株式譲渡で起きうるトラブルを回避する方法10選!【事例あり】

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

事業承継や買収による子会社化など、さまざまな用途で活用できる株式譲渡ですが、その手続きの過程でトラブルが起こることも少なくありません。本記事では、株式譲渡で起こりうるさまざまなトラブルを回避する方法を、10選ピックアップして解説します。

目次

  1. 株式譲渡とは
  2. 株式譲渡で起きうるトラブルを回避する方法10選!
  3. 株式譲渡で起きたトラブルと回避した事例
  4. まとめ
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1. 株式譲渡とは

株式譲渡とは、株式を売却することで会社の経営権を譲り渡す取引です。株式には議決権があるので、過半数の株式を特定の企業に売却すれば、買い手の会社が経営権を手に入れることになります。

株式を譲り受けるのは法人でも個人でもよく、法人の場合は株式譲渡による子会社化、個人の場合は事業承継で多く利用されています。

株式を取得する割合が50%を超えていれば経営権を掌握することができるので、どれくらいの支配力を持ちたいか、買収資金をいくらにするかなどの条件によって、適切な取得割合を選ぶことになります、

株式を100%取得することを完全子会社化、100%未満取得することを子会社化と呼び分けることもあります。

M&Aの手法

株式譲渡のような会社を売買する手法はほかにもあり、これらをまとめて「M&A」といいます。

下図はM&Aの各手法をまとめたものです。非常に多くの手法がありますが、最もよく使われるのは株式譲渡と事業譲渡であり、特に中小企業のM&Aではほとんどの場合においてこのどちらかが使われます。

株式交換株式移転合併・分割といった手法は、主に大企業が組織再編をする時などに利用されることが多いです。

図の一番下にある業務提携は、会社を買収しているわけではないので狭義のM&Aではないものの、これも広義のM&Aとして含めることがあります。

また、業務提携・資本提携・資本業務提携など広義のM&Aは、「アライアンス」と呼ばれることもあります。

【M&Aの手法】

  1. 株式譲渡
  2. 第三者割当増資
  3. 株式交換
  4. 株式移転
  5. 事業譲渡
  6. 合併
  7. 分割
  8. 資本提携・業務提携

株式譲渡の手続き

株式譲渡の手続きは、譲渡先の企業と株式譲渡契約を締結し、株主名簿を書き換えるというものです。

ただし、譲渡制限株式を株式譲渡する場合はこれらの手続きに加えて、株式譲渡を承認するための決議が必要になります

譲渡制限株式の株式譲渡は手続きが多くトラブルも起こりやすいので、より注意して手続きを進めていく必要があります。

【株式譲渡の手続き】

  1. 譲渡制限株式の株式譲渡承認決議
  2. 株式譲渡契約の締結
  3. 株式譲渡承認請求とその決議
  4. 株主名簿の書き換え

【関連】M&Aの手法・株式譲渡の手続きを徹底解説!

株式譲渡の際に必要な書類

株式譲渡の際は多くの書類が必要になりますが、主な書類を挙げると、株式譲渡契約書、株主を書き換えるための株主名簿株主名義書換請求書、そして株式譲渡制限会社の場合は株式譲渡承認請求書となります。

実際は、これ以外に、取締役会・株主総会の議事録やそれを通知するための書類などが必要になることがあります。

具体的にどの書類が必要になるかは事例によって変わる部分もあるので、実際に株式譲渡を行う時は司法書士などの専門家と相談しつつ、トラブルが起こらないように進めていくことが大切です。

【株式譲渡の際に必要な主な書類】

  1. 株式譲渡契約書
  2. 株主名義書換請求書
  3. 株主名簿
  4. 株式譲渡承認請求書(株式譲渡制限会社の場合)

【関連】株式譲渡に必要な書類まとめ!手続きに沿って注意点や項目も解説

2. 株式譲渡で起きうるトラブルを回避する方法10選!

