2022年06月06日更新
M&Aのストックオプションの取り扱いは?譲渡側と譲受側に分けて事例で解説!
ストックオプションは従業員の業務意欲を高める手段として活用されていますが、M&Aの状況次第では権利が消滅することもあるので取り扱い方法を把握しておくことが大切です。今回は、M&Aのストックオプションの取り扱いや活用事例を紹介します。
1. M&Aのストックオプションの取り扱いは?
IPOを目指す企業や既に上場している企業では、従業員のモチベーションを高める目的でストックオプションを付与することがあります。
業績と連動する報酬は従業員が業務に意欲的になる効果が期待できますが、M&Aによる譲渡を実施することになった場合、付与したストックオプションの取り扱いはどうなるのでしょうか。
この章では、ストックオプションを活用する目的やM&Aの際の取り扱い方に関して解説します。
ストックオプション(新株予約権)とは
ストックオプションとは、自社株を予め決められた価格で購入できる権利のことです。ストックオプションを付与された人は権利を行使して株式を取得した後、現在の株価で売却して差額を得ることができます。
有償で発行する際は公正価値を算定したうえで発行価額を決定します。事業計画に基づく将来の株価予測や、公正価値に対して行使に係る条件などを考慮して最終的に発行価額が決まり、従業員への付与が行われます。
インセンティブとして付与する場合は無償で発行するケースが多いです。割り当てを受ける者は払い込みが不要になる反面、税制上は給与とみなされるため給与課税がデメリットになることもあります。
ストックオプションを付与したら割当日から2週間以内に登記簿の変更申請をする必要があります。新株予約権の数や行使できる期間、行使条件などを記載して登記申請を行います。
ストックオプション(新株予約権)の目的
ストックオプションの目的は、従業員のモチベーションを高めて会社全体の業績を向上させることにあります。
上場を目指す企業は事業を成功させるための人材が必要です。しかし重要なキーパーソンが会社を辞めてしまうと上場計画や事業の存続にも影響を及ぼしかねません。
報酬を与えて繋ぎ止めたいところですが成長途中にある企業は資金的な余裕がないことも多いです。そこでストックオプションを付与して会社が成功したら莫大な報酬が手に入るという見返りを用意します。
割り当てを受けた株式は自由なタイミングで売却することができます。権利行使価額と売却価格の差額は割り当てを受けた人がもらえるので、インセンティブとして機能しています。
株価は会社の業績に応じて上がることが多いです。従業員が自身のインセンティブを高めようとして、業務への意欲・意識が変わるなどの効果が期待できます。
税制適格とは
通常の給与所得として扱われた場合、最大55%(住民税10%、所得税45%)の税率を課税される可能性があります。所得額次第では利益の約半分を税金として納めなくてはなりません。
権利行使時点で課税されるため、手元に現金がない状態で納税を迫られる可能性もあります。せっかくのインセンティブの意味が薄くなってしまいます。
従業員に付与するストックオプションには、インセンティブとしての機能が求められています。割り当てを受ける者としては納税の原資がないことが多いので、税制適格要件を満たして税制上の優遇措置を受ける必要があります。
税制適格要件を満たす場合は譲渡所得として扱われるため、税率は20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)となるので、税金負担を大幅に抑えられます。
税制適格要件について
税制適格であれば課税は一度だけなので、要件を満たすか満たさないかで税制上の負担が大きく変わります。
よって、ストックオプションの活用を検討するうえで、適格要件は軽視することができない点ともいえるでしょう。
ストックオプションは無条件で税制適格にできるわけではなく、効果を最大限に高まるためには主に下記の要件を満たすことが求められます。
【主な税制適格要件】
対象者 | ストックオプションを付与する会社の取締役あるいは従業員 一定の条件を満たす場合は社外高度人材への付与も可能 |
行使価額 | ストックオプション付与時の時価以上 年間権利行使が1200万円未満 |
