2023年06月07日更新
中小企業庁による事業承継税制の申請マニュアル!要件、注意点、手続きの流れも解説
中小企業庁の事業承継税制とは、贈与税・相続税の納税を猶予または免除する制度です。事業承継税制は、法人版と個人版に分かれ、内容が異なるので注意が必要です。この記事では、事業承継税制について、要件や注意点、手続きの流れなどを解説します。
目次
1. 事業承継税制とは?
多額の贈与税や相続税が課税されると、思ってもみなかった支出で経営が圧迫され、順調に事業承継することが困難になります。このような問題を解決するために、2009年度の税制改正の際に「事業承継税制」が創設されました。
事業承継税制を利用すれば、事業承継のために後継者が得た自社株式に課税される贈与税や相続税に関して、納税を猶予されます。その後、一定の期間に渡り要件を満たせば税額が免除されます。
その事業承継税制は2018年度の税制改正にて10年間の限定措置ではありますが、要件が緩和され、今まで以上に利用しやすくなりました。さらに、2019年度の税制改正では、個人に向けた事業承継税制も新設されました。
2. 中小企業庁の事業承継税制による税金の猶予・免除
親の会社を引き継ぐなどで事業承継をする場合は、中小企業庁の事業承継制度を利用して税金の猶予・免除を受けましょう。
事業承継税制とは、中小企業の事業承継において、条件を満たせば事業承継に関する贈与税や相続税の納税を猶予・免除される制度のことです。
中小企業庁が中小企業を支援するために、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)によって事業承継税制が定められています。
事業承継における後継者の税負担はとても重たいため、後継者の税負担を軽減させて事業承継を行いやすくするために制定されました。事業承継税制は、大きく以下の2つに分けられます。
- 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予制度(=法人版事業承継税制)
- 個人の事業用資産についての贈与税・相続税の納税猶予制度(=個人版事業承継税制)
事業承継税制を利用する最大のメリットは、事業承継で発生する税金の納税が猶予・免除されることです。
事業承継をすると、引き継いだ資産に対して多額の税金が発生します。資産は株式、設備、店舗など、現金でないことがほとんどですが、納税は現金で行わなければなりません。
後継者といっても一個人なので、資金力のない後継者は多いです。多額の現金が手元にないと、事業承継もできないでしょう。税金を理由に中小企業の後継者が事業承継を拒むことを回避するため、事業承継税制が作られました。納税の猶予・免除によって、中小企業の事業承継を支援します。
中小企業庁の事業承継税制の早わかり表
中小企業庁の事業承継税制を種類ごとに見ると、以下のとおりです。
個人版 | 法人版 (一般措置) |
法人版 (特例措置) |
|
事前の事業承継計画提出 | あり 2019年4月1日~2024年3月31日まで |
なし | あり 2018年4月1日~2023年3月31日まで |
制度利用期限 | 2028年末まで | なし | 2027年末まで |
猶予・免除対象 | 特定事業用資産 | 総株式の3分の2まで | 全株式 |
納税猶予割合 | 100% | 贈与税:100% 相続税:80% |
100% |
贈与者 | 先代事業者(経営者) | 複数の株主 | |
後継者の人数 | 1人 | 1人 | 最大3人 |
事業承継後5年間の雇用維持割合 | なし | 8割 | なし |
経営承継円滑化法の認定有効期限 | 最初の認定翌日から2年間 | 最初の申告期限の翌日から5年間 |
国税庁「法人版事業承継税制」
贈与税の仕組みと税率
個人から財産を贈与された際にかかる税金が贈与税です。この税金を納めるのは、贈与された人である受贈者になります。1月1日から12月31日までに受け取った財産のトータルから、基礎控除の110万円を差し引いた額をもとに算出します。
「(受け取った財産–基礎控除110万円)×贈与税率–控除額=贈与税額」が計算式です。受け取った財産が大きいほど税率が高くなります。
贈与税率と控除額は下記のとおりです。
基礎控除後における財産のトータル | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
