事業譲渡による社員・従業員への影響まとめ!処遇・退職金・給与はどうなる?

会計提携第二部 部長
向井 崇

銀行系M&A仲介・アドバイザリー会社にて、上場企業から中小企業まで業種問わず20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、不動産業、建設・設備工事業、運送業を始め、幅広い業種のM&A・事業承継に対応。

事業譲渡・事業売却に際して、事業の売却側と社員・従業員の雇用関係は終了します。社員・従業員は一時的に退職となり、社員・従業員が退職してしまうケースもあります。本記事では、事業譲渡・事業売却と退職金や給与など待遇面のポイントをまとめました。

目次

  1. 事業譲渡と社員・従業員の関係性
  2. 事業譲渡による社員・従業員の雇用契約の取り扱い
  3. 事業譲渡に伴う社員・従業員の退職
  4. 事業譲渡における社員・従業員との労働契約の引き継ぎ
  5. 事業譲渡における社員・従業員の移籍に関する失敗例
  6. 事業譲渡で社員・従業員のリストラは可能か?
  7. 事業譲渡で社員・従業員とのトラブルを回避する方法
  8. 事業譲渡による社員・従業員への影響まとめ
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1. 事業譲渡と社員・従業員の関係性

事業譲渡の際、売り手企業側の社員・従業員における処遇のポイントは、以下のとおりです。

  • 労働契約は引き継がれないものの、その後も働き続けるケースが多い
  • リストラされるケースもないとはいい切れない
  • 退職する際は、売り手企業が支払う

今回は、社員・従業員の処遇を詳しく解説します。

事業譲渡で労働契約は引き継がれないため、成立前の条件交渉が大切です。もちろん、自分たちで交渉できますが、法律が絡むため後々トラブルに発展するケースも珍しくありません。事業譲渡によるM&Aの際は、M&A仲介会社、アドバイザリーに実務をサポートしてもらいましょう。

本記事を読んで、「自分で交渉するのは難しそう」「専門家の力を借りたい」と感じた方は、M&A総合研究所へご相談ください。

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事業譲渡とは?

事業売却とは、会社における一部の事業のみを売却する取引です。一方、事業譲渡はM&A手法の1つですが、中小企業の場合、事業売却といえば事業譲渡の手法で行うM&Aです。本記事では、事業譲渡を事業売却の同義として話を進めます。

事業譲渡・事業売却では、売却する事業のなかでも、売却する商品や工場、権利を決めて売る点が特徴的です。

事業譲渡・売却は、事業の売却をしたい会社が、事業を買収したがっている会社に対して売る形式です。事業譲渡・事業売却では売却で得られる対価は会社が受け取ります。

事業譲渡の特徴

事業譲渡の大きな特徴として、必要な事業のみを得られる点が挙げられます。事業譲渡では、買収側が譲受したい事業の範囲を選べます。負債や債務を引き継ぐリスクが少なくなり、本業とシナジー効果が期待できる事業や強化したい事業だけを選べるでしょう。

従業員が基本的に働き続けられる点も、事業譲渡の特徴といえます。買収側が人材を引き継ぐかどうかは任意で、売却側のノウハウや従業員などを含めたすべてを引き継ぐ、あるいはノウハウや特許のみに限定することが可能です。

売却側は事業のみ売却して従業員を別の部署に据える選択もあり、引き継ぐ労働者の選定も認められています。どの方法でも、従業員が解雇される場合は、事業譲渡以外にも合理的な理由が必要で、理由がなければ雇用は引き続き保たれるでしょう。ただし、残すものと引き継ぐものについて、売却側と買収側は慎重に話し合う必要があります。

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事業譲渡による社員・従業員への影響【簡単まとめ】

取得企業で事業譲渡を成功させるためには、法的な組織再編行為だけでなく、取得する事業の仕事に従事する従業員への対応も重要です。取得する事業にも、当然、特有の組織文化、賃金体系、システムなどが存在しています。

これらを無視し、事業を取得する企業が自分たちの方法やルールを押し付けてしまうと、売却された事業にもともと従事していた従業員の生産性にも影響を与え、最悪の場合は従業員が辞めてしまいかねません。取得事業に従事する従業員とコミュニケーションを取り、十分な説明を行いましょう。

