会社分割とは?吸収分割と新設分割の相違点、手続きの流れ、事例をわかりやすく解説

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

会社分割とは、事業の一部または全部を切り出して外部の会社に引き渡すM&A手法の1つです。本記事では、会社分割とはどのような手法なのかについて、特徴やメリット・デメリット、手続き方法などを事例も交えてわかりやすく解説します。

目次

  1. 会社分割とは
  2. 会社分割の種類
  3. 会社分割と事業譲渡の相違点
  4. 会社分割が活用される場面
  5. 会社分割のメリット・デメリット
  6. 会社分割を行う手続きの流れ
  7. 会社分割にかかる期間
  8. 会社分割における労働契約の承継等に関する法律手続き
  9. 会社分割の債権者保護手続に関する注意ポイント
  10. 会社分割における簡易組織再編と略式組織再編
  11. 会社分割の税務
  12. 会社分割で課される税金
  13. 会社分割が行われた事例
  14. 会社分割の相談先
  15. 会社分割のまとめ

1. 会社分割とは

会社分割とは

会社分割とは、事業を切り離して別の会社に引き渡す手法のことです。会社分割はM&Aの手法の1つですが、グループ企業の再編で多用されます。M&A手法の中には事業譲渡というものがありますが、会社分割と似て見えるため混同されがちです。

事業譲渡との最大の違いは、会社分割では対価に株式交付を用いることが可能な点でしょう(新設分割では株式交付のみ)。なお、会社分割には吸収分割と新設分割があり、それぞれ目的や分割方法など違いますが、詳細は後述します。

会社分割の英語表記

会社分割の英語表現は、断定的な1つの表現が確立されていません。使用者の判断により、以下の表記のいずれかが用いられています。

  • company split
  • corporate divestiture
  • corporate split-up
  • de-merger
  • split-off
  • spin-off

分割会社とは

分割会社とは、会社分割における事業の売り手側の呼び方です。分割契約書などの公的な書面では、売り手企業を分割会社と呼びます。本記事では、これ以降、売り手側の呼び方を分割会社で統一して解説します。

分割承継会社とは

分割承継会社とは、会社分割における事業の買い手側の呼び方です。単に承継会社と呼ぶこともあります。吸収分割の場合は買い手の既存企業であり、新設分割の場合は新設会社のことです。本記事では、これ以降、買い手側の呼び方を分割承継会社で統一して解説します。

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2. 会社分割の種類

会社分割は、吸収分割と新設分割の2種類があります。その違いは、分割承継会社が既存企業か新設会社という点です。以下に、詳細を掲示します。

吸収分割とは

吸収分割とは、会社の一部の事業、または全部の事業を既存の他企業に引き渡す手法です。吸収分割には、分社型吸収分割と分割型吸収分割があります。分社型と分割型の主な違いは、事業を引き渡した対価を誰がもらうかという点です。

分社型吸収分割

分社型吸収分割とは、事業を引き渡した対価を売り手企業が受け取る場合です。事業の売り手企業が、対価として買い手企業の株式を受け取った場合、売り手企業は買い手企業の株主になります。

分社型吸収分割は、売り手企業と買い手企業の親子関係、言い換えると縦の関係を築く際によく用いられる手法です。

分割型吸収分割

分割型吸収分割とは、事業を引き渡した対価を、売り手企業の株主が受け取る場合です。売り手企業の株主が対価として買い手企業の株式を受け取ると、株主は売り手企業と買い手企業両方の株式を保有することになります。

分社型吸収分割は、売り手企業と買い手企業の兄弟関係、言い換えると横の関係を築く際によく用いられる手法です。

新設分割とは

新設分割とは、会社の一部の事業、または全部の事業を、新しく設立した会社に引き継ぐ手法です。新設分割にも吸収分割と同様、分社型と分割型があります。分社型新設分割と分割型新設分割の違いもまた、事業を引き渡した対価のもらい先です。

分社型新設分割

分社型新設分割とは、事業を引き渡した対価を売り手企業が受け取る場合です。売り手企業は、事業を引き渡した対価として新設会社の株式を受け取り、新設会社の親会社となります。分社型新設分割は、持株会社化する際などに適した手法です。

