事業承継の方法は5種類!方法別のメリットとデメリット・注意点・必要な準備を徹底解説

会計提携第二部 部長
向井 崇

銀行系M&A仲介・アドバイザリー会社にて、上場企業から中小企業まで業種問わず20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、不動産業、建設・設備工事業、運送業を始め、幅広い業種のM&A・事業承継に対応。

事業承継とは、事業・会社を後継者に引き継ぐことです。事業承継には5つの方法があり、廃業を避けるためにも適切な方法を選ばなければなりません。本記事では、事業承継における5つの方法別のメリット・デメリット、注意点や必要な準備などを解説します。

目次

  1. 事業承継とは
  2. 事業承継の5つの方法とメリット・デメリット
  3. 事業承継方法の選択状況・データ
  4. 事業承継を行う大まかな流れ
  5. 事業承継を行う際の注意点3選
  6. 事業承継を成功させるポイント3選
  7. 事業承継に関する公的支援
  8. 事業承継の事例
  9. 事業承継の方法とメリット・デメリットのまとめ
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1. 事業承継とは

事業承継とは、事業や会社の経営を後継者に引き継ぐことです。事業承継の定義は、経営権・経営理念・知的資産など事業に関する全てのものを引き継ぐ行為であり、現金や不動産といった個別の財産のみを引き継ぐわけではありません。

経営理念や知的資産は目に見えませんが、引き継がなければ会社の経営が傾いたり従業員が働きにくいと感じたりするなど、会社の存続が危うくなります。会社を後継者に引き継がなければ、経営者のリタイアに伴う形で廃業となり事業も消滅します。

事業承継に失敗すると、会社が持っている全ての資産を処分し、負債を支払うことで会社がなくなってしまうでしょう。廃業した場合、経営者自身の負担だけでなく、従業員が解雇されたり、取引先が仕事を失ったりするなど、周囲に迷惑・影響が及ぶことが多いです。

一方、事業承継に成功すれば、経営者のリタイア後も事業は継続され、後継者の新たな発想によって事業が成長する可能性があります。したがって、経営者であれば、何としても廃業を避けて、事業承継を行うべきなのは明白です。

近年は後継者不足により、M&Aを活用した事業承継を行うケースも増えてきました。M&A(Mergers and Acquisitions)とは、企業同士の合併(Mergers)や買収(Acquisitions)のことです。

昨今、「M&Aによって第三者に経営権を譲渡して会社を存続させる」といった考え方が、中小企業の中でも広まっています。後継者不足に悩んでいる場合、M&Aによる事業承継は有力な解決手段として活用できることを認識しましょう。

事業承継の動向

近年、日本における中小企業の事業承継が深刻な社会問題となっています。経営者が高齢になったり、承継が円滑に進まなかったりするため、倒産を迎えてしまう会社が増加しているのが現状です。

中小企業庁の「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」によると、現状を放置すれば、2025年に約245万人の経営者が70歳以上になります。

中小企業の廃業が急激に増えており、2025年までに約650万人が仕事を失う可能性があるというデータもあります。第三者承継の必要性が顕在化する経営者が、これから大幅に増えるでしょう。

参考:中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」

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事業承継で引き継ぐ要素

続いて、事業承継で引き継ぐ要素を見ていきましょう。

経営権

事業承継を進める場合は、後継者へ経営者の座を譲る必要があります。会社の株式を買い取ってもらうなどして、後継者に経営権を移さなければなりません。

一般的な会社にとって、経営者の交代は状況が変化する大きなイベントです。従業員・取引先など、多くの影響が及ぶ人もいるため、事業承継は周囲の理解を得ながら慎重に進める必要があります。

事業用資産

会社経営を継続するための事業用資産も、事業承継で引継ぐ要素の1つです。事業用資産と株式を承継する際は、贈与税や相続税がかかる点に注意しましょう。

ただし、近年は中小企業の事業承継を促すために、贈与税や相続税の支払いが猶予もしくは免除される事業承継税制が設けられています。この制度は中小企業に大きなメリットがあるため、中小企業の経営者は事業承継税制の活用を検討すると良いでしょう。