事業を受け継いでも、大切な従業員が辞めてしまうと、その事業の価値は低くなり、譲受側でも受け継いだ意味がなくなってしまいます。

事業を譲渡するときは、経営層の役員だけでなく、従業員にも適切なタイミングで情報を伝えることが大切です。そうすることで、新しい雇用契約もスムーズに進められます。

事業譲渡で社員・従業員が受けるメリット

事業譲渡によって、引き継がれる社員・従業員が受けられるメリットは、主に2つあります。

  • 新しい雇用機会の創出
  • 組織構造の変化

新しい雇用機会の創出

事業の売却先となる会社が異なる業界にある場合、事業売却によって売り渡された事業に従事していた会社の従業員には複数のメリットがもたらされます。例えば、スキルのある社員や変化を利用できる社員には、昇進や新たな仕事を得られるチャンスがあるでしょう。

事業売却に伴う社内の再編により、以前の上司よりも楽しく仕事ができる新たな上司やマネージャーが現れるケースもあります。

組織構造の変化

事業売却は、事業に新たなアイデアをもたらし、衰退しつつある組織に新しい息吹を吹き込む機会となります。事業を引き受ける会社は、旧会社よりも財務的に安定しているかもしれず、それによって雇用の安定感が増すかもしれません。

新たな会社組織でトレーニングを受けたり、個人のキャリア目標を達成したりするチャンスを得られる可能性があります。新会社では、雇用を減らす代わりに、雇用を増やす必要性すらあるでしょう。

新会社は異なる企業文化を提供し、従業員と会社全体にポジティブな変化をもたらす可能性があります。

キャリアパス上のメリット

譲受側企業に移籍する場合も、事業譲渡後の譲渡側企業に残留する場合も、所属する組織の構造は変化します。社員・従業員のキャリアパスには少なからず影響が及ぶのが一般的です。とりわけ、大企業に事業譲渡するケースでは、雇用の安定化やキャリアパス拡大などのメリットが期待できます。

事業譲渡で社員・従業員が受けるデメリット

事業譲渡によって、引き継がれる社員・従業員が受けられるデメリットは、主に以下の2つです。

  • 雇用保障の必要性
  • 社員の士気の低下

以下で詳しく説明します。

雇用保障の必要性

事業譲渡では、社員・従業員の雇用保障がデメリットとして立ちはだかります。事業を引き受ける新会社は、同じ業界であれば、事業を引き受けた会社で働く社員・従業員と同じ仕事をしている人がすでに十分いるかもしれません。そうなると、余剰人員が発生して、整理解雇などの措置が必要となる可能性があります。

事業売却の際は、雇用関係に関する不確実な期間が、売却される会社の従業員にとって不利に働く可能性が高いです。この場合、社員・従業員の新組織に対する信頼感やコミットメントが低下し、新会社がもたらす変化に対して抵抗感も持つ可能性が高まります。

社員の士気の低下

事業譲渡による組織再編では、社員・従業員の士気が極端に低下する場合があります。不安定な雇用状況の中で、社員・従業員は会社で働く気力やベストを尽くす気力を失ってしまうケースが多いです。

新会社では、福利厚生や従業員プログラムが削減される可能性があり、この点がさらに社員・従業員の士気に悪影響を及ぼすおそれがあります。譲渡側企業の社員・従業員は、やる気を失い幻滅してしまうケースもあります。

士気の低下により、社員・従業員が事業売却による変革が完了する前に会社を辞めてしまうケースもあるため、注意が必要です。

2. 事業譲渡による社員・従業員の雇用契約の取り扱い

事業譲渡・事業売却を行いたいものの、「社員・従業員はどうなるの?」と心配になる経営者は多いでしょう。特に中小企業は、社員・従業員は家族に近い存在と捉えているケースが多く、不安に感じるのは当然といえます。

そこで本章では、事業譲渡・事業売却をした場合の社員や従業員の待遇を解説します。事業譲渡・事業売却による社員・従業員における待遇の主なポイントは、以下のとおりです。

  1. 基本的にはその後も働き続けられる
  2. 労働契約は引き継がれない
  3. 移籍に反対する社員への対応
  4. 退職社員への対応

①基本的にはその後も働き続けられる

事業譲渡・事業売却により、社員・従業員は買い手側に引き継がれるのが一般的です。事業譲渡・事業売却後、自社における社員・従業員の待遇は賃金の上昇など改善される事例が多く、その理由は以下の2つになります。

