2024年09月24日更新
M&Aのクロージングとは?手続き・流れ・期間・必要書類・成功ポイントを解説
M&Aのクロージングとは、M&Aによる取引が実行され、経営権の引き渡しと取得対価の支払いが完了したことを意味する手続きです。M&Aを実行する際は、このクロージングに向けて各契約書の締結や全体スケジュールの調整を行っていく必要があります。
目次
1. M&Aのクロージングとは
M&Aのクロージングは、M&A実務のなかで最終工程にあたる手続きです。対象事業の引き渡しにあたって、さまざまな実務を行います。
本記事では、M&Aにおけるクロージングの手続きと必要な書類、クロージングまでの全体的な流れを解説します。
M&Aとは
M&Aとは、企業の買収・合併を意味する言葉です。ビジネスの売買や複数の法人格を統合する方法で、企業再編を目的に実施されることも多いです。
M&Aを成約させるまでには多数の手続きが必要となります。M&A先の選定・交渉、各契約書の締結などを経て、最終的にクロージングを迎えます。
M&Aのクロージングとは
M&Aのクロージングとは、株式譲渡や事業譲渡などの取引が行われる際に、最終契約書の内容に基づき、M&Aの対象の企業、あるいは事業の経営に関する経営権の移転と、取得対価の支払いを完了させるための手続きです。
経営権の移転に伴い、さまざまな資産の引き渡しを実行するため、その手続きは多岐に渡ります。クロージングが終了となるには、売主と買主との最終譲渡契約書(株式譲渡契約書)で定めたクロージングの前提となる条件が満たされている必要があります。
最終契約書の締結から数カ月以上かかることがほとんどです。ケースによっては1年以上の期間を要することも珍しくありません。
クロージングの手続きの多くが法的手続きである点、M&Aの手法や引き渡す資産などによって大きく左右される点などから、専門家によるサポートを受けて実行するのが一般的といえます。
2. M&Aのクロージングまでの流れ
この章では、M&A実務のクロージングまでの全体の流れを確認しておきましょう。
【M&Aのクロージングまでの流れ】
- 専門家に相談
- 秘密保持契約の締結
- M&A先の選定・交渉
- 基本合意書の締結
- デューデリジェンスの実施
- 最終契約書の締結
- クロージング
①専門家に相談
M&Aは専門家への相談からスタートします。クロージング以外にもM&A先の選定・交渉や各種契約書の締結など多くの手続きを行います。
いずれも専門的な知識を要するものなので、専門家のサポートは必要不可欠です。まれに当事者のみで進めるケースも見受けられますが、相互理解が追いつかない場合や契約に不備が生じてしまう場合、M&Aの成約ができず機会を逃してしまう可能性もあります。
情報漏えいの面からも直接交渉は危険です。専門家を介さずに行動を起こすと、どこで情報が漏れるかわからないため、専門家を介して安全にM&Aを進めるのがおすすめです。
②秘密保持契約の締結
秘密保持契約とは、取引にあたって開示する情報を、開示者の同意なく第三者に公開したり目的外利用したりするのを禁止する契約です。M&Aを実施する際は秘密保持契約を締結します。
M&Aを検討している事実が外部に漏えいすると、株価への影響や従業員に動揺を与えるリスクが懸念されます。交渉中に自社の価値を大きく下げてしまうと、最悪の場合は破談にもなりかねません。
売却額を最大限に引き上げるために自社の強み・魅力をアピールする際、事業の根幹をなす技術・ノウハウを開示する場合があります。それらの秘密情報を流用させることを防ぐ目的でもあります。
③M&A先の選定・交渉
続いてM&A先の選定・交渉に入ります。専門家が保有するネットワークを活用して、希望条件に合う譲受企業を探します。
譲受を希望する企業が名乗りを上げたら、交渉に移りましょう。M&Aを進める上で必要となる資料を提出し、互いの意見のすり合わせを行っていきます。
意向表明書の提示
意向表明書とは、譲受側が譲り受けの意思を示すための書面です。トップ面談後に提出されるのが一般的です。法的な拘束力は持ち合わせませんが、本格的な交渉に移ることを合意したことになります。
