2023年04月25日更新
事業承継対策に生命保険を活用するには?実施すべき理由から種類や注意点まで解説!
本記事では、事業承継対策に活用できる生命保険の種類やポイント、注意点を解説しましょう。事業承継を行う際は、株式の有償譲渡や相続などにより税金が発生します。税金の負担を抑える有効な手段として、生命保険を活用する方法があります。事業承継を検討している方は必見です。
目次
1. 事業承継対策に生命保険を活用しよう
事業承継を行う場合は、事業承継者に経営権を引き渡すために、贈与や相続あるいは有償譲渡によって自社の株式を譲渡します。事業承継者は、有償譲渡であれば株式の買い取り資金が必要です。贈与や相続でも税金がかかってしまいます。
中小企業に多い非上場企業では、株式を現金化することが難しいため、事業承継でかかる費用をあらかじめ用意しなければなりません。このような問題に対する事業承継対策として、生命保険を活用する方法があります。
事業承継対策に生命保険を活用とは
事業承継では、経営権を事業承継者へ引き継ぐため、有償譲渡の場合は株式の買い取りにかかる資金、相続や贈与であれば株式評価額に基づいた相続税や贈与税を、事業承継者が負担しなければなりません。
まとまった金額を用意しなければならないため、事業承継でもネックになりやすい問題といえるでしょう。生命保険を契約して事業承継者を受け取り人に指定しておけば、支払われる保険金でそれらを賄えるのです。
事業承継で発生しやすいトラブル
事業承継にかかる費用をあらかじめ準備するために、生命保険を活用することは有効です。活用のメリットや注意点などを解説する前に、事業承継で発生しやすいトラブルを確認しておきましょう。
事業承継を検討する際の参考となるケースをいくつか挙げてみました。
事業承継による業績の低迷・運転資金不足
事業承継時に発生しやすいトラブルに、事業承継による業績低迷や運転資金不足が挙げられます。経営者の急な病気や死亡などにより事業承継を行うケースです。
後継者となる候補も決まらないまま、経営者に不測の事態が起こった場合、会社経営はうまくいかなくなることが多いでしょう。経営ノウハウがない後継者が経営権を引き継ぐことになれば、業績が低迷するリスクがあります。
それだけでなく、社員への給与未払いや取引先への債務支払いなどが滞る恐れもあるでしょう。借入額が減った場合、運転資金が足りなくなり、事業や会社自体の存続が危ぶまれることも考えられるのです。
経営者保証付融資の承継による後継者の生活困窮
2つめのケースは、経営者保証付き融資の承継による問題です。事業承継時に、経営者保証付融資を受けた場合、後継者自身が債務を負うことになります。
突然の経営者交代で、事業自体がうまくいかず、融資を承継した後継者自身の生活にも影響を及ぼしかねません。生活が困窮し、破綻してしまうケースも考えられます。
令和2年に中小企業庁が公表した「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策について」によると、融資の際に経営者保証していると回答した経営者は86.7%でした。個人保証を理由に事業承継を拒否している人の割合は6割にのぼります。
このように、経営者保証が事業承継にとって大きな障害となっている現状がわかります。国の経営者保証解除の取組みにより、経営者保証のない新規融資も増加しつつあるものの、融資全体の9割はまだ経営者保証付きとなっているのです。
中小企業庁「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策について」
出典:https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/hosyoukaijo/2020/200204kaijo02.pdf
中小企業庁「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策について」
出典:https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/hosyoukaijo/2020/200204kaijo02.pdf
自社株などをめぐる相続トラブルの発生
3つ目のケースは、自社株などを巡るさまざまな相続トラブルの発生です。親族内事業承継の場合、後継者以外の相続人との間にトラブルが発生することもあり得ます。
財産の分割が難しいケースでは、株式を分けることになり、自社株の分散が問題となるのです。この場合、後継者以外の相続人からの経営関与などのトラブルが生じる可能性もあります。
