事業承継ローンとは?メリットや注意点から利用する流れまで詳しく解説!

提携本部 ⾦融提携部 部⻑
向井 崇

銀行系M&A仲介・アドバイザリー会社にて、上場企業から中小企業まで業種問わず20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、不動産業、建設・設備工事業、運送業を始め、幅広い業種のM&A・事業承継に対応。

本記事では日本政策金融公庫の事業承継ローンを取り上げ、条件や具体的な手続き方法、注意点などとともに関連するその他の情報を掲示します。事業承継ローンは中小企業の事業承継への公的支援の1つです。事業承継を検討している方は必見です。

目次

  1. 事業承継ローンとは
  2. 事業承継ローンの2つの種類
  3. 事業承継ローンを利用する2つのメリット
  4. 日本政策金融公庫で事業承継ローンを利用するための流れ
  5. 日本政策金融公庫で事業承継ローンを利用できる人の条件
  6. 事業承継ローンを活用するときの3つの注意点
  7. 事業承継時の融資に関するその他の支援制度
  8. 返済不要の事業承継・引継ぎ補助金とは
  9. 事業承継ローン以外に事業承継税制にも詳しくなろう
  10. 事業承継ローンのまとめ
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1. 事業承継ローンとは

事業承継ローンとは、事業承継を行うために必要な資金を融資してもらうことです。国内のどの金融機関でも用意されていますが、その名称は「事業承継応援ローン」「事業承継サポートローン」「事業承継支援ローン」など、各機関によって異なります。

なぜ、事業承継ローンが利用されているのかというと、事業承継をするとき、後継者には大きな費用負担があるからです。具体的には、事業承継の際に以下のような費用が発生します。

  • 贈与税(親族内承継の場合)
  • 相続税(親族内承継の場合)
  • 株式の買取り資金(社内承継、M&Aによる事業承継の場合)
  • 登録免許税(M&Aによる事業承継の場合)
  • 不動産取得税(M&Aによる事業承継の場合)
  • 法人税(M&Aによる事業承継の場合)

事業承継をするには数百万〜数千万円の費用が必要となるケースが多いのが実情です。これらの税金・費用に加え、先代の経営者が会社の借入金の連帯保証人あれば、それも引き継がなければなりません。

多くの場合、事業承継は後継者にとって費用面でも大きな負担があります。そのような場合、金融機関などの事業承継ローンを利用することで、一時のまとまった出費を補えます。もちろん、事業承継ローンは「借入」のため、返さなければなりません。

しかし、事業承継のために必要な資金だと認められれば、他の融資よりも借入期間や利息が優遇されます。なお、借入期間や利息などの条件は、ローンを組む金融機関やそのときの情勢によって異なることには注意しましょう。

事業承継税制で相続税の負担をなくす方法については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】事業承継の相続税対策に悩む経営者に!事業承継税制で相続税の負担をなくす方法を徹底解説| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

2. 事業承継ローンの2つの種類

事業承継ローンは、大きく以下の2つの種類に分けられます。

  • 政府系の事業承継ローン
  • 一般金融機関の事業承継ローン

政府系の事業承継ローン

事業承継ローンといえば、日本政策金融公庫の実施する「事業承継・集約・活性化支援資金」が有名です。日本政策金融公庫とは、国が100%出資している金融機関になります。起業時の資金調達や、個人事業主・中小企業経営者の資金調達に利用されることが多いのが特徴です。

日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」には、国民生活事業と中小企業事業の2タイプがあります。それぞれの概要は以下のとおりです。

  • 国民生活事業:事業承継のために必要な設備投資資金、または運転資金として別枠7,200万円までの融資(運転資金分は4,800万円まで)
  • 中小企業事業:事業承継のために必要な設備投資資金、または長期運転資金として7億2,000万円までの直接貸付

日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」を利用するには、さまざまな条件をクリアしなければなりません。しかし、条件が合致すれば、他の金融機関よりも優遇された貸付条件でローンを組めるので有用です。

