2022年06月06日更新
特別目的会社(SPC)とは?スキームの手順やメリット・リスクを解説!
特別目的会社(SPC)が起こした世界的問題に、低所得者向けの住宅融資「サブプライムローン」があります。その背景はM&A実務への応用ができるなど、メリットの享受を目的としていました。特別目的会社(SPC)のスキームの手順、メリットやリスクを解説します。
目次
1. 特別目的会社(SPC)とは
特別目的会社(SPC)とは、不動産や債券の流動化や証券化など、限定された目的だけに使用される会社のことを意味しています。
また、特別目的会社(SPC)は、M&Aにおいて対象会社を買収する目的で設立する場合もあります。
「会社」と名付けられてはいますが、会社法上の会社とは異なるため、管轄の省庁が財務局になるなど、通常の会社との違いが見られます。
SPC法の施行について
1998年9月に施行されたSPC法(資産の流動化に関する法律)が、日本の不動産証券化の本格的な始まりです。
それ以前は、不動産特定共同事業法に基づいた「不動産小口化商品」がありましたが、証券化として不十分であり、バブル崩壊後の金融機関における不良債権問題が注目を集めました。
地価下落が続き、担保不動産をどのように素早く処分して債権回収を進めるか課題となったとき、外資系ファンドが欧米で一般的であった証券化手法を使って、不動産担保債権を安く買うケースが目立ちました。
そこで日本でも不良債権処理促進のため、担保付債券や担保不動産の証券化を使って処理するために、SPC法が施行されています。
SPV・SPEとの違い
特別目的会社(SPC)を英語表記にすると「Special Purpose Company(SPC)」「Special Purpose Entity(SPE)」「Special Purpose Vehicle(SPV)」などさまざまです。
そのうち、SPVとSPEは特別目的事業体と呼ばれており、法人格のあるものはペーパーカンパニーの一種とみなされることがあります。
また、法人格を有するものは、特別目的会社(SPC)と呼ばれています。それぞれの意味は基本的に同じですが、説明的な部分では呼び方に違いが生じます。
特定目的会社との関係性
特定目的会社(TMK)とは、特別目的事業体(SPV)の1つで、資産の流動化に関する法律(SPC法)に基づく特別目的会社の場合に呼びます。
内閣総理大臣への届け出をした資産流動化計画に関する業務のみを行い、優先出資社員(一般の株主)と特定社員(発起人にあたる株主)で構成されています。
2. 特別目的会社(SPC)の目的と役割
特別目的会社(SPC)は債権の発行や資金調達、さらには投資家への利益配分などさまざまな使い方ができ、経営戦略において有効的な手段となります。
そこで、特定目的会社の目的を具体化し、役割やM&Aにおける活用方法に焦点を当てて解説します。
特別目的会社(SPC)の目的
特別目的会社(SPC)は基本的に投資家と原債権者をつなぐ役割に特化した会社で、日本のみならず世界各国でも利用されています。
特別目的会社(SPC)は不動産会社が増資することによるデメリットを避けるために活用されます。不動産会社は自社で多くの物件を抱え込んでしまうと「貸借対照表の負債比率が増加」するため、事業拡大に限界が訪れてしまいます。
その場合、不動産会社自体が第三者からの出資を受ける「資本の増強」を行い、負債比率を低下させます。
しかし、第三者からの出資を受けることで、新株発行による1株当たりの価値が希薄化されるので、既存株主の持ち株比率は下がります。このようなデメリットの回避も、特別目的会社(SPC)を設立する理由です。
特別目的会社(SPC)の役割
特別目的会社(SPC)には倒産の概念が存在しておらず、いうなれば会社が持つ資産を移し替えるための単なる「箱」に過ぎないとの考えから、意思決定を下す組織ではありません。
M&Aでの活用
特別目的会社(SPC)をM&A実務に用いる場合、SPCを買収主体として金融会社から借入を行い、対象会社を多額の借入と少ない資本を原資として買収する「LBO(レバレッジド・バイアウト)」を利用します。買収後においては、対象会社とSPCを合併することも多いです。
