M&Aで必要な契約書を徹底解説【ひな形・サンプルあり】

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

M&A成立のためには交渉結果を表し、それを約定する契約書の締結が必要です。この記事では、M&Aの基本合意契約書、株式譲渡契約などの最終契約書について、印紙必要の有無、サンプルやひな形の情報も含め、各ポイントに関する詳細を解説します。

目次

  1. M&Aで必要な契約書一覧
  2. M&Aにおける秘密保持契約書の書き方
  3. M&Aにおけるアドバイザリー契約書の書き方
  4. M&Aにおける意向表明書の書き方
  5. M&Aにおける基本合意契約書の書き方
  6. M&Aの最終契約書の書き方
  7. M&Aの基本合意書と意向表明書、最終契約書の違い
  8. M&Aの契約書のひな形・サンプル
  9. M&Aの契約書に関する相談は専門のアドバイザーに
  10. M&Aで用いる契約書まとめ
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1. M&Aで必要な契約書一覧

M&Aで必要な契約書は、基本的に以下の5種類です。まずは各契約書の概要を確認しましょう。なお、いずれの契約書も、詳細はそれぞれ後述します。

  1. 秘密保持契約書
  2. アドバイザリー契約書
  3. 意向表明書
  4. 基本合意契約書
  5. 最終契約書

①秘密保持契約書

秘密保持契約書は、機密保持契約書やNDA(Non-Disclosure Agreement)とも呼ばれます。契約締結者双方が、相手から開示を受けた秘密情報の取り扱い方や守秘義務などを定めたものです。

M&Aに限らず、交渉や業務における受発注の前段階時などにおいて、当事者間で締結します。M&Aで秘密保持契約書が締結されるのは、以下2つのケースです。

  • 業務を正式依頼する前の段階における相談者とM&A仲介会社間での締結
  • M&Aの買収側と売却側が交渉を開始する場合の大前提として締結

②アドバイザリー契約書

アドバイザリー契約書とは、M&A当事者が、そのサポートを依頼する仲介会社や金融機関、各士業事務所など、いずれかのM&A専門家と締結する業務依頼契約書です。アドバイザリー契約書を締結することで、依頼側は専門家からM&A全般のサポートやアドバイスを得られます。

③意向表明書

意向表明書は、厳密には契約書ではありません。M&Aの交渉開始後、買収側が売却側に対し、現時点で考えている買収内容・条件(用いるM&A手法や買収価額など)を提示する(=買収意向を表明する)書類です。したがって、契約書の締結は行われません。

意向表明書は、買収側の誠実性を示唆するためだったり、M&A交渉を一段階進めたかったりする意図で提出されますが、M&Aのプロセスとして必然ではなく、提示されないことも多いです。意向表明書は、LOI(Letter Of Intent)ともいいます。

④基本合意契約書

M&A交渉が進み、大筋で条件が合意できたときに締結されるのが、基本合意契約書(基本合意書ともいう)です。MOU(Memorandum of Understanding)と呼ばれることもあります。基本合意契約書は、その時点における合意内容確認書といった位置付けです。

したがって、基本的にM&Aの成約を証明するものではなく法的拘束力は持ちません。場合によっては、基本合意契約書締結を省略するケースもあります。

⑤最終契約書

最終契約書(DA=Definitive Agreement)は、文字どおり、M&Aの当事者が条件に合意し成約するために締結する最終的な契約書です。ただし、最終契約書は便宜上の呼称であり、実際には用いられるM&Aスキーム(手法)が契約書名になります。

たとえば、株式譲渡であれば「株式譲渡契約書」、事業譲渡であれば「事業譲渡契約書」です。

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2. M&Aにおける秘密保持契約書の書き方

M&Aの秘密保持契約書は、NDA以外にもCA(Confidential Agreement)と呼ばれます。秘密保持契約書は、相手方から知り得た情報を第三者に開示することを禁止する契約です。

したがって、M&Aの実施を検討している両者が、交渉を始めるにあたって契約したり、M&A当事者とM&A仲介会社などとの間でアドバイザリー契約を締結する前の段階で締結したりします。

秘密保持契約書の記載内容

秘密保持契約書に法的な規定はありません。したがって、記載内容は当事者間で取り決めますが、秘密保持契約書はビジネス全般で用いられるものでもあり、すでにほとんどの記載内容は定まっています。M&Aにおける秘密保持契約書の一般的な記載内容を見ていきましょう。

契約形式

秘密保持契約書の主要な記載内容・項目の前に、以下の秘密保持契約書における形式を説明します。

  • 契約書形式:買い手と売り手の両者が契約書に捺印する一般的な契約方法
  • 差入れ形式:案件により、買い手が売り手宛に一方的に差し入れる誓約書タイプ

「契約書形式」は、M&Aのように買い手と売り手が1対1で交渉を行うケースや、売り手にも特別な守秘義務を取らせる場合に使われます。「差入れ形式」は、入札で複数の買い手候補に情報が開示される場合に、時間節約のために使われることが多いです。

機密情報の定義・範囲

秘密保持契約書では、機密情報・秘密情報に該当するもの・しないものを明確に位置付ける必要があります。原則、情報を伝える側が機密情報と指定したものが機密情報です。ただし、以下のケースは機密情報から除外するものとして、秘密保持契約書に記載されます。

  • 情報開示以前から公知だった情報
  • 情報開示以前から情報受領者が知っていた情報
  • 情報開示後、情報受領者の責任範囲外で公知となった情報
  • 秘密保持義務を負っていない第三者から正当に得た情報
  • 法令で開示が義務付けられている情報

情報受領者側が社内で機密情報を開示してよい範囲も言及するのが通例です。たとえば、「M&Aに直接かかわる役員・従業員以外に機密情報は開示してはならない」などの内容になります。

