2023年03月25日更新
個人事業主の事業承継のやり方や注意点は?流れや必要書類も解説!
本記事では、個人事業主の事業承継に関する注意点、固定資産税や借入金について解説します。個人事業主は後継者問題に悩まされることが多く、事業承継も多いです。借入金の引き継ぎなどの不安がある方も少なくありません。個人事業主の事業承継を検討されている方は必見です。
目次
1. 個人事業主の事業承継の要点まとめ
個人事業主の事業承継では、以下の手続きが必要です。
- 事業承継方法の決定(売買or贈与or相続)
- 後継者への引き継ぎ
- 廃業・開業・税務の手続き
- 取引先や従業員への連絡
これらの事業承継手続きについて、この記事で解説します。自身で事業承継を進めることは不可能ではありません。しかし、手続きが複雑で、失敗すると余計に面倒になるケースがほとんどです。できる限り税理士などの専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
事業承継方法の決定は、自分だけではなく従業員や後継者の未来を背負った大切な決定です。事業の未来をじっくりと考えて意思決定をしましょう。
個人事業主と法人の違い
株式会社や持分会社など、事業を目的とする組織が法人です。登記によって法律上の人格が認められ、株式や出資を後継者に承継すれば、経営者が変更しても法人の経営権や財産権をすべて引き継ぐことが可能です。
個人主体で事業を行う人が個人事業主で、経営権や財産権は事業主に従属します。事業に必要とする資産を後継者へ引き継ぎ、後継者が個人事業主となって事業を始めると、個人事業を引き継げます。
事業承継で引き継ぐもの
下記の3つが、事業承継で引き継ぐものです。
- 経営権
- 経営資源
- 物的資産
経営権は、事業の経営権のことで、個人事業では株式などによる承継はできません。経営資源は、経営理念、ブランド、技術、従業員や取引先などをいいます。
物的資産は、店舗、オフィスの備品など、事業に欠かせない固定資産、売掛金や借入金などの債権債務などです。
2. 個人事業主の事業承継のやり方
個人事業主として行う業種は、商店・青果店・洋服店・クリーニング店・料理店などさまざまな業種があります。
個人事業主が事業承継を行う方法は、贈与、売買、相続などです。他人への引き継ぎ・個人事業主の家族への引き継ぎなのか、といった手法の違いで借入金や固定資産の引き継ぎなどが異なる場合があります。
代表交代により営業権譲渡なども複雑になることが少なくありません。ここでは、個人事業主の事業承継の方法を手法別にまとめますので参考にしてください。
個人事業主が事業承継をしようと考えた場合、以下の方法が考えられます。
- 売買(M&A)
- 贈与
- 相続
個人事業主における事業承継の3つの方法について、詳しく確認しましょう。
①売買(M&A)
個人事業主が事業承継するときの売買(M&A)によるものは、事業譲渡をする対価として、金銭を受け取る方法で、家族ではなく主に第三者へ事業承継する方法です。
経営者は事業の売買によって対価を得られますが、事業規模が小さい場合は売却する相手先を見つけるのが難しいでしょう。売買(M&A)による事業譲渡では、マッチングサイトの活用や事業承継・引継ぎ支援センターへ相談するなどして事業譲渡先企業を見つけられます。
②贈与
個人事業主の事業承継では、贈与を活用した事業譲渡が選ばれるケースもあります。この贈与による事業譲渡は、生前贈与が主流で、「親族内事業承継」と「親族外事業承継」があり、個人事業主が家族など親族内や他人へ事業を贈与するものです。
贈与による事業譲渡は、一番安心感があるでしょう。
親族内事業承継
親族内事業承継とは、実の子供などの親族に事業承継をする方法をさします。
【親族内事業承継のメリット】
- 関係者から受け入れてもらいやすい環境である
- 後継者を早く決定できる
- 早くから教育や準備に時間を割ける
- 財産や株式を同時に移転できる
【親族内事業承継のデメリット】
- 親族内で承継を希望する者が見つかるとは限らない
- 相続人が複数の場合は、後継者の決定や経営権集中が難しい
親族外事業承継