自社株を全て承継する後継者に対して、遺留分を金銭で払うように要求されるケースもあるでしょう。それ以外にも、自社株を生前贈与した場合、贈与税、相続税の義務が生じ、納税資金が足りなくなることもあります。
事業承継税制の活用により、納税を猶予・免除できます。中小企業のM&Aに詳しい専門家に相談しながら、早めの事業承継を検討するとよいでしょう。
事業承継対策に生命保険を活用する2つのメリット
事業承継対策に生命保険を活用する具体的なメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、主な2つのメリットを解説します。
【事業承継対策に生命保険を活用するメリット】
- 自社株の評価額を引き下げることができる
- 保険金で事業承継者の納税負担を減らすことができる
自社株の評価額を引き下げることができる
中小企業は非上場であることが多いでしょう。その場合、事業承継時に純資産総額などから自社株を評価します。
純資産総額が多ければ自社株の評価は当然高くなります。事業承継者へ有償譲渡する場合は取得額が高くなり、贈与や相続であれば納税額が増えるでしょう。
生命保険の掛け金は損金計上(一部あるいは全額)できるので、その分だけ純資産総額を減らせます。結果的に、自社株の評価額を下げることにつながるのです。
法人向けの生命保険に限りますが、この方法であれば事業承継者が自社株を受け継ぐためにかかる費用負担を軽減できるでしょう。
保険金で事業承継者の納税負担を減らすことができる
事業承継者が経営者の子どもや妻などの親族である場合は、贈与あるいは相続で引き継ぐケースが一般的です。
その場合、贈与であれば贈与税、相続であれば相続税が課されるので、事業承継者は納税に必要な現金を用意しなければなりません。
前述の方法で自社株の評価を引き下げたとしても、会社の全株式を引き継ぐとなれば、事業承継者にとっては大きな資金負担となる可能性が高いです。生命保険の受取人に事業承継者を指定しておけば保険金を納税に充てられるでしょう。
事業承継対策に生命保険を活用する2つのデメリット
事業承継対策に生命保険を活用する際は、メリットだけでなくデメリットも理解しておく必要があります。ここでは、主な2つのデメリットを解説しましょう。
【事業承継対策に生命保険を活用するデメリット】
- 会社のキャッシュフローを圧迫する可能性がある
- 解約するタイミングによっては解約返戻金の金額が減ってしまう
会社のキャッシュフローを圧迫する可能性がある
保険の契約期間中は、保険料を継続して支払い続けなければなりません。高額な保険に加入した場合は、会社のキャッシュフローを圧迫する可能性もあります。
キャッシュフローとは、会社の現金の移り変わりをさし、企業会計上の重要な指標と考えられています。私たちの生活と同じように、会社の場合も現金をある程度用意しておかなければ、いざという時に対応できません。
事業承継対策として生命保険の契約をする際は、保険料の支払いがキャッシュフローを圧迫しないかをよく検討する必要があります。
解約するタイミングによっては解約返戻金の金額が減ってしまう
契約している生命保険の内容によっては、解約した場合に返戻金が受け取れます。終身保険では、契約期間(加入期間)が長くなるほど、返戻金の額も高くなるのが一般的です。加入途中の返戻金の額が高くなるものもあります。
事業承継で多く活用される逓増(ていぞう)型定期保険などは、後者のように解約返戻金が設定されています。事業承継対策に生命保険の解約返戻金を充てたい場合は、加入時期と事業承継を実施する時期をよく検討しましょう。
加入期間が短ければ当然、解約返戻金の額が減ってしまいます。保険契約内容をよく確認して、解約する時期も見誤らないようにするとよいでしょう。
事業承継については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
2. 事業承継対策で活用できる生命保険の4つの種類
事業承継対策として生命保険を活用するのは有効な方法です。どのような生命保険を選べばよいのか悩むことも多いでしょう。
事業承継対策に活用できる生命保険には、以下の4種類があります。目的に合わせて選ぶ生命保険も変わってきます。
【事業承継対策で活用できる生命保険の種類】
- 個人契約の生命保険
- 法人契約の終身保険
- 長期平準定期保険
- 逓増(ていぞう)型定期保険
個人契約の生命保険
個人契約の生命保険は、掛け捨ての定期保険も多く見られます。保険料が低めに設定されているのが特徴といえるでしょう。保障期間を過ぎてしまうと保険金が支払われなくなるため注意が必要です。
