M&Aにおけるエスクローとは?用語の意味、メリット・デメリットを解説

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

エスクローとは、取引金額の決済を金融機関などの第三者に仲介してもらうサービスです。M&Aでも、取引の安全性を確保するために利用されることがあります。本記事では、M&Aにおけるエスクローの役割やメリット・デメリットを解説します。

目次

  1. エスクローとは?
  2. 日本でのエスクローの流れ
  3. エスクローのメリット
  4. エスクローのデメリット
  5. エスクローの活用方法
  6. エスクローが重要な場面
  7. M&Aにおけるエスクローまとめ

1. エスクローとは?

エスクローとは、契約当事者間に第三者を仲介させて代金決済を代行させ、取引の安全性を確保する仲介サービスのことです。

主に、多額の資金移動が伴う取引で慎重を期したい場合に使用されます。もともとはアメリカの不動産売買で広く活用されていましたが、近年は日本国内の取引でも使用される頻度が高まっている状況です。

エスクローの役割

売買取引は、基本的に金銭の支払いと商品の受け渡しが同時に行われます。しかし、サービス・商品の性質次第によっては、何らかの都合で時間差が生じる可能性があるため、その問題を解消する方法として代金決済を代行する仕組みが必要です。

取引相手との信頼関係が構築できていない場合、円滑な取引成立が難しくなります。そこで、エスクローは時間差を埋めながら安全性を確保し、取引を円滑化させる仲介サービスとして活用されるでしょう。

エスクロー・サービスを利用する場合、安全性の担保の対価として所定の手数料を支払います。支払い先はエスクローサービスの提供者であるエスクロー・エージェントです。

エスクロー・エージェントとは

エスクロー・エージェントとは、エスクローサービスの仲介者のことです。エスクロー・エージェントは取引当事者の双方から金銭あるいは商品を一時的に預かり、取引内容に一致するものであるか確認を行ったうえでそれぞれに引き渡します。

エスクロー・エージェントの役割は、金融機関が務めることが多いです。なぜなら、高い経済力や社会的地位に裏付けられた社会的信用が高いことから、受託者や仲介者としての役割を十分に果たせるためです。

そのほかには、エスクロー・エージェントを本業とする業者や、インターネットオークション・フリマアプリ・クラウドソーシングサイトなどの運営者がエスクローサービスを提供していることもあります。

エスクローが利用されるケースは高額取引が多いですが、インターネット上の取引では買い手・売り手の間で信頼関係がない場合が多いため、比較的少額でも利用されることがあります。

M&Aとエスクローサービスの関連性

エスクローサービスはM&A取引でも活用されることがあります。M&Aは企業同士の高額取引であるため、取引の安全性を確保するために、金融機関などにエスクローサービスを依頼することが少なくありません。

M&Aの場合、エスクロー・エージェントが譲受企業から譲渡代金の一部を預かり、M&A取引の有効性が確認された後に譲渡企業に代金を引き渡します。補償責任など契約書の内容に反する事項が認められた場合、預かっていた譲渡代金を譲受企業に払い戻すなどの対応も行います。

そのほか、エスクローサービスは損害発生時の保険として活用することも可能です。M&A取引成立後に潜在的リスクが発覚するなどして譲受企業が何らかの損害を受けた場合、譲渡企業に対して損害賠償を請求することが一般的ですが、その際は補償条項に沿って行います。

しかし、譲受企業と譲渡企業の話し合いが難航すると、損害賠償金が支払われない事態も想定されます。その対策として、エスクロー・エージェントが損害賠償金の上限額の一部を事前に預かっておくことで、損害賠償金が一切支払われない事態を回避することが可能です。

このように、エスクローはM&A取引で想定されるトラブルの対策として有効活用できます。譲渡代金や損害賠償金の支払いを担保できるので、譲渡企業と譲受企業の双方に利用価値のあるサービスです。

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2. 日本でのエスクローの流れ

大規模なM&A取引を行う場合、リスクを抑えるための対策が必要です。その際のエスクローとしては、「信託契約」と「銀行口座」を用いる方法、2つの選択肢があります。

仲介者が譲渡代金を預かるプロセスは共通していますが、若干の違いが見られるので、この章ではそれぞれの方法を用いた場合の大まかな流れを解説します。

信託契約を用いる

まずは、M&A取引に信託契約を利用した場合のエスクローの流れを紹介します。信託契約とは、M&A取引でやり取りされる譲渡代金や損害賠償金などの金銭を信託で保全し、M&A取引条件が成就した時点で金銭をリリースする行為です。