有効期間

秘密保持契約書では、その有効期間を設定します。1~3年程度が一般的です。業界・業種、各社によって、機密情報の重要度や流動性が異なるため、当事者間で納得できる期間に設定します。

上記以外の取り決め事項

秘密保持契約書では、以下の事項も盛り込むのが通例です。

  • 機密情報の使用禁止
  • 機密情報が記されている書面・電子媒体などの返還・廃棄方法
  • 契約違反が起こった場合の損害賠償責任
  • 準拠法
  • 管轄裁判所

売り手の秘密保持契約書のポイント

M&Aの秘密保持契約書における売り手のポイントは、デューデリジェンス(買収側による売却側企業の精密監査)によって開示した売り手の情報を、買い手が他の目的に転用したり第三者に開示したりしないように、提示した情報の多くを秘密保持義務の対象にすることです。

このとき、「秘密」と記載された資料の内容のみが秘密保持対象となる契約ドラフトが買い手から届いたら、外すよう交渉することが重要になります。

口頭で伝えた内容、書面で伝えた内容、メールなどで伝えた内容も秘密情報に含まれることや、売却交渉の存在および内容自体も守秘義務の対象になるよう文書を入れておくとよいでしょう。

秘密保持契約書の複製を禁止する場合や、M&A後に有効期限が切れた時点で返還や破棄を行うことを組み込むと、秘密保持契約書として重要な情報の漏えいを防ぐ役割を果たせます。

買い手の秘密保持契約書のポイント

買い手の秘密保持契約書におけるポイントは、できるだけ守秘義務となる情報を絞ることにあります。M&Aの最中に技術情報などを入手した場合、その技術が自社の事業において既存のものだったときは、独自に開発した情報かどうかが問題になる可能性があるためです。

それを証明するためには、大切な技術情報などは確定日付を取り、開示直前の開発結果を保存しておく方法や、クリーンルームなどを作成し、情報にアクセスできる者をM&A取引を実行するチームに限定する方法があります。

M&Aで知り得る情報の守秘義務を絞るためには、例外事項の記載や開示時期の限定、書面で開示した秘密情報に限定することなどが重要です。

独占禁止法に抵触する会社間取引の場合は、開示された情報の使用目的をM&A検討のためだけに絞り、カルテル問題を生じさせないこともポイントになります。

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3. M&Aにおけるアドバイザリー契約書の書き方

M&Aでのアドバイザリー契約書とは、売り手であれ買い手であれ、M&Aを進めるうえで、そのサポートを依頼するM&A仲介会社などとの間で結ぶ契約書です。

アドバイザリー契約書の記載内容

アドバイザリー契約書の主な記載内容について、順次、見ていきましょう。

契約形態

M&Aにおけるアドバイザリー契約の場合、その契約形態には以下の2種類があります。

  • 専任契約:契約したM&A仲介会社のみとM&Aを進める
  • 非専任契約:複数のM&A仲介会社と契約を結んでM&Aを進めることが可能

複数のM&Aアドバイザーに依頼すると情報漏えいのリスクがあるので、信頼の置ける1社を決めたうえでM&Aアドバイザリー契約を結ぶのが一般的です。

業務の内容・範囲

アドバイザリー契約によって、M&A仲介会社などの専門家側が請け負う、具体的なM&Aに関する業務内容を明示します。一般的な業務内容は、以下です。

  • M&A取引相手候補の探索・選定
  • 候補相手の情報収集とその提供
  • M&Aスキーム、スケジュールなどM&A戦略の相談・アドバイス
  • 売却側に対する企業価値算定(バリュエーション)
  • 契約書ドラフトやその他資料などを作成
  • 条件交渉
  • 各手続きプロセスにおける実務に関するアドバイス
  • デューデリジェンスを依頼する専門家とのスケジュール調整(買収側の場合)
  • 買収側の場合、PMI(Post Merger lntegration=M&A後の経営統合プロセス)に関するサポートサービスを依頼する場合もある

費用・報酬体系

M&A専門家に対する報酬には、統一された規定がありません。各社・各機関がそれぞれ独自に決めている報酬体系にのっとった内容が、アドバイザリー契約書に記載されます。ただし、発生する費用の名称やタイミングは、業界内でほぼ統一されています。内容は以下のとおりです。

  • 着手金:アドバイザリー契約書締結時に発生する費用だが無料の仲介会社も多い。
  • リテイナーフィー(月額報酬):アドバイザリー契約書締結後、M&A成約まで毎月支払う顧問料に類似した費用だが、発生せず無料の仲介会社が多い。
  • 中間金:基本合意契約書締結時に発生する費用だが無料の仲介会社も増えている。発生しても下記の成功報酬額における一部前払い扱いの場合もある。
  • 成功報酬:M&A成約(クロージング)後に発生する費用。レーマン方式と呼ばれる計算方法で金額が決まるが、算定基準額の設定が各社で違うため契約前に要確認。

レーマン方式

報酬の計算には「レーマン方式」という業界の基準が使われ、この基準を使って「取引金額」をかけて報酬を求めます。ただ、「取引金額」の定義は、アドバイザーによって異なります。例えば、一部の会社は株式の売却金額だけを考えますが、他の会社はそれに追加で負っている借金の分も加えることがあります。

さらに、多くのアドバイザーは最低の報酬を決めていますので、それも確認が必要です。契約する前に、アドバイザーと相場をしっかり話し合い、納得のいく報酬で依頼することが大切です。

上記以外の取り決め事項

そのほかにアドバイザリー契約書に記載される内容として、以下があります。

  • 免責事項
  • 秘密保持
  • 資金調達優先権(アドバイザリーが金融機関系の場合)

アドバイザリー契約書のポイント

アドバイザリー契約書のポイントとして、契約解除方法や相手との交渉が破談した後における契約の取り扱いに注意する必要があります。たとえば、マッチングされた買い手と破談したものの、しばらくして再度、両社で話をしたらM&Aがうまくいった場合などです。