個人契約の生命保険は、契約前に内容をよく確認することが重要です。確認不足によって、後になって解約返戻金が支払われないことを知ったり、一定年齢になり契約の更新ができなくなってしまったりなど、失敗も起こりやすいでしょう。
法人契約の終身保険
法人契約の主審保険は、個人契約の掛け捨ての生命保険とは異なり、死亡まで契約期間が続く保険です。一般的な生命保険同様、加入した時の年齢によって保険料は決まります。
保険料は一般の定期保険より高く設定されていることが多いでしょう。生涯払い込みが必要なタイプと一定期間のみ払い込むタイプとがあります。
経営者が高齢で亡くなった場合にも死亡保険金が支払われる点がメリットといえるでしょう。解約した場合も返戻金が受け取れるタイプが一般的です。
しかし、解約返戻金が変動しやすいことや保険料が高いことをふまえると、事業承継時対策としてはあまり恩恵を得られない可能性もあるでしょう。
長期平準定期保険
個人契約の生命保険を短期間、法人契約の終身保険が長期間の契約だと考えれば、長期平準定期保険はその中間くらいの期間に設定されている保険といえます。
以前は保険料の全額を損金扱いにできましたが、現在はその割合が下の表のように変更されています。株式の評価額の引き下げ効果は薄くなってしまいました。
とはいえ、保険料の変動はないため、程よい期間で事業承継対策を実施するのに適した保険であるといえます。使い勝手はよいといえるでしょう。
最高解約返戻率 | 資産計上期間 | 損金割合 | |
① | 50%以下 | なし | 100% |
② | 50%~70% | 保険期間の当初4割相当の期間を経過する日まで | 当期支払保険料の60% |
③ | 70%~85% | 保険期間の当初4割相当の期間を経過する日まで | 当期支払保険料の40% |
④ | 85%以上 | AとBのどちらか長い期間まで A:保険期間開始日から最高解約返戻 率となる機関の終了の日まで B:Aの期間経過後において「(当初 の解約返戻金相当額)÷年換算保 険料相当額が70%を超える期間 |
・保険期間の当初10年経過 する日まで 登記支払保険料全額から 登記支払保険料×最高解 約返戻率の90%を差し引 いた額 ・保険期間の11年目以降 登記支払保険料全額から 登記支払保険料×最高解 約返戻率の70%を差し引 いた額 |
逓増(ていぞう)型定期保険
逓増(ていぞう)型定期保険は、加入してから料金が段階的に増えていく定期保険です。加入して10年前後が解約返戻金の金額が高くなりやすい設定になっています。
契約時に決めた逓増率によって基準保険金額が増える点が特徴です。保険期間は前期と後期に分かれ、一定期間経過後に各期間に定めた逓増率によって増える金額が変わってきます。最大で保険料が5倍程度にまで増加します。
解約返戻率が高い保険です。しかし、長期平準定期保険と同様、損金扱いにできる割合が制限されてしまいました。株式の評価額を引き下げる効果は以前より低くなっています。
生命保険を活用した事業承継対策については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
3. 事業承継対策で生命保険を活用する際のポイント
事業承継対策として活用できる生命保険はいくつかあります。活用する際はポイントを押さえておくことが大切です。
この章では、生命保険を事業承継対策として活用するポイントをそれぞれ解説します。
個人契約の生命保険を活用するポイント
個人契約の生命保険を活用する場合、現経営者が個人契約で加入して受取人を事業承継者にすれば、万一の際は死亡保険を事業承継の資金に充てられます。しかし、この保険が掛け捨てタイプの場合、経営者が勇退して引き継ぐケースで贈与には使えません。
満期になると保険金の受け取りはできないタイプが一般的なので、事業承継対策としての使い道は限られているでしょう。
法人契約の終身保険を活用するポイント
法人契約の終身保険は、一般的な個人契約の掛け捨てタイプより保険料は高くなります。事業承継対策として有効活用できるでしょう。途中解約した場合は、解約返戻金を受け取れるタイプが一般的です。満期を迎えた場合も保険金を受け取れます。
事業承継対策を考えて契約する場合は、コスト(保険料)に見合うだけの効果を得られるのか、しっかりと検討しましょう。
長期平準定期保険を活用するポイント
長期平準定期保険は保険料の変動がありません。キャッシュフローへの影響などが予測しやすく、保障期間も長く設定されています。そのため、事業承継を早めに行いたい経営者にとっては使い勝手のよい保険といえるでしょう。
保険料の損金計上に関する制度が2019年に見直され、自社株の評価額を引き下げる目的では活用しづらくなりました。しかし、解約返戻金を勇退退職金に充てるのであれば返戻率が高めなので、十分なメリットがあるといえます。
