2022年06月06日更新
買収・M&Aスキーム(手法)とは?種類や特徴、手続き、税務・法務も解説【事例10選】
買収・M&Aのスキームはさまざまな種類があり、似ているようでそれぞれ異なった特徴があるため注意が必要です。本記事では、買収・M&Aのスキームについて事例10選を交えながら、その種類や特徴などについて詳しく解説します。
1. 買収・M&Aスキームとは
企業は、経営戦略の一環として会社や事業を買収することがあります。では、そもそも買収・M&Aとは、どのような行為をさすのでしょうか。買収・M&Aをあらためて理解できるように、買収・M&Aの概要とスキームの意味について解説します。
買収・M&Aとは
買収・M&Aとは、対象企業の事業や権利義務、株式=会社そのものを買い取ることです。買収の対価には、現金や自社の株式、社債などが用いられます。買収を行う目的は、シナジーの獲得やシェア・事業の拡大、コストの削減などです。
買収により必要な資産・権利などが得られるため、自社単独で新規事業を始めたり投資を行ったりする必要がありません。また、経営方針の変更や業績の悪化に応じた組織再編でも、買収・M&Aが活用されています。
不要な事業を切り離し、事業の選択と集中を行うことで企業の存続を図るのです。さらに、後継者不足に悩む中小企業も、買収・M&Aを利用することで雇用や取引先の契約を維持しているといえるでしょう。
スキームとは
スキームとは、買収・M&Aで使われる手法です。取得する対象や目的、対価、税務、対象会社との関係性などから、買収・M&Aの手法を選びます。自社に見合ったスキームを選ぶことで、希望に沿った取り引きを行えるでしょう。
一例として以下のような希望に対応するスキームを掲示します。
- M&Aの対価には自社の株式を使いたい:株式交換、会社分割、合併など
- 必要な権利義務のみを引き継ぎたい:事業譲渡
- 取り引きに伴う税金を抑えたい:会社分割、合併など(ただし要件を満たす必要あり)
- 関係の強化を図りたい:第三者割当増資、資本提携
1つの目的に対し複数のスキームが候補となることもあり、買収・M&Aのスキーム選びは十分に検討する必要があります。
2. 買収・M&Aスキームの種類一覧表
買収・M&Aのスキームは、次のような種類に分けられます。では、各スキームは具体的にどのような手法なのでしょうか。買収とM&Aごとにスキームの概要を解説します。
買収・M&Aスキームの種類 | ||
株式取得 | 株式譲渡 | |
株式交換 | ||
株式移転 | ||
第三者割当増資(新株引受) | ||
会社分割 | 吸収分割 | |
新設分割 | ||
事業譲渡 | 事業譲渡 | |
合併 | 吸収合併 | |
新設合併 | ||
資本提携 | 資本提携・資本業務提携 |
買収スキーム
買収のスキームには、承継の内容や用いられる対価、承継の目的などによって3つの種類に分けられます。
- 株式取得
- 事業譲渡
- 会社分割
①株式取得
1つ目に紹介する買収スキームの種類は、株式取得です。株式取得に分類される手法では、取引の対価に現金または発行済み株式や新株などを用いて、対象企業の獲得・親子関係の構築・増資などを図ります。株式取得に分けられるスキームは、以下の4つです。
- 株式譲渡
- 株式交換
- 株式移転
- 第三者割当増資(新株引受)
株式譲渡
株式譲渡は、株式取得のカテゴリーに分類されるスキームです。対象企業の株主から株式を取得し、現金で対価を支払うことで買収を完了させます。株主の構成が変わりますが、外面的な変化は見られません。
権利義務が丸ごと引き継がれるため、子会社を切り離すケースではよく利用されているスキームです。
株式交換
株式交換では、親会社となる会社に株式を譲り渡し、その対価に親会社の株式が交付されます。完全親会社と完全子会社の関係をつくる場合にのみ実施されるスキームです。
現在は、対価の柔軟化によって株式交換の対価には自社の株式に加え、金銭・社債・新株予約権・新株予約権付社債などを利用できるようになりました。
株式移転
株式移転は、株式交換と類似していますが、複数の会社が新設会社の子会社になるケースで用いられるスキームです。新設会社が既存会社の株式を取得し、既存会社の株主が対価として新設会社の株式を取得します。具体例としては、ホールディングス体制の構築です
株式移転のスキームで利用できる対価は株式交換とは違って、自社の株式・社債・新株予約権・新株予約権付社債と定められています。
