2021年08月20日更新
割引現在価値とは?意味、計算方法を例題でわかりやすく解説
M&Aの企業価値評価では、DCF法などの割引現在価値を用いた手法を利用します。企業価値評価は専門家が行いますが、経営者の方も基本的な事項を知っておけば、役立つ場面も多いです。本記事では、割引現在価値の意味や計算方法を、例題も交えながら分かりやすく解説します。
1. 割引現在価値とは?
M&Aや不動産投資では、買収する会社が将来もたらす利益、または将来入ってくる家賃収入をもとに、どの額までなら投資すべきか判断する必要があります。
しかし、将来の利益や家賃収入がいくらになるかを正確に知ることはできないため、現時点の状況から予測していくことになります。
将来の予測には経験や勘による主観的な判断も重要ですが、それだけでは正しい投資判断を続けていくのは難しいでしょう。やはり、ある程度理論的・数学的な根拠がある、客観的な手法も利用していく必要があります。
割引現在価値とは、将来得られる利益が現在に換算していくらになるのかを理論的に求めるための指標です。将来の利益に対するリスクと不確実性を反映することで、現在価値を数学的に見積もることができます。
2. 割引現在価値の意味
割引現在価値とは、将来受け取れると見込まれる利益またはキャッシュフローが、今現在はいくらの価値を持つかを表すものです。
この意味を理解するためには、お金の時間的な価値について考える必要があります。例えば、今私たちが持っている一万円と一年後持っている一万円は、どちらも同じ一万円です。物価が変わらなければ、どちらも同じ財やサービスを買うことができます。
しかし問題なのは、一年後の一万円は、今の私たちにとっても価値が同じなのかということです。割引現在価値は、このような問題を考える時に必要となります。
割引現在価値の意味を理解するには、「現在価値」や「将来価値」といった用語も知っておく必要があります。
現在価値について
割引現在価値と似た用語に「現在価値」がありますが、将来の利益について話している時は、現在価値も割引現在価値と同じ意味で使われます。
現在価値(割引現在価値)から投資額を引いた「正味現在価値」という指標もあり、正味現在価値のことを現在価値と呼ぶこともありますが、本記事では現在価値と割引現在価値が同じ意味として話を進めます。
現在価値(割引現在価値)について理解するためには、一年後に一万円を受け取れることの価値は必ずしも一万円ではないことを把握する必要があります。
一年後に一万円もらえるといっても、事業が失敗して利益が出ずに受け取れないかもしれません。そのリスクを考慮すると、一年後に一万円もらえることの価値は一万円より少なく見積もる必要があることになります。
さらに、一年後確実に一万円もらえる場合と、半分の確率でしかもらえない場合では、半分の確率のほうが価値が小さくなります。つまり、どれくらい少なく見積もるかは、個々の事例によって変わってきます。
このように、将来得られる利益のリスクの大きさによって、今現在における価値を調整したものが現在価値(割引現在価値)です。
将来価値について
現在価値(割引現在価値)を理解するにあたって、対になる概念として知っておきたいのが「将来価値」です。
将来価値は、現在価値(割引現在価値)の逆または対のような概念であり、今現在の資産が未来の自分にとってどれくらいの価値になるかを表したものです。
例えば、今一万円持っているとして年利10%で一年間運用すると、一年後には11,000円になっています。このことから考えると、今現在の一万円は一年後の自分にとっては11,000円の価値があると解釈することができます。
つまり、今持っているお金は運用すれば増やすことができるので、未来の自分にとっての価値は少し高めに見積もる必要があるということです。
現在価値(割引現在価値)が少し低く見積もられるのと対になっているため、これで両者はつじつまが合うことになります。
リスクによって将来価値の値が変わるのも、現在価値(割引現在価値)の場合と同じです。一年後確実に11,000円になる場合と、半分の確率でしか11,000円にならない場合では、半分の確率の場合のほうが将来価値は小さくなります。
3. 割引現在価値の計算方法と例題
前章では、割引現在価値とはどのようなものかを述べました、次は具体的な計算方法について例題を用いて解説します。計算式自体は高度なものではないので、数学が得意でなくても十分理解できるでしょう。
割引現在価値を求める計算式
割引現在価値は以下の計算式で求められます。
【割引現在価値】
- (n年後の資産の価値)÷(1+割引率)ⁿ
例えば、1年後の資産の割引現在価値と2年後の場合は、それぞれ以下のように求めます。
