事業承継の課題と現状を徹底解説【中小企業庁のデータ参照】

企業情報第二部 部長
向井 崇

銀行系M&A仲介・アドバイザリー会社にて、上場企業から中小企業まで業種問わず20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、不動産業、建設・設備工事業、運送業を始め、幅広い業種のM&A・事業承継に対応。

中小企業の事業承継の現状を実態調査すると、後継者問題の厳しい現状と課題が見えてきました。本記事では事業承継に関する課題と現状について、実態調査による統計データとともに解説します。事業承継を円滑に進めていく方法もご紹介しましょう。

目次

  1. 事業承継の現状
  2. 事業承継に関する課題
  3. 事業承継の課題を解決できない場合のデメリット
  4. 事業承継の課題の解決策
  5. 事業承継の課題・現状に関する相談先
  6. 事業承継の課題と現状まとめ
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1. 事業承継の現状

中小企業の事業承継に関する厳しい現状は、統計データからも見て取れます。ここからは事業承継の現状と課題を、実態調査による統計データとともにご紹介しましょう。

統計データで見る事業承継の実態調査

まずは事業承継の現状と課題を、実態調査による統計データとともに解説します。

企業数の減少推移

企業数の推移を確認してみましょう。下記のグラフのように、年々減少傾向です。このうち、中小企業は358万者で、内訳は、小規模企業が305万者、中規模企業が53万者です。

2020年版 中小企業白書・小規模企業白書

出典:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/chusho/b1_3_1.html

休廃業・解散企業件数の推移

東京商工リサーチによると、2021年の「休廃業・解散」企業は、全国で4万4,377件(前年比10.7%減)でした。過去最多だった2020年(4万9,698件)から、1割以上減少しています。2021年の企業倒産は6,030件と低水準でした。

これは、コロナ禍における政府からの給付金や、金融機関からの貸付などにより、一時的に減少したものと考えられます。コロナ禍で事業環境が悪化しているにもかかわらず、コロナ関連支援によって継続している企業が多い実態が浮かび上がります。

経営者の高齢化や後継者不足の課題は解消しておらず、今後も休廃業・解散・倒産件数は増加傾向であるといえるでしょう。

東京商工リサーチ「2021年 休廃業・解散、倒産件数 年次推移」

出典:https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20220118_01.html

経営者の平均年齢推移

統計データで見る事業承継の実態調査①

東京商工リサーチ「2021年 全国社長の年齢調査」

出典:https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20210804_02.html

実態調査による統計データを見ると、経営者の平均年齢は年々上がっています。2020年には62.49歳です。今後5年から10年で引退を考えた場合、多くの経営者が今のうちから事業承継に向けて具体的に準備しておかなければ、後継者問題に悩むことになるでしょう。

日本が超高齢社会を迎える点を考えると、社長の平均年齢がこれから下がるとは考えにくいです。今後も平均年齢は高くなっていくものと予想されます。

中小企業経営者の年齢分布

統計データで見る事業承継の実態調査②

中小企業庁「2019年版 中小企業白書」

出典:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap1_web.pdf

中小企業経営者の年齢の統計データを見ると、さらに深刻な現状であるのがわかります。実態調査によると、最も多い年齢層は年々高くなっています。1994年に40代後半だった経営者年齢の山は、2018年には70歳に達する勢いです。ほとんどの中小企業がすでに事業承継していなければ、手遅れになる課題を抱えているといえます。

経営者の高齢化が進むと、年齢を理由に引退を迎える経営者が増えると予想されます。こうした中で、地域社会ひいては日本経済を維持・発展させるためには、新たな経営の担い手の参入や、有用な事業・経営資源を次世代に引き継ぐのが重要となるでしょう。

経営者の年齢別増減収率

統計データで見る事業承継の実態調査③

東京商工リサーチ「2017年 全国社長の年齢調査」

出典:https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20180213_02.html

事業承継の実態調査による統計データで、経営者の年齢と会社の増収率、減収率を見比べてみると、年齢が上がるほど増収率は下がり、逆に減収率は上がっています。東京商工リサーチはこの実態調査から、高齢の経営者ほど過去の成功体験にこだわり、現状に合った施策を打ち出せていない傾向があると分析しました。

