2023年04月06日更新
事業承継における種類株式とは?メリットやうまく活用する方法を解説!
本記事では、事業承継での種類株式の効果的な活用方法を解説します。種類株式とは、普通株式とは異なる権利内容を持つ株式です。会社法上で発行が認められている種類株式は9種類あり、そのうちのいくつかは事業承継の際に活用可能です。事業承継を検討している方は必見です。
1. 事業承継における種類株式とは
少子化や経営者の高齢化が進む日本では、事業承継の円滑化が急務とされています。しかし、事業承継には後継者問題や株式の承継などの課題もあり、準備を進められていない企業が多いのも事実です。
事業承継の準備をスムーズに進めて会社を存続させるためには、事業承継に関する基本的な知識を備えておく必要があります。
事業承継とは
事業承継とは、会社の経営権や事業に関する資産を包括的に後継者に引き継ぐことをいいます。経営権や資産だけでなく、承継後にスムーズに経営できるように経営理念やノウハウなども引き継ぐことが一般的です。
会社の経営は経営者を中心に行われますが、経営者の高齢化が進むと経営力の低下が懸念されます。事業承継により、いつかは次の世代に経営を引き継がなければなりません。後継者に会社の経営を引き継ぐためには、経営権に直結する株式の承継が必須です。
種類株式とは
一般的に「株式」と呼ばれるものは、「普通株式」を指します。所有する株主の権利に関して、一切の制限を受けない標準的な株式であり、保有株数に応じた権利が与えられている株式です。
種類株式とは、2種類以上の株式を発行した場合の各株式を指します。それぞれ異なる権利が付与されるものです。議決権や配当金を受け取る権利などの目的をもって発行されることが多いでしょう。
主なメリットとしては、特定のニーズに対応しやすくなることが挙げられます。議決権を有して経営に関わりたい人もいれば、配当金だけを受け取りたいと考える人もいるでしょう。種類株式であれば、それらのニーズを満たしやすくなります。
会社法で認められている種類株式は全部で以下の9種類があります。
- 譲渡制限株式
- 取得請求権付株式
- 取得条項付株式
- 配当優先株式
- 残余財産優先株式
- 議決権制限株式
- 全部取得条項付株式
- 拒否権付株式
- 役員専任解任権付株式
それぞれの概要を順次、説明します。
譲渡制限株式
譲渡制限株式は、株式の譲渡にあたって会社の承認を要する種類株式です。株主総会、あるいは取締役会によって決議を取り、会社の承認を受ければ株式を取引できるようになります。
本来、株式は自由に取引できるのが原則です。家族経営や小規模会社の場合は、株主を信頼できる親族間に限定したい場面も多いため、譲渡制限株式にすれば株式の流出を抑えられるでしょう。
そのような理由から、多くの中小企業は譲渡制限株式を発行しています。この場合、所有者の一存では株式譲渡を行えません。株式譲渡の必要性が生じた場合は、事前に会社の承認を受けなければなりません。
取得請求権付株式
取得請求権付株式とは、所有する株式について会社へ買い取りを請求できる種類株式です。買取請求を受けた会社は、分配可能額の範囲で取得する必要があり、その請求を拒めません。
買い取る株式の対価は、あらかじめ決められていた財産(現金・普通株式・社債など)を請求した株主に交付します。対価支払いを現金に指定する場合、分配可能額の範囲を超えて取得できない点に注意が必要です。
非公開会社の株式は、流動性が少なく換金性が悪い欠点があります。会社があらかじめ決められた対価で買い取る取り決めをしておくことで、株式の価値を担保できるメリットがあるでしょう。
取得条項付株式
取得条項付株式は、一定の事由が生じた場合、会社が株主の同意を得ることなく強制的に取得できる種類株式です。一定の事由には、株式公開や新株発行などとされている傾向が多くあります。
強制的な株式取得が行われた場合、会社はあらかじめ決められていた財産(現金・普通株式・社債など)を、株式の買い上げ対象の株主に交付します。
配当優先株式