第三者割当増資(新株引受)
第三者割当増資(新株引受)とは、新たに発行する株式を特定の第三者に引き受けてもらうスキームです。新株の引き受けに応じてもらうことで、増資や関係の強化、買収に対する防衛などを図ります。
②事業譲渡
2つ目に紹介する買収スキームの種類は、事業譲渡です。事業譲渡は、対象事業や資産を選別し、対価(現金)を支払う手法になります。譲渡の対象となるのは資産や負債、営業権、契約、従業員の雇用などです。
売り手は、不要な事業の切り離しや後継者不足の解消、従業員の雇用先確保などが目的になります。買い手は、営業権やノウハウ、従業員の獲得などを目的に、事業譲渡による買収を選択しているといえるでしょう。
③会社分割
3つ目に紹介する買収スキームの種類は、会社分割です。会社分割とは、事業部門を丸ごと他社に承継させる手法をさしています。会社分割のスキームは、以下の2つです。
- 吸収分割
- 新設分割
吸収分割
吸収分割とは、既存会社に事業部門を承継させるスキームです。対価には株式・現金などが用いられます。株式が対価として交付されると、売り手は経営への参加や発言力を高めることが可能です。
現金が対価に用いられた場合、分割会社は得られた資金を設備投資や債務返済などに充てられます。
新設分割
新設分割とは、新設する会社に事業部門を承継させるスキームです。対価には新設会社の株式のほか、社債や新株予約権、新株予約権付社債が利用できます。新設分割の狙いは、特定事業の分社化です。
経営の効率を高めたり意思決定の速度を早められたりするため、自社から特定の事業を切り離します。
合併スキーム
合併スキームとしては、以下の3種類があります。合併は複数の会社が1つに統合されますが、存続するのは1社のみ(存続会社)で、ほかの会社は消滅する(消滅会社)スキームです。
- 吸収合併
- 新設合併
- 三角合併
①吸収合併
吸収合併とは、消滅する会社の全てを既存の会社が承継するスキームです。合併によって消滅会社の法人格が消滅し、清算手続きを経ることなく解散します。合併のスキームでは吸収合併の利用が一般的です。
②新設合併
新設合併とは、合併する全ての会社が消滅し、新設する会社がその全てを承継するスキームです。吸収合併と同様に、解散する会社は清算の手続きを取ることなく解散に至ります。新設合併は手続き面で煩雑さがあり、あまり採用されることがありません。
③三角合併
三角合併とは、吸収合併で対価が特殊なケースです。三角合併では、存続会社の親会社の株式を対価として交付します。子会社が親会社の株式を取得することは禁じられていますが、組織再編を理由に必要な株式を交付する場合においては、株式の取得が認められているのです。
三角合併は、外国企業による日本企業の買収で利用価値があるといえ、日本国内に子会社を作り自社(親会社)の株式を対価として交付すれば買収が可能になります。
しかしながら、合併契約書などの承認には株主総会の特別決議を必要とするほか、合併契約書の締結には両社の取締役会での承認が必要です。したがって、必ずしも外国企業にとって有利なスキームとはいえません。
提携スキーム
提携とは、複数の企業が契約を締結し、事業などを協力し合う関係となることです。提携には以下の3種類がありますが、広義のM&Aとされる提携とそうではない提携に分かれます。
- 資本業務
- 業務提携
- 資本業務提携
①資本提携
資本提携とは、企業間においてお互いに株式を持ち合う、または一方がもう一方に出資する関係を取ることです。資本移動を伴うため、広義のM&Aとされています。買収スキームのように、経営権の獲得を意図しないため、過半数を超えるような出資は行われません。
あくまでも資本関係を持つことで関係性を強め、企業間の取引がより円滑に進むことを目的とします。
②業務提携
業務提携は、企業間において具体的な業務を協力して共同で行う取り決めです。資本提携と違って資本関係には変化がないため、広義のM&Aには含まれません。具体例としては、共同企画・共同開発・共同研究・共同販売などがあります。
③資本業務提携
資本提携と業務提携を同時に行うのが、資本業務提携です。資本の移動を伴うので広義のM&Aに含まれます。単に企業間で出資を行うだけでなく、共同事業を行うための合弁会社設立なども資本業務提携の1つです。
3. 買収・M&Aスキームの特徴を解説
買収とM&Aのスキームそれぞれの特徴やメリット・デメリット、税務、法務を解説します。
