2022年06月06日更新
黄金株(拒否権付種類株式)とは?メリット・デメリット、作り方を解説【事例あり】
黄金株(拒否権付種類株式)とは種類株式の1種であり強力な権限を付与されている株式です。黄金株(拒否権付種類株式)の活用方法やメリット・デメリット、黄金株(拒否権付種類株式)の作り方や相続税評価額などについて事例も交えて解説します。
目次
1. 黄金株(拒否権付種類株式)とは
黄金株(拒否権付種類株式)をうまく使うことによって、円滑な事業承継が可能になるなどのメリットを得られます。
しかし、使い方を間違ったり、定款での取り決め内容に抜けがあったりすると、黄金株(拒否権付種類株式)は逆にデメリットになり得るものです。まずは、黄金株(拒否権付種類株式)や種類株式の意味について解説します。
黄金株(拒否権付種類株式)について
黄金株(拒否権付種類株式)とは、株主総会や取締役会での決議に対して拒否権を持つ株式をいいます。拒否権を付与する内容としては、代表取締役や取締役の選任・解任、M&Aの実施などです。
黄金株(拒否権付種類株式)は、主に中小企業の事業承継や敵対的買収に対する防衛策として用いられます。黄金株(拒否権付種類株式)は1株だけでも強力な権限があり、株主平等の原則に反するのではないかという意見もあって上場企業ではほとんど用いられません。
東京証券取引所では、上場企業が黄金株(拒否権付種類株式)を発行した場合、条件によっては上場廃止が定められています。上場企業が黄金株(拒否権付種類株式)を発行しても上場廃止とならないケースは、黄金株が投資家の利益を侵害しない場合のみです。
2004(平成16)年に東証1部に上場した国際石油開発(現:国際石油開発帝石ホールディングス)は、黄金株(拒否権付種類株式)を発行していますが、外国企業からの敵対的買収を防ぐために黄金株1株を経済産業大臣が保有しています。
種類株式とは
会社法には、株主平等の原則があります。株主平等の原則とは、株主は、その保有する株式の内容と数によって平等に扱われるべきという考え方です。
普通株式の権利には、議決権や剰余金配当請求権、残余財産配当請求権があります。種類株式とは、これらの権利が制限されたり拡大されたりしたものです。具体的には、以下の3種類があります。
- 議決権制限株式
- 譲渡制限株式
- 拒否権付種類株式
議決権制限株式
議決権制限株式とは、株主総会での議決権が制限されている株式をいいます。議決権制限株式は2種類あり、議決権がまったくない無議決権株式と、一部の議決に権利を行使できる議決権一部制限株式です。
議決権制限株式は、定款で株式譲渡制限を定めている会社では株数の制限なく発行できますが、株式譲渡制限のない会社は、全株式数の2分の1を超えて発行できません。
譲渡制限株式
譲渡制限株式とは、取締役会を設置している会社では取締役会の決議、取締役会を設置していない会社では株主総会の決議によらなければ譲渡できない株式のことです。
同族会社のような中小企業の場合、株式が自由に売買されるとさまざまな不都合が生じてしまうため、定款で株式譲渡制限を定めることによって譲渡制限株式を発行できます。ただし、上場を目指す場合は、上場申請をする前に譲渡制限を解除しなければなりません。
拒否権付種類株式
拒否権付種類株式とは通称、黄金株のことであり、取締役会や株主総会で決定された重要な決議を拒否できます。ただし、取締役会や株主総会で決定された重要な決議を拒否するためには、種類株主総会での決議が必要です。
中小企業における黄金株(拒否権付種類株式)の活用方法として、事業承継後の経営のコントロールが挙げられます。
例えば、事業承継をしたとしても、現経営者からみれば後継者がまだ経営者として独り立ちするのは難しいと思うのは、よくあることです。
そのような場合、現経営者が黄金株(拒否権付種類株式)を保有することで、後継者が誤った経営判断を下しそうになったときに黄金株の拒否権を発動する、といった使い方ができます。
2. 黄金株(拒否権付種類株式)を活用するには
- 取締役・代表取締役の選任・解任
- 取締役の報酬決定
- 事業譲渡・合併
取締役・代表取締役の選任・解任についての拒否権付黄金株の活用
代表取締役や取締役の選任・
取締役の報酬決定についての拒否権付黄金株の活用