相続税の仕組みと税率
亡くなった人である被相続人から相続などで財産を得たときにかかるのが、相続税です。この税金を納めるのは、財産を受け取った人である相続人です。相続税における計算の大まかな流れは、下記になります。
- 課税価格のトータルを出し、基礎控除を差し引いて課税遺産総額を算出
- 課税遺産総額を、法定相続分に従って各相続人が得たとし、各人の相続税額を算出
- 各人の相続税を合わせ、実際に得た財産の課税価格によって税額を割り振る
- 加算や税額控除を適用し、各人の納税額を算出
現預金や自社株式の評価額、不動産など全てにおける財産のトータルが基礎控除を下回ると、相続税の申告や納税は不要です。
相続税率と控除額は下記になります。
法定相続分による財産の取得額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
3. 中小企業庁の事業承継税制の改正内容【平成30年】
事業承継税制は、平成30(2018)年度の税制改正において法人版事業承継税制に特例措置が設けられました。これにより改正前の税制を一般措置、改正後の税制を特例措置に分けます。
複数の株主から後継者(最大3人)への事業承継も対象
例えば、それまでは経営者から1人の後継者に事業承継される際の税金が対象でした。改正後は複数の株主から後継者(最大3人)への事業承継も対象となりました。
1人の父親から3人の息子へ均等に株式を引き継いだ場合でも、事業承継税制の対象です。急な経営者の死による相続で3分割された株式でもそれぞれが優遇措置を受けられます。
こうした改正によって、中小企業経営の実情に合わせた多様な事業承継支援が受けられるようになりました。
10年間限定の措置
特例措置は、10年間限定の措置になります。改正から5年以内の平成35(令和5・2023)年までに事業承継のための計画を提出し、10年以内の平成40(令和9・2027)年までに事業承継の実行をしなければなりません。
手続きを含めると平成30年から5年以内に事業承継する会社が利用できる措置です。
個人版事業承継税制が創設
令和元(2019)年度の税制改正で個人版事業承継税制が創設されました。個人版事業承継税制は、個人事業者の後継者が事業用宅地などの特定事業用資産を贈与または相続する際に利用できる制度です。
法人版の対象資産が株式などであったことに対し、個人版では特定事業用資産が納税猶予の対象となります。従業員数など事業規模の規定があり、株式のない小規模企業が利用する制度です。
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4. 中小企業庁の法人版事業承継税制とは
法人版事業承継税制は、非上場株式などに関する贈与税・相続税の納税猶予制度です。
中小企業の後継者が経営承継円滑化法の認定を受けると、制度を利用して贈与税・相続税の納税を猶予または免除されます。法人版事業承継税制には2種類あり、制度の内容が異なります。
- 一般措置
- 特例措置
一般措置と特例措置には、さまざまな違いがあるので、わかりやすく違いを以下の表にまとめました。
一般措置 | 特例措置 | |
事前の事業承継計画提出 | なし | あり |
制度利用期限 | なし | 2027年末まで |
猶予・免除対象株数 | 総株式の3分の2まで | 全株式 |
納税猶予割合 | 贈与税:100% 相続税:80% |
100% |
後継者の人数 | 1人 | 最大3人 |
事業承継後5年間の雇用維持割合 | 8割 | なし |
特例措置は一般措置よりも条件が緩和されています。一般措置と特例措置のどちらも選べるなら、特例措置を選ぶとよいでしょう。各措置の内容を順番に確認します。
一般措置
一般措置とは、平成30年4月における税制改正以前の制度のことです。一般措置のポイントは、次の2つです。
- 贈与・相続時の従業員数の8割を維持する
- 猶予継続贈与ができる
贈与・相続時の従業員数の8割を維持する
事象承継税制を利用している間、従業員数を減らしすぎると経営承継円滑化法の認定が取り消しになります。贈与・相続時における従業員数の8割を維持しなければなりません。
猶予継続贈与ができる
猶予継続贈与もできます。猶予継続贈与を利用すると、事業承継税制を利用して贈与税や相続税の納税を猶予される後継者が、猶予期間中にさらに次の後継者に事業承継した場合、後継者の税額は免除となり、次の後継者は残りの猶予期間を継続できるでしょう。
