2022年06月06日更新
SES会社の会社譲渡(株式譲渡)が増える背景とは?事例やメリットを解説
近年、増加傾向にあるSES会社の会社譲渡(株式譲渡)について分析しました。SES会社の会社譲渡(株式譲渡)が盛んである事情、実施する際のメリットや注意点、会社譲渡(株式譲渡)の実際の手順などを解説するとともに事例も掲示します。
目次
1. SES業界で会社譲渡(株式譲渡)が増えている背景
近年、SES(システムエンジニアリングサービス)会社の会社譲渡(株式譲渡)が増えています。
株式譲渡とは、売り手側企業の保有株式を買い手企業に売却するM&Aの手法のことです。
後継者不在のSES会社がM&A・株式譲渡によって事業承継するケースが増えていることと、SES事業を買いたい企業が増えており、その需給の一致は会社譲渡が増えている要因となっています。
特にSES会社の買い手企業増加の背景としてあるのは、以下のような状況です。
- システムエンジニアの人手不足
- 企業のIT投資拡大による売却のしやすさ
- 海外企業による日本のSES会社の買収が増加
それぞれ順番に詳しく確認しましょう。
①システムエンジニアの人手不足
SES事業は、システムエンジニアの数によって売上の大きさが決まります。そこで、SES業界内でエンジニアの取り合いになってしまっているのが現状です。中小企業・中堅企業は、なかなかエンジニアの採用ができず、会社の将来性を見いだせなくなってしまいます。
そのために、会社譲渡を考える経営者が増え、IT業・人材派遣業による買収が多くなっているのです。IT企業と人材派遣企業によるSES会社の買収は、人材確保という側面が大きいといえるでしょう。
IT業では若い技術者が少なく、技術者の養成と確保が直近の課題となっています。したがって、未経験者でも採用し、技術者として育てようとする企業が多いです。
しかし、人材を採用して一から技術者として育てるには、採用や教育のコストと時間がかかります。SES会社を買収することで、ある程度の経験を持った技術者を簡単に確保できます。
人材派遣業は、人材不足解消のためSES会社を買収しています。人材派遣業は、人材の確保を怠れません。
ところが、労働人口の減少などが原因で人材確保は年々、厳しくなっています。そのため、人材派遣業の大企業が、SES会社や人材派遣業の中小企業を買収しています。
このような理由から、SES会社の買収は増えています。人材確保のためSES会社買収は、さらに増える見込みです。
②企業のIT投資拡大による売却のしやすさ
近年、各企業のITに対する投資が拡大しており、SES会社が売却しやすくなっています。
どんな会社でもクラウドやIoTなどが活用されるようになってきました。ITによる業務の効率化はめざましく、社内外の業務にも欠かせないものです。
日本の労働人口が減少していくなかで生き残るためには、できるだけIT化をして人材不足でも乗り越えられるような仕組みを作っていかなければなりません。
また、金融業界やEC業界など、サービス提供にITの欠かせない業界も増えています。そのため、あらゆる業界においてITへの投資が拡大し、それに伴ってシステムエンジニアも必要となっている状態です。
自社でIT事業を設ける企業も増加しており、SES会社をそのまま買収して採用し、自社のシステム構築を任せるケースも増えてきています。このような背景から、SES会社の需要は高まってきていると考えられます。
③海外企業による日本のSES会社の買収が増加
海外企業による日本のSES会社の買収も増加しています。海外企業がSES会社を買収する理由は、優秀な技術者を確保しシステム開発・運用にかかる費用を節約するためです。
海外企業のシステムは規模が大きく、開発や運用を外部に委託すると費用がかかります。そこでSES会社を子会社にすれば、システム開発・運用を任せることができます。
そうすることで、外部委託よりもコストが抑えられます。子会社化することで、外部に委託した場合に考えられる情報漏えいや不具合への対応が遅れる心配もありません。