  • 買い手企業は売り手企業より経営資源が豊富
  • 経験やスキルが豊富な従業員は優遇される

1つ目は、買い手企業は売り手企業より経営資源が豊富であるためです。会社売却後、譲渡側の社員・従業員における給料形態は買い手側に沿う場合がほとんどで、給料が改善されるケースが多いです。職場環境が整備されているため、スキルアップのチャンスも豊富に存在します。

2つ目は、経験やスキルが豊富な社員・従業員は優遇されるためです。譲受側は、譲渡側が持っている専門分野のノウハウ・スキルを得るために事業譲渡するケースがほとんどです。売り手側の従業員に専門分野のノウハウやスキルがあると、優遇される傾向にあります。

リストラされるケース

日本には従業員・社員を容易にリストラしにくい風潮がありますが、リストラされてしまうケースもゼロではありません。従業員のリストラを行えない契約ではない場合、売り手側の社員をリストラできます。買い手側が必要以上に売り手側から人材を引き継いだ場合、売り手側における従業員のリストラが考えられます。

買い手側が必要とするノウハウを持つ従業員をリストラするケースは、ほとんどありません。しかし、買い手側が求める専門性を持っていない事務職の従業員である場合、専門性を持つ従業員と比べてリストラされやすいでしょう。

再雇用されるケース

従業員が売却側の企業を退社し、買収側に再雇用されるケースが再雇用です。事業譲渡では、転籍する従業員の待遇はそのまま引き継がれることがほとんどですが、再雇用を選ぶと買収側は従業員の雇用や待遇を決められます。

売却側と買収側の労働条件に大きな開きがある場合、再雇用が選ばれます。買収側は、労働契約の違いを整えられるので、好都合です。ただし、選択には売却側・買収側・従業員の同意が必要で、誰かが拒否すると契約は不成立となります。

②労働契約は引き継がれない

事業譲渡・事業売却における労働契約の承継では、売却側と買収側が合意したうえで、買収側に移籍・転籍させる社員における個別の同意書が必要です。

事業譲渡・事業売却では権利・義務が包括的に承継されず、事業を構成する個々の権利・義務(債権債務、不動産、動産)における承継には、売却側と買収側、債権者(労働契約の場合は社員)の同意が必要となります。

③移籍に反対する社員への対応

事業譲渡・事業売却時に買収側が新たに結びたい労働契約は、従業員の同意書を得られなければ締結できません。その従業員が事業譲渡に不満を持っていれば転籍を拒否し、結果的に離職してしまうおそれがあるため、注意が必要です。

買収側が従業員と新たな契約を結べない場合、売却側の雇用契約で予想される範囲内の人事異動で、労働条件に不利益がない場合は売却側に籍を置いたまま出向を命じられます。移籍・転籍に反対する社員は、売却側から買収側への出向で対応するケースも考えられます。

ただし、移籍や転籍に反対する社員を排除する措置は、従業員の組織におけるコミットメントや信頼を著しく損なうケースが多いです。会社に残るケースでも、従業員の士気が低下していれば、想定していたパフォーマンスを得られない可能性があります。

配置換えを要望

従業員が転籍拒否をし、「売却する事業でなくてもよいから売却側の会社に残りたい」場合の要望として、売却側企業内での配置換えが出てくるケースがあります。

転籍拒否した従業員本人の適正と会社や事業における人員の過不足を勘案し、転籍拒否した従業員の要望が可能であれば、それをかなえるのは難しくありません。

気をつけるべき点は、転籍拒否をした特に長くキャリアを積んできた従業員ほど、新たな配置先での職位や給与などに関して従来の延長線上における待遇では了承しないケースが多いことです。転籍拒否した従業員や新たな配置先と十分に話し合ったうえで、丁寧に調整しなければなりません。

給与など待遇面で折り合いがつかない場合、最悪のケースでは社員・従業員が離職する可能性もあるため、注意が必要です。

退職願い

転籍拒否した従業員が自発的に退職願いを提示し、退職の意思を示すケースがあります。

転籍拒否した従業員が自発的に退職願いを出した場合、従業員都合(自己都合)退職にみえるものの、事業譲渡のタイミングで譲渡対象事業に勤務している従業員は「買収側に行かない場合は退職しか選択肢がない」状況になったとみなされる可能性があります。

注意して対処しなければ、労働関係のトラブルが発生した場合に、実質的な解雇として売却側の会社が不利になりやすいです。解雇の形を取らざるを得なかった場合は「解雇予告手当」などを支払う必要があり、自己都合退職よりも従業員の退職に際して費用がかさみます。

