2024年08月06日更新
M&Aのバリュエーションとは?企業価値評価の算定方法やメリット・デメリットを解説【事例・動画あり】
M&Aのバリュエーション(企業価値評価)にはいくつかの方法があり、それぞれメリット・デメリットが異なります。この記事では、M&Aのバリュエーションの算定方法の種類やメリット・デメリットを解説します。
目次
- M&Aのバリュエーション(企業価値評価)とは
- M&Aにおけるバリュエーションを行うタイミング
- M&Aのバリュエーション(企業価値評価)の種類
- コストアプローチによる主な算定方法
- インカムアプローチによる主な算定方法
- マーケットアプローチによる主な算定方法
- バリュエーション(企業価値評価)における売り手側のポイント
- バリュエーション(企業価値評価 )における買い手側のポイント
- バリュエーション(企業価値評価)の影響力
- 上場・未上場・ベンチャー企業におけるバリュエーション(企業価値評価)の相違点
- バリュエーション(企業価値評価)が向上した会社の事例
- バリュエーション(企業価値評価)に関するおすすめの本
- M&Aのバリュエーション(企業価値評価)まとめ
1. M&Aのバリュエーション(企業価値評価)とは
M&Aのバリュエーション(企業価値評価)とは、簡単にいえば「会社の値段を算出すること」をいいます。M&A時に算出した企業価値は、売り手側と買い手側の金額交渉の判断基準(ベース)となる重要な要素です。
バリュエーション(企業価値評価)の意味
企業価値は「企業全体の価値」であり、企業が行っている事業の価値だけでなく、非事業用の資産価値も含めて算出します。つまり「企業価値=事業価値+非事業用資産」となります。また、バリュエーションとはその企業価値を算出することを指します。
非事業用資産とは、企業が保有する資産で事業に用いていないものであり、遊休資産(企業が保有する事業に使用していない不動産・設備など)や、有価証券・出資金・保険積立金・貸付金などが該当します。
M&Aでバリュエーションを行う際は、企業または事業の収益性、資産・負債の価値、類似の上場企業のM&A取引など、さまざま要素を加味して企業価値を求めます。
企業価値と時価総額の違い
時価総額とは発行済み株式の総額で「株式価値」と呼ばれることもあります。企業価値との違いは負債価値が含まれているかどうかです。
企業価値は企業全体の価値を表すため企業の負債も含めて算出しますが、時価総額は単純に総株式数に株価をかけて算出するため負債は一切加味されません。
上場企業の時価総額を求める場合は簡単であり「現在の株価 × 発行株式数」で計算すればよいですが、非上場企業の場合は株式の市場価格がないため、M&Aを行うときなどはバリュエーションによって企業価値を求め、そこから時価総額を算出するかたちになります。
企業価値と事業価値の違い
事業価値とは、企業が行う事業によって生み出される価値のことです。事業価値は、のれん・無形資産・知的財産価値など貸借対照表には載っていない要素も含めて算出されます。
前述したように「企業価値=事業価値+非事業用資産」なので、事業価値は企業価値の一部ということです。
企業価値と株主価値の違い
株主価値とは株主に帰属する価値のことで、企業価値から他人資本(負債)である有利子負債などを差し引いて求めることができます。
ただし、実際に算定を行う場合は、少数株主の持ち分に対する減算処理や、種類株式などの取扱いについての処理が必要です。
企業価値と買収価額の違い
M&Aにおける買収価額は、売り手・買い手の交渉によって決まるため、企業価値・事業価値・株主価値のような定義はありません。ただし、交渉の基になる金額として、バリュエーションの数値が重要な役割を持ちます。
バリュエーションの必要性
バリュエーションは、買い手と売り手の間で異なる影響を持ちます。これは、企業の価値の評価が、関係者間での利益の移動として現れるからです。この評価結果の影響をよく理解することが大切です。
M&Aを行う当事会社にはそれぞれ株主がいて、投資を行うベンチャーキャピタルの場合は出資者がいます。
M&Aや投資では、直接の当事者以外に利害を受ける関係者が存在するため、当事会社が利害関係者に対して負うのが説明責任です。投資判断を論理的に説明するうえで、バリュエーションの数値は大いに説得力を持ちます。
2. M&Aにおけるバリュエーションを行うタイミング
M&Aのプロセスではバリュエーションを行うタイミングが3回ありますが、ここではなぜそのタイミングでバリュエーションを行うのかを解説します。
基本合意契約の締結前
M&Aでは、売り手・買い手は交渉に入る前に秘密保持契約を締結し、互いの情報も開示したうえで具体的な交渉へと進み、互いがM&Aの内容・条件に大筋で合意したら基本合意書を締結します。
基本合意書に記載されるのは、条件や取引価額などその時点で合意した内容ですが、基本合意書自体に法的拘束力はありません。ここに記載される取引価額は前段階での交渉で取り決めた額ですが、価格交渉時のベースとなるのが企業価値です。
企業価値が算出されていなければ適切な価格で交渉できないため、基本合意書締結前の価額交渉をする段階でバリュエーションを済ませておく必要があります。
デューデリジェンス後の最終契約交渉前
基本合意書締結後は、買い手によって売り手に対するデューデリジェンスが行われます。デューデリジェンスは、法務・人事・財務などの面から買収リスクを洗い出す調査です。
デューデリジェンス後、買い手が買収を実行しても問題ないと判断すれば最終交渉へと進み、互いが合意すれば最終契約書を締結します。
最終交渉はデューデリジェンスの結果をもとに行いますが、基本合意書締結前のバリュエーションは、売り手から提供された情報に基づいて実施されたものです。
売り手側に悪意はなくても適正なバリュエーションを行うには情報が不足していたというケースもあるかもしれません。そのため、買い手はデューデリジェンスによって売り手の情報・実態を精査し、それをもとに最終交渉に向けたバリュエーションを行います。
意思決定の前
投資を実行する前は、上場会社であれば取締役会の開催が必要です。交渉によって投資金額が確定した段階で、取締役会の意思決定が必要となります。
その際の客観的な判断材料としてバリュエーションが意思決定前に実施されるケースがありますが、この場合は契約金額を前提としているため簡易に実施されるケースがほとんどです。