配当優先株式とは、剰余金の配当が普通株式の出資比率とは異なる種類株式です。通常の配当金より多く、あるいは少なく設定できます。一切の配当を行わないように定められる点も特徴といえます。
配当優先株式に限っては種類があり、参加型と非参加型の2種類です。参加型は優先配当を行った後に剰余金が余っている場合、普通株式とともに優先的に配当を受けられます。非参加型は、配当金額が余っていても配当を受けないものです。
中小企業では、従業員の業務に対するモチベーションを高める目的で、従業員持株会を活用して株式を交付することがあります。優先的に配当を受ける権利は、従業員のモチベーション向上により、会社の業績アップが期待できるでしょう。
その反面、株主の中には従業員に議決権を与えることに抵抗を感じる者も少なくありません。株主間で摩擦が生じる可能性もあるでしょう。
この問題は、配当優先株式と議決権制限株式を組み合わせ、それを従業員持株会に発行することで解決可能です。その従業員持株会向け株式は、事業承継の際のメリットとして、1株当たりの株価が下がることが挙げられます。
事業承継で経営を引き継ぐためには、議決権のある株式のみを承継すればいいでしょう。相続税・贈与税の負担を軽減できます。
残余財産優先株式
残余財産優先株式は、会社清算をした場合の残余財産の分配について、出資比率と異なる定めをした種類株式です。普通株式より優先的に分配を行ったり、あるいは全く分配を行わなかったりすることが定められています。
剰余金配当と残余財産分配の両方の権利を全く与えない種類株式は発行できません。たとえ少額であっても、どちらかの権利を持たせることが発行の前提条件とされています。
議決権制限株式
議決権制限株式とは、議決権を行使できる事項に制限がある種類株式です。議決権の行使範囲を制限することにより、株主の会社の経営に対する影響力をコントロールできます。株主総会での議決権を無効にすることで、経営に一切関与できなくすることも可能です。
会社側としては、経営権を分散することなく資金調達できるメリットがあります。事業承継の場面では、相続人が複数いる場合、資産の分配をめぐってトラブルが生じることもあるでしょう。
この際に株式を公平に分配すると、経営権が分散してしまい、事業承継後の経営に支障が出る恐れもあります。事業承継の際、後継者ではない相続人に対しては議決権制限株式を割り当てることで、公平な分配を行いながら経営権の分散を防げるでしょう。
単純に議決権制限株式を交付するだけでは、不公平になってしまいます。何かしらの権限を持たせることが一般的です。一例としては、配当優先株式の権利を付与するなどの対応が必要になるでしょう。
全部取得条項付株式
全部取得条項付株式とは、株主総会の決議により、株式全部を取得できる定めのある種類株式を指します。発行は、決議に必要な株主の出席と賛成だけでよい点がメリットといえるでしょう。
権限を行使した場合は、各株主に対してあらかじめ決められていた財産(現金・普通株式・社債など)を交付します。金銭交付の場合は、分配可能額を超えた株式を取得できないため、普通株式や社債を定めることも多いです。
事業承継では、現経営者に株式を集中させた後、後継者に承継する形が基本となります。株式が分散している場合は、ほかの株主から株式を買い取る必要があります。しかし、全ての株主が応じてくれるとは限らないため、事業承継の進行を妨げる要因になることも珍しくありません。
全部取得条項付株式であれば、株主からの合意が得られなくても、全株式を強制的に取得できます。株主からの合意が得られなくても事業承継を進められるでしょう。
拒否権付株式
拒否権付株式は、重要議案を否決できる権限を持つ種類株式です。株主総会決議に対し、拒否権付株式の権限を行使すれば決定を覆せます。主な活用例としては、敵対的買収の防衛策です。買収者に過半数を超える議決権を取得された場合でも、買収を阻止できます。
事業承継では株式評価額に応じて税金が課されます。税金負担を抑えるためには、株式評価額が低いタイミングで事業承継を実行することが望ましいでしょう。しかし、事業承継の実行タイミングと経営権の移転タイミングが一致するとは限りません。
