事業売却とは?会社売却との違い、メリット・デメリット、相場・税金を解説!

会計提携第二部 部長
向井 崇

銀行系M&A仲介・アドバイザリー会社にて、上場企業から中小企業まで業種問わず20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、不動産業、建設・設備工事業、運送業を始め、幅広い業種のM&A・事業承継に対応。

事業売却とはどういったものなのか、会社売却との違いやメリット、デメリットなども含めて解説します。事業売却の際には事業譲渡や株式譲渡といった認識も持っておく必要があるでしょう。その考え方も含めて、事業売却とは何かご紹介します。

目次

  1. 事業売却とは?意味を理解しよう
  2. 事業売却と会社売却との違い
  3. 事業売却の取引価格
  4. 事業売却で課される税金
  5. 事業売却のメリット
  6. 事業売却のデメリット
  7. 事業売却の手続き・流れ
  8. 事業売却の成功事例10選
  9. 事業売却に関する相談先はM&A仲介会社がおすすめ
  10. 事業売却のまとめ
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1. 事業売却とは?意味を理解しよう

事業売却とはどういったものなのかについて焦点を当てて、そのメリットやデメリット、仕組みを具体的にご紹介します。

事業売却の定義

事業売却とは、会社や組織として行っている事業の一部や全部を第三者に譲渡する方法です。事業譲渡ともいいます。

事業売却は、譲渡するものを選択するのが可能なため、全部を売却する「全部売却」、一部を売却する「一部売却」がありますが、どちらも事業売却と呼ぶのが一般的です。

売却する事業は、財産である権利だけではなく、仕入れ先や取引先、販路、運営組織などを含む場合もあります。他にも技術などの無形財産も譲渡されるため、時価純資産に「のれん」を含めるケースが多くあるでしょう。

事業売却した場合に発生した利益は、売却元の会社に還元されます。オーナーが利益を手にできるわけではないので、注意しましょう。

大企業のオーナー社長など、利益を目的とした事業売却を検討する場合はデメリットになりえるので注意しましょう。

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事業売却の持つ意義

さまざまなM&Aの手法がある中で、事業売却の手法が最もよく利用されるシチュエーションは、業績不振事業の切り離しです。

自社の財務戦略を勘案しながら、赤字企業や不採算事業の切り離しを行います。売却してその対価を得て、コア事業にリソースを集中させられます。

2. 事業売却と会社売却との違い

事業売却とは何かを確認していくうえで、事業売却と会社売却の違いを理解しておくのも大切なポイントです。事業売却は、特定の事業や複数の事業を他の会社に譲渡する仕組みです。

この場合、会社自体がなくなるわけではありません。

一方で、会社売却の場合は会社が持つ全ての株式を他社に譲渡します。その会社に関わるあらゆる事業や資産を他社へ譲渡するのが会社売却の考え方です。つまり、会社の経営権を手放す考え方ができます。

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会社売却の定義

会社売却とは会社全体を売却する行為です。事業の売却とは違って、会社売却では株式の売却を通じて会社全体を売却する点に特徴があります。

株式の売却は、会社の所有権の売却です。したがって、会社売却は会社の所有権を売却するのを意味しています。

会社売却は事業売却とは明確に区別しなければなりません。会社全体を売却するには、会社の所有権を分割したものである株式を第三者に売却して実現させます。

会社売却をすると、所有権が売却され、新しいオーナー(所有者)によって、会社が存続できるのです。

事業売却と会社売却の相違点

事業売却と会社売却は以下の3つの点で異なります。

  • 売却対象
  • 対価の受領者
  • 消費税の課税対象に含まれるかどうか

以下では、詳しく解説します。

売却の対象

事業売却は、その事業を構成している資産・負債を個別に契約を結んで売却します。取得企業と個別に契約を結んで売買条件を確認するのです。

一方で、会社売却では、会社の所有権を分割したものである株式の売却を通じて会社そのものを売却します。したがって、取得企業と個別に契約を結ぶのではなく、包括承継を行います。

対価の受領者

事業売却の対価の受領者は会社です。一方で、会社売却はその対価の受領者は株主となります。

したがって、事業売却では、株主の構成比率に変更は起こりませんが、会社売却では、株主の構成比率が変化します。

消費税の課税対象に含まれるかどうか

事業売却では、消費税の課税対象となる資産が売却されるとき、その資産に対しては消費税の課税があります。消費税が課税される対象となるのは、特定の資産だけです。土地のような資産を取得した場合には、消費税は課されません。

