2024年06月27日更新
M&Aのメリット・デメリットとは?企業買収の効果やリスクを買い手・売り手ごとにわかりやすく解説!
M&Aのメリット・デメリットは買い手・売り手の立場によって異なります。M&Aを成功させるためには、相手の立場でのメリット・デメリットを知ることも必要です。本記事ではM&Aに関する様々なメリット・デメリットをわかりやすく解説していきます。
目次
1. 【買い手側】M&Aのメリット
M&Aは、一般的に買い手側の会社を成長させる有力な手段として、会社規模の大小にかかわらず、さまざまな業種・業界で行われるようになりました。
買い手にとってM&Aの最大のメリットは、時間をお金で買うことにあると頻繁にいわれます。具体的にどのような利点があるのか、以下のメリットを1つずつ掘り下げて解説します。
- ローリスクで事業拡大
- 事業成長のための時間短縮
- 節税対策
- 弱点強化
- 技術向上
- ライバルを取り込める
- 事業の多角化
①ローリスクで事業拡大
新しい事業をゼロから始めるには、多くの時間とお金がかかります。さまざまな内的・外的要因により失敗してしまうことも多く、新規事業の成功確率は5%といった説もあるほどです。
実際に、今や誰もが知っているカジュアルウェアのトップ企業であるユニクロの柳井氏も、「一勝九敗」の著書の中で新規事業の厳しさを述べています。ECモール大手の楽天グループは、M&Aの利点をうまく活用し事業の拡大に結び付けている会社の1つです。
新規参入のハードルが特に高いといわれている銀行・生命保険・クレジットカードなどの金融サービス事業にM&Aを通じて参入し、その後、国内屈指のサービスへと成長させてきました。
M&Aを選択することで、買い手はすでに事業として成り立っているものを自社に取り込めるメリットがあります。何もない段階から新しい事業を立ち上げるよりも、はるかに低いリスクで事業を拡大していけるでしょう。
②事業成長のための時間短縮
新しい事業に限らず、既存の事業を成長させる際にもM&Aは活用されます。それは、成長にかかる時間が短縮されるメリットがあるからです。
例えば、コンビニエンスストアは立地が業績を左右する重要な要素ですが、国内で条件のそろった場所は他社との競争も激しく、矢継ぎ早に新規出店を行っていくのは容易ではありません。
そのなかで、業界トップのセブン-イレブンに対して、ローソンはショップ99や成城石井などをM&Aにより取得しました。ファミリーマートはサークルKサンクスを傘下に持つユニーと統合し、ファミリーマートとしての店舗を増やしています。
もともと統合前のファミリーマートは11,000店舗程度でしたが、ユニーとの統合により急速に約6,000店舗増加し、王者セブン-イレブンの20,000店舗まであと一歩の17,000店舗に到達しました。M&Aによって、出店の時間を飛躍的に短縮した事例といえます。
③節税対策
あまり知られていないメリットとして、M&Aによって買い手が節税できるケースもあります。これは売り手が繰越欠損金を抱えていた場合、買い手がそれを引き継ぐことが出来るからです。
欠損金とは、簡単にいうと赤字のことです。欠損金は次年度以降7年間でゼロになるまで黒字額と相殺できる制度があり、その欠損金残高を繰越欠損金といいます。
買い手が黒字の場合、繰越欠損金のある売り手をM&Aで買収することで節税ができるため、有効なメリットとなります。
④弱点強化
自社の弱い部分をM&Aの利点を生かして強化できます。自社のバリューチェーンのなかで弱い部分を補完できる企業を買収することで、競争力が上がり、収益力が強化されるのがよくあるメリットです。
メーカーのバリューチェーンは、一般的に商品企画・材料調達・加工製造・配送・販売活動で構成されます。例えば、あるメーカーの製品の品質が他社と比較して非常に高く利用者の評判も良いものの、営業力が弱いために売上が伸びていないケースを考えてみましょう。