分割型新設分割

分割型新設分割とは、事業を引き渡した対価を売り手企業の株主が受け取る場合です。売り手企業の株主は、事業を引き渡した対価として新設会社の株式を受け取り、売り手企業と新設会社両方の株式を保有することになります。

分割型新設分割は、グループ企業の再編を行う際に適した手法です。

共同新設分割

共同新設分割とは、2社以上の売り手企業がそれぞれ事業を分割し、新設会社に引き渡す手法です。たとえば、グループ企業の親会社と子会社から、それぞれ一部事業を切り離し、新設会社に引き継ぐといったケースが該当します。

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3. 会社分割と事業譲渡の相違点

ここでは、似て見えるM&A手法である会社分割と事業譲渡の相違点を比較して見てみましょう。

会社分割の特徴

会社分割とは、分割会社の事業部門を丸ごと切り出して、分割承継会社に引き渡す手法です。分割承継会社は、事業に関連する資産・権利義務・許認可・組織・人材などを包括的に承継します。会社分割では、分割承継会社の株式を対価にできる点も特徴です。

会社分割は、会社法で定められている要件を満たすと適格組織再編と認められます。適格組織再編である会社分割の場合、買い手は税制上の優遇措置が受けられるのです。会社分割は企業グループにおける組織再編行為として、よく用いられています。

事業譲渡の特徴

事業譲渡とは、会社の事業の一部または全部を、付随する資産や権利などと合わせて選別して売買する取引です。会社分割のように包括承継できないため、顧客・取引先との契約、従業員との労働契約は継続の同意を得なければならず、許認可は新たに取得する必要があります。

その代わり、包括承継では引き継いでしまうかもしれない、経営上のリスクである簿外債務を除外できる点はメリットです。事業譲渡での対価は現金のみですから、買い手は資金の準備がないと事業譲渡を実施できません。

適格組織再編制度は、会社分割および合併に対して認められている制度であるため、事業譲渡は対象外です。

税務処理における違い

一般に、事業譲渡などで売り手企業から資産を取得した場合、会計上、買い手側ではその資産を時価で計上します。このとき、売り手企業での資産の元の簿価と差額が生じることになり、その差額が買い手側の利益と見なされ課税対象となるのです。

ただし、適格組織再編と認められた会社分割の場合は、買い手は取得した資産について、売り手の簿価での計上が認められています。したがって、一般的ケースのときのような譲受益が発生しないため、課税対象ともなりません。

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4. 会社分割が活用される場面

会社分割は大きく分けて、以下の場面で用いられます。

  1. M&Aの手法として活用
  2. グループ内の再編を実行するために活用

①M&Aの手法として活用

会社分割はM&A手法の1つとして用いられます。分割会社の目的としては、会社のスリム化、不採算事業の切り離し、分割承継会社との協力関係の構築などです。分割承継会社の目的としては、事業規模の拡大、新規事業の取得、技術・人材の獲得などがあります。

②グループ内の再編を実行するために活用

会社分割は、企業グループ内の再編の際によく用いられる手法です。会社分割には、優遇税制や簡易手続きがあり、企業グループ内再編の場合、要件を満たせばこれらの恩恵を得られます。

事業譲渡よりも会社分割が規模の大きい事業の承継に向いていることから、大企業の再編にもよく用いられる手法です。

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5. 会社分割のメリット・デメリット

会社分割にはさまざまなメリットがあるものの、デメリットも存在します。会社分割を行う際は、その主なメリット・デメリットを把握しておきましょう。

会社分割のメリット

会社分割には、主に以下のメリットがあります。

  • 株式を対価にするため資金が不要
  • 資産や契約関係を移転させる手続きが不要
  • 一部事業のみ譲渡できる
  • 買収によるシナジー効果を得やすい
  • 他のM&A手法と違い税金の負担が少ない

株式を対価にするため資金が不要

株式譲渡や事業譲渡などの買収手法では、買収資金を用意しなければなりません。自社に資金がなければ金融機関から借り入れるなど、債務を抱えることになります。しかし、会社分割では株式を対価として用いられるので、現金を用意しなくても事業の買収が可能です。