なお、日本政策金融公庫の事業承継・集約・活性化支援資金の利用方法や条件・利率などの詳しい内容は後述します。

一般金融機関の事業承継ローン

事業承継ローンは、銀行や信用金庫などの一般金融機関でも用意されています。一般金融機関の事業承継ローンでも、以下のように、他の融資と比べると比較的、審査が通りやすくなっているようです。

  • 担保や保証人なし
  • 不動産購入なら20年以内の融資期間
  • 5年・10年の据え置き期間あり

融資金額の限度や返済期間、金利などの条件は金融機関ごとに異なります。各金融機関の詳細条件は、取引実績のある金融機関担当者に確認してみましょう。「すぐに一括で事業承継資金が必要」というような場合には、事業承継ローンが役立ちます。

事業承継の資金調達に使える融資制度・保証制度については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】事業承継の資金調達に使える融資制度・保証制度を解説!| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

3. 事業承継ローンを利用する2つのメリット

事業承継ローンには、2つの種類があることを確認しました。どちらの種類であっても、事業承継ローンを利用するメリットがあります。

  • 事業承継で必要な費用を自費でまとめて払わなくてよい
  • 事業承継をきっかけに新しい挑戦をする資金ができる

事業承継で必要な費用を自費でまとめて払わなくてよい

事業承継ローンを活用することで、事業承継で必要な費用をまとめて払わずにすみます。先にも述べたとおり、事業承継をするには、さまざまな税金などの費用が必要です。しかし、全額を後継者が用意できない場合もあるでしょう。

そのような場合、事業承継ローンを利用することで分割して支払えるようになります。事業承継で必要となる費用を融資してもらい、融資された費用で納税や支払いを済ませた後、約定した期間で返済していけばいいでしょう。

当然、金融機関によって融資の限度額に違いが出てくるはずであり、審査もあるため必要な費用全額を融資してもらえるとは限りませんが、一定のまとまった資金を用意することが可能になります。

「事業承継したいのに後継者にまとまった費用がなくて廃業するしかない」といった事態に陥っているのであれば、有効な手段でしょう。

事業承継をきっかけに新しい挑戦をする資金ができる

事業承継ローンを利用することで、事業承継をきっかけに新しい挑戦をするための資金を手に入れられます。事業承継をするときには、事業承継計画とともに会社の中長期戦略を立てるのが通常です。

自分が経営者となったとき、会社を成長させるために何か挑戦したいと思うのは自然なことですから、以下のような場合でも融資の対象となるケースがあります。

  • 新しい設備投資をしたい
  • 新規事業に進出したい

このように、事業承継を機に、新たな挑戦をするための資金も融資してもらえます。ただし、金融機関によっては、このような用途での融資はしてもらえない場合もあるので注意しましょう。

事業承継の費用・料金については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】事業承継の費用・料金はいくらかかる?税金の額についても解説【弁護士/税理士/会計士】| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

4. 日本政策金融公庫で事業承継ローンを利用するための流れ

事業承継ローンを利用したいのであれば、事前にどのように融資を受けるのか流れを確認しておくべきです。ここでは、日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」を利用する場合で説明をします。

日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」を利用するための流れは、以下のとおりです。

  1. 税理士などの専門家に相談する
  2. 事業承継計画書を作成する
  3. 支店窓口に相談ヘ行く
  4. 必要書類の作成をする
  5. 事業承継ローンの申込み
  6. 審査
  7. 融資決定後、貸付契約の打ち合わせをする
  8. 返済を開始する

他の金融機関であっても、基本的にはこのような流れになります。それでは8つの流れについて、詳しく確認しましょう。

①税理士などの専門家に相談する

まずは、いくらの事業承継ローンを組むべきか専門家に相談しましょう。特に、税理士への相談が欠かせません。なぜなら、事業承継でどれほどの税金が発生するのかを概算してもらう必要があるからです。

事業承継の形はさまざまですが、親族内承継であれば贈与税・相続税などの税金がどれくらいの金額になるのか計算してもらいましょう。このとき、節税についてもアドバイスをもらうと安心です。

事業承継によって、総額でいくらぐらいの費用がかかるのかを知っておくことで、事業承継ローンでどの程度の融資をしてもらうか決められます。税理士の他に事業承継に関する相談相手の専門家としては、M&A仲介会社も有用です。