このメーカーが営業力のある販売会社をM&Aにより獲得できたとすると、飛躍的に売上を伸ばせます。弱みを自社で強化するのは、新規事業を行うのと同様に時間もお金もかかるため、M&Aの実施は効果絶大です。
⑤技術向上
M&Aは、人材・特許・ノウハウなど技術力の源泉を取り込めるため、買い手の技術力・研究開発力が向上する点もメリットです。
先進国における消費者ニーズの多様化を背景として、特に近年では一般消費者向けの市場で製品のライフサイクル(寿命)が短くなっています。一方で、企業側の研究開発には通常、多くの年数がかかり、開発に成功するかどうかも不確定です。
研究開発へ多額の投資を続けるよりも、すでに一定の技術やノウハウを持つ企業をM&Aにより取り込んだほうが早く確実に新製品を生み出せるため、技術力を目的としたM&Aが増えています。
⑥ライバルを取り込める
需要がピークに達しており、市場としてこれ以上の成長が見込めないような段階をマーケティング用語で「成熟期」と呼びますが、この段階に入るとライバル同士でシェアの獲得競争が盛んになります。
ここで値下げ合戦による顧客の奪い合いに発展してしまうとプレイヤー全体が消耗してしまうため、M&Aによるライバル同士の統合や買収といった形で業界再編が起きるのも成熟期の特徴の1つです。
M&Aによりライバルを取り込めば、値下げ合戦から抜け出せて持続性を保てる点でメリットのある選択となります。
⑦事業の多角化
ビジネスが厳しくなる中で、会社の収益を安定させるためには、異なる種類の事業を行うことがときに必要となります。これは事業の多角化と呼ばれます。自社の事業とは異なる業種の企業を買収することにより、新たな領域への進出や、製品やサービスの生産から販売までの過程(これをバリューチェーンと呼びます)を広げることが可能です。
例えば、ネット通販の大手企業である楽天は、そのビジネスに合致する様々な業種の企業を買収してきました。これにより、楽天は旅行業や銀行、クレジットカードなどの金融業といった新たな分野に進出し、事業の多角化を実現しています。
2. 【買い手側】M&Aのデメリット
M&Aの買い手にはさまざまなメリットがある反面、デメリットも存在します。M&Aを検討する際は、メリットだけでなくデメリットも慎重に検討することが必要です。以下に、M&Aにおける買い手の主なデメリットを紹介します。
①シナジー効果が生まれない可能性
M&Aの取引では、多くの場合、買い手は1+1が3にも4にもなるようなシナジー効果を見込んで価値を算出し、その価値にもとづいて買収金額を決定します。
シナジー効果の例を挙げると、M&Aにより製品のラインアップが拡大して未開拓の顧客を獲得し売上が増加するケース、原材料の一括大量調達や大量生産が可能になり製造コストが低減できるケースなどです。
しかし、いざM&Aを行ってみるとお互い未開拓だった顧客に対してうまく売り込めず売上が伸びない、一括で大量発注ができるような類似品が思ったより少ない、生産効率が思ったほど上がらずコストが下がらないことがよくあります。
それどころか、規模が拡大してしまったことにより間接部門の管理コストが増加してしまうなど、マイナスの影響の方が大きくなってしまうケースも珍しくありません。
シナジー効果が生まれない可能性があることもあらかじめ念頭に置き、決して過大評価しないことが、シナジー効果の見誤りによるデメリットを防ぐためには必要です。
②従業員が離職するおそれがある
M&Aで買収された企業の従業員は、買い手企業の一員になるのが通常です。そのとき、両社間の待遇差があったり、買収先企業の従業員の仕事内容や労働環境が変わったりなどすると、買収先従業員の不満がたまっていきます。
企業の成長の源泉は従業員であると考えると、買収先企業の従業員に不満がたまることによるデメリットは大きいです。最悪の場合には、従業員が大量に退職してしまい、シナジー効果どころか業務が回らなくなる事態に陥ってしまうでしょう。