買い取った事業に従事していた社員・従業員を解雇する場合は、想定以上のコストがかさむケースがあるため、注意が必要です。

社員を移籍させる際の注意点

従業員の移籍に際しては、雇用者が変わるため、一人ひとり個別に雇用契約を結ばなければなりません。これは、事業売却・譲渡後のプロセスで最も重要なプロセスといっても過言ではありません。引き継ぐ従業員における士気の低下を回避しなければ、想定したシナジー効果が得られない可能性があるためです。

引き継ぐ社員・従業員の労働条件は、前企業のものと異なっていて当然です。したがって、雇用されていた企業の労働条件と新会社における労働条件の擦り合わせを行う必要があります。雇用条件は、売却・買取前に十分にコミュニケーションを取らなければ、思わぬトラブルを引き起こす可能性があるため、注意が必要です。

④退職社員への対応

事業譲渡・事業売却で、従業員との雇用契約は買収側に引き継がれないため、買収側企業に移籍・転籍させる従業員との雇用契約は一時的に終了するのが基本的です。当該従業員にとっては退職になります。

この場合、それまでの給与や退職金などは、売却側の会社が支払わなければなりません(退職金は、買収側で在籍期間を通算させる取り扱いも多い)。買収側では、買収側に移籍・転籍する各従業員と個別に雇用契約を結ぶ必要があります。

ただし、事業譲渡・事業売却の場合、基本的にその事業が継続され、従業員の仕事内容も従前どおりであるケースがほとんどです。買収側は、賃金・就業時間・就業場所などの要素が移籍・転籍前までと同じ条件で雇用契約を結ぶのが一般的です。

【関連】事業譲渡の手続きやスケジュール・流れを徹底解説!期間はどれぐらい?

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3. 事業譲渡に伴う社員・従業員の退職

ここでは、事業譲渡・事業売却で、従業員・社員が買収側への移籍・転籍に合意し転籍同意書を出した場合と出していない場合における退職の注意点を整理します。

退職期日

基本的に、退職日は売却側での雇用契約が切れた時点です。ただし、転籍同意書を交わしている場合は、個別に相談して日にちを変えることが可能です。

一方、従業員・社員が自発的に退職の意志を示した場合の退職日は、本人と相談して決められます。解雇の形を取らざるを得ない場合は、解雇日の30日前に解雇予告を行うのが原則です。

退職金について

事業譲渡・事業売却における転籍同意書を出した従業員・社員(買収側に移籍・転籍する社員)における退職金の取り扱いは、事業譲渡・事業売却時に退職金を払う方法と、買収側に引き継いでもらう方法があります。

転籍拒否し自ら退職する従業員・社員への対応は、通常の退職時における退職金支払いと同じであるため、ここでは割愛します。

退職金を支払う対応

事業譲渡・事業売却の際、買収側に移籍・転籍する従業員の退職金は売却側が支払うので、通常の退職金支払いと同様です。買収側に新たな退職金規程がある場合、従業員・社員は新たにその規程に沿います。

退職金を買収側が引き継ぐ対応

これは、転籍同意書を出し移籍・転籍する従業員・社員が事業譲渡・事業売却における売却側での勤務時に発生している退職金受け取りの権利を、買収側が引き継ぐ対応です。

売却側は従業員・社員本人に退職金を支払わなくても、退職金相当分は買収側に支払う(もしくは事業譲渡の売却金額から相当分を割り引く)対応が必要となるのが一般的です。

退職金の支払いにおける注意点

退職金の精算は売却側の規定にもとづいて支払われ、買収側が引き受けるケースでも売却側の規定が適用されます。

退職金の所得税控除金額は、勤続年数により変わる点にも注意が必要です。勤続20年までは「40万円×勤続年数」となります。その金額が80万円に満たない場合は、80万円の支払いです。勤続20年超の場合は20年までの控除800万円に足して、さらに「70万円×(勤続年数-20)」の額が退職金額から控除されます。

事業譲渡は転籍扱いであるため、転籍前の企業で19年、転籍先で15年働いた例ではトータルの勤続年数が34年なので20年以上です。転籍で勤続年数がリセットすれば、控除金額が減額となり手元に残る金額が減るケースがあります。