株式譲渡ではさまざまなトラブルが起こる可能性があるので、トラブル回避の方法を知っておくことが重要です。

以下に挙げる10の方法を徹底しておくと、株式譲渡で起こり得るトラブルの可能性を減らすことが可能です。

【株式譲渡で起きうるトラブルを回避する方法10選】

  1. 連帯保証の扱いを確認する
  2. 株券発行の有無を確認する
  3. 株式の譲渡制限の有無を確認する
  4. 株式譲渡に関する契約書の内容をしっかりと定める
  5. 株式譲渡の際に発生する税金を確認する
  6. 信頼できるM&Aの専門家に相談する
  7. 家族間でも法律関連の手続きをきちんと行う
  8. 急に株式価値が上がった場合は慎重に対応する
  9. できれば顧問弁護士をつける
  10. デューデリジェンスを徹底する

1.連帯保証の扱いを確認する

中小企業では、融資を受ける際に経営者が連帯保証をしているケースが非常に多いです。しかし、株式譲渡はあくまで対価を支払って株主名簿を書き換える手続きなので、それだけで連帯保証が引き継がれるわけではありません

よって、株式譲渡の際は、別途連帯保証の引き継ぎも行う必要があります。これを行わないと、株主は変わっても連帯保証は元の経営者が負っている状況になり、倒産や廃業した際トラブルになる恐れがあります。

実際の株式譲渡では、連帯保証の引き継ぎはせず、株式譲渡契約の際に負債を全て返済してしまうケースも少なくありません。

連帯保証の引き継ぎはトラブルが起こりやすいので、可能であればあらかじめ負債を返済してしまうのもよい方法です。

2.株券発行の有無を確認する

株券の発行に関しては、平成18年の会社法施行以前は原則として株券を発行する制度になっており、それ以後は原則として発行しない制度に変わっています。

ただし、平成18年以降に設立された会社でも定款で定めれば株券を発行することができ、平成18年以前に設立された会社を定款の定めで株券不発行にすることもできます。

つまり、現在は、株券を発行する会社としない会社が混在している状態になっています。株式譲渡の際は、譲渡会社が株券発行会社か不発行会社かを確認しておかないと、後でトラブルになる可能性があります。

株券不発行会社の場合は株主名簿を書き換えれば株式譲渡が行えますが、株券発行会社の場合は株券を交付しなければ株式譲渡が成立しません。

3.株式の譲渡制限の有無を確認する

非上場の中小企業では、株式の譲渡制限を課していることが非常に多いです。株式の譲渡制限とは、売買する時に株主総会や取締役会の決議を必要とする株式です。

もし中小企業の株式が自由に売買できるとすると、資本力のある会社が株式を買い占めてしまい、経営権を乗っ取られる危険があります。そのため、定款で譲渡制限を課すことによって、自由な売買を制限できるようになっています。

譲渡制限は非上場会社や中小企業なら全て課されているわけではなく、まれに自由な売買を認めていることもあります。

株式譲渡のトラブルを避けるためには、株式の譲渡制限の有無を確認しておくことが大切です。もし株式譲渡する会社が譲渡制限株式を採用しているのなら、譲渡を承認するための各種手続きを行わなければなりません

特に、中小零細企業では譲渡制限に関する手続きがおざなりになっていることもあるので、株式譲渡を行う前に正式な株主が誰になっているのかも確認しておく必要があります。

4.株式譲渡に関する契約書の内容をしっかりと定める

株式譲渡を契約する際は株式譲渡契約書を締結しますが、トラブルを避けるためには契約書の内容をしっかりと定めておく必要があります

もし、契約書の内容にあいまいな部分があったり重要な記載事項が抜けていたりすると、後でトラブルのもとになるだけでなく、場合によっては株式譲渡契約自体が破棄されたり、訴訟になったりする恐れもあります。

株式譲渡契約書の記載内容では、譲渡する株式数や譲渡価格といった基本的な事項も重要ですが、トラブル回避という観点で特に注意しておきたいのは、表明保証契約解除損害賠償についての記載事項です。

表明保証とは、簿外債務がないことや法令違反がないことなど、譲渡企業に問題がないことを譲受企業に対して保証するものです。

譲受企業側はできるだけ表明保証を詳細にしたいのに対して、譲渡企業側は内容をできるだけ少なくしたいのが一般的なので、お互いの妥協点をみつけてトラブルにならないようにすることが重要です。

損害賠償については、賠償額の上限や賠償請求できる期間などをはっきりと記載しておかないと、いざ訴訟になった時にトラブルになる可能性があります。

5.株式譲渡の際に発生する税金を確認する

株式譲渡の際に発生する税金は通常の所得税とは違うので、トラブルを避けるためにもよく確認しておくことが大切です。

所得税は所得額が多いほど税率が高くなる累進課税ですが、株式譲渡の譲渡益にかかる税金は一律で20.315%となっています。また、ほかの所得とは合算せず、分離課税で計算します。

ただし、これは株主が個人の場合であり、法人の場合は総合課税で法人税が課せられます株式譲渡の税金は個人と法人で違うことを理解するのが、トラブルを避けるためには大切です。

譲渡所得は譲渡価額から必要経費を引いたものになりますが、必要経費の計算でトラブルにならないように注意しましょう。

特に、必要経費の一つである取得費に関しては、会社によっては正確な金額がよく分からなくなってしまっていることもあります。

取得費は基本的に証券会社に問い合わせれば分かりますが、どうしても分からない場合は「概算取得費」などの制度を適用する必要があります。

【関連】株式譲渡の譲渡益は総合課税になる?株式譲渡の税務まとめ!

