2024年05月16日更新
商法と会社法の違いとは?改正内容も含めて対照表で紹介
平成17年の商法改正により会社法が誕生し、商法・会社法の枠組みが大きく変わりました。令和元年には商法・会社法の新たな改正が決まったため、その内容を押さえることが重要です。本記事では、商法・会社法の違いと改正の内容などについて解説します。
1. 商法・会社法の違いとは
会社経営やM&Aを行う際は、商法・会社法を理解しておくことが大切です。弁護士や司法書士などの専門家でないかぎり、商法・会社法の詳細まで知る必要はありませんが、基本的な内容を把握しておくと役立つ場面も多いでしょう。
商法・会社法を初めて勉強する場合、「そもそも商法と会社法とは何が違うのか」といった疑問を持つこともあるでしょう。そこでこの章では、商法・会社法の概要、商法・会社法の主な違いを解説します。
商法とは
商法とは、会社や個人事業主といった商売を営む主体(商人)、および商人が行う営業や売買(商行為)などを定めた法律です。会社法が会社のみを規定しているのに対し、商法は個人事業主など会社以外の形態にも適用されます。
制定されたのは明治時代で、その後時代に合わせて何度も改正されながら現在に至っています。平成17年に商法の大きな改正が行われ、このときに会社法が誕生しました。
商法にはもともと会社に関する規定も含まれていましたが、平成17年における会社法の施行にともない、会社に関する第2編が削除されています。
【改正前と改正後の商法】
改正前の商法 | 改正後の商法 |
第1編 総則 第2編 会社 第3編 商行為 第4編 海商 |
第1編 総則 第2編 商行為 第3編 海商 |
会社法とは
商法が明治時代に制定された法律であるのに対し、会社法は平成17年に制定された比較的新しい法律です。会社に関する規定は、商法のほかにもいくつかの法律で定められていましたが、商法の改正によりこれらをまとめて会社法という1つの独立した法律としました。
具体的には、改正前における商法の会社について規定した部分である第2編と、有限会社法および商法特例法などをまとめたものです。
商法・会社法の違い
商法・会社法の主な違いとして押さえたいのは、会社法は会社にのみ適用されること、会社法が優先的に適用されることの2点です。
【商法・会社法の違い】
- 商法・会社法のうち会社法は会社にのみ適用される
- 商法・会社法では会社法を優先的に適用する
商法・会社法のうち会社法は会社にのみ適用される
商法・会社法のうち、商法は会社や個人事業主などを含めた商売を行う主体全般に適用されます。会社法は会社のみに適用されるのが大きな違いです。
もちろん会社も商売を営む主体なので、商法の適用範囲に含まれます。つまり、会社は、商法・会社法どちらの規定にも従わなければなりません。
商法・会社法では会社法を優先的に適用する
法律には、幅広く適用される「一般法」と、一般法が適用される範囲のある特定分野についてより細かく規定した「特別法」があります。商法・会社法をこの考え方で分類すると、商法が一般法で、会社法が特別法です。
法律では、特別法が優先適用され、特別法がない部分に一般法を適用します。つまり、商法・会社法では、規定がある場合は会社法を優先適用し、会社法に規定がない部分には商法を適用します。
また、商法よりもさらに一般的な事項を定めた「民法」という法律があり、民法が一般法で商法が特別法といった関係です。
適用の優先度は、会社法・商法・民法の順になります。
会社法の問題点
商法・会社法は、度々改正が行われ、会社法の改正内容は、コーポレートガバナンス制度に関するものが多いです。経営を管理する仕組みのことを、コーポレートガバナンスといいます。
不正防止や収益力を上げるために、社外取締役や監査役、委員会を設け、コーポレートガバナンスを強化することが欠かせません。
不正防止や収益力向上の仕組みは、商法・会社法で適切に管理するべきです。しかし、時代の流れにおいて、コーポレートガバナンスに求められることは変化します。近年は電子化が大きく進み、経営関係の書類を書面から電子データに移す傾向が強まっています。