なお、M&Aは、契約が成立することが目的ではなく、その後が本番です。「M&Aの成功」とは、期待していたシナジー効果が現れ、投資に見合うリターンが得られることを指します。その成功を評価するためには、買い手が明確な投資判断基準を持つことが重要です。
ここでいう投資判断の基準とは、「企業を買収する際にどの程度の金額までなら支払っても良いか」を判断するための基準です。
適切な基準をもとに検討することで、対象企業の株価が適正かどうかを判断でき、過剰な支出を避けることができます。頻繁にM&Aを行う企業は、独自の投資判断基準を設定し、慎重に案件を評価しています。
3. M&Aのバリュエーション(企業価値評価)の種類
企業価値を高めていくにあたっては、企業価値をどのように評価するのか知っておかなければなりません。そこで、バリュエーションを算出する方法で、代表的なものを紹介します。M&Aの現場でよく使われるのは、インカムアプローチの中のDCF法です。
バリュエーションの算定には、以下の3つの体系によるアプローチ方法があります。
- コストアプローチ
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
それぞれ、順番に確認しますが、以下の動画でも解説しておりますので、そちらもご覧ください。
①コストアプローチ
コストアプローチとは、企業の純資産を基準に企業価値を求める方法です。簡単に計算でき客観性に優れているというメリットがあります。今すぐに自社の企業価値を知りたいといった場合も活用しやすいバリュエーションです。
コストアプローチのメリット
- 客観性が高い
コストアプローチのメリットは、客観性の高さです。また、企業の保有する純資産をもとに企業価値を算出するため、比較的簡単に求められる点もメリットといえます。
コストアプローチのデメリット
- 収益性は反映されない
- 帳簿の誤りに評価結果が左右される
- 市場の状況が反映されない
コストアプローチは現時点での純資産をベースに企業価値を求めるため、将来の収益性や事業の成長性は反映されない点が最大のデメリットです。
企業清算では多く用いられますが、M&Aや投資のように将来的な収益を考慮すべき場面にはあまり適していません。
コストアプローチが基本的な手法とされる理由
コストアプローチにはいくつかの種類がありますが、そのうち中小企業M&Aで用いられることが多いのは「時価純資産+のれん」で企業価値を求める方法です。
時価純資産にのれんを加算するので、対象企業の収益力を加味した企業価値を算出できます。のれんに含まれる代表的なものは、技術力・ノウハウ・ブランド力・人的資源などです。
また、客観性が高いため売り手・買い手双方の理解が得やすいというのもコストアプローチが用いられる理由となっています。
②インカムアプローチ
インカムアプローチは、将来期待される収益やキャッシュフロー予測をもとに企業価値を求める方法です。キャッシュフローとは企業の収益(収入)から支出を差し引いた額であり、ある一定期間の現金の流れを意味します。
インカムアプローチは「この企業に投資したら(買収したら)最終的にどれくらいの額を回収できるか」という考えに基づくバリュエーションです。代表的な方法には、DCF法や配当還元法があります。
インカムアプローチのメリット
- 将来の収益力を反映させやすい
- 会社特有の価値を反映させやすい
インカムアプローチのメリットは、コストアプローチでは欠落してしまっていた企業の将来の収益性が加味される点です。算出の基とする中期計画書のテーマの持たせ方によって、複数の「if」シナリオごとのバリュエーションができます。
事業計画のシミュレーションには時間を要しますが、資金調達方法や買収方法ごとの節税効果なども反映させることが可能です。
インカムアプローチのデメリット
- 事業計画などを基に算出するため、主観や恣意性が入りやすい
- 清算を考えている企業は評価ができない
インカムアプローチは事業計画書などを基に企業価値を算出しますが、そもそも事業計画の段階で策定者の主観や恣意(しい)性が入りやすいというデメリットがあります。また、将来の事業(企業)収益を予想するため、清算予定の企業では用いることができません。
③マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、売り手側企業と類似する上場企業や、類似するM&A取引を基にしてバリュエーションをする方法です。
マーケットアプローチのメリット
- 市場の情報を基に評価するため客観性が高い
マーケット・アプローチでは、非上場企業が評価対象の場合、同業他社や類似のM&A事例などを基準に企業価値を求めるため、客観性が高いことがメリットです。代表的な方法には、類似会社比準方式・市場株価方式などがあります。
マーケットアプローチのデメリット
- 個別の事象を反映することはできない
- 類似会社がない場合は算出できない
マーケットアプローチ最大のデメリットは、条件に合う既存の企業・取引が見つからなければ算出できない点です。
また、参照できるのはあくまでも既存企業の現在価値であって、将来の価値は未知数である点もデメリットといえるでしょう。
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M&A総合研究所では、M&Aを前提としたバリュエーションを無料で行っております(無料企業価値査定サービス)。M&A総合研究所であれば、一定の企業情報の開示だけで、滞りなくバリュエーションの算出が可能です。
守秘義務契約に基づき作業を行いますので、企業価値算定で知り得た情報に関して外部に漏れるようなことは決してありません。ぜひ、お気軽にご相談ください。
4. コストアプローチによる主な算定方法
ここでは、具体的なコストアプローチ方法を説明します。主なコストアプローチとしては、以下の2種類です。
①簿価純資産法
簿価純資産法とは、帳簿上の資産合計から負債合計を差し引いて純資産を算出しそれを株式価値とする方法です。コストアプローチの中でも最も簡単な計算方法です。
簿価純資産法のメリット・デメリット
会計上の帳簿価格に基づき企業価値を算出しているため客観性を保つことができる点もメリットです。また、計算が簡単であるため作業がほとんどないこともメリットと言えます。
