2021年09月04日更新
M&Aは従業員退職のリスクあり!従業員はM&Aをどう捉えてるのか
自分が働いている会社がM&Aされて、不安や不満を持って退職してしまうケースは少なくありません。M&Aを行う際は、従業員を退職させないことが大切です。そこで本記事では、M&Aで従業員を退職させてしまう要因や、退職を防ぐポイントなどを解説します。
目次
1. M&Aで従業員が退職、従業員にとってのM&Aとは
近年は、M&Aが中小企業も含めて盛んに行われるようになっていますが、それに伴い失敗する事例も多くなっています。
失敗の原因としてよくみられるのは、M&Aに不満を持った従業員が退職してしまうことです。技術やノウハウを持った従業員が退職してしまうと、M&Aを成功させるのは困難になります。
M&Aを行う際は、M&Aというものが従業員にとってどのようにみえるのかを理解しておくことが大切であり、M&Aの成功のための重要なポイントにもなります。
経営者からみたM&A
経営者からみたM&Aは、経営状態の改善や事業拡大といった会社の経営戦略の1つです。
売り手の場合は、買い手の傘下に入ることで経営基盤を安定させたり、自社の強みと買い手企業の強みを融合して、シナジー効果で事業拡大を目指したりします。
買い手の経営者からみたM&Aは、よく「時間を買う」といわれます。新規事業への進出や事業エリアの拡大は、自社で一から達成するには長い時間とコストを要しますがM&Aを活用すれば手早く実現できます。
また、事業承継も経営者からみたM&Aの主要なテーマです。自分の親族などに適切な後継者がいない場合は、M&Aによる事業承継が廃業回避の有効な手段となります。
従業員からみたM&A
経営者からみたM&Aは会社全体を見渡した経営戦略でしたが、そこで働く従業員からみたM&Aは意味合いが大きく変わってきます。
従業員にとっても経営戦略は大切なものですが、それ以上に自分の処遇がどうなるかがやはり重要になります。
従業員が最も重視することが多いのは、給料や福利厚生などの雇用条件です。M&Aによって雇用条件が悪化すると、多くの場合従業員の退職が発生します。
それ以外にも、業務システムの急な変更や改悪、相手企業の従業員との人間関係なども、従業員の退職の要因となります。会社の近くに家を買っている従業員は、転勤や出向を受け入れられず退職することもあります。
従業員にとってのM&Aは、自分の処遇や職場環境の変化という意味合いが大きいので、会社全体の経営をみている経営者とは見え方が違うことを理解することが大切です。
2. 従業員の雇用契約はM&A手法で異なる
M&Aの主な手法は株式譲渡と事業譲渡です。特に中小企業のM&Aではこれ以外の手法はほぼ使われないので、従業員の退職について考える際は、この2つの手法の雇用契約の違いを理解することが大切です。
株式譲渡と事業譲渡での雇用契約の違いは、株式譲渡が経営権の譲渡であり、事業譲渡が事業資産の譲渡であることに起因します。
株式譲渡を用いた場合
株式譲渡とは、株式を買い手企業(個人の場合もある)に売却して経営権を譲り渡すM&A手法です。
下の図では、A社の株式がB社に売却された結果、A社の株主が株主AからB社に変わり、B社がA社の経営権を取得します。
図から分かるように、株式譲渡では会社の経営権を移動させるだけなので、取引の前後で会社の中身は変化しません。
したがって、従業員の雇用契約もそのまま継続され、株式譲渡の取引自体によって従業員の処遇が変わることはありません。
しかし、経営権が変わると当然経営方針が変わるので、新しい経営者の経営判断として従業員の処遇が変わることがあります。この処遇の変化に不満を感じて、従業員が退職してしまうケースがあるのが注意点です。
事業譲渡を用いた場合
事業譲渡とは、事業に関連する資産や権利義務などを売買するM&A手法です。経営権ではなく事業資産を譲渡するので、売り手(下の図のA会社)は買い手(B会社)の子会社にはなりません。
しかし、譲渡した事業(A事業)の所有権は、A会社からB会社へ移動します。事業の所有先が変わるので、その事業で働く従業員の雇用契約は再契約されることになります。この点が、雇用契約が変わらない株式譲渡との大きな違いです。
3. 従業員の退職につながりかねない要素
M&Aによる環境の変化で従業員が退職してしまうと、M&Aを成功させることは困難になります。
