吸収合併の際、退職金はどうなる?勤続年数や社員・役員で処遇が違う?

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

自分の働いている会社が吸収合併を発表した際、気になるのは自身の退職金がどうなるかです。自分の立場が役員・社員であるか、勤続年数などによって、吸収合併の際の退職金が大きく変わる場合があります。本記事では、過去の事例を交えながら解説します。

目次

  1. 吸収合併とは?
  2. 吸収合併における退職金制度の取り扱い
  3. 吸収合併前の勤続年数による退職金の違い
  4. 吸収合併前の役職による退職金の違い
  5. 吸収合併による退職金の相談先
  6. 吸収合併による退職金についてのまとめ
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1. 吸収合併とは?

吸収合併

吸収合併とは、2社の企業が合併する際に存続企業がもう一方の企業を吸収し、もう一方の企業は解散して消滅する合併手法のことです。吸収合併を行う際、消滅会社が保有している役員、社員、資産、負債などを存続する会社が全て引き継ぎます。

 「新設合併」といった2社が消滅会社となって企業設立をする合併手法もありますが、吸収合併と比較すると清算の手続きが複雑になりコストもかかるため、ほとんど行われていません。一般的な「合併」は、この吸収合併をさしています。

【関連】吸収合併消滅会社とは?消滅会社の手続きを解説!決算公告・申告は必要?

2. 吸収合併における退職金制度の取り扱い

吸収合併における退職金制度の取り扱い

会社の吸収合併が発表されたあと、自分の退職金が今後支払われるかどうかは非常に気になるところです。

買収企業は、吸収合併の条件が悪かったために、消滅会社の人材が多数流出・退職してしまうことを懸念しています。そのため、消滅会社の給与制度や退職金制度は可能な限り清算ではなくそのままにし、できれば現状の条件よりもさらに充実した条件を提示したいと考えるでしょう。

吸収合併が行われた場合、会社内には、存続企業と消滅企業の複数の勤務条件が存在します。吸収合併に伴って、労働条件をきちんと整理をしなかったため、2社の労働条件の違いから社員に混乱が生じるケースもあります。

吸収合併前の退職金が100%支給される場合

実は「退職金の支給に関する事項」は、吸収合併の際の契約必要事項には含まれていません。

吸収合併が行われる際、自身が新しい会社に転籍した場合は、過去に勤務していた消滅会社の労働条件は清算されず全て引き継ぎます。吸収合併によって転籍した会社で勤務し、その後退職するときに、消滅会社と新しい会社の勤続年数を引き継ぎ、合計して退職金を計算します。

ただし、吸収合併した両方の会社と役員・社員の間に合意があれば、吸収合併した時点で退職の手続きをとり一度退職金を清算することも可能です。

吸収合併前の退職金が100%支給されない場合

吸収合併の際に消滅会社の役員や社員に退職金を支給する場合は、消滅会社から資金が流出してしまい、吸収合併に締結していた条件が変わってしまいます。

財務状況が良くない会社の吸収合併が行われる場合は、できれば退職金の条件を以前よりも低く設定して、安定した財務状態での吸収合併を行いたいと考えるでしょう。

吸収合併の際に会社の役員や社員は、吸収合併後の契約条件を確認し、同意書に署名捺印をする必要があります。労働条件が以前と変わらない、または変わることを納得したうえで新しい会社に条件を引き継ぎしますが、署名捺印をめぐって退職金が100%支給されなかった事例があります。

退職金を支払うことができない事例

平成28年2月に、山梨県の峡南信用組合(現在の山梨県民信用組合)の元職員が、退職金8,000万円の支払いを求めて裁判を起こしました。

退職金の支給基準が吸収合併に伴って転籍後の新しい退職金支給基準に変更されたため、元職員に支給される退職金が大幅に減額されたのです。

吸収合併し、転籍後の労働条件が現在の条件よりも悪くなる場合、内容を説明したうえで同意を得る必要がありますが、元職員は退職金を大幅に減額する旨の「退職金支給基準の変更同意書」に署名捺印をしていました。そのため、一審と二審では請求を棄却されています。

元職員は上告の理由として、退職金を大幅に減額するといった説明がなく、吸収合併の転籍後も労働条件は変更しないとする説明を受けたとしています。

争点は「正確な意思での署名捺印がどうか」

ここでの争点は、「同意書には署名捺印をしたが、受けていた説明が事実と異なっていた」点です。

書類に署名捺印はされているものの、不利益が生じる内容に関して同意書案の説明と異なる可能性があることを労働者が理解できていたかどうかは、高等裁判所で争点にされていませんでした。

結果この判決は、同意が労働者の意思が正確な意思での署名捺印であった可能性は低いとされ、最高裁から高等裁判所に差し戻しになっています。

退職金移管に関して

退職金移管は、消滅会社から条件を引き継ぎ、以前と同じ条件での退職金支給を受ける流れです。

労働者の意思によって転籍後の労働条件変更の同意を得るのが基本的な条件となります。現在の就業規則から変更がある場合、条件が上がる場合でも下がる場合でも、また同等の場合でも労働者の同意のうえでの署名捺印が必要です。

【関連】合併と買収の違いとは?M&A手法の基礎知識をわかりやすく紹介| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