システム開発・運用のために買収することから、海外企業によるSES会社の買収の条件は技術者のレベルが高いことです。このような海外企業によるSES会社の買収は、今後も増加するでしょう。
2. SES業界の会社譲渡(株式譲渡)の4つの事例
SES業界における会社譲渡(株式譲渡)には、実際にどのような事例があるのでしょうか。
ここで、4つの事例を掲示します。
- デジタル・スパイスによるアルプス技研への会社譲渡
- ネプラスによる夢真ホールディングスへの会社譲渡
- ビクタスによるナレッジスイートへの会社譲渡
- エヌジェイホールディングスによるDELTA Holdingsへの株式譲渡
順番にどのような事例か確認し、会社譲渡を行う際の参考にしてください。
①デジタル・スパイスによるアルプス技研への会社譲渡
売り手企業 | 買い手企業 | |
会社名 | デジタル・スパイス | アルプス技研 |
事業内容 | ソフトウェア開発事業 設計・製造事業 SES事業 |
技術プロジェクト受託事業 SES事業 一般労働者派遣業 |
従業員数 | 56名 | 5,110名(連結) 4,133名(単体) |
目的 | 大手企業に加わる | 事業強化 |
譲渡価額 | 非公表 |
2020(令和2)年7月、デジタル・スパイスはアルプス技研へ全株式の株式譲渡を行い、アルプス技研の完全子会社となりました。なお、譲渡価額は公表されていません。
売り手企業のデジタル・スパイスは、約20年間、ソフトウェア開発やSES事業などを行ってきたなか、宇宙小型探査機の開発に協力した実績も持っています。
買い手企業のアルプス技研は、創業50年超、海外も含めた複数のグループ会社を率いてSES事業を行っている会社です。
アルプス技研としては、デジタル・スパイスが高い技術力を持つプロ集団として評価し、自社グループに加えることでシナジー効果を得て業績も拡大し、相互に企業価値を向上できると判断しました。
②ネプラスによる夢真ホールディングスへの会社譲渡
売り手企業 | 買い手企業 | |
会社名 | ネプラス | 夢真ホールディングス |
事業内容 | ネットワーク機器レンタル事業 SES事業 |
建設技術者派遣事業 SES事業 |
従業員数 | 92名 | 10,499名(連結) |
目的 | 事業の譲渡 | 人材確保 技術力強化 顧客基盤拡大 |
譲渡価格 | 20億9,300万円 |
2018(平成30)年10月、ネプラスは夢真ホールディングスへ会社譲渡しました。譲渡価額は、20億9,300万円です。
売り手企業のネプラスは、ネットワーク機器のレンタル業やSES事業を手掛けています。50名以上のエンジニアは、高度な知識を必要とする上流工程をメインに派遣されており、ベテランが多く在籍している会社です。
買い手企業で建設業とSES業を営む夢真ホールディングスは、この買収によって、若手や未経験者の多い自社のSESを強化したい狙いがあります。また、ネプラスの持つ顧客を取得し、顧客基盤の拡大も買収の目的です。
高額な譲渡価格には、次の2点が大きく影響しています。
- ネプラスが優秀な技術者を上流工程へ派遣していたこと
- 夢真ホールディングスの派遣していない複数の顧客を持っていたこと
SESにとって技術のレベルや顧客は、買い手企業への重要なアピールポイントとなります。SESの会社譲渡を考えるなら、自社の従業員や取引先について見直してみましょう。
③ビクタスによるナレッジスイートへの会社譲渡
売り手企業 | 買い手企業 | |
会社名 | ビクタス | ナレッジスイート |
事業内容 | SES事業 | クラウドソリューション事業 SES事業 |
従業員数 | 45名 | 178名(連結) |
目的 | 事業の譲渡 | 人材確保 育成基盤強化による収益の拡大 |
譲渡価額 | 3億円 |
2018年10月、ビクタスはナレッジスイートへ株式譲渡を行い、ナレッジスイートの子会社となりました。譲渡価額は、3億円です。