一方で、会社売却は株式の売却になるので、消費税はかかりません。株式譲渡には、消費税はかかりませんが、その他の各種税金がかかります。

3. 事業売却の取引価格

事業を売却するにあたって、その事業の取引価格はどのようにして決まるのでしょうか。

以下では、その考え方を解説します。

事業売却と会社売却の相場を比較

事業売却と会社売却において、売買金額の相場を比較すると「事業売却<会社売却」です。同じ事業規模の売却で比較した際に、「会社の一部」を売却するのか、もしくは「会社の全部か」によって相場が異なるため、当然ながら会社売却の方が高額になります。

対して事業売却は、会社の一部事業を売却するため、会社売却よりも相場は低いです。しかし、相場が高いからといって必ずしも会社売却を選択するのではなく、それぞれのメリット・デメリットを知ったうえで検討していきましょう。

事業売却と会社売却は高く売るためのポイントもあります。以下の記事で詳しく紹介しているためぜひ確認してみましょう。

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事業売却価格の計算方法

事業の価値を算定する方法としては、以下の4つの計算方法があります。

  • DCF法
  • 類似会社比較法
  • 時価純資産法
  • 年買法

以下では、その概要を解説します。

DCF法

DCF法とは、Discounted Cash Flow 法の略で、日本語では、「割引現在価値法」と呼ばれます。

割引現在価値の計算は、将来得られるキャッシュフローを現在の価値に換算して(割り引いて)計算するのが一般的です。

売却対象の事業から将来どれくらいのキャッシュインフローがあるかを見積もって、それを現在価値に割り引いて事業の価値を算定します。

類似会社比較法

類似会社比較法とは、類似している上場企業の株価に基づいて、売却予定の事業の価値を算定する方法です。

上場企業の主要な財務数字に対する倍率(マルチプル)を用いて算出する方法なので、マルチプル法と呼ばれる場合もあります。よく用いられる財務数値は、売上高・営業利益・当期純利益などの財務諸表の数字、EBITDAの財務指標が利用されています。

時価純資産法

時価純資産法とは、事業の有する資産・負債の時価を算定し、時価評価された資産から負債を差し引いて、純資産の時価を算定する方法です。

事業の有する資産・負債を正確に時価評価しなければならないので、通常は、専門家に依頼して資産・負債の時価評価を行わなければなりません。そうしないと、正確な時価純資産を算定できないからです。

年買法

年買法とは、理論的な方法よりも、実務的な間便法といった側面がありますが、「時価純資産+営業利益×任意の年数」で事業の価値を算定する方法です。

時間をかけずに短時間で事業価値を算定できる長所があります。

事業売却の相場価格

事業売却の相場を知るうえで最も簡単な方法は、類似の事業を展開している会社で上場している会社から推定する方法です。

たとえば、類似の事業を展開する企業の純資産額1,000万円である場合、自社の純資産額も1,000万円の価値があるとして推定します。

ただし、この方法は極めて簡単な方法で推定しているので、事業の価値を正確に計算したものではありません。したがって、正確に事業価値を算定する場合、専門家に依頼するのが一番です。

4. 事業売却で課される税金

事業売却をすると、売り手側にも買い手側にも税金が課されますが、それぞれ課される税金の種類が異なります。

以下では、それぞれの場合に分けて税金を解説します。

売却側に課される税金

事業売却を行うと譲渡損益が発生しますが、この譲渡損益に対して法人税が課税されます。事業売却は資産・負債の個別譲渡であるので、その取引ごとに譲渡損益が発生します。そして、その譲渡損益に対して法人税が課税されるのです。

法人税が課税されますが、消費税などその他の税金はありません。

買収側に課される税金

事業売却の結果として、事業を取得する側の企業には消費税がかかります。事業売却によって引き受ける資産の種類に応じて消費税がかかる資産とかからない資産があり、有形固定資産、営業権、棚卸資産などは課税対象の資産です。一方、土地には消費税の課税はありません。

5. 事業売却のメリット

事業売却とは何か把握していくためには、会社売却との違いを押さえたうえで理解を促進するのが求められます。そのうえで、事業売却のメリットを確認していくのも大切なポイントです。