知的資産

現経営者が持つノウハウや知識などの知的資産も、事業承継で引継ぐ要素として欠かせません。事業の知識や経営スキルがなければ、会社を経営できないからです。

事業用資産や株式などと比較すると、知的資産の承継には多くの時間がかかります。数年間の期間が必要な業種もあるため、知的資産の承継は早めに取り組むことが重要です。

2. 事業承継の5つの方法とメリット・デメリット

事業承継の方法は一般的に3つ紹介されるケースが多いですが、厳密に手段を論じる場合は5つの方法があります。本章では、それらの概要とメリットとデメリットを個別に見ていきましょう。

  1. 親族内事業承継
  2. 社内事業承継
  3. M&Aによる事業承継
  4. 信託による事業承継
  5. 株式上場による事業承継

①親族内事業承継

親族内事業承継とは、経営者の親族を後継者とする事業承継の方法です。子どもだけでなく、兄弟姉妹・配偶者・子ども・兄弟姉妹の配偶者などが引き継ぐケースも親族内事業承継に含まれます。

親族内事業承継のメリット

親族内事業承継のメリットは、通常よりも税金負担の軽減が図られていることです。

2008(平成20)年に制定された「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(中小企業経営承継円滑化法)が2018(平成30)年に改正されたことで、中小企業の事業承継によって生じる贈与税と相続税の納税が猶予されています。

追加措置により、猶予後、最終的に免除されることも可能です。この制度を使えば、後継者の負担は格段に少なくなります。

ただし、利用するには所定の手続きを行い、都道府県知事からの認定を得なければなりません。認定のもとで一定要件を満たす場合に限り、納税が免除されます。

現経営者の子どもが事業承継すると、従業員・取引先の理解を得やすいメリットもあり、「社長の子なら納得できる」と受け入れる人も多いです。なお、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」の内容は、通称「事業承継税制」と呼ばれています。

そのほか、親族内事業承継に期待されるメリットは、主に以下のとおりです。

  • 銀行など資金提供者の支援を得やすい
  • 準備期間を長く確保できるため、長期的に後継者教育を行える
  • 財産や株式が分散しないため、所有と経営の一体的な承継が可能

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親族内事業承継のデメリット

親族内事業承継には、後継者の育成期間を十分に設けなければならないデメリットがあります。従業員と違い、後継者が他の会社で働いているケースが多いためです。

まずは後継者を社内に呼び、一連の業務を覚えさせなければなりません。社風を引き継いでもらうために、経営者の考え方や理念も理解させる必要があります。このように、親族内事業承継は時間がかかることを覚えておきましょう。

現経営者に複数の相続人がいる場合は、後継者に会社の株式全てが渡る手配を生前に整える必要もあります。経営者の遺産分配時に会社の株式が複数の相続人に分かれてしまった場合、後継者の経営権が不確定になるのを防ぐためです。

親族内事業承継では、後継者に経営者としての能力が不足している場合に後継者育成が困難である点や、後継者候補が複数いる場合に親族内でトラブルとなる可能性がある、などのデメリットがあります。

②社内事業承継

社内事業承継とは、役員や従業員に対して事業承継する方法です。役員や従業員は、長く経営者とともに働いているため、引き継ぎしやすい後継者といえます。

社内事業承継のメリット

社内事業承継の大きなメリットは、社風や経営戦略が大きく変わる可能性が低いことです。事業承継後は、良くも悪くも先代の経営方針が引き継がれるため、これまで共に働いてきた従業員が「経営者が変わって働きづらい」と感じることは少ないでしょう。

そのほか、社内事業承継に期待されるメリットは、主に以下のとおりです。

  • 経営者としての能力がある人材を社内から選んで後継者に据えられる
  • 自社の事業・業界に精通している人物を選べ、事業を好転させられる

社内事業承継のデメリット

社内事業承継の代表的なデメリットは、能力と人柄を見極めなければリーダーシップが発揮できないことです。親族内事業承継のようにバックボーンがないため、従業員から信頼のある人物を選ばなければなりません。経営者としての資質・人柄、仕事の能力をしっかりと見極めて判断することが大切です。

