2022年06月06日更新
垂直型M&A、水平型M&Aとは?違いやメリット・デメリットを解説
M&Aは手法による分類だけでなく、垂直型M&Aと水平型M&Aのように業態によって分水されることもあります。この記事では、垂直型M&Aと水平型M&Aとはどのようなものなのか、その違いや特徴、メリットやデメリットを解説します。
目次
1. 垂直型M&Aと水平型M&A
M&Aは手法による分類だけでなく、業態によって分類することもでき、「垂直型M&A」と「水平型M&A」はそのなかの2つです。
当記事では、垂直型M&A・水平型M&Aとはどのようなものなのか、特徴やメリット・デメリットなどを解説します。また、「新規型M&A」「コングロマリット型M&A」についても説明します。
垂直型M&Aとは
垂直型M&Aとは、企業の様々なサービスにおいて、会社の主力事業の強化や統合を図る狙いのもと、異業種である企業を垂直的に統合するM&Aを指します。
消費者の立場からみて、より近い企業が行う買収を川下への垂直型M&A、反対により遠い企業が買収を行うことを川上への垂直型M&Aとも呼びます。
ここ近年では、垂直的な企業の統合によって製造から販売まで一貫して行うことが出来るようになった結果、プライベートブランドの開発なども盛んに進んでいます。
水平型M&Aとは
水平型M&Aとは、売り手企業と買い手企業の業種や業態の同じであるM&Aを指し、主にシナジー効果を見込んで行われます。
同一製品やサービスを提携する企業同士が統合することによって市場規模の拡大を図り、規模の経済の恩恵を受けることができます。最近では、水平型M&Aを実施する企業も増加しています。
2. 垂直型M&Aと水平型M&Aの違い
この章では、垂直型M&Aと水平型M&Aの違いについて解説していきます。垂直型M&Aと水平型M&Aは、用いられる目的や期待される効果が異なるので、それらの違いをみていきましょう。
垂直型M&Aの目的と期待される効果
垂直型M&Aは、事業の多角化を図ることを目的に実施されるM&Aです。既存事業に関連する事業をM&Aによって獲得し、技術やノウハウ・人材の確保などさまざまな利点があることが垂直型M&Aの魅力です。
【垂直型M&Aによって期待される効果】
- バリューチェーンの強化
- 有能な人材の確保
- 技術の確保
バリューチェーンとは
バリューチェーンとは、「価値の連鎖」を意味し、さまざまな企業同士の活動が連鎖しているなか、最終的にどのような付加価値を生んでいるのかを分析することをバリューチェーン分析といいます。
バリューチェーン分析を行うことで、事業や製造・販売コストの最適化などさまざまなメリットを受けることができます。
水平型M&Aの目的と期待される効果
水平型M&Aは、本業のシナジー効果を図ることを第一の目的としています。ここでいう本業のシナジー効果とは、事業の規模とマーケットエリアの拡大を行うことです。
同業種の買収により規模の拡大ができれば、販売する商品・原材料の仕入れが低コストになるため販売コストや製造コストの合理化を図ることが可能です。
【水平型M&Aによって期待される効果】
- 新規市場の獲得
- 販売、製造コストの合理化
垂直型M&Aと水平型M&Aの主な違い
垂直型M&Aと水平型M&Aは以下のように区分することができ、経営戦略や目的に応じてM&Aの手法も変化します。そのため、しっかりと違いを理解しておくことが大切です。
【垂直型M&Aと水平型M&Aの違い】
- 垂直型M&A:業態の違う企業同士で行うM&A(事業の強化)
- 水平型M&A:同業種や業態の企業同士で行うM&A(市場の拡大)
3. 垂直型M&Aと水平型M&Aのメリット・デメリット
この章では、垂直型M&Aと水平型M&Aのメリット・デメリットについて解説します。どのようなM&Aを選んでも、メリットだけでなくデメリットが存在するのは当然のことですが、それらを正しく理解しておくことが大切です。
垂直型M&Aのメリット・デメリット
まずは、事業の多角化を図る事を目的とした垂直型M&Aのメリット・デメリットを解説します。
メリット
垂直型M&Aのメリットには、主に以下の2つがあります。
【垂直型M&Aのメリット】
- 新規事業への進出ができる
- コスト削減や市場支配力の確保が出来る