3. 特別目的会社(SPC)の主なスキーム
特別目的会社(SPC)を使う不動産証券化を使った代表的なスキームには、以下の2つがあります。
- GK-TKスキーム
- TMKスキーム
①GK-TKスキーム
GK-TKスキームは、ビーグル(SPC)として主に合同会社を使い、不動産を実物不動産としてではなく、不動産信託受託権の形で不動産所有者から購入します。
GK-TKの意味
GK-TKとは、合同会社「GK=Godo Kaisya」、匿名組合「TK=Tokumei kumiai」を組み合わせた投資ストラクチャーを意味しています。
出資した事業からの分配には課税されないので、インフラプロジェクトや日本の電力会社に、海外投資家などが出資の際に活用することが多いスキームです。
②TMKスキーム
TMKスキームとは、売り主である不動産所有者が、資産(保有不動産)を用いて売却することで資金調達するための仕組みとして考案されたスキームです。
TMKの意味
特定目的会社(TMK)と特別目的会社(SPC)との関係性で述べたとおり、資産の流動化に関する法律(SPC法)に基づく特別目的会社を意味しています。
重要な機能としては、証券化の対象資産を独立させることで、投資家への二重課税を回避するまたは責任を資産価値の範囲内に限定することが挙げられます。
4. 特別目的会社(SPC)の主なスキーム手順
特別目的会社(SPC)を設立した場合、それを用いた「GK-TKスキーム」「TMKスキーム」の手段は複雑なスキームとなるため、それぞれの手順を具体的に把握しておかなければなりません。
GK-TKスキームの手順
GK-TKスキームでは、投資家を媒介する機能を持つ合同会社と不動産資産の利益を用います。そして、それぞれの投資家が匿名組合員になり、合同組合との匿名組合契約を締結します。
匿名組合員となった投資家は、この匿名組合契約を基に匿名組合事業に出資を行い、匿名組合出資持分を出資金額に応じて保有します。
TMKスキームの手順
TMKスキームは、流動資産化法に基づき特定目的会社(TMK)を設立します。その後、金融機関からの特定社債または特定借入と、投資家からの優先出資を行います。
これらの資金から、不動産信託受益権あるいは現物不動産を取得して運用します。
5. 特別目的会社(SPC)のメリットとリスク
特別目的会社(SPC)は日本のみならず、世界各国で利用される手法です。しかし、当然メリットがある反面、リスクも存在しています。
そこで、上述の特別目的会社の役割と目的から生じるメリットを挙げ、利用する際のスキームに焦点を当ててリスクを解説します。
特別目的会社(SPC)のメリット
特別目的会社(SPC)のメリットには、以下の2つが挙げられます。
- 多くの投資家からの資金調達が可能
- 倒産隔離が可能
多くの投資家からの資金調達が可能
特別目的会社(SPC)は少ない資金で不動産投資を始めたい方、複雑な物件を対象に分散投資を実施したいという方に適した投資手法です。
不動産の証券化により、不動産など大口の保有資産を小口の有価証券に変えることで、投資商品の購入が容易になります。この仕組みを生かした商品であれば、多くの投資家からの資金調達が可能です。
倒産隔離が可能
企業とは隔離された会社である特別目的会社(SPC)が保有する不動産という形態となるため、倒産隔離という観点からメリットがあります。
したがって、特別目的会社は不動産に限らず、投資設備・売掛金・債券など、いずれも特別目的会社が保有している場合は、本社に問題が生じた場合もその影響から守ることができます。
特別目的会社(SPC)のリスク
特別目的会社(SPC)のリスクには、以下の2つが挙げられます。
- 複雑な仕組みでコストがかかる
- 査定にコストがかかる
複雑な仕組みでコストがかかる
特別目的会社(SPC)を設立する最大のデメリットが「複雑な仕組みでコストがかかる」ということです。
なぜなら、特別目的会社(SPC)を導入した関係者の多岐に渡るスキームによって、非常に複雑な仕組みとなり、それに応じてコストもかかるからです。
査定にコストがかかる