行使期間 | ストックオプション付与決議から2年後~10年後の8年間 |
行使態様 | 株券発行会社にした上で証券会社へ株券を預託 |
M&Aを行う際のストックオプションの取り扱い
ストックオプションを付与する企業は基本的に上場を目指しています。というのは、上場すれば株価の上昇や換金手段が容易になり、インセンティブとしての機能がより強まるためです。
そのため、将来の株式公開を見据えているベンチャー企業などが活用することが多く、有能な人材を確保したい一方で報酬を用意する余裕がないため、株式報酬を与えて人材を繋ぎとめています。
しかし、経営上の判断から上場ではなくM&Aによる譲渡に方針を転換する場合もあります。この場合は従業員に付与されたストックオプションの取り扱いはどうなるのでしょうか。
譲渡側の取り扱い
株式譲渡・株式交換・株式移転により完全子会社化
株式譲渡・株式交換・株式移転は譲受企業に自社株式を譲渡して完全子会社化されるM&A手法です。全ての株式が譲受企業に渡るため、基本的にストックオプションも消滅します。
ただし、以下のケースにおいては、権利の付与を受けた人が新株予約権の買取請求権を有することがあります。
【新株予約権買取請求権が発生するケース】
- 譲受企業から交付される対価の内容が譲渡企業のストックオプションの内容に定められている内容と違う場合
- 完全親会社のストックオプションが付与される定めがある及びその取扱いがなされていない場合
合併により消滅
合併は二つ以上の法人格を一つに統合するM&A手法です。吸収合併・新設合併のどちらを用いた場合でも被合併企業(譲渡企業)は消滅するので、同時に保有者の権利も消滅します。
特別な規定がされていない場合はそのまま消滅しますが、譲渡企業側でM&Aの際の取り扱いついて規定することが可能とされています。
合併企業(譲受企業)から新しく交付される場合は、譲渡企業が付与している個数及び権利行使価額を基準に合併比率で調整します。
なお、調整が恣意的なものでない限り、経済的価値を同額にするための調整に過ぎないため、引き続き税制適格要件は満たすものとされています。
なお、規定された内容と譲渡企業の対応が異なる場合は、権利保有者は譲渡企業に対して買取請求権を行使することが可能です。
譲受側の取り扱い
続いて、M&Aを行う際の譲受側の取り扱いをみていきます。譲渡側と同様に完全子会社化と消滅のパターンによって扱い方が変わります。
株式譲渡・株式交換・株式移転により完全子会社化
M&Aの譲受企業は、経営権の100%取得のために全ての発行済株式を取得し、完全子会社化を目指すことが多いです。
しかし、譲渡企業の従業員から権利行使されると、全ての株式を取得できずに完全子会社化することはできません。
M&Aに求めていたシナジー効果が創出できなくなる恐れもあるため、このような潜在株式は事前対処が必要ですが、一般的な対処方法は権利の消滅か買取の2つです。
ストックオプションの消滅は、行使条件に「上場済み」等が定められている場合に認められます。譲渡企業は完全子会社化することで上場基準を満たせなくなるので、株式譲渡等による株式の譲渡はストックオプションの消滅と同義となります。
2つ目は、消滅する権利を買い取る形で譲受企業のストックオプションを付与する方法です。ストックオプションは従業員にとって働く原動力ともいえるので、ただ消滅させるのではなく代わりを用意して制度を継続させるのが一般的です。
合併により消滅
M&Aで新設合併や吸収合併を行うと、被合併企業(譲渡企業)は消滅します。合併と同時にストックオプションも消滅するので、金銭的補償あるいは譲受企業のストックオプションの付与といった対処を行うことがあります。
金銭的補償は、譲渡企業が規定する権利内容に、M&Aにより別の企業の傘下に入る時や消滅する時の対処方法として金銭による補償がされる記載がある場合に行います。
消滅の対価として譲受企業が新しく付与する場合も、譲渡企業が定める内容に従って決定します。消滅する権利の価値に応じて条件や発行数を決める形が多いです。
2. ストックオプションをM&Aの際に活用した事例
ストックオプション等の株式報酬は、シリコンバレーでは一般的になりつつありますが、日本においては導入企業はまだまだ少ないのが現状です。ここでは、日本企業がストックオプションを活用している事例を紹介します。