上記の取り扱いは、従業員が以前の会社での勤務期間と新たに勤める企業での勤務期間を合算し、その合計を退職手当の計算に使用するものです。ただし、この計算方法は退職手当やその他の支払いの金額を決定する際に適用される場合、新しい企業の退職給与規程に明確に記載されている必要があります。

転籍同意書とは

「使用者は労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない」と民法第625条第1項(使用者の権利の譲渡の制限等)にあります。

手続きは、対象者の同意がなければ実施できません。売却側は対象者へ、原則、転籍同意書を提出してもらいます。転籍同意書は、ひな型を用いることが可能です。

退職の際の手続き

売却側の従業員・社員が事業譲渡によって買収側への移籍・転籍に転籍同意書で合意している場合、当該従業員・社員は売却側を一時的に退職するものの、買収側への引き継ぎは特段の事情がなければ事業譲渡後にスケジュールを作れます。

ここからは、転籍拒否して退職する従業員・社員に、買収側における従業員・社員への引き継ぎ業務があるのか・ないのかに分けて手続きをまとめます。

事業譲渡による引き継ぎがない

事業譲渡・事業売却により転籍拒否した従業員・社員が退職する際に、買収側との引き継ぎ仕事がない場合、通常の売却側社員間(買収側に移籍する社員)での引き継ぎ仕事を行ってもらった後で退職してもらうのが一般的です。

このケースでは、通常の退職における場合と変わりません。ただし、社員間の引き継ぎにかかる当事者のスケジュールより前から、「事業譲渡日=引き継ぎ期限」が決まっている点に注意が必要です。その期日を過ぎてしまうと、退職する従業員・社員はその職場における従業員・社員ではなくなります。

通常の退職よりも期限の融通が利かない点を頭に入れておきましょう。

事業譲渡による引き継ぎがある

対応がやや複雑になるのが、売却側の退職する従業員と、買収側の従業員・社員で引き継ぎ仕事が発生する場合です。

この場合は、買収側の従業員・社員に、売却側における従業員の仕事に事業譲渡日前からかかわってもらう形で進めるのが最もスムーズと考えられます。買収側の社員であれば事業承継によって雇用関係は変わらないうえ、業務の一環として従業員・社員に依頼するハードルは低いです。

事業譲渡日を過ぎても買収側における従業員・社員との引き継ぎがある場合は、売却側で退職する従業員・社員と引き継ぎによって退職日が事業譲渡日より後になることをあらかじめ合意しておく必要があります。事業譲渡される事業所で引き継ぎを行う場合、事業譲渡日が過ぎたら別の会社となるため、短期間の出向に近い取り扱いです。

もしくは、事業譲渡日において退職の手続きを取った後に売却側か買収側で引き継ぎのための短期間の雇用契約を結ぶ方法もありますが、転籍拒否した従業員・社員側の同意を得にくい点に注意しましょう。

4. 事業譲渡における社員・従業員との労働契約の引き継ぎ

事業譲渡・事業売却で買収側に移籍した時点で、売却側と従業員の雇用関係はリセットされます。したがって、買収側が転籍同意書のもとで移籍した従業員と、新しい雇用契約を額面どおりに結ぶと、従業員が売却側での勤務時に持っていた有給休暇の権利はなくなります。

しかし、転籍同意書のもとで移籍する社員のケースも考えて、こうした対応は取らないのが一般的です。基本的には、売却側での勤務時に得た権利は、そのまま買収側に引き継いで対応します。これは有給休暇も例外ではありません。

給与・待遇の引き継ぎ

事業譲渡・事業売却では、買収側と転籍同意書を出し移籍する従業員で、新たに雇用契約を結び直すのが普通です。雇用契約は、従来の給与や退職金が、そのまま反映されないかもしれません。場合によっては、給与や退職金が大きく減少するケースも考えられます。

しかし、新しい雇用契約のもとで、企業が必要とする人材を逃してしまったり、不安や不満を与えて業務効率が落ちたりすると、M&Aを行ったメリットが薄れてしまいます。

買収側が必要な社員に残ってもらうために、これまでの給与や退職金を保証するケースは珍しくはありません。不平等な賃金体系などはモチベーションの低下などにもつながるため注意が必要です。適切な処遇をしっかりと検討しましょう。

有給休暇の引き継ぎ

事業を引き継ぐ場合、原則として、その債務も買い手企業が引き継がなければなりません。したがって、社員・従業員の権利である有給休暇も、労働者の権利として会社は引き継がなければなりません。