事業売却をすると、売り手としても買い手としてもさまざまなメリットを享受できます。そのメリットを具体的に確認しましょう。

売り手側のメリット

まずは、事業売却をした場合の売り手側のメリットの確認を進めていきます。事業売却とは何か理解して実際に行動に移すためには、売り手側のメリットを理解しておくのが大切です。

メリットを理解しているからこそ、実際の行動に移っていけます。売り手側のメリットは以下のとおりです。

  • 売却益を得る
  • 従業員を残せる
  • 資産はそのままにできる
  • 不要な事業を譲渡できる
  • 債権者への通知や公告は不要

以上の5つのメリットを確認しましょう。

売却益を得る

まず、事業売却による売り手側のメリットとして売却益を得られます。事業売却とは会社売却とは異なり、売買契約によって成立するのです。契約成立によって売却益を得られるところに大きなメリットがあります。

事業売却によって、負債を抱えている他の事業や新規事業への投資などを行って経営改善につなげるのもできるでしょう。

従業員を残せる

事業売却のメリットとして従業員を残せるのも挙げられます。会社売却や株式譲渡とは異なり、事業売却の場合でも、会社自体は存続するのです。それまでと変わらない従業員体制で仕事に取り組めるのが大きなメリットとなるでしょう。

資産はそのままにできる

事業売却のメリットとして、資産をそのまま残せる点も見逃すのはできません。M&Aや会社売却、株式譲渡といったケースでは、資産ごと会社を売却するため、売却益以外に残るものではないのです。

一方で、事業売却のケースでは資産を残したまま事業を継続できるのが大きなメリットといえるでしょう。

不要な事業を譲渡できる

事業売却とはメリットの多い行いでもありますが、そのメリットとして不要な事業を譲渡できるところも挙げられます。

会社として好調な事業をわざわざ事業売却する必要はありません。何か問題を抱えている場合、不要な事業を譲渡し、経営を安定的に促進していけます。

債権者への通知や公告は不要

事業売却の場合は債権者への通知や公告が不要となる点もメリットとして挙げられます。余計な手続きや公告せずに事業売却を進められるところは、会社としてのメリットです。

買い手側のメリット

続いては、事業売却による買い手側のメリットを確認します。売り手側と同様に、買い手側にもメリットがあるのが事業売却の特徴です。

買い手側のメリットは、以下のとおりです。

  • 求める資産や事業を選べる
  • 簿外債務の引き継ぎ不要
  • 無駄なリスクを負わない
  • のれん償却が損金扱いとなる
  • 債権者への通知や公告は不要

求める資産や事業を選べる

事業売却の際には、買い手側が求める資産や事業を自発的に選定できるのが大きなメリットとなります。不要と感じる事業や資産は引き継がないケースも可能になります。

売り手と買い手側のニーズがマッチした際に事業売却が成立し、買い手側のメリットにつながるのです。

簿外債務の引き継ぎ不要

買い手としては、簿外債務の引き継ぎが不要となる点もメリットとして考えられます。簿外債務を引き継いで事業運営に支障が出るケースもありますが、その引き継ぎが不要なので安心して事業を買えるでしょう。

無駄なリスクを負わない

事業売却とは、買い手と売り手のニーズがマッチした際にのみ成立する契約事項です。したがって、買い手としては無駄なリスクを負う必要がありません。

不要と感じたものは買う必要もなく、一部の事業のみを買収しても問題ないのです。無駄なリスクを負わないのが、買い手としてのメリットといえます。

のれん償却が損金扱いとなる

事業買収をした後5年間は、のれんの相当額を償却の損金扱いできます。節税につながる意味でも、買い手としてのメリットです。

債権者への通知や公告は不要

事業売却の際は買い手側も債権者への通知や公告が不要となります。事業売却をする売り手側のメリットにもつながりますが、買い手としても同様のメリットが得られるのです。不要な手続きや通知を省いて、お互いにスムーズな形で事業売却を進めていくのが可能となります。

売却側はできるだけ高く事業・会社を売却したいと考えるでしょう。しかし事業売却を進めるには、専門的な知識や経験が必要でしょう。

事業売却を検討しているのであれば、M&A総合研究所にご相談ください。M&Aアドバイザーが親身になってフルサポートいたします。

一般的なM&A取引は交渉から成立までに半年から1年程度かかりますが、M&A総合研究所ではスピーディーなサポートを実践しており、成約まで最短3カ月の実績もあります。相談料は無料ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。