取締役の報酬が決定されるのも、株主総会での過半数の賛成によって行われます。中小企業であれば、通常、経営者が過半数の株式を保有しているはずですから、事実上、自由に役員報酬を決定可能です。
ところが、黄金株(拒否権付種類株式)を保有している株主がいる場合、この決定に対しても拒否権を行使できます。
事業譲渡・合併についての拒否権付黄金株の活用
M&
しかしながら、先代経営者などが黄金株(拒否権付種類株式)を保有している場合、事業譲渡や合併に反対であれば、その権利を行使して事業譲渡や合併を阻止できます。
黄金株による拒否権設定が可能な項目
黄金株(拒否権付種類株式)で設定できる具体的な拒否対象は、上記の3例だけではありません。よくみられる黄金株(拒否権付種類株式)に設定されている項目には、以下のようなものがあります。
- 資産譲渡
- 高額融資
- 新株発行
- 組織の大幅変更
- 主幹従業員の人事
3. 黄金株(拒否権付種類株式)のメリット・デメリット
黄金株(拒否権付種類株式)はうまく活用できれば大きなメリットが得られる一方で、使い方を誤るとデメリットを被る可能性が高くなります。本章では、黄金株(拒否権付種類株式)のメリットとデメリットを確認しましょう。
黄金株(拒否権付種類株式)のメリット
黄金株(拒否権付種類株式)には、以下のようなメリットがあります。
- 段階的な事業承継ができる
- 敵対的買収の防衛策になる
段階的な事業承継ができる
黄金株(拒否権付種類株式)を活用することで、事業承継を段階的かつ安全に進められます。事業承継では、実際には後継者の育成が間に合っていないこともケースも少なくありません。一般的に、後継者の育成には5年~10年は必要とされています。
しかし、多くのオーナー経営者は、後継者の育成に十分な時間を割けないまま、事業承継のタイミングを迎えてしまっています。その状態で事業承継をしてしまうと、育成不足により後継者が重要な経営判断を誤る可能性もあります。
そこで、先代経営者が黄金株(拒否権付種類株式)によって後継者の誤った決断を拒否することで、会社の経営が正しい方向で進むように導けます。ただし、先代経営者が黄金株(拒否権付種類株式)を持つことには難点もあります。
例えば、先代経営者と後継者の経営方針が合わず、拒否権を発動することで後継者のやる気をそいでしまったり不満をため込ませてしまったりすることがあり得るからです。このような例は、後継者が身近な親族であるほど多くみられます。
また、先代経営者が認知症などで正常な判断ができなくなった場合、黄金株(拒否権付種類株式)が経営に支障を及ぼすでしょう。さらに、先代経営者が急逝した場合、相続で他の親族に黄金株(拒否権付種類株式)が渡れば、経営が不安定になるかもしれません。
これらのリスクを避けるためにも、黄金株(拒否権付種類株式)の保有者に何かあった場合は、会社が強制的に買い取れるよう定款に定めておくなどの対策が必要です。
敵対的買収の防衛策になる
黄金株(拒否権付種類株式)は、敵対的買収の防衛策としても機能します。黄金株(拒否権付種類株式)は、1株だけでも重要な決議を否決できる効力があるからです。
もし、敵対的買収を仕掛けてきた相手が株式を買い進めて支配権を獲得したとしても、黄金株(拒否権付種類株式)の効力によって支配を食い止められます。
しかし、日本の上場企業で黄金株(拒否権付種類株式)を導入しているのは、現状では2004年に東証1部に上場した国際石油開発(現:国際石油開発帝石ホールディングス)のみです。
日本では上場企業が黄金株(拒否権付種類株式)を導入するのは簡単ではないため、敵対的買収を受けたからといって、すぐに黄金株を導入して対抗するというのは現実的ではありません。
また、多くの中小企業は定款で株式譲渡制限を定めているので、もともと敵対的買収を受ける可能性はほぼないといえます。つまり現実的には、黄金株(拒否権付種類株式)が敵対的買収に対する防衛策として活用する機会は、あまりないといえるでしょう。
黄金株(拒否権付種類株式)のデメリット
黄金株(拒否権付種類株式)には、以下のようなデメリットもあります。
- 拒否権の濫用は経営にマイナス
- 相続次第では困るケースもある
- 不満を抱く株主も出る
- 事業承継の際に国の制度が使えない
拒否権の濫用は経営にマイナス
事業承継における黄金株(拒否権付種類株式)では、後継者が重要な経営判断を誤りそうになったときに拒否権を発動して抑制できますが、拒否権の濫用はマイナスとなることもあります。