この場合、いったんM&Aは破談していますが、契約しているM&Aアドバイザーからの紹介という理由で報酬が発生するかどうかを、しっかりと押さえておく必要があります。

アドバイザリー契約には、仲介方式とアドバイザリー方式の2種類がある点にも注意が必要です。仲介方式は同一のM&Aアドバイザーが買い手と売り手の間に入って仲介する方式で、中小企業のM&Aで多く活用されています。

一方、アドバイザリー方式は、買い手と売り手がそれぞれ別の仲介会社とアドバイザリー契約を結び、買い手、売り手双方のM&Aアドバイザー同士がM&Aの交渉を行う方式です。

昨今は、契約内容を混同しないように、その呼称を前者がM&A仲介契約、後者をM&Aアドバイザリー契約と呼び分けています。

【関連】アドバイザリー契約とは?M&Aコンサル契約との違いや契約書の内容、報酬を解説!

4. M&Aにおける意向表明書の書き方

M&Aの意向表明書とは、買い手が売り手に対し、買収する意思と基本条件の意向を伝えるためのものです。既述のとおり、M&Aのプロセスとして必須ではありませんが、買収提案書ともいえる意向表明書を提示することで、交渉がはかどりやすくなる傾向があります。

意向表明書の記載内容

意向表明書に記載すべき項目は、意外と多くあるので注意が必要です。以下、順番に各概要を掲載します。

買収側の概要

意向表明書には、まず、買収側の自己紹介が必要です。いわゆる企業概要を掲載しますが、最低限押さえるべき内容は以下になります。

  • 商号
  • 本社所在地
  • 事業概要
  • 従業員数
  • 直近の決算情報
  • 企業グループの場合はグループの概要

M&Aの目的・メリット

買収側が考えるM&Aの目的と、M&A後、買収側・売却側が、それぞれ得られるメリットやシナジー効果などの内容を記しましょう。

スキーム・取引形態

M&Aには、株式譲渡や事業譲渡など、さまざまなスキームがあります。今回のM&Aでは、買収側としてどのスキームを考えているかを述べ、スキームの種類によっては、より細かい説明も必要です。

買収希望価額などの条件

買収側が実施を考えているM&Aスキームに応じた買収対象と、取得のための希望対価を明示します。対価の算定根拠を示す場合もありますが、いずれにしても、現時点で開示されている情報を基にした算定で、後日変更する可能性がある旨を添えるのは必須です。

今後のスケジュール

意向表明書内では、M&Aをどのように進めていくのかも示さなければならないため、いつまでに何を行うのかなどの詳細スケジュールも記載し、買収側は株主総会や取締役会の実施に関する事項も記載します。

独占交渉権の付与

買収側としては、ほかに競合となる相手が現れないようにするため、売却側に対し独占交渉権の付与を希望することを、意向表明書に記すケースもあるでしょう。

デューデリジェンス(買収監査)の実施・費用負担

デューデリジェンスは、基本合意契約書締結後、実施されますが、実施の段階では売却側の協力も不可欠です。そこで、意向表明書の段階で、計画しているデューデリジェンスの内容を明示します。

デューデリジェンスは、各士業などの専門家に依頼して行うものですが、予定依頼先情報やデューデリジェンスの費用は買収側負担であることも掲載するのが通例です。

法的拘束力

意向表明書は、買収側の提案書ともいえる書類です。これを基に交渉を進めるので、記載内容全てに法的拘束力があると、買収側の交渉における自由度が失われてしまいます。したがって、買収側は、意向表明書に法的拘束力はない旨の明示が必須です。

その他の記載事項

ここまで記した項目の中で補足する必要があるものや、関連する項目があれば記載します。一例としては、買収資金の調達方法、M&A成立後の経営統合方針や事業戦略などです。

意向表明書のポイント

M&Aにおける意向表明書のポイントは、提出する場合、時間をかけて作成することです。慌てて作成することなく、時間を十分に使ってM&Aの条件を考えることで、よりよい内容にして売却側をひきつけられます。

意向表明書は、M&A専門家の確認を受けることも重要です。M&Aアドバイザーなどの確認を受けると、売却側にアピールできる意向表明書が作成できます。特に買収希望価額の設定は、後々の条件交渉にも大きく影響が出るので慎重に算定しましょう。

5. M&Aにおける基本合意契約書の書き方

M&Aの基本合意契約書とは、最終契約における1つ前の段階において、買い手と売り手が大まかな条件で交渉が一致し、その時点における合意内容について当事者間で確認するための契約書です。したがって、まだM&Aは成約していません。

まずは、基本合意契約書の基本的な役割・位置付けなどを確認しましょう。

基本合意契約書の目的

M&Aで基本合意契約書を締結するのは、その時点で買い手と売り手が合意していることを明文化し、あらためて認識を深くするためです。一般的に、M&Aの基本合意契約書に記載される主な内容は、以下になります。

  • M&Aのスキーム
  • 譲渡対象
  • 対価
  • 役員の処遇
  • 今後のスケジュール
  • 売り手のデューデリジェンス(売却企業の精密監査)への協力義務
  • 独占交渉権
  • 秘密保持
  • 費用負担
  • 裁判管轄
  • 準拠法

基本合意契約書のメリット

基本合意契約書を締結することは、M&A成立に向けて売り手・買い手ともにその意思を固めたことの表れといえます。そして、意思表示の最たる手段として基本合意契約書に盛り込まれるのが、独占交渉権です。

売り手が優良企業であった場合、ほかにも買収を希望する競合相手がいるかもしれません。しかし、基本合意契約書において独占交渉権が得られれば、買い手は第三者の干渉を心配することなく成約に向けた交渉や手続きを進められます。