他にも社内事業承継では、資金面に関する後継者の負担が大きい点や、社内で権力争いが起こるおそれがある点、株式譲渡の際に親族から反対される可能性がある、などのデメリットもあるでしょう。

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③M&Aによる事業承継

身の回りに後継者にふさわしい人材がいなければ、M&Aを活用して事業承継するのも選択肢の1つです。

M&Aとは、企業や個人などの第三者が企業を買収することです。M&Aを実行すれば、買い手側に経営権を譲渡し、自社の経営を引き継いでもらえます。

M&Aによる事業承継のメリット

M&Aによる事業承継を行うと、後継者としての事業承継先を幅広く探せます。雇用関係や残債務などもそのまま引き継いでもらうことが可能です。後継者不足で悩む中小企業が増えている中で、M&Aは有効な手段といえます。

経営者は、株式の譲渡対価としてまとまった資金を受け取れます。老後の生活資金あるいは新しい事業の立ち上げ資金として活用できる金額を受け取れるのは、M&Aによる事業承継ならではのメリットです。

そのほか、M&Aによる事業承継では、資金力のある企業が買い手となるケースが多く、自社の経営が安定化する可能性がある点、ブランド力の獲得、人材の獲得などもメリットになります。

M&Aによる事業承継のデメリット

M&Aの場合、成功率が100%ではないことも含めて、適切な買い手を探すこと、その後の交渉が難しいことがデメリットです。自社を安心して任せられる買い手を見つけるのは、決して容易ではありません。

従業員や取引先との関係をそのまま継続してもらえるよう、条件の交渉も行わなければなりません。経営の一体性を保つのが難しい点も、M&Aによる事業承継のデメリットです。とはいえ、事業承継先を確保できずに廃業するよりも、M&Aを活用して会社を存続させたいと考える経営者は多いです。

後継者不在でお悩みの際は、ぜひM&A総合研究所にご相談ください。M&A総合研究所は、M&A・事業承継の成約実績を多数有しており、豊富な経験と知識を持つM&Aアドバイザーが案件をフルサポートいたします。

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④信託による事業承継

信託と聞くと、一般的には投資信託などの資産運用をイメージすることが多いです。しかし、あまり知られていませんが、信託制度を事業承継に転化させて用いることが可能です。

もともとの経営者が株式を所持し議決権を保有したまま委託者となり、後継者を受託者および生じた利益を得られる受益者とすることで、事業承継を進められます。

信託による事業承継のメリット

信託の手法には「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」があり、これを用いると2代先の後継者まで指名できます。従来の事業承継では実現不可能な方法です。株式譲渡を伴う必要がないため、手続き面で非常にシンプルに事業承継を実施できます。

信託による事業承継であれば、事業承継信託を利用することは税金対策にもつながるでしょう。信託には、原則課税はなく、事業承継による税金が発生しないので、後継者への負担が抑えられます。

信託による事業承継のデメリット

信託による事業承継は一般に広まっていないため、周囲の理解を得ることが難しい可能性がある点はデメリットです。

従来の事業承継と比べて手続き自体はシンプルですが、「後継者=受託者」に通常の事業承継とは異なる法的な縛りが発生します。信託による事業承継が一般化していないだけに、その法的な縛りを警戒して、後継者のなり手が現れない可能性があるでしょう。

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⑤株式上場による事業承継

株式の上場が可能な企業であれば、非上場から上場企業に変わることで会社の体制は一変します。

オーナー経営者の後継者探しなどの観点はなくなり、上場企業として必然的に後継者の発掘・育成・事業承継が進むでしょう。

株式上場による事業承継のメリット

上場企業となれば人材も集まりやすくなり、後継者候補を多くの人物から探し出すことが可能です。後継者側のメリットは、非上場企業のように後継者が株式を買い取る必要がないため、資金を用意せずに済みます。

株式上場による事業承継のデメリット

大前提として、株式上場は、経営状況が数期に渡って好況でなくては望めません。上場の準備には多大なるコストと社内の労力を必要とします。したがって、事業承継を1つの目的として株式上場を検討するのは、限られた一部の会社です。