一方、簿価純資産法のデメリットとしては、帳簿の価格に基づき計算するため資産や負債の帳簿価格と時価に差がある場合、簿価純資産は実態と乖離している可能性がある点が挙げられます。
簿価純資産法による算定事例
ここでは、以下の貸借対照表の内容を前提として、簿価純資産法による算定例を紹介します。
資産 | 負債 | ||
---|---|---|---|
現金 | 300 | 買掛債権 | 90 |
不動産 | 100 | 退職給付引当金 | 30 |
有価証券 | 40 | 賞与引当金 | 20 |
合計 | 440 | 合計 | 140 |
【算定例】
- 資産440-負債140=純資産(株式価値)300
②時価純資産価額法
時価純資産価額法とは、帳簿上の全ての資産と負債を時価で再評価し、純資産の金額を計算して企業価値を求める方法で、無形資産も含めて計算します。無形資産に該当するものには、従業員・スキル・ノウハウ・技術・ブランド力・特許・商標権などがあります。
無形資産は企業価値に与える影響が大きい要素であり、従業員の技術や特許などは企業によって違うため、算出に含めることで低いと感じていた企業価値が実は高かったというケースもあり得るでしょう。
時価に換算する項目
資産 | 負債 | ||
---|---|---|---|
売掛金・ 貸付金 |
回収不能価額を控除 | 未払給与 | 未払い給与・残業代がある場合は計上 |
棚卸資産 | 長期に滞留している在庫や販売見込みのない在庫分は控除 | 賞与引当金 | 退職金の積立不足を計上 |
有価証券 | 上場会社の有価証券は時価に換算 | 退職給与引当金 | 賞与の引当不足を計上 |
不動産 | 時価に換算 | 偶発債務 | 訴訟等のリスクを評価 |
保険積立金 | 解約返戻金額等へ評価替え | 有利子負債 | 詳細に評価する場合は時価に換算 |
時価純資産価額法のメリット・デメリット
時価純資産価額法のメリットは、計算が簡単で、客観的な評価ができる点です。特に、金融機関や不動産会社などは適切な評価を得られます。帳簿上の資産や負債の時価も反映されているため、実際の企業価値に近いというのもメリットです。
一方で、時価純資産価額法のデメリットには、収益性が考慮されない点や評価の前提である帳簿金額が間違っていた場合は適切に評価できない点が挙げられます。
時価純資産価額法による算定事例
ここでは、以下の貸借対照表の内容を前提として、時価純資産価額法による算定例を紹介します。
資産 | 負債 | ||
---|---|---|---|
現金 | 300 | 買掛債権 | 90 |
不動産 | 100 | 退職給付引当金 | 30 |
有価証券 | 40 | 賞与引当金 | 20 |
合計 | 440 | 合計 | 140 |
【資産の時価算定要素】
- 不動産の評価含み益:40
- 有価証券の含み益:20
【負債の時価算定要素】
- 退職給付引当金の不足:20
- 賞与引当金の不足:10
【算定例】
- 資産の時価評価=現金300+不動産(100+40)+有価証券(40+20)=500
- 負債の時価評価=買掛債権90+退職給付引当金(30+20)+賞与引当金(20+10)=170
- 資産500-負債170=純資産(株式価値)330
算定の結果、貸借対照表上の株式価値は300でしたが、時価評価した結果の株式価値は330となりました。
③時価純資産+営業権(超過収益還元法・年買法)
時価純資産+営業権とは、時価評価した純資産額に営業権を加算して企業価値を算出する方法です。営業権とは、帳簿上で評価できない企業の潜在価値のことです。
業種・規模に限らず、大抵の企業は目に見えない資産を有しています。現在は目に見えない資産でも将来的に収益を生み出すものがあれば、現在価値に換算して営業権として計上します。
営業権の計算法としてよく使用されるのは超過収益還元法と年倍法の2つがあります。
超過収益還元法とは、企業の収益から期待収益を超える収益を差し引き求められた超過収益を、超過収益が持続することが可能な年数分を考慮し営業権として時価純資産に加算し企業価値を計算する方法です。
一方、年買法は、企業の収益の数年分を営業権として簡便に算出する方法です。
時価純資産+営業権のメリット・デメリット
時価純資産+営業権のメリットは、営業権を時価純資産に加算することによって、適正に純資産価値を時価で評価でき、その上、収益力を考慮した企業価値評価が算出できる点です。そのため、中小企業のM&Aでは広く一般的に使用されている方法となっています。
一方、デメリットとして市場の相場やトレンドを反映しづらい点や将来の収益獲得能力を反映しづらい点が挙げられます。
時価純資産+営業権による算定事例
超過収益還元法の場合
企業収益 | 160 |
---|---|
期待収益 | 100 |
超過収益が持続可能な年数 | 3 |
- 超過収益=企業収益160ー期待収益100=60
- 営業権=超過収益60×超過収益が持続可能な年数3=180
- 時価純資産+営業権180=株式価値
5. インカムアプローチによる主な算定方法
次は、インカムアプローチによる算定方法について解説します。インカムアプローチの主な方法は、以下の3つです。
①DCF法
DCF法は、将来期待できるキャッシュフローを現在価値に割り引くことで企業価値を求める方法です。事業計画書などをベースとして考えた場合、将来性のある収益はどのくらいあるのかをより正確に算出したいのであれば、起こり得るリスクも加味して収益を計算しておかなくてはなりません。
手順は面倒ですが、リスクも含めて計算して将来性を価値に反映できるのはDCF法の大きなメリットです。また、DCF法は、無形資産やのれんなど、ほかの方法では含められない要素などを計算に加えることで、一定尺度による正確な数字を求めることができます。多くのケースでDCF法が好んで使われるのは、このような理由のためです。
DCFのメリット・デメリット
DCF法のメリットは、対象会社の事業計画を基に株式価値を算定しているため、現在の収益率が芳しくなくても将来の利益計画が明確であれば、買収の妥当性などが検討しやすい点です。
そのほか、投資リスクを反映した割引率を用いて算定できることや、遊休資産や余剰資産など実態を表すキャッシュフローが使用できることもメリットとして挙げられます。
