2023年07月27日更新
M&Aアドバイザリーとは?業務内容、求められる素養を徹底解説!
M&Aを行う際は、一般的にM&Aアドバイザリーなどの専門家に相談します。この記事では、M&Aアドバイザリーの業務内容や、M&Aの相談を行った後に支払う成功報酬額について解説しました。経営コンサルタントやM&A仲介会社との違いも比較しています。
目次
1. M&Aアドバイザリーとは
M&Aアドバイザリーとは、M&Aについて専門知識を持った専門家です。まずは、M&Aアドバイザリーを詳しく紹介します。
M&Aを行う企業の利益最大化が目的
そもそもM&Aとは、会社の合併・買収を行うことをいいます。M&Aを行うには、多額の資金が必要となるため、買収する側・売却する側ともに利益が最大になるよう、相手会社の探索・M&Aの交渉をする必要があるでしょう。
そこで活躍するのが、M&Aアドバイザリーです。M&Aアドバイザリーは、会社(クライアント)の利益が最大化するように交渉などを行います。
以下では、買収する側・売却する側の利益を最大化させる項目を紹介します。
買収する側の利益最大化
買収する側の利益を最大化させる項目は、主に以下の2つです。
- M&Aを行うときの買収価格
- 買収後のシナジー効果(相乗効果)
まず1つ目は、M&Aを行うときの買収価格です。買収する側の会社は、M&A後に予想される利益額や買収後の運転資金額を考慮して、買収価格の予算を算出します。そこで、M&Aアドバイザリーはその予算に収まる会社を探索し、買収するように提案します。
2つ目は、買収後のシナジー効果(相乗効果)です。買収を行う際の資金以外にも、買収後の利益をあげる技術・ノウハウも重要でしょう。そして買収する会社は、足し算以上の利益を得られるように、現在行っている事業とのシナジー効果が得られるようM&Aを進めたいと考えています。
そこで、M&Aアドバイザリーは、買収する会社と買収される会社が持っている技術・ノウハウを考慮して、被買収会社の提案を行います。
売却する側の利益最大化
売却する側の利益を最大化させる項目は、主に以下の2つです。
- M&Aを行うときの売却価格
- M&Aにおける売却後の条件設定
まず1つ目は、M&Aを行うときの売却価格です。M&Aにより会社を売却すると、その対価を創業者は受け取れます。当然ですが、会社売却の対価を受け取れば、創業者はできるだけ多くの利益を受け取りたいと考えるでしょう。
M&Aアドバイザリーは、売却価格をできるだけ最大化できる会社を探索し、買収してくれる会社の提案を行います。
2つ目は、M&Aにおける売却後の条件設定です。特に、売却する会社が中小企業の場合、M&Aで自社の従業員の雇用維持を望むことが多いです。M&Aアドバイザリーはその希望を実現できる会社の探索・交渉を行います。
このように、M&Aアドバイザリーは、買収する側・売却する側どちらの利益も最大化できるような業務です。
M&Aアドバイザリーの別名はファイナンシャルアドバイザー(FA)
M&Aをインターネットで検索すると、ファイナンシャルアドバイザー(FA)の言葉が出てきますが、ファイナンシャルアドバイザーは、M&Aアドバイザリーと同じ意味で用いられます。
M&Aアドバイザリーには、専門別に3種類に分類でき、かつては、その中でM&Aの財務に関する専門知識を持っている人をファイナンシャルアドバイザーと呼んでいました。
しかし、現在ではM&Aアドバイザリーの中に占める、ファイナンシャルアドバイザーの割合がとても多いため、区別なく呼んでいます。
ファイナンシャルアドバイザーとM&Aアドバイザリーは同じ意味で使用されているので、混乱しないように注意しましょう。
弁護士業務、会計士業務を含むこともある
基本的に、M&Aの相談をする場合は、ファイナンシャルアドバイザーに依頼します。
大手・中堅クラスのファイナンシャルアドバイザー会社は、グループ会社として設立している場合が多く、グループ内に税理士事務所や弁護士事務所を持っている場合がほとんどでしょう。グループ会社を設立している場合が多い理由は、M&Aでは企業監査(デューデリジェンス)を実施するためです。
企業監査とは、M&Aを行う相手の会社が被買収会社として適しているかを、ビジネス面・財務面・法務面から分析することです。
ファイナンシャルアドバイザーは、M&Aに向けた戦略の構築、相手企業の探索・交渉が主な業務内容であるため、ビジネス面の分析は専門業域となります。しかし、ファイナンシャルアドバイザーは財務面や法務面については専門領域ではないため、弁護士や会計士などの法務・財務の専門家に依頼します。