買い手には、買収先従業員が不満を抱くことにならないかどうか、不満を抱くような体制があれば改善の方法を慎重に検討し、デメリットを検証しながら必要に応じてそれを解消していく取り組みが求められます。
③偶発債務・簿外債務などの粉飾が発覚するリスク
偶発債務とは、債務保証、デリバティブ(先物取引などの金融派生商品取引)、手形割引・裏書譲渡、係争中裁判で敗訴した場合の損害賠償債務などです。将来、発生することが特定できない債務をさします。
簿外債務とは、帳簿(貸借対照表)に計上されていない債務のことです。未払い残業代、賞与・退職給付引当金、買掛金、リース債務、未払いの社会保険料などがあり、偶発債務も簿外債務に含まれます。
これらは売り手が粉飾しているケースもありますが、売り手自身も気付いていないケースも多く、M&A実施後に発覚する可能性があります。その場合、内容によっては買い手が受ける経営的ダメージは甚大です。
④許認可を承継できず事業を継続できないおそれ
株式譲渡などで買収先企業を子会社にする場合は、買収先企業は株主が代わっただけなので、許認可に何も影響を受けません。しかし、それ以外のM&Aスキーム(手法)では許認可が引き継がれないことが多く、買収側が新たに許認可を取得しない限り事業を継続できません。
M&A後、許認可の扱いがどうなるか事前に確認し必要な手配を行っておかないと、事業が一時停止してしまうおそれがあります。
⑤投資以上の利益が得られないリスク
買収価額を決める際に、売却側企業を必要以上に高く評価したのれんを加味した場合、M&A実施後、その金額に見合う利益が上げられないなどは起こり得ます。最悪の場合には、投資金額の回収すら及ばず、のれんの減損損失措置を行っている事例もあります。
どんなに理想の売り手であったとしても、厳密なデューデリジェンス(売却企業の精密監査)と慎重な買収価額の検討は怠らないようにしましょう。
⑥時間とコストがかかる
M&Aは最終契約後に完了しますが、そこで終わりではなく成約後にはPMIのといわれている両社の融合が重要です。PMIは、従業員の統合のみならず、組織文化や情報システム、従業員の評価システムなどさまざまです。長年培われてきた組織文化を統合するには、時間とコストがかかります。そのため、M&A後のPMIの進め方について、早い段階から考えておく必要があるでしょう。
3. 【売り手側】M&Aのメリット
M&Aは企業同士の結婚と例えられるように、買い手と売り手が相思相愛であることが成立の大事な要素です。ここまでM&Aによるメリット・デメリットを買い手の視点からみてきましたが、ここからは売り手に視点を移します。まずは、M&Aにおける売り手のメリットです。
①事業をつぶさずに済む
M&Aを実施できれば、直近の業績が悪く債務超過の状態である売り手でも事業をつぶさずに済むメリットがあります。これは、M&Aの価値評価法として最もよく使われるDCF法が、売り手の事業が将来にわたって生み出すキャッシュフローをもとに算定するためです。
つまり、直近の財務状態が多少悪くても、M&A後に事業が安定的な利益を生み出せると予想される場合、買い手にとっては買収する価値があると判断されます。特に買い手と売り手の事業にシナジーがあると、場合によっては高額で取引されるかもしれません。
事業が継続できなくなってしまうことは、取引先・従業員・株主などさまざまなステイクホルダーにとって不幸な結果を招きます。そうした事態に備えて、早い段階でM&Aによる売却を選択肢の1つとして検討することも、事業継続のためには重要です。
②後継者問題の解決
2019(令和元)年に行われた中小企業の調査によると、中小企業の経営者のうち5割超が廃業を予定しており、後継者がいない理由はそのうちの3割弱を占めています。
(出典:日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」)