現経営者が生前譲渡による事業承継を計画しているものの、承継後も一定期間は経営に携わりたいと考えているときにも活用できます。一定事項の拒否権限を持つ種類株式を保有し続けることで、強い影響力を保持したまま事業承継を実施できるでしょう。
役員専任解任権付株式
役員専任解任権付株式は、取締役および監査役の選任・解任権限が付与された種類株式です。非公開会社かつ非委員会設置会社のみ、発行することが認められています。
中小企業の後継者問題については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
2. 事業承継で種類株式を活用する3つのメリット
事業承継を円滑に進めるうえで、種類株式は役立ちます。自社株式の分散などの問題を回避することが、種類株式を活用する理由です。問題点解決のメリットは、以下のようなものが挙げられるでしょう。
- 自社株式の分散リスク回避
- 重要事項決定権を後継者に集中
- 経営権移転タイミングの考慮
それぞれを見ましょう。
自社株式の分散リスク回避
経営者には、後継者以外にも相続人がいる場合があります。後継者だけに自社株式を引き継がせようとしても、株式が相続人に分散してしまうこともあるでしょう。
後継者が議決権を保持できないと、会社経営はうまく進みません。事業承継自体がスムーズにできなくなってしまうこともあるでしょう。自社株式が分散した場合、相続人との個別合意により回収する方法もありますが、必ずしもうまくいくとは限りません。
種類株式を活用すると、自社株式の分散リスクを回避できます。分散した株式を回収できるからです。
重要事項決定権を後継者に集中
事業承継では、後継者問題だけでなく株式承継も課題として挙げられます。自社株式を後継者に集中させられれば、事業承継はスムーズに進みそうですが、そう簡単ではありません。
自社株式を分散させないためには、重要事項の決定権限を後継者に集中させることが重要といえるでしょう。種類株式を活用することで、それが可能となります。無議決権株式を活用して、経営権を後継者に集中させ、経営体制を万全します。
経営権移転タイミングの考慮
事業承継では、経営権をどのタイミングで移転させるかも重要な課題となります。後継者となる候補の経験が浅い場合、経営権の移転は慎重にならざるを得ないでしょう。
このような場合、種類株式を活用することが有用といえます。具体的な方法は、現経営者に決定事項の拒否権限を残しておくことで、経営権移転のタイミングを慎重に考慮できるでしょう。
3. 事業承継で種類株式をうまく活用する方法
種類株式の特徴をうまく活用することで、事業承継を円滑に進められるでしょう。この章では、事業承継での種類株式の活用方法を解説します。
配当優先無議決権株式による従業員持株会の運営
種類株式の議決権を有する株式とその他の株式に分けることで、さまざまなメリットが得られます。特に影響の大きいものは以下の2点です。
- 従業員のモチベーションアップ
- 1株当たりの株価単価を下げる
従業員のモチベーションアップ
従業員に株式を交付すると、会社の業績が従業員の利益に直結するため、モチベーションの向上効果が期待できます。種類株式を使い分けることで、議決権は与えずに配当を優先的に受ける権利だけを付与できるでしょう。
1株当たりの株価単価を下げる
議決権を目的としない株主に対しては、種類株式の交付によって、議決権のある株式を含めた1株当たりの株価単価を下げた状態で事業承継を実施できます。相続税・贈与税は後継者にとって大きな負担なので、種類株式を活用した節税効果はメリットが大きいでしょう。
拒否権付株式による経営の監視
拒否権付株式は、特定の事項の拒否権限を持つ種類株式です。特定の事項を定款に定めておくことで効果を発揮するので、事業承継も活用場面が多くあります。
- 後継者に拒否権付株式以外の株式を渡す
- 民事信託の活用
- 株式の価値が上昇する前に後継者に移管する
後継者に拒否権付株式以外の株式を渡す
生前譲渡により経営権移転は済ませておきたいものの、承継後しばらくは経営に携わりたい場合に活用できます。普通株式は後継者に承継していても、先代経営者が拒否権付株式を保有し続けることで、事業承継後も拒否権を有する立場から経営に干渉できるでしょう。
