2023年06月05日更新
事業承継税制における贈与税とは?制度・免除・計算法を一挙紹介!
事業承継を行う際は、株式や会社を引き継ぐ際の贈与税による後継者への負担を念頭に入れなければなりません。本記事では、贈与税の計算や節約の方法、免除措置の条件などについて解説します。贈与税について十分な知識を持っておくことは、手続きの円滑化と譲渡先から信頼を得るためにも必要です。
目次
1. 事業承継税制とは
会社や事業を長く存続させるためには、適切なタイミングで事業承継を実施する必要があります。しかし、承継時に課される相続税・贈与税が重荷になって事業承継に二の足を踏んでしまうこともあるでしょう。
事実、多くの中小企業・個人事業主が事業承継問題を抱えており、経済産業省や中小企業庁の試算によると、2025年までに約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる見通しです。
そこで、滞る事業承継を円滑化する目的で事業承継税制の制度が制定されました。この章では、事業承継税制の概要や平成30年の改正内容について詳しく解説します。
制度の概要
事業承継税制とは、事業承継に課される相続税・贈与税を猶予する制度です。本来であれば、事業承継の資産引き継ぎの際に相応の税金を納める義務が課されますが、経営承継円滑化法により都道府県知事の認定を受けることで税金負担を抑えられます。
法人の株式を対象とする法人版と、個人事業主の事業用資産を対象とする個人事業版があります。中小企業を中心に事業承継問題の深刻化による日本経済に与える影響が大きいと認識されたことで、中小企業・個人事業主に向けた事業承継税制が制定されました。
猶予とはあくまで一時的な措置ですが、猶予された税金は将来的に免除されることが前提です。認定を受けた後も一定期間に渡って特定の要件を満たし続けることで、猶予措置を受けた税金の免除措置を受けられます。
平成30年度の改正について
事業承継税制は平成21年に制定された制度ですが、深刻化する事業承継問題を背景に平成30年に大幅な改正が行われています。後継者人数や猶予対象の株式制限など要件の緩和が行われ、多くの経営者が活用できる便利な制度になりました。
改正内容の適用期限は永久的ではなく、平成30年の改正から5年以内に承継計画を提出し、10年以内に事業承継を実行する経営者が対象といった限定的な措置が取られています。
なぜ改正が行われたか?改正の目的とは
事業承継税制は、中小企業・個人事業主にかかる税金負担を軽くする目的で、平成21年に制定された制度ですが、事後要件のハードルが高いことが問題視されていました。
平成25年、平成27年、平成29年に見直しが行われていますが、一部要件が緩和されたものの依然として利用件数は限定的であり、各都道府県が公表している認定件数によると、制定された平成21年から平成28年度末までの約8年間で認定を受けた法人・事業者は累計1,965件です。
事業承継税制を多くの経営者に利用してもらうためには、適格要件のハードルを大幅に引き下げる必要があると判断され、平成30年度の大幅改正が実施されました。
2. 事業承継税制による事業承継の贈与税の猶予・免除とは
事業承継税制を活用すると税金負担を軽くできますが、実際に認定を受けるとどのような措置を受けられるのでしょうか。この章では、事業承継における贈与税の猶予・免除の措置内容や具体的な手続きを解説します。
事業承継の贈与税の猶予・免除について
事業承継税制における贈与税の猶予とは、事業承継に課される贈与税の課税タイミングについて先延ばしすることを意味します。一定の要件を満たす形で事業承継が実施されると、贈与税の支払いを遅らせることが可能です。
経営資源に限りがある中小企業は、事業承継時の贈与税が負担になって事業資金が枯渇してしまうケースも少なくありません。あくまでも一時的な措置ですが、余計な出費を抑えられるので、猶予の意味合いはとても大きいでしょう。