【ストックオプションの活用事例】
- 楽天
- シャープ
1.楽天
楽天は子会社・関連会社を含む取締役・役員・従業員に1個(100株)あたり1円で購入できるストックオプションを付与しています。
付与時点での株価が1,000円とした場合、100,000円相当の株式を1円で購入できる権利ということになります。将来的に株価が上がることになれば、利益はさらに大きくなります。
特に有利な条件でストックオプションを付与していますが、権利は段階的にしか行使できないという制限が設けられています。1~10年の期間中に段階的に権利行使できるように定めることで社員の離職を防ぐ効果をあげています。
2.シャープ
シャープは2017年にストックオプションを導入してから数回に分けて付与を行っています。第3回目では取締役・従業員20名に1045個のストックオプションを付与しています。
行使価額は2,717円と割当日の終値のうちいずれか高い方の価格とされています。株式分割や株式併合を実施する場合は、株式分割・株式併合の比率に準じて行使価額を調整することも規定されています。
3. M&Aのストックオプションにおける課税関係
M&Aを行う際はストックオプションの取り扱いによって所得区分が異なるので課税関係に注意する必要があります。
譲受側が譲渡側のストックオプションを買い取った場合の課税関係
譲受企業が譲渡企業のストックオプションを買い取る場合は、譲渡企業の取締役会の承認を受けて譲渡制限が解除される段階で利益が発生するとされるため解除日に給与所得として課税されます。
また、給与所得として課税される利益の額(譲渡制限解除日におけるストックオプションの時価)の相当額が譲渡所得等に係る取得費等として扱われるため、この場合の買取において譲渡所得等は生じません。
譲渡側の従業員がストックオプションを使った際の課税関係
譲渡企業の従業員がストックオプションの権利を行使した場合は、ストックオプションが税制適格かどうかで扱いが異なります。
ストックオプションが税制適格の場合
税制適格の場合は、割り当てを受けた株式を売却する段階で譲渡所得が発生します。譲渡課税は、譲渡所得(権利行使価格と売却価格の差額×株式数)×20.315%です。
権利行使段階で給与所得が発生することはなく、行使段階の時価より安い発行価額だとしても課税されることはありません。
税制適格の場合は、売却時点で発生する譲渡所得に対して初めて課税されます。譲渡所得の税率は所得額に関係なく20.315%で一律となっています。
ストックオプションが非税制適格の場合
非税制適格の場合は権利行使段階で給与所得が、取得した株式を譲受企業に売却する段階で譲渡所得が発生します。給与所得は10~55%、譲渡所得は20.315%の税率が課されます。
給与所得の税率は所得額に応じて上がる仕組みです。利益額が1億円近くになると税制適格との税額の差は2000万円前後にもなります。
また、権利行使段階では、現金を獲得していないうちに納税義務が課されます。権利行使と同じ年に株式を売却しない場合は、納税のための原資を別の手段で用意しなくてはなりません。
M&Aのご相談はM&A総合研究所へ
M&Aの際のストックオプションは、対処方法を誤るとM&Aが失敗する可能性が高くなります。M&A自体の手続きも複雑なのでM&A仲介会社のサポートを受けることをおすすめします。
M&A総合研究所は、中堅・中小規模の案件を取り扱うM&A仲介会社です。M&A実務の経験豊富なアドバイザーが相談から成約までの一貫サポートを行います。
税務に関しても豊富な知識がありますので、ストックオプションの課税関係に関しても適切に対応することができます。
当社は完全成功報酬制(※譲渡企業のみ)を採用しており、着手金は完全無料です。無料相談はお電話または問い合わせフォームにてお受けしています。
M&AやM&Aの際のストックオプション取り扱いにお悩みの際は、お気軽にM&A総合研究所までご連絡ください。
4. M&Aのストックオプションの取り扱い方のポイント
M&Aを行う際はストックオプションの対処方法に関して押さえておきたいポイントがあります。この章では、譲渡・譲受のそれぞれの視点からのポイントを解説します。
