2020年10月30日公開
黄金株(拒否権付種類株式)とは?メリット・デメリット、作り方を解説【事例あり】

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。
黄金株(拒否権付種類株式)とは種類株式のひとつであり、強力な権限を付与されている株式です。本記事では、黄金株(拒否権付種類株式)を活用するメリットやデメリット、黄金株(拒否権付種類株式)の作り方をくわしく解説しています。
目次
1. 黄金株(拒否権付種類株式)とは
黄金株(拒否権付種類株式)とは種類株式のひとつであり、強力な権限が付与されています。中小企業の場合、黄金株(拒否権付種類株式)をうまく使うことによって、円滑な事業承継が可能になるなどのメリットを得ることができます。
しかし、使い方を間違ったり、定款での取り決め内容に抜け・漏れがあったりすると、黄金株(拒否権付種類株式)が逆にデメリットとなることもあります。
本記事では、黄金株(拒否権付種類株式)のメリット・デメリットや作り方などについて解説しますが、まずは黄金株(拒否権付種類株式)や種類株式の意味を説明します。
黄金株(拒否権付種類株式)について
黄金株(拒否権付種類株式)とは、株主総会や取締役会での決議に対して拒否権を持つ株式をいいます。拒否権を付与する内容としては、代表取締役や取締役の専任・解任、M&Aの実施などがあります。
黄金株(拒否権付種類株式)は、主に中小企業の事業承継や敵対的買収に対する買収防衛策として用いられます。
黄金株は1株だけでも強力な権限を持っているので、株主平等の原則に反するのではないかという意見もあり、上場企業ではほとんど用いられることがありません。
東京証券取引所では、上場企業が黄金株(拒否権付種類株式)を発行した場合、条件によっては上場廃止とすることが定められています。
上場企業が黄金株(拒否権付種類株式)を発行しても上場廃止とならないのは、黄金株(拒否権付種類株式)が投資家の利益を侵害しない場合のみとされています。
2004年に東証1部に上場した国際石油開発(現:国際石油開発帝石ホールディングス)は、黄金株(拒否権付種類株式)を発行していますが、外国企業からの敵対的買収を防ぐために黄金株(拒否権付種類株式)1株を経済産業大臣が保有しています。
種類株式とは
会社法には、株主平等の原則があります。株主平等の原則とは、株主はその保有する株式の内容と数によって平等に扱われるべきという考え方です。
普通株式の権利には、議決権や剰余金配当金請求権、残余財産配当請求権があります。種類株式とは、これらの権利が制限されたり拡大されたりしたものであり、以下の種類があります。
議決権制限株式
議決権制限株式とは、株主総会での議決権が制限されている株式をいいます。議決権制限株式には、議決権がまったくない無議決権株式と、一部の議決に権利を行使できる議決権一部制限株式があります。
議決権制限株式は、定款で株式譲渡制限を定めている会社では株数の制限なく発行することができますが、株式譲渡制限のない会社は全株式数の2分の1を超えて発行することはできません。
譲渡制限株式
譲渡制限株式とは、取締役会を設置している会社では取締役会の決議、取締役会を設置していない会社では株主総会の決議によらなければ譲渡できない株式のことです。
同族会社のような中小企業の場合、株式が自由に売買されるとさまざまな不都合が生じてしまうため、定款で株式譲渡制限を定めることによって譲渡制限株式を発行することができます。
ただし、上場を目指す場合は、上場申請をする前に譲渡制限を解除しなければなりません。
拒否権付種類株式
拒否権付種類株式とは通称黄金株のことであり、取締役会や株主総会で決定された重要な決議を拒否することができます。
取締役会や株主総会で決定された重要な決議を拒否するためには、種類株主総会で拒否するか可決するかを決める必要があります。
中小企業における黄金株(拒否権付種類株式)の活用方法として、事業承継後の経営のコントロールが挙げられます。