事業承継税制における贈与税の免除とは、認定を受けて猶予されていた贈与税の納税義務が消滅することを意味し、認定を受けた後も要件を満たし続けることで免除措置を受けられます。
猶予措置を受けた段階では、一部要件を満たせなくなるなどの事由が発生すると納税義務が復活することもありますが、免除措置を受けると完全に納税義務が消滅し、贈与税を払わなくてよくなります。
贈与税が免除される仕組み
ここで、贈与税が免除される仕組みを見ていきましょう。まず、先代経営者により後継者が自社株式を贈与されます。特例事業承継税制を用いれば、贈与税が納税猶予されますが、この段階ではまだ免除ではありません。
先代経営者が亡くなれば、猶予されていた贈与税が免除されます。 ただし、この特例で得た自社株式は、先代経営者が亡くなると、相続で得たとみなされ、贈与時の評価額で他の相続財産と合わせた続税の課税対象になるでしょう。
後継者が亡くなるか、次の後継者へ贈与税の特例事業承継税制を用いて株式を贈与すると、納税が免除されます。
相続税も免除される
贈与税だけでなく、相続税が免除される仕組みも紹介します。先代経営者が亡くなった場合、後継者が自社株式を相続し特例事業承継税制を用いれば、相続税が納税猶予となります。この段階ではまだ免除ではなく、後継者が死亡すると納税が免除されるでしょう。
次の後継者へ特例事業承継税制を用いて株式を贈与しても、納税は免除されます。
事業承継の贈与税の猶予・免除の手続き
非上場の株式などに関する贈与税の猶予措置を適用させるためには、都道府県知事の認定や税務署への申告手続きが必要です。贈与税の猶予・免除を受けるまでの主な流れは以下になります。
【事業承継の贈与税の猶予・免除の手続き】
- 特例承継計画の作成・提出
- 代表者の交代
- 都道府県知事に認定申請
- 税務署に贈与税の申告
- 免除措置を受けるまで報告書などを提出
①特例承継計画の作成・提出
平成30年度に改正された事業承継税制の特例措置を受けるには、特例承継計画の作成・提出が必要です。後継者や事業承継までの全体の見とおし、承継後の事業計画などを記載したもので、2018年4月1日から2023年3月31日までに提出しなくてはなりません。
特例承継計画の作成は、政府から認定されている支援機関の指導・助言が必須とされています。税理士や商工会など、政府が認定している支援機関の協力のもと、正しい手順を追って作成されたものでなければ、確認・認定を受けられません。
株式などの承継までに計画書の提出が間に合わなかった場合、都道府県に認定申請を行う際に合わせて提出する形でも可能です。綿密に計画を練る必要があるので早期に着手することが望ましいですが、提出自体は多少前後しても問題ありません。
②代表者の交代
都道府県知事からの確認を受けたら、代表者の交代を実施します。株式などを贈与して、現経営者の退任と後継者の新たな経営者への就任を行います。
贈与税における猶予措置の認定を受ける前なので不安かもしれませんが、認定申請をする前に株式などの贈与を済ませなくてはなりません。
③都道府県知事に認定申請
株式などの贈与を行い経営者の交代が完了したら、都道府県知事に認定申請を行います。申請内容の厳正な審査が行われ、認定を受けると「認定書」が発行されるでしょう。
申請期限は贈与が行われた年の10月15日~翌年1月15日までです。県によっては認定の申請から認定書の発行までに2カ月前後の期間を要する場合もあるので、贈与税の申告に間に合うように余裕をもって申告しましょう。
④税務署に贈与税の申告
贈与した翌年の2月1日~3月15日までに税務署へ贈与税の申告を行います。申告漏れがあると脱税を指摘される恐れもあるので、忘れずに申告しておきましょう。
猶予措置を受けるために税務署に担保提供も行います。この場合、担保として提供できる資産は以下です。
【担保として提供できる資産】
- 納税猶予の対象となる認定承継会社の特例非上場株式など全部(譲渡制限株式であっても担保として提供できる資産として扱われる)
- 不動産、国債・地方債
- 税務署長が確実と認める有価証券
- 税務署長が確実と認める保証人の保証など
