2025年08月22日更新
M&Aにおける銀行の役割と手数料|M&Aアドバイザリー業務のメリット・デメリットと相談時の注意点
M&Aの際、資金調達先として真っ先に候補に挙がるのが銀行です。資金面であらゆるサポートを行っている銀行ですが、M&Aアドバイザリー業務も担っています。本記事では、M&Aが行うM&Aアドバイザリー業務・役割などを解説します。
目次
1. M&Aにおける銀行の2つの役割:融資とアドバイザリー
銀行は主たる事業として融資を手掛けており、中小企業になじみのある存在です。経営者としても日頃から接点があるため、M&Aの岐路に立った際も銀行を相談先に選ぶケースが多いです。
M&Aの際に資金調達先として利用される銀行ですが、M&Aでの銀行の役割はそれだけではありません。銀行は、融資以外にM&Aアドバイザリー業務も請け負っています。ほとんどのM&Aは多額の資金を要するもので、特に買収側は譲渡対象の取得対価やデューデリジェンス(譲渡対象の価値・リスクの調査)など、さまざまな場面で資金が必要です。
この際の資金調達方法に、銀行からの融資があります。日頃の融資に加えてM&Aの融資も行っている銀行は、企業にとって頼りになる存在です。融資は、M&Aで銀行に最も求められる役割といえます。
M&Aのプロセスにおいて、銀行は主に「融資」と「M&Aアドバイザリー業務」の2つの役割を担います。それぞれ詳しく見ていきましょう。
M&Aにおける銀行融資:資金調達の要
銀行融資はM&Aを実行する上で非常に重要です。銀行は、M&A後の事業計画の収益性や成長性などを綿密に審査し、融資の可否を判断します。将来的な収益が見込める場合は融資が実行されますが、リスクが高いと判断された場合は融資を断られる可能性もあります。
M&Aアドバイザリー業務:銀行による包括的な支援
銀行の中には、M&Aアドバイザリー業務を専門に行う部署を設けているところもあります。これらの部署では、M&Aに関する豊富な知識と経験を持つ専門家が、財務、法務、税務など多岐にわたるサポートを提供します。
なお、銀行は、主に預金業務や企業への融資を行う「商業銀行」と、債券や株式など証券の売買や引受業務を実施して投資家へ販売する「投資銀行」に分かれます。譲受企業のM&Aのアドバイザリー業務・融資を実施するのは商業銀行であり、一般的に投資銀行では融資を行っていません。
2. 銀行がM&A融資を審査する5つのポイント
銀行は無条件で融資を行うわけではありません。M&A後に収益性があると判断されなければ、当然のように融資を断られてしまいます。
融資を受けるためには銀行が資金回収できると判断するような、安心できるM&Aを目指す必要があります。
銀行はM&A融資の可否を判断する際に、以下の5つのポイントを重点的に審査します。
- 損益状況とキャッシュフロー:安定した収益力と健全なキャッシュフローが確保されているか
- 買収価格とバランスシート:買収価格が妥当であり、M&A後の財務状況が悪化しないか
- 有形固定資産の価値と担保能力:十分な担保力があるか
- 信用度:企業としての信頼性が高いか
- M&A後の事業の見通し:M&Aによってシナジー効果が期待できるか、将来的な成長性が見込めるか
①損益状況・キャッシュフロー
銀行がまず注目するのは、経営状態がわかる「損益計算書」とお金の流れがわかる「キャッシュフロー」です。買収側と譲渡側の経営状況を正しく把握し、M&Aの正当性を見極めます。
これらの指標には、企業の計数管理能力を計る目的でも注目されます。経営者自身の会社の数字への理解度が高ければ、検討しているM&Aも堅実なものであると判断されやすいです。
②買収価格・バランスシート
M&Aの際、譲渡価格を決めるために企業評価を行います。企業評価には特許や技術などの目に見えない無形資産も加味されるため、損益状況のみで判断はできません。
実際の買収価格とバランスシート(貸借対照表)には差額が生じます。この差額はのれんとして処理されるもので、M&Aでも見極めが難しいポイントです。
「無形資産に対して正当な評価がされているか」「意図したのれん代のかさ増しが行われていないか」などが銀行によって厳しくチェックされます。のれん代が大きくなるほど銀行側から理由を求められるため、納得のいく説明をしなければなりません。
③有形固定資産の価値・担保能力
企業評価をする際に最もわかりやすいのは有形固定資産の存在です。土地や建物などは価値も見極めやすく換金性もあるため、担保能力が非常に高いと判断されます。
都市部などの人気がある地域に土地・建物を保有している場合、積極的にアピールしておくと融資判断のプラス材料になりやすいです。
有形固定資産は、担保の役割を果たすこともあります。M&A自体が失敗してしまったりM&A後の事業が軌道に乗らなかったりしても、一定の融資資金は回収可能です。