売り手企業のビクタスは、SES事業を行っています。買い手企業のナレッジスイートは、営業活動における生産性向上のためのクラウドソリューション事業やSES事業を行っている会社です。
ビクタスの買収後、ナレッジスイートが有する技術者は100名を超えました。ナレッジスイートはビクタスの他、SES事業を行うフジソフトサービスを買収するなど、今後、不足すると予測される技術者の確保を行っています。
このようにナレッジスイートはM&Aを繰り返すことによって、2018年だけで社員数は3倍となり、売上規模も3倍と急成長しました。ナレッジスイートと同じように人材確保のためのSES事業買収は、さらに増えるでしょう。
④エヌジェイホールディングスによるDELTA Holdingsへの株式譲渡
売り手企業 | 買い手企業 | |
会社名 | トーテック(親会社:エヌジェイホールディングス) | DELTA Holdings |
事業内容 | SES事業 | 総合人材派遣事業 |
従業員数 | 162名 | 105名 |
目的 | 人材不足解消 事業価値向上 |
人材確保 |
譲渡価額 | 1億2,600万円 |
2018年7月、エヌジェイホールディングスは、連結子会社であるトーテックの株式70%を、DELTA Holdingsへ株式譲渡しました。譲渡価額は、1億2,600万円です。
売り手企業のエヌジェイホールディングスは、2015(平成27)年、技術者確保のためにSES事業を行うトーテックを買収したものの、人材確保に苦戦していました。今回、トーテック株式を売却することで、事業価値を向上させ人材確保を行いたいと考えています。
買い手企業のDELTA Holdingsは、東北エリアから九州エリアで総合人材派遣業を行う会社です。トーテックを子会社化することにより、人材の確保ができました。
このように株式を全て売却するのではなく一部を売却して、資本業務提携が行えることも株式譲渡の特徴です。今回の買収のようにお互いの人材不足解消など、資本業務提携をすることでパートナー企業による支援が期待できます。
3. SES会社が会社譲渡(株式譲渡)するメリット
ここまでSES業界の会社譲渡(株式譲渡)について、確認してきました。次に、実際に会社譲渡をすると、どのようなメリットを得られるのかについて、見てみましょう。
SES会社の会社譲渡で得られる主なメリットは、以下の3点です。
- システムエンジニアが働きやすくなる
- まとまった資金が手に入る
- 事業承継問題が解決する
順番に確認していきましょう。
①システムエンジニアが働きやすくなる
SES会社を会社譲渡することで、自社で契約しているシステムエンジニアが働きやすくなる可能性があります。
なぜなら、集中してプロジェクトに参加できたり、雇用が安定したりする可能性が高いからです。SES会社はシステムエンジニアの派遣業ですから、システムエンジニアの必要な会社へ派遣されます。
システムエンジニアは必要なときだけ一時的にプロジェクトに参加するので、プロジェクト終了時までメンバーでいることはほとんどなく、仕事をしてもあまり達成感を得られません。また、契約内容もさまざまで『派遣社員』として雇用しているケースも多いでしょう。
しかし、買い手企業によってはシステムエンジニアの働き方が変わります。最初から最後までプロジェクトのメンバーとして参加するなど、正社員としても働けるでしょう。
もちろん、買い手企業によって、どのような働き方になるかは違います。会社譲渡する際は、システムエンジニアの働き方も考慮して買い手企業を選ぶと、システムエンジニアから喜ばれるでしょう。
②まとまった資金が手に入る
会社譲渡をすると、買い手企業から譲渡対価が支払われます。つまり、まとまった資金が手に入るのです。
取引して得た対価は、老後資金に充てたり、他の会社も経営しているならその事業資金に充てたり、新規事業の元手にしたりなど、さまざまな使途に自由に使えます。