案件ごとに専門家に調査・分析を依頼すれば、その報酬も支払う必要があるため、M&Aの依頼料が高くなるでしょう。
信頼できる専門家を探す時間がかかる場合がありますが、グループ会社の場合は専門家を探す手間が省けるだけでなく、依頼料を安く抑えるメリットがあります。
一方、規模の小さいM&A会社の場合は、弁護士や公認会計士がファイナンシャルアドバイザー業務を行っていることが多く、2つの業務(M&Aとそれぞれの専門業務)の両方をこなしています。
例えば、弁護士の場合は法務アドバイザーとして、公認会計士の場合は会計・税務アドバイザーとして業務を行っているでしょう。
多才な能力を必要とするM&Aアドバイザーの仕事
M&Aアドバイザーの仕事は「財務会計・税務・法律のるつぼ」ともいわれるくらい、幅広い業務範囲があり能力や知識も必要です。
プロのM&Aアドバイザーになるには、財務会計・税務・法律を知るだけでなく、経営の理解も必要です。交渉やファシリテーションなどにおける高いコミュニケーション能力も不可欠です。
一流のM&Aアドバイザーになるには教養、経験、道徳もすべて備えなければならないため、それまでには苦労を伴うことが少なくありません。しかし、M&Aアドバイザーの仕事は大きなやりがいがあるでしょう。
2. M&Aアドバイザリーの業務内容
M&Aアドバイザリーには、いろいろな業務内容があります。ここでは、以下の業務をそれぞれ紹介します。
- M&A戦略を策定する
- 相手を見つける
- 交渉する
- 契約する
- 統合プロセスの実施
- 資料作成
M&Aの仕事を依頼してから契約完了後の統合プロセスまで、同じM&Aアドバイザリーが仕事をするのが一般的です。
①M&A戦略を策定する
M&A戦略の策定は、自社の経営戦略である目指すべき方向性が決まっているのが前提です。そのうえでM&Aアドバイザリーは、経営陣と同じ視点に立ち、経営戦略、事業戦略を実現するためにどのようなM&Aの手法を活用すればいいのかを検討します。
そして、経営戦略との整合性、ターゲット企業の明確な選定基準、M&Aをスムーズに遂行するためのマネジメントルール、買収後のロードマップなど、M&A戦略の策定を行います。
②相手を見つける
M&Aアドバイザリーは、M&Aを行う際の買収先もしくは売却先の探索を行います。一般的に、M&Aアドバイザリーは、自社に蓄積されている買収先もしくは売却先のリストをもとに探索します。
しかし場合によっては、M&Aアドバイザリー自身が持っている独自のネットワークをもとに顧客のニーズに合う会社を探索することがあるでしょう。もし、このようなM&Aアドバイザリーに依頼すれば、マッチングする確率は上がるといえます。
③交渉する
M&Aアドバイザリーは、M&Aを行うときの交渉を買収先・売却先いずれかの代理で行います。交渉には経験が必要となるため、交渉に慣れていない経営者がM&Aの交渉を行うと、失敗する可能性が高く、大きな損害を被ることになります。
M&Aの知識と経験を持つM&Aアドバイザリーに、M&A交渉の代理を依頼するのが一般的です。
④契約する
M&Aアドバイザリーは、M&Aを行うときの契約を買収先・売却先いずれかの代理で行います。契約代理の業務はM&A交渉に比べたら時間もかからないため、セットで業務を行うことが多いです。
⑤統合プロセスの実施
M&Aアドバイザリーの業務には、M&A後の統合プロセスの実施があります。M&A後の統合作業は、M&Aで一番重要なプロセスであり、M&A後にすぐに利益を出すためには素早い統合が重要です。
しかし、経営者が本業を行いながら統合作業の指揮を執るのは困難であるため、M&A後の統合作業についてM&Aアドバイザリーにアドバイスをもらいます。
M&A後の統合作業には、大きく分けるとハード面とソフト面があります。ハード面での統合作業は、人事システムや経理システムの統合などです。
ハード面の統合作業に関係する部署は、日常業務を行いながら統合作業を行う必要があり、M&A後はかなりの負荷がかかります。M&Aアドバイザリーは効率的に統合作業が行えるよう、アドバイスをします。
ソフト面の統合作業は、企業文化の統合や組織再編などです。ソフト面の統合は、経営者だけでなく従業員も協力して行わなければならないため、統合完了までには時間を要するでしょう。
M&AアドバイザリーはM&A前の買収会社・被買収会社の社風などを分析して、効率よく統合作業が進められるようアドバイスを行います。
⑥資料作成