有価証券や不動産など換金性の高い資産以外に、贈与した自社株を担保にすることが可能です。中小企業の非公開株式は流動性が低く換金性も悪いため、自社株を担保にするケースが多くなっています。
担保提供では猶予措置を受けた贈与税、および利子税の総額に相当することが必要ですが、自社株を担保としている場合に限り、総額に満たない場合でも必要担保額の提供が行われたとみなされます。
⑤免除措置を受けるまで報告書等を提出
税務署への申告を終えた段階で、贈与税の猶予措置を受けられましたが、認定を受けてから数年間は定期的に各機関へ報告書を提出し続けなくてはなりません。
贈与税の申告期限から5年間は、都道府県知事に対しては特例承継計画に関する報告書、税務署に対しては継続届出書を毎年提出します。5年経過後も各機関に対して引き続き書類を提出する必要があるので、スケジュールの確認が大切です。
3. 事業承継税制による事業承継の贈与税の猶予・免除の内容
事業承継税制は、法人だけでなく個人事業主も活用できます。この章では、法人が利用する場合の要件、個人事業主が利用する場合の条件、猶予・免除の手続きを見ていきましょう。
法人の事業承継税制
法人は特例措置と一般措置の2つに分かれます。下表は従来の制度である一般措置と平成30年改正以降の特例措置を比較したものです。
特例措置 | 一般措置 | |
事前の計画策定など | 5年以内の計画の提出 (平成30年4月1日~令和5年3月31日) |
不要 |
適用期限 | 10年以内の贈与 (平成30年1月1日~令和9年12月31日) |
なし |
対象株数 | 全株式 | 総株式数の 最大3分の2まで |
納税猶予割合 | 100% | 贈与100% 相続80% |
承継パターン | 複数株主から最大3人の後継者 | 複数株主から 1人の後継者 |
雇用確保要件 | 現行制度の弾力化 | 承継後5年間は 平均8割の雇用維持 |
事業継続が難しい 事由が生じた際の免除 |
あり | なし |
相続時精算課税の適用 | 60歳以上の者から 20歳以上の者への贈与 |
60歳以上の者から 20歳以上の推定相続人・孫への贈与 |
特例措置
現在は、特例措置の適用期間中であるため、各要件が緩和された特例措置を活用できます。
一般措置との大きな違いは、納税猶予措置の対象株数が全株式となったことです。従来では最大3分の2までだったため、贈与税の全額猶予措置を受けられませんでしたが、改正後は承継する全ての株式を対象にできます。
雇用確保案件の弾力化は、一般措置で定められている雇用確保案件を満たせなかった場合でも、引き続き贈与税の納税義務が猶予されるものです。
ただし、政府から認定を受けている機関における所見などの記載がある報告書を都道府県知事へ、当該報告書および確認書を管轄の税務署に提出しなくてはなりません。
さまざまなメリットがありますが、計画の提出が義務化されている点には注意が必要です。政府が認める士業事務所や商工会などの機関における指導・助言を受けて作成した計画を、都道府県知事に提出して認定を受ける必要があります。
一般措置
平成30年の改正以前は一般措置のみ使用可能でした。改正後と比較すると各要件のハードルが高くなっており、制定から約8年間経過しても累計の適用件数は限定的です。
改正後と比較した際のメリットとしては、事前の計画策定や適用期限が定められていないことが挙げられ、計画の作成・提出をすることなく適用できます。
ただし、対象株式数をはじめとした各要件を比較するとデメリットが多いため、適用期限である令和9年12月31日までに贈与を実施する予定がある場合は、よほどの理由がない限り特例措置を利用するほうが得策です。
法人の事業承継税制の条件
中小企業基本法で規定の中小企業であることが、対象会社の条件になります。以下の要件を満たさなければなりません。
- 上場会社でない
- 風俗営業会社でない
- 1名以上の従業員が在籍
- 資産管理会社でない(一定要件を満たすものは除く)