③事業承継問題が解決する
会社譲渡(株式譲渡)を行うことで、後継者不在問題を解決できます。中小企業の場合、事業を継ぐ親族が減り、やむなく廃業する企業も少なくありません。しかし、M&Aで会社を譲渡することで、廃業は回避され現金も手に入れられます。
手間もコストも発生する廃業も検討しているなら、その前にM&Aの専門家に相談して、会社を第三者に譲渡する道を模索しましょう。事業を存続でき、従業員の雇用も守れます。
4. SES会社の会社譲渡(株式譲渡)における2つの心配ごと
SES会社の会社譲渡(株式譲渡)を進めるにあたって、契約しているシステムエンジニアや取引先のクライアント・ベンダーの反応が気になると考える経営者もいるでしょう。
確かに、SES会社はシステムエンジニアやクライアント・ベンダーがいるからこそ成り立つ会社です。心配であるなら、事前に不安を払拭しておくべきだといえます。
したがって、システムエンジニアやクライアント・ベンダーの反応を確認しておきましょう。
システムエンジニアの反応
システムエンジニアなどの従業員にとって、会社譲渡は必ずしも悪い結果ではありません。なぜなら、システムエンジニアは安心・安定を求めていることが多いからです。
大手会社の傘下になったり、大手会社のIT事業を任されたりすることで、今よりもよい労働環境になることが予想されます。
長時間労働問題が解消されるなど待遇がよくなるのであれば、システムエンジニアたちも喜んで会社譲渡を受け入れるでしょう。
クライアント・ベンダーの反応
クライアント・ベンダーは、あまり会社譲渡について気にしないことが多いでしょう。
IT業界では、頻繁に会社譲渡や事業譲渡が行われています。そのため、会社譲渡は珍しくありません。
ただし、会社譲渡によってサービス提供の内容が変わったり、サービス提供ができなくなったりするのであれば、早めにお伝えする必要があります。
クライアントがエンジニア派遣を頼りにしていたのであれば、急に「派遣料が上がった」「派遣できなくなった」などという事態になれば困るはずです。
つまり、買い手企業のグループ会社によって人材を補填してもらったり、クライアントに別のSES会社を探してもらったりしなければなりません
しかしながら、IT業界における会社譲渡はよくあることです。したがって、非難される心配はないでしょう。
情報を解禁してよいタイミングで、早めに会社譲渡の事実を伝えることが最大の対応といえます。
5. SES会社の会社譲渡(株式譲渡)の流れ
さて、ここでは、より具体的にSES会社の会社譲渡(株式譲渡)をする際の手順について解説します。
SES会社を会社譲渡するときのプロセスは、準備を含めて大体、以下のような流れです。
- 会社譲渡の準備
- M&A仲介会社とアドバイザリー契約
- 相手企業の選定と交渉
- 基本合意契約の締結
- デューデリジェンス(企業の監査)の対応
- 株式譲渡契約の締結
- 株式名簿の書き換え・証明書の交付請求
- 統合作業(PMI)
事前に流れを把握しておくことで、スピーディーに会社譲渡を実行できます。詳しく確認していきましょう。
①会社譲渡の準備
まずは、SES会社を会社譲渡する準備を始めましょう。準備をするときには、以下のようなことを洗い出します。
- 会社譲渡の目的
- 譲渡先の企業像
- 譲渡完了したい日
- 譲渡にかけられる費用・期間
- アピールポイント
- 従業員のスキル・年齢・給与・派遣先・単価
- 取引先
- 現在の収益
- 今後の収益予想
- 経営上の問題点
SES会社は売り手市場です。そのため、さまざまな会社から「買収したい」と手が上がるでしょう。しかし、会社譲渡の目的をはっきりさせ、目的にあった譲渡先を選ばなければなりません。
たとえば、より会社を拡大したいのであればブランド力のある同業者がおすすめです。一方、システムエンジニアの労働環境をよくするためには、大企業の傘下に入って資金力をつけたり、IT部門の一員として働いたりすることを目指すべきでしょう。