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6. 事業売却のデメリット

事業売却とは何か、株式譲渡や会社売却との違いも含めた中で理解を促進していくのがポイントです。その中で、事業売却を行うデメリットも確認します。

メリットとともにデメリットも把握すれば、事業売却より一層理解できるようになるはずです。売り手側・買い手側の立場からデメリットを確認しましょう。

売り手側のデメリット

まずは、事業売却による売り手側のデメリットとはどういったものなのか確認を進めていきます。事業売却のデメリットにも目を向けたうえで、慎重に事業売却を進めるのも大きなポイントです。売り手側のデメリットは以下のとおりになります。

  • 株主総会での特別決議が必要
  • 負債の取り扱い
  • 売却益には税金がかかる
  • 売却後の事業内容に制限がかかる

順番に3つのデメリットを確認しましょう。

株主総会での特別決議が必要

事業売却や事業譲渡をするデメリットとしては、株主総会での特別決議が必要となる点を挙げられます(売却する資産が売却会社における総資産の5分の1を超える場合)。事業譲渡に際しては株主からの賛同が必要になる点が、売り手側のデメリットです。

そのための根回しや手続きを行うのも必要となり、時間的な制約が取られます。

負債の取り扱い

売り手側のデメリットは、事業譲渡に際して負債が発生する場合にその取り扱いをどのようにするか検討する必要がある点です。

利益が出ている事業であれば問題はありませんが、負債を抱えている事業は慎重に検討を重ねるのが求められるでしょう。

売却益には税金がかかる

事業売却や事業譲渡のメリットとして売却益を得られるのは先述しましたが、その売却益には税金がかかるのも忘れてはいけません。

後述で事業売却に際して発生する税金の種類や相場を詳しく紹介します。自社の売却に際して税金がどれほど発生するのか知りたい人は、確認してみましょう。

売却後の事業内容に制限がかかる

事業売却した後、会社法によって売り手側は20年間、同一市町村の区域内および隣接する市町村の区域内で、売却をした事業と同じ事業を行えないとされています。

この制限がかかる競業避止義務は、当事者間が同意したうえで特約を付けた場合、その期間を拡大・縮小可能です。競業避止義務の排除も可能と解釈されています。

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買い手側のデメリット

続いては、事業売却や事業譲渡による買い手側のデメリットを確認します。株式譲渡やM&Aなどとは異なる点や似た点も含めて、事業売却のデメリットを理解しておく必要があるのです。買い手側のデメリットは以下のとおりです。

  • 各種移転手続きが必要
  • 許認可の新たな取得
  • 従業員や取引先との契約

以上の3つのデメリットを順番に確認しましょう。

各種移転手続きが必要

M&Aや株式譲渡、会社売却の際もそうですが、事業売却や事業譲渡の際には各種移転手続きが必要となるところが買い手側のデメリットです。それだけの時間的制約や物理的制約がかかって、事業売却時には多くの労働力が割かれます。

許認可の新たな取得

事業売却や事業譲渡に際しては許認可の新たな取得が求められるのもデメリットとして挙げられます。許認可の種類にもよりますが、M&Aや株式譲渡の際には、許認可は基本的に承継されます。

ところが事業譲渡に際しては、新たに行政上の手続きを進めるケースが必要です。事業譲渡は、すでに許認可権を取得している、いわば同業者間により行われるケースが多いようです。

従業員や取引先との契約

事業売却や事業譲渡を進めるにあたり、該当事業に従事していた従業員をそのまま雇用する場合、買い手側は従業員との雇用契約を結ぶ必要があります。取引先との契約も同様に締結し直さねばなりません。

もちろん、それぞれの同意を取り付ける必要があり、その手続きや同意の取り付けにかかる労力も大きなデメリットです。

7. 事業売却の手続き・流れ

事業売却や事業譲渡とは何か、株式譲渡や会社売却といった手段との違いに着目して理解を深めていくのがポイントです。

事業売却の手続きを解説します。事業売却とは何かを理解するうえでは、手続き方法を確認しておくのも大切です。

事業売却・事業譲渡の流れは以下の9つのステップに分けられます。

  1. 売却先を探す
  2. 買収側からの基本条件提示
  3. 基本合意をする
  4. デューデリジェンス
  5. 取締役会で決定
  6. 事業譲渡契約書を締結
  7. 報告書の提出と届け出
  8. 株主への通知・公告と株式総会で説明
  9. 監督官庁の許認可と各種手続き