一般措置における贈与税・相続税猶予の条件
一般措置では、後継者の贈与税は100%、相続税は80%猶予されます。贈与税が猶予されるのは株式などの総数における3分の2が上限です。
事業承継後、5年間は次の要件を満たす必要があります。
- 後継者が会社の代表者であること
- 後継者が同族内で筆頭株主であること
- 雇⽤の8割以上を5年間平均で維持する
- 猶予対象となった株式を継続保有していること
- 上場会社、⾵俗営業会社に該当しないこと
- 資産保有型会社などに該当しないこと
資産保有型会社とは、⾃ら使⽤していない不動産などが70%以上ある会社やこれらの特定の資産における運⽤収⼊が75%以上の会社のことです。
事業承継後、5年経過すると猶予対象となった株式を継続保有していて、資産保有型会社などに該当しなければ、他の条件は満たさなくても引き続き納税を猶予されます。
一般措置における贈与税・相続税の免除
一般措置で免除される贈与税・相続税を表にまとめました。確認しましょう。
免除されるケース | 内容 |
先代経営者が死亡したとき | 後継者の贈与税は免除される。 ただし、贈与税に代わって相続税が発生。 都道府県の確認(切替確認)を受けることで、相続税の納税が猶予される。 |
猶予継続贈与したとき | 後継者の納税は免除され、次の後継者の納税が猶予される。 5年以内の猶予継続贈与の場合、「やむをえない理由」が生じた場合のみ後継者の納税が免除される。 |
後継者自身が死亡したとき | 贈与税・相続税の納税は免除される。 |
こうした免除事由の場合、経営承継円滑化法の認定取り消しも同時に行われます。他にも会社が倒産した場合や同族関係者以外の者に株式などを全部譲渡した場合など、納税が免除されます。
詳しい要件は公開されていないため、直接問い合わせて確認してください。事業承継税制に関する問い合わせは、中小企業庁または都道府県の担当課が受け付けています。中小企業庁の公式サイトでも事業承継税制の内容確認が可能です。
特例措置
法人版事業承継税制の特例措置は、一般措置よりも納税猶予割合を引き上げるなど、さらに手厚く支援してくれます。ただし、平成30(2018)年からの10年間限定の措置です。
特例措置では、一般措置で必要だった8割の雇用維持を満たさなくても、納税猶予を継続できます。一般措置では複数の株主から1人の後継者にしか事業承継できませんが、特例措置は最大3人後継者がいても制度を受けられるでしょう。その他の特例措置と一般措置の違いは、後述します。
特例措置における贈与税・相続税猶予の条件
特例措置では、後継者の贈与税・相続税が100%猶予されます。株式など総数の全てが猶予対象です。事業承継後、5年間は次の要件を満たす必要があります。
- 後継者が会社の代表者であること
- 後継者が同族内で筆頭株主であること
- 上場会社、⾵俗営業会社に該当しないこと
- 猶予対象となった株式を継続保有していること
- 資産保有型会社などに該当しないこと
一般措置の条件である「従業員数8割の雇用維持」は含まれません。8割を下回った理由を都道府県に報告する必要があります。
特例措置における贈与税・相続税の免除
特例措置における贈与税・相続税の免除も一般措置とそこまで変わりません。以下にまとめました。
免除されるケース | 内容 |
先代経営者が死亡したとき | 後継者の贈与税は免除される。 ただし、贈与税に代わって相続税が発生する。 都道府県の確認(切替確認)を受けることで、相続税の納税が猶予される。 |
猶予継続贈与したとき | 後継者の納税は免除され、次の後継者の納税が猶予される。 5年以内の猶予継続贈与の場合、「やむをえない理由」が生じた場合のみ後継者の納税が免除される。 |
後継者自身が死亡したとき | 贈与税・相続税の納税は免除される。 |
一般措置と特例措置の免除事由は同じですが、免除事由が全て公開されるわけではありません。実際に免除になるかは、必ず中小企業庁や都道府県に確認しましょう。中小企業庁の公式サイトでも特例措置の内容確認が可能です。
5. 中小企業庁の個人版事業承継税制とは
個人版事業承継税制は、個人の事業用資産に対する贈与税や相続税の納税猶予制度です。個人事業者の後継者が経営承継円滑化法の認定を受けることで、制度を利用して贈与税・相続税の納税を猶予・免除といった優遇措置を受けられます。