例えば、現経営者が後継者に経営権を渡したいと考えてはいるものの、後継者がまだ経営者として独り立ちするのは難しいと思われる場合もあります。
そのような場合、現経営者が黄金株(拒否権付種類株式)を保有することで、後継者が誤った経営判断を下しそうになった時に黄金株(拒否権付種類株式)の拒否権を発動する、といった使い方ができます。
2. 黄金株(拒否権付種類株式)を活用するには
【黄金株(拒否権付種類株式)の主な活用方法】
- 事業承継
- 代表取締役・取締役の選任・解任
- M&Aなど重要な経営判断の可否
- 買収防衛策
また、
そのほか、
また、
3. 黄金株(拒否権付種類株式)のメリット・デメリット
黄金株(拒否権付種類株式)はうまく活用できれば大きなメリットが得られる一方で、使い方を誤るとデメリットを被る可能性が高くなります。本章では、黄金株(拒否権付種類株式)のメリットとデメリットをそれぞれみていきます。
黄金株(拒否権付種類株式)のメリット
黄金株(拒否権付種類株式)には、以下のようなメリットがあります。
- 段階的な事業承継ができる
- 敵対的買収の防衛策になる
段階的な事業承継ができる
黄金株(拒否権付種類株式)を活用することで、事業承継を段階的かつ安全に進めることができます。事業承継を行う際、後継者の育成が間に合わないまま事業承継せざるを得ないケースもあります。
一般的に、後継者の育成には5年から10年は必要とされていますが、多くのオーナー経営者は後継者の育成に十分な時間を割くことができないまま事業承継のタイミングを迎えてしまっています。
十分な後継者育成ができていない状態で事業承継をしてしまうと、育成不足により後継者が重要な経営判断を誤るケースもでてきます。
そのような場合、元オーナー経営者が黄金株(拒否権付種類株式)によって後継者の誤った決断を拒否することで、会社の経営が正しい方向で進むように監視することが可能です。
しかし、元オーナー経営者が黄金株(拒否権付種類株式)を持つことにはデメリットもあります。例えば、元オーナー経営者と後継者の経営方針が合わず、拒否権を発動することで後継者のやる気を削いでしまったり不満を溜め込ませてしまったりすることがあります。
このようなケースは、後継者が身近な親族であるほど多くみられます。また、元オーナー経営者が認知症などによって正常な判断ができなくなった場合、黄金株(拒否権付種類株式)が経営に支障を及ぼす可能性もあります。
そのほかにも、急にオーナー経営者が亡くなった場合は、相続によってほかの親族に黄金株(拒否権付種類株式)が渡り、経営に支障がでることも考えられます。
これらのリスクを避けるためにも、黄金株(拒否権付種類株式)の保有者に何かあった場合は会社が強制的に買い取れるよう、定款に定めておくなどの対策が必要です。
敵対的買収の防衛策になる
黄金株(拒否権付種類株式)は、敵対的買収の防衛策としても機能します。黄金株(拒否権付種類株式)は、1株だけでも重要な決議を否決できる効力を持っています。
もし、敵対的買収を仕掛けてきた相手が株式を買い進めて支配権を獲得したとしても、黄金株(拒否権付種類株式)の効力によって支配を食い止めることが可能です。
しかし、日本の上場企業で黄金株(拒否権付種類株式)を導入しているのは、現状では2004年に東証1部に上場した国際石油開発(現:国際石油開発帝石ホールディングス)のみです。
日本では上場企業が黄金株(拒否権付種類株式)を導入するのは簡単ではないため、敵対的買収を受けたからといってすぐに黄金株(拒否権付種類株式)を導入して対抗するというのは現実的ではありません。
また、多くの中小企業は定款で株式譲渡制限を定めているので、もともと敵対的買収を受ける可能性はほぼないといえます。
つまり、黄金株(拒否権付種類株式)は、敵対的買収に対する防衛策として活用する機会はあまりないといえるでしょう。
黄金株(拒否権付種類株式)のデメリット
一方で、黄金株(拒否権付種類株式)には、以下のようなデメリットもあります。
【黄金株(拒否権付種類株式)のデメリット】
- 拒否権の濫用は経営にマイナス