このように会社譲渡の目的と、目的にあった譲渡先の企業像を明確にしておくべきです。
これらが決まったら、スケジュールや自社の特徴、事業の強みを洗い出してまとめておきます。そうすることで、買い手企業の候補にアピールしやすくなるはずです。
経営者1人で行うのではなく、社内のキーパーソンと一緒に準備をしていきましょう。
②M&A仲介会社とアドバイザリー契約
社内での準備が調ったら、M&A仲介会社とアドバイザリー契約を結びましょう。
M&A仲介会社は、スペシャリストにより会社譲渡のサポート業務を行ってくれます。アドバイザリー契約を結ぶことで、本格的に業務を依頼することとなります。
M&Aの仲介業務は銀行などの金融機関や、弁護士などの専門家にも依頼できますが、最終的にはM&A仲介会社と連携をしたり、紹介されるケースも多いです。
状況によっては、最初からM&A仲介会社に依頼したほうがスピーディーな会社譲渡が実現可能になります。
SES会社のM&Aをご検討の際は、ぜひM&A総合研究所にご相談ください。M&A総合研究所では、知識・実績のあるM&Aアドバイザーが専任となって、SES会社の会社譲渡をフルサポートします。
料金体系は完全成功報酬制(譲渡企業様のみ)となっており、着手金は譲渡企業様・譲受企業様ともに無料ですので、安心してご相談いただけます。
③相手企業の選定と交渉
続いて、相手企業の選定と交渉を行っていきましょう。
相手企業の選定は、M&A仲介会社が行ってくれる業務です。社内で決めた会社譲渡の目的や譲渡先の理想像を伝えることで、条件に合う会社をピックアップしてくれます。
自分たちでは思いつかなかったような業種の会社を提案されることが、あるかもしれません。その場合、頭から否定せず、メリット・デメリットをよく聞いて他の候補と比較をすべきです。
気になる会社があれば、M&A仲介会社を通してアプローチをしていきます。このとき、名前を伏せた会社の概要書(ノンネムシート)を送ることになりますが、魅力点をしっかりとアピールしましょう。
相手企業が前向きに買収したいと意思表明したら、初めて面談を行います。まずは、お互いを知ることから始め、徐々に具体的な譲渡条件について話していきましょう。
このとき、システムエンジニアの働き方や待遇がどのように変わるのか必ずチェックをしてください。システムエンジニアの労働環境や待遇がよくならなければ、会社譲渡をきっかけに離職してしまう恐れがあります。
必ず確認してから、基本合意契約を結びましょう。
④基本合意契約の締結
交渉で譲渡条件やスケジュールがまとまってきたら、基本合意契約の締結を行いましょう。
基本合意契約とは、売り手企業と買い手企業が話し合って決めた内容で合意を取る契約です。基本合意契約書には、次のような内容を記載します。
- 取引方法
- 譲渡価額
- 今後のスケジュール
- デューデリジェンスの協力義務
- 独占交渉権の付与
- その他諸条件
署名・捺印をする前に、話し合った条件が反映されているのかを確認しましょう。
基本合意契約には、法的拘束は発生しません。しかし、この後に行われるデューデリジェンスで問題がなければ、ほとんど会社譲渡は決まったようなものです。
また、ここで約束した内容よりも最終的に条件がよくなることは、ほとんどありません。できるだけよい条件を提示してくれた相手と契約を締結するようにしましょう。
⑤デューデリジェンス(企業の監査)の対応
基本合意契約統合作業の締結後は、買い手企業によるデューデリジェンスへの対応を行いましょう。
デューデリジェンスとは、買い手企業による売り手企業の最終調査のことです。経営や財務状況、人事など、あらゆることを調べられます。
このとき、買い手企業から、さまざまな資料の提出が求められるでしょう。専門家の力を借りながら、丁寧に対応すべきです。
特にSES会社のデューデリジェンスでは、システムエンジニアの能力や経歴、契約状況などを詳しく確認されます。なぜならば、SES会社の最大の資産はシステムエンジニアだからです。