逓増(ていぞう)型定期保険を活用するポイント
逓増(ていぞう)型定期保険は、解約返戻金の額が最も多くなるのは、加入10年後頃に設定されているタイプに多く見られます。
一般的に、後継者の育成に必要な期間は10年程度見ておくのがよいとされています。事業承継を行うタイミングから逆算すると、逓増(ていぞう)型定期保険へ加入する時期から育成を始めると事業承継対策になるでしょう。
自社株の評価額引き下げのため活用されることの多い保険ですが、長期平準定期保険と同じく、損金計上に関する条件は以前よりも厳しくなっています。加入の際は保険会社によく確認しましょう。
4. 事業承継対策で生命保険を活用する際の3つの注意点
生命保険を事業承継対策として活用することは有効なケースが多いでしょう。しかし、注意すべき点もあります。正しく理解しないまま契約してしまうと効果が得られず、保険料が無駄に終わってしまう可能性もあります。
【事業承継対策で生命保険を活用する際の注意点】
- 想定外の納税に対する準備をする
- 将来的な保険料支払いのリスクを考える
- 保険活用も含め最適な方法を選択する
想定外の納税に対する準備をする
生命保険料は、その一部あるいは全てを損金として計上したり、受け取った保険金や解約返戻金は、一部あるいは全てを利益とみなしたりなど、会計上の処理が必要です。処理が発生するタイミングによっては、納税額が決定する際に反映されないこともあり得ます。
来期へずれ込む可能性もでてくるのです。そうなれば、想定外の納税が発生するケースもあるので、納税資金を余分に確保しておくなどの準備が必要でしょう。
将来的な保険料支払いのリスクを考える
事業承継の対策として有効とはいえ、生命保険を活用するには当然保険料の支払い義務が生じます。契約期間中は保険料を支払い続ける必要があるので、キャッシュフローにも影響を与えることになるでしょう。
支払いが厳しくなり、想定していたタイミング以外で解約せざるを得なくなれば、解約返戻金が減ってしまいます。事業承継対策としての意味もなくなりかねません。
そうならないためにも、生命保険の加入の際は、必ず保険料の支払いを続けていけるかを試算しておくことが大切だといえます。
保険活用も含め最適な方法を選択する
生命保険を活用すれば、自社株の評価引き下げ効果を得られます。先に述べたように、2019年の改正によって、以前ほどのメリットは得にくくなってしまいました。
今後、事業承継対策を検討するにあたっては、事業承継税制の活用を検討するなど、生命保険の活用以外にも選択の幅を広げる必要があり、自社の状況に合ったものを選ぶことが重要になると考えられます。
近年は中小企業の事業承継を促進するため、国も支援体制を強化しています。事業承継税制もその一つです。事業承継計画書の提出など必要な手続きを経て審査に通れば、相続税や贈与税の猶予を受けられるでしょう。
事業承継対策についてのご相談はM&A総合研究所へ
事業承継を考えた場合、税金面の対策以外に解決すべき課題が生じるケースも少なくありません。事業承継対策を進めていくうえでは、専門家のアドバイス・サポートも有効です。
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事業承継税制については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
5. 事業承継対策に生命保険を活用する方法のまとめ
事業承継対策として生命保険を活用でき、自社株評価の引き下げなどのメリットを得られます。しかし、制度改正により、その効果は以前より低くなっています。
事業承継対策を考える際は、国の支援制度なども選択肢に加え、より多くのなかから自社に合ったものを選ぶことが大切です。
【事業承継対策に生命保険を活用するメリット】
- 掛け金の費用計上で株価を引き下げられる
- 生命保険の解約金によって事業承継者の負担を減らす
【事業承継対策に生命保険を活用するデメリット】
- 会社のキャッシュフローを圧迫する可能性がある
- 解約するタイミングによっては解約返戻金の金額が減ってしまう
【事業承継対策で活用できる生命保険の種類】
- 個人契約の生命保険
- 法人契約の終身保険
- 長期平準定期保険
- 逓増(ていぞう)型定期保険
【事業承継対策で生命保険を活用する際の注意点】
- 想定外の納税に対する準備する
- 将来的な保険料支払いのリスクを考える
- 保険活用も含め最適な方法を選択する
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