④基本合意書の締結
基本合意書とは、現時点の契約内容について双方が合意したことを示すための契約書です。秘密保持契約などの一部の例外を除き、法的拘束力はもちません。
基本合意書に記載される譲渡金額などは、あくまで現時点のものであり、最終決定額ではありません。今後実施されるデューデリジェンスの結果によっては、変更されることもあります。
【基本合意書に記載する主な内容】
- 取引の内容
- 役員と従業員の扱い
- デューデリジェンスに関する取り決め
- 誠実交渉義務と独占的交渉権
- スケジュール
- 法的拘束力
- 秘密保持義務
⑤デューデリジェンスの実施
デューデリジェンスとは、譲渡対象の価値・リスクを調査する活動です。譲受側が派遣する専門家により、あらゆる面から徹底的な調査が行われます。
デューデリジェンスによって深刻な問題が発覚した場合は、譲渡金額や譲渡対象の変更など、取引内容に変更が加えられることになります。
⑥最終契約書の締結
デューデリジェンスを終えたら最終契約書の締結です。基本合意書との違いは、法的拘束力を持つ点とデューデリジェンスの結果が反映されている点です。
最終契約書の締結後にどちらかが一方的に破棄した場合、破棄された側に賠償請求する権利が生じます。法的拘束力を持つため、この点には注意しましょう。
最終契約書には、クロージングの前提条件となるクロージング条項を記載します。クロージング条項は最終契約書の締結日からクロージング日までに、譲渡対象の価値が著しく変わることを避けるため必要となるものです。
⑦クロージング
最終契約書の手続きが済んだら、クロージング手続きに入ります。株式譲渡の場合は、最終契約書の締結日からクロージング日までに取締役会や株主総会で株式譲渡の承認を得て、議事録や株式譲渡承認書を用意しておきましょう。
株式の引き渡しによって経営権の移転と取得対価の支払いが終わればクロージングです。数カ月の期間を空けるのが一般的です。
最終契約書の締結日の段階でクロージング準備が終わっている場合は、即日クロージングとする場合もあります。クロージングが終わればM&A実務は全て完了です。
クロージング後のリスクを減らすためのPMI
クロージング終了後M&Aは成立しますが、その後の売主側と買主側の企業の融合をさすPMIが欠かせません。PMIとは、M&A成立後の統合プロセスをさします。
このPMIを適切に進められないと、従業員が退職してしまったり、十分なシナジー効果が得られなかったりします。M&Aの目的を達成するのが難しくなるでしょう。クロージング後にPMIを達成させるためにも、M&Aを検討する際に計画を立てる必要があります。
例えば、従業員が相互理解できるような場をセッティングしたり、社内のシステムなどをわかりやすくしたりするなどが挙げられます。M&Aが成立したら終わりではなく、その後の関係が重要であり、互いに歩み寄り慎重に進めていくのが大切です。
クロージング前のPMI
PMI(経営統合)は、クロージング完了後に始めるものではなく、準備できるものは早めに取りかかるとよいでしょう。最終契約の締結からクロージングまでの期間に、統合に関する方針を決めておきます。
クロージング前段階から進められるPMIには以下のようなものが挙げられます。
- 連邦型統合
- 支配型統合
- 吸収型統合
「連邦型統合」は、対象企業を子会社として存続させる方針です。できるだけ経営の自主性を持たせることになるため、従業員からの反発や抵抗を抑えられるメリットがあります。その反面、シナジー効果を発揮しにくくなる点がデメリットといえるでしょう。
「支配型統合」は、買い手企業が積極的に経営にかかわっていく方針です。連邦型とは逆で、シナジー効果を発揮しやすいでしょう。しかし、従業員には、自社が乗っ取られたイメージが湧きやすく、離職につながることも考えられるでしょう。
「吸収型統合」は、売り手企業を子会社と存続せず、同一の法人として吸収する方針です。早期にシナジー効果を期待できるでしょう。しかし、従業員の負担が大きくなる可能性もあります。
クロージングのPMI