ただし、有給休暇の引き継ぎは、広い意味で労働条件の交渉に含まれるため、社員・従業員と新会社との交渉によって取り決められるのが通例です。

未払い賃金の引き継ぎ

事業譲渡前の段階で、社員・従業員に対して未払い賃金(サービス残業の賃金など)が生じている場合、売却前に旧会社が賃金の支払いを行わなければなりません。旧会社の義務だからです。

事業売却によって事業を引き継ぐケースでは、買い手側の企業は原則としてその債務も買い手企業が引き継ぎます。

この場合、未払賃金は支払わなければならない義務として新会社が引き継がなければなりません。未払い賃金の存在は、記帳されていないケースもあるため、簿外債務として請求訴訟などのリスクを譲受企業が背負う場合があります。

一部社員だけを引き継ぐ場合の問題点

買い手側の企業が、事業に従事しているすべての社員・従業員における雇用を継続するかどうかはわかりません。買収側企業では、すでに業務を遂行できるだけの十分な社員・従業員がいる場合、わざわざ全社員・従業員を引き受けるインセンティブはありません。従業員の数を限定したり、特定の従業員のみ引き継ぎを検討したりするケースも珍しくありません。

リストラを目的に形式的な事業譲渡を行う場合

事業譲渡におけるリストラ(整理解雇)が正当とみなされるためには、さまざまな条件を満たさなければなりません。労働者の権利を守るために、労働基準法において整理解雇が可能な条件が規定されています。

リストラを行えるケースは非常に限定的です。希望退職者の募集など、リストラの実施前に一定の解雇方法を試さなければなりません。

特定の社員・従業員の排除を目的に事業譲渡を行う場合

特定の社員・従業員を排除するために、特定事業にリストラする社員を集めて、その事業を譲渡する方法が取られるケースがあります。しかし、こうした方法によりリストラを行った場合、社員・従業員から不当な取引であるとして提訴され、事業譲渡が無効となるケースがあります。

日本の労働基準法によって、従業員は簡単に解雇できない仕組みのため、解雇するのは難しいです。特定の社員・従業員を排除するために、特定の事業にリストラする社員を集めてその事業を譲渡する場合、敗訴となる可能性が高いため、注意が必要です。

5. 事業譲渡における社員・従業員の移籍に関する失敗例

本章では、事業譲渡・事業売却の従業員における統合面の失敗により、想定していた効果が得られなかった事例を紹介します。

  1. 優秀な人材の退職
  2. 経営理念の違い
  3. 企業理念の違い
  4. 給与待遇
  5. 統合プロセスの失敗

①優秀な人材の退職

優秀な人材が退職し、事業譲渡そのものが頓挫する例もみられます。特に注意するべきなのが、実力主義が強く、従業員の属人的な能力の高さで会社が運営されている場合です。最大資産が営業マンである会社が、特に当てはまります。

こうした会社では従業員の会社に対する帰属意識が弱く、従業員が売却側の事業でこれまでの能力を発揮できても、事業の買収先でそれが不可能と判断すれば、退職を選んでしまう可能性が高いです。

優秀な従業員が退職すると会社の価値は大きく下がり、最大資産である人材がいなくなれば、買収するメリットはなきに等しくなります。

②経営理念の違い

経営理念は、後述する「企業理念」と類似する言葉ですが、企業理念が創業時の思いを強く反映したものであるのに対して、経営理念はその時々における経営者によって、時代の変化やニーズに応じて再定義・再設定されます。「社風」に近い意味合いも持っている要素です。

経営理念は、従業員に理解され、日常的な行動に反映されるほど理解・浸透が重要です。しかし、これまで売却側で働いていた従業員にとって、日常的な行動にまで浸透した企業理念における買収側との違いは、事業譲渡後における業務のしづらさや会社での居心地の悪さにつながりかねません。

そうなると、ささいな点でもコミュニケーションに支障をきたし、重大な失敗につながる場合があります。事業譲渡後に従業員が退職を考える理由には、こうした要素も多いです。もちろん、優秀な社員が事業譲渡後の短い期間で退職するケースは避けなければなりません。

③企業理念の違い

企業理念は、「創業者が大切にする意思や信条」を表したものです。

事業の売却側における従業員が、買収側の企業理念とは考え方が合わず、計画の立案に困難をきたしたり事業の推進が困難になったりする例があります。特に長く勤めていた責任ある役職者にこうしたケースがみられやすいです。