基本合意契約書における独占交渉権は期限が設けられるので、その期限内に成約させることが必要です。

基本合意契約書を締結するタイミング

基本合意契約書を締結するためには、文字どおりM&Aの基本的な合意がなされなければなりません。それは、上述した基本合意契約書に盛り込まれる各条件について、売り手と買い手が交渉し、大まかに合意が形成されたタイミングになります。

なお、基本合意契約書締結後、残されたM&Aのプロセスは以下のとおりです。

  • デューデリジェンス
  • デューデリジェンスの結果を踏まえた最終的な条件交渉
  • 交渉がつつがなくまとまれば最終契約書の締結
  • クロージング(最終契約書内容の履行)

基本合意契約書に含まれる項目

ここでは、M&Aの基本合意契約書に含まれる以下の項目について、個別に見ていきます。

  • 実施するM&Aのスキーム
  • 売買価額
  • スケジュール
  • デューデリジェンス
  • 法的拘束力の範囲
  • 基本合意契約書の有効期限
  • 独占交渉権

M&Aのスキーム

M&Aのスキーム

ひと口にM&A(Mergers and Acquisitions=合併と買収)といっても、具体的なM&Aのスキームは上図のようにさまざまで、中小企業のM&Aに多く用いられているのは、株式譲渡と事業譲渡です。

株式譲渡は、株式を買い手に売却することによって、会社の経営権を移転させ会社を丸ごと譲渡します。事業譲渡は、会社組織は手元に残し、特定の事業や資産・権利義務・従業員などを買い手に譲渡するものです。

M&Aのスキームによって、内容は異なり生じる手続きも違います。したがって、基本合意契約書も、どのM&Aスキームによって何を譲渡するのか、明確に記載する必要があるでしょう。

売買価額

基本合意契約書の段階で、おおむねの売買価額は合意がなされます。ただし、基本合意契約書は最終契約書ではなく、多くの項目に対して法的拘束力を持ちません。したがって、売買価額の記載には、デューデリジェンスの結果次第で変動する旨が付記されます。

スケジュール

この基本合意契約書に記載するM&Aのスケジュールとは、基本合意契約書締結後のデューデリジェンス、最終契約書締結、契約内容における履行(クロージング)のスケジュールを取り決めたものです。

最終契約書締結後、契約内容を履行するためには、取締役会や株主総会の開催・決議も必要となるので、それらの日程も記載します。

デューデリジェンス

売却企業への精密監査であるデューデリジェンス(Due Diligence)は、財務・税務・法務・労務・IT・事業など売却企業のあらゆる面について、公認会計士や弁護士など各部門の士業専門家などに依頼し行われます。

買い手としては、簿外債務や裁判の係争中案件、税金の滞納、未払い給与などが仮に後日、発覚した場合、経営に悪影響をおよぼしかねません。M&Aを成功させるためには、リスクを抱えず事実を正確に把握することが必要です。

買い手にとってデューデリジェンスはM&Aに欠かせないプロセスですが、内容が多岐に渡ることから時間がかかり、専門家の起用が必須であるため費用もかかります。

したがって、基本合意契約書においては、円滑にデューデリジェンスが進行するように、その内容やスケジュールを明示するとともに、売り手の協力義務が記載されます。

法的拘束力の範囲

一般的に、基本合意契約書は法的拘束力を持ちません。しかし、特に守秘義務や独占交渉権などが契約書の項目に含まれている場合、これに法的義務を持たせないと契約が無意味になります。

そこで、守秘義務や独占交渉権などに違反した場合の罰則も取り決め、法的拘束力を持たせた条文とするのが通例です。

M&Aのスキームや売買価額なども契約書の項目として重要事項ですが、デューデリジェンスの結果次第で流動性があるため、ここには法的拘束力を持たせません。

基本合意契約書の有効期限

基本合意契約書において、守秘義務や独占交渉権などに法的拘束力を持たせる以上、この内容について有効期限を定めておく必要があります。基本的には、売り手が提示する有効期間に合わせますが、買い手も変更が可能です。

買い手は、独占交渉権が長いほど交渉しやすく有利になり、売り手は有効期限の開始が遅いほど、本当に買い手を取引相手に定めるか考える時間ができるので好都合でしょう。

この有効期限は案件によって異なりますが、基本合意契約書が締結されて60〜90日程度が多いです。

独占交渉権

M&Aの基本合意契約書では、独占交渉権の条項を入れるのが一般的ですが、この規定に反して第三者とのM&A交渉を通じて、本契約をしM&Aを行ったら、当初の交渉相手に対する損害賠償をどのようにするか決めなければなりません。

独占交渉権は、M&Aを進めるにあたって非常に左右されるところであり、独占交渉権を侵害するものとして話題を集めた、2014(平成26)年の住友信託銀行とUFJ銀行の対立は非常に有名です。

結果として解決金を払うなどの処置で和解が成立しましたが、大規模M&Aでなく小規模M&Aにおいても、独占交渉義務に関するトラブルは少なくありません。

注目したいのは、最高裁が示した「M&Aにおける独占交渉権は、最終的な合意を成立させるための手段で、最終的な合意が成立する可能性が存在しないと判断される場合は、独占交渉権の条項に基づく債務も消滅する」という判例です。

これは、M&Aの独占交渉権が消滅する道筋を示したものとして、今後におけるM&A取引実務の参考になり、ペナルティなども気をつけなければならないと判断できます。

基本合意契約書作成のポイント

M&Aにおける基本合意契約書のポイントは、売り手と買い手が相反する条件に折り合いをつけ、お互いがこれから進めるM&Aの交渉をしやすくすることにあります。

基本合意書はいくつかの基本事項をまとめたもので、最終的な合意を定めるものではないので、取引内容が合意されても、その合意はその時点における仮の合意事項です。

最終的な合意に近いものもあれば、その後における交渉によって変更される可能性がある前提で、当事者間の理解を確認するだけに過ぎないものもあります。いずれにしても、基本合意書のポイントは売り手と買い手で異なるため、以下でそれぞれ個別に確認しましょう。