クロージングの数カ月から半年後までに行うPMIは、「ランディング・プラン」と呼びます。M&A取引により内容はさまざまですが、この計画をもとにPMIを進めていきます。主なものは下記のとおりです。
- 役員人事
- 組織・人事配置の見直し
- 人員整理・労働条件の見直し
- 定款・業務規程・業務運用ルールの見直し
- 経営管理の見直し
- 経理・財務の見直し
- 内部統制システムの整備
これ以外にも、クイック・ウィン=短期に実現できるシナジー効果の発揮に向けて、原価削減や販売費・管理費などの見直しを計画するとよいでしょう。
PMIの注意点
PMIの方針を検討する際には、ガンジャンピング規制に注意が必要です。これは、いわゆる「フライング」を意味し、M&A取引成立前に重要な情報交換を行ったり、当事者同士で協調的な行動を行ったりすることを規制するものです。独禁法違反ではないかとの議論があります。
PMIの検討段階、実際の実施にかなりの時間を要します。特に、複数の株主の協議が必要であれば、さらに時間がかかるでしょう。
PMIは、M&Aの成功を実現するための重要なプロセスです。期待していたシナジー効果などが想定どおり発揮されるよう、できるだけ早期に準備を始め、前倒しして行うとよいでしょう。専門家に相談しながら計画的に進めることをおすすめします。
3. M&Aのクロージング手続きの内容
M&Aのクロージングは、最終契約書の内容に基づいて実行します。用意しなければならない書類が多いため、万全の体制で挑む必要があります。その内容に反しないよう専門家の助言・サポートが欠かせません。
この章では、クロージングに必要な手続きの内容を解説します。M&Aの方法によってもその内容が異なりますので、順番に見ていきましょう。
クロージング手続きの内容
クロージングの手続きは、M&Aの方法によって流れが変わります。
- 株式譲渡
- 事業譲渡
- 合併・会社分割
- 第三者割当増資
一つずつ解説します。
株式譲渡
株式譲渡とは、株式の売買をもって経営権を移転させる方法です。資産の引き渡しは、株式名簿を書き換えるだけで完了します。簡便な方法としてM&Aで最も多く利用されています。
【株式譲渡】
- 【譲渡】クロージング書類(各種証明書・株主名簿)と株式を引き渡す
- 【譲受】書類と株式の確認後、取得対価を支払う
- 【両者】重要物の受け渡し(株主名簿の書き換え・会社実印)
- 【譲受】クロージング日に臨時株主総会を開催、新役員の選任などを決議
M&Aに必要な交渉は、最終契約書締結の段階でほとんど終わっています。クロージングの目的は、株式譲渡実行のための必要書類がそろっていることとその有効性の確認、各書類の署名押印の確認などです。
これらが満たされたうえで、株式の引き渡しと取得対価の支払いが行われます。必要な書類が欠如している場合や、正しい段取りが踏まれていない場合、M&Aの正当性や有効性が疑われてしまうため、慎重に行う必要があります。
譲渡対象が株式譲渡制限会社の場合は、上記の手順に加えて会社の承認が必要です。譲受側はクロージングまでに、取締役会もしくは株主総会を開催して会社の承認を得ます。
事業譲渡
事業譲渡は事業の一部を切り離して譲渡する方法です。特定の事業のみを引き渡すため、会社の経営権は移転しない特徴があります。
譲渡する事業を自由に選べるメリットがあります。ただし、引き渡す資産・負債は個別に承認を得る必要があるので注意しなければなりません。
ほかの方法と比較すると、必要な手続きは煩雑になりがちで多くの時間を要します。クロージング日に行う手続きが1日で済まないこともあります。事業譲渡日と一致しないケースも珍しくありません。
合併・会社分割
合併は複数の法人格を単一に統合、会社分割は単一の法人格を複数に分割する方法です。会社法上では組織再編と呼ばれており、株式交換や株式移転なども存在します。
組織再編を行う際、株主総会の特別決議承認や、債権者の利益を保護するための債権者保護手続きが必要です。一定の期間を要するため、クロージングまで期間が空く特徴があります。