親族外事業承継とは、自社の従業員や役員など、親族以外の人物に事業承継する方法です。
【親族外事業承継のメリット】
- 自社だけでなく幅広く候補者の選択が可能
- 長期間勤務した従業員を選択する場合は、経営体制を維持しやすい
【親族外事業承継のデメリット】
- 適任者がいない可能性がある
- 後継候補者に資金力がない場合は、株式取得などが困難になる
- 個人債務保証の引き継ぎなど負担が大きいプロセスがある
③相続
相続による事業承継とは、経営者が亡くなり相続が発生したときに持っている自社株を財産・資産の一部として後継者が引き継ぐことです。基本的には遺言として残しておくことで、何をどの程度相続するのかを決定できます。遺言がないケースでは、遺産分割協議などの話し合いで決めます。
このことから、相続では自身が「誰に、何を、どのように」相続してもらいたいのかなど、意思をはっきりと遺言に残すとよいでしょう。
ここまで3つの方法を説明してきました。基本的にはこれらの中から、自身に合った方法を選択します。後継者を誰にするのかでも違うので、意識して選択しましょう。
個人事業主の事業譲渡の手続き方法・注意点については、下記の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
3. 個人事業主の事業承継の流れ
個人事業主が事業承継をするときに、必要な手順や流れを解説します。
ここから解説していくのは基本的な流れなので、事業譲渡の手法や、引き継ぎ方の違いで、手順が異なる場合や、省略して事業譲渡を行う場合があります。
個人事業主が事業承継を行う際の基本的な流れは、以下のとおりです。
- 後継者選び
- 後継者への引き継ぎ・教育
- 廃業手続き
- 開業手続き
- 屋号の引き継ぎの処理
- 取引先などへの連絡
個人事業主の事業承継では、屋号の引き継ぎの処理が重要です。しっかりと、確認しましょう。
①後継者選び
個人事業主が事業承継をするときは、はじめに後継者選びから始めます。これは他人でも親族内に事業譲渡するときも同じで、一般的には子供などに引き継ぐケースが多いでしょう。
しかし、必ずしも子供に引き継ぐ必要はなく、他人に引き継ぐ方法もあります。
②後継者への引き継ぎ・教育
後継者が決まれば、個人事業主の事業を引き継ぎます。いきなり一人で全てを任せてもできないため、教育をして事業が成り立つようにしましょう。
取引先へのあいさつや、紹介なども一緒に行うと今後の経営を任せやすくなります。個人事業主は個人での事業なので信頼や人間関係が大切です。ここはしっかりと丁寧に行ってあげましょう。
事業用の固定資産や顧客情報なども一緒に引き継ぐため、情報管理や引き継ぎに必要な書類や手続きも怠らないでください。
③廃業手続き
個人事業主の事業承継は法人の事業譲渡とは違うので、手続きは比較的簡単です。現事業主は廃業の届出を提出するだけで、この手続きは終了し、個人事業主としての仕事を終えられます。
④開業手続き
経営者が廃業の手続きを終えた後は、代表交代した後継者が開業手続きを進めます。これで個人事業主として後継者が認められるので、事業譲渡は完了です。
⑤屋号の引き継ぎの処理
もともと個人事業主が使っていた屋号を引き継ぐ処理も必要不可欠です。引き継ぎしておけばそのまま使えるので開業届に記載しておきましょう。
商号登記をしている場合は、会社法に決められている競業避止義務によって使用できないケースがあります。基本的には制限を受けませんが、確認しておくとよいでしょう。
⑥取引先などへの連絡
代表交代のときには取引先などへの連絡も欠かせません。今まで付き合いがあったから代表交代しても問題がないとはいい切れないからです。
あいさつは基本ですから、顔を覚えてもらうためにも行う必要があるでしょう。場合によっては、代表交代によって取引を中止する最悪のケースも考えられます。あまり話をする機会がない場合では特に多いので、連絡やあいさつなどに向かってください。
個人事業主の事業承継方法については、下記の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
4. 個人事業主の事業承継に必要な書類・記載方法