M&Aを行う際は、従業員が退職してしまう要素を排除することが大切です。M&Aで従業員が退職する主な要素としては、以下の3つが挙げられます。
【従業員の退職につながりかねない要素】
- M&A後の従業員自身の処遇
- 勤務環境の変化
- 売り手・買い手企業の従業員同士の関係
1.M&A後の従業員自身の処遇
従業員にとって最も重要なのは、給与や労働条件といった自分自身の処遇です。転勤や役職の変更、昇進の不公平などが退職の大きな要因となります。
【M&A後の従業員自身の処遇】
- 給与や労働条件
- 転勤
- 役職や昇進
①給与や労働条件
給与が減ったり残業が増えるといった、労働条件の悪化は退職の大きな要因となります。買い手は給与や労働条件を改悪せず、できればより良い待遇で従業員を迎えることが大切です。
②転勤
M&Aでいくら給与が高くなっても、別な地方へ転勤させられるなら退職したほうがましと考える従業員は多いです。特に家を買っている従業員は単身赴任になってしまうので、転勤は退職の大きな要因となります。
③役職や昇進
M&Aによって役職のランクを下げられるのも、退職の大きな要因となります。
また、制度が変わって昇進のスピードが落ちてしまったり、買い手企業の従業員ばかりが昇進するといった不公平さも、退職の大きな要因となってしまいます。
2.勤務環境の変化
従業員の勤務環境を整えることは、M&Aによる退職を防ぐためには必須だといえます。たとえ給与が良くても働きにくい環境になってしまったら、従業員の退職は避けられません。
【従業員の退職につながりかねない勤務環境の変化】
- 人間関係の変化
- 業務システムの変化
- 社風・企業風土の変化
①人間関係の変化
M&Aを行うと、売り手企業の従業員と買い手企業の従業員が、同じ会社またはグループ企業として一緒に働くことになります。
ここで円滑な人間関係の構築に失敗してしまうと、従業員の退職を招く要因ともなってしまいます。
②業務システムの変化
それまで別々に経営されてきた売り手企業と買い手企業がM&Aによって統一されると、お互いの業務システムをすり合わせが必要になります。
業務システムの変化によって従業員が働きにくくなったり、急激にシステムを変えて従業員がついていけなくなると、退職する従業員もでてきてしまいます。
③社風・企業風土の変化
社風や企業風土の変化というのも、従業員の退職の大きな要因のひとつになります。
例えば、従業員同士が一致団結して業務に取り組む社風の会社が、お互いをライバルとみて競い合う社風の会社へM&Aされると、風土の変化に耐えられず退職する従業員がでてきてしまいます。
3.売り手・買い手企業の従業員同士の関係
売り手・買い手企業の従業員同士の関係を円滑にすることは、退職を防ぐ重要なポイントです。
M&Aではどうしても買い手企業の立場が上になりやすいので、売り手企業の従業員を対等に扱わないような雰囲気だと、売り手企業の従業員は退職する可能性が高くなります。
特に、売り手と買い手が同業のライバル企業だった場合は、従業員同士の関係により配慮しなければなりません。
4. M&Aは従業員にもメリットがある
M&Aは従業員にとってデメリットばかりではなく、労働環境の改善などメリットが得られることもあります。
従業員がM&Aによってメリットを得られるようにすることは、退職を防ぐ重要なポイントです。
【M&Aにおける従業員のメリット】
- 大企業と同じ労働環境になる
- 主力戦力として迎え入れてもらえる
- 競争力の向上が営業成績アップにつながる
1.大企業と同じ労働環境になる
M&Aは買い手のほうが売り手より大企業であることがほとんどなので、M&Aによって売り手企業の労働環境が改善することも多いです。
売り手企業だけではどうしても実現できなかった、大企業並みの労働環境がM&Aによって実現できれば、従業員にも喜ばれるM&Aとなるでしょう。
2.主力戦力として迎え入れてもらえる
技術やノウハウの獲得を目的にM&Aを行った場合、売り手企業の従業員は買い手にとって重要な戦力となります。
この場合、売り手企業の従業員はM&Aによって給与アップや昇進を得たり、今まで以上のやりがいやモチベーションを得ることができます。
3.競争力の向上が営業成績アップにつながる
従業員の能力を十分に発揮できるような仕事を与えられていなかった場合、M&Aで仕事内容や環境が変わることで、その能力が発揮され営業成績が向上することがあります。
5. M&Aによる従業員退職のリスクを減らすためのポイント