⑥事業承継できない場合は廃業せざるを得ない

事業承継を実施できなくても、現経営者が経営を続ければひとまず会社を存続できます。しかし、その状況で経営者が突然倒れると、後継者がいない会社は廃業しかありません。

従業員を後継者とすることも可能ですが、株式取得の資金がいるため、経営者の親族に後継者がいなければ、次の経営者を即座に立てるのは困難です。後継者探しは余裕を持って行わなければなりません

能力不足の人が経営者となれば、会社の経営が急速に傾くリスクがあるため、親族内事業承継でも準備期間を十分に設けましょう。

廃業のメリット

廃業のメリットは、まず会社の経営から撤退できることが挙げられます。引退の際に廃業すれば、完全に会社の経営から離れ、精神的な負担がなくなるでしょう。事業承継では会社自体が存続しているので、気になる人もいます。

廃業により健康問題や将来性などの不安から解消されるでしょう。事業承継では後継者育成や統合プロセスなど、長期に渡り多くの手続きをこなす必要があるので、健康問題のために引退するケースでは、負担が重いといえます。事業承継で会社を存続させると、会社の将来を心配することもあるでしょう。

健康問題や将来の不安を解消するために引退する際は、廃業のメリットが大きいといえます。

廃業のデメリット

廃業のデメリットは、会社が消滅するので従業員の雇用ができない点です。従業員の解雇は経営者への精神的負担も大きいでしょう。ただし、従業員の雇用を守るために、本当は廃業したい会社を経営するのはよくありません。廃業を決断する勇気が必要です。

廃業をすると、取引先や顧客との関係がなくなり、迷惑をかけることもある点もデメリットといえます。特に取引先とは、円滑に終了できるよう準備を整えましょう。突然廃業して取引が終わると、取引先に多大な迷惑がかかるので、早い段階から徐々に取引を減らすなどの対策が必要です。

廃業すると、意外に費用がかかるというデメリットもあります。店舗などを賃貸していると原状回復費用がかかり、在庫があれば処分する費用がかかり、解散登記や官報公告のための費用や司法書士や税理士への費用もかかるでしょう。

廃業により借金が残って廃業後も返済に追われるケースがあることもデメリットです。廃業後に個人保証のある負債が残れば、保証人の代表者が返済しなければなりません。ただし、廃業後に借金が残った場合、債務整理で負担を軽くする手段もあります。条件により個人保証を減免できる制度もあるので、積極的に活用しましょう。

廃業と倒産・清算との違い

倒産とは、会社がお金の借り返しができなくなり、もう経営が続けられない状態のことです。これは単に事業を終える「廃業」とは違います。廃業は、経営者が自分で決めて事業をやめることであり、実はうまくいっている会社でも選ぶことができます。

ただ、お金の問題で倒産しそうになる前に、自分から廃業を選ぶことも多いです。なので、倒産と廃業は少し関連があるとも言えます。しかし、「倒産」という言葉は、厳密には法律の専門用語ではなく、破産や再建などの手続きをするときに普通に使われます。

一方で、「清算」とは、会社をきちんと終わらせるために、借金を全部返済して、残った財産を株主などに配る作業のことです。廃業がビジネスの終わりを意味するのに対し、清算は財産と借金の最終処理をさします。

清算には、財産が残っていて借金を返せる「通常清算」と、借金が多くて全部返せない「特別清算」や「破産」という状況があります。

経営黒字でも廃業を選ぶ理由

経営黒字でも廃業を選ぶ理由は主に3つあります。

まずは、経営者が高齢になったのが理由です。高齢をきっかけとして、事業承継やM&Aを検討する経営者が増えています。しかし、自分の代で事業を終わらせる予定の経営者も少なくありません。これも黒字でも廃業を選ぶ理由です。

次に、事業承継ができないといった理由です。事業承継を行うには後継者を見つけなければなりません。しかし、必ず後継者が見つかるわけではなく、事業承継を試みても適切な後継者がおらず、やむなく廃業を選ぶケースもあるでしょう。