退職金減給に関して

退職金減給に関しても同様で、社員の意思によって転籍後の労働条件変更の同意を得るのが基本的な条件となります。現在の就業規則から変更がある場合は、労働者の同意のうえでの署名捺印が必要です。

新会社での労働条件が変更になり、転籍で引き継ぎが難しい場合は、一度現行の会社にて退職金の清算手続きを行って退職をする流れもあります。

吸収合併のM&Aを行う場合は、各手続きに専門的な知識が必要となるため、M&A仲介会社やM&Aアドバイザリーなど専門家のサポートを受けながら進めるとよいでしょう。

M&A総合研究所では、吸収合併に精通したM&Aアドバイザーが、案件をフルサポートいたします。料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。

無料相談をお受けしておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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3. 吸収合併前の勤続年数による退職金の違い

吸収合併前の勤続年数による退職金の違い

吸収合併前における会社での勤続年数による退職金の違いもあります。

吸収合併の際、以前の会社で勤続年数が新会社に引き継ぎにならずに清算されてしまい、退職金が減額されてしまったケースもありました。これは、消滅会社の就業規則に勤続年数の記載がなかったためとされています。

ただし、基本的に吸収合併の際における勤続年数の引き継ぎ条件は、所税法基本通達に退職手当に関する記載があり、吸収合併により勤続年数が清算されることはありません。

存続会社と消滅会社による違い

存続会社に関しては、吸収合併の際の労働条件は以前と変わらないのが基本です。一方、消滅会社に関しては、吸収合併後に労働条件が変更される可能性があります。労働条件が良くなるか悪くなるかは、吸収合併の際の各会社における財務状況によって変わってきます。

労働条件がどのように変わるにしても、労働者の同意なしでの変更はできません。

4. 吸収合併前の役職による退職金の違い

吸収合併前の役職による退職金の違い

吸収合併前の役職による退職金の違いがあり、役員と一般社員では退職金の支払い手続きが変わってきます。基本的には、消滅会社の就業規則における「従業員の定義」の条項に役員を含むかを記載されているかどうかによります。

一般社員

一般社員の場合の退職金に関しては、基本的に会社側と労働者側との条件の同意が必要です。吸収合併後に労働条件が新会社に引き継ぎになるのか、それとも清算されるのかを確認したのちに、署名捺印によって退職金の支払額が決定します。

役員

役員の退職金に関しては、新会社が消滅会社の役員に対して退職金を支給可能です。

役員退職金の支給は株主総会の決議事項であり、吸収合併を承認するための株主総会を開催した際に役員の退職金についての決議もあわせて行います。

消滅会社の役員が新会社でも役員に就任した場合でも、形式上は消滅会社の役員を退任するため、「役員退職金」とする形で支給できるのです。

退職慰労金の手続き

退職慰労金の手続きは、以下の3種類です。
 

  • 手続き①:消滅会社で支給する方法
  • 手続き②:消滅会社で決議し、存続会社で支給する方法
  • 手続き③:存続会社で決議し、存続会社で支給する方法

手続き①の「消滅会社で支給する方法」は、消滅会社の株主総会で決議して支給額を決定します。

手続き②の「消滅会社で決議し、存続会社で支給する方法」は、手続き①と同じく、消滅会社の株主総会で退職慰労金支給を決議して支給額を決定します。ここで決定した退職慰労金は「支払債務」となり、新会社に引き継ぎとなるでしょう。

手続き③の「存続会社で決議し、存続会社で支給する方法」は、吸収合併した後に、新会社の株主総会で退職慰労金の支給を決議して決定します。

退職慰労金の支給について吸収合併契約で定める必要性

退職慰労金の支給に関しては、基本的に吸収合併契約で定める必要はありません。しかし、退職慰労金の支給は消滅会社から資金が出ていくため、合併条件の元となった資産にマイナスが生じます。

そのため、不利益を被ることのないよう、役員への退職慰労金が吸収合併契約に記載されていない場合は、勝手に消滅会社から退職慰労金を支給できません。

消滅会社から退職慰労金を支給するとした決定は、後に問題とならないよう吸収合併契約に規定しておく必要があります。

退職慰労金に関する議案について

役員への退職慰労金の制度は、企業の判断に任されていますが、吸収合併契約に規定した場合は、別議案にして退職慰労金の支給を株主総会で決議する必要があります。前もって議案を準備しましょう。

【関連】合併とはどのような手法?定義や吸収合併・買収との違い、メリット・デメリットを徹底解説| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

5. 吸収合併による退職金の相談先

吸収合併による退職金の相談先

吸収合併による退職金に関しては、専門家である弁護士に相談すると良いでしょう。M&Aのご相談は、ぜひM&A総合研究所へお任せください。

M&A総合研究所では、知識や経験の豊富なM&Aアドバイザーが、親身になって案件をフルサポートいたします。料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。

無料相談をお受けしておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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6. 吸収合併による退職金についてのまとめ

吸収合併による退職金についてのまとめ

吸収合併による退職金は、自分に直接関係する部分が大きいため、吸収合併の際に提示される労働条件を念入りに確認する必要があります。

条件を確認しないまま、曖昧な状態で署名捺印をしてしまうと、その後に労働条件の悪化に気づいても変更はほぼ不可能です。専門家に相談し、自身の財産が失われないよう注意しましょう。

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