買収スキーム
買収のスキームは以下の3つです。各スキームの特徴を把握してスキームの違いを知りましょう。
- 株式取得
- 事業譲渡
- 会社分割
①株式取得
株式取得に分類されるスキームには以下の3つがあります(株式交換と株式移転の特徴などはほぼ同じであるため合わせて説明します)。それぞれの特徴を把握して、自社の買収スキームを決めましょう。
- 株式譲渡
- 株式交換・株式移転
- 第三者割当増資(新株引受)
株式譲渡
株式譲渡のスキームには、次のような特徴が見られます。
【スキームの特徴】
- 会社そのものを引き継ぐ
- 会社自体に変化はなく株主の構成が変わる
【メリット】
- 権利義務がそのまま承継される
- 手続きが簡便
- 株式を取得することで対象企業の経営権を掌握できる
- 売り手側は譲渡益を獲得できる
【デメリット】
- 簿外債務や不要な資産などを引き継いでしまう
- 対価には現金が必要
- 売り手側は売却する株式数によって経営権を失う
【税務】
- 個人株主の場合:株式の譲渡益に対し所得税が課せられる(20.315%※2021年11月現在)
- 法人株主の場合:株式の譲渡益はほかの所得と合算されて各種法人税が課せられる(実効税率約30~32%※法人の所在地や規模で税率が異なる※2021年11月現在)
【法務】
- 株式譲渡承認請求に対し取締役会または株主総会を開いて承認を得る
- 株式譲渡承認を通知する
- 株式譲渡契約を結ぶ
- 株主名義書換請求に応えて株主名義を書き換える
- 株主名簿記載事項証明書の請求に応えて証明書を交付する
株式交換・株式移転
株式交換・株式移転のスキームには、以下のような特徴が見られます。
【スキームの特徴】
- 対象企業の株式を全て買い取り自社と新会社の株式や現金を割り当てる
- スキームの実施により親子関係を形成する
【メリット】
- 完全子会社となる企業の資産・事業内容・企業を変更せずに済む
- 対価に株式を用いれば現金を用意する必要がない
- 少数株主を排除できる
- 許認可の手続きを必要としない
- 全ての株主から同意を得る必要がない(株式交換)
【デメリット】
- 負債や簿外債務などを引き継ぐ
- 非公開会社の株式が交付されると現金に換えにくい
- 新株の発行による株価の下落が想定される(買い手側)
- 買い手の業績により交付された株価が下落する(売り手側)
【税務/株式移転/適格株式移転】
- 税制適格と見なされると課税義務は生じない
【税務/株式移転/適格株式移転】
- 完全親会社となる企業は増えた資本金等の額に応じて法人地方税・事業税の課税額が増えることがある
- 完全子会社となる企業における一定の資産が時価評価されて含み損益が発生すると法人税の課税義務を負う
- 対価に金銭などが用いられると完全子会社となる企業の株主は譲渡益に対して課税義務を負う
【税務/株式交換/適格株式交換】
- 税制適格と見なされると課税義務は生じない(スクイーズアウトの場合は課税義務あり)
- 親会社となる企業では増えた資本金等の額に応じて法人地方税・事業税の課税額が増えることがある
【税務/株式交換/非適格株式交換】
- 親会社となる企業は増えた資本金等の額に応じて法人地方税・事業税の課税額が増えることがある
- 子会社となる企業における一定の資産が時価評価されて含み損益が発生すると法人税の課税義務を負う
- 対価に金銭などが用いられると子会社となる企業の株主には譲渡益に対する課税義務が生じる
【法務】
- 契約内容の決定
- 事前の書類備置
- 株主総会の特別決議を経る(簡易・略式組織再編を除く)
- 株主への通知と公告
- 株式・新株予約権の買取請求に対応
- 異議申し立てに関する公告と対応
- 事後の書類備置
第三者割当増資(新株引受)
第三者割当増資(新株引受)には、次のような特徴が見られます。
【スキームの特徴】
- 特定の第三者に新株を割り当てる
- 支配力を高める、資金を調達するために用いられる
【メリット】
- 現金(出資金)を獲得できる(増資側)
- 出資金は返済する必要がない(増資側)
- 資本力を高められ財務基盤が強化される(増資側)
- 引き受ける新株の数に応じて経営への影響力を高められる(引受側)
【デメリット】
- 持株比率の低下による不自由な経営(増資側)
- 資本金の増加により課税額が増える(増資側)
- 資本金の増加に伴い登記変更の手続きが必要になる(増資側)