垂直型M&Aの1つ目のメリットは、新規事業への進出ができることです。例えば、製造のみを行っていたアパレル企業が、デザイン会社や販売会社と統合することで製造販売事業への新規参入が可能になります。
2つ目のメリットは、市場支配力の確保ができることです。一貫したルートの供給が出来るようになるため、取引コストを下げ、安定供給が可能になります。
それだけでなく、供給元を抑えることによる川下市場への影響力確保など、市場支配力の確保ができることも大きなメリットです。
デメリット
垂直型M&Aのデメリットには、主に以下の3つがあります。
【垂直型M&Aのデメリット】
- 通常よりも取引コストがかかる可能性がある
- 企業規模拡大に伴うガバナンスの問題
- M&Aに伴う法的なコストがかかる
1つ目のデメリットは、通常よりも取引コストがかかる可能性がある点です。自前調達よりも市場調達のほうが調達コストを削減できる可能性があるため、常にマーケットの把握をしておく必要があります。
2つ目のデメリットは、企業規模拡大に伴うガバナンスの問題 です。ガバナンスとは「統治」の意味をなすよう言葉であり、規模拡大に当たってさまざまな問題が発生することをいい、問題に対応する準備が必要になります。
3つ目のデメリットは、M&Aに伴う法的なコストがかかる点です。M&A自体にかかる費用のほかに法的なコストも必要になるため、資金の準備をしっかり行っておくことも重要です。
水平型M&Aのメリット・デメリット
次に、水平型M&Aのメリット・デメリットについて解説します。
メリット
水平型M&Aのメリットには、主に以下の2つがあります。
【水平型M&Aのメリット】
- 既存事業の強化(市場規模の拡大)
- 技術獲得にかかる年数の短縮
水平型M&Aの1つ目のメリットは、既存事業の強化(市場規模の拡大)です。水平型M&Aでは、同じ業種・業態の企業と統合を行うため、既存事業を強化できるというシナジー効果を見込むことができます。
2つ目のメリットは、技術獲得にかかる年数の短縮を図ることができることです。同じ業種・業態の企業と統合することにより、合併先の企業が年数をかけて積み上げてきた技術やノウハウを効率的に取り込むことができます。
デメリット
水平型M&Aのデメリットには、主に以下の2つがあります。
【水平型M&Aのデメリット】
- 想定していたシナジー効果が生まれないリスク
- 優秀な人材の流出リスク
1つ目のデメリットは、想定していたシナジー効果が生まれないリスクがあるという点です。十分な調査のうえでM&Aを行いますが、統合した企業同士が上手く噛み合わず想定程の効果や利益が生まれない可能性もあります。
2つ目のデメリットは、優秀な人材の流出リスクの可能性がある点です。お互いの会社の従業員やスタッフが上手くなじめない、そもそもM&Aに納得できていないなどの理由により、優秀な人材が流出してしまう可能性があります。
優秀な人材が流出してしまっては想定していたシナジー効果が得られないことも考えられるため、M&Aを行う前から対応策を練ることが重要です。
4. 垂直型M&Aと水平型M&Aの比較表
以下の表は、ここまで解説した垂直型M&Aと水平型M&Aを比較表にまとめたものです。同じM&Aという括りでも、目的や得たい効果によって最適な手法は変わります。まずは、それぞれの仕組みや特徴などをしっかり理解することが大切です。
垂直型M&A | 水平型M&A | |
目的 | 事業の多角化 | 市場の規模拡大 |
効果 | バリューチェーンの強化 | 同業種間でのシナジー効果 |
メリット | 新規事業の獲得を行うことが出来る 市場支配力の確保 |
既存事業の拡大が出来る ノウハウや人材の獲得ができる |
デメリット | 規模拡大によるガバナンスの問題 手続きや法的コストの増大の問題 |
期待していたシナジー効果を得られないケースがある 優秀な人材が放出してしまう可能性がある |
5. 垂直型M&Aと水平型M&Aを成功させるポイント
水平型M&Aと水平型M&Aを成功させるためには、どのような点を意識して行えばよいのでしょうか。この章では、M&Aを成功させるための4つのポイントを紹介します。
【M&A成功のポイント】
- 目的や効果、特徴などを理解する
- スキームを考える
- 統合プロセスを考える