それぞれ詳しく確認しましょう。

①売却先を探す

事業売却や事業譲渡を進めるうえでは、最初に売却先となる企業や組織を探すのがポイントです。いくら事業売却をしたくても、売却先がなければ話を前に進められません。

取引先やM&Aなども視野に入れつつ、どこにどの事業を売却するかを検討するのが最初の段階です。

②買収側からの基本条件提示

実際に事業の買い手を見つけられたら、意向表明書の提出によって事業売却をする買収側の基本条件の提示を受けます。事業売却とは買い手と売り手の希望を擦り合わせていくのも大切な部分です。

まずは買収側の条件を確認し、事業売却を進めるのか否かを検討します。

③基本合意をする

買い手側の買収に関する基本条件に納得できたら、基本合意書の締結によって事業売却に向けての基本合意をします。基本条件に納得ができない場合は基本合意を進めてはいけません。後からもめ事になるのは避けておきたいところです。

売り手と買い手の双方のニーズにかなう条件を折り込めた段階で、基本合意の手続きを進めていきます。

④デューデリジェンス

事業売却に向けて基本合意を取り付けた後、デューデリジェンスの段階に進んでいきます。デューデリジェンスとは、ビジネスや法務、会計や税務といった分野に分けて売り手側に資料の提出を求める手続きです。専門家による買収調査が行われる場合もあります。

事業売却に向けた細かい部分の資料作成との考え方もできます。デューデリジェンスによって、買い手側としてはリスク管理やリスクヘッジにつなげられるでしょう。

⑤取締役会で決定

事業売却とはどういったものなのか、デューデリジェンスとは何かも含めて理解をして手続きを進めていくのが求められます。デューデリジェンスまで終えた後、続いての手続きとして取締役会で事業売却を決定します。

会社役員の決議を取り、最終的な事業売却に向けて本格的な契約を進める段階に入っていき、この時点で書類や契約事項に不備がないように最終確認をしておくのも大切です。

⑥事業譲渡契約書を締結

取締役会での決定を終えた後、事業譲渡契約書を締結する手続きへと移行します。取締役会の承認を得た後で、事業譲渡契約書の締結によって事業譲渡の契約は完了です。

ここまでの流れに留意して、ひとつひとつの手続きを進めていくのがポイントとなるでしょう。書類も人数分用意して、1人1人が適切に内容確認できるようにしておくのが求められます。

⑦報告書の提出と届け出

事業譲渡契約書の締結を終了後、報告書の提出と届出を行います。社内で事業売却の情報を保管しておくためにも重要な書類です。この段階で臨時報告書の提出と公正取引委員会への届け出も行います。

事業売却は1回だけで終了するとは限りません。今後の事業売却の際にも過去の記録を参照できるように、社内で事業売却に関する報告書を適切に管理しておくのがポイントです。

⑧株主への通知・公告と株式総会で説明

事業売却とは株主総会での決議が必要な行為でもあります。会社や事業の方針を株主に説明するのと同様に、事業売却も株主への通知と公告が必要です。

基本的には、議決権の過半数の株主が出席したうえで、3分の2以上にあたる賛成が必要とされています。万一、事業売却に反対した株主から株式の買い取り請求がなされた場合は、その株式を買い取る必要があるでしょう。

⑨監督官庁の許認可と各種手続き

株主への事業売却の説明を終了して賛成を取り付けた後、最後に監督官庁への許認可と各種手続きを行います。ここでは、会社の財産や権利、債務や契約といった事項を移転する手続きも求められるのです。

雇用契約の手続きや事業のノウハウ、のれんなどの譲渡手続きも済ませたうえで、最終的な事業売却の完了となります。

8. 事業売却の成功事例10選

ここからは、事業売却の成功事例を紹介します。

  1. ニチイ学館によるイオンペットへの事業売却
  2. セントラルによるカネモトの子会社NEKへの事業売却
  3. 旭化成による三井化学への事業売却
  4. グンゼによるダイセルへの事業売却
  5. エスエスディーによるタカショーデジテックへの事業売却
  6. HITによるイードへの事業売却
  7. インタラクティブブレインズによるクレイテックワークスへの事業売却
  8. ライナフによるアズームへの事業売却
  9. PoliPoliによる毎日新聞社への事業売却
  10. ベーシックによるGMOペパボへの事業売却