- 発行株式の1/3以上を獲得しないと発言力を高められない(引受側)
【税務】
- 有利発行による増資では引受側の区分により贈与、所得、法人税が課せられる
- 資本金が1億を超えると軽減税率が適用されず法人税や事業税などが増加する
- 資本金が1,000万円、1億円、10億円、50億円を超えると法人住民税が増加する
- 資本金が1,000万円を超えると消費税の課税義務が生じる(設立から2年までの会社を除く)
【法務】
- 株主総会で募集内容を決める
- 募集の通知
- 株式の申し込みに対応
- 株式の割り当てを決める(株主総会の特別決議または、取締役会決議)
- 出資金を受け取る
- 登記の申請
②事業譲渡
事業譲渡のスキームには、以下のような特徴が見られます。
【スキームの特徴】
- 事業の一部や全てを他社に譲り渡す
- 承継する資産を選べる
【メリット】
- 承継する資産などを選べる
- 簿外債務などの承継を回避できる
- 節税効果がある
- 事業を存続させられる
- 資本の選択と集中が可能
- 法人格を残せる
【デメリット】
- 許認可の再取得を必要とする
- 従業員から個別に同意を得る
- 取り引きや雇用の契約を結び直す必要がある
- 特許や不動産の移転により登録や登記の手続きが必要
- 競業避止義務
【税務】
- 譲渡益が課税の対象となる(売り手)
- 承継する資産が課税資産に該当すると消費税を支払う(売り手)
- 不動産を承継すると不動産取得や登録免許税が課せられる(買い手)
【法務】
- 株主総会の特別決議を経る(特別決議が不要な場合を除く)
- 株主総会を開かない場合は株主へ事業譲渡の実施を通知する
- 財産の移転手続き
- 許認可の再取得
- 契約の再締結
- 従業員から個別に同意を得る
- 競業避止義務
- 株式買取請求者への対応
③会社分割
会社分割には、吸収分割と新設分割がありますが、基本的な特徴は共通です。異なるのは手続きになります。
吸収分割
吸収分割の特徴は以下のとおりです。
【スキームの特徴】
- 会社が所有する権利義務をほかの会社に包括的に承継させる
- 資本の選択と集中や後継者に承継先の会社を任せる場合などに用いられる
【メリット】
- 対価に株式を用いれば現金は不要
- 権利義務が包括的に承継される
- 従業員の同意を得ずにすむ
- 分割する事業を選択できる
- 分割した事業は1つの組織に組み込まれるためシナジーを得やすい
【デメリット】
- 簿外債務を引き継ぐ
- 許認可によっては事前の取得や再取得が必要
- 買い手が非公開会社の場合は株式の現金化が難しい
- スムーズに統合を進められないと想定したシナジーが得られない
【税務/適格分割】
- 譲渡損益は発生しない
- 分割型分割の分割会社には資本金等の額や利益積立金額に減算が生じる
- 分割型分割の承継会社には資本金等の額や利益積立金額に加算が生じる
【税務/非適格分割】
- 分社型分割の分割会社には譲渡損益に課税義務が生じる(完全支配関係の場合は繰り延べが可能)
- 分割型分割の分割会社には譲渡損益に課税義務が生じる
- 分社型分割と分割型分割の承継会社には資本金等の額に加算が生じる
【法務】
- 契約書の作成
- 取締役会の決議で契約書の承認を得る(取締役設置会社のみ)
- 分割契約の締結
- 事前の書類備置
- 労働者や労働組合への通知
- 株主総会の招集について取締役会議を経る(取締役設置会社のみ)
- 株主総会の特別決議を経る
- 株主や新株予約権者への通知と公告
- 債権者への通知と公告、保護手続きの完了
- 分割の登記
- 事後の書類備置
新設分割
新設分割の特徴は吸収分割と変わりません。ただし、手続きには違いがあるため、その部分を掲示します。新設分割は、吸収分割のように既存の会社同士によるM&Aではありません。存続会社が、分割実施までは設立されていないのが特徴です。
したがって、吸収分割でまず行う当時会社同士の分割契約締結ができないため、それに代わるプロセスを行います。
【新設分割の手続き】
- 新設分割計画書作成
- 取締役会の決議で新設分割計画の承認を得る
- 事前の開示書類備置
- 労働者や労働組合への通知
- 債権者への通知と公告、保護手続きの完了
- 反対株主の買取請求手続き
- 株主総会の招集
- 株主総会の特別決議
- 新設分割の登記
- 事後の開示書類備置
合併スキーム