- 相続次第では困るケースもある
- 不満を抱く株主もでる
- 事業承継の際に国の制度が使えない
拒否権の濫用は経営にマイナス
事業承継における黄金株(拒否権付種類株式)では、後継者が重要な経営判断を誤りそうになった時に拒否権を発動して抑制することができますが、拒否権の濫用は時にマイナスとなることもあります。
後継者が重要な経営判断を下すたびに拒否権を発動していると、実質的な経営権は黄金株(拒否権付種類株式)を持っている人にあることになり、後継者のモチベーションが下がったり、経営者としての能力が育たなかったりする弊害があります。
また、ほかの従業員や取引先も前経営者の意見ばかりを聴く状態になりかねません。前経営者による拒否権の濫用を防ぐためには、定款で黄金株(拒否権付種類株式)の利用期限を定め、期限がきたら会社が強制的に買い取るなどの対策が必要です。
相続次第では困るケースもある
黄金株(拒否権付種類株式)の相続相手によっては、経営に支障がでる可能性があります。
例えば、オーナー経営者の長男と次男が経営に対する考え方がまったく違っていたり、仲が悪かったりする場合が挙げられます。
オーナー経営者は、次男を後継者に据えて経営者として育てていたものの、オーナー経営者が突然亡くなったことで黄金株(拒否権付種類株式)が長男に渡ってしまうケースが考えられます。
そうなると、長男は次男の経営方針に拒否権を持つことになり、次男は重要な経営判断を通すことができなくなる可能性があります。
もし長男による拒否権の発動が続くと長男と次男の関係はさらに悪くなり、トラブルに発展するかもしれません。また、長男と次男の争いは従業員や取引先など関係者にまで影響が及ぶ可能性もあります。
黄金株(拒否権付種類株式)の相続によるトラブルを防ぐには、定款で会社が買い取るように定めておいたり、黄金株(拒否権付種類株式)を保有している前オーナー経営者が生前に相続対策を施しておくことなどが必要です。
不満を抱く株主もでる
黄金株(拒否権付種類株式)は1株でも強力な権限を持っているので、普通株式を保有しているほかの株主から不満がでる可能性があります。
例えば、同族経営の中小企業で父親であるオーナー経営者が黄金株(拒否権付種類株式)を保有し、オーナー経営者の兄弟やオーナー経営者の子どもたちがそれぞれ株式を保有しているとします。
保有している株式が普通株式のみであれば、それぞれの権限は株式の保有割合に応じて平等に与えられることになりますが、オーナー経営者が重要な決定事項で黄金株(拒否権付種類株式)を発動し続けていると、ほかの親族から不満がでてくることもあるでしょう。
前述のように、黄金株(拒否権付種類株式)は取締役の専任や解任、報酬、M&Aなど、会社にとって大きな決定となる事柄について拒否権を持ちます。
取締役の専任や解任、報酬を親族(株主)全員で決めようとしても、結局最終的な権限はオーナー経営者にあるとなれば、ほかの株主から不満がでる可能性も高いと考えられます。
事業承継の際に国の制度が使えない
黄金株(拒否権付種類株式)を後継者以外の人物が持っている場合、事業承継税制を利用することはできません。
事業承継税制(非上場株式等についての相続税および贈与税の納税猶予・免除制度)とは、後継者が相続や贈与によって取得した株式に関して、一定の要件を満たせば相続税や贈与税の納税が猶予されたり免除されたりする制度です。
事業承継税制を活用しなければ、後継者に税負担が重くのしかかりますが、黄金株(拒否権付種類株式)を前経営者が保有したまま事業承継を行うと事業承継税制が活用することはできません。
そのため、事業承継税制を活用するには黄金株(拒否権付種類株式)を後継者に渡すか、黄金株(拒否権付種類株式)を廃止するかを選択することになります。
しかし、黄金株(拒否権付種類株式)を後継者に渡したり、黄金株(拒否権付種類株式)を廃止したりしてしまうと恩恵が受けられなくなってしまうので、どちらのメリットを選択するかをよく検討しなければなりません。
4. 黄金株(拒否権付種類株式)の作り方