もう1つのリスクは「査定にコストがかる」ことです。なぜなら、特別目的会社(SPC)にかかる不動産物件の査定にも建築事務所や鑑定会社などのコストがかかるからです。
特別目的会社(SPC)の相談は専門家へ
特別目的会社(SPC)の導入においては、複雑な仕組みから信託銀行・債券回収会社・弁護士事務所・会計事務所などが、さまざまな局面で絡んできます。
これらのコストに加えて査定にも費用がかかるため、コストを抑えるための対策を立てなければなりません。
M&A総合研究所は完全成功報酬制(※譲渡企業様のみ)となっており、着手金は完全無料です。相談は無料ですので、特別目的会社(SPC)によるM&Aをお考えの際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
6. 特別目的会社(SPC)が起こした世界的問題
特別目的会社(SPC)にはさまざまな形で証券化を行いますが、アメリカでは融資の借用書などが特別目的会社に移され、証券化されていました。その中には低所得者向けの住宅融資「サブプライムローン」も含まれています。
資金調達手段としては有効な特別目的会社ですが、このサブプライムローンにおける世界的な問題が発生してしまいます。当時、銀行などの金融機関は特別目的会社(SPC)を数多く設立し、大量のサブプライムローンを元手にした証券を世界中の投資家へと販売しました。
ところが、このサブプライムローンが大量に焦げ付き、続々と炎上する事態となったのです。この事態が証券会社や銀行本体に影響を与え、世界的な金融危機という大惨事へと発展してしまいました。
7. 特別目的会社(SPC)が使われた有名事例
特別目的会社(SPC)が使われた有名事例として、ホテルオークラの立て替えや六本木ヒルズの建設、歌舞伎座の立て替えなどがあります。
この事例には、バブル崩壊により冷え込んだ不動産市場を再び活性化しようという意図がありました。
当初、開発事業へ活発に取り組むメリットが2つあり、1つ目は、出資する側と資産を譲渡する側双方において特別目的会社 (SPC)が連結対象外とされたことです。
2つ目のメリットは、資産を譲渡する側は住宅ローンのリスク範囲が限定されるというものです。特別目的会社(SPC)が不動産開発で借り入れを行う際は「ノンスリローン」が適用され、借入返済は事業の収益に限定できた点が挙げられます。
8. 特別目的会社(SPC)の設立に関するルール
特別目的会社(SPC)は、特定目的会社による特定資産の流動化に関するSPC法の規定に基づいています。
この法律では、適正な価格で譲り受けた資産から発生する収益を、当該特別目的会社が発行する証券の保有者に享受させることを目的とし、その目的に従い適正に遂行されると容認されることが必要だとされています。
9. 特別目的会社(SPC)の設立の主な流れ
特定目的会社(SPC)の設立の主な流れは以下のとおりです。
- 特別目的会社(SPC)設立の相談
- 特別目的会社(SPC)設立のための必要書類を用意
- 代表者の印鑑などを準備
- 定款の作成・認証
- 資金の準備
- 各種書面の作成
- 登記申請・完了
①特別目的会社(SPC)設立の相談
会計・税務業務においては会計事務所・税理士に外部委託します。設立では、司法書士事務所に依頼することで、設立手続きがサポートされます。
依頼した場合は、特定目的会社の発起人(特定社員)・機関を構成する人(取締役)、資産流動化計画の概要を相談することで、詳細な手続きに移ります。
②特別目的会社(SPC)設立のための必要書類を用意
手続きにおいては、特別目的会社(SPC)設立のための必要書類(発起人および取締役人の印鑑証明書)を用意します。
この時点で、設立する特別目的会社の名称が法的な問題に触れないかという点を調査すべきなのか決定します。
③代表者の印鑑などを準備
設立する特別目的会社の名称が確定した場合、相談者の方で代表者の印鑑を準備します。代表者の印鑑は、会社設立後の会社の実印にあたるものになります。
④定款の作成・認証
次に、相談先の事務所で定款の作成をし、発起人全員の実印を押印します。
押印後は事務所側で公証役場に出向き、作成した定款を公証人(法務局または地方法務局に所属する公務員)の認証を受けます。