合併のスキームは以下の3つです。それぞれの特徴を知って、スキームの違いを把握しておきましょう。
- 吸収合併
- 新設合併
- 三角合併
①吸収合併
吸収合併のスキームは、以下のような特徴を備えています。
【スキームの特徴】
- 会社の全てを他社に移転させる手法
- 合併により全てを移転させた会社は法人格を失う
【メリット】
- 消滅する会社の権利義務など全て承継できる
- 対価に株式を用いることで現金を用意する必要がない
- 企業価値の向上、シェアの拡大、コストの削減が見込める
- 人材、ノウハウ、営業権を獲得できる
【デメリット】
- 統合に時間と労力を要する
- 非公開企業の株式が交付されると現金に換えにくい
- 負債や簿外債務を引き継ぐ
【税務】
- 存続会社が消滅会社の株式を保有している場合は資本金等の額が加算、減算する
- 適格合併の存続会社では資産などが簿価で引き継がれるため譲渡損益の繰り延べが可能
- 非適格合併の存続会社では資産などが時価で引き継がれる
- 非適格合併の消滅会社では資産などの譲渡益が生じるため課税の対象となる
【法務】
- 合併契約の締結
- 事前の書類備置
- 株主総会の特別決議を経る(略式、簡易合併の場合は不要)
- 株式、新株予約権買取請求の通知と支払い
- 債権者保護手続きを官報で公告する
- 反対株主の買取請求手続き
- 公正取引委員会への届け出(当事会社における国内売上高の合計額が200億円を超えていて、なおかつもう一方の会社も売上高50億円を超える場合)
- 登記の変更と財産の名義変更
- 事後の書類備置
➁新設合併
新設合併のスキームには、以下のような特徴が見られます。
【スキームの特徴】
- 合併に関わる全ての会社が消滅し新設する会社に全てを移転させる
【メリット】
- 全ての会社が消滅するため統合による企業間の格差が生じにくい
- 会社の規模が大きくなりコストの削減、シナジーの獲得、事業の効率化が図れる
【デメリット】
- 許認可の再取得が必要
- 統合に手間と時間を要する
- 対価は新設会社の株式や社債などが用いられるため現金を受け取れない
- 対価に株式を用いると旧経営陣が新会社に残される
【税務】
- 適格合併の存続会社では資産などが簿価で引き継がれるため譲渡損益の繰り延べが可能
- 非適格合併の存続会社では資産などが時価で引き継がれる
- 非適格合併の消滅会社では資産などの譲渡益が生じるため課税の対象となる
【法務】
- 合併契約の締結
- 事前の書類備置
- 株主総会の特別決議を経る
- 株式、新株予約権買取請求の通知と支払い
- 債権者保護手続きを官報で公告する
- 反対株主の買取請求手続き
- 公正取引委員会への届け出(当事会社における国内売上高の合計額が200億円を超えていて、なおかつもう一方の会社も売上高50億円を超える場合)
- 登記の変更と財産の名義変更
- 事後の書類備置
➂三角合併
三角合併のスキームには、次のような特徴が見られます。
【スキームの特徴】
- 吸収合併の1つ
- 合併の対価に存続会社が所有する親会社の株式を用いる
【メリット】
- 対価に現金を必要としない
- 外国企業でも日本の会社を買収できる
- 存続会社が非公開会社でも上場企業の親会社の株式を用いることで株式の流動性を得られる
【デメリット】
- 合併の対価に非公開会社の株式が交付される
- 存続会社にとって親会社の株式を取得することは難しい
- 端数株が生じると存続会社には現金による支払いが求められる
【税務】
- 適格合併で存続会社が完全親会社の株式を対価に用いると譲渡益は繰り延べられる
- 非適格合併で消滅会社が完全親会社の株式以外を対価に用いると譲渡益が課税の対象となる
【法務】
- 合併契約の締結
- 事前の書類備置
- 株主総会の特別決議を経る
- 株式、新株予約権買取請求の通知と支払い
- 債権者保護手続きを官報で公告する
- 反対株主の買取請求手続き
- 公正取引委員会への届け出(当事会社における国内売上高の合計額が200億円を超えていて、なおかつもう一方の会社も売上高50億円を超える場合)
- 親会社の株式を取得(親会社の株式を保有していない場合)
- 登記の変更と財産の名義変更
- 事後の書類備置
提携スキーム
提携スキームは以下の3つです。業務提携は広義のM&Aではありませんが、合わせて説明します。
- 資本業務
- 業務提携
- 資本業務提携
①資本業務
資本提携の特徴は以下のとおりです。
【スキームの特徴】