M&A総合研究所では、事業承継に豊富な経験と知識を持つM&Aアドバイザーが在籍しており、事業承継をフルサポートします。随時、無料相談を受け付けていますので、事業承継に関するお悩みがある際には、お気軽にお問い合わせください。

【関連】M&A・事業承継ならM&A総合研究所
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②事業承継計画書を作成する

続いて、事業承継計画書を作成しましょう。事業承継計画書には、具体的に、後継者の教育方法、新体制の準備、相続税・贈与税の対策なども記します。以下のような手順で計画書を策定するとよいでしょう。

  • 事業承継の大枠
  • 事業の経営理念
  • 事業の中長期戦略
  • 事業承継の進め方
  • 年次ごとの計画表

中小企業庁の公式サイトでは、企業が参考にできる事業承継計画のひな形や計画表が公開されています。これらの内容に沿って内容を詰めていくと、具体的な事業承継計画を策定できるでしょう。参考にしてみてください。

特に事業承継を機に大きな挑戦をしたいと考えているのであれが、事業の中長期戦略は具体的に書きましょう。事業承継計画書は、事業承継ローンの相談や申込みのときに持っていくと、具体的な必要性が担当者に伝えられます。

内部の人間だけがわかる資料ではなく、自社を知らない人が見てもわかる資料になるよう仕上げてください。

③支店窓口に相談ヘ行く

事業承継計画書が完成したら、最寄りの日本政策金融公庫支店窓口まで相談に行きましょう。支店が遠ければ、電話や商工会議所の定例相談でも話を聞いてくれます。相談の際には以下のような資料を持っていくと、より具体的なアドバイスを受けられるのでおすすめです。

  • 事業承継計画書
  • 会社案内(パンフレットなど)
  • 直近3期分の決算書

その他、会社のことをわかってもらえそうな資料や、事業承継で発生すると考えられる税金の内訳などもあるとよいでしょう。できるだけ詳しく事業承継の計画内容や事業承継ローンを利用したい理由を伝えることで、具体的な返済プランなどを聞けます。

いきなり申請してしまうと事業承継ローンの審査が通らないかもしれませんので、事前相談に行きましょう。

④必要書類の作成をする

相談へ行った後は、申込みに必要な書類を作成しましょう。事業承継ローンの申込みに必要な書類は以下のとおりです。

  • 会社案内、製品カタログなどの参考資料
  • 法人の登記事項証明書
  • 直近3期分の決算書・税務申告書
  • 納税証明書
  • 最近の試算表(決算月から時間がたっている場合)
  • 設備投資を行うときは概要のわかる資料(見積書など)
  • 担保の内容がわかる資料(不動産であれば登記事項証明書など)

これらの書類以外にも、相談に行ったときに「こういった資料も添付した方が審査に通りやすい」などのアドバイスを受けるかもしれません。その場合は、アドバイスに従って資料を添付しましょう。

⑤事業承継ローンに申込む

必要な書類がそろったら、日本政策金融公庫各支店の中小企業事業の窓口へ申込みに行きましょう。最寄りの支店は公式サイトから確認できます。なお、事業承継ローンは、電話や公式サイトからの申込みはできません。

⑥審査

申込み後、日本政策金融公庫が審査に入ります。審査期間には、担当職員が本社や事業計画予定地などへ視察にやってくるので対応が必要です。その際、資料だけではわからないことを具体的に質問されます。事業や計画の内容を説明できるようにしておきましょう。

専門家に相談している場合でも、同席を頼まず1人で対応するのが望ましいです。担当職員は、申込者本人の意思を聞きたいと考えています。専門家にフォローしてもらうと、あまり印象はよくありません。しっかりと受け答えできるように準備してください。

⑦融資決定後、貸付契約の打ち合わせをする

融資が決定すると、貸付契約の打ち合わせを行います。貸付契約や抵当権設定などの手続きが終わると、希望の銀行口座へ融資金が振り込まれるので確認しましょう。

⑧返済を開始する

事業承継ローンは借入金なので、返済をしていかなければなりません。原則は、元金均等割賦返済で指定の取引金融機関の口座から自動振替です。ただし、元利均等払い方式による返済も可能なので、申込み時に相談しましょう。