後継者がいない場合は、事業への投資が減少するのも要因の一つと見ています。後継者問題は会社の利益率にも影響しているでしょう。

経営者交代による経常利益率の違い

統計データで見る事業承継の実態調査④

中小企業庁「事業承継に関する現状と課題について」(平成28年11月28日)

出典:https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/kihonmondai/2016/download/161128kihonmondai03.pdf

この調査によれば、経営者が交代した企業や若年の経営者の方が利益率や売上高を向上させているのがおわかりいただけるでしょう。計画的な事業承継は成長の観点からも非常に重要であることが示されています。スムーズな事業承継は、会社の成長を促す可能性があります。

経営者の年齢別事業承継準備状況

統計データで見る事業承継の実態調査⑤

中小企業庁「事業承継に関する現状と課題について」(平成28年11月28日)

出典:https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/kihonmondai/2016/download/161128kihonmondai03.pdf

実態調査による統計データで年齢別の事業承継準備状況を見ると、60代以上の経営者の約半数が「まだ準備をしていない」「準備をする予定がない」「事業承継を考えていない」と答えています。

70代、80代の経営者でも、準備が終わっていると回答した企業は半数以下です。事業承継が進んでいない実態が見えてきました。

別の統計データでは、中小企業経営者の平均引退年齢が67歳から70歳で、事業承継の準備に5年から10年かかるとされています。ほとんどの中小企業が準備不足のまま事業承継を進めざるを得ない課題を抱えています。

事業承継の際のトラブルや事業承継後に円滑な会社経営ができなくなるリスクは、会社の経営維持にとって深刻な課題です。日々の業務に追われていたり、まだ大丈夫だろうと事業承継の準備を後回しにしていたりする課題も見えてきます。

後継者の決定状況

統計データで見る事業承継の実態調査⑥

日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2019年調査)」

出典:https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/sme_findings200124.pdf

後継者の決定状況を事業別にまとめた統計データでは、多くの企業が廃業を予定していると答えています。中小企業の事業承継の見通しによると、後継者が決まっており後継者本人も承諾している「決定企業」はわずか12.5%にとどまっています。

後継者が決まっていない「未定企業」が22.0%、「廃業予定企業」が52.6%、「時期尚早企業」が12.9%となるなど、事業承継が進んでいない実態が明らかです。「廃業予定企業」の割合は、2015年調査の50.0%と比べてわずかながら上昇しているのも確認できました。

ここで課題となるのが、事業の将来性はあるのに後継者問題で廃業せざるを得ない中小企業が多い点です。別の統計データでは、廃業を予定していると答えた中小企業の半数近くが、今後事業の継続と成長が可能な状態であると答えています。

将来性があるにもかかわらず、後継者問題によって廃業せざるを得ない課題は、その企業だけでなく取引先企業や地方自治体、国にとっても大きな損失となります。

廃業理由

統計データで見る事業承継の実態調査⑦

日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2019年調査)」

出典:https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/sme_findings200124.pdf

実態調査による統計データを見ると、廃業を予定している理由として、「子どもに継ぐ意思がない」「子どもがいない」「適当な後継者が見つからない」といった、後継者問題が原因の中小企業は3割近くにまで及びました。

統計データにある「当初から自分の代でやめようと思っていた」という中にも、後継者問題が理由の経営者がいるのを考えると、割合はさらに高くなります。

「廃業予定企業」の廃業理由としては、「そもそも誰かに継いでもらいたいと思っていない」が43.2%と最も高い割合なのがわかります。そもそも承継する意思がないわけです。

その一方で、「子どもがいない」「子どもに継ぐ意思がない」「適当な後継者が見つからない」を合わせた後継者難による廃業も29.0%と高い水準です。

そもそも誰かに継いでもらいたいと思っていない理由を詳しくみると、「経営者個人の感性・個性が欠かせない事業だから」(27.2%)、「自分の趣味で始めた事業だから」(20.6%)、「高度な技術・技能が求められる事業だから」(17.7%)など、経営者の属人的な資源や能力に関連する理由を挙げる割合が高いです。

事業承継によって出てくる課題や、事業承継後に後継者が会社を経営していく際の課題が容易に想像できることから、早い段階で廃業を決める経営者が多く見られます。

事業承継方法の選択状況

統計データで見る事業承継の実態調査⑧

中小企業庁「事業承継に関する現状と課題について」(平成28年11月28日)