廃業予定企業のうち、3割の経営者が同業他社よりも良い業績を上げている、今後10年間の将来性も4割の経営者が少なくとも現状維持は可能と回答しています。経営者の高齢化が進んでいる日本では、その解決策としてのM&Aによる売却はメリットが大きく、市場としてのポテンシャルも大きいことがいえるでしょう。
国としても事業承継を目的としたM&Aがなかなか進んでいない現状を改善するため、「中⼩企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)」のもとで「事業承継税制」の特例制度を設けています。
これは一定の要件のもと、非上場株式の承継に係る贈与税・相続税が猶予されるものです。適用されるためにはさまざまな要件がありますので、もし検討する場合には税理士や各都道府県の「事業引き継ぎ相談窓口」へ相談するのがよいでしょう。
経営承継円滑化法では税制優遇メリットのほかに、民法の特例や日本政策金融公庫などによる金融支援を受けられるメリットもあります。こうした事業承継全般に関して相談したい場合には、「中小企業基盤整備機構」の各地域窓口へ問い合わせるのがよいでしょう。
M&Aによる事業の円滑な引き継ぎには、ノウハウの承継など後継者人材の育成も必要となることから、余裕を持った取り組みが必要です。さまざまな利点を生かすために、早期の準備が望まれます。
③売却益が得られる
M&Aによる売却を行うと、多くの場合、現金で売却益を受け取れるメリットがあります。その際、買い手が売り手企業の価値を高く評価するほど、多くの売却益を得られる公算です。株式には上場株式と非上場株式の2種類があります。
非上場の株式は、中小企業の場合、売り手の経営者が実質オーナーであることがほとんどのため、買い手と売り手の経営者の話し合いで金額が決まるのが常です。一方で上場株式の場合、売り手の株主は不特定多数になります。
この場合、売り手の経営者の希望金額と買い手の希望金額が一致していたとしても、不特定多数の株主が賛同しない限り、買い手は希望どおり買収できません。買い手はアドバイザリーと相談しながら、多数株主が納得するような金額に設定する必要があります。
④従業員を守れる
事業の存続が危ぶまれている状況でM&Aによる売却を行った場合、基本的には従業員は売り手の一員となりますので、雇用が継続される利点があります。
継続的な事業運営、シナジーの創出といった利点を最大限得るためには従業員の働きによるところが大きく、M&Aの場も従業員をステイクホルダーの一員と捉えて、保護していくことが必要です。
⑤経営者としての責任から解放される
中小企業の場合、経営者と株主であるオーナーが同一であることがほとんどで、実質1人で経営責任を負っているのが実情です。
金融機関からの借入の際に経営者が個人保証を負っていることも多く、株式会社でありながら経営と所有の分離ができていない現実があります。経営者の親や配偶者といった家族が連帯保証を負っているケースもよくあることです。
経営餌がまだまだ現役世代で熱意にあふれた状態であればよいですが、高齢になってくると相続や自分が病気になってしまったときのことを考え、それがよりプレッシャーとなってきます。結果的に、精神状態が不安定になってしまうこともあるでしょう。
そうしたときに、M&Aによって会社を売却できれば、金銭的な不安や経営に対するプレッシャーから解放されることになり、大きなメリットを得られるでしょう。
若い経営者であっても、自社の所有にそれほどこだわりがない場合には、M&Aによる売却を行ってアーリーリタイヤし、多くの自由を得るメリットもあります。
⑥廃業コストの発生を回避できる
廃業時にも、さまざまな費用が必要になります。これには、会社の機器や在庫の処分費用、レンタルしていた店舗を元の状態に戻す費用が含まれます。
さらに、廃業に関する全ての書類手続きや税金の処理に関するサービスを依頼する費用、また解雇される従業員への補償も必要となるでしょう。そして、経営者自身も生活を再建する必要があり、借金がある場合にはその返済を続けなければならないことも念頭に置くべきです。