- 事業目標達成のための協力関係構築
- 株式を取得するため出資(現金)が必要
- 経営権を左右するような出資はせず少額にとどめることからグループ企業のような関係性はない
【メリット】
- 現金資金を得られる(出資を受けた側)
- 出資先の株価上昇があれば利益や配当を得られる(出資側)
- 株主となるため出資先の内容をよく知れる(出資側)
- 出資による以前よりも関係性が高まる
- 手続きが簡易である
- 通常は少額出資にとどめるのでリスクが低い
【デメリット】
- 経営に介入される可能性(出資を受けた側)
- 関係清算時に株式買取を請求される可能性が高い(出資を受けた側)
【税務】
- 資本提携は出資であるため、直接的な課税措置はない
- 出資を受けた側は資本金が増額となるため、法人税の税率が上がる可能性がある
【法務】
- 資本提携契約書の締結
- 取締役会での決議
- 出資金の支払い、受け取り
- 登記変更手続き(資本金額の変更)
②業務提携
業務提携の特徴は以下のとおりです。
【スキームの特徴】
- 資本関係がないため相互の独立性が確保できる
- 出資を伴わずシナジー効果が得られる
- 企画、研究、開発、製造、販売、プロモーションなど細かい分野に限った提携ができる
【メリット】
- 独立性を保って他社と共同事業ができる
- 出資を伴わず他社の経営資源を活用できる
- 資金を用いる必要がない
【デメリット】
- 資本関係がないことから機密情報の流出リスクがある
- 資本関係がないことから現場が意思疎通を欠いたり、共通認識が構築されたりしていないと期待したシナジー効果が得られない
【税務】
- 業務提携に関して税務は発生しない
【法務】
- 業務提携契約書の締結
- 取締役会での決議
③資本業務提携
資本業務提携では、資本提携・業務提携の特徴がそのまま当てはまります。ただし、業務提携における、資本関係がないことを理由とするデメリットは、資本業務提携では解消されます。
各スキームのメリット・デメリット一覧
ここまで紹介した、各スキームのメリットとデメリットをまとめましたので、比較の参考にしてください。
買収・M&Aスキームの種類 | メリット | デメリット | |
株式取得 | 株式譲渡 | ・権利義務がそのまま承継される ・手続きが簡便 ・株式を取得することで対象企業の経営権を掌握できる ・売り手側は譲渡益を獲得できる |
・簿外債務や不要な資産などを引き継いでしまう ・対価には現金が必要 ・売り手側は売却する株式数によって経営権を失う |
株式交換・株式移転 | ・完全子会社となる企業の資産、事業内容、企業を変更せずにすむ ・対価に株式を用いれば現金を用意する必要がない ・少数株主を排除できる ・許認可の手続きを必要としない ・全ての株主から同意を得る必要がない(株式交換) |
・負債や簿外債務などを引き継ぐ ・非公開会社の株式が交付されると現金に換えにくい ・新株の発行による株価の下落が想定される(買い手側) ・買い手の業績により交付された株価が下落する(売り手側) |
|
第三者割当増資(新株引受) | ・取引の対価として現金を獲得できる(増資側) ・得られた資金を返済する必要がない(増資側) ・資本力を高められ財務基盤が強化される(増資側) ・引き受ける新株の数に応じて経営への影響力を高められる(引受側) |
・持ち株比率の低下による不自由な経営(増資側) ・資本金の増加により課税額が増える(増資側) ・資本金の増加に伴い登記変更の手続きが必要になる(増資側) ・発行株式の1/3を獲得しないと発言力を高められない(引受側) |
|
事業譲渡 | ・承継する資産などを選べる ・簿外債務などの承継を回避できる ・節税効果がある ・事業を存続させられる ・資本の選択と集中が可能 ・法人格を残せる |
・許認可の再取得を必要とする ・従業員から個別に同意を得る ・取り引きと雇用の契約を結び直す必要がある ・特許や不動産の移転により登録と登記の手続きが必要 |
|
会社分割 | ・対価に株式を用いれば現金は不要 ・権利義務が包括的に承継される ・従業員の同意を得ずに済む ・分割する事業を選択できる ・分割した事業はひとつの組織に組み込まれるためシナジー効果を得やすい |
・簿外債務を引き継ぐ ・許認可によっては事前の取得や再取得が必要 ・買い手が非公開会社の場合は株式の現金化が難しい ・スムーズに統合を進められないと想定したシナジー効果が得られない |