個人事業主の事業承継では、手続きは簡単に行えます。
しかし、その手続きに必要な書類の記載方法などもあるため、個人で事業譲渡を行うときにはこの記載方法を理解しなければなりません。
ここでは、個人事業主の事業承継に関する書類の概要と記載方法について、以下の10個を紹介します。
- 廃業届出書
- 所得税の青色申告の取りやめ届出書
- 事業廃止届出書
- 所得税および復興特別所得税の予定納税額の減額申請
- 開業届
- 所得税の青色申告承認申請書
- 青色事業専従者給与に関する届出書
- 雇用に関する書類
- 消費税課税事業者選択不適用届出書
- 消費税簡易課税制度選択不適用届出書
①廃業届出書
法人での手続きとは違い、個人事業主の開業届を提出し、事業を始めます。この場合、代表交代をするために廃業届出書を提出する必要があり、廃業した日から1カ月以内に必要書類を所轄税務署長に提出しなければなりません。
廃業してしまったら、引き継ぎできないのではと心配になる人も多いかもしれません。しかし、先ほど説明した流れでもあるとおり「引き継ぐものが開業届を提出して事業を始める」ので、問題はありません。
廃業届出書は、インターネットからダウンロードもできます。事前に用意して提出する方法でも可能ですので、忘れずに提出しましょう。
事業開始または廃止の申告書
税務署へ提出する廃業届の他に、都道府県税事務所へ事業開始または廃止の申告書の提出が必要です。書類のフォーマットや提出期限は、各都道府県により違ってきますので注意しましょう。
許認可事業は別途廃業届
薬局、飲食業、旅館業、販売業、建設業、美容・理容業など特定事業を営んでいる場合は、警察署、保健所、都道府県などの行政機関から「許認可」を受けなければなりません。
しかし、個人事業主の場合、生前贈与による事業承継では、後継者へ許認可を引き継げません。許可を受けている所轄行政庁に対して別途廃業届の提出が必要です。
②所得税の青色申告の取りやめ届出書
個人事業主の場合、確定申告を自身で行うケースがほとんどです。このときに青色申告を行っていた場合は、廃業届と同様に一度やめる必要があります。青色申告を取りやめようとする年の翌年3月15日までに提出しましょう。
ただし、今後も青色申告を使い続ける事業を行っている場合は、取りやめをする必要はありません。状況に応じて提出してください。
③事業廃止届出書
これは、消費税の課税事業者のみが必要な書類になります。一見すると廃業届と同じに見えますが、厳密には内容が違うことから提出が必要です。
ただし、以下の書類を提出している場合は必要ありませんので確認してください。
- 消費税課税事業者選択不適用届出書
- 消費税課税期間 特例選択不適用届出書
- 消費税簡易課税制度選択不適用届出書
- 任意の中間申告書を提出することの取りやめ届出書
消費税の減税にもつながりますので、上記の書類を提出していない場合は忘れずに提出しましょう。具体的に提出期限は定められていませんが、速やかに提出するよう定められています。
④所得税および復興特別所得税の予定納税額の減額申請
個人事業主が後継者となり得る子供に事業譲渡で引き継ぐケースでは、所得税および復興特別所得税の予定納税額の減額申請をしておきましょう。
この申請をしておくことで、予定納税額を減額することが可能です。引き継ぎによって、親よりも所得が少なくなる子供に合わせた税金だけで済みます。廃業以外に失業、業績不振などで所得が低くなることが予想されるケースでも適用されるので覚えておきましょう。
第1期分・第2期分の減額申請をする場合はその年の7月1日〜15日までに提出する必要があり、第2期分のみの申請の場合はその年の11月1日〜15日までに提出します。
⑤開業届
個人事業主の開業届は、廃業届と書式は同じですが内容は異なります。
事業譲渡では一度廃業をして開業するため、開業届の提出が必要です。提出期限は、現経営者が廃業届を出す前でも後でも問題はなく、事業を開始してから1カ月以内に提出します。
開業にチェックを入れて提出しましょう。
⑥所得税の青色申告承認申請書
青色申告が必要と判断した場合には、青色申告承認申請書の提出が必要です。引き継ぎ前に青色申告を取りやめたときにも、この書類を提出する必要があるので覚えておきましょう。