株式交換や株式移転の場合、法人格は維持されて権利義務の承継は発生しません。債権者保護手続きは、一部の例外を除き必要ありません。
その代わり、公正取引委員会に株式取得に関する計画届出書などの提出手続きが必要となります。
第三者割当増資
第三者割当増資は、第三者に新株を引き受ける権利を付与させ株式を発行する方法です。100%経営権が移転するものではないため、M&Aの方法としてはあまり利用されません。
第三者割当増資のクロージング手続きは、譲渡側が取締役会の決議を得たうえで新株発行手続きを行えば完了します。ただし、株価の価格が適正価格よりもかけ離れている場合は、株主総会を開催して特別決議が必要となります。
クロージング手続きの重要性
M&A先との交渉は、最終契約書締結の段階ですべて終えています。しかし、その後のクロージングもM&Aを成約させるためには欠かせない工程となっており、クロージングを行って初めてM&Aが完了します。
クロージングの主な目的は、譲渡対象の引き渡しと取得対価の支払いです。言葉にすると簡単ですが、実際に実行するためには数々の問題が存在していることも事実です。
例えば、譲渡対象の価値が、クロージング日までに著しく変動してしまう問題があります。一般的にクロージングまでに一定の期間を要するため、最終契約書で締結した譲渡金額から価値が変動してしまうことも珍しくありません。
対処法として、譲渡対象の価値がクロージング日においても保証されていることをクロージング条項として定めておきます。このように、適正な取引を行うためにも重要です。
クロージング手続きの期間
一般的に、最終契約書の締結からクロージングを行うまで、一定の期間を要します。これは、譲渡側が引き渡すための資産・事業を整理し、クロージングにて提出する必要書類を取りそろえる必要があるからです。
要する期間は、譲渡対象の規模によって1カ月前後、ケースによっては1年以上かかることもあります。株式譲渡の場合は手続きが簡便なこともあり、最終契約書の締結と同時にクロージングとする場合もあります。
そのほか、規模が極端に小さい・最終契約日までに必要な手続きがすべて完了している場合も同様です。
クロージング条項とは
クロージング条項とは、クロージングを実行する前提条件です。最終契約書の締結日からクロージング日までに、譲渡対象の価値が著しく変動しないよう努めることを義務づけるための事項です。
具体的には、M&Aについて役員や重要な取引先から同意を得ていること、デューデリジェンスによって致命的な問題が発覚した際は、クロージング日までに改善するなどの事項が記載されます。
これらの問題に対処しやすいようにするためにも、最終契約書にはクロージング条項を定めておくのが重要といえるでしょう。
クロージング条項の具体例
クロージング条項として具体的に記載される内容には、以下のようなものがあります。
- MAC条項
- キーマン条項
- COC条項
- 業務上の許認可が取得されていること
- 履行すべき誓約事項が実行されていること
「MAC」は、Material Adverse Changeのことで、日本語では重大な悪化をさします。「MAC条項」とは、対象企業の財務状態や経営状態に、重大な悪影響を及ぼす事由が発生していないことを、前提条件として盛り込んでおく条項のことです。
「キーマン条項」とは、対象企業の「キーマン=事業継続上重要な役割を果たす役員や従業員」が、継続して企業に残ることを定めておくものです。
「COC(Change of Control)条項」とは、経営権(支配権)の変更があった場合、契約内容に制約がかかったり、契約自体を解除できたりする条項をさします。法務デューデリジェンス後に発覚することが多いです。
そのほか、株式譲渡のケースでは、買主は売主企業のすべて(資産・債務など)を引き継ぐことから、売主の個人的な目的で購入された本業とは関わりのない非事業用の資産(例えば高級車や不動産など)も含めてM&Aの対象です。なので、当事者間で対象となる資産を確認して価格を決定し、売主が売主企業から買取の諸手続を進めなければならないこともあります。