資産や契約関係を移転する手続きが不要

類似手法である事業譲渡の場合は、従業員や取引先、許認可などの各種契約を、個別にし直さなければなりません。しかし会社分割では、基本的に契約もそのまま引き継がれるので、事業譲渡に比べて手続きが少なくすみます。

規模の大きい事業を引き継ぐ際は、事業譲渡よりも会社分割が相応です。

一部事業のみ譲渡できる

株式譲渡や株式交換株式移転などの手法は会社の経営権を引き継げますが、一部事業のみの引き継ぎはできません。必要のない事業も引き継ぐことになります。しかし、会社分割であれば必要な事業のみを引き継げるので、無駄のない譲渡・譲受が可能です。

買収によるシナジー効果を得やすい

会社分割では、分割承継会社側としては関連性の高い事業のみを引き継げるので、事業シナジーを得やすいメリットがあります。

たとえば、アパレル企業が、アパレル事業と太陽光発電事業を営んでいる企業を買収した場合、太陽光発電事業は一般的に考えて事業シナジーは得難い事業です。しかし、会社分割でアパレル事業のみを取得できれば、同種事業シナジーが期待できます。

他のM&A手法と違い税金の負担が少ない

事業譲渡の場合には会社分割のような優遇税制度はないので、基本的に税金を低く抑えられません。しかし、会社分割は適格組織再編の要件を満たせば、税負担を低減できます。事業譲渡では消費税が課せられる資産があるので、税金が高くなりがちです。

一方、会社分割の事業資産には、消費税がかかりません。

会社分割のデメリット

会社分割には以下のデメリットがあります。

  • 買い手企業の株価が下落するリスクがある
  • 結果として買収された企業の株主が買い手企業の株主となる
  • 負債を引き継ぐ必要がある
  • 経営統合プロセスがスムーズに進まない可能性
  • 株主総会にて特別決議など多くの手続きが必要になる

買い手企業の株価が下落するリスクがある

会社分割では、株式を対価とすることがほとんどです。株式は価値が上下するものですから、場合によっては株価が下がる場合もあります。

分割承継会社が対価として新株を発行し、分割会社に交付した場合、株式数が増えているので1株あたりの価値は下がり、一時的に株価が下がるのも、その一例です。

結果として買収された企業の株主が買い手企業の株主となる

分割型会社分割では、分割承継会社が株式を対価として分割会社の株主に交付することから、分割会社の株主は、結果的に分割承継会社の株主にもなります。全員友好的な株主であれば問題ありませんが、敵対的な株主がいた場合には、後々問題になりかねません。

負債を引き継ぐ必要がある

事業譲渡を用いた場合、選別して事業資産を取得できるので、債務を引き継ぐ必要はありません。それに対して、会社分割は引き継ぐ事業資産を選択できないので、債務も引き継ぐ結果になります。

しかし、会社分割には事業譲渡にないメリットも多いので、専門家のアドバイスなどを基に、慎重に選択することが重要です。

経営統合プロセスがスムーズに進まない可能性

株式譲渡などの買収手法であれば、経営権が移るだけで会社内の組織再編は基本的に必要ありません。しかし、会社分割では事業・組織が統合されるので、システムやルール・従業員の意識統一などを、綿密に行う必要があります。

経営統合プロセス(PMI=Post Merger lntegration)が円滑に進まないと、事業シナジーが得られないばかりか、経営に支障が出ることにもなり得るので注意が必要です。

株式総会にて特別決議など多くの手続きが必要になる

会社分割では事業譲渡のように、株主や債権者などから個別に同意を得る手続きは必要ありませんが、債権者保護や反対株主への対応、労働者・労働組合との協議などの手続きは必要です。場合によっては、これらの対応に時間がかかることもあります。

ただし、簡易会社分割や略式会社分割の要件を満たせば、株主総会の特別決議を省略することも可能です。

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6. 会社分割を行う手続きの流れ

ここからは会社分割の手続きについて、吸収分割と新設分割に分けて解説します。

吸収分割の手続き・流れ

吸収分割では、主に以下の手続きを行う必要があります。

  1. 吸収分割に関する基本合意書の締結
  2. 各社の取締役会の承認
  3. 吸収分割契約の締結
  4. 吸収分割契約書などの事前開示
  5. 株主総会の招集
  6. 株主総会の特別決議・承認
  7. 反対株主の株式買取請求通知
  8. 債権者保護手続き
  9. 吸収分割書面などの事後開示
  10. 各社の変更登記