売り手の基本合意契約書作成のポイント

M&Aで売り手によくある2種の状況として以下があり、そのどちらであるかによって基本合意契約書のポイントは異なります。

  • A:今の交渉相手に買ってもらいたい
  • B:ほかにも買い手候補がいて今の交渉相手は優先度が高くない

Aの場合、なるべく法的拘束力のある基本合意契約書を締結し、また、売却金額を記入し、デューデリジェンスなどでよほどの理由が出てこない限り、その金額で買ってもらえる内容にすることが大切です。

Bの場合は、法的拘束力を与えない代わりに、独占交渉権も与えない交渉を行います。入札形式におけるM&Aの場合は、最も有利な条件を提示した買い手候補を選ぶため、独占交渉権は与えない方向にするべきです。

海外のM&Aでは、一定の金額を払い法的拘束期間中でも契約を破棄させる条項や、当事者の双方が合意した一定期間は、売り手が買い手候補を積極的に探して交渉することを認める条項などもあります。

買い手の基本合意契約書作成のポイント

M&Aの買い手における基本合意契約書のポイントは、デューデリジェンスなどに多大な費用と時間がかかることから、できるだけ長い期間の独占交渉権を得たうえでデューデリジェンスを行う旨を記載することです。

基本合意契約書に法的拘束力がない場合でも、一度、基本合意契約書に記載したら、変更には合理的な理由が必要になります。不合理な提案を行ってM&Aの交渉が決裂した場合は、契約締結上の過失などが問題になるので注意してください。

なお、長期間の独占交渉権が得られた場合、売り手から例外条項を求められる可能性があることも理解しておきましょう。

基本合意契約書には法的拘束力がない

基本合意契約書は、M&Aにおいて作成しなければならないものではなく、基本合意事項に対する確認書という位置付けになります。

基本合意契約書を締結する段階ではデューデリジェンスは実施されておらず、その結果を経て買収額の最終交渉がなされることから、多くの条項で法的拘束力が省かれる内容です。

しかし、当事者としては、これまで行ったM&A交渉の時間やコストが無駄になるリスクを減らしたい思惑もあり、できるだけ基本合意契約書に独占交渉権と法的拘束力を盛り込みたいとも考えます。

基本合意契約書の内容や書式の法的な決まりはないので、その内容にどこまで法的拘束力を持たせるかどうかは書き方次第です。

その際に、特に売り手の弁護士が顧客を保護するために保守的な基本合意契約書の内容にしようとすると時間がかかってしまうでしょう。基本合意契約書は交わさずに、タームシートの条件などを箇条書きにした書類を作成し、M&Aを進めることもあります。

デューデリジェンスは法的拘束力あり

M&Aの基本合意契約書において、一部は法的拘束力を持たせることが肝要です。

具体的には、独占交渉権やデューデリジェンスには法的拘束力が必要で、デューデリジェンスの実施に協力する旨を基本合意契約書に記載している場合、売り手は財務状況などの開示を求められた際は、それに応じる義務があります。

買い手は、売り手が開示しなければならない情報を隠してM&Aを進め、M&A後に簿外債務などが発覚した場合、損害賠償を請求できる条項を入れて法的拘束力を持たせることが必須です。

MAC条項に関して

M&Aの最終契約までに重大なトラブルが発生することは、まれではありません。たとえば、簿外債務の発覚や、期待していた特許が無効となるなどです。そうしたときにどのようにするか決めたものが、MAC(Material Adverse Change)条項です。

これは表明保証条項違反の形で登場します。ただし、現実にトラブルの解決は難しく、簿外債務などは当事者でも把握していないことも多く、特許の無効は突然起こり得る問題です。

大規模なM&Aの契約書では、意向表明書にペナルティー事項を記載することも多いですが、その内容が合理的であるかどうかと問われると疑問の余地があります。したがって、故意に起こった事象や重過失に限って、責任を負わせる記載をM&Aの契約書に入れるのが現実的です。

上場企業の基本合意契約書

基本合意契約書は原則として会社間で結ぶので、第三者に開示や報告の義務はありません。しかし、当事者に上場企業がいる場合、基本合意契約書の開示義務が課せられます。これは金融商品取引所規則で定められているものです。

ただし、基本合意契約書の各項に法的拘束力はなく、双方の協力を促すためだけのものであれば、情報の開示義務はありません。条項に法的拘束力を持つものがある場合、基本合意契約書を開示する義務が課せられます。

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6. M&Aの最終契約書の書き方

M&Aの最終契約書は、実際のM&Aにおける現場では、実施するM&Aスキームにより名称が変わります。株式譲渡であれば「株式譲渡契約書」、事業譲渡であれば「事業譲渡契約書」などです。

なお、株式譲渡・事業譲渡の場合は、M&Aの当事者間において、どのような事項を決めるかといった会社法上の定めはないため、最終契約書の記載内容は交渉結果をそのまま反映させます。

一方、合併・分割・株式移転・株式交換など会社法上の組織再編行為に該当するM&Aスキームの場合は、会社法に定められた事項を規定する契約を締結したうえで、その法定契約とは別に最終契約書を交わします。

いずれにしろ、M&Aの最終契約書における書き方に規定はありません。出回っているサンプルやひな形を参考にして、当該条件を盛り込んで作成されることも多くあります。

最終契約書の目的

M&A交渉の末に確定した会社(株式)や事業の売買取引とその条件などについて、内容を明らかにし履行を約定せしめることが最終契約書の目的です。そこには、法的拘束力も明記されます。

