税制とは、事業承継で生じる相続税・贈与税の猶予・免除措置を受けられる制度です。本来納めるべき税金を納めなくてよくなるので、後継者の負担を軽減する効果が期待できます。本記事では、事業承継税制の基本やメリットとデメリットを解説します。
1. 事業承継税制とは
日本では経営者の高齢化により、事業承継の必要に迫られている中小企業が増えています。しかし、事業承継は相続税・贈与税による負担が大きいため、思うように進められないケースもあります。
中小企業の事業承継の税金対策のひとつに事業承継税制という制度があります。一定の要件を満たすことで税金負担を軽くすることができるので、事業承継に積極的に活用したい制度です。
事業承継税制の目的
事業承継税制とは、事業承継で生じる相続税・贈与税の猶予・免除措置を受けられる制度です。
中小企業の事業承継の負担を軽減することで、滞っている事業承継を円滑化することを目的としています。
中小企業にとって、納税の猶予措置は大きな意味合いを持ちます。現金化が難しい非公開株式に対して税金が課せられるうえに承継後の事業資金も確保する必要があるため、資金不足に陥りやすいためです。
事業承継税制は最終的な免除を前提とした制度です。事業承継後も一定期間にわたって猶予の維持要件を満たし続けることで、納税義務が完全に免除されます。
事業承継税制の制度改正
平成30年度、事業承継税制の改正が行われて、対象株式や猶予割合などが大きく緩和されました。
以前は要件が厳しく利用頻度も低かったですが、改正により使い勝手が向上して申請件数が大幅に増加しました。
改正の背景にあるのは、事業承継の2025年問題です。中小企業庁や経済産業省の試算で、2025年頃までに中小企業の廃業が原因で約650万人の雇用と、約22兆円のGDPが失われる可能性が高いことが明らかになっています。
このまま中小企業の事業承継が進まず、廃業件数が増加すると日本経済に与える損失が大きすぎるため、事業承継支援を充実させることで廃業件数を抑えようとする狙いがあります。
2. 新しい事業承継税制の内容
平成30年度改正で事業承継税制の内容は大幅に変わりました。この章では、新しい事業承継税制の内容を解説します。
適用期間
新しい事業承継税制は、平成30年1月~令和9年12月の10年間のみの特例制度です。10年間というと時間的な猶予があると思いがちですが、適用期間は半分の5年間なので注意が必要です。
平成30年4月~令和5年3月の5年間の間に、認定申請を済ませておく必要があります。現段階では特例の延長などの予定は公表されていないので、期限を過ぎないように意識しながらスケジュールを組む必要があります。
旧制度との違い
下表は平成30年度改正の主な変更点です。事業承継税制が中小企業の事業承継を支援する制度として、より魅力的になったことが分かります。
改正点 | 旧制度 | 新制度 |
後継者の人数 | 1人 | 最大3人まで |
猶予対象の株式 | 発行済み株式の2/3 | 全株式 |
猶予割合 | 相続税の80%(贈与は100%) | 相続税・贈与税の100% |
株式の取得先 | 先代経営者のみ | 先代以外からの承継も可能 |
相続時精算課税 | 推定相続人等後継者のみ | 推定相続人等以外も適用可 |
適用要件
新しい事業承継税制の適用要件は、全株式が対象かつ猶予割合100%となりました。認定を受けることができれば、相続税・贈与税を一切納めることなく事業承継することができます。
また、中小企業の場合は親族内で株式が分散していることも多いですが、新しい事業承継税制であれば代表者以外からの承継も対象となっています。
相続税の納税猶予制度
相続税は後継者の相続まで支払いを猶予することができます。後継者の相続があった場合には、猶予措置を受けている相続税が全額免除されます。
相続税が免除されるまでは報告・届出を行い、納税猶予の要件を満たし続けていることを証明する必要があります。報告・届出は、承継後5年間は毎年、5年経過してからは3年おきとなります。
贈与税の納税猶予制度
贈与税は、先代経営者の相続まで支払いを猶予することができます。先代経営者の相続で贈与税の免除措置を受けると相続税に加算されますが、相続税の納税猶予制度に切り替えることで、引き続き猶予を受けることができます。