個人版事業承継税制のポイントは、「特定事業用資産」です。特定事業用資産とは、先代事業者が使用していた宅地など、建物、減価償却資産の事業用資産をさします。
詳しい内容は、以下のとおりです。
特定事業用資産 | 内容 |
宅地等 | 事業用に使われていた土地や⼟地の上に存する権利(借地権、賃借権など) |
建物 | 事業用に使われていた建物 |
減価償却資産 | 固定資産税が課税される償却資産(構築物、機械装置、船舶など)、営業用の自動車など |
これら3つの特定事業用資産が、納税猶予の対象となります。特定事業用資産であっても、あらかじめ申請しなければ納税猶予の対象とならないので注意が必要です。
贈与税・相続税の納税猶予制度
法人版と違って個人版事業承継税制の場合、後継者の贈与税・相続税は全て猶予されます。維持するべき条件はありません。
収入が0になったり、資産保有型事業などに該当したりするなどの条件に当てはまると経営承継円滑化法の認定が取り消されます。同時に納税猶予されなくなるので注意しましょう。
次の場合は、免除または減免の申請が可能です。
- 先代事業者(経営者)が死亡した場合(贈与税は免除され、相続税に切り替わります)
- 後継者自身が死亡した場合
- 後継者が重度の障害・疾病など事業継続できない状態になった場合
- 猶予継続贈与した場合(事業承継の5年後以降)
- 後継者が破産した場合
個人版事業承継税制の免除事由も、全ての事由が公開されていません。免除になるか必ず中小企業庁や都道府県に確認しましょう。
6. 中小企業庁の事業承継税制の活用条件
せっかく「事業承継税制を使おう」と考えていても、条件を満たしていなければ猶予や免除といった優遇措置を受けられません。ここで紹介する3つの条件を、それぞれ満たす必要があります。
- 会社
- 後継者
- 現経営者
法人版事業承継税制(以下、法人版)と個人版事業承継税制(以下、個人版)でも条件が異なります。それぞれの条件を事前に確認しましょう。
①会社
事業承継税制を使える会社は以下に当てはまるところだけです。
- 対象の中小企業者である
- 総収入金額が0を超えている
- 非上場企業である
- 風俗営業会社、資産管理会社ではない
中小企業者に当てはまるのはどのような企業か、以下の表にまとめました。法人版に当てはまるなら資本金と従業員数を、個人版に当てはまるなら従業員数を見て判断してください。
業種目 | 資本金 | 従業員数 |
製造業 | 3億円以下 | 300人以下 |
ゴム製品製造業 | 3億円以下 | 900人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
ソフトウェア業または情報処理サービス業 | 3億円以下 | 300人以下 |
旅館業 | 5,000万円以下 | 200人以下 |
会社の条件だけでいうと、例えば製造業で資本金が3億円で従業員数が100人であれば法人版に当てはまるので使えます。法人版・個人版の両方に当てはまる場合は、承継するものが株式なら法人版、特定事業用資産なら個人版を選びましょう。
医療法人・社会福祉法人・外国会社・士業法人は事業承継税制の対象となる中小企業に当てはまりません。
②後継者
後継者は、20歳以上で3年以上事業に従事していなければなりません。事業承継税制を受けるためには、まず後継者が自社で働いているのが条件です。
その他の条件は、法人版(一般措置・特別措置)・個人版のそれぞれで異なります。順番に見ましょう。
法人版における後継者の条件
- 20歳以上で役員就任から3年以上たっている
- 取得した株式などを継続して所持している(承継後)
- 後継者と同族関係者(親族など)で発⾏済議決権株式総数における50%超の株式を所持し、同族内で筆頭株主となる(承継後)
- 会社の代表者である
上記に加えて、特例措置の場合は「事前に提出する計画に記載された後継者であること」と「一般措置の適用を受けていないこと」が求められます。
個人版における後継者の条件
どの事業承継税制の措置を受けるのかによって条件が異なるので注意しましょう。
- 事業承継計画の認可を受けた後継者である
- 20歳以上で、3年以上事業に従事していた(※2022年以降は18歳以上に改正予定)
- 開業の届出書を正しく出している(円滑化法申請時まで)