こうした変化に応じるには、商法・会社法を適宜改正する必要があるでしょう。
2. 商法・会社法の新旧対照表
平成17年の商法改正以前と以降では大きくルールが変わっていますが、法律の専門家でなければ変更点がわかりづらい部分もあります。
下に示した表は、平成17年より前とそれ以降における商法・会社法の新旧対照表です。全ての変更点を網羅していませんが、経営者や役員もしくは社員が知っておきたい基本的な事項を列挙しています。
【商法・会社法の新旧対照表】
平成17年より前の旧商法 | 会社法 | |
会社の種類 | 株式会社・有限会社・合名会社・合資会社 | 有限会社が廃止され、代わりに合同会社の設立が可能 |
必要な資本金 | 株式会社は1,000万円以上、有限会社は300万円以上 | 1円から可能 |
取締役会の設置 | 義務 | 株式譲渡制限会社は取締役会を設置しなくてもよい |
取締役の人数 | 株式会社は3人以上、有限会社は1人以上 | 株式譲渡制限会社は1人以上、それ以外は3人以上 |
取締役の任期 | 株式会社は2年、有限会社は任期なし | 原則として2年、ただし株式譲渡制限会社は10年まで延長できる |
監査役の人数 | 株式会社は1人以上、有限会社は設置してもしなくてもよい | 原則として1人以上、株式譲渡制限会社は設置してもしなくてもよい |
監査役の任期 | 株式会社は4年、有限会社は任期なし | 原則として4年、ただし株式譲渡制限会社は10年まで延長できる |
株主総会の招集通知の送付期限 | 株主総会開催日の2週間前 | 取締役会非設置会社は原則1週間前、ただし定款で変更可能 |
株主総会の招集通知の目的事項 | 記載する | 取締役会非設置会社は記載不要 |
株主総会の招集通知の計算書類 | 定時株主総会では記載する | 取締役費設置会社は記載不要 |
3. 改正された商法・会社法とは
この章では、令和元年に改正が決まった商法・会社法の変更点を見ていきましょう。
【改正された商法・会社法の変更点】
- 商法・会社法の株主総会に関係した見直し
- 商法・会社法の取締役などに関係した見直し
- 商法・会社法における社債管理補助者制度の導入
- 商法・会社法における株式交付制度の導入
- 商法・会社法のその他の見直し
商法・会社法の株主総会に関係した見直し
改正された商法・会社法の株主総会に関係した見直しには、株主総会資料の電子提供制度と、株主提案権における濫用的行使の制限があります。
【改正された商法・会社法の株主総会に関係した見直し】
- 株主総会資料の電子提供制度
- 株主提案権の濫用的行使の制限
株主総会資料の電子提供制度
現在の商法・会社法では、株主総会資料は原則として書面を株主に郵送し、メールで送付したり会社のホームページ上に掲載して提供したりする場合は、株主の同意を得なければなりません。
株主総会資料を書面で配布するのは、印刷や郵送に時間と費用がかかるうえ、インターネットに比べると情報伝達がどうしても遅くなるデメリットがあります。
そこで、今回の商法・会社法の改正では、株主総会資料を会社のホームページに掲載して株主に通知する際、株主の同意を得なくてもよいことになりました。印刷や郵送によるコストの削減ができるとともに、株主に情報を早く伝えられます。
株主のなかにはインターネット環境がない人もいる可能性があるので、株主は書面での送付を会社に請求することも可能です。
会社は、電子提供制度を採用した場合でも、株主総会の日時や場所、株主総会資料が掲載されたウェブサイトのアドレスなどを記載した招集通知を発送しなければなりません。
株主提案権の濫用的行使の制限
商法・会社法における株主提案権とは、株主総会で話し合う内容を株主が提案できる権利のことです。
この権利自体は会社や株主にとって有用ですが、現在の商法・会社法では提案できる議題数に制限がないため、株主総会を混乱させる目的で1人の株主が大量の議題を提案するといった問題がありました。
こうしたケースへの対策として、今回改正される商法・会社法では、1人の株主が1つの株主総会で提案できる議案数を、最大10までに制限します。