①吸収分割に関する基本合意書の締結

吸収分割を実施することが決まったら、分割会社と分割承継会社で基本合意書を締結します。以下は、基本合意書に記載する事項の一例です。

  • 吸収分割の目的
  • 吸収分割のスケジュール
  • 吸収分割の対価
  • 分割する事業の内容

②各社の取締役会の承認

基本合意が締結されたら、本契約に進む前に、業務執行決定機関で承認を得なければなりません。取締役会がある場合は、取締役会での承認が必要です。

③吸収分割契約の締結

合意内容に問題がなければ、吸収分割契約を締結します。吸収分割契約書の内容は、基本合意書と同じです。基本合意書の締結はせずに、直接、本契約を行う場合もあります。

④吸収分割契約書などの事前開示


分割会社と分割承継会社は、吸収分割契約書などの事前開示書類を会社の本店に備え置くことが、法令で定められています。事前開示書類は、吸収分割の効力発生日から6カ月の間、備え置かなければなりません。

⑤株主総会の招集

吸収分割を行うには、株主総会の特別決議で承認が必要です。株主総会の招集通知は、非上場企業は開催日の1週間前まで、上場企業は2週間前までに送付しなければなりません。非上場企業でも書面投票や電子投票を行う場合は、2週間前までに送付する必要があります。

⑥株主総会の特別決議・承認

吸収分割実施の承認を得るには、株主総会の特別決議として、議決権を持つ株主の過半数以上が出席し、3分の2以上の賛成を得なければなりません。なお、以下のの要件を満たすと、株主総会の特別決議を省略できます。

  • 簡易組織再編による承認:分割会社と分割承継会社は、簡易会社分割に該当すると株主総会の特別決議を省略できる。簡易会社分割とは、分割事業の規模が分割会社総資産の5分の1以下などで、吸収分割によって株主に与える影響が少ない場合に適用される措置。
  • 略式組織再編による承認:略式会社分割に該当すると、株主総会の特別決議を省略できる。略式会社分割とは、グループ内再編実施の際に、親会社が子会社の90%以上の株式を所有している場合、子会社側の株主総会決議を省略できる制度。

⑦反対株主の株式買取請求通知

分割会社と分割承継会社は、吸収分割に反対の場合は株式を買い取る旨を反対株主に通知しなければなりません。一般的に反対株主への通知は、吸収分割を実施する通知や、株主総会開催の通知とともに送付します。

⑧債権者保護手続き

吸収分割では、債権者から個別に承認を得る必要がない代わりに、債権者保護手続きを行う必要があります。債権者保護手続きとは、吸収分割によって、債権者が権利を行使できないなどの不利益を被らないようにするための手続きです。

官報公告と個別催告によって、債権者に異議申立ての権利があることを周知します。

⑨吸収分割書面などの事後開示

分割会社と分割承継会社は、吸収分割の効力発生日以降、速やかに事後開示書類を本店に備え置かなければなりません。事後開示書類とは、吸収分割に関する重要事項を記載した各種書類のことです。

⑩各社の変更登記

分割会社と分割承継会社は、効力発生日から2週間以内に登記を行う必要があります。登記の際には、登録免許税と、吸収分割を行ったことを周知するための官報公告費などが必要です。

新設分割の手続き・流れ

新設分割の手続きは、以下の手順で行われます。

  1. 分割会社の取締役会の決議
  2. 新設分割計画書の作成
  3. 新設分割計画書などの事前開示
  4. 分割会社の株主総会の特別決議・承認
  5. 反対株主の株式買取請求通知
  6. 債権者保護手続き
  7. 新設分割書面などの事後開示
  8. 新設会社の設立登記・各社の変更登記