譲渡側のポイント
まずは、M&Aの譲渡側のポイントからみていきます。M&Aに向けて特に意識しておきたいポイントは以下の2つです。
【M&Aの譲渡側のポイント】
- ストックオプションは消滅する可能性がある
- ストックオプションの内容を確認する
1.ストックオプションは消滅する可能性がある
ストックオプションは、従業員に将来の利益を約束するものではありません。M&Aを行う際は、ストックオプションが消滅する可能性があることを従業員に対して説明しておく必要があります。
働くモチベーションでもあるストックオプションが消滅すると、従業員は会社に対する不信感を募らせたり自主退職する可能性があります。
M&Aの譲受側は人材の確保を目的としていることも多いため、M&Aの成約前に従業員の大量流出があるとクロージング条件を満たせなくなって、M&Aの交渉が滞る恐れがあります。
対処方法についても話しておくと反発を抑えやすくなります。M&Aを円滑に進行させるためにも、従業員に対する説明責任は果たさなくてはなりません。
2.ストックオプションの内容を確認する
権利を消滅させるだけでは、従業員からの反発でM&Aの失敗に繋がる恐れがあります。反発を抑えるため、規定されている内容に沿って買取あるいは継続を検討することが一般的です。
規定の内容次第では、M&A先による買取や金銭による対価の支払いなどが行われます。規定されている内容通りの交付が行われない場合は、権利保有者は買取請求権を行使することができます。
譲受側のポイント
続いて、M&Aの譲受側が意識しておきたいポイントを解説します。M&Aの際の主なポイントとしては次の2つが挙げられます。
【M&Aの譲受側のポイント】
- 消滅させるストックオプションの対価が必要になる場合が多い
- ストックオプションの内容を確認する
1.消滅させるストックオプションの対価が必要になる場合が多い
M&Aの際に譲渡企業の従業員が保有する権利を消滅させる場合、譲受側で消滅させる権利に相当する価値の対価を用意する必要があります。
対価の支払いは、ストックオプションと同等の金銭的補償か、譲受企業のストックオプションを付与する形が一般的です。
金銭的補償の場合は、会社から大量のキャッシュ流出が伴います。M&A後の事業計画に支障が出ないよう、事前にM&A先との調整を進めておく必要があります。
譲受側が上場企業あるいは上場予定の企業である場合は、ストックオプションの付与が有効な選択肢になります。キャッシュ流出を防げるほか、公開株式は換金が容易なので従業員から反発されるリスクも低くなります。
2.ストックオプションの内容を確認する
M&Aの契約の際は、消滅させるストックオプションの対価の支払い方法に関して、契約書に明記する必要があります。
主に記載すべき内容は価格・算定方法・個数などであり、対処方法はM&A先(譲渡企業)の内容に従って決定します。
そのため、M&A先が規定している条件・内容を事前に確認して、対応を決めておかなくてはなりません。
5. まとめ
本記事では、M&Aの際のストックオプションについて解説しました。本来、ストックオプションは従業員のモチベーションを高める手段ですが、M&Aの際に扱い方を誤ると失敗する要因にもなりかねないものです。
ストックオプションを消滅させる場合は、対価の支払いに関して従業員からの理解を得ることも大切です。その際はM&Aの専門家に相談しておくと細かい部分まで対応しやすくなります。
【ストックオプションのまとめ】
- ストックオプションとは自社株を予め決められた価格で購入できる権利のこと
- ストックオプションの目的は従業員のモチベーションを高めて業績向上を図ること
- 税制適格要件を満たさないと税制上の負担が大きい
- M&Aの際は用いる手法によって取り扱いが変わる
【M&Aの譲渡側のストックオプションの取り扱い方のポイント】
- ストックオプションは消滅する可能性がある
- ストックオプションの内容を確認する
【M&Aの譲受側のストックオプションの取り扱い方のポイント】
- 消滅させるストックオプションの対価が必要になる場合が多い
- ストックオプションの内容を確認する
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