したがって、最終契約書の内容どおりにM&A取引が履行されなければ、違反した側は規定された罰則に従わなければなりません。

最終契約書の主な内容(条項)

M&Aの最終契約書に記載される主な内容(条項)は、以下です。

  • 売買取引の対象物
  • 売買取引の価額
  • 買い手の支払い条件
  • 表明保証
  • 補償条項
  • 競業避止義務(事業譲渡の場合)
  • 誓約事項
  • 前提条件
  • 解除条件
  • 債務不履行の際における損害賠償
  • 秘密保持
  • 公表
  • 費用負担
  • 裁判管轄

M&Aにおける誓約

誓約条項(コベナンツ)とは、M&A契約において売り手と買い手が負う付随的な義務のことです。

例えば、株式譲渡契約において、売り手は株券の交付(株券発行会社の場合)を行い、買い手は株式譲渡代金の支払い義務を負いますが、これらの主要な義務に付随する義務がコベナンツ(誓約条項)です。具体的には、クロージング前の誓約事項とクロージング後の誓約事項があります。

クロージング前の誓約事項に違反した場合は、補償による損害賠償だけでなく、クロージングを回避することで救済することができます。しかし、クロージング後の誓約事項に違反した場合は、通常、補償による損害賠償のみで救済されます。

最終契約書を締結するタイミング

M&Aに関する基本合意契約書が結ばれ、買い手による売り手へのデューデリジェンスを完了した後が、最終契約書を締結するタイミングです。

デューデリジェンスにおいて、大きな問題が出なければ基本合意契約書の段階で合意していた条件でM&Aが成立し、基本合意契約書に記載した条件と同等の内容が、最終契約書にも記載されます。

万が一、デューデリジェンスで想定外の事象が発覚した場合は、M&Aの取引条件を変更する交渉が行われ、その結果に応じた最終契約書の内容となるでしょう。

デューデリジェンスで出た問題が重大であれば、取引が破談となる可能性もあります。これについて、基本合意契約書に法的拘束力がないことは如実です。

最終契約書の種類

用いられるM&Aスキームにより、実際に締結される最終契約書の名称は変わります。ここでは、中小企業のM&Aで多く用いられる株式譲渡と事業譲渡の最終契約書、すなわち、株式譲渡契約書と事業譲渡契約書を見ていきましょう。

株式譲渡契約書

株式譲渡契約書(SPA=Stock Purchase Agreement)とは、相対取引で株式を取得するM&Aの場合に作成され、その株式における売買を確実にするために締結されます。

株式譲渡契約は、株式の売買契約を意味し、目的となる株式の発行会社、株式の種類や株数を特定し、その所有権を移転することとその対価を定めるものです。株式譲渡契約書の締結によって、売り手は株式譲渡義務を負って、対価を受領する権利を得ます。

買い手は株式を譲り受ける権利を得て、その対価を支払う義務が課せられるでしょう。株式譲渡契約書の本質的な目的は株式と対価を引き換えることであり、株式譲渡契約書の締結によってM&A後も当事者の関係が継続するものではありません。

M&Aの株式譲渡契約書における基本構成は、目的と定義、譲渡する株式の数と内容、譲渡金額、譲渡日、表明保証、誓約事項、クロージング条件、契約の変更や解除、付随契約、役員・従業員の処遇、個人保証の解除、一般条項などです。

株式譲渡契約書に収入印紙は不要ですが、付随契約に不動産売買や債権譲渡を定める場合は課税文書となる可能性があり、その場合は収入印紙が必要になります。

事業譲渡契約書

事業譲渡契約書(Business Transfer Agreement)とは、会社を丸ごと買収・売却するのではなく、会社の事業や資産などを選別して買収・売却することに関する契約書です。

事業譲渡契約では、対象の事業とそれを構成する財産や債務を定めますが、その大まかな範囲を記載して別途協議することもあります。株式譲渡契約書にはない、事業譲渡契約書独自の内容が競業避止義務です。

これは会社法において、売り手は事業を行っていた市区町村およびその隣における市区町村において20年間、同一事業を行ってはならないと定められています。なお、事業譲渡では資産などの個別譲渡が含まれるので、契約書に印紙が必要です。

M&Aの最終契約書に含まれる項目

M&Aの最終契約書には、譲渡代金の支払い方法や経営陣の処遇など、交渉し細部まで取り決めた事項を盛り込みます。最終契約書に記される一般的な項目について、以下で確認しましょう。

スキーム

実際に取引するM&Aスキームに応じて、最終契約書にその内容が記されます。株式譲渡であれば、売り手から買い手に譲渡される発行済株式の数とその内容を記載し、契約書名は株式譲渡契約書です。

事業譲渡であれば、譲渡する事業内容を売り手から買い手に譲渡する旨を記載し、事業に関して詳細を定めるのであれば別紙に記載することもあります。いずれにしても最終契約書によって、売り手が買い手にどのようなものを譲渡するのか定めます。

売買金額(評価額)

M&Aの売買金額は、条件交渉で定まった金額を最終契約書に記載します。一例として株式譲渡契約書の場合は、「金___円也(1株当たり金__円)」と記載し、クロージング日に株式と引換えに対価を支払う旨を定めます。

そして、振込先の銀行口座情報を記したうえで、売り手は買い手に対して、譲渡金額が振り込まれたことを確認できたら、直ちに譲渡代金に関する領収書の発行・交付の記載です。個人資産の売却に当たるため、印紙税法上は非課税文書です。