できるだけ詳しい内容を記載したリストを作成し、買い手企業へ渡しましょう。
⑥株式譲渡契約の締結
デューデリジェンスの後、最終的な条件調整を行ったうえで、株式譲渡契約を締結しましょう。
株式譲渡契約は、一度契約してしまうと撤回できません。したがって、必ず弁護士やM&A仲介会社などの専門家に内容の確認をしてもらいましょう。
もしかすると、基本合意契約のときよりも譲渡価額が下がっているかもしれません。これは、デューデリジェンスの結果を受けて、マイナス面があったということが示されています。
納得のいくよう、譲渡価額の根拠を説明してもらうことも忘れないようにしてください。ほかにも条件が変わっている可能性もあるので、必ず内容を詳しくチェックし納得したうえで株式譲渡契約を結びましょう。
⑦株式名簿の書き換え・証明書の交付請求
株式譲渡契約を結んだ後は、後日、株式名簿の書き換えや証明書の交付請求を行います。
株式譲渡契約を結んだからといって、会社の経営者が自動的に変わるわけではありません。株式名簿の名前を買い手企業に変えるため、会社に対して株式名簿の書き換え請求を行うのです。
また、株式名簿が書き換わったことを証明するためにも、株主名簿記載事項証明書を発行しましょう。
⑧統合作業(PMI)
最後に、買い手企業と売り手企業の統合作業を行います。統合作業(PMI=Post Merger Integration)とは、M&A後に売り手側企業の社内システムを買い手側企業に統合していくプロセスのことです。
具体的には、会社の経営者が変わることで発生する、従業員やシステムエンジニアの労働環境の変化をサポートします。
買い手企業によっては、行う業務が変わるシステムエンジニアもいるでしょう。そういった業務や、社内で使うシステムや社風に慣らしていかなければ、「働きにくい」と感じさせてしまいます。
せっかく会社譲渡をしたのに、「働きづらい」と感じさせて離職させることはもったいないです。しっかりと売り手企業の経営者もサポートを行い、働きやすい環境を提供しましょう。
以上が、SES会社の会社譲渡の8つの流れでした。
M&Aの手続きは専門的なことも多く、自社内だけでここまでの手続きを行うことは難しいでしょう。M&A仲介会社と契約し、サポートしてもらうことでスムーズな会社譲渡を実現できます。
6. SES会社の会社譲渡(株式譲渡)を成功させる4つのポイント
最後に、SES会社の会社譲渡(株式譲渡)を成功させるためのポイントを確認しておきましょう。
- ホワイト企業を買い手企業に選ぶ
- システムエンジニアの評価を適切に行う
- 離職の少ない環境を整える
- SES業界に精通したM&A仲介会社に相談する
以上、4点について、それぞれ説明します。
①ホワイト企業を買い手企業に選ぶ
必ず、ホワイト企業を買い手企業に選びましょう。
会社譲渡を考えているSES会社の多くは、労働問題や人材不足に課題を抱えています。それらの課題を解決するためには、ホワイト企業へ譲渡しなければなりません。
会社譲渡をするときは、必ず買い手企業の情報もしっかりと調査しましょう。転職の口コミサイトを見たり、通常の求人情報を見たりすることで、労働環境が見えてきます。
買い手企業の見極めを間違えてしまうと、システムエンジニアがひどい待遇を受けることになりかねません。自社のシステムエンジニアを守るためにも、しっかりと調査したうえで買い手企業を選びましょう。
②システムエンジニアの評価を適切に行う
システムエンジニアの評価を適切に行いましょう。
SES会社にとっての最大の資産は、システムエンジニアの質と数です。買い手企業は、システムエンジニアを確保するためにSES会社を買収します。
そのため、買い手企業はどのようなシステムエンジニアと契約しているのかをできるだけ知りたいと考えているのです。優秀なシステムエンジニアが多ければ多いほど、会社譲渡の対価は高くなるでしょう。
評価をしてもらうためには、以下のような内容を個人ごとにまとめておくべきです。