④信用度
M&Aを行う際は大きな費用がかかるだけでなく、経営統合は不確実性が高いため、銀行は審査で借り手の信用度を厳格にチェックされます。特に借り手がこれまでその銀行と取引を行っていない場合、審査が厳しくなるのが一般的です。なぜなら、新規の相手は情報が乏しいため、より慎重な姿勢で審査に臨むためです。
借り手の信用度が十分でない場合、オーナー経営者の個人保証を用いて信用度の補強が求められるケースも見られます。
⑤M&A後の事業の見通し
銀行はM&Aの融資を行う際、買収後の事業計画の合理性・統合により発生が想定されるシナジーの実現可能性・経営統合に問題となるリスクなどを厳格に審査するのが一般的です。融資を受けるにあたって、借り手は説得力のある具体的な事業計画を提示しなければなりません。
3. 銀行のM&Aアドバイザリー業務の内容と仲介会社との違い
銀行は融資以外にM&Aアドバイザリー業務も請け負っていますが、本章では業務内容は詳しく解説します。
銀行のM&Aアドバイザリーの3つの特徴
銀行のM&Aアドバイザリーには、以下のような特徴があります。
- 専門家によるサポート:M&Aに関する深い知識と経験を持つ専門家が、M&Aプロセス全体をサポートします。
- 依頼者利益の最大化:依頼者の利益を最優先に考え、最適なM&A戦略を提案します。
- 手数料体系:手数料は、M&Aが成立した場合に成功報酬として支払うのが一般的です。
従来は上場企業同士やクロスボーダー(海外を介したM&A)など、大規模なM&Aで利用されることがほとんどでした。しかし、昨今では、中小企業のM&Aでも利用されることが増えています。
M&Aアドバイザリーと仲介会社の比較
M&Aアドバイザリーと仲介会社の大きな違いは、立ち位置と手数料です。M&Aアドバイザリーは依頼者の利益の最大化を図る点が特徴的です。
譲渡側であれば売却価格を少しでも高めようと会社の強み・アピールポイントを全面的に押し出して交渉を進めるなど、希望する条件を満たすために努めます。手数料は依頼者のみから受け取るため、高くなる傾向にあります。
仲介会社は中立的な立場から堅実なM&A成約を目指す点が特徴的です。譲渡側・譲受側の仲介に入り、妥当となる着地点を模索します。手数料は両者から受け取るため、安くなる傾向にあります。
項目 | M&Aアドバイザリー | 仲介会社 |
立ち位置 | 依頼者側 | 中立 |
手数料 | 高め(M&A成立時に成功報酬) | 比較的安め(仲介手数料) |
専門性 | 財務・戦略面に強い | 幅広い案件に対応 |
規模 | 大規模案件が多い | 中小規模案件が多い |
銀行が行うM&Aアドバイザリーの料金体系
銀行によって手数料は変わりますが、多くの銀行が採用しているM&Aアドバイザリーの料金体系は下記のとおりです。
相談料 | 相談段階で発生する手数料 初回相談を無料としている銀行が多い |
着手金 | 依頼段階で発生する手数料 M&Aの初期段階で必要となる経費が含まれる 成約しなかった場合も返却されることはない |
中間報酬 | 取引先との基本合意の段階で発生する手数料 成功報酬の10~30%に設定されることが多い 成約しなかった場合も返却されることはない |
成功報酬 | M&A成約時点で発生する手数料 譲渡価格の割合で決まるレーマン方式が一般的 |
上記の料金体系は譲渡側のものです。譲受側である場合は、デューデリジェンス(譲渡対象の価値・リスクの調査)費用なども別途求められます。
4. 銀行にM&Aを相談する際の2つの注意点
銀行にM&Aを相談する際には、以下の2点に注意が必要です。
- 利益相反の可能性:銀行は、融資先である買収企業の利益を優先する可能性があります。特に、譲渡企業にとって不利な条件でM&Aが成立した場合、利益相反の問題が発生する可能性があります。
- 情報の取り扱い:M&Aに関する情報は非常に機密性の高いものです。銀行との情報共有には細心の注意を払い、秘密保持契約を締結するなど適切な対策を講じる必要があります。
①銀行によるM&A支援は利益を優先させる
銀行の主たる業務はあくまでも融資です。M&A後も譲受側との長期的な取引を目的としていることがほとんどであるため、譲渡側が依頼者であるにもかかわらず譲受側に有利になるようにM&Aを進める可能性があります。
銀行の利益を優先する姿勢は、譲渡側にとって相談段階で注意を払わなければならないポイントの1つです。
②譲渡企業のM&A支援は利益相反を目指す可能性がある
こちらも譲渡側の注意ポイントです。銀行のアドバイザリー業務は、一方の利益と他方の不利益が発生する利益相反を目指すケースがあります。銀行法および金融商品取引法によって規定されているため、極端な利益相反になる危険性は低いです。