相続税と同様、贈与税が免除されるまで定期的に報告・届出を行い、要件を満たし続けていることを都道府県知事や税務署に報告します。
納税猶予の計算
贈与税は、その年に贈与を受けた全ての財産の価額から対象株式の価額を差し引くことで納付額が算出されます。
相続税は、後継者の取得財産の価額から対象株式の価額を差し引くことで納付額が算出されます。
ほかの相続人の財産も含めて税率が決まるため、株式を相続しない相続人も株を含めた高い税率になる特徴があります。
手続きの流れ
事業承継税制の認定を受けるためには一定の手続きを行う必要があります。主な流れは以下のようになっています。
【事業承継税制の手続きの流れ】
- 特殊承継計画の作成・提出
- 代表者の交代・株式贈与
- 都道府県知事へ認定申請
- 税務署へ贈与税申告
- 事業承継税制の認定
特殊承継計画は、認定申請を行うために必要な事業承継の計画書です。認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けて作成し、事前に都道府県知事へ提出します。
計画書というと大事ですが、「2~3枚程度の確認申請書」と「1枚程度の認定経営革新等支援機関による所見」が伴うものであれば十分とされています。
代表者の交代や株式贈与により事業承継が終わったら、税務署へ贈与税の申告を行います。具体的な手続き内容は、納税猶予の申請や猶予相当の担保提供です。
ここまでの流れが終わると認定がおります。後は最終的に免除されるまで定期的に報告・届出を行って要件を維持します。
免除事由と取消事由
事業承継税制の認定を受けた段階では、一時的な猶予措置を受けている状態なので、最終的な免除を受けるために一定の要件を満たす必要があります。また、要件を満たし続けられないと取消される場合もあります。
【主な免除事由】
- 先代経営者が死亡した場合(贈与税のみ)
- 後継者が死亡した場合
【5年以内の主な取消事由】
- 後継者の代表権喪失
- 後継者が一族で筆頭株主でなくなった
- 後継者が株式を譲渡した
- 会社の破産・特別清算を行った
- 主たる事業の売上がゼロになった
- 毎年の継続届出書提出を怠った
【5年以降の主な取消事由】
- 後継者が株式を譲渡した
- 主たる事業の売上がゼロになった
- 3年おきの届出を怠った
業績悪化や解散などの特例
事業承継税制の猶予期間は長期にわたりますが、その間に会社の業績が悪化して経営の存続が難しくなる場合もあります。
原則では、会社を破産・特別清算したり主たる事業の売上がゼロになると猶予が取り消され、利息を上乗せされた相続税・贈与税を全額支払うことになります。
事業承継税制の取消事由には特例が設けられているので、売却の株価等を基に再度算出して差額分の免除を受けることができます。
3. 事業承継税制のメリットとデメリット
事業承継税制を活用するとさまざまなメリットがある反面、いくつかのデメリットもあります。この章では、事業承継税制のメリット・デメリットを解説します。
事業承継税制のメリット
まずは、事業承継税制を活用するメリットから解説します。特に効果が大きいメリットは以下の3点です。
【事業承継税制のメリット】
- 相続税・贈与税の納税資金が不要になる
- 株価対策等が不要になる
- 事業資金にリソースを回しやすくなる
1.相続税・贈与税の納税資金が不要になる
事業承継をすると、自社株の株価に応じた相続税・贈与税の納税義務が課せられます。中小企業の場合は非公開株式で換金することは難しいので、納税するための資金を何とかして捻出しなくてはなりません。
事業承継税制を活用すると、相続税・贈与税の全額猶予・免除措置を受けることができます。
事業承継の課題でもある税金問題をクリアできるので、後継者や承継後の事業展開などに意識を集中させることができます。
2.株価対策等が不要になる
事業承継の税金対策には、役員退職金の支給で損金算入して意図的に株価を引き下げるなどの方法があります。退職金には税制上の優遇措置があるので税金負担を大幅に抑えることができます。
しかし、退職金の支給額は適正範囲で行わないと、税務署から損金算入を否認される可能性もあります。税金対策として機能しなくなる恐れもあるので、事業承継の節税対策としては事業承継税制のほうが適切とされています。
3.事業資金にリソースを回しやすくなる