①ニチイ学館によるイオンペットへの事業売却

ニチイ学館は2022年6月、グルーミング事業をイオンペットへ事業売却しました。

ニチイ学館は、主に医療・介護・保育サービスを展開する企業です。グルーミング事業である「A-LOVE」の20サロンあるうち、19サロンを売却しました。グルーミング事業とは、ペットのブラッシング、耳そうじ、シャンプー、爪切りなどを行うものです。

イオンペットは、ペット関連商品の販売、グルーミングサロン、ペットホテル、動物病院、しつけ教室などの運営を手掛けています。

今回のM&Aにより、グルーミング技術と知識を有する人材の確保、地域に密着した顧客サービスのノウハウを獲得し、質の高いサービス提供を目指します。

②セントラルによるカネモトの子会社NEKへの事業売却

セントラルは2022年5月、カナモトの子会社であるNEKへ事業売却を実施しました。

セントラルは岩手県奥州市に拠点を置く会社で、建設機械・設備機器・空調・備品のリース・レンタル・販売などを展開しています。仙台地方裁判所より、民事再生手続きの開始決定を受けていました。

カナモトは、建設機械器具のレンタル、鉄鋼製品の販売、周辺機器のレンタルを行う会社です。完全子会社であるNEKは、岩手県奥州市に拠点を置く会社で、事業の譲り受けによりセントラルへ社名変更を行う予定です。

今回のM&Aにより、カナモトは国内営業基盤の拡充、東北地区のシェア拡大、サービス強化を目指します。

③旭化成による三井化学への事業売却

旭化成は2022年5月、半導体や液晶パネルで使用されるフォトマスク用ペリクル事業を三井化学に事業売却しました。

旭化成株式会社は、化学、繊維、住宅、医薬品、医療などの事業を展開する大手総合化学メーカーです。三井化学は、ペリクル市場の大手で、EUV露光用でも上位の実績を保有しています。三井化学はペリクル事業をIoT材料の中心と位置付けており、能力増強などに取り組んでいます。

旭化成は、ペリクル事業に関して、競争力の向上や高精細化による技術開発・追加投資が必要と判断し、事業継続のあり方を模索していました。そんな中、旭化成と三井化学の思惑が一致し、事業売却となったのです。

今回のM&Aにより、関連する子会社の旭化成EMSの全ての株式も譲受します。そして三井化学はペリクル事業の事業拡大、新製品の開発、技術向上を目指します。

④グンゼによるダイセルへの事業売却

グンゼは2022年4月、電子部品事業部フィルム部門をダイセルへ事業売却しました。

グンゼは、機能ソリューション事業、アパレル事業、ライフクリエイト事業などを展開する企業です。事業売却の対象となった電子部品事業部フィルム部門は、亀岡工場をメインとした電子部品用フィルムの開発・製造などを行う部門です。

ダイセルは、メディカル・ヘルスケア、マテリアル、エンジニアリングプラスチックの製品その他の製造・販売を展開しています。今回のM&Aは、グンゼの事業構造の最適化を目的に実施されました。

⑤エスエスディーによるタカショーデジテックへの事業売却

エスエスディーは2022年3月、イルミネーション事業部をタカショーデジテックへ事業売却をしました。

エスエスディーは、中古自動車の販売、新車の販売、輸入車のレンタカー事業、イルミネーションの施工、イルミネーションを活用したトータルコーディーネートなど、幅広い事業を展開する企業です。タカショーデジテックは、ガーデンや商業施設など、光の空間演出を手掛ける企業です。

今回のM&Aにより、タカショーデジテックは顧客企業へのサービスの拡大、幅広い商品展開を目指します。

⑥HITによるイードへの事業売却

2019年12月、イードは、HITが運営していたグルメ情報に特化したWEBメディアである「めしレポ」の事業を取得して、運営を開始しています。

イードは、もともとIT、セキュリティ、リサーチ、ビジネスマッチング、メディアなどさまざまなジャンルのウェブメディアを運営している会社です。イードは、今後、より専門性の高いグルメ情報を発信していき、さらなるメディアの価値向上を目指しています。