事業譲渡の場合は、事業譲渡契約書に印紙税がかかります。具体的な印紙税額は以下のとおりです。

記載された金額 印紙税額
1万円未満 非課税
1万円以上10万円以下 200円
10万円超~50万円以下 400円
50万円超~100万円以下 1,000円
100万円超~500万円以下 2,000円
500万円超~1,000万円以下 1万円
1,000万円超~5,000万円以下 2万円
5,000万円超~1億円以下 6万円
1億円超~5億円以下 10万円
5億円超~10億円以下 20万円
10億円超~50億円以下 40万円
50億円超 60万円
※記載がない場合 200円
出典:国税庁「第1号文書から第4号文書までの印紙税額の一覧表」

手続条項

M&Aの最終契約書には、取引が法に基づく適正な手続きをしていることを記載します。これが手続条項です。手続条項では、取締役の辞任やその退職金、担保の解除など、M&Aでしなければならない手続きの条項を盛り込みます。

前提条件

M&Aの最終契約における前提条件とは、契約書に記した条件を満たさなければ、M&Aのクロージングは実行しないと定めるものです。M&Aによる利益を得るためには、記載内容が履行される必要があります。

売り手は各項の事由が充足されているか、買い手は支払い義務を履行することを約束するかなどの条件を記載し、契約内容を実行させるために設定します。

表明保証の期間と範囲

表明保証とは、M&Aの相手に対して契約書の内容が事実であることを表明し保証することです。この保証に違反した際、損害賠償請求や契約解除ができる旨を記載し、簿外債務や保証債務などM&Aの手続き中に発覚した事実以外の債務がないことを表明します。

具体的には、株式譲渡契約書または、事業譲渡契約書の締結日以降に、賃金や時間外労働に対しての未払いがないこと、不正や資産状況、経営成績に悪影響をおよぼすものが生じていないことなどです。権利が侵害されていないこと、その他クレームや合理的に予見される紛争がないことなども保証内容になります。

表明保証を最終契約書に定める場合、表明保証義務違反はM&Aの一定時間経過後に起こりやすいため、表明保証義務期間の有効期限も定めることが必要です。

遵守事項

M&Aの最終契約書における遵守事項とは、売り手または買い手が、M&Aで相手方に対して約束し遵守することをいいます。遵守事項は、M&Aの最終契約書を構成する主要項目です。

M&Aの遵守事項には、一般的に契約書の締結日からクロージング日までの期間中、重要な経営判断や重要な資産の処分を禁止する規定、クロージング後には競業行為を行わない旨を定める競業避止条項や適切に業務を引き継ぐ義務などがあります。

借入金・個人保証・担保について

一般的に買い手は、売り手が対象会社の債権や契約を担保するために負っている保証債務や担保のための抵当権について、買い手の費用と責任で当該保証債務の解消および当該抵当権の解除が必要です。この担保や借入金、個人保証は、条件交渉によってM&A後に引き継ぐかどうかを決めなければなりません。

売り手は、M&A成立後に社長個人における連帯保証の解除と差し入れた社長保有の不動産などにおける担保権を外すよう、最終契約書に「個人保証の解除並びに個人保有不動産の差し入れ担保解除の保証」を要求することが必要です。

このとき、最終契約書には個人保証を解除する時期も定める必要があるので、個人保証を解除する時期はM&Aの当事者間で話し合い、お互いが納得のいく時期に行いましょう。

契約解除条項

M&Aにおいて、重大な表明保証条項の違反が判明した場合、債務不履行として責任追及できます。その具体的な手段は、損害賠償とその他における責任追及です。

表明保証違反により本契約を維持することが困難になった場合は、クロージング前に限り、書面で相手方に通知して契約解除ができるといった条項を記載します。

軽度の表明保証違反である場合は、是正される見込みがあれば催告をして対処させるなど、M&A契約の解除までしなくても責任追及できる条件を記載してください。

役員・従業員の処遇

M&Aの買い手は、全従業員の処遇を決めておく必要があります。これは、M&Aのリスクとしていつも懸念される、優秀な人材の流出にもかかわることで、最終契約書には従業員におけるM&A後の処遇も記載するべきです。

たとえば、売り手における全従業員の雇用を維持すると誓約することや、M&A前の処遇よりよい条件を記載するケースもあります。特に中小企業は従業員が少ないことから、事業のパフォーマンスが社員1人ひとりの実力に依存していることが多いため、重要事項です。

引継ぎの期間・報酬・肩書など

M&A後における役員の処遇や報酬も定めましょう。M&A前の取締役や監査役の辞任がある場合は、その辞任日を記載し、辞任によって発生する退職慰労金の支給額を支払うことを買い手に約束させ、辞任後に事業が円滑に遂行できるよう協力することを約束します。

それ以外における役員の処遇の変更がない場合は、M&A前と同様に役員として引き続き在任する旨を記載しましょう。

会社名義個人資産の扱い

不動産など会社名義の個人資産は、M&Aのクロージング日までに清算しなければなりません。特に事業譲渡の場合は、事業にかかわる賃貸やローンなどで借入がある場合が多いので注意しましょう。

仮に会社名義の個人資産などにおける変更や引継ぎがある場合は、それにしたがって注意事項などを記載する必要があります。

一般条項

一般条項では、M&Aでの法にかかわる基本理念を一般的・抽出的に示します。一定の法的効果を発生させるための要件を具体的に示し、契約上の法律に関する部分の補足を記載します。

一般条項はどのような契約書にも記載するので、M&Aの最終契約書にも書き記す必要があるでしょう。

最終契約書作成のポイント

M&Aの最終契約書は、基本合意契約書の内容をベースにデューデリジェンスの結果を踏まえて、売り手と買い手が条件の最終交渉をして作成されます。

この条件は、基本合意契約書で大筋合意できているので、大きく条件が変わらない限り、もめることはないでしょう。最終契約書では、条件以外にポイントとなる内容(条項)があり、それは以下の4点です。