①分割会社の取締役会の決議

分割会社は取締役会での承認が必要です。取締役会決議では、新設分割契約書の承認や株主総会の開催について決議を行います。

②新設分割計画書の作成

新設分割では、新設分割計画書の作成を行います。新設分割計画書の内容例は以下のとおりです。

  • 新設会社の定款記載事項や役員など
  • 承継する資産や権利義務
  • 分割対価
  • 新設会社の資本金など
  • 新設分割のスケジュール

③新設分割計画書などの事前開示

分割会社は新設分割契約書など、会社法で定められた書類を本店に備え置かなければなりません。事前開示書類は6カ月間、備え置きます。

④分割会社の株主総会の特別決議・承認

分割会社は、株主総会の特別決議で新設分割を行う承認を得る必要があります。株主総会の招集通知は吸収分割と同様、非上場企業は開催日の1週間前まで、上場企業は2週間前までに送付しなければなりません。

ただし、非上場企業で書面投票や電子投票を行う場合は、2週間前までが送付期限です。新設分割の場合、分割会社は下記の要件を満たすと、株主総会の特別決議を省略することが可能です。

  • 簡易組織再編による承認:新設分割では、承継資産が分割会社の総資産額の2割以下の場合、簡易新設分割を適用できる。

なお、吸収分割では略式組織再編が可能ですが、新設分割では略式組織再編は認められません。

⑤反対株主の株式買取請求通知

分割会社は、株主に対し、新設分割に反対の場合は株式買取請求を受けつける旨を通知します。通知の際は、新設分割実施のお知らせや株主総会招集通知とともに送付可能です。

⑥債権者保護手続き

分割会社は、官報公告と個別催告で債権者の異議申立てを受けつける旨を通知します。ただし、新設分割後も債権者の権利に影響がない場合は、債権者保護手続きを省略可能です。

⑦新設分割書面などの事後開示

新設会社の設立日を迎えたら、新設分割書面などの必要書面を6カ月間、本店に備え置く必要があります。

⑧新設会社の設立登記・各社の変更登記

新設会社の設立日を迎えたら、分割会社は変更登記、新設会社は新設登記を行います。変更登記と新設登記は、同時に行わなければなりません。

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7. 会社分割にかかる期間

前章で掲示した会社分割の手続きを実施する際、具体的にどの程度の期間を要するのか考えてみましょう。

吸収分割にかかる期間

各社それぞれ状況が異なるため、具体的な期間を断定するのは難しいですが、吸収分割の場合、まず、数カ月は要するのは、ほぼ間違いないでしょう。実例を見てみると、株主総会開催までに2カ月以上を費やすことが多い傾向があり、その場合、全体としては3~4カ月になります。

計画段階からの期間も合わせてカウントすると、半年を超えるケースも少なくありません。なお、簡易会社分割や略式会社分割であれば、株主総会開催を省略できるので、1カ月程度で手続きを終えることも可能です。

新設分割にかかる期間

新設分割も、数カ月の期間を要するのは必須です、ただし、分割承継会社が設立前なので、分割承継会社側の以下の手続きが生じないため、吸収分割よりは必要期間が短くなります。

  • 契約締結手続き
  • 株主総会開催
  • 債権者保護手続き

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8. 会社分割における労働契約の承継等に関する法律手続き

会社分割では、労働契約承継法によって労働者保護手続きを行う必要があります。大企業・上場企業の場合、金融商品取引法や独占禁止法に抵触しないよう注意が必要です。会社分割で必要な以下の手続きを解説します。

  1. 公正取引委員会、監督官庁などへの事前確認
  2. 契約書類などの開示臨時報告書の提出
  3. 労働者・従業員から理解を得る
  4. 労働組合との事前協議
  5. 労働組合・労働者・従業員への通知
  6. 労働者の意見申述
  7. 公正取引委員会への事前届出

①公正取引委員会、監督官庁などへの事前確認

大企業の場合、会社分割によって事業規模が拡大し、独占禁止法に抵触するかもしれません。独占禁止法に抵触すると、会社分割スケジュールが遅れたり、中止になったりする可能性があります。

独占禁止法に抵触する恐れがある場合は、公正取引委員会などにあらかじめ確認しておくことが重要です。

②契約書類などの開示臨時報告書の提出

上場企業で金融商品取引法の定める組織再編行為に当てはまる場合、その企業は臨時報告書や有価証券届出書、有価証券通知書を提出する必要があります。

③労働者・従業員から理解を得る

労働契約承継法では、会社分割を実施する際の労働者保護を重視し、労働者への理解を促すこと、また労働者から理解を得ることを義務づけています。具体的には、労働者との協議や、労働者から異議申立てがあればそれを受けつけなければなりません。