クロージング条項の決め方
クロージング条項は、クロージングの延期や契約の解除に大きな影響を及ぼすため、できる限り具体的・客観的に決めるようにしましょう。重大な事項にのみ限定し、主観的な決め方は避けたほうが良いでしょう。
クロージングの条件を満たすには、当事者双方が何をすればよいのか明確に定めておかなければ、トラブルに発展してしまいます。クロージングされない事態に陥るケースもゼロではありません。
例えば、どのような条件をクリアするか曖昧だと、当時会社の片方がクロージングを取りやめたいがゆえに、条件をクリアしない可能性もゼロではありません。そうならないためにも、双方納得のいく条件を決定しましょう。
4. M&Aのプレ・ポストクロージング手続き
M&Aはクロージングの手続きが重要なポイントです。ここではクロージングの前後に行われるプレクロージング・ポストクロージングの手続きについて紹介します。
プレクロージング
プレクロージングとは、クロージングの数日前から行われる準備段階のものをいいます。関係者が集まり、クロージングでチェックリストに目を通しながらクロージング条件が満たされているかを一つずつ確認します。
クロージングに進む前に条件の整合性を確認する目的として行われます。
ポストクロージング
ポストクロージングは、クロージングの後に行う一連の手続きをいいます。手続きは主に下記の通りです。
- 株主総会や取締役会で必要な決議
- 誓約事項の実施
- 財務諸表の作成
- 取引価格の調整
ポストクロージングはM&Aの取引が正式に終了した後の重要な工程であり、事業統合や合併に向けた取り組みになります。
5. M&Aのクロージング手続きに必要な書類
クロージングに向けて、必要書類を取りそろえておく必要があります。この段階で交渉は終わっていますので、用意するものは、M&Aに関連した自社の処理に関連したものがほとんどです。
この章では、M&Aで最も用いられる株式譲渡について、クロージング手続きに必要な書類を、譲渡側・譲受側それぞれ解説します。
譲渡側が用意するクロージングの必要書類
譲渡側が用意するクロージング書類には、主に以下の5つがあります。
【株式譲渡用クロージングの必要書類】
- 株式譲渡承認の議事録
- 株式譲渡承認書兼承認通知書
- 株主名簿記載事項書換請求書
- 株主名簿
- 株式譲渡代金の領収書
株式譲渡承認の議事録
譲渡制限株式会社の場合、株式譲渡承認の議事録が必要になります。通常、株式は第三者に自由に譲渡できるものです。定款に株式の譲渡を制限する旨を記載すれば、譲渡制限株式会社にできます。
小規模な会社や家族経営の会社が、悪質な第三者による株式占有によって、経営に大きな影響を与えることを防ぐために利用されるのが一般的です。
M&Aによって売却を検討・実施する会社は、譲渡制限株式会社となっているケースが多いです。会社の承認を得なければ、株式譲渡はできません。
たとえM&A取引先との合意が得られているとしても、例外は認められません。取締役会もしくは株主総会を開いて、特別決議にて株式譲渡承認を得る必要があります。通常の株式会社である場合は、この工程や書類は不要です。
株式譲渡承認書兼承認通知書
株式譲渡承認書は、株主総会の特別決議にて株式譲渡の承認を得たことを示すための書面です。会社による承認を得たうえで、クロージングに望んでいることを証明するために用意しておきます。
株主名簿記載事項書換請求書
株主名簿記載事項書換請求書とは、株主名簿の書き換えを行う際に請求するための書面です。株式譲渡によって株主が変わる際も必要となります。
決まった様式はなく、譲渡会社指定の請求書を作成するのが一般的です。株式数・株式取得者の氏名や住所などを全て記載し、後は認印するだけの状態で提出します。
株主名簿
持分比率がわかるように株主名簿も提出します。基本的に会社に保管しておくものです。しかし、必要となる場面がほとんどないこともあり、用意がされていないことも珍しくありません。
中小企業では、十分に管理されていないこともあり得ます。クロージング前に株主名簿の存在とその内容を確認しておきましょう。