開業をしてから2カ月以内に提出しなければならないことから、開業届と同時に手続きをするとよいでしょう。
⑦青色事業専従者給与に関する届出書
子供や他人に事業承継をしたケースでは、給与を経費として扱えない可能性があります。
例えば、引き継ぎ後に配偶者が事業を手伝うことにより得た対価などがこれに当たるでしょう。このようなケースでは経費として計上できない対価が残ってしまいます。
このとき、青色事業専従者給与に関する届出書を提出し、給与を経費として扱うことが可能です。条件を満たすだけで支払った給与を経費として計上できますので、必要に応じて提出してください。
⑧雇用に関する書類
親族などではなくアルバイトや従業員として誰かを採用するケースでは、雇用に関する書類も必要です。
これは、働いてもらうためにも雇用契約を結ぶ必要があるからです。詳細な労働条件の書類から保険関係、契約書など幅広い書類を用意する必要があるため、早めに用意するように心がけましょう。
⑨消費税課税事業者選択不適用届出書
消費税課税事業者選択不適用届出書は、課税事業者が免税事業者に戻るために必要な書類となります。免税事業者とは、年間の売上高が1,000万円以下の事業をしている人のことです。
免税事業者に戻ろうとする課税期間の初日までに提出しなければなりません。課税事業者を選択した効力はこの届出を提出するまで続くので、事業承継をして、年間売上高が1,000万円以下の場合は提出するとよいでしょう。
⑩消費税簡易課税制度選択不適用届出書
消費税簡易課税制度選択不適用届出書とは、粗利が大きいほど消費税の納税額を少なくする制度のことです。年間総売り上げが5,000万円より高い場合は使えません。
簡易課税制度で消費税を納税するよりも、原則課税制度で納税したほうが消費税を抑えられます。消費税簡易課税制度選択不適用届出書を忘れずに提出しておきましょう。
5. 事業承継後の経費・債務の取り扱い
事業承継をしたとき、事業に必要な経費や、引き継ぎ前の債務はどうなるのか気になるものです。不動産などの固定資産や借入金の行方も気になるでしょう。
ここでは、事業承継後の経費や債務、使用貸借を解説します。
固定資産税は経費にできる
事業承継を他人や家族に贈与で行う場合、贈与額が高額になる理由として、不動産などの固定資産がかかわっている場合があります。
この部分を贈与ではなく「使用貸借」の形にすれば固定資産の贈与ではなく、他人や家族に貸していることになるので贈与税が少なくなるでしょう。
この使用貸借では、賃貸などと違い、権利金などがかからず実質無料で土地を借りられます。使用貸借により、不動産などの固定資産を事業譲渡した相手に貸している扱いにできます。
使用貸借にしていれば、不動産から生じる減価償却費、固定資産税、修繕費など土地を借りている後継者の計上が可能です。
借入金も承継される
事業承継では、事業を行うための資産が引き継ぎされますが、その資産には固定資産や経営資産があり、この中に借入金を含む資金も入っています。
事業譲渡にて代表交代をしても、その事業そのものの借入金はなくならないので注意が必要です。債務としてある借入金をどのように対処していくかも、事業承継で代表交代をするときに考えなければなりません。
分社による事業承継スキーム
新設分割で分社化し事業承継をすると、借入金などの負債と固定資産などの事業のための資産を分けて事業承継できます。
他人であっても子供であっても、借入金が大きな事業は引き継ぎたくないのが正直なところです。したがって、分社化して、事業承継を行うことで引き継ぎしやすくすれば事業譲渡はうまくいくでしょう。
中小企業の事業承継スキームについては、下記の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
6. 個人事業主の事業承継にかかる税金
個人事業主の事業承継にかかわらず、事業承継にて代表交代などを行うときはさまざまな税金がかかります。知っておきたい税金は、以下のとおりです。
- 贈与税
- 所得税
- 消費税
- 相続税
それぞれの税金がどのような場合にどれくらい発生するのか、確認しましょう。