後継者が重要な経営判断を下すたびに拒否権を発動していると、実質的な経営権は黄金株(拒否権付種類株式)の所有者にあることになり、後継者のモチベーションが下がったり、経営者としての能力が育たなかったりする弊害になることもあります。
また、ほかの従業員や取引先も先代経営者の意見ばかりを聴く状態になりかねません。先代経営者による拒否権の濫用を防ぐためには、定款で黄金株(拒否権付種類株式)の利用期限を定め、期限がきたら会社が強制的に買い取るなどの対策が必要です。
相続次第では困るケースもある
黄金株(拒否権付種類株式)の相続者によっては、経営に支障が出る可能性があります。例えば、オーナー経営者の長男と次男が経営に対する考え方が全く違っていたり、仲が悪かったりする場合などです。
オーナー経営者は、次男を後継者に据えて経営者として育てていたものの、オーナー経営者が突然、亡くなったことで黄金株(拒否権付種類株式)が長男に渡ってしまうケースが考えられます。
そうなると、長男は次男の経営方針に拒否権を持つことになり、次男は重要な経営判断を通せなくなるかもしれません。もし、長男による拒否権の発動が続くと長男と次男の関係はさらに悪くなり、何らかのトラブルに発展することも考えられます。
また、長男と次男の争いは、従業員や取引先など関係者にまで影響が及ぶ可能性もあるでしょう。
黄金株(拒否権付種類株式)の相続によるトラブルを防ぐには、定款で会社が買い取るように定めておいたり、黄金株を保有している先代経営者が、生前に相続対策を施しておいたりすることが必要です。
不満を抱く株主も出る
黄金株(拒否権付種類株式)は1株でも強力な権限を持っているので、普通株式を保有しているほかの株主から不満が出る可能性があります。
例えば、同族経営の中小企業で父親であるオーナー経営者が黄金株(拒否権付種類株式)を保有し、オーナー経営者の兄弟やオーナー経営者の子どもたちがそれぞれ株式を保有しているとしましょう。
オーナー経営者以外の者が保有している株式が普通株式のみであれば、それぞれの権限は株式の保有割合に応じて平等に与えられることになります。
しかし、オーナー経営者が重要な決定事項で黄金株(拒否権付種類株式)を発動し続けていると、ほかの親族から不満が出てくることもあるでしょう。
前述のように、黄金株(拒否権付種類株式)は取締役の専任や解任、報酬、M&Aなど、会社にとって大きな決定となる事柄について拒否権を持ちます。
取締役の専任や解任、報酬を親族(株主)全員で決めようとしても、結局、最終的な権限はオーナー経営者にあるとなれば、ほかの株主から不満が出る可能性は高まるはずです。
事業承継の際に国の制度が使えない
黄金株(拒否権付種類株式)を後継者以外の人物が持っている場合、事業承継税制を利用できません。
事業承継税制(非上場株式等についての相続税および贈与税の納税猶予・免除制度)とは、後継者が相続や贈与によって取得した株式に関して、一定の要件を満たせば相続税や贈与税の納税が猶予されたり免除されたりする制度です。
事業承継税制を活用しなければ、後継者に税負担が重くかかりますが、黄金株(拒否権付種類株式)を前経営者が保有したまま事業承継を行うと事業承継税制が活用できません。
したがって、事業承継税制を活用するには黄金株(拒否権付種類株式)を後継者に渡すか、黄金株を廃止するかを選択することになります。
しかし、黄金株(拒否権付種類株式)を後継者に渡したり、黄金株を廃止したりしてしまうと、その恩恵が受けられなくなってしまうので、どちらのメリットを選択するかをよく検討しなければなりません。
4. 黄金株(拒否権付種類株式)の作り方
【黄金株(拒否権付種類株式)の作り方】
- 既存の株式を黄金株に変える
- 新規で黄金株を作る
既存の株式を黄金株に変える
既存の株式を黄金株に変える場合の手順は、以下のようになります。
- 株主総会を開催し、株式を黄金株に変えることに関する定款変更の特別決議を行う
- 黄金株を取得する株主と会社との間で合意書を締結する
- 上記を踏まえた変更登記を行う
定款変更では、「黄金株の発行可能株式総数」と「黄金株が持つ拒否権の項目」を定めなくてはなりません。なお、特別決議には3分の2以上の賛成が必要です。
登記の変更内容に記載するのは、定款で変更した「黄金株の発行可能株式総数と黄金株の内容」と、「発行済株式総数、発行済株式の種類とそれぞれの数」になります。