商法・会社法の取締役等に関係した見直し
商法・会社法の取締役などに関係した見直しは、以下の3点です。
【商法・会社法の取締役などに関係した見直し】
- 商法・会社法における役員・取締役の報酬決定プロセスの見直し
- 商法・会社法における会社補償の明確化
- 商法・会社法における社外取締役の規定
商法・会社法における役員の報酬決定プロセスの見直し
役員や取締役の報酬は、いわゆる「お手盛り」で不当に高い報酬を得ることを防止するため、株主総会で決議するか定款で定めます。ただし、株主総会で役員報酬額があまり明らかになりすぎると、役員のプライバシーにおける問題が生じるでしょう。
株主総会では役員報酬額の上限だけを決めてお手盛りを防止し、具体的な金額は取締役会が決める手法がとられていますが、取締役会が具体的な報酬額を決めることは株主にとって透明性に欠ける部分もあるでしょう。
今回の商法・会社法の改正では、株主総会や定款で役員の報酬をはっきり決めないときは、取締役会が報酬額の決定方針を定めることが義務づけられます。
ほかにも、報酬として新株予約権を付与する場合や報酬に関する情報開示について、商法・会社法の見直しが図られます。
商法・会社法における会社補償の明確化
会社補償とは、役員が仕事上の行動で法律に違反する行為があった場合、裁判で必要となる弁護士費用や賠償金などを会社が代わりに支払うことです。
現行の商法・会社法では会社補償に関する明確な規定がないので、役員による仕事上での行為が法律に違反していた場合、役員自身が補償しなければならない可能性も考えられるでしょう。
今回改正する商法・会社法では、会社補償について明確な規定を設けることにより、会社および役員が滞りなく業務を行えます。役員が仕事上の行為で損害賠償請求されたときの保険である「D&O保険」について、手続きの明確化などが盛り込まれます。
商法・会社法における社外取締役の規定
現行の商法・会社法では、上場企業など(公開会社と大会社)に関して、社外取締役を置かなくてもよいケースがありました。
しかし、会社がきちんと法令を守っているか示す「コーポレートガバナンス」の徹底には、社外取締役を設置して広く周知することが重要です。
改正後の商法・会社法では、有価証券報告書の提出義務がある会社は、社外取締役を置かなければならないとされました。会社と役員の間で利益相反があるとき(マネジメントバイアウトなど)の社外取締役における活用も新たな規定が設けられます。
商法・会社法における社債管理補助者制度の導入
会社が資金を調達する方法には、株式の発行以外に社債を発行する手段もあります。
社債は株式と違って社債権者(社債を買った人)へ返済しなければなりません。きちんと返済できるように社債を管理する必要があるので、会社法では「社債管理者」を設置し、社債が適切に管理されるよう定めています。
社債管理者は、社債を発行する会社の取引先銀行などが担当するのが一般的です。
社債管理者は原則として設置するものの、条件によっては設置しなくてよい場合もあります。社債管理者を設置しない場合は社債権者自身が管理を行いますが、管理をサポートできる第三者がいると安全です。
今回改正される商法・会社法では、社債管理者を設置しない場合に社債の管理をサポートする「社債管理補助者」制度を作り、社債を適切に管理し、社債権者集会も一部見直しが行われます。
商法・会社法における株式交付制度の導入
M&Aで会社を買収する際、現金ではなく株式の交付で対価を支払えば、資金の少ない会社でも積極的なM&Aを行えるでしょう。
M&Aによる企業提携戦略は多様化し、完全子会社化を企図したM&Aだけでなく、対象会社の過半数ないし3分の2以上の株式取得を企図したM&Aニーズも増加しています。
しかし、現行の商法・会社法では、完全子会社化を目的としたスキームである「株式交換」しか規定されていないため、買収の選択肢を狭めている面がありました。
改正される商法・会社法では、M&Aで100%未満の株式取得を目的としたスキームである「株式交付制度」を作り、会社の買収で取り得る選択肢が増えることになりました。