M&Aへの知識不足も、経営黒字でも廃業を選ぶ理由の一つです。M&Aは普及してきていますが、M&Aのことがよくわからない中小企業の経営者は今も少なくありません。

明らかにM&Aによる事業承継を選ぶ状況だったのに、M&Aの知識不足により廃業を選ぶケースは多いです。

廃業ではなく事業承継M&Aを推奨する背景

廃業と事業承継M&Aにはそれぞれメリット・デメリットがありますが、事業承継M&Aを選ぶことを推奨します。

事後の収益は、廃業より事業承継M&Aの方がメリットも大きいです。事業承継M&Aでは、株式譲渡か事業譲渡かにより事後の収益が異なり、株式譲渡では株主の経営者が売却益を受け取り、事業譲渡では譲渡企業が利益を受け取ります。ただし、事業譲渡でも、退職金などの形で経営者が利益を得られます。

どの手法も、廃業と違って負債や事業資産の処分を行わないので、事後の収益面では有利になるでしょう。

事業承継M&Aでは、取引先との契約なども続き、従業員の雇用も失わないので社会的な称賛を受けやすいですが、廃業は会社がなくなるので、社会的な称賛の面でメリットはありません。

3. 事業承継方法の選択状況・データ

中小企業庁の資料より、近年、事業承継をした経営者の就任経緯について確認すると、同族承継の割合は減少しており、2020年においては、内部昇格と同水準の34.2%となっていることがわかります。事業承継の方法がこれまで主体であった親族への承継から、親族以外への承継にシフトしてきている状況です。

参考:中小企業庁「2021年版 中小企業白書」

4. 事業承継を行う大まかな流れ

事業承継方法の中で、親族内事業承継と社内事業承継の具体的なプロセスを解説します。親族内承継と社内承継は、大まかに以下のステップで進められます。

  1. 会社の現状分析
  2. 承継方法・後継者の確定
  3. 事業承継計画の作成
  4. 後継者育成
  5. 事業承継の実行

①会社の現状分析

事業承継を検討したら、まずは会社の現状分析から開始しましょう。現状を分析すれば、客観的な会社の現状を把握でき、後継者候補へ「引き継いでほしい会社はどのような会社なのか」を明確に話せます

以下の現状を確認し、どのような強み・弱みがあるのかチェックしましょう。

  • 過去の売上高・利益率の推移
  • 顧客層
  • 取引先
  • 従業員の能力
  • 業界における会社の立ち位置

これらを洗い出し自社の特徴をあらためて考えて、現時点で考えている課題がある場合にはまとめると良いでしょう。直近で解決できる課題であれば、できるだけ事業承継の前に施策を実行し、課題解決することも大切です。

②承継方法・後継者の確定

会社の現状分析に続いて、事業承継の方法(株式譲渡の方法)および後継者を決めます。仮に「会社は子どもに継がせる」と心の内で決めていても、子どもはどのように考えているかわかりません。

すでに子どもを社内で働かせている場合でも、あらためて「いつ事業承継したいのか」を伝えるべきです。お互いの考えに相違がないよう意思の確認を行いましょう。

後継者は子どもなどの親族に限らず、近年は従業員に承継するケースも増えています。事業承継で用いる手段についても、早い段階で後継者候補に対して自分の意思を伝えましょう。

③事業承継計画の作成

後継者が決まったら、後継者とともに事業承継計画を作成することが肝要です。事業承継計画を作成していく折に触れて、経営者として自分は会社をどのように思っているのか後継者に伝えてください。

これまで信念にしてきたことや譲れないことなど、会社・経営に対する思いを伝えると良いでしょう。事業承継計画は、主に以下の内容を記載します。

  • 会社の状況
  • 課題と解決策
  • 事業承継の時期
  • 事業承継の方法
  • 事業承継実行までのタスク・スケジュール
  • 事業承継後の中長期事業計画