出典:https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/kihonmondai/2016/download/161128kihonmondai03.pdf

この調査によれば、直近10年では法人経営者の親族内承継の割合が急減しているのがわかります。つまり、会社を身内に承継させていない法人経営者が増えているでしょう。その代わり、従業員や社外の第三者といった親族外承継が6割超に達しています。

経営者の高齢化が進んでいる状況下では、事業承継を円滑に進める必要があります。しかし、多くの法人経営者は親族内承継を希望していないのかもしれません。親族内への承継だけではなく、第三者も含め、親族外承継を合わせて促進する必要があります。

事業承継(後継者)問題の相談相手

統計データで見る事業承継の実態調査⑨

中小企業庁「事業承継に関する現状と課題について」(平成28年11月28日)

出典:https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/kihonmondai/2016/download/161128kihonmondai03.pdf

この調査では、後継者問題の相談相手がいるかどうかをアンケート調査によって明らかにしています。最多の回答としては、「特に相談相手はいない」が36.5%です。事業承継にあたって相談相手がいない経営者が多いのが明らかです。

次いで、「顧問税理士・公認会計士」「社内役員」「親族」となっています。顧問税理士や公認会計士は事業承継の専門家ではないため、適切なアドバイスができていない可能性も考えられるでしょう。

事業承継の3つの方法

事業承継は、誰に事業承継するかによって3つの方法に分かれます。事業承継の方法の違いを解説しますので参考にしてください。

親族内承継

親族内承継では、現経営者が子どもや親族などの後継者に自社株式や事業用資産を相続・贈与の形で事業を承継するものです。相続や贈与で親族に事業承継した場合は、後継者が多額の税金を払わなければならない問題が生じます。

経営者が生きているうちに自社株や事業用資産を事業承継する際は、贈与税がかかるのが普通です。贈与税は、年間110万円までの基礎控除分までは課税されません。基礎控除分を超えると累進課税によって課税されます。

相続税は、亡くなった経営者の財産を取得した場合に課税されます。これも、遺産の総額が基礎控除額を超えた分に対して課税されます。相続税の基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で算出するのが一般的です。

相続税や贈与税が負担に感じる経営者は、事業承継税制によって納税猶予や免除が受けられます。事業承継税制を利用すれば、自社株式の贈与税は全額猶予、相続税は80%贈与を受けられるでしょう。事業承継税制を利用するには、5年間の事業継続要件を満たした上で届出をする必要があります。

親族外承継

会社の役員や従業員などに事業承継する親族外承継の場合は、後継者が経営者から会社の株式を買い取るケースがほとんどです。後継者は株式の買い取りに向けていかに資金調達をするかが課題となります。

資金調達の方法は、銀行からの借り入れや、経営承継円滑化法に基づいて対象の金融機関から借り入れる方法などがあります。後継者候補となる役員の報酬を引き上げる方法も使われるでしょう。

成長性の高い大規模な中小企業の場合は、ファンドやベンチャーキャピタルの支援を得られる場合もあります。

M&Aによる事業承継

親族や社内に後継者候補がいない場合は、M&Aによって第三者に事業を引き継ぐことで後継者問題を解決する方法があります。M&Aを活用する場合は、いかに会社の価値を魅力的にするかが課題です。そのためには、時間をかけて企業価値を上げておく必要があります。

M&Aは、基本的には株式譲渡事業譲渡のどちらかで行われるケースがほとんどです。株式譲渡は株主が変わるだけなので、事業承継後もスムーズに事業を進めやすいメリットがあります。一方で、会社をまるごと引き継ぐことになるので、思わぬ債務やリスクまで引き継ぐ可能性という課題もあります。

事業譲渡では、必要な資産を特定して事業承継を行わなければなりません。事業承継のリスクは少なくなりますが、事業承継後のマネジメントをしっかりと行わなければいけない課題があります。

M&Aを行う場合は専門家の協力がおすすめです。M&Aには、自社の企業価値評価や取引先企業の選定、取引先企業との交渉から取引先企業の調査と、多岐に渡る行程が必要です。