譲受企業はM&Aの譲渡代金に相当する金銭を信託財産として受託者に預け、受託者はM&A取引の条件が達成されるまでの間、預かった金銭を管理・運用します。

エスクロー契約にづき一定条件が達成した段階で、初めて譲渡企業に対して譲渡代金の支払いが行われます。M&A取引に信託契約を用いたエスクローの流れは以下のとおりです。

  1. 譲受企業は譲渡代金を信託財産として受託者に預託
  2. 期間中、受託者は信託財産を管理・運用
  3. エスクロー契約の一定条件達成後、譲渡企業への信託財産引き渡し

銀行口座を用いる

続いて、M&A取引に銀行口座を用いたエスクローの流れですが、これはM&A取引でやり取りされる譲渡代金や損害賠償金などの金銭を口座に送金して、保管しておく方法です。

まずは、エスクロー用の銀行口座の開設です。仲介者・譲受企業・譲渡企業のいずれかの口座名義で開設完了したら、譲渡企業から譲渡代金の送金を行います。M&A取引の条件が達成されるまでの間、仲介者は口座を預かって譲渡代金の管理・運用をします。M&A取引の条件が達成された段階で、譲渡企業への引き渡しが行われます。

M&A取引に信託契約を用いたエスクローの流れは以下のとおりです。

  1. エスクロー用の銀行口座を開設
  2. 譲受企業から譲渡代金を該当の口座に送金
  3. 期間中、仲介者は口座を管理・運用
  4. エスクロー契約の一定条件達成後、譲渡企業への譲渡代金引き渡し

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3. エスクローのメリット

エスクローのメリットは、M&A取引の安全性を確保できることにあります。信託契約の受託者や口座管理の仲介者などがM&A取引でやり取りされる金銭を管理するため、譲受企業や譲渡企業の信用が問題になることはありません。

エスクローの信託契約と銀行口座はそれぞれの異なるメリットがあります。日本のM&Aでエスクローを利用する際はいずれかを選択することになるので、それぞれのメリットを把握しておくことが大切です。

信託契約の場合

M&A取引に信託契約を用いたエスクローのメリットは、信託財産は安全に管理されることです。受託者に信託された財産(譲渡代金)は受益者(譲渡企業)のために独立管理されるため、委託者(譲受企業)や受託者の倒産の影響を受けることがありません。

損害賠償金も信託財産として預託できます。信託財産の対象や委託者と受益者の関係が入れ替わることで、相互にリスクを抑えつつM&A取引を実施可能です。これは倒産隔離機能と呼ばれており、未回収リスクを低減するために幅広く活用されています。

銀行口座の場合

M&A取引に銀行口座を用いたエスクローのメリットは、取引を円滑に行いやすいことです。信託契約と比較すると契約までの必要なプロセスが少ないため、手続きが非常に簡便になっています。

エスクローのためにM&Aの進行を止めるような事態も少ないので、M&Aのプロセスの一貫として組み込みやすいです。コスト削減のメリットもあり、仲介者に支払う報酬は安くなる傾向にあるほか、エスクローの手間を省くことによる人件費カットなどの効果も期待できます。

4. エスクローのデメリット

M&Aにおけるエスクローのデメリットは、対価が必要になることです。一時的に財産を預かる側は高い信用性が求められるため、M&A取引の安全性を確保する対価として一定の手数料を受け取っています。エスクローの信託・仲介を生業とするエスクロー・エージェントは、この手数料を主な収入源としています。

基本的に預かる財産の価値に応じて手数料も高くなるので、エスクローを利用する際は必要な手数料も考慮したうえで検討することが必要です。M&A取引におけるエスクローでは、信託契約と銀行口座の方法によっても異なるデメリットがあります。思わぬ落とし穴になることもあるため、事前に確認しておきましょう。