ただし、先代経営者が加齢や健康問題などで適切な判断能力を失してしまう場合があります。それ以外にも、急逝により後継者以外の相続人に拒否権付株式が渡ってしまうなどのリスクもあります。
これを防ぐためには、拒否権に時限制約を設定することや、先代経営者死亡時には後継者が拒否権付株式を承継できるとする取得条項付株式としておくことなどが、有効な対応措置といえるでしょう。
民事信託の活用
近年は、事業承継で民事信託を活用するケースも増えてきました。後継者が株式を承継し、現経営者を受託者、後継者を委託者・受益者とする受託契約を締結します。
この形式であれば、会社の大半の株式に関する承継は行いつつも、会社の経営権は現経営者が保有したままとなります。
株式の価値が上昇する前に後継者に移管する
前述した2つの活用方法であれば、現経営者が実質的な経営者のまま事業承継できます。株式価値が低くなるタイミングに合わせて、事業承継を実施しやすくなるでしょう。
中小企業の株式価値をある程度コントロールする方法もあるので、早期に取り組んでおくことで、事業承継の税金負担を最小限に抑えることも可能でしょう。
議決権制限株式による経営権の集中
後継者以外に経営者の相続人が複数いる場合、会社の意思決定に関する権限が分散するデメリットがあります。事業承継時の経営権の分散は、種類株式の有効活用で回避できるでしょう。
遺産の分配などで、どうしてもほかの相続人に株式を分配する必要に迫られた際は、議決権制限株式の交付が有効といえます。株式自体は分散しますが、経営権は後継者に集中させられるでしょう。
取得条項付株式による株式細分化の防止
取得条項付株式は、一定の事由が発生した場合に、その株式を強制取得できるものです。基本的に、株式が経営に関係ない複数の者の手に渡ってしまうような株式の細分化を避けるために用いられます。
前述したように、拒否権付株式に取得条項付株式を組み合わせておくことで、株主(前経営者)に何らかの問題や相続が発生してしまった場面で有効となるでしょう。
後継者以外に相続人が複数いるケースでは、相続人全員が取得する無議決権株式において、後継者に限って取得対価を普通株式とする取得条項付株式を組み合わせておけば、後継者が経営権全てを掌握できます。
全部取得条項付株式による少数株主の排除
全部取得条項付株式は、強制的に株式を取得できる権利を持つ種類株式です。株主が分散している事業承継の際に有効活用できます。少数株主排除はスクイーズアウトと呼ばれる手法です。経営権の強化や会社にとって都合の悪い株主を排除します。
日常の経営でも使われることがありますが、事業承継を少数株主から反対されている際も有効活用できるでしょう。権限を行使して株式を取得してしまえば、少数株主の意思に関係なく事業承継を進められます。
ただし、全部取得条項付株式を発行している場合に、会社法では少数株主側が会社に買取請求することを認めています。この点は注意しておきましょう。
スクイーズアウトについては下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
4. 事業承継で種類株式を活用する際の注意点
種類株式は、付与する権限次第では会社の経営に多大な影響力を持つ株式です。影響力の大きい種類株式が意図せず関係のない者に移転するようなことがあれば、会社の経営権を握られてしまう恐れもあります。
通常、拒否権付株式を保有する株主が死亡した場合、該当の種類株式と権限は相続人に分散するものです。本来の持ち主と相続人では方針や意向が異なる可能性があり、会社の経営が一変することも考えられます。
種類株式の譲渡制限を設けたり、取得事由に現経営者の死亡を取得条項に盛り込んだりなど、しっかりとした対策が必要になるでしょう。
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5. 事業承継における種類株式のまとめ
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