6.信頼できるM&Aの専門家に相談する

株主が経営者一人または家族だけといった会社であれば、株式譲渡を経営者自身で行うことも可能かもしれません。しかし、ある程度規模が大きい企業の場合、M&Aの専門家に相談しなければトラブルの危険性が高くなる可能性があります。

M&Aを専門とする業者・機関には、M&A仲介会社事業引継ぎ支援センターなどがあります。事業引継ぎ支援センターは中小企業の事業承継の支援機関で、全国の各都道府県に設置されています。

民間のM&A仲介会社は数多くあるので、そのなかから信頼できる相談先を選ぶことがトラブル回避にもつながります。

M&A総合研究所は、中堅・中小企業の株式譲渡・M&Aを手がけるM&A仲介会社です。さまざまな業種で多くの株式譲渡・M&A経験があるM&Aアドバイザーが、親身になってフルサポートいたします。

料金体系は完全成功報酬制(※譲渡企業様のみ)となっており、着手金は譲渡企業様・譲受企業様とも完全無料です。

無料相談は随時受け付けておりますので、株式譲渡・M&Aをご検討の際はどうぞお気軽にお問い合わせください。

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7.家族間でも法律関連の手続きをきちんと行う

中小企業は家族内で株式を持ち合っていることも多いですが、家族間で株式譲渡する時であっても法律関連の手続きを怠ると、トラブルになってしまうことがあります。

例えば、親子間で譲渡制限株式を譲渡したが、譲渡承認決議はしていないというのは考えられるケースです。親子間の株式譲渡であっても、譲渡制限株式である限り承認決議はしなければなりません。
なお、相続は譲渡ではありませんので、前経営者の子供が譲渡制限株式を相続する場合、譲渡承認決議は必要ありません。

手続きのあいまいさは、株式譲渡のトラブルを起こす原因となり得ます。家族間ではどうしても法律的な手続きがあいまいになってしまいがちなので、家族間でも法律関連を確かめて株式譲渡を行うことがトラブル回避のためには大切です。

8.急に株式価値が上がった場合は慎重に対応する

ヒット商品が出たり所有していた土地が値上がりしたりすると、株式の価値が突然跳ね上がることがあります。

この時、もし譲渡承認決議などの手続きをあいまいなままにしておくと、誰が正式な株主なのか分からずトラブルになる可能性があります。

利権を巡ってのトラブルは長引きやすいので、譲渡承認決議をきちんと行うなど慎重に対応することが大切です。

9.できれば顧問弁護士をつける

中小企業では顧問税理士をつけることはあっても、顧問弁護士まではつけていないことも多くみられます。中小企業では顧問弁護士をつけるメリットが低いことも多いため、費用節約の面から仕方ない部分もあります。

しかし、税理士は法律の専門家ではないので、株式譲渡にあまり詳しくない税理士の場合、株式譲渡承認決議をうっかり忘れてしまうなどのトラブルが起こる可能性もあります。

中小企業が顧問弁護士をつけるのは難しいこともありますが、コスト面で可能ならできるだけ顧問弁護士をつけたほうが、株式譲渡のトラブル回避という点ではメリットがあります

10.デューデリジェンスを徹底する

デューデリジェンスとは、買い手側企業が売り手側企業の内容を調査することです。M&Aで株式譲渡する場合は、デューデリジェンスはトラブル回避のために重要な手段となります。

デューデリジェンスでは、売り手側企業が都合の悪い事実も正直に明かし、協力的になることがトラブル回避のために重要です。

例えば、簿外債務や訴訟など都合の悪い事実を隠したまま株式を譲渡してしまうと、後で発覚した時により大きなトラブルになってしまいます。

都合の悪い事実を明かしてしまうと、株式譲渡価格が下がってしまったり、場合によっては株式譲渡自体が白紙になってしまうかもしれませんが、それはやむを得ないと考えるべきでしょう。