  • 遵守条項
  • 表明保証事項
  • 前提条項
  • 補償条項

総じてM&Aの最終契約書において重要なのは、うそや偽りがないこと、違反をした場合は損害賠償が発生することを条文の中に織り込むことにあります。

株式譲渡契約の法律に基づく規制のポイント

M&Aにおける株式譲渡契約書の締結に関し、注意しなければならない法令のポイントを挙げておきます。1つ目は「独占禁止法による規制」です。

公正取引委員会への事前届出が必要になるM&Aの場合は、届出が受理された後30日間、原則として株式の取得ができません。これは国内だけでなく海外でも同様の規制があり、該当する株式譲渡契約の場合、契約書の実行条件に入れておく必要があります。

2つ目は「外為法に基づく規制」です。買い手が外国人投資家の場合は、外為法上の対内直接投資家に該当するので、買い手において事前届出や事後届出が必要になります。これに該当する場合は、M&Aの取引実行条件にこの旨を記載しておくことが必要です。

3つ目は「金融商品取引所に関する規制」になります。対象会社が上場企業を含む場合のM&A取引では、相対取引ではなく公開買付け(TOB)による株式取得がメインとなりますが、相対取引によるM&A取引の場合は、インサイダー取引規制に気をつけましょう。

事業譲渡契約書の法律に基づく規制のポイント

事業譲渡契約書では、買い手が当該事業に関する債務を引き受けないと定めた場合、買い手は債務の弁済責任を負いません。ただし、買い手が商号を引き続き使用する場合は、定めた内容にかかわらず債務の弁済責任を負います。

このとき、商号を続用しない場合でも、買い手が事業によって生じた債務を引き受ける広告をした場合は、債務の弁済責任を負うことが必定です。

売り手や買い手が有価証券報告書提出会社である場合、臨時報告書の適時開示や開示規制があり、一定以上の規模における事業譲渡の場合は、独占禁止法の事前届出および30日間の待機期間が必要になります。

【関連】表明保証とは?条項の内容や注意ポイントを解説!違反したらどうなる?
【関連】M&Aの競業避止義務とは?該当事例と注意点を解説!

7. M&Aの基本合意書と意向表明書、最終契約書の違い

この章では、M&Aの基本合意書と意向表明書、最終契約書の違いを見ていきましょう。

意向表明書との違い

意向表明書は、一方的に買収側が売却側へ、買収する意思と希望条件を伝える差入形式で、基本合意書は売却側と買収側が合意して締結する両者押印の形式です。

基本合意書は、一般的に独占交渉権があるので、基本合意書を結ぶと1社の買収側と交渉していきます。しかし、複数の買収側候補者がいる場合は、条件を意向証明書によってそれぞれ示してもらい、交渉していく買収側を決めます。

中小企業のM&Aでも、買収側が上場企業であれば、適時開示義務の関係で意向表明書が生かされるでしょう。

意向表明書は、売却側が秘密保持義務と独占交渉権のみを約束する場合があります。しかし、その他における条件には合意していないため、取引成立の見込みが低いとして適時開示はいらない場合があります。上場企業は意向表明書を活用して交渉を進めることもあるでしょう。

ただし、意向表明書における開示の不要には実質的な判断を伴うので、慎重に検討します。

最終契約書との違い

デューデリジェンスの結果を反映して、最終的に、売却側と買収側が合意した全ての条件を最終契約書に記載します。基本合意書は、条件面に関しては、法的拘束力を付さないケースがほとんどです。

しかし、最終契約書は、法的拘束力を付します。売却側と買収側に契約を実行させるため、違反すれば損害賠償請求ができるようにするためです。

8. M&Aの契約書のひな形・サンプル

M&Aでは、M&Aを始める前から成約するまで、さまざまな契約書があります。M&Aに関する契約書は、サンプルやひな形を使って個人で作ることも可能ですが、基本的に見落としや内容の相違がないように、専門家に作成を依頼するのが一般的です。

ここでは参考のため、株式譲渡契約書と事業譲渡契約書のサンプルを掲載します。

株式譲渡契約書のひな形・サンプル

まずは、株式譲渡契約書のひな形・サンプルです。

株式譲渡契約書のひな形・サンプル

事業譲渡契約書のひな形・サンプル

次に、事業譲渡契約書のひな形・サンプルを紹介します。

事業譲渡契約書のひな形・サンプル
【関連】株式譲渡契約書の作成方法・注意点とは?ひな形利用のリスクも解説!| M&A・事業承継ならM&A総合研究所
【関連】事業譲渡契約書の書き方・注意点を解説!印紙税は?【ひな形あり】

9. M&Aの契約書に関する相談は専門のアドバイザーに

M&Aでは、契約書も含め、さまざまな専門的知識・経験を必要とするプロセスが続きます。それらに自社のみで対応するのは難しく、M&A仲介会社など専門家のサポートを得ながら進めるのが現実的です。

全国における中小企業のM&Aに数多く携わっているM&A総合研究所では、豊富な知識と経験を持つM&Aアドバイザーが相談時から最終契約書の締結・クロージングまで案件をフルサポートします。

通常は10カ月~1年以上かかるとされるM&Aを、最短3カ月でスピード成約する機動力もM&A総合研究所の大きな特徴です。料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談を行っていますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

【関連】M&A・事業承継ならM&A総合研究所
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10. M&Aで用いる契約書まとめ

M&Aの主な契約書である基本合意契約書、最終契約書は、交渉結果が示されるものですが、ただ条件を明示すればよいのではなく、そのほかにも留意して盛り込まなければならない条項が多数あります。

関連するアドバイザリー契約書、秘密保持契約書、意向表明書も、その意義や重要性を十分に理解し、誤った対応をしないことも重要です。

契約書は法令と密接に関連する部分もあり、専門家のサポート抜きでは進めるのが困難でしょう。M&Aの各プロセスをスムーズに、そして自社に有利に進めるためにも、信頼できるM&A仲介会社を選んでください。

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