新規に黄金株を発行する
新規で黄金株を発行する場合(第三者割当増資)の手順は、以下のようになります。
- 株主総会を開催し、黄金株発行に関して定款変更の特別決議を行う
- 上記と同時に、株式新発行について、その募集内容と関連事項を決定する
- 黄金株を引き受ける相手に対し上記の募集内容を通知し、その申し込みを受ける
- 会社は黄金株を発行して申込者に割り当て、申込者は定められた支払期日に対価を支払う
- 上記の内容を踏まえた変更登記を行う
定款変更については、既存株式の変更の場合と変わりません。決定する株式新発行の募集内容・関連事項とは、「発行株式の種類と数」「株式対価額」「対価の払込期日」「増加する資本金・資本準備金について」です。
登記の変更内容は、既存株式の変更の場合に関する内容に加えて、株式新発行(第三者割当増資)により「資本金額」も変わることになりますから、それも登記申請します。
5. 事業承継時の黄金株(拒否権付種類株式)の相続税評価額
黄金株(拒否権付種類株式)をはじめとする種類株式の発行価額評価は、その種類によって変わります。普通株式よりも有利な条件の種類株式は普通株式よりも発行価額が高く評価され、普通株式よりも不利な条件の種類株式は発行価額が低く評価されるのが常です。
アメリカでは、普通株式と種類株式の発行価額の差は数倍に及んでいます。日本ではそこまでではありませんが、普通株式と種類株式の発行価額の差は2割程度という説です。
では、事業承継時の黄金株(拒否権付種類株式)の相続税評価額は、どうなっているのでしょうか。国税庁によると、「拒否権付株式(会社法第108条第1項第8号に掲げる株式)については、拒否権を考慮せずに評価する」とされています。
つまり、黄金株(拒否権付種類株式)には普通株式よりも有利な権利がついていますが、その効力(拒否権)は評価に含めないため、黄金株の相続税評価額は普通株式と同様に評価されるということです。
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6. 黄金株(拒否権付種類株式)を活用した事例
日本の中小企業において、黄金株(拒否権付種類株式)を活用するケースは少なくありません。上場企業が黄金株(拒否権付種類株式)を活用しているケースは、2004年に東証1部に上場した国際石油開発(現:国際石油開発帝石ホールディングス)です。
国際石油開発が、黄金株(拒否権付種類株式)の持ち越し上場をできたのは、海外企業の買収によって日本のエネルギー供給に大きな影響が出るかもしれないという事情がありました。
ほかの種類株式の持ち越し上場では、2014(平成26)年に上場したCYBERDYNEが、議決権株式の持ち越し上場を果たしています。また、イー・アクセスも優先株の持ち越し上場を認められました。
一方、アメリカでは、種類株式の持ち越し上場が当たり前のように行われています。2012(平成24)年に上場したFacebookの場合、マーク・ザッカーバーグCEOは普通株式の10倍の議決権が付与されている種類株式を保有していました。
また、2004年に上場したGoogleも、3人の創業者が普通株式の10倍の議決権が付与された種類株式を持ち、議決権の3分の1を超えていました。アメリカに比べると、日本では黄金株(拒否権付種類株式)をはじめとする種類株式の活用は進んでいないのが現状です。
7. まとめ
本記事の概要は以下のようになります。
→取締役の報酬決定
〇黄金株(拒否権付種類株式)のメリット
〇黄金株(拒否権付種類株式)のデメリット
〇黄金株(拒否権付種類株式)の作り方:①既存の株式を変える場合
→黄金株を取得する株主と会社との間で合意書を締結する
→上記を踏まえた変更登記を行う
〇黄金株(拒否権付種類株式)の作り方:②新たに発行する場合
→株主総会を開催し、黄金株発行に関して定款変更の特別決議を行う
→上記と同時に、株式新発行について、その募集内容と関連事項を決定する
→黄金株を引き受ける相手に対し上記の募集内容を通知し、その申し込みを受ける
→会社は黄金株を発行して申込者に割り当て、申込者は定められた支払期日に対価を支払う
→上記の内容を踏まえた変更登記を行う
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