M&Aによる従業員退職のリスクを減らすためには、どのような点に注意して進めていけばよいのでしょうか。ここでは、特に意識すべき5つのポイントについて解説します。
【M&Aによる従業員退職のリスクを減らすためのポイント】
- 適切なタイミングで公表する
- 従業員が知りたい内容を正確に伝える
- 買い手企業とともに説明会を開く
- 買い手企業へしっかりと事業引継ぎを行う
- 専門家に相談する
1.適切なタイミングで公表する
従業員にとってM&Aは非常に不安を感じるものなので、公表のタイミングには特に気を使う必要があります。
従業員へのM&Aの公表は、最終契約を締結して内容が確定した後に行うのがセオリーです。
交渉中で未定事項が多い時に公表してしまうと、先行きが不安な従業員の心理をさらに強めることになってしまいます。
2.従業員が知りたい内容を正確に伝える
従業員がM&Aに対して不安になるのは、先がどうなるかよく分からないことが主な原因です。よって、M&Aによってどういう変化が起こるのかを従業員に伝えることで、不安を取り除き退職を防ぐことができます。
従業員がM&Aに際して知りたいと思う点は大体共通しているので、質問を想定してあらかじめ回答を用意しておくと、従業員の退職を防ぐのに役立ちます。
【M&Aに際して従業員が知りたい主な内容】
- 雇用は継続されるか
- 給与やボーナスが減らないか
- 福利厚生は維持されるか
- 会社の方向性がどう変わるのか
- 業務システムはどう変化するのか
- 人事異動はあるのか
3.買い手企業とともに説明会を開く
従業員へのM&Aの公表は、朝礼の時間などを利用して一斉に行うのがセオリーです。その際は買い手企業の幹部にも来てもらって、売り手企業の従業員に対して説明するとよいでしょう。
また、従業員の個別の質問に対しては、直属の上司が説明会を開いて対応することになります。その際にも買い手企業の幹部が同席すると、従業員の理解が得やすくなります。
4.買い手企業へしっかりと事業引継ぎを行う
M&Aは成約すれば終わりではなく、買い手企業への事業引継ぎをしっかり行うことが重要になります。
事業引継ぎは買い手企業だけで行うのは困難なので、売り手企業の経営者や幹部がしばらく顧問などの肩書で買い手企業に在籍し、引継ぎのサポートをするのが一般的です。
売り手企業の経営者が引継ぎに参加することで、従業員は安心感を得ることができます。売り手企業の経営者はあくまで事業引継ぎのサポートに徹し、経営方針に関しては買い手企業に任せることが大切です。
5.専門家に相談する
M&Aは専門的な手続きが多く精神的な負担も大きいので、M&A仲介会社などの専門家に相談しながら進めていくのが一般的です。
M&A仲介会社などの専門家は多くのM&Aを手がけてきているので、従業員の退職に関するさまざまな成功例・失敗例をみてきています。
その経験にもとづいたアドバイスを受けることで、従業員の退職を回避して幸福なM&Aを目指すことができます。
M&A総合研究所では、さまざまな業種で50件以上のM&A実績があるアドバイザーが、親身になってM&Aのサポートをいたします。
料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。
M&Aを検討しているけれど、従業員の退職が不安だという経営者様は、ぜひ一度M&A総合研究所へご相談ください。無料相談はお電話またはWebより随時お受けしております。
6. まとめ
従業員は会社にとって重要な資産なので、M&Aの際は退職されないように気をつけなければなりません。そのためには、M&Aにおける従業員のメリットを最大化するとともに、退職リスクを減らすことが大切です。
【従業員の退職につながりかねない要素】
- M&A後の従業員自身の処遇
- 勤務環境の変化
- 売り手・買い手企業の従業員同士の関係
【M&Aにおける従業員のメリット】
- 大企業と同じ労働環境になる
- 主力戦力として迎え入れてもらえる
- 競争力の向上が営業成績アップにつながる
【M&Aによる従業員退職のリスクを減らすためのポイント】
- 適切なタイミングで公表する
- 従業員が知りたい内容を正確に伝える
- 買い手企業とともに説明会を開く
- 買い手企業へしっかりと事業引継ぎを行う
- 専門家に相談する
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