⑤資金の準備
定款の認証後は資金の準備が必要となりますが、これは金融機関に特定資本金を預け入れ、特定目的会社設立のための出資金が支払われたことを証明する「払込金保管証明書」を発行する場合に必要です。
一般的には、金融機関へ払込金保管証明書の発行申し込みをしてから発行までは、数日~1週間程度の期間がかかります。
⑥各種書面の作成
払込金保管証明書の発行と同時に、各種書面の作成を行います。各種書面では発起人および役員の印鑑を押印し、作成した書面を法務局へと登記申請手続きに入ります。
なお、登記を申請した日は特別目的会社(SPC)の設立日です。
⑦登記申請・完了
登記申請から登記が完了するまでは、法務局の事務処理期間として数日~2週間程度かかります。
登記完了後は、「登記事項証明書」「代表者印の印鑑証明書」「代表者印の印鑑カード」を受取ります。
10. 特別目的会社(SPC)設立に必要な物
特別目的会社(SPC)設立に必要な物は以下のとおりです。
- 資本金
- 内閣総理大臣への届け出
- 登録免許税
- 定款印紙
- 取締役1名・監査役1名
- 会計監査法人(不要の場合もある)
①資本金
特別目的会社(SPC) は、物件を買い取るために資金を自社の出資金に加えて、「第三者からの出資金+銀行からの借り入れ」から調達します。
②内閣総理大臣への届け出
特別目的会社をSPC法に基づいて設立する場合は、業務開始届出書を内閣総理大臣に提出する必要があります。業務開始届出書に記載する事項は以下のとおりです。
- 商号
- 営業所の名称および所在地
- 取締役および監査役の氏名および住所
- 会計参与設置会社であるときは、その旨並びに会計参与の氏名または名称および住所
- 主要な特定社員の氏名または名称および住所
- 資産流動化計画についてすべての特定社員の承認があった年月日
- 当該取締役および監査役の氏名並びに当該他の法人の名称および業務の種類または当該事業の種類(取締役および監査役が他の法人の常務に従事、または営業を営んでいる)
③登録免許税
特別目的会社(SPC)の設立にあたり、登記申請を行う場所によって登録免許税が異なります。
本店の所在地で行う登記の場合、税率1件につき3万円です。また、支店の所在地で行う登記は1件につき6,000円となります。
④定款印紙
会社法に基づいた特別目的会社の設立においては、定款印紙が4万円、電子定款の場合は不要です。また合同会社であれば、定款認証の要否も不要になります。
しかし、SPC法に基づいて特別目的会社を設立する場合は、定款印紙が必要です。
⑤取締役1名・監査役1名
特別目的会社(SPC)は、社員総会から取締役1名・監査役1名を設置しなければなりません(資産の流動化に関する法律第67条第1項第1号、第2号)。
⑥会計監査法人(不要の場合もある)
資産対応証券として特定社債のみを発行する特別目的会社であり、200億円以上の総額(特定社債の発行額と特定目的借入額)の場合は、会計監査法人を設置する必要があります。ただし、内容からわかるとおり、設置不要の場合もあります。
11. まとめ
特別目的会社(SPC)を用いるメリットは、少ない資金で投資を行うことができることや、倒産隔離が可能であることなどが挙げられました。
しかし、リスク回避のためにも、特別目的会社(SPC)を用いる際は、主なスキームまで理解しておく必要があります。
【特別目的会社のメリット】
- 多くの投資家からの資金調達が可能
- 倒産隔離が可能
【特別目的会社のリスク】
- 複雑な仕組みでコストがかかる
- 査定にコストがかかる
特別目的会社を使う場合に必要なスキームは以下のとおりです。
- GK-TKスキーム
- TMKスキーム
特別目的会社(SPC)をM&A実務に用いる場合は、SPCを買収主体として金融会社から借入を行い、対象会社を多額の借入と少ない資本で行うことができます。
しかし、複雑な仕組みからコストがかかるため、専門家のサポートは必須といえるでしょう。
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