- 1年後の資産の割引現在価値 → (1年後の資産の価値)÷(1+割引率)
- 2年後の資産の割引現在価値 → (2年後の資産の価値)÷(1+割引率)²
割引現在価値の計算式で重要になるのは「割引率」です。割引率は資産のリスクや不確実性に応じて設定するパラメータであり、例えば5%にしたい場合は0.05、20%にしたい場合は0.2などと設定します。
割引率はリスクが高いほど大きい値に設定します。割引率を大きくすれば式の分母が大きくなるので、その分だけ割引現在価値が下がります。
また、割引現在価値の計算式には、割引率以外に「n(年後)」というパラメータがでてきます。
分母の(1+割引率)は1より大きい値なので、掛ければ掛けるほど値が大きくなり、分母が大きくなれば計算式の値は小さくなります。つまり、遠い将来ほど(nが大きくなるほど)、割引現在価値は小さくなることになります。
割引現在価値の計算例題
割引現在価値の計算式について解説しましたが、式をみただけでは具体的なイメージが沸きづらいかもしれません。その場合は具体的な例題を計算してみると、式の意味が分かりやすくなります。
ここでは、いくつかの簡単な条件下で実際に割引計算価値を計算し、n年後や割引率が変わると値がどのように変化するのかをみていきます。
例題1:1年後の1万円の割引現在価値は?(割引率10%)
前節の割引現在価値の計算式
- (n年後の資産の価値)÷(1+割引率)ⁿ
に、(n年後の資産の価値)=1万円、(割引率)=0.1、n=1を代入すると、以下のようになります。
- 1万円÷(1+0.1)=1万円÷1.1≒9.091円
例題2:1年後の1万円の割引現在価値は?(割引率20%)
例題1と比べて割引率が10%から20%に変わっています。(n年後の資産の価値)=1万円、(割引率)=0.2、n=1を代入すると、以下のようになります。
- 1万円÷(1+0.2)=1万円÷1.2≒8,333円
単純に割引率10%なら9,000円、20%なら8,000円とはならない点に注意しましょう。
例題3:2年後の1万円の割引現在価値は?(割引率10%)
例題1と比べて1年後が2年後に変わっています。(n年後の資産の価値)=1万円、(割引率)=0.1、n=2を代入すると、以下のようになります。
- 1万円÷(1+0.1)²=1万円÷1.1²=1万円÷1.21≒8,264円
例題4:2年後の1万円の割引現在価値は?(割引率20%)
例題1と比べて、割引率が10%から20%、さらに1年後が2年後に変わっています。
(n年後の資産の価値)=1万円、(割引率)=0.2、n=2を代入するので、以下の式になります。
- 1万円÷(1+0.2)²=1万円÷1.2²=1万円÷1.44≒6,944円
4. 割引現在価値が活用されるシーン
割引現在価値は、将来の収益から投資判断をする場面において、幅広く活用することができます。特に利用されているのは、M&Aでの企業価値評価と不動産投資での投資判断です。
【割引現在価値が活用されるシーン】
- M&Aでの活用
- 不動産投資での活用
M&Aでの活用
M&Aでは、買収する企業の価値がいくらになるかを見積もるために、割引現在価値がよく利用されます。
買収する会社の価値を見積もる場合、単純に会社の資産から負債を引いたり、時価総額を企業価値とみなすことも可能ではあります。
しかし、それでは見積もり方が単純すぎるうえ、事業がもたらす将来の利益は考慮できていません。M&Aは会社を買収して事業拡大を目指すため、その会社が将来どれくらいの利益をもたらすかが重要になります。
そこで、会社がもたらす将来の利益を割引現在価値に換算し、それを会社の現在の価値とすれば、買収価格をより現実的に見積もることができます。
M&Aで将来の利益から企業価値を見積もる手法は「インカムアプローチ」と呼ばれ、企業価値評価手法のなかでは最も一般的なものです。
代表的なインカムアプローチの手法であるDCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)では、1年後・2年後・3年後...と各年度の割引現在価値を全て求め、その合計を企業価値とみなします。
不動産投資での活用
不動産投資の判断のために、割引現在価値を活用することがあります。不動産投資では、将来得られる家賃収入や値上がりした時の売却益などを予想し、それを割引現在価値になおして投資判断をします。
割引現在価値より安ければ投資する価値があり、高ければ見送るといった形で、どの不動産に投資するかを選択していきます。
5. M&Aにおいて割引現在価値を求める理由