株式譲渡代金の領収書
株式の取得対価を受け取ったことを示すための領収書です。こちらは金銭の領収書としての働きがありますが、ほとんどのケースで印紙代は必要ありません。
その場で代金を支払う場合は印紙代が必要となります。株式譲渡契約では、取得対価の支払い前に締結されているのが一般的であるからです。
【前提条件用クロージングの必要書類】
- 役員の辞任届
- 譲渡対象会社の印鑑証明書
- 取締役会議事録(株主総会招集)
- 臨時株主総会議事録(役員改選・役員退職金支給)
- 取締役会議事録(役員退職金支給)
- 役員退職金支給の領収書の写し
【その他用意するもの】
- 実印・銀行員・代表印・社印・印鑑カード
- 預金通帳・銀行カード・クレジットカード
- 鍵
- 代表者の印鑑証明書
- 代表者の本人確認書類(運転免許証等)
譲受側が用意するクロージングの必要書類
譲受側が用意するクロージング書類には、主に以下の4つがあります。
【譲受側が用意するクロージングの必要書類】
- 顧問契約書
- クロージング書類受領書
- 譲受会社の印鑑証明書
- 譲受会社の登記簿謄本
顧問契約書
譲渡側の経営者と顧問契約を行う場合は顧問契約書が必要です。株式譲渡後、事業が安定するまでの一定期間、会社に残ってもらうように依頼するケースがあります。
ロックアップと呼ばれるもので、事業引継ぎの円滑化や経営者が顔を出すことによる従業員の動揺を抑える働きがあります。顧問契約書には、具体的な業務内容・期間・報酬などを記載しましょう。
クロージング書類受領書
譲渡側のクロージング関連書類や重要な提出物の受領書です。譲受側が譲渡側より重要な書類を受領したことを証明するために発行しておく必要があります。
譲受会社の印鑑証明書
クロージングの際は、会社の印鑑証明書も必要です。印鑑証明書の発行は最寄りの法務局で手続きします。以前は管轄の法務局に限られていましたが、昨今はどこの法務局でも対応されるようになりました。
【会社の印鑑証明書発行の際に用意しておくもの】
- 代表印
- 会社の印鑑カード
- 交付料450円(1通)
譲受会社の登記簿謄本
登記簿謄本(登記事項証明書)も用意しておきましょう。こちらも法務局より発行手続きをします。発行に必要な書類は特にありませんので、交付料600円(1通)を持参してください。
6. M&Aのクロージング条件とは
本章では、M&Aのクロージング条件にスポットを当てて詳しく取り上げます。
一般的なクロージングの前提条件の事例を把握し、自身のM&Aに役立てましょう。
クロージング条件の重要性
クロージング条件とは、株式譲渡を実行する場合の譲れない一定条件のことです。譲渡企業と譲受企業の間で合意した最終契約書によって定められ、その条件はM&Aの内容や双方の要望によって異なります。
クロージング条件が一つでも満たされていない場合、クロージングの延期もしくは最終契約の解除まで判断できることから、非常に重要です。
クロージング条件の例
代表的なクロージング条件の例を下表にまとめました。
例 | 概要 |
MAC条項 | 株式譲渡契約書等の締結から一定の期間後に決済等が実施される契約において、重大な悪影響が発生した際には契約解除あるいは条件の修正を行う条項であり、一般的には表明保証条項と関連して規定する。 |
キーマン条項 | 対象会社にとって事業継続上、重要な役員や従業員が退職等により対象会社に所属しなくなったことを期限の利益喪失事由とする条項。 |
7. M&Aのクロージング手続きを成功させるポイント
M&Aのクロージングを成功させるためには、いくつかのポイントを抑えておく必要があります。ここでは、そのなかの重要な3つのポイントを説明します。
【M&Aにおけるクロージングの成功ポイント】
- クロージングの価格調整を盛り込む
- 具体的な内容をクロージング条項に入れる
- クロージングの期間に注意してスケジュールを組む
①クロージングの価格調整を盛り込む
価格調整とは、最終契約書の締結からクロージング日までに譲渡対象の価値が変動した際、取得対価の価格調整を行うために記載する事項です。一般的に、最終契約書締結から実際の引き渡しまで一定の期間を設けます。