⑦インタラクティブブレインズによるクレイテックワークスへの事業売却

2019年9月、インタラクティブブレインズは、保有していた3DCGアバター事業、VR事業、コンテンツなどの開発事業をクレイテックワークスへと事業売却するのに成功しました。

クレイテックスワークスは、映像・ゲーム・Web・広告など、さまざまな分野で30万人を超える専門知識を持ったプロフェッショナルと、2万5,000社を超えるクライアントを組み合わせ、プロフェッショナルの生涯価値の向上を行っています。クライアントの価値創造への貢献を図る、プロフェッショナル・エージェンシー事業を展開するなど、手広く事業を行う企業です。

クレイテックワークスは、プロフェッショナル・エージェンシー事業を展開するクリーク・アンド・リバー社の子会社となっています。この事業を取得して、事業成長が見込める分野を強化するのが狙いです。

⑧ライナフによるアズームへの事業売却

ライナフは、2019年8月に、提供していたスマート会議室のサービス(事業)を、アズームに事業譲渡するのに成功しました。

リアルタイムに会議室の空き状況を確認して、その後の予約から決済までをアプリ内で提供するサービスとして展開されていた「スマート会議室」事業でした。しかし、ライナフは他の分野をコア事業としているため、このサービス事業の売却を決定しました。

譲渡先であるアズーム社は、空き駐車スペースの活用を起点として、他の企業や個人が保有している遊休不動産を活用する事業を展開していて、個人・法人向けに幅広くサービスを展開しています。事業譲渡によってサービスの拡充を図るのが狙いです。

⑨PoliPoliによる毎日新聞社への事業売却

2018年6月、PoliPoliは毎日新聞社に、自社で開発した俳句のSNSアプリ「俳句てふてふ」を事業譲渡するのに成功しました。ニッチな分野で事業譲渡に成功した珍しい事例です。

「俳句てふてふ」は、俳句のSNSサービスです。もともと、俳句てふてふのサービスは、PoliPoliの代表取締役が個人で開発したアプリでした。

このアプリには、俳句で用いられる季語などの検索機能などがあり、俳句を気軽にSNS上に投稿できて、俳句を中心としてユーザーがコミュニケーションできる場を提供しています。

毎日新聞社は、俳句アプリを既存の俳句事業と連携させてさらなる発展を目指す狙いで、この事業を取得しました。

⑩ベーシックによるGMOペパボへの事業売却

Webマーケティングサービスやライフメディア事業を展開するベーシックは、2018年3月にネットショップオーナーがオリジナルグッズの製作を1つからオンデマンドで発注できるサービスである「Canvath(キャンバス)」を、GMOペパボに譲渡するのに成功しています。

Canvathは、デザインしたイラストや撮影した写真などの画像をアップロードするだけで、スマートフォンアクセサリー・マグカップ・Tシャツなどオリジナルのグッズを作成できるオンデマンドオリジナルグッズ作成サービスです。オンライン上で、デザインから発注まで簡単にできるので、手軽にオリジナルグッズを作成できるのが魅力でした。

ベーシック社が既存事業に経営資源を集中させるため、GMOペパボへの事業売却を決意しました。

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9. 事業売却に関する相談先はM&A仲介会社がおすすめ

事業売却・事業譲渡をするならM&A仲介会社に相談しましょう。M&A仲介会社とは、M&Aの総合コンサルティングをしてくれるような存在です。M&A仲介会社に相談すると、以下のサポートをお願いできます。

  1. 企業価値算定(売却価格算定)
  2. 売却先の企業選定・提案
  3. 相手企業との条件交渉
  4. デューデリジェンスの立ち会い
  5. 事業売却の手法設定
  6. 弁護士などの専門家の紹介
  7. 契約書などの書面作成

これらを、全て自社内で完結するのはとても難しいでしょう。しかし、M&A仲介会社に相談すればM&A専門家がサポートしてくれます。M&A仲介会社に相談し、事業売却・事業譲渡を成功させましょう。

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10. 事業売却のまとめ

事業売却とは、会社や組織として行っている事業の一部や全部を会社に譲渡する方法です。会社売却と違って、会社全体ではなく事業を売却する行為をさします。

メリットや手続きの流れ、注意点を知ったうえで、本当に事業売却をするべきか検討しましょう。事業売却を決めたのであれば、M&A仲介会社に相談するべきです。

M&A仲介会社からサポートを受けながら、自社の成長のために事業売却を成功させましょう。

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