中小企業に該当する会社は、業種によって資本金や従業員数が異なりますが、どちらかを満たせばよいです。
個人事業の事業承継税制
度重なる改正を繰り返して要件の緩和や対象の拡大がされましたが、いずれも法人に限定されていました。しかし、平成31年度の改正により個人版が導入され、対象範囲は個人事業主まで拡大されています。
法人版(特例措置) | 個人版 | |
事前の計画策定など | 5年以内の計画の提出 (平成30年4月1日~令和5年3月31日) |
5年以内の計画の提出 (平成31年4月1日~令和6年3月31日) |
適用期限 | 10年以内の贈与 (平成30年1月1日~令和9年12月31日) |
10年以内の贈与 (平成31年1月1日~令和10年12月31日) |
対象資産 | 非上場株式など | 特定事業用資産 |
納税猶予割合 | 100% | 100% |
承継パターン | 複数株主から最大3人の後継者 | 原則、1人の後継者 |
贈与要件 | 一定以上の株式などの贈与 | 特定事業用資産の 全てを贈与すること |
雇用確保要件 | あり | 雇用要件なし |
事業継続が難しい 事由が生じた際の免除 |
あり | あり (後継者が重度障害などの場合は免除) |
円滑化法認定の 有効期限 |
最初の申告期限の 翌日から5年間 |
最初の認定の 翌日から2年間 |
個人版事業承継税制の条件
個人の事業承継が法人の事業承継と大きく異なる点は、課税対象が事業用資産である点です。下記の条件を満たし認定を受けることで、事業用資産に課税される贈与税の猶予を受けられます。
【個人版事業承継税制の条件】
- 当該事業にかかる特例事業用資産などの全てについて贈与を受けていること
- 正規の簿記の原則に従い帳簿書類を備え付け、青色申告を行っていること
後継者の条件
事業承継税制を利用する場合に適用される後継者の条件を紹介します。まずは、贈与税の納税という点から考えることが必要です。
贈与税の納税猶予を受ける場合
事業承継税制の贈与税の納税猶予・免除を受けるには、後継者がいくつかの要件を満たす必要があります。具体的には、「会社の代表者であること」「20歳以上で、贈与の直前において「3年以上役員」であること」「後継者およびその同族関係者が保有する株式が50%を超えること」「後継者が同族関係者の中で筆頭株主であること」「相続により取得した株式を1株も譲渡せず、継続して保有すること」です。
これらの要件を全部満たすことで、後継者は贈与税の納税猶予を受けることができます。この制度を活用することで、後継者は贈与税を納付することなく、事業を引き継ぐことが可能です。
ただし、後継者が要件を満たさなくなった場合は、贈与税の納税猶予・免除の適用が取り消される可能性があるため、注意が必要です。
先代経営者の条件
事業承継税制を利用する場合に適用される先代経営者の条件を紹介します。継承者と同じく、納税という点から確認します。
贈与税の納税猶予を受ける場合
事業承継税制において、後継者が贈与税の納税猶予を受けるためには、先代経営者にも要件があります。具体的には、会社の代表者であったこと、先代経営者およびその同族関係者が保有する株式が50%を超えること、そして先代経営者が同族関係者の中で筆頭株主であることが必要です。
なお、先代経営者は贈与までに代表権を返上する必要があります。先代経営者の条件を満たすことで、後継者は贈与税の納税猶予を受けることができ、事業承継に伴う負担を軽減することができます。
ただし、先代経営者が相続の場合は、この条件は適用されません。
相続税の納税猶予を受ける場合
相続税においても、事業承継税制の納税猶予を受けることが可能です。その場合、先代経営者が相続税納税前に会社の代表者であったこと、先代経営者やその同族関係者が保有する株式が50%を超えていること、先代経営者が同族関係者の中で筆頭株主であることが条件となります。
ただし、相続税においては、納税猶予の期間は贈与税の場合よりも短い5年間です。また、相続税においても、納税猶予を受ける場合は、その後継者が引き続き会社を経営し、事業承継税制の目的である「事業の継続」が果たされることが求められます。