専門家には財務・税務知識や法務知識、コミュニケーション能力や誠実さなど、多くの能力が必要とされます。M&A専門家を選ぶ際は、よく調べてしっかりと話を聞くことが重要です。

M&Aを選択するなら、M&A総合研究所への相談がおすすめです。まずはお気軽にご相談ください。M&A総合研究所では、事前相談を無料で行っています。どのような売却方法、業種であっても対応いたします。

M&A総合研究所では、M&Aに精通した専門のアドバイザーが相手先の選定・交渉・クロージングまでを一括サポートいたします。ぜひ一度お問い合わせください。

事業承継の3要素

後継者問題を解決し、事業承継後も安定した経営を続けるには、3つの構成要素を計画的に進め、後継者に託す必要があります。事業承継の3要素とは「人的承継」「資産承継」「知的資産承継」です。一つずつ解説しましょう。

人的承継

中小企業庁は、人的資産を

  • 経営権
  • 後継者の選定・育成
  • 後継者との対話
  • 後継者教育

としています。経営権を渡す後継者を選定する際は、しっかりとした経営ビジョンを持っているか、経営者となる覚悟はあるか、事業への意欲はあるか、実務能力はあるかなどの評価基準を満たした人材を見つけるのが課題です。

この基準をクリアした上で、社内でさまざまな部門の業務を担当させる、責任ある地位を任せる、現経営者のノウハウや理念を直接伝えるなどの教育をします。他社での経験を積ませて人脈を増やす場合や、自社以外の経営スキルを学ばせる経営者など、さまざまです。

資産承継

中小企業庁によると、資産とは

  • 株式
  • 事業用資産(設備・不動産など)
  • 資金(運転資金・借入資金など)
  • 許認可

をいいます。これらの資産が分散しないように、経営者は前もって個人資産や会社資産を整理しておくことが重要です。特に個人事業主は事業用資産の分散リスクが大きな課題となります。対策していなかったために相続でもめるケースや、事業承継後にトラブルとなる可能性もあります。

これらの資産をスムーズに引き継ぐには、遺言などを法律にしたがってきちんとした形で残すなど、専門家に相談しながら対策をしておくとよいでしょう。

知的資産承継

中小企業庁によると、知的資産とは

  • 経営理念
  • 経営者の信用
  • 取引先との人脈
  • 従業員の技術・ノウハウ
  • 顧客情報

などです。会社の経営理念や経営者の信用などは、数字として目に見えにくい部分といえます。しかし、事業承継後も会社を維持・成長させていくためには重要な課題です。老舗企業などでは、新人研修で会社の歴史を学ばせる会社も少なくありません。

会社の知的資産を後継者へ目に見える形にして伝えれば、それまで会社が築いてきたものを生かせるでしょう。中小企業庁では、知的資産を後継者に伝える課題解決方法として、「知的資産経営報告書」や「事業価値を高める経営レポート」の作成を推奨しています。

経営者と後継者が一緒に作成すれば、理念や思いを伝えられます。

事業承継の手順

経営者が事業承継を検討し始めたら、スムーズでトラブルのない事業承継を進めるためにやっておく課題があります。

事業承継に向けた心の準備

まずは、経営者が事業承継を準備する必要性を実感しなければなりません。実態調査の統計データでも見て取れたように、日々の業務の忙しさや後継者問題に対する認識の薄さ、相談先がわからないなどの理由で、多くの経営者が事業承継の準備に取りかかれていない現状があります。

支援機関に早めに相談するなどして、後継者問題の解決と事業承継の準備に向けた心構えを作りましょう。

経営状況や経営課題の把握

事業承継の準備を進めるにあたって、会社の現在の状況や課題を把握するのが重要です。経営者が頭の中でわかっているだけでは十分ではありません。後継者や従業員とも共有するために、現状と課題の見える化をします。

事業の強み・弱みを洗い出し、会社の体質強化や改善に向けて現状と課題を把握してください。会社の資産と経営者個人の資産を区別し、後継者に何が残せるかをしっかりと分類すれば、後継者の不安が和らげられるでしょう。