事業承継税制を活用すると、相続税・贈与税に資金を回さなくて済むので、余ったリソースを事業用に回しやすくなります。
単純に後継者が取れる選択肢が広がるので、事業承継を機会に飛躍的な企業成長を図ることも不可能ではありません。
事業承継税制のデメリット
続いて、事業承継税制のデメリットを解説します。猶予措置が取消されるデメリットもあるので注意が必要です。
【事業承継税制のデメリット】
- 免除されるまでの期間が長い
- 猶予が取り消された場合、支払いに利息が上乗せされる
1.免除されるまでの期間が長い
事業承継税制は最終的な免除を前提とした制度ですが、猶予期間が長いというデメリットがあります。
完全に免除されるまでは、取消事由を意識しなくてはなりません。また、猶予期間中は継続届出書を都道府県と税務署に提出します。
継続届出書は事業の現況を報告するための書類なので、内容もしっかりしたものを作成しなくてはなりません。
2.猶予が取り消された場合、支払いに利息が上乗せされる
猶予期間中に取消事由に該当する事態が発生した場合、猶予されていた相続税・贈与税に猶予期間中の支払い利息が上乗せされて支払い義務が生じます。
取消時の利子税額は、年3.6%の割合で計算されます。ただし、各年の「特例基準割合」が7.3%に満たない場合は「利子税の割合 = 3.6% × 特例基準割合 / 7.3%」の計算式で算出されます。
特例基準割合は、国税の延滞税や利子税・地方税等の延滞金などの還付加算金の算定に使用される数値です。数値は国税庁のHPから確認することができます。
4. 事業承継税制を受けるポイント
事業承継税制を受けるためにはいくつかのポイントがあります。特に意識しておきたいポイントは以下の2つです。
【事業承継税制を受けるポイント】
- 手続きが複雑であること
- 専門家にサポート・アドバイスしてもらうのがベスト
手続きが複雑であること
事業承継税制を受けるまでは、特殊承継計画の作成や都道府県知事への認定申請など、さまざまな手続きが必要になります。
不備があると事業承継のスケジュールに遅れがでることもあるので、計画的に取り組まなくてはなりません。
また、猶予措置を受けた後も、定期的に都道府県・税務署へ報告・届出が必要です。猶予措置の要件を満たしていることを証明しなくてはならないので、会社・事業の現況をまとめた報告書を作成・提出します。
専門家にサポート・アドバイスしてもらうのがベスト
経営者や後継者は、事業承継自体の手続きも進めなくてはなりません。事業承継税制に意識を取られていると事業承継や日常業務に支障がでることもあるので、専門家のサポートを受けるのがおすすめです。
専門家が介入することで、現経営者に対して事業承継を促しやすくなることもあります。事業承継税制の特例は令和5年3月までに申請する必要があるので、早期に専門家に相談しておくことをおすすめします。
5. 事業承継の相談はM&A仲介会社がおすすめ
事業承継のおすすめの相談先はM&A仲介会社です。M&A・事業承継の専門家なので、事業承継税制に関しても適切なサポートを行います。
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6. まとめ
事業承継税制を活用すると、税金負担を抑えることができます。関連知識や要件を把握しておくと、事業承継の場面になっても焦ることなく対応できます。
ただし、手続きが複雑なことや取消事由があることに注意が必要です。M&A仲介会社に相談しておくと注意点やリスクを抑えて円滑に進めやすくなるでしょう。
【事業承継税制まとめ】
- 事業承継税制とは事業承継で生じる相続税・贈与税の猶予・免除措置を受けられる制度
- 事業承継税制の目的は中小企業の事業承継の円滑化
- 平成30年度改正で大幅な要件緩和が実施された
【事業承継税制のメリット】
- 相続税・贈与税の納税資金が不要になる
- 株価対策等が不要になる
- 事業資金にリソースを回しやすくなる
【事業承継税制のデメリット】
- 免除されるまでの期間が長い
- 猶予が取り消された場合、支払いに利息が上乗せされる
【事業承継税制を受けるポイント】
- 手続きが複雑であること
- 専門家にサポート・アドバイスしてもらうのがベスト
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