特定事業用資産とは
特定事業用資産とは、事業にかかる資産のことで、贈与が行われた年の前年分における事業所得にかかる青色申告書の貸借対照表に計上されていた資産をいいます。
【特定事業用資産】
- 宅地など(400平方メートルまで)
- 建物(床面積800平方メートルまで)
- 固定資産税の課税対象とされているもの
- 自動車税・軽自動車税の営業用の標準税率が適用されるもの
- その他一定のもの(貨物運送用など一定の自動車、乳牛・果樹などの生物、特許権などの無形固定資産)
個人の事業用資産における贈与税の納税猶予・免除の流れ
特定事業用資産の納税猶予・免除措置を受けるには、一定の要件を達成していることに関して承認を受けなくてはなりません。贈与税の猶予・免除を受けるまでの基本的な流れは以下です。
【個人の事業用資産の納税猶予措置を受けるまでの手続き】
- 個人事業承継計画の提出
- 贈与
- 都道府県知事に認定申請
- 開業届出書の提出・青色申告の承認・申告書の提出
- 免除措置を受けるまで報告書を提出
①個人事業承継計画の提出
先代事業者の事業承継にあたり、具体性のある計画を記した「個人事業承継計画」を策定します。
計画書は政府からの承認を受けている機関からの所見を記載したうえで、令和6年3月31日までに都道府県知事に提出して確認を受けます。
②贈与
本制度を活用して猶予措置を受けるためには、先代が事業に供していた全ての事業用資産における贈与を受けなければなりません。適用期限は法人版から丸々1年ずれており、平成31年1月1日から令和10年12月31日です。
③都道府県知事に認定申請
都道府県知事に認定申請をして、円滑化法に基づき認定を行ってもらいます。贈与が実施された年の翌年の1月15日までに行わなくてはなりません。
④開業届出書の提出・青色申告の承認・申告書の提出
贈与日から1カ月以内に開業届出書、2カ月以内に青色申告の承認申請書を税務署に提出します。贈与を受ける以前から他の業務を行っている場合は、青色申告しようとする年分をその年の3月15日までに申請しなくてはなりません。
適用を受けるために申告書を税務署に提出します。贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までに、管轄の税務署に申告しましょう。
⑤免除措置を受けるまで報告書を提出
贈与税の猶予対象になった特定事業用資産は、引き続き保有することで納税の猶予が継続されます。定期的に行う報告は、3年おきに継続届出書に一定の書類を添えて提出する形となります。
定期的に行う報告は、以下における一定の事由が生じると要件が満たせなくなったと判断され、贈与税を納付しなくてはなりません。
- 事業を廃止した場合
- 資産管理事業または性風俗関連特殊営業に該当した場合
- 特定事業用資産に関連する事業に関して、その年のその事業にかかる事業所得の総収入金額がゼロとなった場合
- 青色申告の承認が取り消された場合
4. 事業承継税制による事業承継の贈与税の猶予・免除の計算例
事業承継税制では特例措置と一般措置を選択できますが、両者にはどれくらいの違いがあるのでしょうか。この章では、設例をもとに事業承継税制の特例措置と一般措置の計算例を見ていきましょう。
【設例】
- 株価総額5億円(先代事業者が100%所有)
- 後継者に100%の株式を贈与
- 相続時精算課税により2,500万円分が非課税対象、超過分は一律20%
特例措置の計算例
事業承継税制の特例措置では、猶予されている贈与税について全額の猶予措置を受けられます。納税額から納税猶予税額を差し引いて、納付税額は0円という結果です。
【特例措置の贈与税の計算例】
- 贈与税額:(5億円-2,500万円)×20%=9,500万円
- 納税猶予税額:(5億円-2,500万円)×20%=9,500万円
- 納付税額:9,500万円(贈与税額)-9,500万円(納税猶予税額)=0円
一般措置の計算例