資料作成は、M&Aアドバイザリー業務の中でも重要な業務です。その理由は、依頼された会社の経営者だけでなく、買収先もしくは売却先のM&Aアドバイザリー・経営者に対しても、M&Aの説明・報告をする必要があるからです。
まず、依頼された会社に対してM&Aアドバイザリーは、今後行っていくM&A戦略などを説明する必要があるでしょう。M&Aの交渉・契約を依頼された会社の代理で行う場合には、進捗(しんちょく)状況を説明する義務があります。
一方、買収先もしくは売却先のM&Aアドバイザリー・経営者に対しては、希望する契約条件の説明やクロージング(M&Aの実施)まで流れの説明などを行う必要があるでしょう。このほかにも、M&Aの一連作業で、常にレポート作成やプレゼン資料作成なども行います。
3. M&Aアドバイザリーの手数料
M&Aアドバイザリーの手数料は、M&Aを行う際の各段階で設定されています。詳しくは後で説明しますが、ここではM&Aの成功報酬を解説しましょう。
M&Aアドバイザリーへの成功報酬は、レーマン方式に沿って算出されます。レーマン方式とは、M&A契約により移動させた金額(取引金額)をもとに算出する方式のことです。
【算出手数料の相場】
取引価格 | 手数料率 |
5億円以下 | 5% |
5億円超~10億円以下 | 4% |
10億円超~50億円以下 | 3% |
50億円超~100億円以下 | 2% |
100億円超~ | 1% |
M&A取引価格が11億円である例を参考に紹介します。この場合、成功報酬は「(5億×5%)+((10-5)億×4%)+((11-10)億×3%)=4,800万円」と算出されます。
したがって、M&A取引価格が11億円のとき、M&Aアドバイザリーへ支払う成功報酬は4,800万円となるでしょう。
4. M&Aアドバイザリーと仲介業務の違い
M&Aを行う形態には2種類あります。それが、M&AアドバイザリーとM&A仲介の2つの形態です。M&Aアドバイザリーと仲介業務の違いを解説します。
M&Aアドバイザリーはどちらかに付く
M&Aアドバイザリーは、買収する側と売却する側それぞれどちらかの側に付いてM&Aの交渉・契約を行います。主に上場企業など大会社同士がM&Aを行う際に取る形態です。
買収する側と売却する側の間を取り持つM&A仲介の形態に比べて、M&Aアドバイザリーの形態は会社専属で契約してM&Aの交渉・契約を行うため、より会社の利益最大化のために努めます。しかし、M&Aアドバイザリーへの手数料はその分割高です。
M&A仲介は間に入る
M&A仲介では、買収したい会社や売却したい会社を募集してそれぞれの希望条件に合うようにマッチングを行います。そのあと、M&A仲介会社が間を取り持ってM&Aの交渉・契約を行います。
主に中小企業のM&Aを行う際は、M&A仲介の形態をとることが多いです。
5. M&Aアドバイザリーと経営コンサル業務の違い
M&Aアドバイザリーと似ている業務として経営コンサル業務があります。次は、M&Aアドバイザリーと経営コンサル業務の違いを紹介します。
経営コンサルは抽象的で幅広い
経営コンサルの業務は、一般的に抽象的で幅広いです。その理由は、経営は多くの要素から成り立っているからです。財務やM&A以外にも、組織論・システム・法務などがあります。
大手経営コンサル会社の場合は、各専門分野のアドバイザーが在籍しています。複数の経営相談に対応するケースもあるでしょう。しかし、コンサル会社ですべての経営相談を受けられないため、相談内容に応じてコンサル会社を選ぶ必要があります。
中小企業の場合は、中小企業診断士に相談する方法もあります。中小企業診断士は、中小企業に関する経営のすべてを網羅している専門家です。
ネットワークが広い中小企業診断士に相談すると、相談内容によっては弁護士や社労士など専門家を紹介してもらえます。個人で運営する中小企業診断士への報酬は、大手経営コンサル会社へ支払う報酬よりも安価な場合が多いです。
M&Aアドバイザリーは目的が具体的
M&Aアドバイザリー業務の目的は、経営コンサルに比べて具体的です。つまり、M&Aアドバイザリーの業務は、経営のいろいろな要素の中でM&Aに特化しているため、経営コンサル業務よりも具体的であるといえます。
M&Aアドバイザリーは、M&Aに関しての専門家のネットワークも構築しているので、専門家を迅速に紹介してもらえます。
6. M&Aアドバイザリーに求められる素養
M&Aアドバイザリーに求められる素養を紹介します。
経験
まず経験として重要視されているのが、M&A業務に携わったかどうかが大きいでしょう。例えば、以下のような業務が挙げられます。