商法・会社法のその他の見直し
今回の商法・会社法の改正では、その他の見直しとして以下の点を盛り込みます。
【商法・会社法のその他の見直し】
- 役員の訴訟における監査役などの規定の見直し
- 議決権行使書面などの閲覧に関する規定の見直し
- 新株予約権の登記事項の見直し
- 支店所在地の登記の廃止
- 役員の欠格条項の見直し
4. 商法で使われる専門用語
商人
商法における「商人」とは、営利を目的として、継続的に商業活動を行う者を指します。
商業活動とは、商品やサービスの売買、仲介、代理、販売業務、製造業務など、様々な形態の経済活動を指します。商人は、商業活動において継続的な収益を得ることを目的として、事業を運営し、企画・組織・運営・販売を行います。弁護士などの士業や医療法人は該当しません。
商人は、法律上の地位が保障され、商業上の契約や債権債務関係において特別な取り扱いを受けることがあります。
商行為
商行為とは、商業活動において行われる法律上の行為であり、商品やサービスの売買、貸借、仲介、委任、代理、保証、担保設定などが含まれます。
また、商行為には、下記の3つがあります。
絶対的商行為 | 商人以外も含め、1回でも行われた投機的売買 |
営業的商行為 | 営利を目的として反復的・継続的に行われた投機的売買 |
付属的商行為 | 開業準備など売買の前提として行われる商人の行為 |
商人と商人の間だけでなく、商人と消費者、他の非商人との間でも行われるのが商行為です。商行為に関する契約は、契約の当事者同士が合意した内容に基づいて成立します。
商行為に関する紛争は、商法や民法などの法律に基づいて解決されます。
5. 会社法で使われる専門用語
社員
会社法において、「社員」は一般的な社員とは異なる意味を含みます。
「社員=出資者」であり、会社経営に影響を及ぼす株主のことを指しています。
社員には、議決権や配当権などの権利がありますが、一方で会社の債務超過によって損失が生じた場合には、出資額を超えて追加で負担することもあり得るでしょう。
株式会社
「株式会社」は一般的な認識と大きな意味の違いはないものの、明確な定義がなされていることや責任範囲を理解しておく必要があります。
会社法における「株式会社」とは、法人格を持ち、株式を発行する会社の形態の1つです。株式会社は、複数の出資者が株式を取得し、その出資によって資本金を形成して設立されます。いわゆる「所有と経営の分離」が可能な会社形態と言えるでしょう。
そもそも会社法における会社には「株式会社」と「持分会社」の2種類があります。持分会社はさらに3つに分類されており、「合名会社」「合同会社」「合資会社」の3種類です。
各会社の定義は、下記の通りとなります。
株式会社 | 所有と経営の分離が可能 | 会社によって無限責任・有限責任の範囲が異なる | |
持分会社 | 合名会社 | 所有と経営が一致 | 社員全員が無限責任 |
合同会社 | 所有と経営が一致 | 社員全員が有限責任 | |
合資会社 | 所有と経営が一致 | 社員によって無限責任・有限責任が異なる |
無限責任とは、会社の責任が個人の財産にまで及ぶことを意味します。つまり、会社が借金を抱えた場合、会社の資産だけでなく、個人の財産も巻き込まれ、追加で支払うことがあるということです。
一方、有限責任では、負担範囲が株主や出資者の出資額に限られ、個人の財産は保護されます。つまり、会社が借金を抱えた場合、出資額を超えて追加で負担することはありません。
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7. 商法・会社法の違いまとめ
商法・会社法は平成17年の改正で大きく仕組みが変わりました。令和4年に行われる予定の改正では、株主総会や取締役などに関する項目が見直され、より現代の実情に即した法律へと改善されます。
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