一般措置を適用した場合、対象株数は最大で総株式数の3分の2までです。全額の猶予措置を受けられず、約3分の1相当における贈与税の納税義務が課されます。
【一般措置の贈与税の計算例】
- 贈与税額:(5億円-2,500万円)×20%=9,500万円
- 納税猶予税額:(5億円×2/3-2,500万円)×20%=6,166万円
- 納付税額:9,500万円(贈与税額)-6,166万円(納税猶予税額)=3,334万円
5. 一般事業承継税制と特例事業承継税制の違い
事業承継に関する税制には、一般事業承継税制と特例事業承継税制があります。両者には大きな違いがあります。以下でその違いについて説明します。
特例承継計画の提出について
特例事業承継税制を受けるには、特例承継計画を提出する必要があります。特例承継計画は、将来的に事業承継を行うために作成するものであり、現在すぐに贈与する予定がなくても、事前に提出することができます。
また、特例承継計画の提出後、贈与を行わなくてもかまいません。
先代経営者からの相続・贈与の期間について
特例承継計画を提出しても、2027年12月31日までに相続・贈与を行わなければ特例事業承継税制の適用を受けることはできません。つまり、期限を過ぎてしまった場合は、一般事業承継税制の適用となってしまいます。
したがって、特例承継計画を提出した場合には、期限内に相続・贈与を検討し、実施することが重要です。
対象株式について
一般事業承継税制では、発行済議決権株式総数の3分の2の株式が限度とされていました。つまり、株式の過半数を承継する場合には、一般事業承継税制が適用されます。
しかし、特例事業承継税制では、すべての株式が対象となっています。つまり、過半数未満の株式でも特例事業承継税制の適用が可能です。
相続する際の猶予対象評価額について
一般事業承継税制では、対象となる株式の「評価額の80%」が猶予されます。つまり、相続や贈与により株式を取得した場合、その株式の評価額の80%までが非課税となります。
一方、特例事業承継税制では、対象となる株式の「評価額の100%」が猶予されます。つまり、相続や贈与により取得した株式の評価額全額が非課税となります。
特例事業承継税制は、一般事業承継税制よりもより大きな税負担の緩和が期待できる制度です。
承継パターンの違い
株式を贈与する側は、一般事業承継税制も特例事業承継税制も複数の株主である場合があります。一方、受け取る側の後継者については、一般事業承継税制では「筆頭株主である代表者ひとり」が認められていました。
しかし、特例事業承継税制では、「後継者3名」まで認められます。つまり、複数の後継者に株式を譲渡する場合にも、特例事業承継税制の適用が可能となります。
雇用確保要件の違い
一般事業承継税制には、従業員数が、5年平均で相続時(贈与時)の80%を下回ってはいけないというルールがあります。一方、特例事業承継税制では、従業員数が80%を下回った場合には、その理由を説明した書類(認定支援機関の意見が記載されたもの)を提出すれば、認定が取り消されることはありません。
このように、特例事業承継税制では、従業員数のルールに対する柔軟性があります。そのため、雇用確保要件は実質的に撤廃されたと考えられます。しかし、後継者としての責任を果たすためにも、従業員を大切にし、事業の持続的な発展に努めることが求められます。
5年後以降に株式の譲渡・解散があった場合について
一般事業承継税制では、民事再生や会社更生の場合、その時点の評価額で相続税・贈与税を再計算し、超える部分の納税猶予額を免除する制度があります。
一方、特例事業承継税制では、「経営環境の変化を示す一定の要件」がある場合には、売却や合併による消滅、解散時においても同様な制度を導入できます。この場合も、相続税・贈与税を再計算し、超える部分の納税猶予額を免除することができます。
つまり、特例事業承継税制においても、経営環境の変化による事業承継に対して税負担の軽減が行われることになります。
相続時精算課税の違い