【黄金株(拒否権付種類株式)の作り方】
- 既存の株式を黄金株に変える
- 新規で黄金株を作る
既存の株式を黄金株に変える
既存の株式を黄金株に変える場合、
新規に黄金株を発行する
新規に黄金株(拒否権付種類株式)を発行する場合は、既存の株式
株主総会で黄金株(
そして、黄金株
5. 事業承継時の黄金株(拒否権付種類株式)の相続税評価額
黄金株(拒否権付種類株式)をはじめとする種類株式の発行価格の評価は、その種類によって評価額が変わります。
普通株式よりも有利な条件が付いている種類株式は、普通株式よりも発行価格が高く評価され、普通株式よりも不利な条件が付いている種類株式は発行価格が低く評価されます。
アメリカでは、普通株式と種類株式の発行価格の差は数倍に及んでいます。日本ではそこまでではありませんが、普通株式と種類株式の発行価格の差は2割程度あるとする専門家もいます。
では、事業承継時の黄金株(拒否権付種類株式)の相続税評価額は、どうなっているのでしょうか。国税庁によると、「拒否権付株式(会社法第108条第1項第8号に掲げる株式)については、拒否権を考慮せずに評価する」とされています。
つまり、黄金株(拒否権付種類株式)には普通株式よりも有利な権利が付いてはいますが、その効力(拒否権)は評価に含まれないため、黄金株(拒否権付種類株式)の相続税評価額は普通株式と同様に評価されるということになります。
事業承継時の相続に関する手続きには、専門家によるサポートが必要です。M&A総合研究所では、M&A・事業承継に精通した経験豊富なアドバイザーがフルサポートいたします。
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6. 黄金株(拒否権付種類株式)を活用した事例
日本の中小企業において、黄金株(拒否権付種類株式)を活用するケースは少なくありません。しかし、上場企業が黄金株(拒否権付種類株式)を活用しているケースは、2004年に東証1部に上場した国際石油開発(現:国際石油開発帝石ホールディングス)だけです。
国際石油開発(現:国際石油開発帝石ホールディングス)が、黄金株(拒否権付種類株式)の持ち越し上場をできたのは、海外企業の買収によって日本のエネルギー供給に大きな影響がでるかもしれないという事情からです。
ほかの種類株式の持ち越し上場では、2014年に上場したCYBERDYNE株式会社が議決権株式の持ち越し上場を果たしています。また、イー・アクセス株式会社も優先株の持ち越し上場を認められています。
一方、アメリカでは、種類株式の持ち越し上場が当たり前のように行われています。2012年に上場したFacebookの場合、マーク・ザッカーバーグCEOは普通株式の10倍の議決権が付与されている種類株式を保有していました。
また、2004年に上場したGoogleも、3人の創業者が普通株式の10倍の議決権が付与された種類株式を持ち、議決権の3分の1を超えていました。
アメリカに比べると、日本では黄金株(拒否権付種類株式)をはじめとする種類株式の活用は進んでいないのが現状です。
7. まとめ
その反面、事業承継税制が適用されないなどのデメリットもあるため、どのメリットを優先すべきかはよく検討する必要があります。
- 事業承継
- 代表取締役・取締役の選任・解任
- M&Aなど重要な経営判断の可否
- 買収防衛策
- 段階的な事業承継ができる
- 敵対的買収の防衛策になる
- 拒否権の濫用は経営にマイナス
- 相続次第では困るケースもある
- 不満を抱く株主もでる
- 事業承継の際に国の制度が使えない
- 株主総会の特別決議で黄金株(拒否権付種類株式)
の発行数と拒否権を付与する項目を決める - 黄金株を取得する株主と当該企業の間で合意を結ぶ変更登記を行う
- 株主総会の特別決議で決定
- 黄金株(拒否権付種類株式)の受け取り相手から申し込んでもらう
- お金の振り込みと株式の引き渡しを行う
- 変更登記を行う
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