会社を閉じてしまうと、これまで培ってきた事業や技術、従業員の雇用といったものをすべて失ってしまいます。しかし、適切な条件での合併や買収(M&A)が行われれば、閉業に伴う費用を抑えるとともに、事業や技術、従業員の雇用を維持することが可能です。
4. 【売り手側】M&Aのデメリット
ここまでM&Aの売り手のメリットを挙げてきましたが、買い手同様に売り手側にもデメリットがあるので注意が必要です。
売り手側は主に経営者にメリットがある場合が多く、一方でデメリットは残された従業員や株主以外のステイクホルダーが受ける場合が多いため、さまざまなステイクホルダーのメリット・デメリットを考慮してM&Aを決めることが重要です。
- 希望どおりの相手先企業が見つかるとは限らない
- 自社従業員の待遇悪化によるモチベーションの低下
①希望どおりの相手先企業が見つかるとは限らない
M&Aはタイミングの取引ともいわれます。自社が売却したいタイミングで理想的な買い手が現れるかどうかはわかりません。売却希望企業の多い業種や、現在あまり業績がよくない場合は、売り手からのニーズが低くなります。
ほかの企業が売り手に選ばれてしまい、なかなか交渉のテーブルに着けないこともあるでしょう。したがって、ある程度の長期戦を覚悟してM&Aに臨む方がよいかもしれません。
②自社従業員の待遇悪化によるモチベーションの低下
最もデメリットを受ける可能性があるのは従業員です。待遇・勤務地・仕事内容の変更・仕事量の増加やリストラのリスクなど、従業員は数多くのリスクにさらされます。
売り手企業に長く勤めている経営者や企業に愛着を持っている従業員は、会社が売却されることで他の条件が変わらなくても、モチベーションが低下するかもしれません。
そうした不満を持ったまま売却され経営統合が進むと、従業員側の不満が両社のあつれきとなり、業務・管理・人事システムやルールの統合、シナジー効果創出の障害です。
売却後の経営統合を円滑にし、取引が成功だったとステイクホルダー全員が実感するためにも、売り手側従業員のケアは重要です。
M&Aでは、売り手がよほど専門性を持った特殊な企業でない限り、売却後に従業員の待遇が上がるケースは少ないです。売り手企業の待遇が買い手企業の待遇よりよかった場合や、売り手の業績が著しく悪かった場合は、売却後に従業員の待遇が悪化する可能性があります。
こうした待遇面のデメリットは、M&Aを実施する前に従業員へ説明しておくことで、売却後の不満も多少やわらぐ可能性があります。どうしても譲れないポイントがあれば、従業員の待遇維持などを売却の条件とすることも検討しておくのがよいでしょう。
5. 【買い手側】M&Aを成功させるコツ
M&Aで大切なのは、大きな失敗を避ける意識を持つことです。M&Aが成立した時点で「時間を買うこと」には成功していますので、その後は事業統合後にM&Aのシナジー効果を発揮できるように意識する必要があります。
買い手企業がM&Aで大きな失敗を避けるためには、正確な「デューデリジェンス(DD)」を行いましょう。DDとは、売り手企業の財務・税務・法務・人事などのあらゆるリスクを洗い出す作業で、正確な買収価格を算出するためにも重要なプロセスです。
買収対象企業をさまざまな観点から分析し、意図せず引き継いでしまう可能性がある「簿外債務」や「偶発債務」まで把握できれば、買収後のトラブルを最小限に抑えることができます。
また、M&Aでは「適切なスキームの選択」や「基本合意の締結」も大失敗を避けるために重要です。これらもしっかりと理解しておきましょう。
6. 【売り手側】M&Aを成功させるコツ
M&Aでは、財務情報、従業員情報、事業詳細などを開示せずに買い手候補と交渉することはできません。しかし、これらの情報は会社の根幹に関わる重要な情報であり、万が一漏洩すると大きな損失を被る可能性があります。M&Aは「秘密保持に始まり、秘密保持に終わる」と言われるほど、秘密保持が重要です。関係者には秘密保持の重要性を十分に伝え、その対策をしっかり行うことが大切です。