事業承継ローンの使い道を「設備投資のため」としている場合には、融資対象の物件の取得が適正に行われているかの報告や、固定資産台帳への計上確認および現地確認なども行われます。日本政策金融公庫では、返済の最大据え置き期間は2年です。

返済期間も無理がないよう、しっかりと申込み時に相談をしましょう。

事業承継における融資・保証・補助金の制度については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】事業承継における融資・保証・補助金の制度について徹底解説| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

5. 日本政策金融公庫で事業承継ローンを利用できる人の条件

ここでは、日本政策金融公庫の事業承継ローンである事業承継・集約・活性化支援資金の利用者条件を確認しておきましょう。事業承継・集約・活性化支援資金は、地域経済の維持や発展のために事業や企業を承継・集約化するための資金調達を支援する融資制度です。

この融資には、活用できる人の条件と使い道が明確になっています。それぞれ目的に合わせて融資を受ける必要がありますので、以下の内容を確認してください。

  活用できる人の条件 決められた使い道
中期的な事業承継計画を現経営者と後継者が一緒に策定 計画の実行に必要な資金
長期運転資金
経営権を安定化させ、承継や集約を予定 承継に必要な資金
長期運転資金
事業承継・集約によって多角化や転換などの新たな取り組みを予定 事業に必要な設備資金
長期運転資金
「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」で認定を受けた人 承継に必要な資金
長期運転資金
個人保証の免除を申し入れ、資金調達が困難である状態で公庫の貸付に関して個人保証を免除する人 取引状況の変化に合わせた長期運転資金

ただし、融資額には限度があり、「直接貸付7億2,000万円まで」となっています。返済期間は、それぞれの資金の用途によって異なり、具体的には以下のとおりです。
 

設備資金 20年以内(うち据置期間2年以内)
運転資金 7年以内(うち据置期間2年以内)

担保や保証人は、融資を受けるときの相談の中で決めていくことになるでしょう。直接貸付では、経営責任者の個人保証を必要とするケースがあることにも注意しておき、不安なら詳細を確認しておいてください。

利率は、資金の使い道や融資額、返済期間、その他条件によって変わります。自社の場合はどのようになるか、最初の相談時に確認しておきましょう。

6. 事業承継ローンを活用するときの3つの注意点

ここまでは日本政策金融公庫の事業承継ローンを見てきました。他の金融機関でも、事業承継ローンを利用する流れはだいたい同じです。しかし、条件や融資限度額、金利、返済期間などは金融機関によって大きく異なりますので、依頼したい金融機関へ確認しましょう。

ここからは、事業承継ローン全てにあてはまる注意点を見ます。事業承継ローンを活用するときに気をつけるべき注意点は、以下の3つです。

  • 結果的にかかる費用は大きくなる
  • 申請してすぐに借入できるわけではない
  • 審査が通るわけではない

結果的にかかる費用は大きくなる

事業承継ローンを利用すると、利用しなかった場合よりも、結果的にかかる費用は大きくなります。事業承継ローンを組むと利率が発生するためです。事業承継で必要な費用をまかなえるだけの資金力があるのであれば、わざわざ事業承継ローンは利用しないようにしましょう。

全額分を借入するのではなく、できるだけ融資額を少なくする努力も必要となります。「事業承継の費用がないけれどローンを組めばいいや!」と安易に考えるのは危険です。

毎月返済する額が低く、返済期間が長引いたり据え置き期間を長くしたりすると、利率はその分、高くなります。いつかは返さなければならないお金であることを、あらためて認識しておきましょう。

申請してすぐに借入できるわけではない

事業承継ローンの申請をしても、すぐに借入できるわけではありません。どの金融機関で申請しても、審査の期間があるからです。審査結果が出るまでに、早くて3週間~1カ月、遅ければ2カ月程度の時間がかかります。

実際に納税をしたり、その他の支払いをしたりするまでに貸付契約を完了できるよう、計画的に申請を行いましょう。そのためには、早い段階から事業承継をいつ行うかを計画しておく必要があります。費用面以外にも、事業承継にはさまざまな準備をしなければなりません。