信託契約の場合

M&A取引に信託契約を用いたエスクローのデメリットは、契約に要する時間が長期化しやすいことです。信託契約の特性上、確認すべき事項が多いために契約までに時間がかかってしまうことがあります。

M&Aが長期化すれば、社内や外部環境の変化によりM&A本来の目的が達成できなくなるおそれがあります。基本的に短期間成約が望ましいとされていますが、長期化傾向の強い信託契約とは相反する関係になっているのが実状です。

銀行口座の場合

M&A取引に銀行口座を用いたエスクローのデメリットは、倒産隔離の役割が十分に果たせていないことです。信託契約では倒産隔離機能が完全に機能していますが、銀行口座では仲介者が倒産した場合に預けていた金銭を回収できる可能性は低くなります。

質権設定(担保設定)の手段もありますが、基本的に銀行預金に設定することは認められていません。仮に承諾されたとしても、エスクローの安全性確保の側面では機能不十分です。

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5. エスクローの活用方法

本章では、実際にエスクローサービスをどのように活用するのかを2つのケースを提示しながら順番に解説します。

アーンアウトの採用

M&Aを行う際、あらかじめ条件を定めたうえで条件成立により金銭の授受を行う「アーンアウト」の手法が用いられることがあります。

アーンアウトの手法を採用する場合、追加で支払う費用をエスクローに入金し、条件達成後に追加の売買代金が売却側に入金されます。このことから、契約時に収益がなかったとしても翌年から収益の増加が予測される場合、エスクローを用いた条件払いを行うことでリスクの軽減が図れるでしょう。

エスクロー口座の分割

エスクロー口座はまとめてすべてリリースするほか、分割しリリースする方法を選択することも認められます。例えば、M&Aによる事業譲渡買収を行う店舗が複数存在する場合、賃貸借契約の更新などをすべての店舗の家主と交渉しなければなりません。この交渉では、必ずしもすべての家主が好意的な姿勢を取ってくれるとは限らず、賃貸借契約の更新などを拒否する可能性も想定されます。

しかし、エスクロー口座からまとめてすべてをリリースする方法では、すべての家主との賃貸借契約が更新されない限りリリースできません。こうしたトラブルを回避するために、賃貸借契約の更新が完了した店舗から売買代金をエスクロー口座より支払う方法が用いられることがあります。

6. エスクローが重要な場面

M&A取引でエスクローが重要な役割を果たすのはクロージングの場面です。クロージングとは、M&Aの最終契約書に基づいて譲渡企業の引き渡し手続きと譲受企業の支払い手続きを行い、経営権の移転が完了することです。

実際に譲渡企業が譲渡代金を手にするタイミングや譲受企業が経営・事業を開始するタイミングは異なるため、エスクロー・エージェントが仲介に入り、安全性を確保しておくことが重要です。

クロージングは最終契約書の締結日から一定期間を空けて実施されることが多いですが、契約日までに必要な手続きがすべて完了している場合は、最終契約書の締結と同時にクロージングを実行することもあります。

比較的手続きが簡便な株式譲渡を用いる場合に多く、このケースでは最終契約書の締結からエスクローを検討する時間がないため、M&Aの進行中にエスクロー取引も話し合いを進めておく必要があります。

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M&Aのご相談はM&A総合研究所へ

M&Aでエスクローを利用する場合は、エスクロー手法の選択や業者選びを行う必要があります。しかし、M&Aとエスクローの検討を同時に行うとなると、経営者にかかる負担が非常に大きいです。エスクローに気を取られすぎると、本来の目的であるM&Aの進行がおざなりになってしまうおそれもあります。

M&Aとエスクローの両方に関して安全を期すなら、M&Aの専門家などにアドバイスを求めることをおすすめします。M&A総合研究所は、M&A・事業承継の仲介を手掛けるM&A仲介会社です。幅広い業種における中堅・中小規模の案件を得意としており、中小企業のM&A仲介において豊富な実績があります。

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7. M&Aにおけるエスクローまとめ

本記事では、エスクローの概要やM&Aにおける役割を解説しました。高額取引になりやすいM&Aとの関連性は深く、リスク低減のために活用されることがあります。アメリカ発祥の制度で日本のM&Aでは依然として浸透していませんが、仕組みを理解しておくといざという時も柔軟に対応できます。

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