また、M&Aの事実を伝えた際に、既存の取引先や従業員から不安や不満の声が上がることがあります。情報開示の場面では、経営者がM&Aを行った背景や今後の方針について丁寧に説明し、不安を取り除くことが重要です。開示のタイミングや表現に注意して進めましょう。
7. 【従業員】M&Aのメリット・デメリット
ここまで買い手側・売り手側のメリット・デメリットをお伝えしましたが、従業員にもメリット・デメリットがあります。先述した通りM&Aは従業員からの不満が出るケースも多いです。以下でそれぞれについて具体的にお伝えしますので、参考にしてみてください。
従業員のメリット
売り手と買い手の企業文化が一つになることで、従業員は以下のようなメリットを得られる可能性があります。
- 働きやすさの向上
- 福利厚生の充実
- キャリアアップのチャンス
- 教育制度の充実
- 雇用の安定
M&Aが行われる際には売り手側に経営的な問題があることも少なくありません。企業文化が統一されることで雇用の安定性が増し、充実した福利厚生や教育制度、キャリアアップのチャンスも得やすいです。総合的に働きやすくなる場合も多いため、M&Aは従業員にとっても大きなメリットがあります。
従業員のデメリット
メリットが多い一方で、次のようなデメリットも挙げられます。
- リストラや転勤
- 社内変化のストレス
- コミュニケーション的な問題
- キャリアの中断
売り手側の企業はとくに大きな変化が伴うため、従業員にとっては慣れない環境となったり、今までのキャリアが中断されるケースが多いです。そのため急な社内変化をストレスに感じたり、コミュニケーション的な問題で摩擦が生じることも。中にはリストラせざるを得ないケースや勤務地が変わることもあるため、従業員から不満の声が出ることも少なくありません。
8. 【顧客】M&Aのメリット・デメリット
M&Aは既存の取引先など、顧客にとってもメリットやデメリットが生じます。以下でそれぞれについて詳しくお伝えしますので、参考にしてみてください。
顧客のメリット
まずは顧客のメリットですが、下記のような点が挙げられます。
- 商品ラインナップの増加やサービスの多様化
- 商品・サービス価格の低下
- 取引の安定性向上
M&Aで事業規模が拡大されることによって、商品のラインナップが増えたり、サービスが多様化するケースが多いです。さらに商品・サービスの質が向上したり、価格が低下することもあります。また事業の安定性が増すことから、取引も安定しやすくなるでしょう。
顧客のデメリット
メリットがある一方で、以下のようなデメリットもあります。
- 商品・サービスの質の低下や価格の上昇
- 顧客サポートの変化
- 既存商品・サービスの終了
事業が統合されることにより、既存の商品や製品、サービスなどが終了してしまうケースがあります。また、商品・サービスの質が良くなる可能性がある一方で、逆に質が低下してしまう恐れもあるでしょう。このように良くも悪くも取引に変化が生じるケースがあるため、注意が必要です。
9. 大手企業・中小企業がM&Aを選択する経緯
ここでは、大手企業・中小企業がM&Aを選択する経緯をそれぞれ順番に解説します。
大手企業の経緯
最近、経済ニュースや雑誌で「ROE経営」という用語をよく見かけます。この言葉が広まった背景には、2014年に日本政府が提案した「日本再興戦略」があります。この戦略では、日本の企業に世界水準のROE(自己資本利益率)を目指すよう促しています。
つまり、単に利益を貯め込むのではなく、新しい設備への投資や事業の再編、M&A(合併・買収)を通じて成長を目指すべきだという考え方です。特に、上場企業では、従業員が参加する持株会を通じた自社株の買い戻しや、株主への配当の増加、外国企業の買収、中小企業の買収、さらには大企業が自社の一部を売却するカーブアウト型M&Aなどが、より積極的に行われるようになっています。