できるだけ早くから事業承継の計画を立て、準備を始めておきましょう。税理士や専門家への相談は事業承継を意識し始めた段階から行っておくと安心です。

審査が通るわけではない

当然ですが、事業承継ローンの審査は必ず通るわけではありません。事業承継ローンを利用するには、さまざまな条件をクリアする必要があります。たとえば、以下のような場合は審査が通りにくいとされています。

  • 金融機関からの借入の返済に滞りがある
  • カードローンなどからの借入がある
  • 現在の売上がよくない
  • 今後の中長期計画があいまい

このような場合、返済能力が疑われ事業承継ローンの審査は通りにくいです。事業承継ローンの審査が通らなければ、納税ができないなどの事態が発生するのであれば、通らなかった場合はどうするかまで考えておくようにしましょう。

以上が、事業承継ローンを利用するときの注意点でした。再三お伝えしていますが、事業承継ローンは、あくまでも借入です。金利が発生し、いつかは返さなければならないお金であることを認識しておきましょう。

もちろん、まとまったお金がなければ廃業となってしまうような場合には、後継者を助けてくれるサービスです。しかし、できるだけ事業承継ローンを利用せずに事業承継する努力をするべきでしょう。

7. 事業承継時の融資に関するその他の支援制度

現在、国は中小企業の事業承継が円滑に進むことを支援するため、毎年、さまざまな施策を追加中です。その中から、事業承継ローンとも密接に関連する以下の施策について、その概要を掲示します。

  • 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)における信用保証
  • 事業承継時の経営者保証解除に向けた専門家による支援
  • 事業承継時に経営者保証を不要とする新たな信用保証制度(事業承継特別保証制度)

中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)における信用保証

経営承継円滑化法こそが、国が中小企業の事業承継支援を実施するための根幹の法律であり、2008(平成20)年の成立後、毎年、法改正が行われ、具体施策の改善や追加がなされています。

日本政策金融公庫の事業承継ローンも、経営承継円滑化法での金融支援の一環である融資の特例が付されていますが、その金融支援策のもう1つが、信用保証の特例です。

この信用保証の特例とは、仮に後継者が別の借入をしていて、信用保証協会の保証枠が限度いっぱいだったとしても、通常の保証枠とは別枠で事業承継に関する借入の保証枠を使えます。

ただし、経営承継円滑化法による支援を利用するためには、法律で定められた申請手続きを行い、都道府県知事からの認定を得なければなりません。なお、経営承継円滑化法による信用保証の特例の具体的な保証枠額は、以下のとおりです。

  • 普通保険:2億円
  • 無担保保険:8,000万円
  • 特別小口保険:2,000万円

事業承継時の経営者保証解除に向けた専門家による支援

2019(令和元)年の法改正で制定された中小企業の事業承継策が、「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策」です。具体的な対策は2つあり、その1つとして2020(令和2)年4月から開始されたのが、事業承継時の経営者保証解除を、専門家によって支援する施策になります。

これは、各都道府県に「経営者保証コーディネーター」という専門家を配置し、経営者保証解除を目指す中小企業から相談があった場合に、金融機関との経営者保証解除交渉への支援を行うものです。相談窓口は、各都道府県に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターにあります。

事業承継時に経営者保証を不要とする新たな信用保証制度(事業承継特別保証制度)

こちらも「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策」で策定されたもので、経営者保証コーディネーターによる支援と同時に開始された施策です。これまで、どのような場面であれ、中小企業が金融機関から融資を受ける際には、経営者に個人保証が求められてきました。

しかし、その個人保証や担保の差し入れは重い負担感があるため、事業承継における後継者候補が、承継をためらう大きなネックです。そこで、そのネックを取り除くために始められた施策が、この事業承継特別保証制度になります。

これにより、一定の要件を満たす場合において、経営者保証を不要とする新たな信用保証制度が受けられるようになりました。その一定の要件とは、以下の全てを満たす場合となっています。