一方で、DCF法のデメリットは、対象会社の作成した事業計画であるため、作成側の主観や恣意性が入りやすいことです。事業計画の損益の妥当性やシナジー効果など、自社の評価を高く見積もってしまう可能性もあるため、結果として事業価値が変わってしまうケースもあります。
ほかにも、事業計画における資産・負債の内訳などの情報収集、割引率の算定におけるマーケット情報収集など、評価に多くの時間がかかるのもデメリットといえるでしょう。
DCF法による算定事例
DCF法によるバリュエーションは以下の手順で行われます。
- 将来のフリーキャッシュフロー予測
- 割引率の算出
- 事業価値の算出
- 非事業用資産や有利子負債の調整をし、株式価値を算出
①将来のフリーキャッシュフロー予測
フリーキャッシュフローは、以下の計算式で求めます。
- フリーキャッシュフロー=税引後営業利益+減価償却費-設備投資±運転資本などの増減
フリーキャッシュフローの算出には少なくとも5期分の値が必要です。この計算事例では以下の値を用いてバリュエーションを行います。
1期 | 2期 | 3期 | 4期 | 5期 | |
---|---|---|---|---|---|
税引後営業利益 | 20 | 30 | 50 | 50 | 50 |
減価償却費 | 5 | 5 | 10 | 10 | 10 |
設備投資 | 0 | 10 | 30 | 10 | 10 |
運転資本などの増減 | 0 | -5 | -10 | 0 | 0 |
フリーキャッシュフロー | 25 | 20 | 20 | 50 | 50 |
②割引率の算出
割引率は、企業の自己資本コストと負債コストを加重平均して計算したものであるWACC(Weighted Average Cost of Capital=加重平均資本コスト)を使用するのが一般的です。
WACCの算出は複雑なので詳細は省略しますが、この計算事例では5%(割引率は5%)として説明していきます。
③事業価値の算出
DCF法による事業価値の算出方法は、以下の計算式です。
- 1期目のフリーキャッシュフロー/(1+割引率)
- +2期目のフリーキャッシュフロー/(1+割引率)²
- +3期目のフリーキャッシュフロー/(1+割引率)³
- +4期目…
この計算式に先程の手順①②を基に値を当てはめると以下のようになります。
- 1期:25/(1+0.05)≒24
- 2期:20/(1+0.05)²≒18
- 3期:20/(1+0.05)³≒17
- 4期:50/(1+0.05)⁴≒41
- 5期:50/(1+0.05)⁵≒39
- 合計(事業価値)=139
今回は、5年後までのキャッシュフローを基に事業価値を算出しましたが、5年後のキャッシュフローが6年目以降も永続的に続くものとして算出する方法として、ターミナル・バリュー(残存価値)もあります。
④非事業用資産や有利子負債の調整をし、株式価値を算出
事業価値 | 139 |
---|---|
非事業用資産 | 20 |
有利子負債 | 40 |
非事業用資産とは、事業には関係しない資産のことを示します。具体的には遊休資産、余剰資金、有価証券等などを指します。
有利子負債とは、借入金などの他人資本を示します。
事業価値ではこれらが計算されていないため、非事業用資産を加算、有利子負債を控除して算定します。
- 株式価値=事業価値139+非事業用資産20ー有利子負債40=119
②収益還元法
収益還元法とは、分子に平均収益、分母に資本還元率を用いてバリュエーションを行う方法です。こちらは、市場金利や長期国債利回りなどのリスクも含めて計算します。
総合的にリスクを判断する場合にも役立つ方法ですが、平均収益を使っているためベンチャー企業などのように収益が拡大が見込まれるケースでは正確な数字を求めることができません。
もし、ベンチャー企業で企業価値を知りたいのであれば、専門家に依頼して細かく見てもらう必要があるでしょう。
③配当還元法
配当還元法とは、株式の配当金に着目して企業価値を算出する方法です。実際のM&Aでは、バリュエーションとして配当還元法が用いられるケースはほとんどありません。
算出時の基準となるのは、会社の資本金と株式配当金です。前期・前々期の2年度分の配当金を10%の利率で割り戻し、それを基に株価を算定します。
配当還元法が用いられるケースとしては、会社の株式全体の5%未満程度を主有している株主が株式譲渡を実施する場合などが考えられるでしょう。
配当還元法のメリット・デメリット
配当還元法のメリットは、過去の配当に着目して計算するため簡便であり、客観的に優れている点です。その一方、配当還元法のデメリットとしては、配当のみに着目しているため評価額が適切に評価されない可能性がある点が挙げられます。
配当還元法は将来の収益力を加味しないため、成長が見込まれる会社に対しては株式価値が低く計算されてしまい、適切に評価されません。
配当還元法の計算
配当還元法の計算式は以下となり、株式の配当金や配当金の成長率がわかっている場合は数字を当てはめるだけで求めることができます。
- 株式価値=期待配当金÷(資本コスト-配当金成長率)
6. マーケットアプローチによる主な算定方法
ここでは、マーケットアプローチの詳細をみていきましょう。主なマーケットアプローチには、以下の4種類があります。
①類似業種比準法
類似業種比準法とは、企業価値を知りたい業種の標準的な企業をベースに算出する方法です。この方法では、国税庁の「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」を目安として計算します。
主な要素となるのは、標準的な企業における株価、配当金額、利益額、純資産の帳簿上の額です。簡単に企業価値を求めることができますが、M&Aでは基本的に使用されることはありません。ただし、純資産を基準にしたときに税負担が大きくなり過ぎるといったケースでは重宝するでしょう。
類似業種比準法のメリット・デメリット
類似業種比準法は、国税庁の財産評価基本通達にも規程されている評価方法です。具体的な計算方法が決められているため、客観性が高く評価に対して理解を得られやすい点がメリットとして挙げられます。
デメリットとしては、本来は税額計算を目的としている方法であるため、企業価値を評価するのにはあまり適していないということや、類似業種の上場企業がみつからない場合は使用できないという点です。
類似業種比準法による算定事例