- ⻘⾊申告の承認を受けている、または受ける⾒込みである(円滑化法申請時まで)
- 特定事業⽤資産の全てを取得している
- 事業の取引を記録し、帳簿書類の備え付けを⾏っている
- 特定事業⽤資産のうち納税猶予の適⽤を受けようとする資産の全部を申請基準⽇まで引き続き有し、⾃⼰の事業に使用している、または使用する⾒込みである
③現経営者
経営者(贈与者)にも条件があります。まずは、法人版における先代経営者の主な条件を確認しましょう。
- 先代経営者が総議決権数の過半数を保有しており、筆頭株主であった(制度の適⽤を受ける後継者を除く)
- 会社の代表者であった
- 贈与時に代表者でない
- 後継者に一定数以上の株主などを贈与する
個人版における先代経営者の主な条件は、以下のとおりです。
- 贈与した特定事業⽤資産に関する事業を廃⽌した旨の届出を出している(円滑化法申請時まで)
- 贈与年の前々年から贈与年において、事業所得に関する⻘⾊申告書を提出していた者である
事業承継税制を使う場合は、これらに当てはまらなくてはなりません。
法人版と個人版で条件が異なるので注意が必要です。中小企業庁の公式サイトから条件をしっかり確認しましょう。
事業承継税制スタート後の条件
事業承継税制スタート後の条件を、5年間と5年経過後に分けて紹介します。まずは、5年間の条件です。
- 後継者が会社の代表者で筆頭株主
- 後継者が猶予対象株式を継続して有している
- 5年間平均で雇用の8割以上を保つ
次に、5年経過後の条件を見ましょう。
- 後継者が猶予対象株式を継続して保っている
特例措置では、雇用を維持できなければ、認定支援機関の指導やアドバイスを受け、その意見が記された報告書を都道府県庁に提出すると、納税猶予が継続されるでしょう。
7. 中小企業庁の事業承継税制の活用・申請の流れ
中小企業庁の事業承継税制の適用を受けるためには、認定の申請をしなければなりません。準備から税務署への申告までの流れを見ましょう。
- 事業承継計画の提出
- 認定支援機関の確認申請
- 贈与・相続の実行
- 認定の申請
- 税務署への申告
①と②は、法人版(特別措置)と個人版における事業承継税制の適用を受けるときにのみ必要です。法人版(一般措置)を活用するときには、③「贈与・相続の実行」からを参考にしてください。それでは順番に見ましょう。
①事業承継計画の提出
法人版(特別措置)と個人版の事業承継税制の適用を受けるときには、事業承継計画の策定・提出が必要となります。
提出するのは、特例措置の場合「特例承継計画」、個人版の場合「個人事業承継計画」です。一般措置においては不要となります。事業承継計画には、会社や後継者、事業承継した後の経営計画を記載しましょう。
2018年4月1日〜2023年3月31日までに提出しなければなりません。ただし、個人事業承継計画は、2019年4月1日〜2024年3月31日までに出しましょう。
事業承継計画は、認定申請と同時に提出しても問題ありませんが、認定支援機関の確認書を添付する必要があります。
②認定支援機関の確認申請
事業承継計画と一緒に確認書を添付するために、認定支援機関の確認の申請を行いましょう。確認書とは、認定経営革新等支援機関(認定支援機関)が計画の内容を確認したうえで指導・助言を受けたことを証明する書類です。
認定支援機関とは、国によって定められた中小企業の経営相談を行える専門家・専門機関のことをいいます。具体的には商工会議所、金融機関、税理士、公認会計士、弁護士などが認定支援機関です。
都道府県ごとに多くの認定支援機関があります。中小企業庁「経営革新等支援機関認定一覧について」で最寄りの認定支援機関を探しましょう。
法人版(特別措置)・個人版の事業承継税制を活用したいときには、ここまでの準備を行ったうえ、事業承継を実行してください。準備が整っていなければ、優遇措置を受けられません。
③贈与・相続の実行
準備が整ったら、贈与または相続を行って事業承継を実行しましょう。
特例措置の場合、2018年1月1日以降の贈与・相続が対象です。個人版の場合、2019年1月1日以降の贈与・相続が対象となります。期限はそれぞれの制度が終わる年の12月31日までです。
事業承継計画の提出期限は各制度の創設から5年以内になります。計画提出期限前に贈与・相続を行えなくても問題ありません。実際の贈与・相続が先の場合、事業承継計画を提出しておき、その後計画に沿って制度適用期限内で贈与・相続を実施しましょう。