- M&Aの専門家に相談を行う
1.目的や効果、特徴などを理解する
1つ目のポイントは、目的・効果・特徴を理解することです。M&Aは、あくまでも経営戦略の手段のひとつです。
M&Aを行うこと自体が目的ではないため、どのような効果を得ることができるのか、なにを目的としてM&Aを行うのか、などを明瞭に決めることが最優先です。
目的や効果が明確でないのにM&Aを行ってしまっては、統合後の経営戦略や事業計画などがぼやけてしまいます。
まずは目的や効果を考えたうえで、細分化しているM&Aのそれぞれの特徴を理解し、どのようにM&Aを進めていくのかを決めることが重要です。
2.スキームを考える
目的や効果が明確になった後に重要になるのが、スキームを考えることです。M&Aスキームには、さまざまな選択肢があります。
垂直型M&Aを実施するのか、水平型M&Aを実施するのか、またはコングロマリット型M&Aや新規型M&Aなのかを決定したら、株式譲渡・事業譲渡など具体的なスキームの検討をします。
スキームを決定する際は、各メリット・デメリットを考慮する必要があるため、効果が最大限となるよう専門家の助言を得て検討しておくとよいでしょう。
3.統合プロセスを考える
スキームが明確に決まった後は、統合プロセスを考える必要があります。M&Aはクロージングを行い、成約、統合したら終わり、というわけではありません。
そこから大事になるのは統合後の経営戦略です。統合後に目指す企業の姿、経営目標、従業員のケアの方法など様々な会社にとっての重要事項を考える必要があります。
時間とコストを莫大にかけるM&Aだからこそ、念入りな計画と準備が成功のポイントになります。
4.M&Aの専門家に相談を行う
スキームや統合プロセスを考えるためには専門的な知識も必要になるため、まずはM&Aの専門家に相談を行うことも重要なポイントのひとつです。
M&Aは、その後の企業の命運を分けるうえ、時間やコストもかかります。詳細な分析や手続きも行わなければならないため、自社のみで成功させるのは難しいでしょう。
自社で独自にM&Aを行うよりも、プロである専門家に相談・依頼を行うことで、スムーズで効率的なM&Aが可能になり、成功する確率も高くなります。
6. 垂直型M&Aと水平型M&A以外のM&Aとは
ここでは、垂直型M&A・水平型M&A以外のM&Aについて、以下の2つを紹介します。
- 新規型M&A
- コングロマリット型M&A
新規型M&Aについて
新規型M&Aは事業の多角化を目的としたM&Aであり、既存事業とは関係のない事業を新規で獲得します。
具体的には、資本は余っているのに本業では投資するところがあまりないような状態で、かつ更なる売り上げの向上のためにM&Aを行うケースなどがあります。
M&Aの結果として、本業とのシナジー効果を得られるメリットもありますが、未知の分野でもあるため目利きが効きづらく高値掴みをしてしまうようなケースもあるので、しっかり分析を行ってから行動に移す必要があります。
コングロマリット型M&Aについて
「コングロマリット」とは、自社が直接関係していない、もしくは保有していない未関係の事業の取得のことを指し「多種類の事業を行う複合企業」を指します。
つまり、コングロマリット型M&Aとは、新規参入を目的として異業種企業の買収・M&Aを行うことです。
コングロマリット型M&Aは、迅速な事業の多角化を図れるメリットがありますが、反対に異業種との統合になるため、コーポレートガバナンスを強化行わなければ経営基盤が揺らいでしまう事態に陥りかねないというデメリットも併せ持っています。
7. 垂直型M&Aと水平型M&Aの事例
ここからは、垂直型M&A・水平型M&Aの事例を紹介します。実際の事例を知ることにより、垂直型M&Aと水平型M&Aの成功させるためのヒントを得ることもできます。
垂直型M&Aの事例
まずは、垂直型M&Aの2つの事例について、行われた目的とその成果について紹介します。
【垂直型M&Aの事例】
- アップルによる垂直型M&A
- 神戸物産による垂直型M&A
①アップルによる垂直型M&A
アップル社はi phoneやi padなどを販売している世界的な企業です。アップル社の大躍進の背景には、数多くの垂直型M&Aによるバリューチェーンの統合があります。