他にも、財務状況を詳細かつ明確なものにして、金融機関や取引先との信頼関係をさらに強化するのも重要です。

企業価値の向上

会社の現状と課題が把握できたら、次は実際に企業価値の向上に努めます。会社の強みをさらに磨き上げたり、事業の弱みを強みに変える方法を見つけ出したり、業務の効率化を進めたり、従業員のモチベーションを上げたりと、やらなければいけない課題は多岐に渡ります。

ここまでが事業承継準備の前段階となります。ここからは実際に事業承継に取り組んでいきます。

事業計画立案策定

事業承継に向けて、事業承継計画を作成します。事業承継計画では、会社の10年後を見据えて経営方針を固めていくのがポイントです。事業承継計画を作る際は、経営者が1人で考えるのではなく、後継者候補や従業員も巻き込んで効果を高めます。

具体的には、

  • 会社の中長期目標
  • 事業承継に向けた経営者の行動
  • 事業承継に向けた後継者の行動
  • 事業承継に向けた会社の行動
  • 関係者との事業承継計画の共有

という過程を踏んでいきます。会社の中長期的な計画やビジョンを作る際は、大まかな方向性だけでなく具体的な数値も決めておきます。中長期の事業計画が決まったら、経営者が行動を起こします。具体的には、後継者の選定、専門家への相談、後継者の教育、関係者への公表などです。

事業承継計画は、取引先や金融機関などにも共有して、事業承継後の経営や後継者に対する信用を得られるようにします。

後継者選定・育成

経営者が後継者を選定して事業承継計画も完成したら、続いて後継者も行動を起こします。社内外でさまざまな知識や実務を学びながら、経営者としての能力と社内外の関係者の信用を得ていきます

地方自治体の経営者を育成するセミナーに参加するのも効果があるでしょう。事業承継の際に発生する相続税や贈与税への準備を同時並行で進めます。

企業資産整理

企業資産の整理とは、主に経営権の分散を防止するための準備を進めることです。具体的には、定款を変更し、経営者へ退職金を支給するための資金準備も始めます。自社株の集約や、経営者の資産と会社の資産を明確に分ける作業も必要です。

【関連】個人事業をM&Aで事業承継する方法と問題点まとめ!

2. 事業承継に関する課題

事業承継に関する課題は、人、お金、法律などさまざまな範囲に及びます。事業承継の際に起こり得る課題を解説します。

①後継者問題

中小企業の後継者問題は大きな課題です。後継者となる意思を持った人間がいない、後継者としてふさわしい資質を持った人間がいないなど、多くの中小企業が後継者問題で悩んでいる現状があります。

見つからない

後継者問題の課題として、後継者が見つからない課題があります。以前までは、中小企業の事業承継といえば経営者の子どもや親族が引き継ぐケースがほとんどでした。近年は事業承継したがらない子どもが増えています

その理由として挙げられるのは、仕事は自由に選ぶものという社会の風潮によって、経営者が無理に継がせようとしなくなった点です。子どもが家業に魅力を感じていない点や、経営者や子ども、親族が事業承継のリスクに不安を感じている点なども挙げられます。

社会の変化が早い現代では、今は事業が順調でも数年後にはどうなっているかわかりません。先行きの不透明さも事業承継をためらわせる要因となっています。

資質・能力不足

後継者の資質や能力不足によって事業承継ができないケースもあります。中小企業基盤整備機構が行ったアンケートによると、後継者の育成に必要な期間は5年から10年と答えた経営者が半数を超えました。

子どもや親族を後継者として育てる準備ができている企業は多くありません。日々の仕事に追われ、後継者の育成を先送りにしている経営者も多くいます

社内の優秀な従業員や役員を後継者として事業承継するケースも増えていますが、経営者としての資質がなかったために従業員や顧客からの信頼を失ってしまう事例も見られます。後継者の経営者としての能力をどうやって伸ばすかが後継者問題の課題でしょう。

②廃業件数が増えている

東京商工リサーチによると、企業の倒産件数は2008年以降減少し続けているのに対して、休業・廃業件数は増加傾向にあります。

2016年には休業・廃業件数が過去最高となりました。2017年は前年と比べて休業・廃業件数が減少したものの、このまま減少を続けるかどうかは不透明な状態です。

理由

廃業件数が増えている理由として、経営者の高齢化があります。東京商工リサーチの調査によると、2019年に「休廃業・解散」した企業の社長の平均年齢は69.61歳です。それに対して、社長の年齢分布は70代以上が構成比30.37%で初めて最多レンジとなりました。