類似業種比準法の計算式は以下となり、類似業種のデータは国税庁のWebサイトで確認できるので、自社に該当する数字を当てはめます。
- 類似業種の株価
- ×(自社の配当/類似業種の配当+自社の利益/類似業種の利益+自社の簿価純資産/類似業種の簿価純資産)/3
- ×0.7(大会社)or 0.6(中会社)or 0.5(小会社)
なお、株価、配当、利益、純資産は、いずれも1株当たりの数字です。大会社か中会社、もしくは小会社のどれに該当するかは細かい規定がありますが、ここでは省きます。
以下は、従業員100人、純資産5億円、売上高100億円の総合スーパー(小売業)が該当する大会社のケースを計算してみましょう。
【類似業種の株価】
「各種商品小売業」の2年間平均を採用するとして、今回は392です。
※課税時期の属する月、その前月および前々月と、過去2年間の平均から選べます。
【自社の1株当たりの数字】
- 自社の配当金額:1
- 自社の利益:5
- 自社の簿価純資産:200(つまり、発行済み株式数は250万)
【類似業種の1株当たりの数字】
- 類似業種の配当金額:2.6
- 類似業種の利益:21
- 類似業種の簿価純資産:180
以上を計算式に当てはめます。
- 392
- ×(1/2.6+5/21+200/180)/3
- ×0.7
- ≒155(1株当たりの株価)
1株当たりの株価155円×発行済み株式数250万=3億8,750万円が算定結果となります。
②類似会社比準法(マルチプル法)
類似会社比準法(マルチプル法)では、同じような事業を行っている上場企業の株価をベースとして算出する方法です。類似会社とする上場企業の価値が算出結果に大きく影響するため、やや企業価値にバラつきが出てしまう特徴があります。
また、成長が早いベンチャー企業や特殊な業種の場合などは、類似の上場企業が存在しないケースもありますが、その場合はこのバリュエーションは使うことができません。
類似会社比準法(マルチプル法)のメリット・デメリット
類似会社比準法(マルチプル法)のメリットは、類似の複数の上場会社を選び、数値から倍率をベースに株式価値を算定するので、客観性の高い結果が得られることです。
上場会社の情報を基にするため、信頼性の高い情報が入手しやすく、計算方法が簡易的な点もメリットといえるでしょう。
一方、類似会社比準法(マルチプル法)のデメリットは、対象会社に近い事業規模の企業が存在しないケースがある点です。そのほか、コントロールプレミアムや非流動性ディスカウントなどの主観的な判断が入る可能性や、個別の事象を反映できない点もデメリットとして挙げられます。
類似会社比準法(マルチプル法)で使用される倍率
類似会社比準法(マルチプル法)で使用される倍率には、EBITDA倍率、EBIT倍率、PSR倍率、PER、PBRなどがあります。PBRは純資産を基にした評価方法になり、収益性が反映されません。PERは計算しやすい指標ですが、一時的な損益による特別損益で異常値が出る可能性があります。
また、PSR倍率は事業に関連するものですが、収益構造が類似会社と同じとは限らないため、収益性が反映できない点がデメリットです。PBR、PER、PSR倍率は上記のような問題があるため、通常はEBITDA倍率が多く用いられています。
類似会社比準法(マルチプル法)による算定事例
EBITDA倍率の計算方法は以下になります。EBITDAは、減価償却費、支払利息控除前税引前利益をさします。経常利益から支払利息・減価償却費を考慮した方法で算定されますが、簡便的として営業利益に対して減価償却費を足し戻し算定されるケースが多いでしょう。
【EBITDA倍率法での一般的な計算】
- EBITDA倍率 = (株式時価総額 + 純有利子負債 )/(営業利益 +減価償却費)
対象企業の概要
営業利益 | 5000万 |
---|---|
減価償却費 | 900万 |
有利子負債 | 4000万 |
類似企業の概要
株式時価総額 | 2億 |
---|---|
有利子負債 | 1,000万 |
- 類似企業のEV(企業価値) = 株式価値2億円 + 有利子負債1,000万円 = 2億1,000万円
- EBITDA倍率 = 2億1,000万円 ÷ 5,000万円 = 4.2
- 対象企業のEBITDA=営業利益5,000万円+減価償却費900万円=5,900万円
- 対象企業のEV(企業価値)= EBITDA 5,900万円 × EBITDA倍率 4.2= 2億4,780万円
- 対象会社の株式価値 =EV(企業価値)2億4,780万円-4,000万= 2億780万円
③類似取引比準方式
類似取引比準法とは、過去に実施された同一業種に関わるM&Aで、類似する企業規模・M&A取引規模のものを参考に企業価値を算出する方法です。
過去のM&A事例から企業価値や株式価値の数値を抽出し、それを基に各倍率を求めて、対象企業の企業価値を算出します。
しかし、過去のM&A事例で情報が開示されているのは上場企業だけであり、評価対象企業が中小企業の場合は参考にできるM&A事例の情報がほとんどないため、この方法は使えません。
類似取引比準法のメリット・デメリット
類似取引比準方式では、具体的な取引を基にして株式価値を算定します。同じ業界や規模などの会社が実際に行った取引をベースとするため、客観性と説得力がある点がメリットです。
また、実際の取引金額を基に計算するため、コントロールプレミアムや非流動性ディスカウントなどが考慮された状態で株式価値が算定される点もメリットといえるでしょう。
一方で、類似取引比準法のデメリットは情報自体が限定されていることです。そのなかから取引を選定するため、類似する取引の選定基準が難しいうえ、同様の取引がない可能性もあります。
類似した取引であったとしても、シナジーや個別の事象は加味されないため、適切な評価とならないケースもあります。
類似取引比較法の計算方法
類似取引比較法では、評価対象となる企業と同じ業界でかつ同程度の規模の企業が行ったM&A取引の金額を基に算出します。
以下では、年間売上高が6億8000万円のスーパーマーケット(小売業)Y社の企業価値を算出してみましょう。まず比較するM&A事例を探しますが、ここでは下表の5事例を参考として計算します。
取引事例 | 取引年月日 | 年間売上高(百万円) | 売却価額(百万円) | 売却価格÷売上高(%) |