- 証券会社での投資銀行業務
- 金融機関の財務部門
- 会社の経営企画部門
- 総合商社でのM&A、PMIの経験
- 海外の買収先企業への駐在・協業経験
- 経営コンサルティングファームの協業経験
他にも、経営企画業務や経営・事業・営業・商品などのプロジェクト参画経験があると良いでしょう。したがって、M&Aの業務経験があるか、あるいは会社戦略や企画立案といったプロジェクト経験があるかが重要です。
スキル
M&Aアドバイザリー業務ではM&Aにおける利害関係者との調整や交渉が必要です。したがって、クライアントリレーション能力、コミュニケーション能力が求められるでしょう。
M&Aでは複雑なプロセスが多く、多数の利害関係者が関与するため、円滑に進められるプロジェクトマネジメント能力が必要とされます。進捗(しんちょく)管理や課題管理、リスク管理ができる高いスキルもあると良いでしょう。
財務系スキルは、財務モデリングや事業計画策定に係る専門的かつ実務的なノウハウ、デューデリジェンスといった専門的なスキルが求められます。
資格
M&Aアドバイザリー自体は資格が必要な職種ではありません。しかし、経営や財務、マネジメントスキルを保有している証明として、以下のような資格を保有していると有利でしょう。
- 中小企業診断士
- MBA
- 公認会計士
- 税理士
英語力
海外M&A案件を扱っているところでは、英語力が必須です。明示的にスコアを示しているM&Aアドバイザリーもあります。英語力の経験として有利とされるのは、海外駐在経験や留学経験、TOEIC900点以上などが挙げられるでしょう。
7. M&Aアドバイザリー活用の際の注意点
M&Aを行う際は、M&Aアドバイザリーと契約を締結する必要があります。M&Aアドバイザリーは自社のM&Aをサポートしてもらえる半面、注意しなければならない点もあるでしょう。この章では、M&Aアドバイザリーを活用する際の注意するべき事項を紹介します。
- コストパフォーマンスを考える
- 情報漏えいに注意
- 目的に合ったM&Aアドバイザリーを選択
①コストパフォーマンスを考える
まずは、M&Aでのコストパフォーマンスを考える必要があります。M&Aアドバイザリーへの手数料には、成功報酬以外に、取引着手の前段階や取引着手の段階に手数料を支払う場合です。
取引着手前段階では、M&Aでの相手会社の探索などを行いますが、相手会社を紹介してもらうだけでM&Aアドバイザリーへ支払う手数料が発生します。
取引着手段階では実際にM&Aの交渉を行いますが、これに対しても手数料が発生するでしょう。このように、M&AのすべてをM&Aアドバイザリーに依頼すると成功報酬以外にも手数料がかかります。
このことを踏まえたうえで、M&A後に成功報酬と手数料の合計額に見合うだけの利益を出せるか、経営戦略をしっかりと考えておく必要があります。
②情報漏えいに注意
M&Aを行う際は、情報漏えいに注意しなければなりません。特に、売却を行う場合、M&Aアドバイザリーはその会社の価格を算出するために会社の調査を行います。
したがって、会社の売却価格を最大化させるために、会社の技術・ノウハウなどの情報も、M&Aアドバイザリーに開示する必要があります。しかし、社外秘の情報が漏えいしてしまうと、売却する会社の価値が大きく下がってしまう可能性があるでしょう。
そのような事態を防ぐため、M&Aアドバイザリーと機密保持契約を締結します。M&Aアドバイザリーと機密保持契約を交わす際は、契約内容をしっかりと確認することも必要です。
③目的に合ったM&Aアドバイザリーを選択
M&Aを行う際は、目的に合ったM&Aアドバイザリーを選択する必要があります。先ほども紹介しましたが、M&Aアドバイザリーや仲介会社には、それぞれ得意としている分野があります。
例えば、中小企業を専門とするM&Aアドバイザリーや、その地域でのM&A情報を多く持つM&Aアドバイザリーなど、いろいろな得意分野を持つM&Aアドバイザリーです。
自社の利益を最大化するM&Aを行うためには、M&Aアドバイザリーを選択することが非常に重要です。
8. M&Aアドバイザリーのまとめ
M&Aアドバイザリーの業務を紹介しました。M&Aを行う際に一番重要なのは、自社の戦略をしっかりと考えることです。M&Aの戦略がよくなければ、利益の最大化はできません。M&Aでは大きな資金が動くため、サポート役となるM&Aアドバイザリー・M&A仲介会社選びは、非常に重要です。
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