  • 資産超過であること
  • 返済緩和中ではないこと
  • 一定の返済能力があること(EBITDA有利子負債倍率=(借入金・社債-現預金)÷(営業利益+減価償却費)が10倍以内)
  • 法人と経営者の分離がなされていること

この事業承継特別保証制度の詳細を知りたい場合には、事業承継・引継ぎ支援センターや最寄りの商工会・商工会議所などに相談してみましょう。

事業承継の手続きについては下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】事業承継の手続きを解説!事業承継の方法と相談先も紹介| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

8. 返済不要の事業承継・引継ぎ補助金とは

事業承継ローンは融資ですが、返済が不要な事業承継・引継ぎ補助金も知っておくと便利です。事業承継・引継ぎ補助金は、事業承継をきっかけに新たな取り組みを行う中小企業や個人事業主や、M&Aで事業承継を行う中小企業や個人事業主を支援する国の制度になります。

助成金ではなく補助金であるため、申請後の審査に通らないと支給を受けられません。申請は専用ウェブサイトを通した電子申請のみとなっています。毎年、申請の要綱や申請可能期間が変わるので、専用サイトでの情報収集も欠かせません。

2022(令和4)年8月現在、令和4年度当初予算分の事業承継・引継ぎ補助金の申請は締め切られました。令和3年度補正予算分の事業承継・引継ぎ補助金は2022年9月2日まで申請可能です。令和4年度も例年にならえば、補正予算分の追加申請受付の可能性はあります。

ここでは、令和4年度当初予算分の事業承継・引継ぎ補助金の概要を見てみましょう。

事業承継・引継ぎ補助金における3つのタイプ

事業承継・引継ぎ補助金は、大別して以下の3タイプがあります。

  • 経営革新事業
  • 専門家活用事業
  • 廃業・再チャレンジ事業

経営革新事業

事業承継・引継ぎ補助金の経営革新事業は、M&Aを含めて事業承継を行った中小企業・個人事業者が、経営者交代を契機として設備投資や販路開拓などの経営を革新する取り組みを行う際に、その取り組み費用の一部を補助するものです。

補助金の上限額は500万円で、補助率は2分の1となっています。経営革新事業の補助金には3種の類型があり、その概要は以下のとおりです。

  • 創業支援型(Ⅰ型):廃業予定者から経営資源を引き継いで創業した場合の補助
  • 経営者交代型(Ⅱ型):親族内承継や社内承継により経営者交代した場合の補助
  • M&A型(Ⅲ型):M&Aにより事業承継した場合の補助

専門家活用事業

事業承継・引継ぎ補助金の専門家活用事業は、後継者不在の中小企業・個人事業主において、M&Aによる事業承継を行う場合に、M&A仲介会社に対して発生する手数料の一部を補助するものです。補助金の上限額は400万円で、補助率は2分の1となっています。

経営革新事業の補助金には2種の類型があり、その概要は以下のとおりです。

  • 買い手支援型(Ⅰ型):M&Aの買い手側に対する補助
  • 売り手支援型(Ⅱ型):M&Aの売り手側に対する補助

廃業・再チャレンジ事業

事業承継・引継ぎ補助金の廃業・再チャレンジ事業は、新たな事業に再チャレンジしようとする中小企業・個人事業主が、そのために既存の事業を廃業する際に発生する費用の一部を補助するものです。補助金の上限額は150万円で、補助率は2分の1となっています。

事業承継・引継ぎ補助金の廃業・再チャレンジ事業は、経営革新事業・専門家活用事業との併用申請が可能です。その場合は、以下のケースが該当します。

  • 経営革新事業との併用申請:事業承継後、既存の事業または譲受した事業の一部を廃業する場合
  • 専門家活用事業との併用申請:M&Aでの事業承継後に譲受側において既存の事業または譲受した事業の一部を廃業する場合、またはM&Aでの事業承継後に譲渡側において手元に残った事業を廃業する場合

事業承継・引継ぎ補助金を受け取るまでの流れ

事業承継・引継ぎ補助金を受け取るには、以下のようなプロセスを経なければなりません。

  • 条件を確認する
  • 新しい取り組みを具体化する
  • 認定支援機関の認定書をもらう
  • 申請用の書類を用意する
  • 交付申請をする
  • 取り組みを実施する
  • 補助金を得る