①贈与税
個人事業主の事業承継でよくあるのが、親から子への事業承継です。基本的には、事業を買い取る形ではなく譲り受けます。これは、子供が買い取るほどの資産を有していないケースが多いためです。
そうすると、贈与の形式に該当して贈与税が必要となります。計算方法なども参考として説明するので確認してください。
計算方法
贈与税の計算方法を見ましょう。贈与税の計算式は以下のとおりです。
- 資産(固定資産や預貯金、商品など)−債務(未払金や借入金、買掛金など)
上記の計算式で算出し、110万円以下となった場合は、贈与税を支払う必要がありません。超えていた場合は、超えた部分にのみ税率をかけて課税されるので、事前に計算しましょう。
税率
税率は以下の表のとおりです。
贈与税 | ||||
---|---|---|---|---|
課税価格 | 一般税率 | 控除額 | 特例税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - | 10% | - |
200万~300万円以下 | 15% | 10万円 | 15% | 10万円 |
300万~400万円以下 | 20% | 25万円 | 15% | 10万円 |
400万~600万円以下 | 30% | 65万円 | 20% | 30万円 |
600万~1,000万円以下 | 40% | 125万円 | 30% | 90万円 |
1,000万~1,500万円以下 | 45% | 175万円 | 40% | 190万円 |
1,500万~3,000万円以下 | 50% | 250万円 | 45% | 265万円 |
3,000万~4,500万円以下 | 55% | 400万円 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 400万円 | 55% | 640万円 |
課税価格が増えるごとに税率が高くなる累進課税となります。控除額や特例税率も異なるため、しっかりと確認しましょう。以下の注意点も確認しておくと便利です。
- 一般税率(一般贈与財産用)は、特例税率に該当しない場合に、一般税率で計算されます。
- 特例税率(特別贈与財産用)は、祖父母や父母から20歳以上の子供や孫へ贈与する場合、この特例税率で計算されます。
税率はケースによって異なるため、専門家に相談しながら税額を計算しましょう。
使用貸借による減額
使用貸借とは、当事者の一方が無償で使用や収益をした後に返還をするのを約束して相手から目的物を受け取る内容の契約のことです。使用貸借は、消費賃貸や賃貸借と同じ「貸借型契約」に分類されます。
贈与税額を高くしているのは不動産などの固定資産でこの部分を贈与ではなく使用貸借として扱うことで、贈与税額はかなり少なくなるでしょう。
ただし、この使用貸借では、無料で貸すことになり、地代も無料にしなければなりません。借主が持ち主に地代などを払うことは禁止されています。
この契約を利用した場合は、親側の固定資産税として扱われるため子供に支払い義務はありません。
暦年贈与
事業承継による贈与税は通常であれば暦年贈与により課税されます。つまり、その年の1月1日から12月31日までの期間で課税額が決まります。
先ほど説明したとおり、この課税対象は110万円を超えた額にですので、超えていないケースでは特に気にする必要がないでしょう。
②所得税
個人が1月1日から12月31日まで(1年間)に得た「所得金額(収入-経費)」から「所得控除額」を差し引いた額を所得額として計算します。
所得税は10種類あり、事業承継を売買(M&A)によって行う場合は、「譲渡所得」に当たるものです。子供などに無性で事業承継した場合は事業承継後に後継者が得た収入が「事業所得」として課税されます。
③消費税
消費税の仕組みですが、事業承継を生前贈与にて行うのか、相続として行うのかにより異なります。
事業をしているうえでかかる消費税は、年間売上高が1,000万円以上あるかどうかにより課税か非課税かに分かれ、これは2年前の売上高を見て納税義務があるかないか判断します。
生前承継