売り手側が資金と時間に余裕がある場合は、売り手側が自社を自ら調査する「セルサイドデューデリジェンス」を実施するのも有効です。

3. 株式譲渡で起きたトラブルと回避した事例

株式譲渡で起きるトラブルを回避するためには、実際にどのようなトラブルが起こるのか、具体的な事例を知っておくことも有用です。

この章では、実際に行われた株式譲渡の事例から、トラブルが起こった事例やトラブルを回避した事例を紹介します。

1.第一三共の株式譲渡のトラブル事例

大手製薬会社である第一三共は、2008年にインドの製薬会社ランバクシーを株式譲渡(TOB)で買収しました。

しかし、翌年にランバクシーの経営上の問題で巨額の特別損失が発生し、結局2014年に売却することになりました。

このトラブルは、デューデリジェンスをしっかり行わなかったことが大きな要因であると考えられます。特に海外企業の株式譲渡はトラブルも多くなる傾向があるため、よりデューデリジェンスを徹底することが大切です。

2.キリンホールディングスの株式譲渡のトラブル事例

2011年、飲料メーカーのキリンホールディングスが、ブラジルのビール販売会社大手のスキンカリオールを株式譲渡で買収しました。

しかし、スキンカリオールの業績が伸びず、結果としてキリンホールディングスは大きな損失を被ることとなりました。

株式譲渡の手続き自体に大きな問題があったわけではありませんが、買収時にほかの株主に訴訟を起こされて買収金額が膨れ上がったこと、ブラジルの他ビールメーカーが予想以上に業績を伸ばしたことなど、予定外のトラブルが積み重なったのが要因と考えられます

海外企業の株式譲渡は、どれだけ注意してもトラブルに見舞われる可能性があることを示した事例といえるでしょう。

3.アルミ加工業者の株式譲渡事例

アルミ加工を営む社員十数人程度の中小企業の株式譲渡事例です。現経営者の高齢により株式譲渡による事業承継を考えましたが、息子は別な道に進んでいるため後継者とはできず、M&Aで第三者への株式譲渡を検討しました。

しかし、家族で経営してきた小規模な会社を第三者に継がせる決断ができず、このトラブルを機に廃業を視野に入れて事業の縮小を始めました。

そのような状況のなか、故障により仕方なく行った設備投資によって経営状態が改善し、それに伴い息子が後を継ぐ決断をします。

早い段階から商工会議所のサポートを得て専門家の意見を聞き、さらに補助金を申請して財務状況を安定させたことで、トラブルを回避して株式譲渡による事業承継を実現しています。

4.運送業者の株式譲渡事例

従業員十数名程度の小規模な運送業者の株式譲渡事例です。経営者の高齢により事業承継を検討しますが、親族や従業員に適切な後継者がおらず、廃業の危機に陥りました。

そこで、経営者が事業引継ぎ支援センターに相談し、従業員数百名程度の中堅規模の運送業者へ株式譲渡することで、会社の存続に成功しました。

株式譲渡を視野に入れて早い段階で負債を全て弁済したり、デューデリジェンスをしっかり行ったことなどが、トラブル回避につながった事例といえるでしょう。

4. まとめ

株式譲渡はM&Aのなかでは比較的手続きが簡単ですが、それでもさまざまな理由でトラブルが起こることは少なくありません。

株式譲渡の手続きに入る前に、注意すべき事項をよく確認しておき円滑に進められるよう対策しておくとよいでしょう。

【M&Aの手法】

  1. 株式譲渡
  2. 第三者割当増資
  3. 株式交換
  4. 株式移転
  5. 事業譲渡
  6. 合併
  7. 分割
  8. 資本提携・業務提携

【株式譲渡の手続き】
  1. 譲渡制限株式の株式譲渡承認決議
  2. 株式譲渡契約の締結
  3. 株式譲渡承認請求とその決議
  4. 株主名簿の書き換え

【株式譲渡の際に必要な主な書類】
  1. 株式譲渡契約書
  2. 株主名義書換請求書
  3. 株主名簿
  4. 株式譲渡承認請求書(株式譲渡制限会社の場合)

【株式譲渡で起きうるトラブルを回避する方法10選】
  1. 連帯保証の扱いを確認する
  2. 株券発行の有無を確認する
  3. 株式の譲渡制限の有無を確認する
  4. 株式譲渡に関する契約書の内容をしっかりと定める
  5. 株式譲渡の際に発生する税金を確認する
  6. 信頼できるM&Aの専門家に相談する
  7. 家族間でも法律関連の手続きをきちんと行う
  8. 急に株式価値が上がった場合は慎重に対応する
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  10. デューデリジェンスを徹底する

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