しかし、銀行は基本的には融資資金の回収を目指しているため、少なからず譲受側に肩入れするケースが想定されます。譲渡企業からすると、利益相反の点にも注意が必要です。
5. M&Aの相談先:銀行と仲介会社のどちらを選ぶべき?
M&Aの相談先の候補には主に銀行とM&A仲介会社の2つが挙げられます。両者の特徴を解説します。
銀行にM&Aを相談するメリット・デメリット
銀行は融資を主たる事業とする特徴から、さまざまなメリット・デメリットが存在します。一番大きいメリットは、M&A費用を銀行の融資で賄える点です。特に譲受側では、買収費用やデューデリジェンスなどの費用が必要となるため、計画的な資金運用が求められます。
銀行の融資判断は、資金回収の見通しが立ったうえで行われるものです。審査に通過できない場合、「M&A自体のリスクが高い」「将来的な収益性が望めない」と判定されたことになり、M&Aリスクの確認にも活用できます。
一方、デメリットは、銀行の本業はあくまでも融資である点です。一時的な取引先である譲渡側よりも継続的な取引先になり得る譲受側に肩入れをする危険性があります。
譲渡側の不利益を考慮せず、譲受側がM&Aを実行しやすいよう交渉を進める利益相反取引の可能注がある点に注意が必要です。
メリット | デメリット |
・資金調達におけるサポート:M&Aに必要な資金調達をスムーズに進めることができます。 ・M&Aのリスク評価:融資審査を通じて、M&Aに伴うリスクを客観的に評価することができます。 |
・利益相反の可能性:買収側の企業を融資先としている場合、そちらの利益を優先する可能性があります。 ・大企業中心のサービス:大規模なM&A案件をメインターゲットとしている場合が多く、中小企業のM&Aには対応していない可能性があります。 ・比較的高額な手数料:M&Aが成立した場合、成功報酬として高額な手数料が発生する可能性があります。 |
M&A仲介会社に相談するメリット・デメリット
続いて、M&A支援を専門的に請け負っているM&A仲介会社に相談するメリット・デメリットです。
M&A仲介会社の最大のメリットは、多数のM&A仲介・相談を経て培ってきた強固なネットワークです。M&Aを進めるうえで難易度が高い取引先の選定で大幅なアドバンテージを得られます。
各分野の専門家が在籍しているため、一貫したM&A支援を受けられる特徴もあり、M&Aの相談からクロージングまで任せられます。
その反面、M&A仲介会社のアドバイザーとの話し合いの場を設ける必要性も生じます。日常の業務と並行して話し合いを進めるのは、経営者にとって苦痛に感じるかもしれませんが、M&Aの成功率を高めるためにもしっかりとした意思疎通は必要不可欠です。
メリット | デメリット |
・幅広いネットワーク:多くの企業とのネットワークを活かして、最適なM&A相手を見つけ出すことができます。 ・専門家によるサポート:M&Aに関する法律、財務、税務などの専門家が在籍しており、包括的なサポートを受けることができます。 ・比較的安価な手数料:銀行と比較して、手数料が安価な傾向があります。 |
・仲介会社とのコミュニケーション:M&Aプロセスにおいて、仲介会社との綿密なコミュニケーションが必要となり、時間と手間がかかる場合があります。 |
6. M&Aの相談は状況に応じて最適な選択肢を
M&Aにおける相談先は、譲渡側か買収側か、M&Aの規模や目的などによって最適な選択肢が異なります。銀行は資金調達面でのサポートが手厚い一方、利益相反の可能性も考慮する必要があります。譲渡企業の場合は、仲介会社に相談することで、より中立的な立場でアドバイスを受けることができます。
M&A総合研究所ではM&Aアドバイザーによるフルサポートを行っており、譲受企業とのマッチング・適正な企業評価・交渉など、クロージングまで丁寧に対応します。
料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。ご相談は無料です。M&Aをご検討の際は、電話またはメールフォームよりお気軽にお問い合わせください。
7. M&Aにおける銀行の役割と活用のポイント
本記事では、「M&Aの相談先として銀行は選択肢に入るのか」といった視点から、銀行のM&Aアドバイザリー業務を解説しました。
銀行はM&Aにおいて、融資とアドバイザリーという2つの役割を担います。M&Aを成功させるためには、銀行の役割を理解し、それぞれのメリット・デメリットを踏まえて適切に活用することが重要です。特に、譲渡企業は利益相反の可能性に注意し、必要に応じて仲介会社などの専門家のサポートを受けることを検討しましょう。
8. M&Aにおけるデューデリジェンスの重要性
M&Aを成功させるためには、デューデリジェンスが不可欠です。デューデリジェンスとは、買収対象企業の財務状況、事業内容、法務リスクなどを詳細に調査するプロセスです。
財務デューデリジェンス
財務デューデリジェンスでは、買収対象企業の財務諸表を分析し、収益性、安全性、成長性などを評価します。これにより、買収価格の妥当性を判断し、将来的な収益性を予測することができます。2025年には、財務デューデリジェンスにおいて、ESG(環境・社会・ガバナンス)要素の評価がより重視されるようになると予想されます。
事業デューデリジェンス
事業デューデリジェンスでは、買収対象企業の事業内容、市場環境、競争状況などを調査します。これにより、買収対象企業の強みと弱みを把握し、M&A後のシナジー効果を予測することができます。
法務デューデリジェンス
法務デューデリジェンスでは、買収対象企業の契約状況、法令遵守状況、潜在的な訴訟リスクなどを調査します。これにより、M&Aに伴う法務リスクを洗い出し、適切な対策を講じることができます。
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