A社 | 2020.1.5 | 800 | 420 | 52.50 |
B社 | 2018.6.20 | 560 | 330 | 58.93 |
C社 | 2021.10.7 | 790 | 420 | 53.16 |
D社 | 2017.8.27 | 660 | 380 | 67.58 |
4社平均 | 2,810 | 1,550 | 55.16 |
売上高を基準に評価を行い、上の表ではA・B・C・D各社の売却価格を指標となる売上高で割り、4社の平均を求めます。すると、4社平均の売却価格÷売上高(%)は「平均売却価額1550百万円÷平均年間売上高2810百万円」で55.16%となりました。
次は、評価対象となるY社の年間売上高680百万円に平均割合55.16%を掛け、Y社の売却価額(企業価値)を算出します。Y社の評価額は「年間売上高680百万円 ×55.16%」で評価額は375百万円となります。(※10万の単位で四捨五入しています)
④市場株価法
市場株価法は、評価対象が上場企業である場合のみ使用でき、株式市場価格を基に算出する方法です。算出方法は、直近数ヶ月間の平均株価を求め、それを評価額として扱います。なお、平均株価を使用するのは、市場公開されている株式は急な株価変動が起こるケースもあるためです。
市場株価法のメリット・デメリット
最大のメリットは、市場株価を基に評価するため信頼性が極めて高いことです。市場参加者は評価対象となる企業の収益性や事業の将来性などを加味したうえで株式を購入するため、客観性も非常に高いといえます。
一方、デメリットは評価対象が上場企業でなければ使用できないことです。また、上場していても流動性が極めて低い場合は、使用することができません。
市場株価法の計算方法
市場株価法の計算方法は非常にシンプルで、一定期間(1~6か月程度)株価の終値と出来高の加重平均によって評価対象となる企業の株価を求めます。
たとえば、期間を6か月に定め、取引株式数が380,000株、終値×取引株式数=228百万だった場合は「200百万円÷380,000株」で1株あたり600円です。上場企業の時価総額は「株価×株式発行数」で求められるので、あとは負債がわかれば企業価値が算出できます。
7. バリュエーション(企業価値評価)における売り手側のポイント
M&A時、売り手側にとっては自社の企業価値は非常に気になるものではないでしょうか。ここではM&Aのバリュエーションにおける売り手側の注意点を紹介します。
バリュエーション(企業価値評価)を向上させる方法
企業価値を常に高めておくことで、経営の安定化や最善の経営戦略を取れます。したがって、企業価値を高めることはとても重要といえるでしょう。ここでは、企業価値を向上させるために、どのようなことをすべきかを紹介します。
収益力を高める
高い収益力は、コストアプローチ・マーケットアプローチ・インカムアプローチ、どの方法で企業価値を算出する場合でも、価値や株価に反映されるものです。収益力をあげるためには、まず以下の点を検証してみるとよいでしょう。
- 状況や課題を見据えた事業計画が策定できているか
- 運転資金がふくらんでいないか
- 特定の顧客に依存する売り上げの割合が高くなっていないか
また、事業の収益力を高める方法には、コストの削減、商品開発力の向上、営業力の強化といったさまざまなものがあるので、ビジネスモデルを見直して効率のよい施策を検討することがポイントです。
投資効率を最適化する
投資効率を最適化することも、企業価値の向上につながります。単純に投資効率を上げるだけでも効果的ですが、投資先を絞り込むようにするとさらによいでしょう。
なぜなら、本当に投資に見合うキャッシュフローが得られているかに注目する必要があるからです。どれだけ投資をしていても、キャッシュフローが見込む値よりも低ければ効率が悪くなるため、投資先の絞り込みが必要になります。
いきなり絞り込むことは難しいかもしれませんが、再度見直しを行い、キャッシュフローを生み出せる部分に注力してみましょう。
また、不要な資産がある場合は手放して重要性の高い投資に充てるのも効果的な方法です。拘束資金が減少するだけでなく売却資金によって再投資できるメリットは非常に大きいといえます。
無形資産の把握・活用
無形資産とは「実態のない資産」という意味で、商標権・特許などの知的資産、従業員のスキル・ノウハウなどの人的資産、経営管理法・生産体制・人材教育システムなどの基盤的資産が該当します。
なかでも重視すべきなのは人的資産です。特に従業員のスキルや業務に関するノウハウは、会社に蓄積されていくことが重要となります。
そのためには、従業員の待遇を見直すことも必要です。厳しい経営のなかでは難しい部分もあるかもしれませんが、従業員の待遇を見直すことで結果的に生産性が向上して利益を生み出せる体制を築くことができます。待遇の見直しにあたっては以下の要素も整備しておくとよいでしょう。
- リーダーシップ
- 適度なストレス
- 業務量のバランス
- ゴール・目標の明確化
- 上司との関わり方
- 企業イメージ・ミッション
最大限にパフォーマンスを引き出せる環境まで待遇を整えられれば、自然に企業価値も向上していくはずです。
財務を見直す
財務を見直すことも重要です。財務を見直して最適化することで、企業価値の向上が狙えます。例えば、負債の節税効果を考えてみましょう。利益を出している事業の負債を増やし、有利子負債にかかる支払利息を税法上の損金に算入します。
すると、納税額を減らすことができ収益性の向上を見込むことが可能です。ただし、うまく活用できなければ失敗してしまうこともあるうえ、場合によっては脱税と判断されて厳しい措置を受ける可能性もあるので、税理士に相談しながら進めていく必要があります。
こうした財務の見直しだけでも大きな効果が得られるので、今までを振り返ると同時に見直しを行い、適正な状態に整えましょう。
高い株式価値=良い会社ではない
高い株式価値がついた会社は、全てが良い会社であるとは限りません。正常利益で高い収益力が将来的にも持続可能であると評価された場合、基本的に高いのれんがつくため株価も高くなる可能性が高いでしょう。正常収益力とは、企業あるいは事業の持続的な収益力をさします。
正常利益が少ない場合でも高い株式価値がつく場合があり、それが純資産が多いケースです。純資産が多額な分、正常利益が少なくても必然的に株価が高くなります。