事業承継を生前承継で行った場合、代表交代をするのに、前の経営者は「閉業」を後継者は「開業」をする形になります。後継者が他に事業をしていない場合は、開業して1年目になるため、この年に1,000万円以上の売り上げがある場合は2年後に消費税の納税義務が課せられます。
つまり、原則として開業から2年以内では納税義務がありません。2年以降も1,000万円以上の売り上げを出していないケースであれば、必要ないでしょう。
遺産相続
事業承継を相続で行うケースでも、売上高が1,000万円以上でなければ納税義務は課せられません。
ただし、相続は引き継ぎする形となるため納税義務もそのまま引き継がれますから、売上高が超えている場合は課税対象ですので注意してください。
例をあげると、2年前まで事業を行っていた親が年間1,000万円以上の売上高をあげていた事業を子供が2年後に相続にて代表交代して引き継いだ場合、この年から消費税の納税義務が発生します。
課税期間の途中で経営者が亡くなり後継者に代表交代した場合も同じで、代表交代前が500万円の売上高で代表交代後が600万円の売上高とすると、年間1,100万円の売上高になるので消費税は課税されるでしょう。
④相続税
相続での事業承継は、相続が発生した時点を基準にして評価額が査定され課税されます。
事業承継では、固定資産だけに限らず多くの不確定な要素が承継内容に含まれています。場合によっては、後継者の相続に負担がかかるケースがあるので注意しましょう。
小規模宅地の特例
小規模宅地の特例とは、相続する人が済んでいた土地などが一定条件を満たした場合に税金を減額してもらえる制度のことです。この特例では、最大80%の評価額を減税できます。
例えば、相続税の評価額が1,000万円だったとすると、200万円の評価額までは減額できるので大きな負担軽減につながるでしょう。
しかし、大きな金額の減額が期待できる反面、要件がやや厳しいので注意が必要です。他人に相続するケースでも適用ができないなどもあるため、要件を確認してから進めてください。
7. 個人事業主が事業承継する際の2つの注意点
個人事業主の事業承継は、手続き自体は簡単に行えますが、注意が必要な点も何点かあります。特に個人間で行う場合は、失敗しやすいですからしっかりと理解して行うことが大切です。
個人事業主の事業承継における注意点は、以下のとおりです。
- 早期対応が必要
- 税金対策
順番に確認しましょう。
①早期対応が必要
個人事業主が事業承継をする場合、相続や贈与で行うのが大半ですが、各種手続きは迅速に対応するのが大事です。売買(M&A)による事業譲渡の場合も同じで、対応が遅れると、売買交渉が取り消しになってしまうこともあるので気をつけましょう。
後継者問題の解消
後継者問題の解決のために事業承継などを考える個人事業主の方は多く、個人事業主の方は自分自身が資本であるため、無理して事業を継続している方などもいます。
自身の身体と相談しながら早い段階で後継者を見つけ出し、教育などが難しい場合は事業が売れる状態のときにM&Aを決断することも重要です。
手続きが煩雑
事業承継をする後継者が決まっていても、手続きをするときは開業と廃業届けを出すだけではなく、他にも書類の作成などがあるので早めの対応をしましょう。
特に消費税課税事業者選択不適用届出書などは提出期限が決まっているため、早めに決めておき、開業と同時に行ってください。
②税金対策
上記でも解説しましたが、事業承継にはさまざまな税金がかかります。先ほど記述した使用貸借もそうですが、固定資産税や消費税など、相続税・贈与税も少額ではありませんのでしっかりと対策することが大切です。
借入金などの債務も、対策しておくと節税になるので理解しておきましょう。
8. 個人事業主の事業承継で節税対策に役立つ制度
この章では、個人事業主の事業承継で節税対策に役立つ制度を見ましょう。
相続時精算課税制度
子や孫へ累計2,500万円までの贈与財産にかかる贈与税を非課税とし、贈与者が亡くなったときに、贈与財産を相続税の課税対象として精算する制度が、相続時精算課税制度です。最終的に相続税を負担しますが、事業承継を生前に進めたいときはメリットがあります。