多くの中小企業経営者がまもなく引退年齢を迎えるか、すでに超えている現状です。当初から自分の代で廃業しようと考えていた経営者も多く見られます。事業承継の課題は深刻な状況といえるでしょう。

③税負担が大きい

事業承継で後継者に資産を引き継ぐと、後継者が贈与税や相続税を負担しなければなりません。税負担を軽減する制度もありますが、さまざまな条件があるため、あらかじめ専門家に相談するなどしてしっかりと対策しておく必要があるでしょう。

しかし実際は、ぎりぎりまで対策していなかったことで、税金の支払いに苦しむことになるケースもよくあります。経営者が自分の子どもや親族に税金を負担させることを苦痛に感じる場合や、子どもが税負担を理由の一つとして事業承継を嫌がることもありますので、早めに対策を講じましょう。

事業承継税制のデメリット

事業承継税制とは、後継者が自社株式を相続や贈与で取得した際に、一定の条件を満たせば納税が猶予されたり免除されたりする制度です。適用されれば非常にメリットのある制度です。

ただし、手続きが面倒な点や適用条件が厳しい点はデメリットといえます。申請したものの、最終的に適用条件を満たせなかった事例も多く見られます。

平成29年度の税制改正によって条件が緩和されました。以前よりも適用条件を満たしやすくはなっています。それでも申請すれば適用されるわけではないので、課題の残る制度といえるでしょう。

④個人保証の引き継ぎ

中小企業が銀行からお金を借りる際は、経営者が連帯保証人として個人を保証するため、円滑に融資がもらえるメリットがあります。しかし、この個人保証が、事業承継を妨げる課題にもなっています。

事業承継の際、後継者にも個人保証が継続されるため、後継者が負債を抱えなければなりません。後継者に負債を抱えさせないように、経営者は銀行に個人保証を外してもらうようにお願いします。しかし、銀行としては、後継者の信用度に不安があるため、個人保証の解除に消極的でした。

この課題を解消するために、日本商工会議所と一般社団法人全国銀行協会が「経営者保証ガイドライン」を策定しました。中小企業の経営状況によっては、個人保証を解除するように求めるものです。

経営者保証ガイドラインに強制力はありません。しかし、銀行が個人保証の解除に応じる場合や、解除はされなかったものの理由を具体的に説明してもらえるケースが増えつつあります。課題は残っているものの、以前よりは改善されています。

⑤自社株買い取りのための資金不足

親族や従業員が事業承継する際は、相続や贈与によって自社株を取得します。役員や従業員などが事業承継する場合は、現経営者から自社株を買い取る形がほとんどです。この買取資金の調達が後継者にとっては課題となります。

資金調達の方法は、多くが金融機関からの借り入れに頼ります。しかし、経営者の交代は会社の信用力低下につながるため、借り入れが難しくなる懸念があるでしょう。

この課題に対処するために、「経営承継円滑化法」が活用できます。資金不足が原因で事業承継が困難の中小企業を対象に、都道府県知事の認定によって金融支援が受けられる制度です。

都道府県知事や金融機関などの審査は必要になりますが、これによって自社株買い取り資金の融資が受けやすくなります。

⑥経営権の分散

事業承継する際は、前もって後継者に自社株式を集中させておかないと、さまざまな問題が生じる危険性があります。少数株主から株式買取を要求される場合や、突然経営者や役員に対して株主代表訴訟を起こされるなどのリスクがあるでしょう。

あらかじめしっかりと自社株式の分散防止対策を打っておかないと、株式を後継者に100%集中させるのは難しいです。経営権を集中させるためにはさまざまな方法があります。自社株式の生前贈与や安定株主の導入、遺言の作成などが対策となります。

これらの対策には専門家のアドバイスが欠かせません。それにはお金も時間もかかります。そのうち準備するつもりでいながら、いつのまにか手遅れになってしまわないように注意しましょう。

⑦株式が集まらない

前述したような、事業承継によって株式が分散してしまう課題の他にも、株式が集まらない課題もあります。平成2年以前に設立された株式会社の場合は、他人名義で取得した名義株の株主が存在する場合があるので特に注意が必要です。