ネットキャッシュが潤沢である会社は、良い会社に見えることも多いです。ネットキャッシュとは、企業の手元流動性(現金、預金、有価証券)から有利子負債を差し引いたものをいい、財務の健全性・安全性の観点では、良い会社といえます。
しかし、M&Aにおいては必ずしもそうではありません。株価が高く評価された場合、その要因を見極めるのが重要です。M&Aでは企業を成長させていくといった意識が重要であるため、収益力の高い稼げる企業として正常利益が高く、高い株式価値の方が魅力的な企業といえるでしょう。
良い会社なのかは、買い手の経営戦略上のシーンや目的によっても違うでしょう。重要なのは当事者間の目的に応じて、その企業の価値を正確かつロジカルに評価することが大切です。
8. バリュエーション(企業価値評価 )における買い手側のポイント
ここでは、M&Aのバリュエーションにおける買い手側の注意点について、M&Aに対する投資額の考え方や投資額と投資判断の基準を解説します。
M&Aに対する投資額の考え方
買収を検討されている買い手は、一般的にあらかじめ投資額の予算を立てています。しかし、投資額の枠内よりも大幅に超えた額が提案された場合、棄却されてしまうのでしょうか。実際のところは、そうでもありません。
例えば、コストアプローチの方法で株価を検討する場合、株価は「時価純資産+営業権」で算定されます。
ここで時価純資産額が高くなった場合、買い手はその要因に関して中身を十分に検討する必要があるでしょう。結果として、M&A時に売り手が退職金などで内部留保を処理する方法で買い手の買収額を大幅に引き下げるのも可能です。
したがって、さまざまな方法でM&Aを検討し、買い手側の手出しをできる限り当初の投資予算枠に抑えつつ、売り手の希望価格を実現するといったことが可能になるでしょう。
投資額と投資判断の基準
M&Aは、買い手にとって企業を買収した時点からがスタートです。そして単に譲り受けただけではなく、成功させなければなりません。
想定していたシナジー効果を得ることや、投資額に見合ったリターンなどの結果を出さなければなりません。成功したか否かを判断するものとして、投資額と投資判断の基準を立てておくのが重要です。
投資額と投資判断の基準があれば、それに合わせて案件を検討できるでしょう。中堅・中小企業のM&Aでは、提案時に対する株価が割高なのかどうか、過去の取引事例などが最も相場として検討できる方法です。
M&A仲介会社へ相談する際は、投資回収の期間や相場やトレンドが反映された株価なのかなどを確認してみるのもいいかもしれません。
9. バリュエーション(企業価値評価)の影響力
この章では、バリュエーションがどのような場面に影響力を発揮するのかを紹介します。
①M&AやTOBに影響
企業価値は、M&Aで売るか買うかの意志決定における大きな指標です。売る側にとっては、バリュエーションによって会社がどのくらいで売れそうかわからないと、誰にいくらで売ればよいかわかりません。
買いたい相手が現れたとしても、その相手が提案した買収価額が適切であるか理解できないでしょう。これらは、買う側から逆に考えても同様です。
上場企業に対してTOB(株式公開買付)を実施する場合も、その買付価額は一般的にDCF法などにより算定された株式価値を参考にして決定されます。ここでも、バリュエーションが大きな役割を果たすでしょう。
②金融機関の融資に影響
金融機関の融資に影響を与える可能性も考えられます。なぜなら、金融機関で行われる融資の判断の中には、企業価値を算定するのと似たような工程があるからです。当然ながら、返済できるだけのキャッシュフローが見込めないときには融資してもらえせん。
つまり、インカムアプローチなどで企業価値が高い場合はキャッシュフローが見込めるため、銀行からの融資を受けやすいと考えられます。
必ずしも100%当てはまるわけではありませんが、企業価値を磨き上げることにより、融資を受けやすくなる可能性も知っておくと便利です。
③中小企業は倒産対策に影響
中小企業は倒産対策にも影響してくると考えられます。なぜなら、企業価値によって融資の金額が変わってくるからです。つまり、企業価値が低い状態であれば満足できるほどの融資を受けられず、資金ショートして倒産に向かってしまう可能性があります。
倒産対策として、十分に融資を受けられるようになるためにも、企業価値を正しく知って磨き上げることが必要です。中小企業で融資を満足に受けられなくて悩んでいる場合は、企業価値を正しく算定してもらい磨き上げる手段も検討してみるとよいでしょう。
④株価への影響
最後に、株価への影響も知っておきましょう。バリュエーションは、株価にも少なからず関連するものだからです。例えば、株価に反映されている市場の期待値や予想などは、企業価値に影響されます。当然、企業価値が高ければ株価も上がるはずです。
そして、株価が上がると企業価値が上がることにもなります。これは、高い株価を維持している企業は市場でもしっかりとした基盤を得ているからです。絶対とはいいきれませんが、こうした影響が少なからずあることは知っておいて損はないでしょう。
以上のように、バリュエーションは大きく経営に影響を及ぼします。どれを見ても、経営をしていくうえで大切なことばかりです。つまり、常に企業価値評価を高めておくことが経営者に求められています。
どのようにバリュエーションを高くしていくべきか、考える必要があるといえるでしょう。
10. 上場・未上場・ベンチャー企業におけるバリュエーション(企業価値評価)の相違点
バリュエーションは対象とする会社によって異なります。上場、未上場、ベンチャー企業それぞれの評価は異なるため、詳しく解説します。
上場企業のバリュエーション(企業価値評価)の方法
上場企業の企業価値は、株式をベースとして計算できます。具体的には、1株当たりの株価×株式数で、株式の時価総額で計算する方法です。これは、実際に取引されている純資産をベースに算出します。
しかしながら、時価総額は市場の期待と予想、つまり市場に参入している多くの人のバイアスがかかって算出されたもので、バリュエーションの方法で算出される金額とは乖離(かいり)が生まれることがほとんどです。
そこで上場企業は、株価を参考にしつつ、複数のバリュエーション方法を折衷させてバリュエーションを算出するケースがあります。つまり、絶対的な評価はありません。