中小企業の経緯
多くの企業で社長の高齢化が進んでいます。その結果、経営が順調な優良企業であっても、後継者不足に悩むケースが増えています。この問題を解決する一つの方法として、他の会社に経営を引き継ぐM&A(合併・買収)が選ばれることがあります。実際に、東京商工リサーチの調査によると、2020年には中小企業の休業・廃業・解散が49,698件に達し、これは過去最高の数字です。
参考:東京商工リサーチ「2020年「休廃業・解散企業」動向調査」
10. M&Aの成功・失敗事例
M&Aは上場企業・中小企業・個人事業主など、さまざまな規模の企業で行われています。ここでは、実際にどのようなM&Aが行われているか、過去の事例を解説します。
大手企業のM&A成功事例
誰もが知っているような大企業は、さらなる成長のために多くのM&Aを行っています。
ニデック
ニデックは海外を中心に多くのM&Aを手掛けてきました。業績不振の企業を買収し、素早く経営を立て直す「M&A巧者」とされています。日本企業として早い時期から取り入れ、国内外で70件以上のM&Aを実施しています。
事業構造の転換をM&Aにより進め、現在は「家電・商業・産業用製品」「車載用製品」「その他」の3つの柱を軸に事業を展開しています。過去には三菱重工工作機械やOKK、オムロンオートモーティなどのM&Aを実施しました。
楽天グループ
楽天グループはECモールの最大手ですが、ECだけでなくさまざまな事業領域をM&Aによって拡充させてきました。KCカードを運営する国内信販会社を買収し楽天カードへ、イーバンクを子会社化して楽天銀行へ、そして楽天生命も既存の保険会社を買収することで成長しています。
ソフトバンクグループ
ソフトバンクグループは通信会社として大きな成長を遂げていますが、その過程では日本テレコム、ボーダフォン、イー・アクセスなどをM&Aで取得し大きくなった背景があります。
日本たばこ産業(JT)
JTは本業のたばこ事業を成長させるため、グローバルで同業のM&A(クロスボーダーM&A)を行っています。RJRナビスコの米国たばこ事業の買収により売上が10倍に増加、英国ギャラハーの買収によりさらに売上が倍に成長しました。
日本電産
日本電産は、1984(昭和59)年から2018(平成30)年までの34年間で60社に対してM&Aを実施しています。年間1〜2社のM&Aを実施しており、驚くべき数値です。日本電産はM&Aを重要な成長戦略として明確に位置付けている点が特徴です。
武田薬品工業
2018年、武田薬品工業は、アイルランドの製薬大手シャイアーとのM&Aで6.2兆円の巨額買収したことが大きなニュースになりました。シャイアーの買収により海外での存在感が向上し、売上高が世界でも上位に入る製薬企業となりました。
三井住友海上
三井住友海上は経済成長の著しいASEAN(東南アジア諸国連合)を中心としたアジア市場に狙いを定めて、数千億規模のM&Aを行い、現在も成長中です。ASEAN10カ国で元受事業を行っている唯一の損害保険グループになるなど、保険事業を通じて中長期的な実績を上げています。
クラレ
総資産7,000億円のクラレが米炭素材料事業大手のカルゴンカーボンを約1,200億円で買収するとの報道がされました。クラレにとって過去最大規模の買収とのことで、社運を賭けたM&Aであることがわかります。
日本郵政
日本郵政は2018年に発表した新中期計画で、以後3年間で数千億円を資本提携やM&A、ベンチャー投資に投じると発表しました。そして12月、日本郵政はアフラック・インコーポレーテッドおよびアフラック生命保険との資本業務提携に合意しています。
強い信頼関係を確立してきた日本郵政とアフラック生命は、今回の資本業務提携により、がん保険に関する取り組みの見直しと成長サイクルの実現を目指す目論見です。日本郵政は今後、不動産M&Aも前向きに検討していることを発表しています。