④労働組合との事前協議

労働契約承継法では、分割会社は労働組合・労働者と事前協議を行うことを義務づけています。協議内容の例は以下のとおりです。

  • 労働者が働く会社の情報
  • 労働者が従事する仕事内容
  • 労働者の意思の聴き取り

⑤労働組合・労働者・従業員への通知

分割会社は、分割契約に該当する労働者や労働組合に対して、労働者の意思決定に必要な情報を記載した書面とともに、異議申立てを受けつける旨を通知します。

⑥労働者の意見申述

分割契約に該当する労働者は、異議がある場合、会社に対して異議申立てを行えます。異議申立てができる条件は以下のとおりです。

  • 分割事業にもっぱら従事しているにもかかわらず、承継先に移る取り決めがされていない場合、異議申立てによって、承継先に移ることが可能
  • 分割事業に従事していないにもかかわらず、承継先に移る取り決めがされている場合、異議申立てによって分割会社に残ることが可能

⑦公正取引委員会への事前届出

会社分割によって独占禁止法に抵触する恐れがある場合、公正取引委員会へ事前に届け出をしておくことで、会社分割手続きを円滑に行えます。公正取引委員会による調査は時間がかかることがあるので、余裕を持って届け出ておくべきです。

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9. 会社分割の債権者保護手続に関する注意ポイント

債権者保護手続きに不備があると、会社分割の手続きが認められません。仮に、債権者保護手続きがきちんと完了せず会社分割の登記を行ったとしても、登記日から6カ月以内であれば、債権者は会社分割無効を裁判所に提訴できるのです。

不備が起きやすい点としては以下のようなものがあります。

  • 官報への公告だけ行い、個別催告を失念する。
  • 官報公告のスケジュールミス(官報は申し込んでから公告されるまで1~2週間かかる)
  • 債権者保護手続き全体のスケジュールミス(会社分割の効力発生日前日までに行わなければならない)

債権者保護手続きでは、債権者の異議申し立てが認められていますが、あくまで申し立てであって会社分割が無効にされてしまうわけではありません。申し立てを行わなかった債権者は、自動的に会社分割を認めたと見なされます。

なお、異議申し立てができる債権者は、以下のように定められています。
  • 人的分割を行った分割会社の債権者
  • 債務の履行も連帯保証債務の履行もできない分割会社の債権者
  • 分割承継会社の債権者

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10. 会社分割における簡易組織再編と略式組織再編

会社分割のような組織再編行為では、一定の要件を満たすと簡易組織再編や略式組織再編に該当し、手続きを簡略化できます。

簡易組織再編とは

分割会社と分割承継会社は、以下の要件を満たすと簡易会社分割を適用できます。簡易会社分割とは、以下の場合に株主総会の特別決議を省略できる制度です。

  • 分割会社:承継資産が分割会社の総資産額の2割以下の場合
  • 分割承継会社:承継の対価が分割承継会社の純資産額の2割以下の場合

略式組織再編とは

略式会社分割に該当すると、株主総会の特別決議を省略できます。略式会社分割とは、分割会社と分割承継会社が特別支配関係の場合に適用できる制度です。特別支配関係とは、親会社が子会社の議決権を9割以上持つ親子関係が該当します。

吸収分割が承認されることは間違いないため、子会社側は株主総会の特別決議を省略できるのです。

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11. 会社分割の税務

会社分割では、一定の要件(適格要件)を満たすことで、適格組織再編と認められます。適格組織再編と認められれば、税制上の優遇措置を受けられるのです。

税制適格分割とは

税制適格分割とは、会社分割によって承継する資産や負債を簿価で引き継げる特例措置のことです。簿価で引き継げるということは、事実上、法人税の猶予を受けたことになります。ただし、グループ企業内の会社分割で、一定の要件を満たしていなければなりません。

税制非適格分割とは

税制非適格分割とは、会社分割によって承継する資産や負債を時価で引き継ぐことです。グループ企業外でのM&Aの場合などは適格要件が満たせない場合が多く、結果的に非適格組織再編となってしまいます。