売却側であれ買収側であれ、創業が古い伝統ある地方企業の場合は、特に注意が必要です。こうした会社の場合、地方の名のある企業における地域経済に対する考え方や価値観にひかれて入社し、長く勤めてきた人が少なくありません。

そうした人物が決して悪いわけではありません。しかし、謙虚に新たな環境を受け入れるのも必要となってくるM&Aでは、こうしたケースは足かせになるおそれがあります。企業理念と前述の経営理念は、事業譲渡の交渉当事者である経営者同士の話し合いと判断が非常に大事です。

④給与待遇

事業の売却側における従業員にとって、給与待遇が事業譲渡後に向上する場合は問題ないものの、悪くなる事態は極力避ける必要があります。待遇面の大幅な変更にも注意が必要です。

給与待遇面は、譲渡前と後の違いが一目でわかる要素で、急激に悪くなると即座に退職やモチベーションの低下につながります。買収側は、買収する事業が業績不振でも、できるだけ給与待遇は維持するように努力しましょう。

留意するべきことは、額面の給与、退職金から残業や各種手当などの要素も含みます。給与待遇が事業の売却側と買収側で変わらないケースはあり得ないものの、少なくとも額面で受け取る給与が減少しない程度に配慮してください。

⑤統合プロセスの失敗

事業譲渡・事業売却における買収側は、時間をかけつつハード面・ソフト面における自社との統合作業を行います。ハード面の統合では、経理の支払日・決済日から、人事評価や退勤管理といった人事システムなどを統一化します。ハード面は急速に大きく変えると混乱を生じるため、計画を立てながら徐々に行いましょう。

買収側のものをすべて押し付けるのではなく、売却側事業のハード面で良い部分は、全社を挙げて導入することも大切です。

ソフト面の統合では、人や企業文化を融合させます。上述した経営理念や企業理念も、ソフト面の統合プロセスで統合していく必要があります。しかし、これに失敗すると長期的な面で買収後のシナジー効果が発揮できないうえ、買収前よりも事業の業績が下がってしまいかねないため、注意が必要です。

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6. 事業譲渡で社員・従業員のリストラは可能か?

事業譲渡に際して、譲渡する事業における社員・従業員の雇用を確保できず、会社の経営状況を効率化させるためにリストラをしなければならない場合もあります。

事業譲渡をするタイミングで社内の人員整理として、リストラを活用する経営者もいるかもしれません。しかし、社員や従業員のリストラは法律によって制限されています。基本的には事業譲渡を理由に解雇するのは難しいです。

事業譲渡の雇用調整方法と種類とは?

事業譲渡の際に、社員や従業員に退職してもらうためには、双方で話し合いをしたうえ、社員・従業員から同意を得なければなりません。雇用調整の方法は、退職勧奨や早期退職、希望退職、整理解雇などが挙げられます。

これらの方法で退職を会社側から促す際、強制的に行ったり手順に沿って行われなかったりすると、違法になります。社員や従業員とトラブルになり、損害賠償を請求されるケースもあるので、それぞれの方法を理解し雇用調整を進めましょう。

退職勧奨

退職勧奨とは、会社が社員や従業員に退職を勧める手法です。社員や従業員が、会社の意向に従い退職した場合は、自己都合退職となります。自己都合退職の場合は、特に制限する法律がありません。

会社が退職勧奨をしても社員や従業員が拒否した場合は、勝手に退職させられません。退職の強要をしてしまうと、損害賠償や不当に受けた扱いに対する撤回を求められる可能性もあります。

早期退職

早期退職とは、通常定年を迎える前に自ら退職する制度です。社員・従業員が自主的に早期退職に応じるもので、会社側からは強制できません。

事業譲渡の早期退職は、人員整理の場合が多いです。早期退職は、退職金を大幅に上乗せするなど通常よりも多くの金額を支払うケースがあり、資金面で大きなデメリットがあります。

希望退職

希望退職は、業績悪化や人員削減の一環として会社側から退職する人を募る制度です。「希望」と付くとおり、従業員の意思が最優先され、会社側は退職を強要できません。希望退職の場合は、会社側と社員による同意のもと実施されます。

優秀な社員や従業員が希望退職をしようとした場合は、引き止めの交渉を行うことが可能です。希望退職を伴う退職の場合、原則として会社都合での退職扱いになり、会社側の引き止めに応じず強引に退職した場合は、会社都合ではなく自己都合退職となります。