これらは、経営者が変わるときに決めておきたい項目です。後継者と一緒に決めて、認識の食い違いが生まれないよう計画書にしっかり記載しましょう。

④後継者育成

事業承継計画が完成したら、実際に後継者育成を行います。後継者育成にじっくり時間をかけることで、事業承継後も安定した経営を行えるでしょう。経営者としての能力を高めるために、外部のセミナーへ行かせるのも良いでしょう。

重要な商談に同席させたり、取引先へあいさつまわりに行かせたりすることも大切です。特に社内業務が経験不足な親族へ事業承継する際は、従業員の行う小さな業務もこなせるようにしましょう。

会社の一連の業務を覚えさせると同時に、業界知識・経営スキルを身につけさせてください。

⑤事業承継の実行

十分に後継者育成ができたら、事業承継を実行します。株式を後継者に譲渡し、経営権を譲る方法です。

基本的には事業承継計画に沿って事業承継を実行しますが、十分に後継者育成ができていない場合は無理に実行するべきではありません。今後の会社のことを考え、「十分に経営者として任せられる」と思えるタイミングで実行しましょう。

事業承継を実行したら、あらためて社内・社外における関係者へのあいさつまわりを行い、経営者が変わったことを周知させることが大切です。

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5. 事業承継を行う際の注意点3選

現経営者としては、是が非でも実行したいのが事業承継でしょう。しかし、焦りは禁物です。事業承継の検討を開始する際は、以下の注意点を把握しましょう。

  1. 後継者の負担が大きい
  2. 株式譲渡すると経営者に税金が発生する
  3. 経営者の資質を持った後継者選び

①後継者の負担が大きい

どのような方法で事業承継をしても、後継者の負担が大きいことをあらかじめ理解しましょう。

  • 親族内事業承継:贈与税または相続税が発生
  • 社内事業承継:株式買い取りの費用が必要
  • M&Aによる事業承継:株式買い取りの費用が必要

親族内事業承継の場合、経営者から後継者への株式譲渡は、贈与もしくは相続により実施されます。このとき、後継者には贈与税または相続税が発生するので注意しなければなりません。

親族以外に承継する場合やM&Aを実施する場合、後継者は株式を買い取るための資金が必要です。会社を買い取るため、それなりの金額を用意しなければなりません。

どのようなケースでも、借入金・個人保証は後継者に引き継がれます。後継者には金銭面で大きな負担が生じる点が、事業承継の大きな特徴です。特にM&A以外の手法で個人へ引き継ぐ場合は、融資が必要な場合もあるため、あらかじめ話し合いましょう。

②株式譲渡すると経営者に税金が発生する

株式譲渡を行うと、現在の経営者に税金が発生します。社内事業承継やM&Aの方法で事業承継をすると、株式を譲り渡す対価を受け取り、譲渡価額から会社の資本金額や株式発行手数料などを差し引いた譲渡所得に対して税金が発生するでしょう。

したがって、事前にどれほどの税金が発生するのか計算するのが重要です。

③経営者の資質を持った後継者選び

経営者にふさわしい後継者選びをしなければ、事業承継後の会社は安定して事業ができません。経営者にふさわしい人を見抜くために、以下のポイントを把握しましょう。

  • 真面目で勤勉に働く
  • 人の意見を聞く柔軟性がある
  • 我慢強さ・忍耐力がある
  • ポジティブに物事を考えられる

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6. 事業承継を成功させるポイント3選

この章では、事業承継を成功させるためのポイントを解説します。

  1. 後継者探しを早くから始める
  2. 後継者育成に時間をかける
  3. 専門家の知識を借りる

①後継者探しを早くから始める

後継者探しを早い段階から始めましょう。引退はまだ先と考えていても、いつ働けなくなるかわかりません。

経営者となった時点で、いつかは事業承継をしなければならないため、たとえ普段の経営が忙しくても、後継者としてふさわしい人物が身の回りにいないか常にアンテナを張ってください

後継者候補を見つけたら、早い段階で「今後、会社を継いでほしい」と打診することも大切です。これは、本人に継ぐ気がなければ、他の後継者を探す必要があるためです。

身の回りにふさわしいと思える後継者がいなければ、M&Aを検討して会社を継続する方法を考えなければなりません。検討期間は長い方が良いため、できるだけ早く後継者探しを始めましょう。