共同事業適格要件とは

共同事業適格要件とは、グループ企業同士以外の会社分割であっても、一定の要件を満たすことで優遇措置を受けられる制度です。共同事業適格要件では、事業の類似性や事業規模の同等性などが、判断基準になります。

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12. 会社分割で課される税金

会社分割で課される税金でポイントとなるのは以下の3点です。それぞれの概要を説明します。

  1. 繰越欠損金を引き継ぐための要件
  2. 法人住民税・事業税の取扱い
  3. 不動産取得税の取扱い

①繰越欠損金を引き継ぐための要件

会社分割では、一定の要件を満たすことで繰越欠損金を引き継げます。繰越欠損金とは、将来に繰り越せる赤字のことです。繰越欠損金を引き継ぐことにより節税が可能になりますが、組織再編の分類によって、内容に違いがあります。

税制適格分割の場合

適格分割の場合、分割会社は繰越欠損金を制限なく利用できますが、既存の分割承継会社は利用に制限があります。新設会社は繰越欠損金を利用できません。

税制非適格分割の場合

非適格分割の場合、分割会社は繰越欠損金を制限なく利用できます。既存の分割承継会社は条件次第で利用可能です。新設会社は利用できません。

共同事業適格分割の場合

グループ企業以外同士の会社分割であっても、みなし共同事業要件で認められれば、繰越欠損金を利用可能です。みなし共同事業要件とは、事業の関連性・事業規模の同等性・事業の継続性により、判断されます。

②法人住民税・事業税の取扱い

法人住民税は、各都道府県と各市町村それぞれに対して納付するものです。法人住民税の納税額を均等割で計算する場合、「資本金等の額」によって税額が変わります。資本金等の額とは、「資本金+資本準備金」のことです。

会社分割で現金が移動した場合、既存の分割承継会社において資本金等の額が上がり税負担が増える可能性があります。一方、法人事業税は、事業所所在地の都道府県に納付する税金です。法人事業税は、資本金1億円を境に税率が変わります

会社分割によって、資本金額が変わる場合には、税負担がどうなるかについても事前に把握しておきましょう。

③不動産取得税の取扱い

会社分割で、分割会社から分割承継会社に不動産が移転した場合、原則的に分割承継会社は不動産取得税が課税されます。ただし、以下の条件全てを満たす場合には、不動産取得税の課税を受けません。

  • 分割型分割であること。
  • 会社分割対価が株式交付のみであること。
  • 各株主への株式交付比率が分割会社株式の持ち分比率と同じであること。
  • 主要な資産や負債が分割承継会社に移転すること。
  • 分割事業が確かに分割承継会社に引き継がれるであろうこと。
  • 分割会社の8割以上の従業員が分割承継会社に移籍すること。

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13. 会社分割が行われた事例

上場企業関連の会社分割事例9件を紹介します。

  1. ソフトバンクとU-NEXTによる会社分割
  2. フジがニチエーの新設分割会社を買収
  3. GA technologiesが子会社に対し会社分割で事業承継
  4. 楽天モバイルによる組織内の会社分割
  5. マイネットゲームスとINDETAILによる会社分割
  6. トーカイとイビデン産業による会社分割
  7. クラウディアホールディングスと内田写真による会社分割
  8. マーケットエンタープライズとプロトコーポレーションによる会社分割
  9. パーソルホールディングスと商船三井による会社分割

①ソフトバンクとU-NEXTによる会社分割

2020(令和2)年10月、ソフトバンクは会社分割を実施し、「アニメ放題」事業をU-NEXTに承継させました。この会社分分割は、移転する資産額が純資産の10%未満および売上高の減少比率が3%未満のため、簡易吸収分割として実施されました。

「アニメ放題」はアニメ専門コンテンツ配信サービスですが、ソフトバンクとしては事業の選択と集中として会社分割を実施しています。会社分割対価は2億5,000万円です。

②フジがニチエーの新設分割会社を買収

2020年7月、ニチエーは、広島県内で行うスーパーマーケット11店舗の運営事業を、自ら新設した会社に会社分割しました。フジは、その新設会社の全株式を取得し完全子会社化しています。