アップル社は垂直型M&Aを繰り返すことによる高度な技術の獲得を目的とし、M&Aを行いました。
これにより、アップル社では全ての製品において自社製造・管理が出来るシステムを採用することができています。
買収先企業 | PrimeSense社(イスラエル) |
買収先事業 | 3Dモーションセンサー事業 |
買収金額 | 約3億4500万円 |
目的 | 技術の獲得 |
買収先企業 | Beats Music社 |
買収先事業 | 会員制ストリーミングミュージックサービス |
買収金額 | 約30億ドル(BeatsElestronic社との合計) |
目的 | 技術の獲得 |
買収先企業 | BeatsElestronis社 |
買収先事業 | Beatsヘッドフォンやスピーカー製造 |
買収金額 | 約30億ドル(Beats Music社との合計) |
目的 | 技術の獲得 |
②神戸物産による垂直型M&A
業務用スーパー等の展開を行っている神戸物産の垂直型M&Aの事例です。神戸物産はレストラン経営を主とする海外子会社を保有しています。
垂直型M&Aを行ことにより生産ラインの充実+シナジー効果を図ることを目的とし、海外子会社を通じてM&Aを行いました。
買収先企業 | WIZ JOINT PTE(シンガポール):子会社化 |
買収先事業 | 鉄板焼レストラン |
買収額 | 非公表 |
目的 | 生産ラインの充実とシナジー効果取得 |
水平型M&Aの事例
次は、水平型M&Aの事例です。垂直型M&Aと同様、M&Aを行った目的やその成果について紹介します。
【水平型M&Aの事例】
- ファミリーマートによる水平型M&A
- ビックカメラによる水平型M&A
①ファミリーマートによる水平型M&A
コンビニエンス事業を展開するファミリーマートは同じくコンビニエンス事業を営むサークルKサンクスとの水平型M&Aを行いました。
ファミリーマートは特に関東圏での拠点数の多いサークルKサンクスを統合することで大量生産・大量発注を行うことでのコスト削減および商品の統合を目的にM&Aを行いました。
買収先企業 | サークルKサンクス |
買収先事業 | コンビニエンスストア事業 |
買収額 | 非公表 |
目的 | 商品の統合・コスト削減 |
②ビックカメラによる水平型M&A
家電量販店を展開するビックカメラは同じく家電量販店事業を営むコジマと水平型M&Aを行いました。
同業種同士の統合による販路の拡大だけでなく、不採算店舗の閉店なども実行することによって利益の拡大を図ることを目的とし、統合を行いました。
買収先企業 | コジマ |
買収先事業 | 家電量販店事業 |
買収額 | 非公表 |
目的 | 事業規模拡大+シナジー効果による連結売上高の向上 |
8. 垂直型M&Aと水平型M&Aの相談におすすめの仲介会社
垂直型M&A、水平型M&AのどちらのM&Aを行う際にも、自社の力だけで行おうとするのではなく、M&Aの専門家に相談し実行するのがおすすめです。
垂直型M&A、水平型M&Aの専門家への相談を検討された場合にはM&A総合研究所にご相談ください。
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9. まとめ
今回は、垂直型M&Aと水平型M&Aについて、事例を交えて解説しました。多様化しているM&Aを成功させるためには仕組みや特徴を理解しておくことが大切です。
実際にM&Aを進める際はさまざまな知識や見解が必要となるため、M&Aの専門家に依頼し、相談をしながら成功へのプロセスを踏んでいくのがおすすめです。
【M&Aの分類と特徴】
- 垂直型M&A:一連のサービス構築のため業態の違う企業間で行うM&A(事業強化)
- 水平型M&A:同じ業種・業態の企業間で行うM&A(市場の拡大)
- 新規型M&A:既存の事業とは関係のない新規の事業間で行うM&A(事業の多角化)
- コングロマリット型M&A:新規参入を目的として異業種企業間で行うM&A(事業強化)
【垂直型・水平型M&Aの成功のポイント】
- 目的や効果、特徴をなど理解する
- スキームを考える
- 統合プロセスを考える
- M&Aの専門家に相談を行う
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