- 年齢
- 過去の経歴や実績
- 年収
- 1人あたりの利益額
- 可能な勤務体系(夜間対応可能など)
これらをまとめておき、客観的な評価ができるように準備しておきましょう。
③離職の少ない環境を整える
離職の少ない環境に整えましょう。
残念なことにSES会社はブラック業界と呼ばれてしまうケースもあり、離職率が高い会社が多いことが問題です。離職率の高い企業を、買い手企業も買収したくありません。
また、離職率が高いことを理由に、譲渡価額を引き下げてくる可能性もあります。そのため、離職率を譲渡までに下げるようにしましょう。
離職率を下げるには、従業員の労働環境を改善してください。なぜなら、リクナビNEXTの調査によると、以下のように離職する理由の1位と3位が人間関係であるなか、労働環境が2位に入っているからです。
1位:上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった(23%)
2位:労働時間・環境が不満だった(14%)
3位:同僚・先輩・後輩とうまくいかなかった(13%)
4位:給与が低かった(12%)
5位:仕事内容が面白くなかった(9%)
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人間関係を、すぐに解決することは難しいでしょう。しかし、企業として離職率を下げるため、従業員の働く環境を見直すことは可能なはずです。
従業員の労働時間、残業時間、現場の環境をしっかりと把握して、改善するよう努力してください。
④SES業界に精通したM&A仲介会社に相談する
SES業界やIT業界に精通したM&A仲介会社に相談しましょう。
なぜなら、IT業界の価値は、システムエンジニアの持つ技術力や数で決まるからです。しかし、それを正当に評価できるM&A仲介会社は、あまり多くありません。
IT以外の会社であれば、会社の持っている資産が大きいので、時価に直すことである程度の譲渡価額になるでしょう。しかし、SES業界では、システムエンジニアの持つ技術力を金額に換算しなければならないのです。
システムエンジニアの価値は、単純な利益額で決まるわけではありません。年齢(これから働き続けられるか否か)や技術の希少性(扱える人が多いか少ないか)なども、譲渡価額に反映されなければならないからです。
したがって、SES業界に精通していなければ、自社を安い価額で売却しようとしたり、価値が低いと判断されたりなど、よいとはいえない買い手候補を紹介されてしまうことになるでしょう。
SES会社を適切に評価してもらい、よりよい買い手候補を紹介してもらうためにも、必ずSES業界に精通したM&A仲介会社に相談しましょう。
もし、「どこに相談すべきかわからない」とお悩みであれば、M&A総合研究所にご相談ください。M&A総合研究所であればSESやIT業界に精通しており、買い手情報も多く持っています。
また、通常は10カ月~1年以上かかるとされるM&Aを、最短3カ月でスピード成約した実績を有するなど機動力もM&A総合研究所の大きな特徴です。
料金システムは、完全成功報酬制(※譲渡企業様のみ)です。無料相談を受けつけておりますので、SES会社の会社譲渡を検討される際には、お手軽にお問い合わせください。
7. まとめ
SES会社の会社譲渡は需要があり、今後も伸びていくでしょう。
そして、実際に会社譲渡を実施する際には、しっかり買い手企業と交渉し、システムエンジニアをアピールすることが大切です。
よい条件で取引するには、必ずSES業界に精通したM&A仲介会社にサポートを依頼しましょう。
8. SES業界の成約事例一覧
9. SES業界のM&A案件一覧
【至急案件/助成金の活用可能】東海地方のデータ分析関連事業
IT・ソフトウェア/SES・受託開発/調査・コンサルティング/中部・北陸案件ID:2340公開日:2024年10月21日売上高
1億円〜2.5億円
営業利益
1000万円〜5000万円