サントリーホールディングス
サントリーホールディングスは、2014(平成26)年にジムビームを保有する米蒸留酒最大手ビーム社を1.6兆円で買収しました。当時、大型買収として話題になりましたが、海外企業とのM&Aでも特に成功した事例だといわれています。
当初、サントリーは創業200年の老舗メーカーで、伝統やこだわりが強いビームとの統合がうまくいきませんでした。しかし、ローソン会長だった新浪剛史氏を社長に招き、両社が歩み寄ったことにより世界的なメーカーへと成り上がりました。
東芝
経営再建中の東芝ですが、2018年に半導体メモリ子会社の東芝メモリを1.4兆円で売却したとの報道がありました。売却資金をどう使うのか、今後に期待が集まっています。
大手企業のM&A失敗事例
成功があれば失敗もあります。大企業の場合にはM&Aに費やす額が大きいため、失敗したときの損失額も数百億円から数千億円と桁違いです。
パナソニック
パナソニックでは、2009(平成21)年に三洋電機をM&Aにより約4,000億円で取得した後に、のれん代の2,500億円を減損処理したことがありました。
富士通
富士通は、英ICL社をM&Aにより1,800億円で巨額買収した後に、多額の評価損を計上しています。
セブン&アイ・ホールディングス
セブン&アイ・ホールディングスは、そごう・西武の株式を累計2,000億円超で取得したものの、その後に約600億円の評価損を計上しています。
丸紅
丸紅は、2012(平成24)年に同社過去最高額となる約2,800億円をかけて買収した米穀物メジャーのガビロンについて、2015(平成27)年には、のれん代500億円の減損処理を行っています。
中小企業のM&A成功事例
中小企業でもM&Aは盛んに行われています。ここからは中小企業のM&Aの実情を見てみましょう。
ソフトウエア受託開発事業
ソフトウエア業界はM&Aの活発な業界の1つです。固定資産が少ないこともあり、技術や人材の取り込みがM&Aの主目的のケースもあります。
ネイルサロン
ネイルサロンは参入障壁が低く、競争が激しい業界のため、今後はM&Aによる業界の再編が進むと考えられています。
英会話教室
イーオンの株式をKDDIがM&Aにより取得するとのニュースがありました。英会話や教育業界全般にM&Aの波が押し寄せてきています。
中小企業のM&A失敗事例
中小企業のM&A失敗は、M&Aに関するノウハウの不足、マクロ環境の影響などによるものがあります。
出版会社
出版業界はデジタル化の波が直撃している影響もあり、M&Aによる再編が進行中です。しかしながら、市場自体が縮小傾向にあるため、再編によるスケールメリットが享受できず、失敗しているケースが多くなっています。
温泉旅館
温泉旅館は設備の老朽化、訪問客の減少を背景として売却ニーズが高まっていますが、エリア自体の訪問者が減少していることもあり、成功するケースは少ないです。
デイサービス
デイサービスといった中小規模の介護・医療施設のM&Aでは、取引に精通した専門家が少なく、リスクの洗い出しが不十分なことによる失敗が多く見られます。
11. M&Aのメリット・デメリットまとめ
M&Aのメリットは、買い手にとって自社の強みの強化や弱みの補完、新規事業への参入を迅速に行える点です。楽天グループやソフトバンクグループが圧倒的なスピードでさまざまな事業を行いながら急激に成長したのも、メリットを最大限に活用したといえます。
売り手としても、そのような買い手に価値を認めてもらうことで、大きな売却益を得られ、従業員も成長の機会が広がることでM&Aによるメリットを享受しています。M&Aには多くのメリット・デメリットがありますので、それらを慎重に検討したうえで、最終的に売り手と買い手の双方がWin-Winとなるよう取引を目指すことが重要です。
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