愛媛県を本拠とするフジは、愛媛県を中心に四国地方および広島県と山口県で計98店舗(上記広島の11店舗含む)のスーパーマーケット事業を展開している企業です。ニチエーの事業取得によって、事業の拡大・強化・発展をもくろんでいます。

③GA technologiesが子会社に対し会社分割で事業承継

2020年5月、不動産関連事業を行うGA technologiesは、投資用マンション向けリノベーション事業を含む不動産賃貸管理事業について会社分割し、100%子会社であるリーガル賃貸保証に事業承継させました。

この会社分割スキームを用いた事業承継によって、GA technologiesとリーガル賃貸保証は人的資源と有形無形資産の有効活用が向上すると判断した模様です。そして、そのことによって、今後の賃貸管理事業と賃料保証事業分野での収益力向上を図るとしています。

④楽天モバイルとDMM.comによる会社分割

2019(令和元)年9月、楽天モバイルは会社分割により、DMM.comからMVNO事業の「DMM mobile」、フレッツ光を利用した高品質インターネットサービス事業の「DMM光」を承継しました。会社分割対価は約23億円です。

楽天モバイルとしては、モバイル事業の顧客基盤の拡大と大きな事業シナジーが望めると判断し、事業を承継しました。

⑤マイネットゲームスとINDETAILによる会社分割

2019(平成31)年4月、グループでオンラインゲーム運営事業などを行うマイネットの子会社マイネットゲームスは、同事業などを行うINDETAILのオンラインゲーム事業を、吸収分割により取得しました。会社分割対価は320万円です。

マイネットゲームスとしては、オンラインゲームサービスの種類拡充が実現しました。

⑥トーカイとイビデン産業による会社分割

2019年3月、トーカイは、イビデン産業の福祉用具関連事業を会社分割により取得しました。会社分割対価は1,100万円です。全国で介護関連事業を行っているトーカイとしては、イビデン産業の事業取得で中部地方の事業基盤を固めるもくろみです。

⑦クラウディアホールディングスと内田写真による会社分割

2019年3月、リゾート挙式事業などを行うクラウディアホールディングスは、内田写真館から写真撮影事業を、会社分割により取得しました。クラウディアホールディングスは、挙式事業と関連性の高い写真事業を取得することで、シナジー効果や写真事業の拡大を目指しています。

⑧マーケットエンタープライズとプロトコーポレーションによる会社分割

2019年2月、買取専門サイトなどを運営するマーケットエンタープライズは、生活系情報サイトの運営などを行うプロトコーポレーションの買取比較サイト「おいくら」事業を、会社分割により取得しました。会社分割対価は7,500万円です。

マーケットエンタープライズとしては、メディア事業にも力を入れ、買取専門サイトとのシナジー効果を見込んでいます。

⑨パーソルホールディングスと商船三井による会社分割

パーソルホールディングスは2018(平成30)年4月、子会社のパーソルテンプスタッフを通じて、商船三井の子会社である商船三井キャリアサポートから人材関連事業を取得しました。

これにより、パーソルホールディングスは人材関連事業を拡大し、商船三井キャリアサポートは商船三井からの業務受託に注力する計画です。

14. 会社分割の相談先

会社分割は、労働者や債権者への対応・税制の適用要件の判断など、法務・労務・税務などの幅広い知識や豊富な実務経験が必要となる場面の多い手法であり、円滑に進めるには専門家のサポートがおすすめです。

M&A総合研究所では、会社分割を含めたM&Aの実務経験豊富なM&Aアドバイザーが専任につき、丁寧にサポートいたします。

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15. 会社分割のまとめ

会社分割には特殊な面もありますから、メリット・デメリットを把握し実施の検討をしましょう。その際にはM&A仲介会社など専門家のサポートを受けるのが得策です。

・メリット
→株式を対価にするため資金が不要
→資産や契約関係を移転させる手続きが不要
→一部事業のみ譲渡できる
→買収によるシナジー効果が得やすい
→他のM&A手法と違い税金の負担が少ない

デメリット
→買い手企業の株価が下落するリスクがある
→結果として買収された企業の株主が買い手企業の株主となる
→負債を引き継ぐ必要がある
→経営統合プロセスがスムーズに進まない可能性
→株式総会にて特別決議など多くの手続きが必要になる

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