条件を確認する

まずは、条件(補助対象事業)を確認してください。条件内容は、事業承継・引継ぎ補助金の専用ウェブサイト内で確認できます。

新しい取り組みを具体化する

具体的に新しい取り組みとして何をするのか、どこに補助金を使うのかを考えてください。補助金が受けられるのは、新しい取り組みを始めてからです。したがって、手持ちの資金でスタートできる取り組みでなければなりません。具体化ができて、動き出せる状態になれば、次のプロセスに移りましょう。

認定経営革新等支援機関の確認書をもらう

経営革新事業、または廃業・再チャレンジ事業の申請には、認定経営革新等支援機関から確認書を発行してもらう必要があります。確認される内容は以下のとおりです。

  • 補助対象者の資格要件
  • 補助対象事業の内容(経営革新事業の場合)
  • 補助事業計画の内容(経営革新事業の場合)
  • 補助対象経費の内訳(経営革新事業の場合)
  • 廃業後の再チャレンジ内容(廃業・再チャレンジ事業の場合)

認定経営革新等支援機関とは、中小企業や小規模事業者が安心して経営相談などが受けられるように、専門知識や実務経験が一定レベル以上と認められる者に対し、国が支援機関として認定したものです。

具体的には、商工会・商工会議所、金融機関、税理士、公認会計士、弁護士、中小企業診断士などが該当し、中小企業庁のホームページで一覧が公開されています。

申請用の書類を用意する

各種書類の準備をします。事業承継・引継ぎ補助金の申請は電子申請のみなので、gBizIDの取得も必要です。各種説明の閲覧、必要書類のダウンロードなど全て事業承継・引継ぎ補助金の専用サイトで行えます。

交付申請をする

交付申請の用意ができれば、電子申請にて手続きを行いましょう。申請する際には、上述した専用のウェブサイト「事業承継補助金」からの手続きです。マイページを作成後、必要事項を入力したら書類を添付して送ります。

その後は、申請に対して審査が行われますが、過去の実績では、交付決定率は約50%程度です。決定すると通知が届きます。

取り組みを実施する

通知を受けて交付が決まったのなら、具体化した新しい取り組みをスタートしてください。取り組みを始めてから30日以内に報告書を提出すると補助を受けられます。今後は、取り組みの経過報告などもすることになりますから、何度も報告書を提出することが必要です。

補助金を得る

補助金を受けてから5年の間は、収益状況などの報告書を提出します(後年報告)。

事業承継・引継ぎ補助金については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】事業承継・引継ぎ補助金とは?採択率や申請書、事例を解説【令和4年度当初予算案】| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

9. 事業承継ローン以外に事業承継税制にも詳しくなろう

事業承継税制とは、中小企業の後継者が先代経営者から事業承継した場合に、条件を満たせば事業承継に関する贈与税・相続税の納税を猶予および免除される制度のことです。この制度も、経営承継円滑化法で定められました。

中小企業を継ぐ後継者の税負担を軽減させて、多くの事業承継が促進されることを目的としています。事業承継税制を利用するメリットは、事業承継に関する贈与税・相続税が猶予・免除されるため、後継者の資金面の負担が大きく軽減されることです。

ただし、事業承継税制の内容は複雑で、法人と一般(個人事業者)、一般措置と特例措置など、条件によって制度の内容が異なっています。早い段階で税理士などの専門家に相談し、後継者が贈与税・相続税の猶予・免除を受けられる条件などを把握しておきましょう。

【関連】事業承継税制とは?相続税・贈与税の納税猶予(特例)を徹底解説【中小企業庁データ参照】| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

10. 事業承継ローンのまとめ

事業承継ローンとは、事業承継を行うために必要な資金の融資を受けることです。事業承継ローンを利用することで、一時のまとまった出費を補えます。しかし、事業承継ローンは「借入」ですから、返済しなければなりません。

したがって、事業承継時の出費をできるだけ抑えるために、事業承継補助金を申請したり、事業承継税制で猶予や免除を受けたりなど、他の制度も極力、活用しましょう。

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