整理解雇

事業譲渡における解雇は整理解雇と呼ばれ、整理解雇が有効とみなされるには、下記の要件に当てはまる必要があります。

  • 会社が人員を削減する必要性があった
  • 解雇を回避する努力をしたこと
  • 解雇される対象者の決定方法が合理的・公平である
  • 解雇者が納得を得るための手続きの相当性

これらの要件は会社側としてどうしても解雇しなければならない状態のため、ハードルが高いです。

上記の条件について、十分な検討・協議を社員・従業員と行っても、社員・従業員が配置換えによる雇用継続を受け入れられず、労働契約承継・転籍へ向けた譲歩案・妥協案も合意に至らないケースでは、社員・従業員に対して、退職してもらう選択肢が残ります。これは一般に整理解雇と呼ばれる解雇方法です。

有期労働契約の更新拒絶(雇止め)

事業譲渡に際しては、労働契約法第16条における規定の適用があります。事業を承継する労働者が当該承継予定労働者における労働契約の承継について承諾をしなかった点のみを理由とする解雇など、客観的かつ合理的な理由を欠いている、社会通念上相当であると認められないケースでは、社員・従業員の解雇は原則として認められない点に留意が必要です。

これを前提としたうえで、有期雇用契約は原則として3年を超えられません。雇用契約の段階で、契約期間は3年までと労働者側に伝えておけば、それ以上の雇用は基本的に必要ありません。

7. 事業譲渡で社員・従業員とのトラブルを回避する方法

この章では、事業譲渡で社員・従業員とのトラブルを回避する方法を解説します。

社員・従業員の目線に立ちフォローする

社員・従業員のなかには、事業譲渡や転籍について知ると、売り飛ばされたと思う人も出てくるでしょう。部署内に残る人と転籍する人がいれば、待遇に不満を持つ社員・従業員もいます。

売却側は、従業員の気持ちをくみ取り、社員・従業員の目線に立って適切なフォローを行うことが重要です。丁寧な説明や対応をしなければ、事業譲渡に伴って大量な離職が生じる可能性が高まります。

転籍した社員・従業員は、慣れない環境にストレスを感じるので、買収側は社員・従業員が少しでも早く環境になじめるように受け入れ体制を整えてください。

適切なタイミングで事業譲渡を発表する

事業譲渡で社員・従業員とのトラブルを回避する方法として、適切なタイミングで事業譲渡を発表することも大切です。

M&Aの際、基本合意書を交わす前はM&Aの実施が決定していないので、経営層だけに情報を留めてください。基本合意書の締結後は、デューデリジェンスに備えて、各部署の責任者や財務経理担当へ説明します。

売却側が社員・従業員へ事業譲渡の発表を行うタイミングは、クロージング後あるいは最終契約書締結からクロージングまでの間が理想的です。タイミングが早すぎると社内に動揺を与えてしまい、業務に支障をきたすリスクが生じます。

社員・従業員にとっての事業譲渡のメリットを伝える

事業譲渡に際して、社員・従業員に対して単純に転籍をお願いするのではなく、彼らにとっても大きなメリットがある点を伝えることが大切です。メリットとは、社員・従業員の待遇向上が見込まれることです。

事業譲渡に伴い相手側企業に転籍すれば、キャリアアップが実現し、譲受側の環境次第ではさらなるスキルアップが期待できます。相手側の企業規模の大きければ大きいほど、倒産などの心配がないうえに、高いコンプライアンス性が求められるので、問題行為など起こさなければ解雇もされません。

上記のメリットをわかりやすく伝えれば、社員・従業員は事業譲渡による転籍に合意してくれる可能性が高いです。

8. 事業譲渡による社員・従業員への影響まとめ

事業譲渡・事業売却をした場合でも、基本的には社員や従業員をそのまま雇ってもらえます。しかし、新しく社員や従業員と買い手企業とで労働契約を結び直さなければなりません。社員や従業員が移籍するのを嫌がったり、買い手企業が受け入れを拒否したりする場合は、そのまま雇用継続できないので注意しましょう。

社員や従業員を守るためにも、買い手企業に社員や従業員を良い処遇で受け入れてもらえるように条件交渉することが大切です。社員や従業員にも適切なタイミングで事業譲渡・事業売却の事実を伝えましょう。

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