譲渡希望価格
2.5億円〜5億円
データ分析関連事業 (データサイエンティスト育成・データ分析の受託・データ分析人材の派遣)
システム開発・ソフトウエア業【SaaS系PMツール(業務・プロジェクト管理)】
IT・ソフトウェア/SES・受託開発/関東・甲信越案件ID:2249公開日:2024年09月13日売上高
1000万円〜5000万円
営業利益
赤字経営
譲渡希望価格
応相談
SaaS系PMツールを利用企業様へサービスを提供しております。 導入企業様から月額報酬を頂戴し運営をしております。
【自社エンジニア多数在籍】首都圏/SES業
IT・ソフトウェア/SES・受託開発/関東・甲信越案件ID:2226公開日:2024年09月09日売上高
2.5億円〜5億円
営業利益
1000万円〜5000万円
譲渡希望価格
1億円〜2.5億円
・大手企業をエンドユーザーとしてSES業を展開
【技術者30名以上】都内のSES・ソフトウェア受託開発業
IT・ソフトウェア/SES・受託開発/関東・甲信越案件ID:2187公開日:2024年08月26日売上高
2.5億円〜5億円
営業利益
赤字経営
譲渡希望価格
応相談
都内にてSES・ソフトウェアの受託開発を手掛ける企業でございます。 業歴長く、大手先との取引もございます。
【全国で導入実績あり】システム受託開発、介護保険システム保守・運用業
IT・ソフトウェア/SES・受託開発/介護・福祉・医療/中部・北陸案件ID:2102公開日:2024年08月01日売上高
5000万円〜1億円
営業利益
〜1000万円
譲渡希望価格
1000万円〜5000万円
システム受託開発事業 SES事業
【マレーシア】ソフトウェア開発・ITソリューションプロバイダー
IT・ソフトウェア/SES・受託開発/海外案件ID:2100公開日:2024年07月30日売上高
10億円〜25億円
営業利益
2.5億円〜5億円
譲渡希望価格
15億円〜20億円
業歴30年以上の老舗ITソリューションプロバイダーで、特許取得済みのHCM及びITソリューションのパッケージ製造と販売を行っています。
【EBITDA 45億円/システム開発】世界68か国に顧客基盤のある電磁波IDシステム開発
IT・ソフトウェア/SES・受託開発/工業製品製造/海外案件ID:2013公開日:2024年07月04日売上高
500億円〜
営業利益
25億円〜50億円
譲渡希望価格
希望なし
半導体メーカー向けにRFID棟の技術製品を開発販売しております。
【技術力◎/圧倒的な開発実績】セキュリティシステム開発業
IT・ソフトウェア/SES・受託開発/ウェブサイト/関東・甲信越案件ID:1866公開日:2024年05月16日売上高
1000万円〜5000万円
営業利益
非公開
譲渡希望価格
5億円以上(応相談)
サイバーセキュリティコンサルティング・システム開発業 開発フェーズが終了し、取引先の拡大のフェーズに突入 過去大手金融機関との取引実績もあり今後更なる事業の拡大が見込める
【確かな技術と顧客基盤】ITインフラ構築
IT・ソフトウェア/SES・受託開発/金融・リース・レンタル/海外案件ID:1610公開日:2024年02月15日売上高
25億円〜50億円
営業利益
1000万円〜5000万円
譲渡希望価格
希望なし
ITインフラ構築、セキュリティ、ブロックチェーンなどの実装、保守、メンテナンス
【将来性大】SES向けプラットフォーム開発
IT・ソフトウェア/SES・受託開発/関東・甲信越案件ID:1505公開日:2023年12月28日売上高
〜1000万円
営業利益
非公開
譲渡希望価格
希望なし
SES向けプラットフォーム事業を展開 ・23年11月よりシステムリリース ・現在、50社程度が登録を検討中 ・24年6月決算時点では約100社登録を想定している(月20社程度の登録)
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