④認定の申請
事業承継を行った後は、認定の申請を行います。法人版(一般措置)であれば、認定申請手続きから行いましょう。
事業承継税制の適応を受けるためには経営承継円滑化法の認定申請が必要となります。贈与税なら贈与年の10月15日〜翌年1月15日までに申請をしなければなりません。相続税の場合は、相続発生後5カ月を経過する日の翌日〜8カ月を経過する日までに申請してください。
申請書は、利用する制度で様式が異なります。最新の様式を中小企業庁で確認したうえでダウンロードしましょう。法人版の場合、申請書以外に以下の書類も必要です。贈与か相続により、適宜必要な書類を用意しましょう。
- 定款の写し
- 株主名簿
- 登記事項証明書
- 贈与契約書
- 贈与税額の見込み額を記載している書類
- 遺言書または遺産分割協議書の写し
- 相続区税額の子見込み額を記載している書類
- 従業員数証明書
- 決算書類
- 各誓約書
- 戸籍謄本
個人版では、2つの書類を出します。
- 先代経営者における前年の青色申告書
- 貸借対照表および損益決算書その他の明細書の写し
法人版(特例措置)と個人版において、事業承継計画を提出していなければ事業承継計画と確認書を同時に提出してください。
⑤税務署への申告
申請がとおれば、認定書を取得できます。認定書の写しとともに、贈与税または相続税の申告書を税務署に提出しましょう。贈与の場合は贈与年の翌年3月15日まで、相続の場合は相続の開始があったことを知った日の翌日〜10カ月以内に申告してください。
このとき、納税猶予税額・利子税に対する担保を用意しなければなりません。申告時に税務署に提供しましょう。
事業承継税制が認定されると、納税猶予期間中は報告書または届出を提出します。定期的に出す必要のある報告書・届出は3つです。
- 年次報告書
- 継続届出書
- 実績報告書
他にも、経営状況や申請内容に変更があった場合は、随時都道府県に報告しなければなりません。各報告書は、中小企業庁の公式サイトからダウンロードできます。
年次報告書、継続届出書、実績報告書をそれぞれどこに出すのか、どの制度で必要となるのか確かめましょう。
8. 特例承継計画作成のポイント
特例承継計画には、会社や特例代表者、特例後継者の氏名などや、特例後継者が株式を承継後の5年間の経営計画などを、記載しなくてはなりません。
ここから詳しく解説していきます。
会社について
会社については、特例の認定を受けたい事業者の名称などを記載します。
資本金額あるいは出資の総額は直近の決算期の数字を記載します。常時使用する従業員の数には、正規雇用関係の従業員数ですが、役員は入りません。また、正規雇用なので、アルバイトやパートも除きます。
主たる事業内容は、「日本標準産業分類」に則って記載します。事業内容が複数ある場合は、売上高や業務の比重の高いものを業種とします。
特例代表者について
持っている株式を承継する代表者の氏名および代表権があるかを記載します。計画書作成時に退任している場合は、退任日を記入します。また、特例代表者に関しては、計画書提出時に代表者である人、若しくは代表であった人でなければなりません。
したがって、履歴事項全部証明書に、先代経営者の退任年月日が記載されていない場合は、退任日が分かる閉鎖事項証明書も提出する必要があります。
特例後継者について
特例関係者に関しては、特例代表者から株式を継承する予定の後継者の氏名を最大3名まで記入します。気を付けなければならない点として、特例後継者に氏名を記載していないと、事業承継税制の特例措置の認定は受けられません。
なお、一度決めた特例後継者を変更する場合は「変更申請書」の提出が必要です。
9. 事業承継税制のメリットとデメリット
事業承継税制には、後継者の税負担を大幅に減らせるメリットなどがありますが、一方でいくつかのデメリットもあります。それぞれ詳しく解説します。
メリット
事業承継税制を活用する上で最大のメリットは、最終的に税金が全額免除される可能性があるということです。
導入当時の事業承継税制は、納税猶予の範囲が限られていたり、認定取り消しの基準が厳しかったため、使い勝手のよい制度とはいえませんでした。しかし、2018年度の税制改正で特例措置が導入されて使い勝手の悪さが解消されました。
デメリット