一般事業承継税制では、推定相続人(相続人の中で、特に事業を継承することが予定されている相続人)ひとりにしか適用されません。一方、特例事業承継税制では、推定相続人以外の相続人や贈与を受ける人に対しても、適用が可能です。
つまり、特例事業承継税制では、広い範囲で税負担の緩和が行われることになります。
6. 事業承継税制のメリット・デメリット
事業承継税制で得られるメリットは大きいですが、認定を受けるまでに手間がかかるなどのデメリットもあります。この章では、事業承継税制のメリット・デメリットを見ていきましょう。
事業承継税制のメリット
事業承継税制を活用するメリットは、贈与税の納税負担を抑えられることです。条件を満たし続けることで猶予措置を受け続け、最終的に免除措置を受けられれば実質的に納税負担をゼロにできます。
事業承継税制を活用せずに贈与税を納める場合、納付税額を確保するのも大変です。特に中小企業の株式は流動性が低く換金が難しいため、事業に使う土地や建物などの不動産を処分しなければならない事態にもなりかねません。
事業承継税制のデメリット
事業承継税制のデメリットは、認定や猶予措置を受け続けるための手間がかかることにあります。特に大きなデメリットは以下の5点です。
【事業承継税制のデメリット】
- 期間中は毎年、届け出の提出が必要
- 事業承継税制条件の維持が必要
- 相談者が少ない
- 期間中はM&Aを行えない
- 相談料などのコスト増
期間中は毎年、届け出の提出が必要
1つ目のデメリットは、納税猶予期間中は各機関に対して報告書などの提出が必要になることです。納税猶予の要件を継続して満たしていることを証明するために、都道府県知事へ特例承継計画の報告書、税務署に継続届出書を提出します。
提出を怠ると納税猶予が打ち切られて贈与税の納税義務が復活するため、免除措置を受けるまで定期的に提出し続けなくてはなりません。
事業承継税制条件の維持が必要
2つ目のデメリットは、納税猶予期間中は一定の要件を満たし続ける必要があることです。特定の状況が発生した場合は猶予されている贈与税を納付する必要があります。
【猶予されている贈与税を納付する必要があるケース】
- 適用を受けた株式などについて一部を譲渡した場合
- 後継者が会社の代表権を有しなくなった場合
- 会社が資産管理会社に該当した場合
- 一定の基準日における雇用平均が贈与時の雇用の8割を下回った場合
相談者が少ない
3つ目のデメリットは、事業承継税制に関して相談できる専門家が少ないことです。ただでさえ専門性の高い分野なうえ、高い頻度で改正が繰り返されているため、事業承継の専門家でなければ適切なサポートを期待できません。
うまく活用できればメリットの大きい事業承継税制ですが、精通した専門家を探すために時間がかかってしまう問題もあります。
期間中はM&Aを行えない
4つ目のデメリットは、納税猶予期間中はM&Aを実施できないことです。納税猶予を維持する条件項目に株式の譲渡を禁じる旨が記載されているため、株式の売却が伴うM&Aは実施できません。
納税猶予期間中にM&Aの必要性が生じた場合は、猶予されていた贈与税を納めたうえでM&Aを実施します。
相談料などのコスト増
5つ目のデメリットは、専門家に相談した場合のコスト増加です。多くの手続きは自力で進めますが、特例承継計画の策定段階で政府の認定を受けている認定経営革新等支援機関の指導・助言は必須です。
数十万円程度の手数料が発生します。数千万規模の贈与税と比較するとはるかに少額ですが、後継者にのしかかる負担となります。
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7. 事業承継税制による贈与税の猶予・免除まとめ
事業承継の際に発生する贈与税は、先代経営者や後継者にとって頭の痛い問題です。状況次第では、会社の資産を処分する必要性が生じる事態にもなりかねないため、事業承継税制を活用するなど節税対策が必須です。
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