贈与税の申告書、相続時精算課税選択届出書や戸籍謄本などの書類を税務署に出して申請します。この制度を選択した年からは、贈与者からの贈与に暦年課税が適用できません。
小規模宅地等の特例
被相続人(亡くなった人)の土地で、一定要件を満たす宅地の相続税評価額を減らせる相続税の特例が、小規模宅地等の特例です。例をあげると、被相続人の事業用宅地を後継者が相続し、申告期限まで宅地を有し、さらに事業を続ける要件を満たすと、400平方メートルまでの評価額を80%減らせます。
ただし、相続を始める前の3年以内に事業用に供された宅地など(一定の場合を除く)は除外です。
要件を満たした事業用宅地(貸付事業用宅地等を除く)を特定事業用宅地等といいます。利用区分が異なる宅地等を複数持っているケースでは、条件により限度面積を判定します。
個人版事業承継税制
経営承継円滑化法の認定を受けた後継者が、一定の事業用資産を、現経営者やその親族から贈与や相続で得たときに生じる贈与税や相続税の納税が猶予される税制を、個人版事業承継税制といいます。猶予された状態で一定要件を満たした場合は、最終的に納税義務が免除されるでしょう。
納税猶予の対象となる事業用資産、事業内容、後継者、贈与者、被相続人(経営者やその親族)には、各要件があります。
法人版事業承継税制との違い
法人版事業承継税制との主な違いを見ましょう。
まずは、適用期限の違いで、個人版事業承継税制は2019年1月1日から2025年12月31日まで、法人版事業承継税制は、一般措置は期限なしで特例措置は2018年1月1日から2027年12月31日までです。
対象資産は、個人版事業承継税制は特定事業用資産、法人版事業承継税制は非上場株式などになります。納税猶予割合は、個人版事業承継税制は100%、法人版事業承継税制は一般措置の場合、贈与100%、相続80%、特例措置の場合は100%です。
継続届出書提出は、個人版事業承継税制は3年ごとに提出、法人版事業承継税制は経営承継期間中は毎年提出、その後は3年ごとに提出といった違いがあります。
個人版事業承継税制の利用手順
利用手順を見ましょう。
- 個人事業承認計画を作り都道府県へ提出:期限は2024年3月31日
- 贈与や相続開始後、都道府県へ円滑化法の認定を申請:期限は相続の場合は相続開始後8カ月以内、贈与の場合は翌年1月15日まで
- 贈与の場合は現経営者が税務署へ廃業届出書を提出:期限は廃業後1カ月以内
- 後継者が税務署へ開業届出書と青色申告承認申請書を提出:期限は開業届出書は開業から1カ月以内、青色申告承認申請書は贈与の場合は事業開始から2カ月以内、相続では現経営者の死亡日による
- 後継者が税務署へ相続税や贈与税の申告・担保提供:申告期限は相続税の場合、相続開始翌日から10カ月以内、贈与税の場合は翌年3月15日まで
個人版事業承継税制を利用する際の注意点
納税猶予を受けても、要件を満たせなくなると、猶予されている贈与税や相続税を、利子税と一緒に納付しなければなりません。
- やむを得ない理由以外で事業を廃止
- 資産管理事業等の特定事業に該当
- 事業所得の総収入金額がゼロになる
- 青色申告の承認が取り消された
- 取りやめの届け出を行った
- 継続届出書を期限内に提出しなかった
上記は、納付が必要となる主な要件です。個人版事業承継税制は、要件が複雑なので、専門家のサポートを受けながら行うと良いでしょう。
ほとんどの事業承継で、経営改善や後継者の育成も行う必要があるので、最初に事業承継の方針と計画をしっかりと立てることが欠かせません。
9. 個人事業主の事業承継に関する相談先
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10. 個人事業主の事業承継のまとめ
個人事業主は、事業承継の際、多くの労力と時間を必要とします。しかし、メリットが多いM&Aを選ぶことで、解決できる問題もあるでしょう。
その際は、法務・税務の手続きから書類作成、その他の処理まで考えて専門家に依頼することをおすすめします。事業承継をスピーディーに進めるためにも、ぜひ検討してください。
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