②後継者育成に時間をかける

事業承継を成功させたければ、しっかりと後継者育成に時間をかけてください。後継者育成には5年〜10年程度の期間を確保するべきです。

後継者育成をおろそかにしてしまうと、経営者として1人前でない状態で独り立ちさせてしまいます。これにより、会社の経営がうまくいかず倒産することもあり得るでしょう。

したがって、後継者育成はしっかりとプランを組み、着実に実行しましょう。具体的には、以下の施策を行います。

  • 社員として日常業務を経験させる
  • 経営会議に参加させる
  • 大きな取引先との商談に同席させる

③専門家の知識を借りる

専門家の知識を借りて、事業承継を成功させましょう。相談に行くべき専門家の一例は、事業承継コンサルタントや税理士です。事業承継コンサルタントは、事業承継全般のコンサルタントを行い、事業承継計画の作成や後継者育成のサポートを実施します。

税理士も事業承継の際に欠かせない存在です。事業承継の場面では税金が発生するため、その対応を事前に講じるに越したことはありません。

できるだけ税負担を軽くするために、事業承継計画を立てる段階で節税のアドバイスを受けましょう。思い当たる税理士がいなければ、事業承継コンサルタントに相談すると紹介してもらえます。

7. 事業承継に関する公的支援

先述した事業承継税制も公的な事業承継支援の1つですが、そのほかにも公的な事業承継支援策が用意されています。代表的なものは、以下のとおりです。それぞれ概要を説明します。

  1. 事業承継・引継ぎ支援センター
  2. 事業承継・引継ぎ補助金
  3. 事業承継税制

①事業承継・引継ぎ支援センター

経営者の高齢化および後継者不在の状況は深刻で、さらに新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年における休廃業などの件数は過去最多を記録しました。近年、より強力な事業承継・引継ぎの促進が求められている状況です。

こうした状況の中、中小企業庁は、2020年6月の産業競争力強化法改正に伴って、第三者承継支援を実施していた「事業引継ぎ支援センター」に親族内承継支援を実施していた「事業承継ネットワーク」の機能を合わせた「事業承継・引継ぎ支援センター」を設けました。

事業承継・引継ぎ支援センターでは、事業承継・引継ぎのワンストップ支援が行われています。後継者不在に悩む中小企業の経営者や、事業承継・引継ぎに取り組む中小企業の経営者は、積極的に活用しましょう。

②事業承継・引継ぎ補助金

事業承継・引継ぎ補助金は、事業再編や事業統合を含んだ中小企業における経営者などの事業承継・引継ぎを発端とする新しい取り組みをサポートしたり、廃業にかかる費用の一部を補助したりする補助金です。

事業再編や事業統合に必要な経営資源の引継ぎに要する経費の一部をサポートする事業を行っており、日本の活性化を促進しています。令和3年度補正予算版の制度のポイントは、以下のとおりです。

  • 本補助金の交付申請はjGrants(補助金の電子申請システム)で行う
  • 廃業・再チャレンジ事業を新設

③事業承継税制

事業承継税制とは、一定の要件を満たす経営者から後継者が事業用資産や株式などを相続や贈与で譲り受けた場合に、対象株式などに係る相続税、贈与税を猶予できる制度です。

平成30年度の税制改正では、政府は中小企業の事業承継を後押しするために大きく改正を行いました。10年間の措置として、納税猶予の対象となる非上場株式等の制限の撤廃、納税猶予割合の引上げを新たに加えました。

税制改正の最大のメリットは、「特例承継計画」を提出して一定の要件を満たすと、相続税も贈与税も100%免除になる点です。事業承継税制を活用する際は、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」にもとづく認定が必要です。

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8. 事業承継の事例

本章では、近年の事業承継の代表的な実施事例を方法別にピックアップし、順番に解説します。

親族内承継の事例

まずは、親族内承継の事例として、たかはし式典のケースを見ていきましょう。

たかはし式典は、昭和35年に創業した会社で長年の実績を持っています。主に、葬儀総合サービス事業、葬儀式場管理運営事業、法要準備・ご相談サービス事業、生花・花環の販売事業、仏具・位牌・返礼品・贈答品・分骨用ミニ骨壺・メモリアルペンダントなどの販売事業、仏壇・墓石・寺院・霊園のご紹介事業などを展開しています。