しかし、会社や事業の価値は毎日変動していくものです。実際のM&Aで、事後的に価格調整を実施するケースはほとんどありません。想定外の事態によって大きく変動したときを考慮して、クロージングの価格調整を盛り込むケースもあります。
②具体的な内容をクロージング条項に入れる
最終契約書のクロージング条項に具体的な内容を入れておくと、クロージングを円滑に進めやすくなります。盛り込む内容は主に以下の6つです。①~④はクロージングを円滑に進めるために重要なものです。⑤⑥は企業の価値に大きく影響します。
M&A後の取引先との契約解除や重要な役員の辞職は大きな損害になるため、M&Aに同意を得ていることをクロージング条項に盛り込んでおきます。
【クロージング条項】
- 表明・保証事項が正しいものであること
- クロージング日までにクロージング前提条件を満たしておくこと
- 業務上の許認可が取得済みであること
- 独占禁止法による届出済みであること
- 重要な取引先から同意を得ていること
- 重要な役員から同意を得ていること
③クロージングの期間に注意してスケジュールを組む
クロージングに向けて慎重に準備を進める必要があります。M&A手法によっては必要となる手続きが多岐に渡り、かなりの期間を要するのも珍しくありません。
まれに、譲受側の都合で厳しいスケジュールを提案してくる場合があります。この際、必要な期間を計算せずに承諾してしまい、実際にクロージング日までに準備ができなかった場合は、何かしらの譲歩を求められるケースもあります。
余裕をもったスケジュールを組んでおくのが重要です。専門家との相談を繰り返してクロージング手続きに要する期間を見積もっておきましょう。
8. M&Aのクロージングに関する相談先
M&Aは、相手先の選定・交渉や各種契約書の締結など、さまざまな手続きが必要になります。最終工程であるクロージングでは法的な手続きが多く、専門家にサポートしてもらうのがおすすめです。
M&A総合研究所では、M&Aの知識と経験豊富なM&Aアドバイザーが相談からクロージングまで責任を持ってサポートします。料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。
M&A総合研究所はスピーディーなサポートを実践しており、最短3カ月での成約実績があります。随時、無料相談を受け付けています。M&Aをご検討の際は、ぜひM&A総合研究所にご相談ください。
9. M&Aのクロージングまとめ
M&AのクロージングはM&A実務の集大成であり、必要書類の取りそろえやクロージング条項の順守など、多くの事前準備を要します。
【株式譲渡用クロージングの必要書類】
- 株式譲渡承認の議事録
- 株式譲渡承認書兼承認通知書
- 株主名簿記載事項書換請求書
- 株主名簿
- 株式譲渡代金の領収書
【前提条件用クロージングの必要書類】
- 役員の辞任届
- 譲渡対象会社の印鑑証明書
- 取締役会議事録(株主総会招集)
- 臨時株主総会議事録(役員改選・役員退職金支給)
- 取締役会議事録(役員退職金支給)
- 役員退職金支給の領収書の写し
【M&Aのクロージングまでの流れ】
- 専門家に相談
- 秘密保持契約の締結
- M&A先の選定・交渉
- 基本合意書の締結
- デューデリジェンスの実施
- 最終契約書の締結
- クロージング
【M&Aにおけるクロージングの成功ポイント】
- クロージングの価格調整を盛り込む
- 具体的な内容をクロージング条項に入れる
- クロージングの期間に注意してスケジュールを組む
M&Aのクロージングまでの道のりはとても険しいものです。M&A先の選定・交渉、各種契約書の締結、クロージングの必要書類の準備など、全てを不備なく進める必要があります。
これらを円滑に進めるためにも、M&Aの相談からクロージングまでの全体の流れをサポートできる専門家に相談するのをおすすめします。
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