一方のデメリットは、認定が取り消された場合のリスクがあるということです。万一、贈与税の納税猶予が取り消されると、相続税よりも税率が割高になってしまいますし、猶予された税額に対する利子税もかかってしまいます。
また、事業承継税制を活用すると、5年間は毎年継続届出書を各都道府県と税務署に提出しなければなりません。この届出書は結構大変です。5年経過後は3年に1度の提出で良くなりますが、逆に忘れてしまう可能性があります。
さらに、顧問弁護士が事業承継税制に詳しくない場合は、事業承継の部分のみを他の税理士に依頼しなければなりませんが、税理士にとってもリスクが高い制度なのでこの費用がかなり高額になってしまいます。
10. 中小企業庁の事業承継税制の注意点
事業承継税制の認定を受けた後も、注意しなければならない点があります。事業承継税制を活用するときの注意点は以下の3つです。
- 認定後に書類の提出をしなければならない
- 5年間は事業を継続させなければならない
- 認定取り消しによって猶予額と利子額を納付しなければならない
3つの注意点を詳しく確認しましょう。
①認定後に書類の提出をしなければならない
事業承継税制の認定を受けた後も、書類を提出する必要があるので注意してください。納税猶予期間中には、以下における書類の提出が必要です。
- 年次報告書
- 継続届出書
- 実績報告書
これらを提出すると、事業継続がなされているのか、申請条件を継続して守れているのかをチェックされます。これらの書類は中小企業庁の公式サイトで確認、ダウンロードできるので、最新のものを確認しましょう。
②5年間は事業を継続させなければならない
事業承継税制を利用するなら、事業承継後5年間事業を継続させる必要があります。事業承継後5年以内に会社が倒産すると、認定が取り消されるので注意しましょう。
そもそも、事業承継税制を利用してもいずれ事業承継で発生する相続税や贈与税は納めなければなりません。事業承継時に経営状況が悪いのであれば、事業承継をするべきか改めて検討するべきです。
一方、経営状況が悪いからといって現経営者が引退するのを機に倒産させてしまうのはもったいないです。後継者に経済的余裕がないのであれば、M&Aを検討しましょう。
③認定取り消しによって猶予額と利子額を納付しなければならない
継続要件を満たせなかったり、総収入額が0になったりするなど認定取り消し事由に該当すると、猶予税額と利子を即座に納付する義務が発生します。
認定後5年以内に後継者の死亡などの免除事由以外で認定を取り消されると、猶予されていた猶予税額の全額と利子税を納付する必要があります。認定されて5年経過後は、場合によっては全額でなく一部納税です。
例えば、納税猶予対象の株式を認定5年以内に譲渡すると猶予税額を全額納付する必要がありますが、5年経過後なら一部納付となります。
認定取り消しとなると、納税のための資金を用意できない可能性があるでしょう。資金繰りで困らないよう、継続要件は維持するように努めてください。
11. 中小企業庁の事業承継税制を活用する際の相談先
事業承継税制を利用するなら、専門家に相談して進めることをおすすめします。事業承継税制の内容は複雑で満たすべき要件も多数あり、個人で要件に当てはまっているか確認するのは困難です。
M&A総合研究所は、主に中堅・中小企業向けの案件を取り扱うM&A仲介会社です。M&A総合研究所では、知識や経験の豊富なM&Aアドバイザーが案件をフルサポートします。
料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談を受け付けていますので、事業承継税制の利用をご検討の際は、どうぞお気軽にご連絡ください。
12. 中小企業庁による事業承継税制の申請マニュアルまとめ
事業承継税制とは、中小企業庁が実施する贈与税・相続税の納税を猶予または免除する制度です。法人版事業承継税制と個人版事業承継税制があります。
法人版事業承継税制は、一般措置と特例措置の2つに分けられます。法人版事業承継税制を利用するなら、特例措置を選択する方が継続要件も緩く使いやすいです。
特例措置と個人版事業承継税制はそれぞれ創設から10年間限定の制度のため、利用する場合は早めに検討しましょう。事業承継税制利用の検討は、専門家に相談するとスムーズに行えます。
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