|
合併 | 吸収合併 | ・消滅する会社の全てを承継できる ・対価に株式を用いることで現金を用意する必要がない ・企業価値の向上、シェアの拡大、コストの削減が見込める ・人材、ノウハウ、営業権を獲得できる |
・統合に時間と労力を要する ・非公開企業の株式が交付されると現金に換えにくい ・負債や簿外債務を引き継ぐ |
新設合併 | ・全ての会社が消滅するため統合による企業間の格差が生じにくい ・会社の規模が大きくなりコストの削減、シナジー効果の獲得、事業の効率化が図れる |
・許認可の再取得が必要 ・統合に手間と時間を要する ・対価は新設会社の株式や社債などが用いられるため現金を受け取れない ・対価に株式を用いると旧経営陣が新会社に残される |
|
三角合併 | ・対価に現金を必要としない ・外国企業でも日本の会社を買収できる ・存続会社が非公開会社でも上場企業の親会社の株式を用いることで株式の流動性を得られる |
・合併の対価に非公開会社の株式が交付される ・存続会社にとって親会社の株式を取得することは難しい ・端数株が生じると存続会社には現金による支払いが求められる |
|
提携 | 資本提携 | ・現金資金を得られる(出資を受けた側) ・出資先の株価上昇があれば利益や配当を得られる(出資側) ・株主となるため出資先の内容をよく知れる(出資側) ・出資による以前よりも関係性が高まる 手続きが簡易である ・通常は少額出資にとどめるのでリスクが低い |
・経営に介入される可能性(出資を受けた側) ・関係清算時に株式買取を請求される可能性が高い(出資を受けた側) |
業務提携 | ・独立性を保って他社と共同事業ができる ・出資を伴わず他社の経営資源を活用できる ・資金を用いる必要がない |
・資本関係がないことから機密情報の流出リスクがある ・資本関係がないことから現場が意思疎通を欠いたり、共通認識が構築されたりしていないと期待したシナジー効果が得られない |
4. 買収・M&Aスキームの戦略策定が成功のカギを握る
買収・M&Aを実行に移す際は、自社に見合ったスキームを選択することが重要です。スキームによっては、必要な権利義務を引き継げなかったり簿外債務などを引き受けたりと、買収後の経営に影響を与えることにもなりかねません。
さらに、課税の義務が生じる、現金を得られない、手続きが煩雑、統合に手間取るなど、コストや手間が生じる事態も想定されます。
安易に買収・M&Aのスキームを選ぶとこれらの問題を抱えかねないため、買収・M&Aを成功させたいと考えるなら、M&A仲介会社などの専門家に依頼しサポートを受けながら進めるようにしましょう。
M&A仲介会社などの専門家に依頼すれば、自社に見合ったスキームを提案してくれたり、手続き・契約に関するアドバイスが受けられたりします。
また、M&A仲介会社によっては承継後のPMI(Post Merger lntegration=買収後の経営統合プロセス)にも対応しているので、買収・M&Aの実施を検討している場合は、M&A仲介会社に相談するのが得策です。
買収・M&Aスキームに関する相談はM&A総合研究所へ
M&A総合研究所では、買収・M&Aの知識と経験が豊富なM&Aアドバイザーがフルサポートいたします。独自のAIシステムと幅広い情報の活用、スピーディなサポートにより、成約まで最短3カ月という実績も強みです。
料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です。(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります。)
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5. 買収・M&Aスキームのまとめ
買収・M&Aは、スキームによって特徴やメリット・デメリット、税務・法務に違いがあります。取り上げた事例からもわかるように、買収・M&Aのスキームはそれぞれの目的に合った手法が選ばれるものです。
つまり、会社の財務状況や事情によって、ふさわしいスキームが異なります。そのため、買収・M&Aのスキームは、自社に合ったものを選ばなければなりません。最もおすすめなのは、買収・M&Aの専門家であるM&A仲介会社に相談しながら進めていくことです。
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