M&Aでは割引現在価値が必須というわけではありませんが、なぜ実際には割引現在価値がよく使われるのでしょうか。この章では、割引現在価値がM&Aで有効な理由を解説します。
割引現在価値を求める意味
M&Aで会社を買収するからには、その会社・事業を最大限に活かして収益拡大を目指すのは当然です。したがって、買収する側としては、売却する側の会社が将来どれだけの利益をもたらすかが、買収価格を決めるポイントとなります。
例えば、売却する側の会社が今現在は多くの資産を持っていたとしても、将来的に高い利益を上げられないのなら、高いお金を払って買収したいとは思わないでしょう。
逆に、今現在は価値が低いまたは赤字だったとしても、将来的に高い利益を上げられるのなら高額でも買収したいと思うはずです。
このように、M&Aでは将来の企業価値が重要になるケースが多いので、将来の企業価値を見積もって適切な買収価格を求めるために、割引現在価値が重要になります。
主要な企業価値の求め方
M&Aにおける企業価値の求め方にはいろいろな種類があり、それらはコストアプローチ・インカムアプローチ・マーケットアプローチの3種類に分類されます。
割引現在価値を使うのはインカムアプローチで、それ以外の2つは割引現在価値を使わずに企業価値を求めます。
【主要な企業価値の求め方】
- コストアプローチ
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
コストアプローチ
コストアプローチとは、会社が現在持っている純資産を企業価値とする評価手法です。インカムアプローチと違って将来の収益は考慮されないものの、普通は「のれん」として将来の収益もできるだけ反映するようにします。
M&Aは将来の利益が重要と述べましたが、将来の利益を予想しづらい中小企業や吸収合併で消滅する会社の価値評価では、今現在の企業価値を求めるコストアプローチが優れていることがあります。
インカムアプローチ
インカムアプローチは将来もたらす収益を企業価値とする評価手法で、割引現在価値を使用して算出します。
代表的な手法であるDCF法では、将来の各年度の割引現在価値を全て求め、その合計を企業価値とみなします。
DCF法は、割引現在価値を活用した有力な企業価値評価手法ですが、将来の利益・キャッシュフローを現在の事業計画から推測する必要があるため、誰が計算するかによって値が変わってしまうデメリットがあります。
このように、各手法はどれも一長一短があるため、どの手法を用いるかをうまく選択することが重要になり、割引現在価値を求めさえすれば正しい企業価値が算出できるわけではありません。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、買収したい会社と似た企業を主に上場企業から探してきて、その企業の株価や各指標を参考に企業価値を見積もる手法です。
マーケットアプローチもコストアプローチと同様、割引現在価値は使用しません。コストアプローチとマーケットアプローチは、将来の利益よりも現在の企業価値を重視しており、割引現在価値で将来の利益を求めるインカムアプローチとは考え方が異なります。
6. M&Aの相談におすすめの仲介会社
M&Aで適切な買収価格を決めるには、割引現在価値などの数学的な概念も必要となります。独力で見積もるのは難しいため、M&A仲介会社などの専門家のサポートを受けるのがおすすめです。
M&A総合研究所では、さまざまな業種で多数のM&A実績があるM&Aアドバイザーが、ご相談・売却価格の算定・交渉・クロージングまでフルサポートいたします。
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料金体系は完全成功報酬制(※譲渡企業様のみ)となっており、着手金は譲渡企業様・譲受企業様とも完全無料です。
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7. まとめ
将来の利益拡大を目指して会社を買収するM&Aにおいて、将来の利益から企業価値を求める割引現在価値は重要な概念になります。
数学的な詳細までを知る必要はありませんが、基本的な事項を把握しておくと専門家が行う企業価値評価を適切に判断できるようになります。
【割引現在価値】
- (n年後の資産の価値)÷(1+割引率)ⁿ
【割引現在価値が活用されるシーン】
- M&Aでの活用
- 不動産投資での活用
【主要な企業価値の求め方】
- コストアプローチ
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
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