未上場企業のバリュエーション(企業価値評価)の方法
未上場の企業では、株式の市場価値相場からは算出できません。したがって、価格は交渉次第となることがほとんどです。しかし、ある程度の目安がなければ交渉をするにあたっても不便でしょう。そこで主に使われるのがDCF法となります。
DCF法であれば無形資産まで価値に含めるので、市場価値相場がなくてもある程度の概算を出せるのが可能だからです。以上のことから、未上場企業の価値を調べたい場合には、専門家に依頼するとよいでしょう。
M&A総合研究所の「無料企業価値査定サービス」をご利用ください。無料で企業価値を算定いたします。
ベンチャー企業のバリュエーション(企業価値評価)の方法
ベンチャー企業でのバリュエーションの方法は、未上場会社の方法と同じ方法で計算されるケースが多いでしょう。ただし、未上場会社の場合とは異なる点があります。
ベンチャー企業が計画を作成する場合、大きく伸びる計画・強気の計画で作成されているケースがあります。しかし、計画に沿って伸びる可能性もありますが、失敗するケースも多いでしょう。
したがって、ベンチャー企業の事業計画はリスクが非常に高いといえます。そのリスクに備え、割引率にはベンチャーキャピタルのIRRを採用する場合が多いです。
IRRは、内部収益率をさし、投資総額とキャッシュインの現在価値の総額が同等になる割引率で、投資判断する際の重要指標の一つとされています。
11. バリュエーション(企業価値評価)が向上した会社の事例
アメリカの主要企業(GAFAM)では、買収した企業の技術や人材を取り込んで研究・開発を継続して事業に反映しています。自社の成長投資戦略の中でM&Aが積極的に行われ、それが現在の高い企業価値に大きく寄与していると考えられています。
その一方で、日本企業は「自前主義」の傾向が強く、成長投資戦略の中でM&Aが積極的に活用されていないことが多いと考えられています。とはいえ、日本にもバリュエーション(企業価値評価)が向上した会社の事例は少なからず存在します。
例えば、日本取引所グループでは、企業価値向上表彰を行っています。2019(令和元)年度の大賞は、コマツが選ばれ受賞しました。受賞のポイントは、以下のように発表されています。
- 資本コストを意識した経営目標・指標を掲げ、長期にわたり企業価値向上実現に向け継続し実行している。
- 経営管理に関して資本生産性を踏まえた仕組みにより、企業価値向上実現に向けた体制が構築できている。
- ステークホルダーや投資者らとの意見交流の重要性に関して社をあげて認識し、経営トップ自らが積極的に実践・行動している。
コマツは施策を実施しただけでなく、それをきちんと成果として表せたことが、大賞受賞の大きな評価要素だったようです。ポイントは、自社の資本コストを上回る企業価値に到達すべく、その創造を目指し1つずつ実践している点といえるでしょう。
参考:経済産業省「大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書(バリュエーションに対する考え方及びIRのあり方について)」
12. バリュエーション(企業価値評価)に関するおすすめの本
バリュエーションについてもっとよく知りたいと考えたら、以下の本をおすすめします。
- 企業価値評価 第7版[上][下]〜バリュエーションの理論と実践
- バリュエーションの教科書
- 企業価値評価ガイドライン
①企業価値評価 第7版[上][下]〜バリュエーションの理論と実践
本のおすすめ第1弾は、上下巻2冊編成の「企業価値評価 第7版〜バリュエーションの理論と実践」です。まずは、上巻の情報は下記の通りです。
出版社 | ダイヤモンド社 |
ページ数 | 624ページ |
価格(税込) | 4,950円 |
DCF法による企業価値評価の本家、マッキンゼー・アンド・カンパニーがまとめた企業価値評価の一冊で、発売以来25年超のロングセラーです。やや学者向けの本格的なもので高価ですが、時代の実務ニーズに細やかに対応すべく改訂されてきました。
第6版では、「スタートアップのように発生時点で費用計上される研究開発費やマーケティング費用」への対応や、「必要資本が小さいビジネスへの対応法」などが加えられています。2022年に入り、第7版が刊行されています。全体的に引用事例が大幅改訂されました。
「企業価値評価 第7版〜バリュエーションの理論と実践」の下巻の情報は以下の通りです。
出版社 | ダイヤモンド社 |
ページ数 | 520ページ |
価格(税込) | 4,950円 |
②バリュエーションの教科書
本のおすすめ第2弾は、「バリュエーションの教科書」です。
出版社 | 東洋経済新報社 |
ページ数 | 244ページ |
価格(税込) | 2,860円 |
著者はグロービス経営大学院教授で、ゴールドマン・サックスにてM&Aアドバイザー業務に従事した経験もあります。M&Aを題材にしたテレビドラマと映画の監修も行いました。
複雑な理論やモデルよりも、企業価値評価の全体像や、「そもそも価値とはどういうことか?」といったところから、実務に即した形でバリュエーションを解説しています。
全く財務的な知識がなければ難しいかもしれませんが、バリュエーションのビジネスにおける立ち位置や意味を含めて理解しやすい一冊です。
③企業価値評価ガイドライン
本・おすすめ第3弾は、「企業価値評価ガイドライン」です。
出版社 | 日本公認会計士協会出版局 |
ページ数 | 431ページ |
価格(税込) | 2,860円 |
日本公認会計士協会が、株式の価値を評価する場合の実施・報告に関してまとめた企業価値評価ガイドラインです。企業価値評価ガイドラインには、実務で使えそうな内容が、丁寧に凝縮されて書かれています。
13. M&Aのバリュエーション(企業価値評価)まとめ
企業価値とは、ひとことでいえば会社の値打ちです。M&Aでは、売り手側と買い手側の価格交渉における、判断基準の土台として用いられます。経営をしていくにあたって、企業価値は常に高い状態を保っておくことが重要です。
バリュエーション(企業価値評価)算出方法を詳しく知っておくことで、企業価値をどのようにあげていくべきか、経営戦略を考えることが可能です。
M&A・事業承継のご相談ならM&A総合研究所
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