この企業では、後継者が同業他社で経験を積んだ後、39歳のタイミングで事業承継を行いました。事業承継後は従来の運営方法を見直し、見積もりの細かい算出・接客態度の見直しなど、新たな価値観を導入しています。既存事業をブラッシュアップし、時代に即した事業改善の洗い出し・実践に取り掛かっています。

従業員承継の事例

続いて、従業員承継の事例として、イーグルメンテナンスのケースを見ていきましょう。イーグルメンテナンスは、東京都中野区を拠点に、分譲マンション、オフィス・テナントビル、店舗・商業施設、病院などを対象としたビルメンテナンス業を手掛けている企業です。

現社長は、まず学生アルバイトとして入社しました。その後、2016年に先代経営者が倒れた際、資金繰りから従業員への給与支払いまで経理処理がすべて停止する事態に陥りました。

その際、現社長は会社が倒産しないよう1株1円で株を買い取るなど奔走しており、この経験から自ら先代に事業承継を打診し、先代が亡くなる前に社長に就任し、企業存続の危機を救っています。

事業承継M&Aの事例

最後に、事業承継M&Aの事例をご紹介します。

フォーティファイヴのケース

譲渡企業のフォーティファイヴは大阪府でコンテンツ制作、WEB・紙媒体のデザインを手掛ける会社です。

譲受企業のラグザスは、大阪府を拠点にインターネットプラットフォーム事業、「カーネクスト」「忍者CODE」などを展開しています。

譲渡の背景と経緯としては、経営者が60歳を迎えるにあたり、中長期的な経営を考え始めたのがきっかけです。事業は順調でしたが、新たな技術の進展により、現在の規模では将来的な経営の不安定さが懸念されました。こうした課題に対処するため、M&Aを検討するようになりました。

ラグザスに決めた理由は、従業員と事業の維持にあります。特に従業員が安心して働ける環境の維持を条件としました。ラグザスはこの条件を満たし、さらに会社の理念や考え方にも共感できたため、譲渡を決断しました。

【関連】M&A成約インタビュー | M&A総合研究所

日伸運輸のケース

最後に、事業承継型のM&A事例として、日伸運輸のケースを紹介します。日伸運輸は、昭和37年の創業以来、播磨地方の海の玄関口である姫路港を拠点に、JFE条鋼の姫路製造所の物流元請業を中心として、鉄の総合物流業(構内作業、港湾運送業、陸上運送業、内航海運業、倉庫業、通関業)を展開している企業です。

この企業では、事業承継に悩まされた先代経営者が、2015年に事業引継ぎ支援センター(現:事業承継・引継ぎ支援センター)を利用したことをきっかけに、M&Aによる第三者承継が実施されました。

M&Aにおける買収側の東亜物流は、日伸運輸が事業承継を前提に借入金を完済し、無借金経営を行っていた点を高く評価しています。同業者としての信頼感と、コンサルタント・支援センターなど第三者を介したことにより交渉がスムーズに進み、M&Aによる事業承継に成功しました。

「社長の思いを次代へつなぐ!事業承継事例集」の発行について

9. 事業承継の方法とメリット・デメリットのまとめ

事業承継には、以下の方法があります。

  1. 親族内事業承継
  2. 社内事業承継
  3. M&Aによる事業承継
  4. 信託による事業承継
  5. 株式上場による事業承継

それぞれメリット・デメリットがありますが、早めに後継者を決めることでデメリットへの対策が可能です。ふさわしい後継者がいない場合は、早い段階から事業承継・M&Aの専門家に相談し、M&Aによる事業承継も視野にいれましょう。

引退はまだ先だと思っていても、早くから準備を始めることで事業承継の成功率が上がります。M&Aの専門家を頼りながら、事業承継後もさらに成長する会社を後継者に残しましょう。

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