名義株主の所在が不明なまま放置していると、突然名義株主が現れて権利を主張し、トラブルになるケースもあります。株主名簿に名前はあっても現在の所在地がわからずに連絡が取れないとケースは、会社の設立が古いほど発生しやすい課題です。

所在不明の株主が多いほどリスクは高まります。5年以上連絡が取れない株主の株式は処分が可能です。しかし、条件や手続きが複雑なので、弁護士への相談が必須となります。

⑧従業員の雇用維持

近年は親族や社内の人間ではなく、M&Aを活用した第三者への譲渡も事業承継の別の形として受け入れられるようになってきました。経営者が第三者に会社を譲渡する際の心配事として、従業員の雇用が守られるかどうかは大きな課題でしょう

他の企業に事業を承継するとさまざまな課題が生まれます。労働条件の変化や業務内容の変更、経営方針の転換などによって、従業員がこれまでよりも悪い条件で働かされるケースや、会社を辞めざるを得なくなることもあります。

【関連】中小企業庁の事業承継マニュアルを徹底解説!

3. 事業承継の課題を解決できない場合のデメリット

経営者の高齢化、後継者問題、廃業件数が増加傾向である点など、さまざまな課題が見えてきました。これらを解決できない場合、どのようなデメリットが考えられるでしょうか。

日本では、全国の企業のうち中小企業が圧倒的な割合を占めています。日本経済を支えているのは中小企業といえるでしょう。その中小企業が事業承継できずに、このまま休廃業が進めば、日本経済全体の縮小が進むことは容易に予想できます。

休廃業などにより会社が存続できないとなれば、これまで培ってきた技術やノウハウ、雇用が失われてしまいます。これは日本全体の生産性低下の問題といえるでしょう。

これらの課題を解決すべく、早期の事業承継対策が急務といえるでしょう。

4. 事業承継の課題の解決策

事業承継に関する実態調査結果や課題をご紹介してきました。これらの課題を専門家の助けなしに解決するのは難しいでしょう。課題に応じて適切な専門家に相談するのが必要です。

経営者にとって身近なところでいえば、商工会議所や地元の銀行、顧問税理士や弁護士、公認会計士が相談しやすい相手となります。国の支援機関では、各都道府県に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターや、よろず支援拠点が相談に応じてくれるでしょう。

M&Aによって、第三者に事業を引き継ぐ場合は、M&A仲介会社が課題を解決してくれます。専門家の力をうまく使っていくのが、事業承継の成功につながります。

5. 事業承継の課題・現状に関する相談先

事業承継に関する課題は、それぞれ適切な機関に相談する必要があります。中小企業庁が出している事業承継マニュアルでは、課題ごとの相談先を紹介しています。
 

承継準備を始めるには 商工会・商工会議所、中央会、金融機関、 士業など専門家、よろず支援拠点
承継前の総点検をするには 商工会・商工会議所、中央会、士業など専門家、 よろず支援拠点
後継者に対する教育は 中小企業大学校
相続税・贈与税の相談 税理士
株価に関する相談 士業など専門家
資金調達(株買取)の相談 金融機関、信用保証協会
個人保証を外すには 金融機関、中小機構
債務を整理するには 金融機関、中小企業再生支援協議会、 弁護士
承継後の事業見直しをするには 商工会・商工会議所、中央会、士業など専門家、 よろず支援拠点
後継者を探すには 事業承継・引継ぎ支援センター
円滑に廃業するには 士業など専門家、商工会・商工会議所、 よろず支援拠点

事業承継には親族内承継、親族外承継、M&Aによる事業承継などさまざまな方法があります。M&Aによる事業承継の場合、まず相手先を探さなければなりません。

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6. 事業承継の課題と現状まとめ

事業承継の課題と現状を、実態調査による統計データも見ながら、さまざまな面からご紹介してきました。経営者の高齢化が進み、多くの中小企業が今すぐに事業承継の準備を進めなければ間に合わない状況です。

しかし、後継者がいない深刻な課題もあり、中小企業の廃業件数は増え続けています。経営者にとって事業承継の課題は大きな不安ともなるため、早い時期から計画的に進めておくことが大切です。

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